特許第6136604号(P6136604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136604ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法
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  • 特許6136604-ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136604
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20170522BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170522BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/525
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-121888(P2013-121888)
(22)【出願日】2013年6月10日
(65)【公開番号】特開2014-237573(P2014-237573A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2015年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 克也
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−270258(JP,A)
【文献】 特開2013−056827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式NiCo1−x(OH)で表されるリチウムイオン電池正極材料用ニッケルコバルト複合水酸化物(式中xは0.05〜0.95である)の製造方法であって、
ニッケル及びコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを、それぞれ連続的に反応槽に撹拌しながら供給して、前記反応槽中の25℃で測定したpHを12.2以上、12.8以下、且つ液中アンモニウムイオン濃度を30g/L以上、40g/L以下に保ちつつ晶析反応を起こさせてニッケルコバルト複合水酸化物粒子を生成させ、得られたニッケルコバルト複合水酸化物粒子と残部水溶液を、前記反応槽から連続的にオーバーフローさせて固液分離した後、水洗、乾燥することでニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得ることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ニッケル及びコバルトを含む水溶液が、硫酸塩または塩化物水溶液であることを特徴とする請求項1に記載のニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記アンモニウムイオン供給体が、アンモニア水、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池の正極活物質として用いられるLiNiCo1−x(0.90≦w≦1.10、0.05≦x≦0.95)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物の合成において、原材料として用いるニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩に伴い、電子機器の小型化、軽量化が急速に進んでいる。
特に、最近の携帯電話やノートパソコンなどのポータブル電子機器の普及と高機能化により、これらに使用されるポータブル用電源として、高いエネルギー密度を有し、小型で、かつ軽量な電池の開発が強く望まれている。
【0003】
その中で、非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池は、小型で高いエネルギーを有することから、ポータブル電子機器の電源としてすでに利用されている。また、かかる用途に限られず、リチウムイオン二次電池について、ハイブリッド自動車や電気自動車などの大型電源としての利用を目指した研究開発も進められている。
【0004】
このリチウムイオン二次電池の正極活物質には、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)が使用されているが、リチウムコバルト複合酸化物の原料には、希産で高価なコバルト化合物を用いるため、正極活物質のコストアップの原因となっている。この正極活物質のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を実現することは、現在普及しているポータブル電子機器の低コスト化や将来の大型電源へのリチウムイオン二次電池の搭載を可能とすることから、工業的に大きな意義を有しているといえる。
【0005】
そこで、リチウムイオン二次電池用の正極活物質に適用可能な正極材料として、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)や、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)を挙げることができる。
前者のリチウムマンガン複合酸化物は原料が安価である上、熱安定性、特に、発火などについての安全性に優れるため、リチウムコバルト複合酸化物の有力な代替材料である。しかしながら、その理論容量はリチウムコバルト複合酸化物のおよそ半分程度しかないため、年々高まるリチウムイオン二次電池の高容量化の要求に応えるのが難しいという欠点を持っている。さらに、電池温度が45℃以上になると自己放電が激しくなり、充放電寿命も低下するという欠点を有している。
【0006】
一方、後者のリチウムニッケル複合酸化物は、現在主流のリチウムコバルト複合酸化物と比べて、高容量であって、原料であるニッケルがコバルトと比べて安価で、かつ、安定して入手可能であるといった利点を有していることから、次世代の正極材料として期待され、リチウムニッケル複合酸化物について、活発に研究および開発が続けられている。
しかしながら、リチウムニッケル複合酸化物は、ニッケルを他の元素で置換せずに、純粋にニッケルのみで構成したリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いてリチウムイオン二次電池を作製した場合、リチウムコバルト複合酸化物に比べサイクル特性が劣るという問題点がある。リチウムニッケル複合酸化物は、その結晶構造がリチウムを脱離するに伴って六方晶から単斜晶、さらに再び六方晶へと変化していくが、この結晶構造の変化が可逆性に乏しく、充放電反応を繰り返すうちにリチウムを挿入・脱離できるサイトが徐々に失われてしまうことが原因と考えられている。
