特許第6136235号(P6136235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136235インシュリン認識抗体およびそれを用いたインシュリン吸着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136235
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】インシュリン認識抗体およびそれを用いたインシュリン吸着剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170522BHJP
   C07K 16/26 20060101ALI20170522BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20170522BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20170522BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20170522BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20170522BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20170522BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K16/26
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/08
   C07K1/22
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-276857(P2012-276857)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-117255(P2014-117255A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大江 正剛
(72)【発明者】
【氏名】井出 輝彦
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−123427(JP,A)
【文献】 特開昭62−072700(JP,A)
【文献】 特開昭60−057253(JP,A)
【文献】 特表平04−504955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 14/00−16/46
UniProt/GeneSeq
PubMed
BIOSIS/CAplus/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖相補性決定領域1,2および3として、それぞれ配列番号50、51、及び52に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、
および
軽鎖相補性決定領域1,2および3として、それぞれ配列番号53、54、及び55に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
を含み、重鎖可変領域が配列番号47記載のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域が配列番号49記載のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、インシュリン認識抗体。
【請求項2】
重鎖可変領域が配列番号47記載のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号49記載のアミノ酸配列を含み、かつ重鎖可変領域のカルボキシル基末端と軽鎖可変領域のアミノ基末端が1以上のアミノ酸で連結されている、請求項1に記載のインシュリン認識抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインシュリン認識抗体をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項記載のポリヌクレオチドが挿入されていることを特徴とする発現ベクター。
【請求項5】
請求項記載の発現ベクターにより形質転換されていることを特徴とする形質転換体。
【請求項6】
請求項に記載の形質転換体を培養し、その培養上清又は形質転換体の破砕液からインシュリン認識抗体を回収することを特徴とする、インシュリン認識抗体の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のインシュリン認識抗体が不溶性担体に固定化されていることを特徴とする抗体固定化担体。
【請求項8】
請求項に記載の抗体固定化担体からなるインシュリン吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インシュリン認識抗体およびそれを用いたインシュリン吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インシュリンは膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるペプチドホルモンで、グルコースの消費促進、グリコーゲンへの転換促進させることによって血糖値を低下させる働きがあるため、糖尿病の治療薬に用いられている。インシュリンの構造はアミノ酸21残基からなるA鎖とアミン酸30残基からなるB鎖が2つのジスルフィド結合で結合し、亜鉛イオンが配位した6量体として存在する。
