特許第6136311号(P6136311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136311電子輸送材料およびこれを用いた有機電界発光素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136311
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】電子輸送材料およびこれを用いた有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/22 20060101AFI20170522BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C07D213/22CSP
   H05B33/14 A
   H05B33/22 B
【請求項の数】11
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2013-18199(P2013-18199)
(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-177375(P2013-177375A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-23384(P2012-23384)
(32)【優先日】2012年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】馬場 大輔
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−256352(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137678(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/005214(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/060374(WO,A1)
【文献】 特開2010−222258(JP,A)
【文献】 特表2009−516652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H01L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
式(1)中、Arは下記の1価の基であり;
式中のベンゼン環およびピリジン環の任意の水素は炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよく;

【化2】
上式中、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルであり;
また、式(1)で表される化合物における少なくとも1つの水素が重水素で置き換えられていてもよい。
【請求項2】
下記式(1−2)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化3】
【請求項3】
下記式(1−85)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化4】
【請求項4】
下記式(1−97)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化5】
【請求項5】
下記式(1−133)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化6】
【請求項6】
下記式(1−145)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化7】
【請求項7】
下記式(1−157)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化8】
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物を含有する電子輸送材料。
【請求項9】
陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置される発光層と、前記陰極と該発光層との間に配置され、請求項に記載の電子輸送材料を含有する電子輸送層および/または電子注入層とを有する有機電界発光素子。
【請求項10】
前記電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、さらに、キノリノール系金属錯体、ビピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体およびボラン誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項に記載する有機電界発光素子。
【請求項11】
電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つが、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項または10に記載の有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビピリジル基を有する新規な電子輸送材料、この電子輸送材料を用いた有機電界発光素子(以下、有機EL素子または単に素子と略記することがある。)等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代のフルカラーフラットパネルディスプレイとして有機EL素子が注目され、活発な研究がなされている。有機EL素子の実用化を促進するには、素子の駆動電圧の低減、長寿命化が不可欠な要素であり、これらを達成するために新しい電子輸送材料の開発がなされてきた。特に、青色素子の駆動電圧低下、長寿命化は必須である。特許文献1(特開2003−123983号公報)には、フェナントロリン誘導体またはその類似体である2,2’−ビピリジル化合物を電子輸送材料に使用することで有機EL素子を低電圧で駆動させることができると記載されている。しかしながらこの文献の実施例に報告されている素子の特性(駆動電圧、発光効率など)は比較例を基準にした相対値のみであり、実用的な値と判断できる実測値は記載されていない。他に、2,2’−ビピリジル化合物を電子輸送材料に使用した例が、非特許文献1(Proceedings of the 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence)、特許文献2(特開2002−158093号公報)および特許文献3(国際公開2007/86552パンフレット)に開示されている。非特許文献1に記載されている化合物はTgが低く、実用的ではなかった。特許文献2および3に記載の化合物は比較的低電圧で有機EL素子を駆動させることができるが、素子寿命が十分ではなかった。更には、アントラセン環とピリジン環を組み合わせた化合物を電子輸送材料に使用した例が、特許文献4〜6(国際公開2004/063159、国際公開2010/137678、特開2009−256352号公報に開示されているが、実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−123983号公報
【特許文献2】特開2002−158093号公報
【特許文献3】国際公開2007/86552パンフレット
【特許文献4】国際公開2004/063159パンフレット
【特許文献5】国際公開2010/137678パンフレット
【特許文献6】特開2009−256352号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proceedings of the 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。本発明は、有機EL素子の長寿命化等に寄与する電子輸送材料を提供することを課題とする。さらに本発明は、この電子輸送材料を用いた有機EL素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、2,2’−ビピリジルがベンゼン環を介して、10位がアリールで置換されたアントラセン環の9位に連結している化合物を有機EL素子の電子輸送層に用いることにより、高効率・長寿命で駆動できる有機EL素子が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
上記の課題は以下に示す各項によって解決される。
【0007】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【化1】
式(1)中、Arは炭素数6〜30のアリールであり;式中のAr、ベンゼン環およびピリジン環の任意の水素は炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよく;また、式(1)で表される化合物における少なくとも1つの水素が重水素で置き換えられていてもよい。
【0008】
[2] Arが下記の1価の基の群から選ばれる1つである、前記[1]項に記載の化合物。
【化2】
上記式中、Rは独立して炭素数1〜6のアルキルまたはフェニルであり;