【0007】
この解決方法として、ニッケルの一部をコバルトで置換することが提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。コバルトによる置換は、リチウムの脱離に伴う結晶構造の相転移を抑制し、そのコバルト置換量が多くなるほど結晶相がより安定化してサイクル特性を改善するものと考えられる。
【0008】
このように、コバルトによる置換は結晶構造内のニッケルと置換することによる結晶相の安定化にその目的があるから、コバルトとニッケルは原子レベルで均一に混合されている必要がある。これを実現する正極活物質の原料としてニッケル源とコバルト源とを共沈で作製した水酸化物を用いる方法が有効である。例えば特許文献4にはニッケルコバルト共沈水酸化物の粒子形状、粒子径、比表面積、タップ密度、細孔の空間体積、細孔の占有率を制御することにより、サイクル劣化を防止すると共に、良好な充放電特性を有する電池を得ることができると報告されており、実際このような方法で一定の特性を得ることができている。
【0009】
しかしながら近年はポータブル機器の付加価値が大きくなるにしたがって電池に要求される性能は高まる一方であり、限られた体積の中に正極活物質をできるだけ多く詰め込み、より高いエネルギー密度を持つ電池が要求されるようになってきた。一方で、電極を作製した際に高いエネルギー密度を持つためには、正極活物質粒子自身の密度が大きい、即ち空隙が少なく高充填な正極活物質粒子を使用することが有効である。
【0010】
リチウムコバルト複合酸化物のように高い焼成温度で合成することによって一つ一つの粒子(一次粒子)を大きくすることができるものは充填密度を上げやすいが、リチウムニッケル複合酸化物は高温焼成では自己分解反応が起こるので焼成温度は850℃以下にする必要があり、一次粒子を大きくできず充填密度を上げにくい。そこで細かい一次粒子が多数集合して略球状の二次粒子を形成した活物質とすることで充填密度を維持することが行われる(例えば特許文献5参照)。
【0011】
ところが、リチウムニッケル複合酸化物の粉体特性は基本的に原料に用いるニッケルコバルト化合物の粉体特性に大きく影響される。つまり、空隙が少なく高充填密度なリチウムニッケル複合酸化物を得るためには、原料のニッケルコバルト化合物は空隙が少なく、高充填密度なものであることが極めて有効である。しかしながら前述したようなニッケル源とコバルト源とを共沈させて水酸化物を合成するこれまでの方法では、さらなる高充填性を実現するのが難しいという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63−114063号公報
【特許文献2】特開昭63−211565号公報
【特許文献3】特開平8−213015号公報
【特許文献4】特開平9−270258号公報
【特許文献5】特許3614670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、工業的な量産性を犠牲にすることなく空隙が少なく高い充填密度を有する非水系電解質二次電池正極材料をもたらすニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するためにリチウムイオン電池正極材料の原料用ニッケルコバルト複合水酸化物粒子について鋭意検討を重ねた結果、ニッケル及びコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを、それぞれ連続的に反応槽に撹拌しながら供給して反応させ、この反応槽からニッケルコバルト複合水酸化物粒子と水溶液を連続的にオーバーフローさせて、固液分離、水洗、乾燥することによって、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得るに際し、反応系内のpHとアンモニウムイオン濃度を制御することで、特異な結晶形状の一次粒子を析出せしめ、なおかつ一次粒子間の空隙を小さくすることが出来ることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明の第1の発明よれば、一般式NiCo1−x(OH)で表されるリチウムイオン電池正極材料用ニッケルコバルト複合水酸化物(式中xは0.05〜0.95である)の製造方法であって、ニッケル及びコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを、それぞれ連続的に反応槽に撹拌しながら供給して、反応槽中の25℃で測定したpHを12.2以上、12.8以下且つ液中アンモニウムイオン濃度を30g/L以上、40g/L以下に保ちつつ晶析反応を起こさせてニッケルコバルト複合水酸化物粒子を生成させ、得られたニッケルコバルト複合水酸化物粒子と残部水溶液を、反応槽から連続的にオーバーフローさせて固液分離した後、水洗、乾燥することでニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得ることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法である。
【0016】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるニッケル及びコバルトを含む水溶液が、硫酸塩または塩化物水溶液であることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法である。
【0017】
本発明の第3の発明は、第1〜第2の発明におけるアンモニウムイオン供給体が、アンモニア水、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムのいずれかであることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法である。
【0018】
本発明の第4の発明は、一般式NiCo1−x(OH)で表されるリチウムイオン電池正極材料用ニッケルコバルト複合水酸化物粒子(式中xは0.05〜0.95である)であって、そのニッケルコバルト複合水酸化物粒子の粒子断面の空隙率が8.1%以下であることを特徴とするニッケルコバルト複合水酸化物粒子である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、略球状で一次粒子間の空隙が少なく、錯形成剤やハロゲン等の混入が無い高充填密度なリチウムイオン電池正極材料として好適なニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得ることができ、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例で作製した複合水酸化物粒子における「反応槽内液温25℃における反応槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係」を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法を詳細に説明する。
