特許第6136071号(P6136071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136071アノード鋳張り防止方法と、アノード鋳張り防止用のアノード鋳型乾燥用空気配管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136071
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】アノード鋳張り防止方法と、アノード鋳張り防止用のアノード鋳型乾燥用空気配管
(51)【国際特許分類】
   B22D 25/04 20060101AFI20170522BHJP
   B22D 21/00 20060101ALI20170522BHJP
   B22C 9/14 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B22D25/04 B
   B22D21/00 B
   B22C9/14
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-183007(P2013-183007)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-47633(P2015-47633A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】大原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中野 修
(72)【発明者】
【氏名】森 一広
(72)【発明者】
【氏名】続木 浩二
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−153854(JP,U)
【文献】 特開2009−072823(JP,A)
【文献】 特開平03−297536(JP,A)
【文献】 特開2012−183556(JP,A)
【文献】 実開昭62−086947(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 25/00−25/04
B22C 9/00− 9/14
B22D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬のアノード製造工程における空気を用い、アノード鋳型を乾燥してアノード鋳張りを防止するアノード鋳張り防止方法であって、
コの字型形状における1対の腕部1Aと、前記1対の腕部を連結する胴体部1Bからなるコの字型形状配管と、前記1対の腕部1Aの先端に、各々吹き出し孔2を備え、且つ前記胴体部1Bに設けられた少なくとも1ヶ所の空気受入用接続端3から構成されるアノード鋳型乾燥用空気配管を用い、
前記吹き出し孔2から吹き出される空気が、アノード鋳型の鋳込面の側面壁に沿って流れて前記アノード鋳型の鋳込面の側面壁底部に堆積している離型剤にあたるように、前記アノード鋳型乾燥用空気配管を、前記胴体部1Bが前記アノード鋳型の鋳込面頂部直上、及び前記1対の腕部1Aが側面壁の縁上に沿って取り付け、
前記接続端3から送られる空気が前記アノード鋳型からの放射熱により熱せられた前記空気配管からの熱伝導及び放射伝熱により熱を伝えられた空気となり、前記吹き出し孔2から吹き出して、前記アノード鋳型の鋳込面の側面壁底部に堆積している離型剤にあてることを特徴とするアノード鋳張り防止方法。
【請求項2】
前記アノード鋳型乾燥用空気配管が、アノード鋳型の直上の高さ50〜300mmの位置に、取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のアノード鋳張り防止方法。
【請求項3】
前記吹き出し孔2とアノード鋳型の鋳込面の側面壁底部に堆積している離型剤との距離が、直線距離で200〜1000mmとなるように、前記アノード鋳型乾燥用空気配管を配置することを特徴とする請求項1又は2に記載のアノード鋳張り防止方法。
【請求項4】