各々の基の芳香環の任意の水素は炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【0009】
[3] Arが下記の群から選ばれる1価の基である、前記[1]項に記載の化合物。
【化3】
上式中、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0010】
[4] Arが下記である1価の基である、前記[1]項に記載の化合物。
【化4】
上式中、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0011】
[5] 下記式(1−2)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化5】
【0012】
[6] 下記式(1−85)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化6】
【0013】
[7] 下記式(1−97)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化7】
【0014】
[8] 下記式(1−133)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化8】
【0015】
[9] 下記式(1−145)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化9】
【0016】
[10] 下記式(1−157)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化10】
【0017】
[11] 前記[1]〜[10]のいずれか1項に記載の化合物を含有する電子輸送材料。
【0018】
[12] 陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置される発光層と、前記陰極と該発光層との間に配置され、前記[11]項に記載の電子輸送材料を含有する電子輸送層および/または電子注入層とを有する有機電界発光素子。
【0019】
[13] 前記電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、さらに、キノリノール系金属錯体、ビピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体およびボラン誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、前記[12]項に記載する有機電界発光素子。
【0020】
[14] 電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つが、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、前記[12]項または[13]項に記載の有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0021】
本発明の化合物は薄膜状態で電圧を印加しても安定であり、また、電荷の輸送能力が高いという特徴を持つ。本発明の化合物は有機EL素子における電荷輸送材料として適している。本発明の化合物を有機EL素子の電子輸送層および/または電子注入層に用いることで、高効率かつ長い寿命を有する有機EL素子を得ることができる。本発明の有機EL素子を用いることにより、フルカラー表示等の高性能のディスプレイ装置を作成できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本明細書においては、例えば「式(1−1)で表される化合物」のことを「化合物(1−1)」と称することがある。その他の式記号、式番号についても同様に扱われる。
【0023】
化合物の定義において用いる用語「任意の」は「位置だけでなく数においても自由に選択できること」を意味する。例えば、「フェニルの任意の水素は炭素数1〜6のアルキルで置き換えられていてもよい」という表現は、「1つの水素がアルキルで置き換えられてもよい」のみならず、「複数の水素が同一のアルキル、または各々異なるアルキルで置き換えられていてもよい」ことをも意味する。
本明細書の構造式、化学反応式等で用いられる記号Meおよびt−Buは、それぞれメチルおよびターシャリーブチルを表す。
【0024】
<化合物の説明>
本願の第1の発明は、下記の式(1)で表される2,2’−ビピリジルを有する化合物である。
【化11】
式(1)において、Arは炭素数6〜30のアリールである。式(1)中のAr、ベンゼン環およびピリジン環の任意の水素は炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。また、式(1)で表される化合物における少なくとも1つの水素が重水素で置き換えられていてもよい。
【0025】
本発明の化合物は分子中にビピリジルを1つ有すること、およびビピリジルがフェニル基を介してアントラセン環に連結していることを特徴としている。
【0026】
式(1)において、2,2’−ビピリジルが連結するフェニルの位置は任意でよいが、アントラセン環に連結する炭素を基準として4位および3位が好ましい。また、フェニルに連結する2,2’−ビピリジルの位置は任意でよいが、5位および6位が好ましい。すなわち、式(1)の化合物の好ましい態様は、以下の構造式で表すことができる。
【化12】
上記化合物群におけるArの定義は前記と同じである。
【0027】
式(1)中のAr、ベンゼン環およびピリジン環に置換する炭素数1〜6のアルキルの例はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、およびイソヘキシルである。この中で好ましいアルキルはメチル、エチル、イソプロピル、およびt−ブチルであり、メチルおよびt−ブチルがより好ましい。炭素数3〜6のシクロアルキルの例はシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルである。この中で好ましいシクロアルキルは原料の入手、合成の容易さを考慮するとシクロヘキシルである。
【0028】
式(1)におけるArは具体的には下記の1価の基の群から選ばれる1つである。
【化13】
上記式中、Rは独立して炭素数1〜6のアルキルまたはフェニルである。各々の基の芳香環の任意の水素は炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【0029】
上記の基の中では下記に示す基が好ましい。
【化14】
上式中、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0030】
更には下記に示す基が好ましい。
【化15】
上式中、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0031】
<化合物の具体例>
本発明の化合物の具体例は以下に列記する式によって示されるが、本発明はこれらの具体的な構造の開示によって限定されることはない。
【0032】
式(1)で表される化合物の具体例は下記の式(1−1)〜(1−180)で示される。これらの中で好ましい化合物は式(1−1)〜(1−4)、(1−6)、(1−9)、(1−11)、(1−22)〜(1−25)、(1−27)、(1−30)、(1−32)、(1−43)〜(1−46)、(1−48)、(1−51)、(1−53)、(1−64)〜(1−67)、(1−69)、(1−72)、(1−74)、(1−85)〜(1−101)、(1−105)、(1−109)、(1−113)、(1−117)、(1−121)〜(1−137)、(1−141)、(1−145)〜(1−161)、(1−165)、(1−169)、(1−173)、および(1−177)である。より好ましくは式(1−2)、(1−4)、(1−6)、(1−9)、(1−23)、(1−25)、(1−27)、(1−30)、(1−44)、(1−46)、(1−48)、(1−51)、(1−65)、(1−67)、(1−69)、(1−72)、(1−85)〜(1−100)、(1−121)〜(1−136)、および(1−145)〜(1−160)である。更に好ましくは式(1−2)、(1−23)、(1−44)、(1−65)、(1−85)、(1−89)、(1−93)、(1−97)、(1−121)、(1−125)、(1−129)、(1−133)、(1−145)、(1−149)、(1−153)、(1−157)、および(1−159)である。
【0033】
【化16】
【0034】
【化17】
【0035】
【化18】
【0036】
【化19】
【0037】
【化20】
【0038】
【化21】
【0039】
【化22】
【0040】
【化23】
【0041】
【化24】
【0042】
【化25】
【0043】
【化26】
【0044】
【化27】
【0045】
【化28】
【0046】
【化29】
【0047】
【化30】
【0048】
【化31】
【0049】
<化合物の合成法>
以下に本発明の化合物の合成法について説明する。本発明の化合物は、汎用される既知の合成法を適宜組み合わせて利用することにより合成することができる。
【0050】
<式(1−1)〜式(1−180)で表される化合物の合成法1>
【化32】