本発明のニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法は、一般式NiCo1−x(OH)で表されるリチウムイオン電池正極材料用ニッケルコバルト複合水酸化物(式中xは0.05〜0.95である)の製造方法であって、ニッケル及びコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを、それぞれ連続的に反応槽に撹拌しながら供給して反応させ、この反応槽からニッケルコバルト複合水酸化物粒子と水溶液を連続的にオーバーフローさせて固液分離した後、水洗、乾燥することでニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得るもので、その反応槽中の25℃で測定したpHを12.2以上、且つ液中アンモニウムイオン濃度を30g/L以上、40g/L以下に保ちつつ晶析反応を行わせることを特徴とするものである。
【0022】
この製造方法によって、略球状で一次粒子間の空隙が少なく、高充填密度なリチウムイオン電池正極材料として好適なニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得ることができる。
上記一般式において、ニッケルとコバルトの割合を示すxは0.05〜0.95であり、0.1〜0.9がより好ましい。すなわち、xが0.05未満ではコバルトの割合が多いため原料コストが増加するため好ましくない。一方、xが0.95を超えると、熱安定性や充放電サイクル特性が悪化するため、好ましくない。
【0023】
本発明の製造方法において、ニッケル及びコバルトを含む水溶液は、ニッケル及びコバルトの供給源である。また、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、錯形成剤として、生成するニッケル−コバルト水酸化物粒子の粒径と形状を制御する役割を担うもので、しかもアンモニウムイオンは生成するニッケル−コバルト水酸化物粒子内に取り込まれないので、不純物の無いニッケル−コバルト水酸化物粒子を得るために好ましい錯形成剤である。また、苛性アルカリ水溶液は中和反応のpH調整剤である。
【0024】
使用する反応槽の仕様及びそれぞれの溶液の供給量の調整方法は特に限定されるものではないが、反応槽には撹拌機、オーバーフロー口、及び温度制御手段が備えられ、ニッケル及びコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を定量的に連続供給しつつ、そこに添加量を調整した苛性アルカリ水溶液を供給することによって、反応槽内の反応液を所定のpHに保持しながら連続晶析反応を行って複合水酸化物粒子を生成し、その生成された複合水酸化物粒子がオーバーフロー口を経て連続排出される方法が好ましい。
【0025】
このような連続晶析反応において、得られる水酸化物の粒度分布や結晶構造の制御は、反応時の反応液のpH(以下、反応pHとする)をコントロールすることが一般的である。
連続晶析反応では、供給されたニッケル及びコバルト水溶液に含まれるニッケル濃度及びコバルト濃度が、反応系内のニッケルの溶解度及びコバルトの溶解度を上回った場合、ニッケルの溶解度、コバルトの溶解度を上回った量のニッケル及びコバルトが析出することで目的とするニッケルコバルト化合物を得ることが出来る。また、供給された水溶液のニッケル、コバルト濃度に対する、反応系内のニッケル、コバルトの溶解度の差の大小が結晶核の生成速度、容積あたりの発生密度、生成した結晶核の成長速度、結晶形状などを左右するため、反応系内のニッケル及びコバルトの溶解度を変えることで、様々な結晶形状、粉体物性を持ったニッケルコバルト化合物を得ることが可能である。
【0026】
しかし、単にニッケル及びコバルト水溶液を溶解度の低い反応系内に注入すると、その反応pHでの溶解度とニッケル及びコバルト水溶液中のイオン濃度の差が大きいために、微細な水酸化物粒子が一気に析出し、不定型な水酸化物溶液が得られるに留まる。
そこで、ニッケル及びコバルトと溶解度の大きい錯イオンを形成する化合物を共存させ、溶解度と水溶液中のイオン濃度の差を小さくすることが有効である。例えばアンモニアを同時に系内に投入すると、アンモニアはニッケルイオン及びコバルトイオンとアンモニウム錯イオンを形成し、同じpHでの溶解度を大きくして、水酸化物の析出を緩やかに行わせ、かつ、析出−再溶解の過程を繰り返すことで、粒子は球状に成長することが出来る。また、アンモニウムイオンの存在量によって析出する水酸化物の結晶形状が代わり、二次粒子を構成した際の充填性も変化する。
【0027】
反応槽の反応pHは25℃で測定した時に12.2以上である。
この反応pHが低いとニッケル及びコバルトの溶解度が高くなりすぎ、投入したニッケル及びコバルトが析出せずに反応ろ液中に残存する割合が大きくなるため製品収率を低下させる。またニッケル及びコバルトの溶解度が高すぎると水酸化物粒子が大きな結晶として析出するため、その凝集体である二次粒子の密度が小さく、言い換えると空隙率が大きくなり緻密な二次粒子が生成しにくくなる。
【0028】
一方、反応pHが高くなっても、ニッケル及びコバルトの溶解度はほとんど変化しなくなるため、無駄にアルカリを投入することになり製品コストの面で好ましくない。また、ニッケル及びコバルトの溶解度が低すぎると、微細な水酸化物粒子が一気に析出するため不定型な水酸化物粒子が形成される危険が大きくなる。そのため、反応pHとしては、25℃で測定した時の値が12.2以上、12.8以下の範囲が好ましい。
【0029】
用いるニッケル及びコバルトを含む水溶液としては特に限定されるものではないが、硫酸塩水溶液又は塩化物水溶液であることが好ましく、ハロゲンによる汚染の無い硫酸塩水溶液がより好ましい。
【0030】
用いるアンモニウムイオン供給体を含む水溶液としては特に限定されるものではないが、アンモニア水、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムが好ましく、ハロゲンによる汚染の無いアンモニア水、硫酸アンモニウムがより好ましい。
このアンモニウムイオン濃度は、反応pHと共にニッケル及びコバルト溶解度を決める因子であるが、アンモニウムイオン濃度が高いほど、ニッケル及びコバルトとのアンミン錯体形成が進みやすくなるためニッケル及びコバルト溶解度を大きくすることが出来る。