【0003】
近年の遺伝子工学技術の発展により、インシュリンの生産技術は劇的に変化し、それまでのウシやブタ型の配列ではなくヒト型の配列を有するインシュリンが大腸菌や酵母によって生産されるようになった。また遺伝子工学技術の更なる進歩により、タンパク質の性質を変えることが可能となり、投与後の効果を持続させたり、あるいはさらに速効性にするといったインシュリン(インシュリンアナログ)が開発された。
【0004】
遺伝子組み換え法によるヒトインシュリンおよびヒトインシュリンアナログの製造としては、例えば酵母ではミニプロインシュリンの遺伝子を組み換えた酵母を培養、増殖させることによりミニプロインシュリンを合成し、培養液中に分泌されたミニプロインシュリンを回収、イオン交換クロマトグラフィーにより分離精製した後、酵素処理によりヒトインシュリンへの変換を行なう。また大腸菌ではプロインシュリンの遺伝子を組み換えた大腸菌を培養、増殖させることによりプロインシュリンを合成し、回収した大腸菌の菌体を破砕、不溶性のプロインシュリンを回収、可溶化した後、イオン交換クロマトグラフィーにて精製し、酵素処理によりインシュリンに変換、いくつかのクロマトグラフィーを経て製造される。このように遺伝子組換えインシュリンの精製では、イオン交換や疎水性相互作用のクロマトグラフィーが使用されており、アフィニティクロマトグラフィーを利用することにより精製純度の向上、精製時間の短縮、回収率の向上が可能であると考えられる。
【0005】
このようなアフィニティークロマトグラフィーの1つとして抗体をリガンドに用いてカラム基材に固定化したイムノアフィニティークロマトグラフィーがあり、研究用として広く活用されているほか、工業的にも血液凝固第VIII因子製剤の製造の精製用として使用されている。またインシュリンのイムノアフィニティー精製については、ブタインシュリンをマウスに免疫して得たインシュリン抗体を用いたウシインシュリン、ブタインシュリンの調製例が報告されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−123427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インシュリンを認識するインシュリン認識抗体、該インシュリン認識抗体の製造法、およびそれをリガンドに用いたインシュリン吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、インシュリン認識抗体を固定化した不溶性担体によりインシュリンを効率的に吸着・回収できることを見出した。即ち本発明は、以下の発明を包含する。
(1)重鎖相補性決定領域1,2および3として、それぞれ配列番号50、51、及び52に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、
および/または、
軽鎖相補性決定領域1,2および3として、それぞれ配列番号53、54、及び55に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
を含むことを特徴とする、インシュリン認識抗体。
(2)重鎖可変領域が、配列番号47記載のアミノ酸配列を含む、(1)に記載のインシュリン認識抗体。
(3)軽鎖可変領域が、配列番号49記載のアミノ酸配列を含む、(1)に記載のインシュリン認識抗体。
(4)重鎖可変領域が配列番号47記載のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域が配列番号49記載のアミノ酸配列を含む、(1)〜(3)いずれかに記載のインシュリン認識抗体。
(5)重鎖可変領域が配列番号47記載のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号49記載のアミノ酸配列を含み、かつ重鎖可変領域のカルボキシル基末端と軽鎖可変領域のアミノ基末端が1以上のアミノ酸で連結されている、(1)〜(4)いずれかに記載のインシュリン認識抗体。
(6)上述の(1)〜(5)いずれかに記載のインシュリン認識抗体をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
(7)上述の(6)に記載のポリヌクレオチドが挿入されていることを特徴とする発現ベクター。
(8)上述の(7)に記載の発現ベクターにより形質転換されていることを特徴とする形質転換体。
(9)上述の(8)に記載の形質転換体を培養し、その培養上清又は形質転換体の破砕液からインシュリン認識抗体を回収することを特徴とする、インシュリン認識抗体の製造方法。
(10)上述の(1)〜(5)いずれかに記載のインシュリン認識抗体が不溶性担体に固定化されていることを特徴とする抗体固定化担体。
(11)上述の(10)に記載の抗体固定化担体からなるインシュリン吸着剤。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。初めに本発明の抗体について説明する。
【0010】
一般に、抗体分子中には二本の重鎖および二本の軽鎖があり、各軽鎖及び重鎖はそのアミノ基末端に可変領域を有する。また各可変領域は4つのフレームワーク領域(FR1から4)と3つの相補性決定領域(CDR1から3)がそれぞれ交互に配置する構成になっている。
