(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る光電気複合ケーブルの横断面図であり、
図2は、その構造を示す斜視図である。
【0014】
図1および
図2に示すように、光電気複合ケーブル1は、光ファイバ2と、光ファイバ2を収容する樹脂からなる内筒体としてのチューブ3と、チューブ3の外部にチューブ3の周囲を覆うように配置された複数本の電線4と、複数本の電線4を一括して被覆する筒状の外筒体5と、外筒体5の内周に配置された外筒体5を引き裂くための引裂き線11と、を備えている。
【0015】
ここでは、光ファイバ2を4本備える場合を記載しているが、光ファイバ2の本数はこれに限定されるものではなく、1本以上であればよい。光ファイバ2は、シングルモード光ファイバであってもよいし、マルチモード光ファイバであってもよい。
【0016】
光ファイバ2の周囲でかつチューブ3の内部には、アラミドやケブラー(登録商標)などからなる繊維束6が収容されている。繊維束6は、光電気複合ケーブル1の引張強度を高めるための補強部材であり、チューブ3の内部における空間の割合が35%以上となるように収容されることが望ましい。なお、繊維束6は必須ではなく、チューブ3や外筒体5により十分な引張強度が確保できる場合等には省略可能である。
【0017】
チューブ3は、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはエチレン酢酸ビニル(EVA)からなる。チューブ3の弾性率は、0.3GPa以上4.0GPa以下であることが望ましい。これは、チューブ3の弾性率が0.3GPa未満であると光ファイバ2を十分に保護できず、4.0GPaを超えると屈曲性が低下するためである。
【0018】
複数本の電線4は、チューブ3と外筒体5間の環状の空間に収容されている。本実施の形態では、断面円形状の10本の電線4が、チューブ3の外周に沿って配置されている。複数本の電線4は、径方向に重ならないように配置される。詳細は後述するが、外力が加わった際にチューブ3に直接外力を伝えてしまわないように、電線4はできるだけ近接して配置されることが望ましい。
【0019】
外筒体5は、電線4を結束するための樹脂からなるテープ5aと、テープ5aの外周に形成された筒状の樹脂からなるシース5bと、からなる。テープ5aは、電線4の外面に接触して螺旋状に巻き回されている。テープ5aとしては、例えば、紙テープやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のテープなどを用いることができる。シース5bとしては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)などからなるものを用いることができる。なお、テープ5aとシース5bとの間に、多数の導体を編み合わせた編組や、樹脂からなるテープに導電性の金属膜を形成した導電性テープなどからなるシールド層を備えてもよい。
【0020】
引裂き線11は、外筒体5の内周面に沿うように配置されている。引裂き線11は、例えば鋼線などの金属線からなる。
【0021】
さて、本実施の形態に係る光電気複合ケーブル1では、少なくとも2本の電線4が、他の電線4よりも外径が小さく形成され、引裂き線11は、外径が小さい電線4の間に配置される。
【0022】
外径が小さい電線4の間では、外筒体5との間に形成される隙間が最小となる。よって、この小さい隙間に引裂き線11を配置する構成とすることで、比較的外径の小さい引裂き線11であっても、電線4と外筒体5との間で引裂き線11をしっかりと把持し、引裂き線11の移動を規制することが可能になる。また、比較的外径が大きい引裂き線11を用いる場合であっても、もともと外径が小さい電線4の間に引裂き線11を配置するので、光電気複合ケーブル1の全体の断面形状が偏ることを抑制することが可能になる。
【0023】
また、本実施の形態では、複数本の電線4は、信号伝送用または電源供給用の電線対を複数備え、少なくとも1つの電線対を構成する電線4が、他の電線対を構成する電線4よりも外径が大きく、かつ、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。
【0024】
つまり、光電気複合ケーブル1では、径の大きい電線4の対が、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。このように構成することで、径の大きい電線4が分離して配置されることとなり、断面形状の偏りを抑制することが可能になる。
【0025】
