特許第6136661号(P6136661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136661
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】近赤外線カットフィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   G02B5/28
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-138996(P2013-138996)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-11319(P2015-11319A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舘村 満幸
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−301489(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/015303(WO,A1)
【文献】 特開2007−183525(JP,A)
【文献】 特開2003−029027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板の第1,第2の主面にそれぞれ設けられた第1,第2の光学多層膜とを備え、
前記第1,第2の光学多層膜は、それぞれ、
波長500nmにおける屈折率が2.0以上である高屈折率膜と、波長500nmにおける屈折率が1.6未満である低屈折率膜とを備え、前記高屈折率膜をH、前記低屈折率膜をLとしたとき、(HL)^n(nは1以上の自然数)の繰り返しで表される繰り返し積層構造を有し、
0°入射条件での分光特性で、400〜700nmの波長範囲において平均透過率が85%以上となる透過帯と、900〜1200nmの波長範囲において平均透過率が30%以下の領域の幅が100〜280nmである阻止帯とを有し、
入射光の角度の変動に伴い発生する透過率が局所的に低下する箇所の極小値を示す波長が前記第1の光学多層膜による透過帯と前記第2の光学多層膜による透過帯とで互いに異なり、
前記透過率が局所的に低下する箇所の極小値を示す波長が前記第1の光学多層膜による透過帯と前記第2の光学多層膜による透過帯とで互いに25nm以上100nm未満離れていることを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
【請求項2】
前記nの値は、3以上20以下であることを特徴とする請求項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項3】
前記透明基板は、近赤外波長域に吸収を有する光学特性を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項4】
前記第1,第2の光学多層膜は、0°〜45°入射条件での分光特性で400〜700nmの波長範囲内に透過率が局所的に15%以上低下する箇所が存在しないことを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線カットフィルタに関し、特に、透明基板上に形成された光学多層膜を有する近赤外線カットフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやデジタルビデオ等には、Charge Coupled Device(CCD)イメージセンサやComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)イメージセンサ等(以下、固体撮像素子と称する)が使用される。しかしながら、これら固体撮像素子の分光特性は、人間の視感度特性に比べて赤外光に強い感度を有する。そこで、デジタルカメラやデジタルビデオ等では、近赤外線カットフィルタによる分光補正を行っている。
【0003】
近赤外線カットフィルタとしては、例えば、Cu2+イオンを着色成分として含有するフツリン酸系ガラス等の近赤外線吸収タイプの色ガラスフィルタが使用されてきた。しかしながら、色ガラスフィルタ単体では、近赤外域及び紫外域の光を十分にカットすることができないことから、現在では、近赤外線をカットできる特性を有する光学多層膜が併用されている。
【0004】
光学多層膜には、固体撮像素子が必要とする400〜700nmにおける透過帯において、局所的に透過率が落ち込む現象(以降、リップルと記載することがある)が生じないことが求められる。光学多層膜において、リップルを抑制する技術が従来から提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4672101号公報
【特許文献2】特開2008−139693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光学多層膜には、特定角度で入射する光のリップルを抑制できたとしても、光の入射角度が変化するとその変化に伴ってリップルが発生することがある。特許文献1〜2に記載の技術は、特定角度で入射する光のリップルの抑制には対応できるものの、光の入射角度が変化することに起因して発生するリップルに対しては全く考慮されていない。