前記腕部1A又は胴体部1Bの少なくとも一部が蛇管であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のアノード鋳張り防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬におけるアノード製造工程において、アノードの鋳張りを防止するための設備と方法に関するもので、特に鋳張り防止に適したアノード鋳型乾燥用空気配管と、その空気配管を用いたアノード鋳張り防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬の乾式製錬工程から産出されるアノードは、銅精鉱などの原料を熔錬炉、転炉、精製炉で順番に処理して銅品位を99%まで高めた後(以下、精製粗銅と呼ぶ。)、アノード製造工程で鋳造して得られる。
【0003】
このアノード製造工程は、アノードを鋳込むための樋設備、鋳型が置かれるターンテーブル、及びアノード剥ぎ取り設備などから構成される設備を用いて行われている。先ず、ターンテーブル上に精製粗銅などで作られた30個程度のアノード鋳型(以下、単に鋳型とよぶ)を、ターンテーブルの円周に沿って設置する。次にこのターンテーブルを回転させながら鋳型を移動させ、ターンテーブルが1回転する中で、鋳込んだアノードを鋳型からスムーズに剥ぎ取るための離型剤の吹き付け、鋳型の乾燥、精製粗銅の鋳込み(以下、鋳込まれた精製粗銅をアノードと称す。)、鋳込まれたアノードの冷却、そして冷却されたアノードの剥ぎ取りの各工程を経て、アノードが作製される。
【0004】
このアノード製造工程について、図1に示す鋳造フローに沿って、より詳しく説明する。
精製炉から一定の速度で排出された精製粗銅は、先ず、精製粗銅を一定量溜めておく溜樋、次に、およそアノード1枚分の重量の精製粗銅を溜め鋳型に注ぐ計量樋、最後に鋳型の順番で流れてくる。
精製粗銅は、鋳型に注がれた後、ターンテーブルの回転により、冷却水を噴霧するノズルが取り付けられた冷却フード内に移動する。この冷却フード内で、精製粗銅にノズルから冷却水を散布して、アノードを凝固させる。また、この冷却フード内では、鋳型も一緒に冷却される。
【0005】
凝固したアノードは、鋳型中央に設けられたアノード押上げ用のピンにより、ターンテーブルの回転に従い、少しずつ押し上げられ、アノード耳部から少しずつ剥がされていく。
このアノード押上げ用のピンによりアノード耳部が鋳型から浮き上がり、鋳型に斜めに載った状態のアノードは、アノード剥ぎ取り機によって剥ぎ取られ、水で満たされた冷却槽内に浸けられる。冷却槽内でアノードは十分に冷却された後、冷却槽内から一定枚数毎に引き上げられ、フォークリフトなどで次工程の電解工程まで運ばれる。
【0006】
一方、アノード剥ぎ取り後の鋳型には次の精製粗銅を鋳込む前に、鋳型からアノードを剥ぎ取り易くするために、離型剤散布設備を使用して、粘土などの離型剤を水で溶いたものを鋳型内面に散布、乾燥される。この後、再び精製粗銅が鋳型に鋳込まれるというサイクルを繰り返す。
一般に、アノード製造工程では、このサイクルを繰り返すことで、バッチ操業の精製炉で1回に処理する300〜600tの精製粗銅を数時間〜十数時間かけてアノードに鋳造している。また、この鋳造と鋳造の間に鋳型の点検などのメンテナンスが行われる。
【0007】
このアノード製造工程で得られたアノードは、次の電解工程に送られ純度99.99%の電気銅となる。
この電解工程において、アノード形状の良し悪しは、電解工程におけるトラブルの発生頻度に大きな影響を及ぼす。
具体的には、
(1)アノード鋳造時に熔湯が飛散したり、大きく波立ったりすることで、アノードの熔湯面側の縁に沿って“ひれ”が出来てしまう「鋳張り」。
(2)アノード鋳造時に熔湯面が波立つことでアノードの熔湯面側の縁に沿って湯面が筋状に盛り上がる「額縁」。
(3)鋳型が水平でない場合にアノードの厚みが不均一となる「厚み不良」。
が挙げられる。
【0008】
これらの「不良」があると電解工程において、アノードとカソードが接触するショートの発生、などのトラブルとなる。このため、「鋳張り」、「額縁」、「厚み不良」が無いアノードが求められている。
上記3つのアノードの不良に対して、「額縁」は、アノード鋳造時の計量樋の形状や、精製粗銅の鋳込み速度を調整することで、ほぼ抑えることができる。また、「厚み不良」はアノード鋳造の操業と操業の間に、鋳型の水平点検を行うことで、ほぼ防ぐことができる。