複数本の電線4は、信号伝送用の電線対を構成する信号線7と、電源供給用の電線対を構成する電源線8と、からなる。また、電源線8は、給電線9とグランド線10とからなる。信号線7は、撚り線導体からなる中心導体7aを絶縁体7bで被覆して構成されている。電源線8、すなわち給電線9とグランド線10は、撚り線導体からなる中心導体8aを絶縁体8bで被覆して構成されている。なお、一部の電線4は、通電しないダミー線であってもよく、対で使用されない電線4が含まれていてもよい。
【0026】
本実施の形態では、電源線8が、信号線7よりも外径が大きく形成されており、この径の大きな電源線8が、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。本実施の形態においては、信号線7が外径が小さく形成されているため、引裂き線11は、隣接する信号線7の間に配置される。
【0027】
また、本実施の形態では、給電線9とグランド線10とが、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。このように構成することで、給電線9とグランド線10を隣接して配置した場合と比較して、ケーブル端末における配線の取り回しが容易となり、基板等への実装を容易とすることが可能になる。
【0028】
ところで、長距離伝送用あるいは大電流を用いる場合等には、電源線8での伝送損失を抑えるために電源線8の中心導体8aの断面積を大きくする必要がある。このような場合、電源線8の外径が大きくなりすぎ、断面形状の偏りが大きくなってしまうことが考えられる。
【0029】
そこで、本実施の形態では、給電線9を複数備えると共に、グランド線10を複数備え、これら複数の給電線9、複数のグランド線10を1つの電源ラインとして使用することで、大きな導体断面積を確保して電源ラインでの伝送損失を抑制するように構成した。給電線9やグランド線10を複数本で構成することで、電源ラインでの伝送損失を抑制しつつも、給電線9やグランド線10の径を信号線7に近づけて、光電気複合ケーブル1の断面形状を円形状に近づけることが可能となり、断面形状の偏りを抑制可能になると共に、光電気複合ケーブル1の細径化を図ることが可能になる。
【0030】
ここでは、給電線9とグランド線10をそれぞれ2本ずつ備える場合を示しているが、給電線9とグランド線10の本数はこれに限定されるものではない。端末での配線を容易とするため、複数本の給電線9は互いに隣接して配置され、複数本のグランド線10は互いに隣接して配置されることが望ましい。
【0031】
なお、給電線9とグランド線10の本数を増やすと、給電線9とグランド線10の外径をより小さくすることが可能となり、例えば信号線7としてシールド(外部導体)を備えたものを用いるような場合には、電源線8と信号線7の外径の大小が逆転する場合も考えられる。このような場合には、外径が大きい信号線7の対を、チューブ3を挟んで対向する位置に配置し、かつ、外径が小さい電源線8の間に引裂き線11を配置すればよい。
【0032】
また、最も細い電線4(ここでは信号線7)の外径をD
1、最も太い電線4(ここでは電源線8)の外径をD
2としたとき、下式(1)
0.8×D
2≦D
1<D
2 ・・・(1)
を満たすことが望ましい。このように電線4の外径を設定することで、外径の大きな特定の電線4が常にチューブ3を押圧したり、外径の小さな電線4とチューブ3の外周面、または外筒体5の内周面との間に大きな隙間が空いてしまうことを抑制することができる。
【0033】
図3に示すように、光電気複合ケーブル1では、外力が加わったとき、外力が加わった位置の外筒体5が変形し、一部の電線4が内方へ向かう押圧力を受ける。この押圧力を受けた電線4は、チューブ3に接触し、チューブ3からの反力を受けて楕円状に変形して隣接する電線4に接触する。電線4が密接して配置されている場合には、押圧力を受けた電線4が隣接する電線4に直接押しつけられる場合もある。この電線4同士の接触により、外筒体5からの押圧力の一部が吸収され、チューブ3が受ける荷重が緩和される。その結果、外力によるチューブ3の変形を抑制することが可能になる。
【0034】
このように、光電気複合ケーブル1では、内筒体であるチューブ3が受ける荷重を、隣接する電線4同士の接触によって緩和している。上述の式(1)の関係を満たし、かつ、隣接する電線4が接触するように電線4を近接して配置することで、チューブ3が受ける荷重を、確実に、隣接する電線4同士の接触によって緩和し、チューブ3の変形を抑制することが可能になる。
【0035】
なお、この効果を得るためには、電線4の本数は3本以上20本以下であることが望ましい。電線4の本数が1本または2本であると、電線4同士の接触によってチューブ3が受ける荷重を緩和することができず、20本を超えると、電線4同士の接触面における面圧が低くなり、電線4同士の接触により押圧力を吸収する効果が乏しくなるためである。
【0036】