【0007】
このような状況において、近年では、デジタルカメラやデジタルビデオ等がさらに小型化、薄型化しており、デジタルカメラやデジタルビデオ等のレンズの広角化が進んでいる。このため、例えば、従来では、固体撮像素子への光の入射角度が30°以下の場合への対応が求められていたのに対し、近年では、30°を超える入射角への対応を強く求められるようになってきている。
【0008】
上述したリップルは、光の入射角度が傾斜するに従い、透過率の落ち込み量も大きくなる。特許文献1〜2に開示される提案では、入射角度変化に伴うリップルの抑制について考慮がなされていないことから、固体撮像素子への光の入射角度が30°以下であれば、リップルが極端に大きくなることはないが、30°を超えるような入射角度になると撮像画像に悪影響を及ぼす程度のリップルが発生するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、リップルが抑制された近赤外線カットフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る近赤外線カットフィルタは、透明基板と、前記透明基板の第1,第2の主面にそれぞれ設けられた第1,第2の光学多層膜とを備え、前記第1,第2の光学多層膜は、それぞれ、波長500nmにおける屈折率が2.0以上である高屈折率膜と、波長500nmにおける屈折率が1.6未満である低屈折率膜とを備え、前記高屈折率膜をH、前記低屈折率膜をLとしたとき、(HL)^n(nは1以上の自然数)の繰り返しで表される繰り返し積層構造を有し、0°入射条件(光学多層膜12の主面に対して光が垂直(0°)に入射する条件)での分光特性で、400〜700nmの波長範囲において平均透過率が85%以上となる透過帯と、900〜1200nmの波長範囲において平均透過率が30%以下の領域の幅が100〜280nmである阻止帯とを有し、入射光の角度の変動に伴い発生する透過率が局所的に低下する箇所の極小値を示す波長が前記第1の光学多層膜による透過帯と前記第2の光学多層膜による透過帯とで互いに異なり、前記透過率が局所的に低下する箇所の極小値を示す波長が前記第1の光学多層膜による透過帯と前記第2の光学多層膜による透過帯とで互いに25nm以上100nm未満離れていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1の光学多層膜および第2の光学多層膜に起因する400〜700nmの波長範囲におけるリップルを分散する。このため、リップルが抑制された近赤外線カットフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係る近赤外線カットフィルタの断面図である。
図2】第1の実施形態に係る第1,第2の光学多層膜の断面図である。
図3】比較例1に係るIRCFの分光特性である。
図4】比較例2係るIRCFの分光特性である。
図5】実施例1係るIRCFの分光特性である。
図6】実施例2に係るRCFの分光特性である。
図7】比較例3に係るIRCFの分光特性である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る近赤外線カットフィルタ100(以下、IRCF100)の断面図である。図2は、第1,第2の光学多層膜12A,12Bの断面図である。以下、図1及び図2を参照してIRCF100の構成について説明する。
【0014】
図1に示すようにIRCF100は、透明基板11と、透明基板11に設けられた光学多層膜12とを備える。光学多層膜12は、透明基板11の表面(第1の主面)に設けられた第1の光学多層膜12Aと、透明基板11の裏面(第2の主面)に設けられた第2の光学多層膜12Bと、第1の光学多層膜12Aの表面に設けられた第3の光学多層膜12Cと、第2の光学多層膜12Bの表面に設けられた第4の光学多層膜12Dとから構成される。
【0015】
(透明基板11)
透明基板11の材料は、少なくとも可視波長域の光を透過できるものであれば特に限定されない。透明基板11の材料として、例えば、ガラス、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
【0016】
透明基板11としては、特に、近赤外波長域の光を吸収するものが好ましい。近赤外波長域の光を吸収する透明基板11を用いることで、人間の視感度特性に近い画質を得ることができるためである。なお、近赤外波長域の光を吸収する透明基板11としては、例えば、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラスにCu2+(イオン)が添加された吸収型ガラスが挙げられる。また、樹脂材料中に近赤外線を吸収する吸収剤を添加したものを使用してもよい。吸収剤としては、例えば、染料、顔料、金属錯体系化合物が挙げられ、具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物が挙げられる。
【0017】