先ず、反応1で9位がアリールで置換されたアントラセンを合成する。種々のハロゲン化アリールをTHF中で金属マグネシウムと反応させグリニャール試薬とし、これに触媒の存在下9−ブロモアントラセンを反応させて9位がアリールで置換されたアントラセンとする。種々のアリールとアントラセン環をカップリングするには上記の方法に限らず、例えば亜鉛錯体を用いた根岸カップリング反応、ボロン酸またはボロン酸エステルを用いた鈴木カップリング反応などによっても可能であり、状況に応じてこれらの常法が適宜使用できる。
【0051】
【化33】
反応2ではN−ブロモスクシンイミドを用いてアリールで置換されたアントラセンの10位を臭素化する。ここでもN−ブロモスクシンイミド以外の常用される臭素化剤を使用することができる。
【0052】
【化34】
反応3ではアントラセン環とベンゼン環をカップリングする。反応2で合成した9−ブロモアントラセン誘導体と4−メトキシフェニルボロン酸をパラジウム触媒の存在下カップリング反応させて、9位がアリールで置換された4−メトキシフェニルアントラセンを合成する。反応1と同様に、ベンゼン環とアントラセン環をカップリングするには上記の方法に限らず、例えば亜鉛錯体を用いた根岸カップリング反応などによっても可能であり、状況に応じてこれらの常法が適宜使用できる。
【0053】
【化35】
反応4では9位がアリールで置換された4−メトキシフェニルアントラセンのメトキシ基を脱メチルしてフェノールにする。ここでも脱メチル化反応に常用される試薬が適宜使用できる。
【0054】
【化36】
反応5でフェノールの−OHをトリフルオロメチルスルホネート(トリフラート)にする。反応式中の−OTfは−OSOCFの略である。
【0055】
【化37】
反応6でトリフラートをビスピナコレートジボロンや4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランをパラジウム触媒の存在下で反応させることによりボロン酸エステルを合成する。
【0056】
【化38】
反応7で、反応6で合成したボロン酸エステルと臭化ビピリジルをパラジウム触媒の存在下カップリング反応させることで、目的物を合成する。反応1及び反応3と同様に、カップリング反応には上記の方法に限らず、例えば亜鉛錯体を用いた根岸カップリング反応などによっても可能であり、状況に応じてこれらの常法が適宜使用できる。
【0057】
【化39】
【化40】
反応7で用いた臭化ビピリジルは公知の方法によって合成出来るが、ここでは反応8のように、2−ブロモピリジンを金属錯体とし、次いで塩化亜鉛または塩化亜鉛錯体と反応させ亜鉛錯体とした後、反応9のようにジブロモピリジンとパラジウム触媒存在下カップリング反応させることで得た。反応8の1段目で用いた試薬のRは一般にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、またはt−ブチルのような短鎖のアルキルが用いられる。また、反応9ではジブロモピリジンを用いた例を示したが、例えば、一方がヨウ素で他方が臭素のように、異なるハロゲン原子を有するジハロピリジンも用いることができる。更に、一方がハロゲン原子、他方がトリフラートであるピリジンを用いてもよい。
【0058】
<式(1−1)〜式(1−180)で表される化合物の合成法2>
【化41】
反応10で、上記反応9で合成した臭化ビピリジルと4−メトキシフェニルボロン酸をパラジウム触媒の存在下カップリング反応させて、メトキシフェニルビピリジンを合成し、次いで上記反応4、5に準じた方法でビピリジルフェニルトリフラートを合成する。
【0059】
【化42】
反応式11で、上記反応式2で合成した9−ブロモアントラセン誘導体を公知の方法により、金属錯体とし、次いでトリアルコキシボランと反応させた後、酸処理により加水分解を行い、アントラセンボロン酸誘導体を合成する。上記反応式中の試薬のRは前記反応8同様に短鎖のアルキルが用いられる(例えば、ノルマルブチルリチウム、トリイソプロピルオキシボラン)。
【0060】
【化43】
反応12で、反応10および反応11で合成したトリフラートとボロンをパラジウム触媒の存在下カップリング反応させることで、目的物を合成する。反応1および反応3と同様に、カップリング反応には上記の方法に限らず、例えば亜鉛錯体を用いた根岸カップリング反応などによっても可能であり、状況に応じてこれらの常法が適宜使用できる。また、ここではボロン酸を使用した例を示したが、9−ブロモアントラセンからボロン酸エステルを合成し、それを使用することもできる。
【0061】
ここでは、アントラセン環とビピリジン環がフェニル基の1位と4位を介して結合した誘導体の合成例を示したが、前記の反応3または反応10において、4−メトキシフェニルボロン酸の代わりに3−メトキシフェニルボロン酸を使用すれば、フェニル基の1位と3位を介して結合した誘導体も同様に合成することができる。また、ここでは無置換の誘導体の合成例を示したが、所望する置換位置に置換基を有する原料を用いることで、置換基を有する誘導体も合成することができる。
【0062】
カップリング反応で用いられるパラジウム触媒の具体例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):Pd(PPh、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド:PdCl(PPh、酢酸パラジウム(II):Pd(OAc)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0):Pd(dba)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)クロロホルム錯体:Pd(dba)・CHCl、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0):Pd(dba)、ビス(トリt−ブチルホスフィノ)パラジウム(0):Pd(t−BuP)、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド:Pd(dppf)Cl、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン錯体(1:1):Pd(dppf)Cl・CHCl、またはPdCl[P(t−Bu)−(p−NMe−Ph)]:(A−taPhos)PdClがあげられる。
【0063】
また、反応を促進させるため、場合によりこれらのパラジウム化合物にホスフィン化合物を加えてもよい。そのホスフィン化合物の具体例としては、トリ(t−ブチル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1−(N,N−ジメチルアミノメチル)−2−(ジt−ブチルホスフィノ)フェロセン、1−(N,N−ジブチルアミノメチル)−2−(ジt−ブチルホスフィノ)フェロセン、1−(メトキシメチル)−2−(ジt−ブチルホスフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(ジt−ブチルホスフィノ)フェロセン、2,2’−ビス(ジt−ブチルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2−メトキシ−2’−(ジt−ブチルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、または2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニルがあげられる。
【0064】
反応で用いられる塩基の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸三カリウム、またはフッ化カリウムがあげられる。
【0065】
また、反応で用いられる溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、メタノール、エタノール、シクロペンチルメチルエーテルまたはイソプロピルアルコールがあげられる。これらの溶媒は適宜選択でき、単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。
【0066】
本発明の化合物を、有機EL素子における、電子注入層または電子輸送層に用いた場合、電界印加時において安定である。これらは、本発明の化合物が、電界発光型素子の電子注入材料、または電子輸送材料として優れていることを表す。ここで言う電子注入層とは陰極から有機層へ電子を受け取る層であり、電子輸送層とは注入された電子を発光層へ輸送するための層である。また、電子輸送層が電子注入層を兼ねることも可能である。それぞれの層に用いる材料を、電子注入材料および電子輸送材料という。
【0067】
<有機EL素子の説明>
本願の第2の発明は、電子注入層、または電子輸送層に、本発明の式(1)で表される化合物を含有する有機EL素子である。本発明の有機EL素子は、駆動電圧が低く、駆動時の耐久性が高い。
【0068】
本発明の有機EL素子の構造は各種の態様があるが、基本的には陽極と陰極との間に少なくとも正孔輸送層、発光層、電子輸送層を挟持した多層構造である。素子の具体的な構成の例は、(1)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、(2)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、(3)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、等である。