反応pHを12.2以上とした時のアンモニウムイオン濃度は30g/L以上、40g/L以下が好ましい。30g/L以下ではニッケル及びコバルト溶解度が低いため、微細な水酸化物粒子が一気に析出するため不定型な水酸化物粒子が形成される危険が大きくなる。また、40g/Lを超えるとニッケル及びコバルトの溶解度が高すぎるため水酸化物粒子が大きな結晶として析出して、その凝集体である二次粒子の密度が小さく、言い換えると空隙率が大きくなり、緻密な二次粒子が生成しにくくなる。
【0031】
目標とする水酸化物の粒径は、目標とする製品リチウムニッケルコバルト複合酸化物の粒径に併せて定められるが、一般にニッケル及びコバルト溶解度が高い条件で晶析反応を行わせると水酸化物の粒径は大きくなり、逆にニッケル及びコバルト溶解度が低い条件で晶析反応を行わせると水酸化物の粒径は小さくなる。
そこで、目標とする粒径の水酸化物を得るためには反応pH、アンモニウムイオン濃度と共に攪拌強度や反応温度、攪拌翼形状などを制御する必要があるが、反応pH、アンモニウムイオン濃度以外の制御因子は粒子の空隙率に対する影響が小さいため、反応pH及びアンモニウムイオン濃度により空隙率を制御し、その他の制御因子で粒径を制御することも出来る。
【0032】
以上の製造方法によって、錯形成剤やハロゲン等の混入が無い、リチウムイオン電池正極材料の原料として好適な組成を有する空隙の少ない、高密度の略球状のニッケル−コバルト水酸化物粒子が得られる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0034】
実施例及び比較例で得られたニッケル−コバルト水酸化物粒子の評価方法は、以下の通りである。
(1)金属成分の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)アンモニウムイオン濃度の分析:JIS標準による蒸留法によって測定した。
(3)平均粒径の測定:レーザー回折式粒度分布計(商品名:マイクロトラック、日機装株式会社製)を用いて行った。
(4)形態の観察:走査型電子顕微鏡を用いて、形状と外観の観察を行った。
(5)粒子内の空隙率の測定:クロスセクションポリッシャ加工により露出させた粒子断面のSEM撮影を行い、撮影画像の二値化処理を行い、空隙部と一次粒子部の面積割合を求めた。
【実施例1】
【0035】
邪魔板を4枚取り付けた槽容積34Lのオーバーフロー式晶析反応槽に、25重量%アンモニア水を3900mlと工業用水を混合して32Lとして恒温槽及び加温ジャケットにて50℃に加温し、24%苛性ソーダ溶液を添加して、槽内pHを25℃における値としてpH12.2を保つように制御した。実際にはpH管理を正確に行うため、槽内液を採取し25℃に冷却してpHを測定し、25℃でのpHが12.2〜12.3になるように40℃でのpHを調整した。
【0036】
晶析反応は、50℃に保持した反応槽内を攪拌しつつ、定量ポンプを用いて、Niモル濃度1.69mol/L、Coモル濃度0.31mol/Lの硫酸ニッケル・硫酸コバルト複合溶液(以下、原料溶液)を30ml/minで供給し、併せて25重量%アンモニア水を7.5ml/minで供給しつつ、24%苛性ソーダ溶液を断続的に添加し、25℃でのpHが12.2になるように制御して行った。
この際の攪拌は、直径10cmの3枚羽根プロペラ翼(傾斜角30度)を用いて800rpmで攪拌して行った。原料溶液の反応系内への添加方法としては、液中に注入ノズルを差込み、原料溶液が反応系内に直接注入されるようにして行った。
次に、生成した水酸化ニッケルをオーバーフローにて連続的に取り出し、これを適宜固液分離、水洗、乾燥して粉末状のニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
【0037】
[評価]
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物のクロスセクションポリッシャ加工により露出させた粒子断面をSEMにて観察し、画像処理して空隙率を求めた。視野内10個の粒子の空隙率の平均値は8.1%であった。
表1にその結果を示す。
また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例2】
【0038】
25重量%アンモニア水を5100ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を10.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は7.2%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例3】
【0039】
24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを12.4になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は6.8%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例4】
【0040】
25重量%アンモニア水を5100ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を10.0ml/min、24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを12.4になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は5.3%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例5】
【0041】
24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを12.6になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は5.8%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例6】
【0042】
25重量%アンモニア水を5100ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を10.0ml/min、24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを12.6になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は4.9%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例7】
【0043】
24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを12.8になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は5.5%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例8】