【0009】
しかしながら、アノード外縁部に発生する鋳張りの概略を示す図である図2のような「鋳張り」は、主に、アノードを鋳型からスムーズに剥ぎ取るために鋳型に吹き付けられる離型剤が、鋳造を繰り返すことで堆積し、この堆積した離型剤に含まれる水分が、次の鋳造の時に残っていることが原因である。
【0010】
即ち、この水分は、再び精製粗銅が鋳込まれるまでに、高温状態にある鋳型自身の熱により、多くが蒸発するものの、一部は離型剤の中に残り、その残った水分が新しく注がれた精製粗銅と接触した際に、精製粗銅を急速に湧き上がらせる。この湧き上がりの結果、精製粗銅が飛散し、この飛散した精製粗銅が鋳型外縁部に付着することで、アノードの鋳張りが生じる。このようなアノードの鋳張りの発生は、抑えることが難しかった。
【0011】
特許文献1では、鋳型に鋳込まれた精製粗銅を冷却する際に発生する排熱を、鋳型内部に供給するための配管を設けたことを特徴とするアノード用鋳型乾燥装置に関する技術が開示されている。しかしながら、この技術では、上記排熱を回収する設備、鋳型それぞれに回収した排熱を供給するための配管を設ける必要があり、非常に複雑な設備が必要であり、メンテナンスに手間がかかる設備となっていた。
【0012】
特に、鋳型は、鋳込み、冷却、アノード剥ぎ取りのサイクルを繰り返すため、痛みが激しいので交換頻度が高い。この鋳型はアノード製造工場内で自作する場合も多く、鋳型に排熱を供給するための配管を設けることは、メンテナンスにより多くの手間がかかることとなる。
従って、メンテナンスの容易なアノード鋳張り防止用のアノード鋳型乾燥用空気配管、および、それを使用するアノード鋳張り防止方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開平1−153854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
メンテナンスの容易なアノード鋳張り防止用の鋳型乾燥用空気配管を用いたアノード鋳張り防止方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような状況に鑑み、本発明の第1の発明は、銅製錬のアノード製造工程における空気を用い、アノード鋳型を乾燥してアノード鋳張りを防止するアノード鋳張り防止方法であって、コの字型形状における1対の腕部1Aと、その1対の腕部を連結する胴体部1Bからなるコの字型形状配管と、その1対の腕部1Aの先端に各々吹き出し孔2を備え、且つ胴体部1Bに設けられた少なくとも1ヶ所の空気受入用接続端3から構成されるアノード鋳型乾燥用空気配管を用い、吹き出し孔2から吹き出される空気が、アノード鋳型の鋳込面の側面壁に沿って流れてアノード鋳型の鋳込面の側面壁底部に堆積している離型剤にあたるように、そのアノード鋳型乾燥用空気配管を、胴体部1Bがアノード鋳型の鋳込面頂部直上、及び1対の腕部1Aが側面壁の縁上に沿って取り付け、接続端3から送られる空気がアノード鋳型からの放射熱により熱せられた空気配管からの熱伝導及び放射伝熱により熱を伝えられた空気となり、吹き出し孔2から吹き出して、アノード鋳型の鋳込面の側面壁底部に堆積している離型剤にあてることを特徴とするアノード鋳張り防止方法である。
【0016】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるアノード鋳型乾燥用空気配管が、アノード鋳型の直上の高さ50〜300mmの位置に、取り付けられることを特徴とするアノード鋳張り防止方法である。
【0017】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明における吹き出し孔2とアノード鋳型の鋳込面の側面壁底部に堆積している離型剤との距離が、直線距離で200〜1000mmとなるように、アノード鋳型乾燥用空気配管を配置することを特徴とするアノード鋳張り防止方法である。
【0018】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明における胴体部1Bの少なくとも一部が蛇管であることを特徴とするアノード鋳張り防止方法である。