【0069】
本発明の化合物は、高い電子注入性および電子輸送性を持っているので、単体又は他の材料と併用して電子注入層、または電子輸送層に使用できる。本発明の有機EL素子は、本発明の電子輸送材料に他の材料を用いた正孔注入層、正孔輸送層、発光層、などを組み合わせることで、青色、緑色、赤色や白色の発光を得ることもできる。
【0070】
本発明の有機EL素子に使用できる発光材料または発光性ドーパントは、高分子学会編、高分子機能材料シリーズ“光機能材料”、共同出版(1991)、P236に記載されているような昼光蛍光材料、蛍光増白剤、レーザー色素、有機シンチレータ、各種の蛍光分析試薬等の発光材料、城戸淳二監修、“有機EL材料とディスプレイ”シーエムシー社出版(2001)P155〜156に記載されているようなドーパント材料、P170〜172に記載されているような3重項材料の発光材料等である。
【0071】
発光材料または発光性ドーパントとして使用できる化合物は、多環芳香族化合物、ヘテロ芳香族化合物、有機金属錯体、色素、高分子系発光材料、スチリル誘導体、芳香族アミン誘導体、クマリン誘導体、ボラン誘導体、オキサジン誘導体、スピロ環を有する化合物、オキサジアゾール誘導体、フルオレン誘導体等である。多環芳香族化合物の例は、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、ペリレン誘導体、コロネン誘導体、ルブレン誘導体等である。ヘテロ芳香族化合物の例は、ジアルキルアミノ基またはジアリールアミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ピリジン誘導体、ピラン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体、トリフェニルアミノ基を有するチオフェン誘導体、キナクリドン誘導体等である。有機金属錯体の例は、亜鉛、アルミニウム、ベリリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、イリジウム、白金、オスミウム、金、等と、キノリノール誘導体、ベンゾキサゾ−ル誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ピロール誘導体、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体等との錯体である。色素の例は、キサンテン誘導体、ポリメチン誘導体、ポルフィリン誘導体、クマリン誘導体、ジシアノメチレンピラン誘導体、ジシアノメチレンチオピラン誘導体、オキソベンズアントラセン誘導体、カルボスチリル誘導体、ペリレン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体等の色素が挙げられる。高分子系発光材料の例は、ポリパラフェニルビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾ−ル誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体等である。スチリル誘導体の例は、アミン含有スチリル誘導体、スチリルアリーレン誘導体等である。
【0072】
本発明の有機EL素子に使用される他の電子輸送材料は、光導電材料において電子伝達化合物として使用できる化合物、有機EL素子の電子輸送層および電子注入層に使用できる化合物の中から任意に選択して用いることができる。
【0073】
このような電子輸送材料の具体例は、キノリノール系金属錯体、2,2’−ビピリジル誘導体、フェナントロリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チオフェン誘導体、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、オキシン誘導体の金属錯体、キノキサリン誘導体、キノキサリン誘導体のポリマー、ベンザゾール類化合物、ガリウム錯体、ピラゾール誘導体、パ−フルオロ化フェニレン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、イミダゾピリジン誘導体、ボラン誘導体等である。
【0074】
本発明の有機EL素子に使用される正孔注入材料および正孔輸送材料については、光導電材料において、正孔の電荷輸送材料として従来から慣用されている化合物や、有機EL素子の正孔注入層および正孔輸送層に使用されている公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。それらの具体例は、カルバゾ−ル誘導体、トリアリールアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等である。
【0075】
本発明の有機EL素子を構成する各層は、各層を構成すべき材料を蒸着法、スピンコート法またはキャスト法等の方法で薄膜とすることにより、形成することができる。このようにして形成された各層の膜厚については特に限定はなく、材料の性質に応じて適宜設定することができるが、通常2nm〜5000nmの範囲である。なお、発光材料を薄膜化する方法は、均質な膜が得やすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から蒸着法を採用するのが好ましい。蒸着法を用いて薄膜化する場合、その蒸着条件は、本発明の発光材料の種類により異なる。蒸着条件は一般的に、ボート加熱温度50〜400℃、真空度10−6〜10−3Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−150〜+300℃、膜厚5nm〜5μmの範囲で適宜設定することが好ましい。
【0076】
本発明の有機EL素子は、前記のいずれの構造であっても、基板に支持されていることが好ましい。基板は機械的強度、熱安定性および透明性を有するものであればよく、ガラス、透明プラスチックフィルム等を用いることができる。陽極物質は4eVより大きな仕事関数を有する金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を用いることができる。その具体例は、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(以下、ITOと略記する)、SnO、ZnO等である。
【0077】
陰極物質は4eVより小さな仕事関数の金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物を使用できる。その具体例は、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、マグネシウム合金、アルミニウム合金等である。合金の具体例は、アルミニウム/弗化リチウム、アルミニウム/リチウム、マグネシウム/銀、マグネシウム/インジウム等である。有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、電極の少なくとも一方は光透過率を10%以上にすることが望ましい。電極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下にすることが好ましい。なお、膜厚は電極材料の性質にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10〜400nmの範囲に設定される。このような電極は、上述の電極物質を使用して、蒸着やスパッタリング等の方法で薄膜を形成させることにより作製することができる。
【0078】
次に、本発明の発光材料を用いて有機EL素子を作成する方法の一例として、前述の陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/本発明の電子輸送材料/陰極からなる有機EL素子の作成法について説明する。適当な基板上に、陽極材料の薄膜を蒸着法により形成させて陽極を作製した後、この陽極上に正孔注入層および正孔輸送層の薄膜を形成させる。この上に発光層の薄膜を形成させる。この発光層の上に本発明の電子輸送材料を真空蒸着し、薄膜を形成させ、電子輸送層とする。さらに陰極用物質からなる薄膜を蒸着法により形成させて陰極とすることにより、目的の有機EL素子が得られる。なお、上述の有機EL素子の作製においては、作製順序を逆にして、陰極、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
【0079】
このようにして得られた有機EL素子に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として印加すればよく、電圧2〜40V程度を印加すると、透明又は半透明の電極側(陽極又は陰極、および両方)より発光が観測できる。また、この有機EL素子は、交流電圧を印加した場合にも発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【実施例】