【0011】
可変領域中の残基はKabatらによって考えられた系(Kabatら、1987、Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Departement of Health and Human Services,NIH、USA)に従って慣用的に番号付けられている。
【0012】
重鎖可変領域のCDRはKabat番号付けに従って31から35番残基(CDRH1)、50から65番残基(CDRH2)、および95から102番残基(CDRH3)に位置している。軽鎖可変領域のCDRは、Kabat番号付けに従って、24から34番残基(CDRL1)、50から56番残基(CDRL2)、および89から97番残基(CDRL3)に位置している。
【0013】
本発明では、CDRH1,2,3として、それぞれ配列番号50,51,52に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/又はCDRL1,2,3として、それぞれ配列番号53,54,55に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むインシュリン認識抗体である。このとき、少なくとも配列番号50,51,52及び/又は配列番号53,54,55のアミノ酸配列を有すればよく、それらの配列の前後にそれぞれ3つ以下のアミノ酸を有するものであってもよい。またインシュリン認識抗体としては、インタクト、フラグメント、一本鎖抗体、二本鎖抗体などのいずれでもよく、例えば免疫グロブリンG(IgG)やFab、FV、scFv、dsFv、diabody、IgGの最小単位のVH、VL、またラクダのVHHやサメのIgNARなどがあげられる。また重鎖可変領域が配列番号47に記載のアミノ酸配列を含む、及び/又は軽鎖可変領域が配列番号49に記載のアミノ酸配列を含むインシュリン認識抗体であることが好ましい。またそのような重鎖可変領域のカルボキシル基末端と軽鎖可変領域のアミノ基末端が1以上のアミノ酸で連結されている抗体も好ましい。連結に用いられるアミノ酸としては特に限定はなく、リンカーとして用いられているものを適宜採用することができるが、一例として配列番号59のアミノ酸配列をあげることができる。
【0014】
次に本発明の製法について説明する。
【0015】
インシュリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、ケーラーやミルスタインが開発した方法(ネイチャー 256巻 495項 1975年)に準じて調製することができる。また得られたハイブリドーマから、インシュリン認識抗体遺伝子のクローニングは、例えば以下の方法により行うことができる。すなわち、インシュリン認識抗体を産生するハイブリドーマ細胞より、市販キット(例えばキアゲン社、Rneasy Mini Kit(製品名))を用いてトータルRNAを抽出し、次いで市販キット(例えばタカラバイオ社、PrimeScript RT−PCR Kit(製品名))を用いた逆転写反応により、抽出したトータルRNAからcDNAを合成する。さらに合成したcDNAをPCRにて増幅することで、該ハイブリドーマからインシュリン認識抗体遺伝子を取得することができる。抽出、増幅した抗体遺伝子は重鎖と軽鎖の定常領域と可変領域の全てをコードするものであってもよいが、重鎖と軽鎖の可変領域のみをコードするものであってもよい。またPCRで用いるプライマーは既存のマウス抗体重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子の可変領域において保存されている領域の配列を用いることにより増幅することができる。
【0016】
また抗体遺伝子のクローニングのための公知の技術およびプロトコールは、抗体工学に関する書籍(Anitbody Engineering volume1 Second Editon(Kontermannら、Springer Protocols)などに記載されており、これらの方法を参考に作製することもできる。
【0017】
該インシュリン認識抗体遺伝子の塩基配列は、塩基配列分析用に適当なプラスミドに組み込むなどして該プラスミドを増幅し、常法により塩基配列を解析することで決定することができる。また解析した塩基配列からアミノ酸に変換することもできる。
【0018】
また本発明は、前述のインシュリン認識抗体をコードするポリヌクレオチド、それが挿入されている発現ベクター及び該発現ベクターにより形質転換されている形質転換細胞に関するものである。
【0019】
形質転換細胞、即ち宿主としては酵母、細菌、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞など各種培養細胞が使用できるが、取扱いの容易さなどから大腸菌が好ましい。なお、各々のアミノ酸に対応するコドンの使用頻度は生物によってかなり偏りがあることが知られることから、使用する宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database等)を利用することによっても可能である。
【0020】
本発明は遺伝子の5’末端側にシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを付加してもよく、宿主が大腸菌の場合は、前記シグナルペプチドとしてpelB、DsbA、MalE(UniProt No.P0AEX9に記載のアミノ酸配列のうち1番目から26番目までの領域)、TorTといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをあげることができる。