(光学多層膜12A,12B)
図2は、第1,第2の光学多層膜12A,12Bの断面図である。光学多層膜12A,12Bは、透明基板11の表面(第1の主面)及び裏面(第2の主面)にそれぞれ設けられた第1,第2のSWPF(Short Wide Pass Filter)であり、それぞれ、波長500nmにおける屈折率が2.0以上の高屈折率膜をH、波長500nmにおける屈折率が1.6未満の低屈折率膜をLとしたときに、以下の(1)式で表される構造を有する。
(HL)^n(nは、1以上の自然数)・・・(1)
【0018】
なお、nの値は、3以上20以下であることが好ましい。光学多層膜において、高屈折率膜Hと低屈折率膜Lとの繰り返し(HL)が多いほど、所定の波長範囲における透過率を低くすることができる。第1,第2の光学多層膜12A,12Bの前記nの値を3以上とすることで、両者の分光特性を重ね合わせることで900〜1200nmの波長範囲において平均透過率が10%以下の透過率を得ることができる。また、第1,第2の光学多層膜12A,12Bの前記nの値を20以下とすることで、少ない膜層数で前記分光特性を得ることができ、生産性がよく低コストで近赤外線カットフィルタを製作することができる。
【0019】
第1,第2の光学多層膜12A,12Bは、それぞれ、0°入射条件での分光特性で、400〜700nmの波長範囲において平均透過率が85%以上となる透過帯と、900〜1200nmの波長範囲において平均透過率が30%以下の領域の幅が100〜280nmである阻止帯とを有する。
【0020】
前記透過帯における400〜700nmの波長範囲の平均透過率が85%未満であると、近赤外線カットフィルタを固体撮像素子に用いる際に、撮像画像が暗くなるなどの不具合が生じるおそれがある。前記400〜700nmの波長範囲における平均透過率は、87%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0021】
前記阻止帯における900〜1200nmの波長範囲の平均透過率が30%を超えると、近赤外線カットフィルタを固体撮像素子に用いる際に、撮像画像の色調に不具合が生じるおそれがある。前記900〜1200nmの波長範囲における平均透過率は、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0022】
前記阻止帯における900〜1200nmの波長範囲の平均透過率が30%の領域の幅が、100nm未満であると、阻止帯を構成するための別の光学多層膜を設ける必要が生じ、近赤外線カットフィルタを製作する際のコストが高くなるおそれがある。また、前記幅が280nmを超えると、阻止帯の幅が非常に広いため光学多層膜の設計が複雑となるおそれがある。
【0023】
(第3の光学多層膜12C)
第3の光学多層膜12Cは、紫外光(UV)をカットするUVカットフィルタである。第3の光学多層膜12Cは、0°入射条件での分光特性で、400nm未満の波長範囲の紫外線を所定の波長幅と透過率でカットするものであれば、どのような膜構成のものであってもよい。第3の光学多層膜12Cは、例えば、波長500nmにおける屈折率が2.0以上の高屈折率膜Hと、波長500nmにおける屈折率が1.6未満の低屈折率膜Lとが積層された構造を有する。なお、本発明において、第3の光学多層膜12Cは任意の構成である。
【0024】
なお、第3の光学多層膜12Cは、透明基板11と第1の光学多層膜12Aとの間に設けてもよく、第2の光学多層膜12Bの表面(透明基板11との間)又は裏面に設けてもよい。その他、分光特性を調整する調整層を設けるようにしてもよい。
【0025】
(第4の光学多層膜12D)
第4の光学多層膜12Dは、0°入射条件での分光特性で、400〜700nmの波長範囲において平均透過率が85%以上となる透過帯と、透過帯の近赤外側に、750〜950nmの波長範囲において平均透過率が10%以下の領域の幅が100〜200nmである阻止帯とを有するものである。つまり、第1,第2の光学多層膜12A,12Bは、900〜1200nmの波長範囲において阻止帯を形成するのに対し、第4の光学多層膜12Dは、750〜950nmの波長範囲において阻止帯を形成する。そのため、第1,第2の光学多層膜12A,12Bおよび第4の光学多層膜12Dを用いることで、750〜1200nmの波長範囲において平均透過率が10%以下の阻止帯を形成できる。
【0026】
第4の光学多層膜12Dは、どのような膜構成のものであってもよい。第4の光学多層膜12Dは、例えば、波長500nmにおける屈折率が2.0以上の高屈折率膜Hと、波長500nmにおける屈折率が1.6未満の低屈折率膜Lとが積層された構造を有する。なお、本発明において、第4の光学多層膜12Dは任意の構成である。
【0027】
なお、第4の光学多層膜12Dは、透明基板11と第2の光学多層膜12Bとの間に設けてもよく、第1の光学多層膜12Aの表面(透明基板11との間)又は裏面に設けてもよい。その他、分光特性を調整する調整層を設けるようにしてもよい。また、第4の光学多層膜12Dは、透明基板11の一方の主面のみに設けてもよく、透明基板11の第1,第2の主面のそれぞれに分割して設けてもよい。
【0028】