【0019】
本発明の第5の発明は、銅製錬のアノード製造工程における空気を用いてアノード鋳型を乾燥してアノード鋳張りの防止に用いるアノード鋳型乾燥用空気配管であって、コの字型形状における1対の腕部1Aと、その1対の腕部を連結する胴体部1Bからなるコの字型形状配管と、その1対の腕部1Aの先端に各々吹き出し孔2を備え、且つ胴体部1Bに設けられた少なくとも1ヶ所の空気受入用接続端3から構成されることを特徴とするアノード鋳型乾燥用空気配管である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、メンテナンスの容易な、アノード鋳張り防止用の鋳型乾燥用空気配管、および、それを使用するアノード鋳張り防止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】アノード製造における鋳造フローである。
図2】アノード外縁部に発生する鋳張りの概略図で、(a)正面図、(b)側面図である。
図3】本発明のアノード鋳型乾燥用空気配管導入後の鋳造フローである。
図4】本発明のアノード鋳型乾燥用空気配管の一例を示す概略図で、(a)左側面図、(b)正面図、(c)右側面図である。
図5】鋳型とアノード鋳型乾燥用空気配管との位置関係図で、(a)平面図、(b)正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず、銅製錬のアノード製造工程における空気を使用する鋳型乾燥の過程において、「鋳張り」の原因である堆積した離型剤に含まれる水分について、何故、鋳型鋳込面の側面壁底部に離型剤が堆積し、この堆積した離型剤に水分が残るかについて説明する。
アノードは、鋳型への離型剤の散布、散布された離型剤の乾燥、精製粗銅を鋳型に注湯、注湯された精製粗銅を冷却、アノードの剥ぎ取り、というサイクルで製造されている。
この製造の過程の中で使用される離型剤は、アノード剥ぎ取り時に、大部分はアノードに付着する。しかし、アノードの端部、特に、最後に鋳型から離れるアノード左右側面下端部は、離型剤が鋳型に残る傾向がある。このため、鋳造サイクルを繰り返すことで、鋳型鋳込面の側面壁底部には、離型剤が堆積していく。
【0023】
この堆積した離型剤に含まれる水分の内、鋳型表面に近い離型剤の堆積層(以下、単に堆積層と呼ぶ。)に含まれる水分は蒸発させ易いが、一方、鋳型表面から離れた堆積層に含まれる水分は、熱源である鋳型表面から離れているため、また、鋳型表面に近い堆積層が断熱層となるために、蒸発させ難い。
さらに、上述のサイクルにおいて注湯された精製粗銅が冷却される過程では、鋳型も一緒に冷却されるが、鋳型周辺部は冷え易く、鋳型中心部は冷え難い。このため、鋳型中心部の温度は高いが、一方、鋳型周辺部の温度は、低くなっている。
【0024】
従って、上述のサイクルを繰り返し、鋳型鋳込面の側面壁底部に離型剤が堆積している鋳型に対して、水で溶いた離型剤を散布すると、鋳型中心部の温度の高い部分では、離型剤を溶いていた水は完全に蒸発する。しかし、鋳型周辺部の温度の低い部分、具体的には鋳型鋳込面の左右の下端では、離型剤を溶いていた水は鋳型に散布された後、堆積している離型剤に吸収された後、この水の一部は蒸発せずに堆積している離型剤中に残ってしまう。
【0025】
次に、この鋳型鋳込面の側面壁底部に堆積している離型剤中に残っている水分を蒸発させることについて説明する。
本発明のアノード鋳張り防止方法において、使用するアノード鋳型乾燥用空気配管は、図4に示すような形態を有している。
図4は本発明のアノード鋳型乾燥用空気配管の一例を示す概略図で、(a)左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。図4において、1はアノード鋳型乾燥用空気配管、1Aはコの字腕部、1Bはコの字胴体部、2は吹き出し孔、3は接続端である。
【0026】
図5はアノード鋳型と、図4のアノード鋳型乾燥用空気配管1との位置関係を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図5において、1はアノード鋳型乾燥用空気配管、2はコの字腕部の端部に設けられている空気の吹き出し孔、3は接続端、10は鋳型、11はアノード押上げ用のピン、20は鋳型鋳込み面、Aは乾燥用エアー、Aは吹き出し孔からの乾燥用エアー、Rは離型剤である。