【0021】
また組換えた抗体遺伝子には精製のために有用な配列を付加してもよく、例えばカルボキシル基末端にヒスチジンヘキサマーを含んだタグ配列が付加されるように遺伝子を作製することができる。シグナルペプチドの種類やシグナルペプチドとの結合方法は上記方法に限定されることはなく、当業者が利用可能な任意のシグナルペプチドを利用することが出来る。
【0022】
本発明で用いられる発現ベクターとしては特に限定はない。例えば、大腸菌ベクターを用いて場合は大腸菌内で安定に発現可能なベクターであれば特に限定されないが、例えばpTrc99A(GEヘルスケア社)、pUCベクター(タカラバイオ社)、pETベクター(ノバジェン社)などといったベクターなどが例示できる。また発現ベクターにおいて、遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結される。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、ベクターの種類に応じて適宜選択することができ、大腸菌で使用できるプロモーターにはlac、trp、trc、T7もしくはtacプロモーターなどが挙げられる。また使用する大腸菌株の種類としては、組換えた遺伝子が発現すれば特に限定はされないが、組換えた抗体の遺伝子が安定に保たれる菌株が好ましく、例えばJM109、HB101,W31110、BL21、MC4110株などが例示できる。
【0023】
発現ベクターにより形質転換された形質転換体は、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養することで、本発明の抗体の生産をすることができる。使用する培地としては形質転換した大腸菌が増殖し、本発明の抗体が生産されればいずれの培地を用いてもよく、例えばLB培地、2×YT培地、SOB培地などが例示できる。また炭素源、窒素源、無機塩、金属塩、ビタミン類などの栄養源を組み合わせた培地をも用いることができる。炭素源としては廃糖蜜、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、デンプン、乳糖、グリセロール、酢酸などが、窒素源にコーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粕等の天然成分や、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等やグルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン等のアミノ酸類など、無機塩にはリン酸1ナトリウム、リン酸2ナトリウム、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム等のリン酸塩や塩化ナトリウムなどが、金属塩には塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、塩化第1鉄、塩化第2鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン、塩化マンガンなど、ビタミン類として酵母エキスやビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ピリドキシン等を用いた培地も使用することができる。また上記培地成分に用いる化合物は有水物、無水物を問わずに使用できる。
【0024】
上記のような栄養培地を使用した好適な培養条件は、培養温度15から40℃、培地のpHを5から9、培養時間が12時間以上であり、さらに好適には、培養温度20から37℃、pHが約6から8、培養時間が18時間から180時間である。また培養温度、培地のpHは培養中に適宜変えてもよい。
【0025】
本発明の発現ベクターに誘導性のプロモーター配列が含まれている場合、本発明のタンパク質が良好に発現できるような条件下で誘導をかけると好ましい。誘導剤としてはIPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)を例示することができる。宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)を測定して添加する時間を決めることができる。添加の時間は細胞が活発に増殖している状態が好ましく、600nmの吸光度の値が約0.5から5.0の間で適当量のIPTGを添加後、引き続き培養することで目的のタンパク質を発現することができる。IPTGの添加濃度は0.005mMから5mMの範囲が好ましく、より好ましくは0.01から1mMの範囲である。また目的タンパク質の急激な発現による不溶性粒子(インクルージョンボディー)の生成を防ぐため、誘導剤を加える時に培養温度やpHを変更し、増殖速度を抑制することが好ましい。IPTG誘導に関する種々の条件は当該技術分野において周知の条件で行なえばよい。
【0026】