第1〜第4の光学多層膜12A〜12Dの高屈折率膜Hとしては、波長500nmにおいて、屈折率が2.0以上となる材料からなるものであれば特に限定されない。このような高屈折率の材料としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ニオブ(Nb)、またはこれらの複合酸化物からなるものが好適に挙げられる。また、屈折率が2.0以上であれば、添加物を含有していても構わない。なお、屈折率が高いほうが、斜入射時の波長シフト量抑制、阻止帯の拡張等に有利である。
【0029】
第1〜第4の光学多層膜12A〜12Dの低屈折率膜Lとしては、波長500nmにおいて、屈折率が1.6未満となる材料からなるものであれば特に限定されない。このような低屈折率の材料としては、例えば、酸化珪素(SiO)が好適に挙げられる。また、屈折率が1.6未満であれば、添加物を含有していても構わない。
【0030】
高屈折率膜H、低屈折率膜Lは、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法により形成することができるが、特に、スパッタリング法、真空蒸着法により形成することが好ましい。透過帯は、CCD、CMOS等の固体撮像素子の受光に利用される波長帯域であり、その膜厚精度が重要となる。スパッタリング法、真空蒸着法は、薄膜を形成する際の膜厚制御に優れる。このため、高屈折率膜H、低屈折率膜Lの膜厚の精度を高めることができる。
【0031】
なお、IRCF100に、透明基板11と透明基板11に接する光学多層膜との密着性を高めるための付着力強化層、最表面層(空気側)での帯電防止層などをさらに設けるようにしてもよい。
【0032】
(第1の光学多層膜12A,第2の光学多層膜12Bの分光特性)
光学多層膜を用いた近赤外線カットフィルタにおいて、入射光の角度の変動に伴い400〜700nmの波長範囲に透過率が局所的に低下する箇所(リップル)が発生するのは、900〜1200nmに阻止帯を形成するための光学多層膜(以下、光学多層膜900−1200と記載する)に起因する。なお、750〜950nmに阻止帯を形成するための光学多層膜は、400nm未満の波長範囲に入射光の角度の変動に伴い透過率が局所的に低下する箇所を発生させる。
【0033】
前述のとおり、光学多層膜900−1200を透明基板11の一方の主面のみに形成した場合、入射光の角度の変動に伴い400〜700nmの波長範囲に透過率が局所的に低下する箇所が発生する。そこで、光学多層膜900−1200の膜構成を半分に分け、透明基板11の第1,第2の主面のそれぞれに形成しても、形成した光学多層膜に起因するリップルの大きさや位置(波長)は透明基板11の一方の主面のみに形成した場合と比べて大きくは変わらない。2つに分けた光学多層膜900−1200を検証すると、それぞれの光学多層膜に起因するリップルの大きさは膜構成が半分となることで小さくなるが、リップルの位置(波長)は変わらない。そのため、透明基板11の第1,第2の主面のそれぞれに分けた光学多層膜の両者からなる分光特性は、一方の主面のみに光学多層膜900−1200を形成した場合と大きく相違しないと考えられる。
【0034】
以上より、光学多層膜900−1200の膜構成を半分に分け、透明基板11の第1,第2の主面のそれぞれに形成する際、それぞれの光学多層膜に起因するリップルの位置(波長)をずらす。これにより、透明基板11の第1,第2の主面の光学多層膜の両者からなる分光特性において、入射光の角度の変動に伴う400〜700nmの波長範囲におけるリップルの大きさを抑制することができる。
【0035】
それぞれの光学多層膜(第1の光学多層膜12A、第2の光学多層膜12B)に起因するリップルの位置(波長)をずらす方法としては、透明基板11の一方の主面のみに形成する目的で設計された光学多層膜900−1200の膜構成を半分に分けた上、一方の光学多層膜(例えば、第1の主面に設ける第1の光学多層膜12A)に全ての膜の物理膜厚を一律割合で増減する方法がある。また、900〜1200nmの波長範囲において平均透過率が30%以下の領域の幅が100〜280nmである阻止帯を相違する膜構成や膜物質でそれぞれの光学多層膜を構成することで、それぞれの光学多層膜に起因するリップルの位置(波長)をずらすことができる。
【0036】
入射光の角度の変動に伴う400〜700nmの波長範囲におけるリップルの極小値を示す波長は、第1の光学多層膜12Aの透過帯と第2の光学多層膜12Bの透過帯とで、互いに25nm以上離れていることが好ましい。前記リップルの極小値を示す波長が、互いに25nm未満であると、それぞれの光学多層膜に起因するリップルがひとつにまとまって、大きなリップルとなるおそれがある。前記リップルの極小値を示す波長は、互いに28nm以上離れていることが好ましく、30nm以上離れていることがより好ましく、33nm以上離れていることが更に好ましい。
【0037】
また、前記リップルの極小値を示す波長は、互いに100nm以上離れていると、900〜1200nmの波長範囲における第1の光学多層膜12Aの阻止帯と第2の光学多層膜12Bの阻止帯とが大きく相違し、平均透過率を低くできないおそれがある。前記リップルの極小値を示す波長は、互いに100nm未満離れていることが好ましく、80nm未満離れていることがより好ましく、60nm未満離れていることが更に好ましい。