【0080】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明する。まず、実施例で用いた化合物の合成例について、以下に説明する。
【0081】
[合成例1]化合物(1−2)の合成
<9−(4−メトキシフェニル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセンの合成>
市販品である9−ブロモ−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン(46.0g)、(4−メトキシフェニル)ボロン酸(20.1g)、Pd(PPh(1.4g)、リン酸三カリウム(50.9g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(300mL)、t−ブチルアルコール(60mL)および水(12mL)をフラスコに入れ、窒素雰囲気下、還流温度で8時間攪拌した。反応の進行が遅かった為、更にPd(PPh(1.39g)を追加し9時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し水を加え、析出した固体を吸引濾過にて採取した。この固体をトルエンに溶解してシリカゲルショートカラム(展開液:トルエン)で精製し、溶出液を濃縮して、9−(4−メトキシフェニル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン(46.5g)を得た。
【0082】
<4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェノールの合成>
窒素雰囲気下、9−(4−メトキシフェニル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン(45.2g)、ピリジン塩酸塩(63.8g)、N−メチルピロリドン(50mL)をフラスコに入れ、還流温度で5時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し水を加え、析出した固体を吸引濾過にて採取した。この固体を温水で洗浄し、更にメタノールで洗浄して、4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェノール(42.0g)を得た。
【0083】
<4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートの合成>
窒素雰囲気下、4−(10−ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェノール(18.0g)、ピリジン(脱水)(130ml)の入ったフラスコを、氷浴で冷却した。次いで、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(11.2ml)をこの溶液に滴下した。滴下終了後氷浴を外し、室温で8時間撹拌し、水を加え反応を停止した。生成した固体を吸引濾過にて採取し、水、次いで2−プロパノールで洗浄した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)で精製した後、トルエン/ヘプタン混合溶媒にて再沈殿を行い、4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート(15.0g)を得た。
【0084】
<4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロランの合成>
窒素雰囲気下、4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート(15.0g)、ビスピナコラートジボロン(8.6g)、酢酸カリウム(5.6g)、Pd(dppf)Cl(0.7g)およびシクロペンチルメチルエーテル(130ml)の入ったフラスコを還流温度で7時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水およびトルエンを加え分液し、溶媒を減圧留去した。得られた固体をシリカゲルショートカラム(トルエン)で精製し、4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(11.2g)を得た。
【0085】
<化合物(1−2)の合成>
4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(3.0g)、国際公開2007/086552パンフレットに記載の方法で合成した5−ブロモ−2,2’−ビピリジン(1.4g)、Pd(PPh(0.2g)、リン酸三カリウム(2.5g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(25ml)、イソプロピルアルコール(10ml)および水(2ml)の入ったフラスコを還流温度で2.5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水を加え無機塩を溶解させ、吸引濾過にて析出物を採取した。得られた固体をメタノール、次いで酢酸エチルで洗浄した。更にクロロベンゼンでソックスレー抽出を行い、抽出液から再結晶して、式(1−2)で表される化合物:5−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,2’−ビピリジン(1.8g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl):δ=9.14(m,1H), 8.75(m,1H), 8.58(d,1H), 8.52(d,1H), 8.23(dd,1H), 8.08(d,1H), 8.03(d,1H), 7.95(t,2H), 7.88(t,1H), 7.83(d,2H), 7.66−7.75(m,3H), 7.60(d,1H), 7.45−7.53(m,3H), 7.36(m,3H), 7.17−7.27(m,4H).
【0086】
[合成例2]化合物(1−85)の合成
<5−ブロモ−6’−メチル−2,2’−ビピリジンの合成>
2−ブロモ−6−メチルピリジン(5.2g)およびシクロペンチルメチルエーテル(30ml)の入ったフラスコをメタノール/ドライアイス浴で冷却した。この溶液に1.6Mのn−ブチルリチウム・ヘキサン溶液(22ml)を滴下した。滴下終了後、メタノール/ドライアイス浴で冷却しながら2時間撹拌し、塩化亜鉛テトラメチルエチレンジアミン(8.3g)を加え、メタノール/ドライアイス浴を外し昇温した。室温まで昇温した後、2,5−ジブロモピリジン(7.1g)およびPd(PPh(1.0g)を加え、還流温度で3時間半撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、EDTA・4Na水溶液およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル)で精製した。この際、「有機化学実験のてびき(1)−物質取扱法と分離精製法−」株式会社化学同人出版、94頁に記載の方法を参考にして、展開液中の酢酸エチルの比率を徐々に増加させて目的物を溶出させた。次いで溶媒を減圧留去し、得られた固体をヘプタンから再結晶し、5−ブロモ−6’−メチル−2,2’−ビピリジン(1.4g)を得た。
【0087】
<化合物(1−85)の合成>
4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.0g)、5−ブロモ−6’−メチル−2,2’−ビピリジン(1.2g)、Pd(PPh(0.1g)、リン酸三カリウム(1.7g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(20ml)、イソプロピルアルコール(5ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で6.5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水を加え無機塩を溶解させ、吸引濾過にて析出物を採取した。得られた固体をメタノール、次いで酢酸エチルで洗浄した。更にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル)で精製した。この際、前記と同様に展開液中の酢酸エチルの比率を徐々に増加させて目的物を溶出させた。溶媒を一旦減圧留去した後、再度トルエンに溶解し、活性炭ショートカラムに通した。溶媒を減圧留去し、得られた油状物質に酢酸エチルを加え、析出した沈殿を採取することによって、式(1−85)で表される化合物:6’−メチル−5−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,2’−ビピリジン(0.6g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl):δ=9.12(m,1H), 8.59(d,1H), 8.28(d,1H), 8.21(dd,1H), 8.08(d,1H), 8.03(d,1H), 7.94(t,2H), 7.83(d,2H), 7.70−7.78(m,3H), 7.67(m,1H), 7.59(dd,1H), 7.50(t,1H), 7.47(d,2H), 7.36(m,2H), 7.18−7.27(m,5H), 2.69(s,3H).