本発明のインシュリン認識抗体を回収するには、培養物から何らかの方法で目的とする抗体を抽出すればよい。本発明の形質転換体の培養液から、本発明の抗体を抽出するには、当該抗体の発現の形態により適宜抽出方法を選択すればよい。培養上清に発現する場合は菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明の抗体を抽出すればよい。一方、細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に発現する場合には、遠心分離操作により菌体を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することにより菌体を破砕し、本発明の抗体を抽出すればよい。抽出した本発明の抗体を含む溶液から本発明の抗体を分離精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として液体クロマトグラフィーを用いた分離精製があげられる。液体クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等があり、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことにより、本発明のインシュリン認識抗体を高純度に調製することができる。
【0027】
本発明のインシュリン認識抗体を不溶性担体に固定化させて、抗体固定化担体が得られる。不溶性担体には特に限定はないが、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプンといった多糖質ゲル、またはポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタンといった合成高分子ゲルが好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー社製)等の水酸基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(GEヘルスケア社製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC社製)等のセルロースゲルがあげられる。担体の形状については特に限定はなく、粒状物または非粒状物、多孔性または非多孔性、いずれであってもよい。本発明のインシュリン認識抗体を不溶性担体に固定化する方法には特に限定はなく、例えば活性基を介して固定化することができる。
【0028】
本発明の抗体固定化担体はインシュリン吸着剤として用いることができる。その使用方法に特に制限はないが、空カラムに本発明のインシュリン吸着剤を充填して得られるカラムを用いたクロマトグラフィーによる方法が好ましい。インシュリンを含む溶液としては、市販のインシュリン適当な緩衝液や大腸菌、酵母などのインシュリンを生産する細胞の培養液や、当該培養液を遠心分離等により細胞を除去した培養上清を例示でき、そこからインシュリンを吸着することができる。カラムの大きさ、即ち本発明のインシュリン吸着剤の充填量は精製原料の処理量を考慮の上、適宜決定すればよい。
【0029】
本発明のインシュリン吸着剤を充填したカラムにインシュリンを含む溶液を添加する際は、送液量を考慮しポンプ等の送液手段を用いて添加すればよい。なお、本発明のインシュリン吸着剤を充填したカラムは、インシュリンを添加する前に、あらかじめ適切な緩衝液を用いて平衡化することが好ましい。緩衝液としてはリン酸緩衝液等の無機塩を成分とした緩衝液を例示することができる。なお、緩衝液のpHは、pH3から10、好ましくはpH5から8である。前記インシュリン吸着剤に吸着させたインシュリンを溶出させるには、前記インシュリン吸着剤とインシュリンとの相互作用を弱める緩衝液を用いればよく、具体的には、クエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示することができる。緩衝液のpHは、抗体が有する機能を損なわない範囲で設定すればよく、好ましくはpH2.0から6.0、より好ましくはpH3.0から4.0である。本発明のインシュリン量の測定は、インシュリンが定量的に測定することができればいずれの方法でもよく、タンパク質の定量分析で一般的に用いられる方法が好ましく、紫外吸光法(例えば280nmの吸収)、ブラッドフォード法、ローリー法、ELISA法などがあげられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のインシュリン認識抗体を不溶性の担体に固定化させたインシュリン吸着剤は、インシュリンと特異的に結合し、その結合を弱めることでインシュリンを溶出させることができるため、インシュリンを効率よく精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】インシュリン認識単鎖抗体発現ベクターpETINSAbの概略構造を示す図である。
図2】プラスミドpETMalEの概略構造を示す図である。
図3】インシュリン認識抗体固定化カラムを用いて、インシュリンをアプライ、洗浄、溶出させた際の各フラクションのインシュリン濃度を示す図である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
実施例1 インシュリン認識抗体遺伝子のクローニングと塩基配列解析
インシュリン認識モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞からのRNAの抽出は、Rneasy Mini Kit(製品名、キアゲン社製)を用い、添付のプロトコールに従い抽出した(RNA濃度1.2μg/μl)。RNAからcDNAへの逆転写反応はPrimeScript RT−PCR Kit(製品名、タカラバイオ社)を使いて以下の手順で行った。すなわち上記で調製したRNA約1μgを鋳型に表1の試薬組成にて42℃、30分の反応を行った。必要なプライマーは添付のOligo dT PrimerおよびRandom 6 mersを用いた。