【0027】
本発明では、図4のコの字型形状のアノード鋳型乾燥用空気配管1は、図5に示すように鋳型10の鋳込面の頂部及び側面壁縁に沿って、この鋳型の直上Hの距離に取り付ける。
このように取り付けることで、アノード鋳型乾燥用空気配管1は、鋳型10から効率良く放射熱を受け取り、熱せられる。次に、熱せられた空気配管1は、配管内を流れる空気に、熱伝導及び放射伝熱により熱を伝える。この熱伝達により、空気配管内の空気は高温となる。
【0028】
次に、図5に示すように鋳型鋳込面の左右の下端に堆積した離型剤Rに対して、本発明に係るコの字型の形状で、そのコの字型の腕部の端部、それぞれに吹き出し孔2を備える本発明に係る空気配管1を使い、高温の空気を吹き出し孔2から鋳型鋳込面の側面壁に沿って流し、次に、鋳型鋳込面の側面壁底部に堆積した離型剤Rに当るように、高温の空気を吹き出しする。このように鋳型鋳込面の側面壁に沿って流すことで、高温の空気を拡散させることなく、効率良く鋳型鋳込面の側面壁底部に堆積した離型剤Rに当てることができる。
【0029】
コの字型の形状の空気配管1への空気の供給は、空気配管1に設けられた1ヶ所以上の空気受入用の接続端3から行う。また、少なくとも空気の吹き出し孔2は、空気配管1のコの字腕部に、それぞれ空気の吹き出し孔2を備えていれば良い。
【0030】
コの字腕部1Aに設けられる吹き出し孔2の大きさについて説明する。吹き出し孔2の直径は13〜26mmとすることが好ましい。
この吹き出し孔の直径が13mm未満の場合、吹き出す空気量が少ないため、鋳型鋳込面の左右の下端に堆積した離型剤に含まれる水分を蒸発させるために必要な空気量が得られない。また、吹き出し孔の直径が26mmを超える場合、吹き出し孔から吹き出した空気は、大きく拡散してしまうため、吹き出した空気の一部しか鋳型鋳込面の左右の側面に沿って流すことができない。
【0031】
次に、空気配管1に供給する空気の圧力について説明する。
空気配管1に供給する空気の圧力は0.1〜0.6MPaの範囲であることが好ましい。
この空気の圧力が0.1MPa未満の場合、吹き出す空気の力が弱いため、吹き出した空気は、鋳型鋳込面の左右の下端に堆積した離型剤までとどかない。また、空気の圧力が0.6MPaを超える場合、高圧の空気を作り出すための設備が必要となる。
【0032】
本発明によれば、上述したように、高温の空気を鋳型鋳込面の側面壁底部に堆積した離型剤にあてることにより、その離型剤中に残っている水分を蒸発させることができる。
従って、その水分が堆積している離型剤に残った場合に発生する、「水分と鋳型に注がれた精製粗銅と接触することで生じる精製粗銅の急速な湧き上がり」、「この湧き上がりにより生じる精製粗銅の飛散」、「この飛散した精製粗銅が鋳型外縁部に付着することで生じる鋳張り」を、大幅に抑えることができる。
【0033】
また、本発明によるアノード鋳型乾燥用空気配管は、シンプルな構造であり、メンテナンスも容易である。
【0034】
アノード鋳型乾燥用空気配管1の配置は、図5(b)に示すように鋳型10の直上で距離Hの位置、即ち鋳型から高さ50〜300mmの位置に取り付けられることが望ましい。
鋳型10の直上の高さ50mm未満に位置に取り付けた場合、鋳型10を載せているターンテーブル(図示せず)は回転する際に振動することがあるため、アノード鋳型乾燥用空気配管1が鋳型10に接触する可能性がある。また、鋳型10の直上の高さ300mmを超える位置に取り付けた場合、アノード鋳型乾燥用空気配管1から吹き出した空気は、吹き出し位置が鋳型から離れすぎているため、拡散してしまい、吹き出した空気の一部しか、鋳型鋳込面の左右の側面に沿って流し、鋳型鋳込面の左右の下端に堆積した離型剤にあてることができない。
【0035】
次に、コの字型形状の空気配管のコの字腕部1Aに設けた空気の吹き出し孔2と鋳型の鋳込面側面壁底部との距離(図5(a)に示す距離Lで、離型剤Rとの水平距離)は、200〜1000mmであることが望ましい。