また、電線4の外径の平均値をD
A、チューブ3の外径をD
in、外筒体5の内径をD
outとしたとき、下式(2)
(D
out−D
in)/2×0.8≦D
A<(D
out−D
in)/2 ・・・(2)
を満たすことが望ましい。つまり、チューブ3と外筒体5間の距離の80%以上であるとよい。これにより、電線4同士の接触によってチューブ3が受ける荷重を緩和する効果をより確実に得ることができる。なお、チューブ3の外径D
inおよび外筒体5の内径D
outは、チューブ3や外筒体5が変形することなく断面形状が円形状となっている場合の寸法である。
【0037】
また、光電気複合ケーブル1では、複数の電線4は、チューブ3の外周面に沿って螺旋状に巻き付けられてチューブ3と外筒体5との間に介在している。つまり、複数の電線4の中心軸は、光電気複合ケーブル1の中心軸と平行な方向(ケーブル長手方向)に対して傾斜している。引裂き線11も、電線4と共に螺旋状に配置されることになる。複数の電線4の螺旋巻きのピッチ(任意の電線4がチューブ3の周囲を1周する間のケーブル長手方向に沿った距離)は、例えば5mm以上150mm以下であることが望ましい。
【0038】
複数の電線4が螺旋状に配置されていることにより、電線4がチューブ3と平行に配置されている場合と比較して、光電気複合ケーブル1の屈曲性を高めると共に、光電気複合ケーブル1が曲げられたときに光ファイバ2が側圧を受けることを抑制することが可能になる。
【0039】
つまり、複数の電線4がチューブ3と平行に配置されている場合には、曲げられた部分の外側にあたる電線4に張力が発生して屈曲しづらくなると共に、その張力によってチューブ3が押圧される。また、曲げられた部分の内側にあたる電線4には、この電線4を軸方向に圧縮する圧縮力が作用して光電気複合ケーブル1の屈曲を妨げると共に、この圧縮力によって電線4に外方に膨らむ撓みが生じ、チューブ3が押圧される。このように、チューブ3は、曲げられた部分における内側および外側から押圧されることとなり、屈曲半径が小さい場合には、光ファイバ2に側圧が作用する。
【0040】
一方、本実施の形態では、
図4に示すように、複数の電線4が螺旋状に配置されているので、光電気複合ケーブル1が曲げられた部分の外側または内側の全体(螺旋巻きのピッチよりも長い範囲)にわたって、特定の電線4が配置されることがない。つまり、光電気複合ケーブル1では、それぞれの電線4がチューブ3よりも外側または内側に存在する範囲は、螺旋巻きのピッチの半分以下の範囲に限られる。そのため、チューブ3よりも外側の部分における張力と内側の部分における圧縮力が相殺され、電線4がチューブ3を押圧する力が弱くなると共に、光電気複合ケーブル1の屈曲性が高まる。なお、
図4では外筒体5と引裂き線11を省略して示している。
【0041】
また、光電気複合ケーブル1では、外力が作用して曲げが加えられた際に、チューブ3に対して電線4がケーブル長手方向にすべる。このチューブ3と電線4間のすべりにより、曲げが加わった際にチューブ3が電線4から受ける力を抑制し、チューブ3の変形を抑制して、光ファイバ2への側圧を低減することが可能になる。つまり、光電気複合ケーブル1では、外筒体5の外周側から外力を受けることによってチューブ3が受ける荷重が、チューブ3に対する電線4のすべりによって緩和されている。
【0042】
絶縁体7b、8bとしては、チューブ3に対してすべりのよい材料を用いることが望ましく、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはポリエチレン(PE)からなるものを用いるとよい。これらの材料を用いることで、光電気複合ケーブル1の屈曲時に電線4が効率よく動けるようになり、曲げが加わった際に光ファイバ2に作用する側圧を低減することが可能になる。また、チューブ3と電線4間のすべりを十分に確保することで、製造時のチューブ3のねじれや変形を防ぐことも可能になる。なお、絶縁体7b、8bとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリフェニレンサルファイド(PPS)等からなるものを用いることも可能である。
【0043】
また、チューブ3の厚さtは、下式(3)
t≧D
in×0.2 ・・・(3)
を満たすことが望ましい。つまり、チューブ3の厚さtは、外径D
inの5分の1以上であるとよい。このようにチューブ3を形成することにより、チューブ3の強度が確保されて外力による変形が抑制され、光ファイバ2に作用する側圧を低減することができる。
【0044】
さらに、光ファイバ2の外径をd、チューブ3の内径をDとすると、下式(4)
d×4<D ・・・(4)