【0034】
【表1】
逆転写反応生成物の一部を鋳型に用いて、以下の手順でcDNAの増幅を行った。表2に示す試薬組成でPCR反応を行った。PCR反応は94℃、5分で熱処理後、94℃、30秒、60℃の第一ステップ、30秒、72℃、1分30秒間の3つサイクルを25回繰り返した。PCR反応の一部をアガロース電気泳動で分析し、目的のDNAサイズに等しいバンドが増幅されていることを確認した。重鎖フォワードプライマーは制限酵素SfiI認識配列を含む配列番号1から17に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、重鎖リバースプライマーは制限酵素XhoI認識配列[CTCGAG]を含む配列番号18から21に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。また軽鎖フォワードプライマーは制限酵素NcoI認識配列[CCATGG]を含む配列番号22から42に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、軽鎖リバースプライマーは制限酵素AscI認識配列[GGCGCGCC]を含む配列番号43に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
【0035】
【表2】
増幅した重鎖のDNAはSfiI、XhoIの制限酵素で、軽鎖のDNAはNcoI、AscIの制限酵素でそれぞれ消化し、クローニング用ベクター(pFCAH10)に導入した。クローニングしたインシュリン認識抗体の可変領域について、その塩基配列をチェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS read Reaction kit(PEアプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(PEアプライドバイオシステム社製)にて解析した。なお、シークエンス用プライマーとして、重鎖は配列番号44(5’−TTAGTTTGGGCAGCAGATCC−3’)、軽鎖は配列番号45(5’−CCATTAATAAGAGCTATCCCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。重鎖可変領域の塩基配列を配列番号46に、軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号48、それぞれの塩基配列をアミノ酸配列に変換した結果を配列番号47および配列番号49に記載した。
【0036】
実施例2 インシュリン認識抗体遺伝子改変領域の配列設計
配列番号46および48に記載の塩基配列からなるインシュリン認識抗体重鎖可変領域および軽鎖可変領域(マウスコドン)から、大腸菌コドンを用いて変換した配列番号56および配列番号57に記載の塩基配列からなるインシュリン認識抗体重鎖可変領域および軽鎖可変領域(大腸菌コドン)を、DNAWorks法により設計した。インシュリン認識抗体重鎖可変領域および軽鎖可変領域(マウスコドン)の塩基配列(配列番号46および配列番号48)と、インシュリン認識抗体重鎖可変領域および軽鎖可変領域(大腸菌コドン)の塩基配列(配列番号56および配列番号57)とを比較した結果、塩基配列の相同性はそれぞれ77%と75%であった。
【0037】
実施例3 インシュリン認識単鎖抗体遺伝子の作製
実施例2で設計した、配列番号56のヌクレオチド配列(インシュリン認識抗体重鎖可変領域)の3’末端と、配列番号57のヌクレオチド配列(インシュリン認識抗体軽鎖可変領域)の5’末端を、配列番号58(5’−GGCGGTGGTGGTAGCGGTGGCGGCGGTTCCGGCGGTGGTGGCTCT−3’)のヌクレオチド配列で連結させ、配列番号60のヌクレオチドのインシュリン認識単鎖抗体遺伝子を作製した。なお、配列番号59は、配列番号58のヌクレオチド配列のアミノ酸配列に相当し、配列番号61は、配列番号60のヌクレオチド配列のアミノ酸配列に相当する。抗体遺伝子の作製については、具体的には、配列番号62から配列番号97に記載のヌクレオチド配列からなる36種類のオリゴヌクレオチドを合成し、以下に示す二段階のPCR反応を行なった。
【0038】
まず表3に示す組成の反応液を調製し、96℃で5分間熱処理後、96℃で30秒間の第一ステップ、60℃で30秒間の第二ステップ、72℃で1分30秒間の第三ステップを25サイクル行ない、最後に72℃で10分間反応させることで一段階目のPCRを行なった。なお、表3のオリゴヌクレオチドミックスとは、配列番号62から97に記載の配列からなる36種類のオリゴヌクレオチド溶液を1mMの濃度になるよう等量ずつ採取し、混合した溶液である。
【0039】
【表3】
次に表4に示す組成の反応液を調製し、96で5分間熱処理後、96℃で30秒間の第一ステップ、62℃で30秒間の第二ステップ、72℃で1分30秒間の第三ステップを25サイクル行い、最後に72℃で10分間反応させることで二段階目のPCRを行なった。なお、PCRプライマーとして配列番号62(5’−CATGCCATGGGCCAGGTTCAGCTCCAACAG TCTGGTGCGG−3’)および配列番号97(5’−CATTTTGATGTCAGAGCCACCA −3’)のオリゴヌクレオチドを用いた。