この距離Lが200mm未満の場合、離型剤は鋳型の鋳込面の側面壁底部から200mm程度の範囲に堆積しているため、堆積した離型剤の全てを乾燥させることはできない。また、その距離Lが1000mmを超える場合、空気を吹き出した後、鋳型の鋳込面側面壁底部に堆積した離型剤に達するまでの距離が長いため、吹き出した空気が拡散してしまい、吹き出した空気の一部しか、鋳型鋳込面の側面壁底部に堆積した離型剤には届かない結果となる。
【0036】
アノード鋳型乾燥用空気配管1の配置に関しては、図5に示すように鋳型10に対して水平に配置して使用するのが好ましいが、残存する離型剤の位置や量によっては、吹き出し孔2側を鋳型との距離Hの範囲内で鋳型10の鋳込み面に近づけ、空気配管1のコの字胴体部(1B)側を高い位置にする傾斜配置で乾燥を行っても良い。
次に、コの字型形状の配管の少なくとも一部は蛇管であっても良い。
アノード鋳型乾燥用空気配管から吹き出す空気は温度が高いほど好ましいため、アノード鋳型乾燥用空気配管で空気の温度を出来るだけ高くするためには、配管内を流れる空気が熱伝導および放射伝熱による熱伝達を受ける時間を長くすると良く、そのため熱伝達を受ける時間を長く取るために、アノード鋳型乾燥用空気配管の一部を蛇管とすることが好ましい。
以下、実施例を用いて本発明を詳細する。
【実施例1】
【0037】
図5に示すコの字型形状の空気配管1で配管内径、及び2ヶ所ある吹き出し孔の直径を13mm、コの字の両方の腕部1A、1Aの配管長さ1200mm、コの字型の胴体部1Bの配管長さ1000mmの鋳型乾燥用空気配管1を作製し、鋳型鋳込面の頂部及び側面壁縁に沿って、鋳型の直上で距離Hが50mmの位置に設置した。
胴体部1Bの配管1000mmの内、左右の各400mmは蛇管とした(図5には記載せず。)。
【0038】
なお堆積した離型剤は、鋳型の側面壁底部にあり、配管の吹き出し口2は、鋳型鋳込面の側面壁底部との距離Lが200mmの位置になるようにした。
使用する空気は、コの字胴体部1Bの配管中央に設けた接続端3に供給した。供給した空気の圧力は、0.1MPaで行った。
以上の条件でアノード鋳造の操業を行った。
【0039】
この操業で、精製炉1バッチ分として505tの精製粗銅を鋳造し、1365枚のアノードを得た。このアノードの内、「鋳張り」不良は7枚であり、鋳張り不良率は0.5%であった。
【実施例2】
【0040】
配管の内径、及び吹き出し孔の内径26mm、コの字の両方の腕部1Aの配管長さ400mm、この配管の取り付けの高さをアノード鋳型の直上で距離Hが300mmとし、配管の吹き出し口2は、鋳型鋳込面の側面壁底部との距離Lが1000mmとなる位置に取り付けた。また、空気圧力は0.6MPaであることを除き、実施例1と同様に行った。
【0041】
この操業で、精製炉1バッチ分として500tの精製粗銅を鋳造し、1351枚のアノードを得た。
このアノードの内、「鋳張り」不良は9枚であり、鋳張り不良率は0.7%であった。
【0042】
(比較例1)
配管の内径、及び吹き出し孔の内径は10mm、コの字の両方の腕部1Aの配管長さ1600mmの鋳型乾燥用空気配管1を、前記鋳型乾燥用空気配管の両方の腕部1Aの配管は鋳型鋳込面の左右の側面の縁に沿って、鋳型乾燥用空気配管の胴体部1Bを鋳型の直上から外れた位置となるように設置し、この配管の取り付け高さは鋳型の直上で距離Hが400mmとなるように設置した。
また、配管には、蛇管を使わなかった。配管の吹き出し孔2は、鋳型鋳込面の側面壁底部との距離Lが100mmとなる位置に取り付け、空気圧力は0.05MPaであることを除き、実施例1と同様に行った。
【0043】
この操業で、精製炉1バッチ分として490tの精製粗銅を鋳造し、1324枚のアノードを得た。
この作製したアノードの内、「鋳張り」不良は41枚であり、鋳張り不良率は3.1%であった。
【符号の説明】
【0044】
1 アノード鋳型乾燥用空気配管
1A (コの字)腕部
1B (コの字)胴体部
2 吹き出し孔
3 接続端
10 アノード鋳型
11 アノード押上げ用のピン
20 鋳型鋳込み面
乾燥用エアー
吹き出し孔2からの乾燥用エアー
R 離型剤
H アノード乾燥用空気配管1の鋳型10直上における距離
L 吹き出し孔2から鋳型の鋳込み面側面底部までの距離(離型剤との水平距離)
図1
図2
図3
図4
図5