を満たすことが望ましい。これは、チューブ3の内部で4本の光ファイバ2が直線状に並んだ場合でもチューブ3との間に隙間を確保し、チューブ3が窪むように変形したような場合であっても、その押圧力が直接光ファイバ2に側圧として作用することを防ぐためである。
【0045】
また、チューブ3の内部の光ファイバ2および繊維束6が存在しない空間の割合(空間割合という)は、チューブ3の内部空間全体の35%以上であることが望ましい。より詳細には、チューブ3の内部空間における4本の光ファイバ2の体積の割合(占積率)は、2%以上25%以下であるとよい。また、チューブ3の内部空間における繊維束6の体積の割合(占積率)は、2%以上50%以下であるとよい。この場合、空間割合は96%以下(繊維束6を収容しない場合は98%以下)となる。
【0046】
このように空間割合を設定することで、外力によってチューブ3が変形した場合でも、この変形によって光ファイバ2が側圧を受けることが抑制される。つまり、外力によってチューブ3が押し潰されるように変形した場合、この変形は光ファイバ2および繊維束6が存在しない空間が狭くなることによって吸収され、チューブ3に作用する押圧力が直接的に光ファイバ2に側圧として作用することが抑制される。
【0047】
図1の光電気複合ケーブル1を試作し、
図5に示すような屈曲試験装置51を用い、屈曲半径Rを37mmとして光電気複合ケーブル1を左右に90度ずつ曲げることを繰り返す屈曲試験を行った。目標100サイクルとして屈曲試験を行ったところ、目標を大きく上回る500サイクルの屈曲を加えた場合であっても、光ファイバ2の断線等の異常は発生せず、屈曲に対する耐性が高く十分な信頼性が得られていることを確認できた。
【0048】
また、
図6に示すように、試験台61に載置された光電気複合ケーブル1に、側圧試験治具62により鉛直方向上方から下方に荷重を加え、光ファイバ2への入力光量に対する出力光量の差異を調べるケーブル側圧試験を行った。ここでは、側圧試験治具62と光電気複合ケーブル1の接触面積を100mm
2(50mm×2mm)、側圧試験治具62により付与する荷重を1000N(10N/mm
2)とした。これは、体重100kgの人が26cmサイズの靴の最狭部分で光電気複合ケーブル1を踏んだ場合を想定している。
【0049】
ケーブル側圧試験の結果、入力光量に対する出力光量の差異は0.1dB以下(測定器の誤差範囲内)であり、入出力間で光量変化がほぼ無いことが確認された。つまり、光電気複合ケーブル1では、体重100kg程度の人に踏まれた場合であっても、光ファイバ2のマイクロベンディング(側圧が加わることによりコアの中心軸が僅かに曲がること)による光損失がほとんど無いことが確認された。
【0051】
本実施の形態に係る光電気複合ケーブル1では、少なくとも2本の電線4が、他の電線4よりも外径が小さく形成され、引裂き線11は、外径が小さい電線4の間に配置されている。
【0052】
外径が小さい電線4の間は外筒体5との隙間が最小となるので、外径が小さい引裂き線11であっても引裂き線11をしっかりと把持し、引裂き線11の移動を規制することが可能になる。その結果、外径の大きい引裂き線11を用いることによるケーブル質量の増加やコストの増大を抑制し、かつ、信頼性や端末処理時の作業性を向上することが可能になる。
【0053】
また、光電気複合ケーブル1では、少なくとも1つの電線対を構成する電線4が、他の電線対を構成する電線4よりも外径が大きく、かつ、内筒体であるチューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。
【0054】
このように構成することで、外径の大きい電線4を分離して配置し、断面形状の偏りを抑制することが可能になる。断面形状の偏りを抑制することにより、チューブ3に負荷がかかることを抑制し、曲げなどの外力が加わった際に光ファイバ2のマイクロベンディングによる光損失が増大してしまうことや、光ファイバ2が断線してしまうことを抑制し、信頼性を向上させることが可能になる。また、断面形状の偏りを抑制することで、所望のレイアウトに配線し易くなる。
【0055】
さらに、光電気複合ケーブル1では、複数本の電線4は、内筒体であるチューブ3の外周面に沿って螺旋状に巻き付けられてチューブ3と外筒体5との間に介在している。
【0056】
このように構成することで、屈曲性の低下を抑制しながら光ファイバ2のマイクロベンディングによる光損失を低減することが可能になる。
【0057】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0058】
例えば、上記実施の形態では、2本の給電線9と2本のグランド線10を対向配置する場合を説明したが、これに限らず、例えば1本の給電線と1本のグランド線10を隣接配置し、これら2本の電源線8を対向配置する、といった配置なども可能である。