【0040】
【表4】
PCR反応終了後、1.0%アガロース電気泳動により設計通りのサイズに相当するDNAバンドを確認し、当該反応液を市販のPCR精製キットQIAquick PCR Purification kit:キアゲン社)を用いてDNAを精製した。精製したDNAを制限酵素NcoIおよびHindIIIで消化し、同じ制限酵素で消化した発現ベクターpETMalEに挿入後、当該ベクターを用いて大腸菌BL21(DE3)株に形質転換した。調製したインシュリン認識単鎖抗体発現プラスミドベクターpETINSAbの概略図を図1に示した。
【0041】
発現ベクターpETMalEは以下の方法により作製した。MalEシグナルペプチド(UniProtNo.P0AEX9)に記載のアミノ酸配列のうち1番目から26番目までの領域)およびリンカーペプチドを含む配列番号98のアミノ酸配列(MKIKTGARILALSALTTMMFSASALAKIEEM)をコードするポリヌクレオチドを作製するために、下記に示す2段階のPCRを行なった。
1段階目のPCR反応は、表5に示す反応液を用い、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうことで実施した。
【0042】
【表5】
なお表5に示す反応液の組成のうち、オリゴヌクレオチドミックスは、配列番号99(5’−TATA[CATATG]AAAATAAAAACAGGTGCACGCATCC−3’;角かっこ内の塩基は制限酵素NdeIサイト)、配列番号100(5’−GCATTAACGACGATGATGTTTTCCGCCTCGGCTCTCGCC−3’)、配列番号101(5’−ATCGTCGTTAATGCGGATAATGCGAGGATGCGTGCACCTG−3’)、または配列番号102(5’−TTGTC[CCATGG]CTTCTTCGATTTTGGCGAGAGCCG−3’;角かっこ内の塩基は制限酵素NcoIサイト)に記載の配列からなる50μMの濃度の各オリゴヌクレオチド溶液を、それぞれ等量ずつ採取し混合した溶液である。
【0043】
2段階目のPCR反応は、表6に示す反応液を用い、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なうことで実施し、MalEシグナルペプチドおよびリンカーペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製した。
【0044】
【表6】
なお、表6に示す反応液の組成のうち、鋳型は1段階目のPCR反応液を用い、PCRプライマーは配列番号99および配列番号102に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを使用した。
【0045】
上記で調製したMalEシグナルペプチドおよびリンカーペプチドをコードするポリヌクレオチドを、制限酵素NdeIとNcoIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとNcoIで消化したpET26b(+)プラスミドベクター(Novagen社製)にライゲーションし、大腸菌JM109株(タカラバイオ社製)を20μg/mLのカナマイシン(タカラバイオ社製)を含むLB寒天培地を用いて形質転換した。
【0046】
得られた形質転換体を20μg/mLのカナマイシンを含むLB培地で培養し、形質転換体よりプラスミドDNAを抽出することで、プラスミドpETMalEを調製した。pETMalEの構造を図2に示す。
【0047】
実施例4 塩基配列の解析
上述のインシュリン認識単鎖抗体発現プラスミドベクターpETINSAbに挿入されたポリヌクレオチドの塩基配列をチェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS read Reaction kit(PEアプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(PEアプライドバイオシステム社製)にて解析した。シークエンス用プライマーとして、配列番号103(5’−TAATACGACTCACTATAGGG−3’)と配列番号104(5’−TATGCTAGTTATTGCTCAG−3’)のオリゴヌクレオチドを用いた。解析の結果、pETINSAbに挿入されたポリヌクレオチドの配列は設計通りであることを確認した。
【0048】
実施例5 インシュリン認識単鎖抗体タンパク質の調製
実施例3で作製したベクターpETINSAbが導入された大腸菌BL21(DE3)株を20μg/mLのカナマイシンを添加したLB液体培地100mlに接種し、500mlフラスコにて37℃で一晩振とう培養し、前培養液を調製した。前培養液の600nmの濁度を測定した結果、5.7だった。
【0049】
次いで、5Lおよび3Lの発酵槽を用いて本培養を行った。それぞれ3.5L、2.1Lの20μg/mLのカナマイシンおよび10g/Lグルコースを添加した2×TY培地(pH6.0)に上記培養液35ml、21mlをそれぞれ接種し、温度37℃、通気量1VVM、撹拌速度450rpmおよび500rpmの条件に設定し、培養を開始した。培養開始から約2.5時間後温度を20℃に下げ、設定温度に到達したことを確認した後、終濃度0.1mMになるようIPTGを添加し、引き続き20℃で培養した。約24時間培養後、培養液を7,000rpm、10分間により遠心分離を行い、それぞれ104g、78gの湿菌体を回収した。
【0050】