【0044】
25重量%アンモニア水を5100ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を10.0ml/min、24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを12.8になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は4.6%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例9】
【0045】
24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを13.0になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は5.6%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【実施例10】
【0046】
25重量%アンモニア水を5100ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を10.0ml/min、24%苛性ソーダ溶液の添加量を調整し、25℃での槽内pHを13.0になるように制御した以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は5.2%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0047】
(比較例1)
25℃における槽内pHを11.8に制御し、25重量%アンモニア水を1300ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を2.5ml/minとした以外は実施例1と同様にして、ニッケルコバルト複合水酸化物を作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出されたニッケルコバルト複合水酸化物の空隙率は18.4%であった。
表1にその結果を示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0048】
(比較例2)
25重量%アンモニア水投入量を2600ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を5.0ml/minとした以外は比較例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0049】
(比較例3)
25重量%アンモニア水投入量を3900ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を7.5ml/minとした以外は比較例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0050】
(比較例4)
25重量%アンモニア水投入量を5200ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を10.0ml/minとした以外は比較例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0051】
(比較例5)
25℃における槽内pHを12.0に制御し、25重量%アンモニア水投入量を2600ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を5.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0052】
(比較例6)
25℃における槽内pHを12.0に制御し、25重量%アンモニア水投入量を3900ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を7.5ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0053】
(比較例7)
25℃における槽内pHを12.0に制御し、25重量%アンモニア水投入量を5100ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を10.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0054】
(比較例8)
25℃における槽内pHを12.2に制御し、25重量%アンモニア水投入量を2600ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を5.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0055】
(比較例9)
25℃における槽内pHを12.4に制御し、25重量%アンモニア水投入量を2600ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を5.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0056】
(比較例10)
25℃における槽内pHを12.6に制御し、25重量%アンモニア水投入量を2600ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を5.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0057】
(比較例11)
25℃における槽内pHを12.8に制御し、25重量%アンモニア水投入量を6400ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を5.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0058】
(比較例12)
25℃における槽内pHを13.0に制御し、25重量%アンモニア水投入量を6400ml、反応中の25重量%アンモニア水供給量を5.0ml/minとした以外は実施例1と同様にして、水酸化ニッケルを作製した。
反応開始から48〜72時間にかけて取り出された水酸化ニッケルの空隙率を表1に示す。また、25℃における槽内pH、液中アンモニウム濃度と粒子断面の空隙率の関係を図1に示す。
【0059】
上記の結果から、粒子断面の空隙率が10%以下の水酸化ニッケルを得るためには、反応槽中の25℃で測定したpHを12.2以上かつ、液中アンモニウムイオン濃度を30g/L以上、40g/L以下に保ちつつ晶析反応を行わせる必要があることがわかった。
【0060】
【表1】
図1