【0088】
[合成例3]化合物(1−97)の合成
<5’−ブロモ−3−メチル−2,2’−ビピリジンの合成>
2−ブロモ−3−メチルピリジン(24.1g)およびTHF(100ml)の入ったフラスコを氷浴で冷却し、この溶液に2MのイソプロピルマグネシウムクロリドTHF溶液(84ml)を滴下した。滴下終了後、還流温度まで徐々に昇温し、その温度で0.5時間撹拌した。再び氷浴で冷却し、塩化亜鉛テトラメチルエチレンジアミン(42.3g)を加え、1時間室温で撹拌した後、2,5−ジブロモピリジン(39.8g)およびPd(PPh(4.9g)を加え、還流温度で4時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、EDTA・4Na水溶液および酢酸エチルを加え分液した。溶媒を減圧留去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル=9/1(容量比))で精製した。更にヘプタンから再結晶して、5’−ブロモ−3−メチル−2,2’−ビピリジン(13.5g)を得た。
【0089】
<化合物(1−97)の合成>
4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.0g)、5’−ブロモ−3−メチル−2,2’−ビピリジン(1.2g)、Pd(PPh(0.1g)、リン酸三カリウム(1.7g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(20ml)、イソプロピルアルコール(5ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水を加え無機塩を溶解させ、吸引濾過にて析出物を採取した。得られた固体をメタノール、次いで酢酸エチルで洗浄した。更にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル)で精製した。この際、前記と同様に展開液中の酢酸エチルの比率を徐々に増加させて目的物を溶出させた。溶媒を一旦減圧留去した後、再度トルエンに溶解し、活性炭ショートカラムに通した。溶媒を減圧留去し、得られた油状物質に酢酸エチルを加え、析出した沈殿を採取することによって、式(1−97)で表される化合物:3−メチル−5’−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,2’−ビピリジン(1.4g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl):δ=9.14(m,1H), 8.60(m,1H), 8.22(dd,1H), 8.08(d,1H), 7.99−8.05(m,2H), 7.94(t,2H), 7.83(t,2H), 7.65−7.75(m,4H), 7.59(dd,1H), 7.45−7.52(m,3H), 7.37(m,2H), 7.17−7.30(m,5H), 2.64(s,3H).
【0090】
[合成例4]化合物(1−133)の合成
<6’−ブロモ−3−メチル−2,2’−ビピリジンの合成>
2−ブロモ−3−メチルピリジン(21.5g)およびTHF(15ml)の入ったフラスコを氷浴で冷却し、この溶液に2MのイソプロピルマグネシウムクロリドTHF溶液(75ml)を滴下した。滴下終了後、還流温度まで徐々に昇温し、その温度で0.5時間撹拌した。再び氷浴で冷却し、塩化亜鉛テトラメチルエチレンジアミン(37.8g)を加え、1時間室温で撹拌した後、2,6−ジブロモピリジン(44.4g)およびPd(PPh(4.3g)を加え、還流温度で1時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、EDTA・4Na水溶液および酢酸エチルを加え分液した。溶媒を減圧留去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル=9/1(容量比))で精製し、6’−ブロモ−3−メチル−2,2’−ビピリジン(15.8g)を得た。
【0091】
<化合物(1−133)の合成>
4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.0g)、6’−ブロモ−3−メチル−2,2’−ビピリジン(1.2g)、Pd(PPh(0.1g)、リン酸三カリウム(1.7g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(20ml)、イソプロピルアルコール(5ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で14時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去して得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル)で精製した。この際、前記と同様に展開液中の酢酸エチルの比率を徐々に増加させて目的物を溶出させた。溶媒を一旦減圧留去した後、再度トルエンに溶解し、活性炭ショートカラムに通した。溶媒を減圧留去し、得られた固体をクロロベンゼンから再結晶して、式(1−133)で表される化合物:3−メチル−6’−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,2’−ビピリジン(1.1g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl):δ=8.59(m,1H), 8.35(t,2H), 8.07(d,1H), 8.02(d,1H), 7.98(d,1H), 7.93(t,2H),7.83(d,2H), 7.63−7.74(m,4H),7.58(d,1H), 7.49(t,1H), 7.46(d,2H),7.35(t,2H), 7.17−7.29(m,5H), 2.78(s,3H).
【0092】
[合成例5]化合物(1−145)の合成
<化合物(1−145)の合成>
4,4,5,5−テトラメチル−2−(3−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.0g)、5−ブロモ−6’−メチル−2,2’−ビピリジン(1.2g)、Pd(PPh(0.1g)、リン酸三カリウム(1.7g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(20ml)、イソプロピルアルコール(5ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去して得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル)で精製した。この際、展開液中の酢酸エチルの比率を徐々に増加させて目的物を溶出させた。溶媒を一旦減圧留去した後、再度トルエンに溶解し、活性炭ショートカラムに通した。溶媒を減圧留去し、得られた固体をトルエン/ヘプタン混合溶媒(容量比≒1/1)から再結晶して、式(1−145)で表される化合物:6’−メチル−5−(3−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,2’−ビピリジン(0.2g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl):δ=9.05(dd,1H), 8.50(m,1H), 8.23(m,1H), 8.06−8.14(m,2H), 8.02(d,1H), 7.68−7.91(m,7H), 7.57−7.66(m,2H), 7.45−7.54(m,3H), 7.36(t,2H), 7.16−7.27(m,5H), 2.65(s,3H).