上記湿菌体を合わせ、20mMのトリス―塩酸緩衝液(pH7.5)700mlで洗浄した後、同じ緩衝液700mlに再懸濁し、菌体を破砕した。菌体破砕は超音波発生装置(インソネーター201M(商品名)、久保田商事製)を用いて、4℃、約5分間、約170Wの出力で処理し、処理液を4℃、20分間、10,000rpmの遠心分離にて、可溶性画分700mlを回収した。
【0051】
可溶性画分に塩化ナトリウムおよびイミダゾールをそれぞれ500mM、20mMの濃度になるように添加し、His・Bind Resin(メルクミリポア社製)にアプライし、45mMのイミダゾールで洗浄後、260mMのイミダゾールで溶出させ、精製を行った。
【0052】
溶出液110mlを分画分子量12,000〜14,000の透析セルロース膜に入れ4.5Lの100mMの塩化ナトリウム、1mMのEDTAを含む20mMのリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)にて、4℃で一晩透析した。透析後、4℃、10,000rpm、15分間の遠心分離により、上清を回収した。
【0053】
遠心上清をトヨパールCM−ギガキャップ(東ソー社製)にアプライし、透析液と同じ組成の緩衝液で洗浄以後、塩化ナトリウム濃度0.1Mから0.9Mの直線濃度勾配により溶出させた。溶出液をドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)およびクマシーブリリアントブルー(CBB)染色し、インシュリン認識単鎖抗体タンパク質が均一である画分を回収した。
回収した画分80mlの280nmにける吸光度は2.3を示した。上記溶出液を分画分子量3,000のアミコンウルトラ15(メルクミリポア社製)で遠心ろ過を行い、280nmの吸光度6.8を示すインシュリン認識単鎖抗体タンパク質40mlを調製した。インシュリン認識単鎖抗体のタンパク質の280nmにおける1Absを1.2mg/mlとすると、作製したインシュリン認識単鎖抗体のタンパク質の濃度は約5.5mg/mlであった。
【0054】
実施例6 インシュリン認識単鎖抗体タンパク質固定ゲルの作製
インシュリン認識単鎖抗体タンパク質固定ゲルの作製は、N−ヒドロキシサクシイミドを活性基とするセファーロスゲルのHitrap NHS−Activated HPカラム(GEヘルスケア社製を用いた。まず1mlゲル量の上記カラムを氷冷した5mlの1mM HClで洗浄後、実施例5で作製したインシュリン認識単鎖抗体溶液と等量の2×カップリング緩衝液(組成:0.2M炭酸水素ナトリウム,0.5M NaCl,pH8.3)とを混合した液11ml(1mlゲルあたりのインシュリン認識単鎖抗体タンパク質使用量30mg)をシリンジでアプライし、通過液を回収して再度カラムにアプライする操作を4回繰り返した。3mlのカップリング緩衝液、6mlのブロッキング緩衝液(組成:0.5Mモノエタノールアミン,0.5M NaCl,pH8.3)、6ml洗浄液で順次洗浄し、再度6mlのブロッキング緩衝液を添加し、25℃、30分間静置した。さらに6mlの洗浄液、6mlのブロッキング緩衝液、6mlの洗浄液で洗浄し、500mMの塩化ナトリウムを含む100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に置換し、4℃に保存した。
【0055】
反応液に残存しているインシュリン認識単鎖抗体タンパク質量およびカップリング緩衝液中のインシュリン認識単鎖抗体タンパク質量は、実施例5で精製したインシュリン認識抗体の濃度を基準に、バイオラッドプロテインアッセイ(バイオラッド社製)にて求めた。インシュリン認識単鎖抗体固定化ゲルの固定化量については、反応に供した量から差し引いて計算した結果、1mlゲルあたりインシュリン認識単鎖抗体タンパク質は16.2mg固定化され、固定化率は53.5%と求められた。
実施例7 インシュリン結合量と有効固定化率の算出
実施例6で作製した1mlゲル量のインシュリン認識単鎖抗体固定化カラムを、500mMの塩化ナトリウムを含む100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で置換し、同じ組成の緩衝液で調製した1mg/mlのインシュリン溶液を、1ml/3分の流速で7.5mlアプライした。同じ流速で500mMの塩化ナトリウムを含む100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)13mlで洗浄し、280nmの吸光度が0.06以下に低下し、かつ数値が安定していることを確認した後、500mMの塩化ナトリウムを含む100mMのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)6mlで溶出させた。溶出画分の280nmの吸光度を求めた結果を図3のグラフに示す。インシュリンの280nmにおける1Absを1.18mg/ml(既知濃度のインシュリンより決定)として求めたインシュリン結合量は、1mlゲルあたり1.84mgだった。
【0056】
インシュリンの分子量は5,700、インシュリン認識単鎖抗体の分子量は26,700であり、インシュリンとその抗体とは1対1結合することを勘案し、ゲルに固定したインシュリン認識単鎖抗体が機能している割合(有効固定化率)を計算した。その結果、作製したインシュリン認識単鎖抗体固定化ゲルの有効固定化率は53%であった。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]