【0093】
[合成例6]化合物(1−157)の合成
<化合物(1−157)の合成>
4,4,5,5−テトラメチル−2−(3−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル−)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.0g)、5’−ブロモ−3−メチル−2,2’−ビピリジン(1.2g)、Pd(PPh(0.1g)、リン酸三カリウム(1.7g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(20ml)、イソプロピルアルコール(5ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去して得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル)で精製した。この際、前記と同様に展開液中の酢酸エチルの比率を徐々に増加させて目的物を溶出させた。一旦減圧留去した後にトルエンに溶かし、活性炭ショートカラムに通した。溶媒を減圧留去し、酢酸エチル/ヘプタン混合溶媒で再沈殿させることで、式(1−157)で表される化合物:3−メチル−5’−(3−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,2’−ビピリジン(0.9g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl):δ=9.06(dd,1H), 8.56(m,1H), 8.13(m,1H), 8.08(d,1H), 8.03(d,1H), 7.75−7.95(m,6H), 7.71(t,1H), 7.58−7.67(m,3H), 7.45−7.52(m,3H), 7.37(m,2H), 7.17−7.27(m,5H), 2.68(s,3H).
【0094】
原料の化合物を適宜変更することにより、上述した合成例に準じた方法で、本発明の他の誘導体化合物を合成することができる。
【0095】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、本発明の化合物を用いた有機EL素子の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
実施例1および比較例1〜2に係る素子を作製し、それぞれ、定電流駆動試験における駆動開始電圧(V)、初期値の90%以上の輝度を保持する時間(hr)の測定を行った。以下、実施例および比較例について詳細に説明する。
【0097】
作製した実施例1および比較例1〜2に係る素子における、各層の材料構成を下記表1に示す。
【表1】
【0098】
表1において、HIはN,N4’−ジフェニル−N,N4’−ビス(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン、HTはN−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−9,9−ジメチル−N−(4−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)フェニル)−9H−フルオレン−2−アミン、化合物(A)は9−([1,2’−ビナフタレン]−6’−イル)−10−フェニルアントラセン、化合物(B)は7,7−ジメチル−N,N,N,N−テトラフェニル−7H−ベンゾ〔C〕フルオレン−5,9−ジアミン、化合物(C)は6−(4−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,4’−ビピリジン、化合物(D)は5−(3−(10−(ナフタレン−2−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2,2’−ビピリジンである。電子輸送層と陰極の中間に形成する層に用いた「Liq」と共に以下に化学構造を示す。
【0099】
【化44】
【0100】
[実施例1]化合物(1−2)を電子輸送層に用いた素子
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨した、26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置(昭和真空(株)製)の基板ホルダーに固定し、HIを入れたモリブデン製蒸着用ボート、HTを入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(A)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(B)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(1−2)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、Liqを入れたモリブデン製蒸着用ボート、マグネシウムを入れたモリブデンボート、および銀を入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0101】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10−4Paまで減圧し、まず、HIが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚40nmになるように蒸着して正孔注入層を形成し、次いで、HTが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚30nmになるように蒸着して正孔輸送層を形成した。次に、化合物(A)が入った蒸着用ボートと化合物(B)の入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚35nmになるように蒸着して発光層を形成した。化合物(A)と化合物(B)の重量比がおよそ95対5になるように蒸着速度を調節した。次に、化合物(1−2)の入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子輸送層を形成した。各層の蒸着速度は0.01〜1nm/秒であった。
【0102】
その後、Liqが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚1nmになるように0.01〜0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着した。次いで、マグネシウムの入ったボートと銀の入ったボートを同時に加熱して膜厚100nmになるように蒸着して陰極を形成し、有機電界発光素子を得た。この時、マグネシウムと銀の原子数比が10対1となるように、蒸着速度を0.1〜10nm/秒の間で調節した。
【0103】
ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加すると、波長約458nmの青色発光が得られた。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、駆動試験開始電圧は5.15Vで、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は137時間であった。
【0104】
[比較例1]
化合物(1−2)を化合物(C)に替えた以外は実施例1に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、駆動試験開始電圧は3.84Vで、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は26時間であった。
【0105】
[比較例2]
化合物(1−2)を化合物(D)に替えた以外は実施例1に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、駆動試験開始電圧は4.96Vで、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は86時間であった。
【0106】
以上の結果を表2にまとめた。
【表2】
【0107】
さらに実施例2〜4および比較例3に係る電界発光素子を作製し、それぞれ1000cd/m発光時の特性である電圧(V)および外部量子効率(%)を測定し、次に2000cd/mの輝度が得られる電流密度で定電流駆動した際に90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間を測定した。以下、実施例および比較例について詳細に説明する。
【0108】
なお、発光素子の量子効率には、内部量子効率と外部量子効率とがあるが、発光素子の発光層に電子(または正孔)として注入される外部エネルギーが純粋に光子に変換される割合を示したものが内部量子効率である。一方、この光子が発光素子の外部にまで放出された量に基づいて算出されるものが外部量子効率であり、発光層において発生した光子は、その一部が発光素子の内部で吸収されたりあるいは反射され続けたりして、発光素子の外部に放出されないため、外部量子効率は内部量子効率よりも低くなる。
【0109】
外部量子効率の測定方法は次の通りである。アドバンテスト社製電圧/電流発生器R6144を用いて、素子の輝度が1000cd/mになる電流を印加して素子を発光させた。TOPCON社製分光放射輝度計SR−3ARを用いて、発光面に対して垂直方向から可視光領域の分光放射輝度を測定した。発光面が完全拡散面であると仮定して、測定した各波長成分の分光放射輝度の値を波長エネルギーで割ってπを掛けた数値が各波長におけるフォトン数である。次いで、観測した全波長領域でフォトン数を積算し、素子から放出された全フォトン数とした。印加電流値を素電荷で割った数値を素子へ注入したキャリア数として、素子から放出された全フォトン数を素子へ注入したキャリア数で割った数値が外部量子効率である。
【0110】
作製した実施例2〜4および比較例3に係る素子における、各層の材料構成を下記表3に示す。
【表3】
【0111】
表3において、「HAT−CN」は、1,4,5,8,9,12−ヘキサアザ−トリフェニレン−2,3,6,7,10,11−ヘキサカルボニトリルであり、「NPB」は、N,N4’−ジナフタレン−1−イル−N,N4’−ジフェニル−ビフェニル−4,4’−ジアミンであり、「BH1」は、9−フェニル−10−(4−フェニル−ナフタレン−1−イル)−アントラセンであり、「BD1」は、7,7−ジメチル−N,N−ジフェニル−N,N−ビス−(4−トリメチルシラニル−フェニル)−7H−ベンゾ[c]フルオレン−5,9−ジアミンである。以下に化学構造を示す。
【0112】
【化45】
【0113】
[実施例2]
<化合物(1−85)を電子輸送材料に用いた素子>
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨した、26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、HIを入れたモリブデン製蒸着用ボート、HAT−CNを入れたモリブデン製蒸着用ボート、NPBを入れたモリブデン製蒸着用ボート、BH1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、BD1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、本願発明の化合物(1−85)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、Liqを入れたモリブデン製蒸着用ボート、マグネシウムを入れたモリブデンボート、および銀を入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0114】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10−4Paまで減圧し、まず、HIが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚60nmになるように蒸着し、さらにHAT−CNが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚10nmになるように蒸着することで2層からなる正孔注入層を形成し、次いで、NPBが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して正孔輸送層を形成した。次に、BH1が入った蒸着用ボートとBD1の入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚20nmになるように蒸着して発光層を形成した。BH1とBD1の重量比がおよそ95対5になるように蒸着速度を調節した。次に、化合物(1−85)の入った蒸着用ボートを加熱して膜厚30nmになるように蒸着して電子輸送層を形成した。各層の蒸着速度は0.01〜1nm/秒であった。
【0115】
その後、Liqが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚1nmになるように0.01〜0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着した。次いで、マグネシウムの入ったボートと銀の入ったボートを同時に加熱して膜厚100nmになるように蒸着して陰極を形成し、有機電界発光素子を得た。この時、マグネシウムと銀の原子数比が10対1となるように、蒸着速度を0.1〜10nm/秒の間で調節した。
【0116】
ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は5.0V、外部量子効率は5.1%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は113時間であった。
【0117】
[実施例3]
化合物(1−85)を化合物(1−133)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は3.7V、外部量子効率は5.5%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は90時間であった。
【0118】
[実施例4]
化合物(1−85)を化合物(1−157)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は4.3V、外部量子効率は4.7%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は55時間であった。
【0119】
[比較例3]
化合物(1−85)を化合物(D)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は4.6V、外部量子効率は4.2%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は40時間であった。
【0120】
下記表4は、上述した実施例2〜4および比較例3に係る電界発光素子の試験結果をまとめたものである。
【表4】
【0121】
さらに実施例5〜9および比較例4に係る電界発光素子を作製し、それぞれ1000cd/m発光時の特性である電圧(V)および外部量子効率(%)を測定し、次に2000cd/mの輝度が得られる電流密度で定電流駆動した際に90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間を測定した。以下、実施例および比較例について詳細に説明する。
【0122】
作製した実施例5〜9および比較例4に係る素子における、各層の材料構成を下記表5に示す。なお、電子輸送層は下記表で挙げられた化合物と8−キノリノールリチウム(Liq)との混合物で形成した。
【表5】
【0123】
[実施例5]
<化合物(1−85)を電子輸送材料に用いた素子>
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨した、26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、HIを入れたモリブデン製蒸着用ボート、HAT−CNを入れたモリブデン製蒸着用ボート、NPBを入れたモリブデン製蒸着用ボート、BH1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、BD1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、本願発明の化合物(1−85)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、Liqを入れたモリブデン製蒸着用ボート、マグネシウムを入れたモリブデンボートおよび銀を入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0124】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10−4Paまで減圧し、まず、HIが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚60nmになるように蒸着し、さらにHAT−CNが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚10nmになるように蒸着することで2層からなる正孔注入層を形成し、次いで、NPBが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して正孔輸送層を形成した。次に、BH1が入った蒸着用ボートとBD1の入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚20nmになるように蒸着して発光層を形成した。この時、BH1とBD1の重量比がおよそ95対5になるように蒸着速度を調節した。次に、化合物(1−85)の入った蒸着用ボートとLiqの入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚30nmになるように蒸着して電子輸送層を形成した。この時、化合物(1−85)とLiqの重量比がおよそ1対1になるように蒸着速度を調節した。各層の蒸着速度は0.01〜1nm/秒であった。
【0125】
その後、Liqが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚1nmになるように0.01〜0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着した。次いで、マグネシウムの入ったボートと銀の入ったボートを同時に加熱して膜厚100nmになるように蒸着して陰極を形成し、有機電界発光素子を得た。この時、マグネシウムと銀の原子数比が10対1となるように、蒸着速度を0.1〜10nm/秒の間で調節した。
【0126】
ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は3.5V、外部量子効率は4.2%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は80時間であった。
【0127】
[実施例6]
化合物(1−85)を化合物(1−97)に替えた以外は実施例5に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は3.4V、外部量子効率は4.1%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は113時間であった。
【0128】
[実施例7]
化合物(1−85)を化合物(1−133)に替えた以外は実施例5に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は3.5V、外部量子効率は5.7%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は111時間であった。
【0129】
[実施例8]
化合物(1−85)を化合物(1−145)に替えた以外は実施例5に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は3.6V、外部量子効率は4.0%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は125時間であった。
【0130】
[実施例9]
化合物(1−85)を化合物(1−157)に替えた以外は実施例5に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は3.5V、外部量子効率は4.2%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は160時間であった。
【0131】
[比較例4]
化合物(1−85)を化合物(C)に替えた以外は実施例5に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、マグネシウム/銀電極を陰極として、直流電圧を印加し、1000cd/m発光時の特性を測定すると、駆動電圧は3.4V、外部量子効率は3.4%であった。また、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施したところ、初期値の90%(1800cd/m)以上の輝度を保持する時間は45時間であった。
【0132】
下記表6は、上述した実施例5〜9および比較例4に係る電界発光素子の試験結果をまとめたものである。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の好ましい態様によれば、特に発光素子の寿命を向上させ、駆動電圧とのバランスも優れた有機電界発光素子、それを備えた表示装置およびそれを備えた照明装置などを提供することができる。