【0038】
第1の光学多層膜12A,第2の光学多層膜12Bの個別の分光特性は、0°〜45°の入射光の角度の変動において、400〜700nmの波長範囲内に透過率が局所的に15%以上低下する箇所が存在しないことが好ましい。このようにすることで、第1の光学多層膜12Aおよび第2の光学多層膜12Bを備える近赤外線カットフィルタは、400〜700nmの波長範囲内に発生するリップルの大きさが小さく、固体撮像素子用途において好適な分光特性を備えることができる。前記第1の光学多層膜12A,第2の光学多層膜12Bのそれぞれの分光特性は、0°〜45°の入射光の角度の変動において、400〜700nmの波長範囲内に透過率が局所的に13%以上低下する箇所が存在しないことがより好ましく、10%以上低下する箇所が存在しないことが更に好ましい。
【0039】
第1の光学多層膜12A,第2の光学多層膜12Bのそれぞれの分光特性における阻止帯は、900〜1200nmの波長範囲において平均透過率が30%以下の領域の幅が100〜280nmというものである。そのため、一方の光学多層膜のみでは、阻止帯の透過率が十分に低くならず、固体撮像素子用途で求められる阻止帯を形成できないおそれがある。しかしながら、第1の光学多層膜12Aおよび第2の光学多層膜12Bの両者を用いることで、900〜1200nmの波長範囲において平均透過率を低くすることができ、よって固体撮像素子用途において好適な分光特性を備えることができる。
【0040】
(第4の光学多層膜12Dの分光特性)
第4の光学多層膜12Dは、前述したとおり、400〜700nmの波長範囲において平均透過率が85%以上となる透過帯と、750〜950nmの波長範囲において平均透過率が10%以下の領域の幅が100〜200nmである阻止帯とを有するものである。固体撮像素子用途の近赤外線カットフィルタは、700〜750nm付近の波長範囲の透過率が急峻に小さくなることが求められる。そのような用途の場合は、透明基板11の一方の主面のみに第4の光学多層膜12Dを設けることが好ましい。他方、前述のように、700〜750nm付近の波長範囲の透過率が急峻に小さくなる必要がない場合は、第4の光学多層膜12Dを第1,第2の主面のそれぞれに分割して設けてもよい。
【0041】
(第3の光学多層膜12Cの分光特性)
第3の光学多層膜12Cは、400nm未満の波長範囲の紫外線をカットするものである。前述のとおり、第4の光学多層膜12Dは、750〜950nmに阻止帯を有するため、400nm未満の波長範囲に入射光の角度の変動に伴い透過率が局所的に低下する箇所を発生させる。そのため、第3の光学多層膜12Cを設けることにより、第4の光学多層膜12Dに起因するリップルを抑制することができる。
【0042】
(光学多層膜12の分光特性)
次に、光学多層膜12A〜12Dから構成される固体撮像素子用途に用いられる光学多層膜12全体の好ましい分光特性について説明する。
【0043】
光学多層膜12は、0°入射条件(光学多層膜12の主面に対して光が垂直(0°)に入射する条件)において、400〜700nmの波長範囲において平均透過率が85%以上となる透過帯と、該透過帯の近赤外側に阻止帯を有する。阻止帯は、750〜1200nmの波長範囲において平均透過率が10%以下の領域の幅が100〜280nmとなっている。また、光学多層膜12の透過帯の紫外側の半値波長と近赤外側の半値波長との差は200nm以上となっている。さらに、0°入射条件と30°入射条件(光学多層膜12の主面に対して光が垂直から30°傾いた状態で入射する条件)とにおける光学多層膜12の透過帯の半値波長の差は、紫外側で10nm未満、近赤外側で22nm未満となっている。
【0044】
なお、光学多層膜12は、0°入射条件での分光特性において、さらに以下の要件を満たすことが好ましい。具体的には、光学多層膜12の透過帯の紫外側の半値波長と近赤外側の半値波長との差は350nm以下が好ましく、300nm以下が更に好ましい。また、紫外側の半値波長は390〜430nmの範囲にあることが好ましく、近赤外側の半値波長は640〜720nmの範囲にあることが好ましい。さらに、紫外側の阻止帯の幅は30nm以上、近赤外側の阻止帯の幅は200nm以上であることが好ましい。
【0045】
ここで、光学多層膜12の透過帯の範囲(平均透過率を求めるための範囲)は、透過帯から紫外側の阻止帯に向かって透過率の低下が開始するときの波長(紫外側の基点)から、透過帯から近赤外側の阻止帯に向かって透過率の低下が開始するときの波長(近赤外側の基点)までとする。
【0046】
また、光学多層膜12の阻止帯の範囲(平均透過率や幅を求めるための範囲)は、光学多層膜12の紫外側の阻止帯については、紫外側の阻止帯から透過帯に向かって透過率の上昇が開始するときの波長(透過帯側の基点)から、その紫外側に向かって透過率が最初に40%に達するときの上昇が開始するときの波長(紫外側の基点)までとする。
【0047】
さらに、光学多層膜12の近赤外側の阻止帯については、近赤外側の阻止帯から透過帯に向かって透過率の上昇が開始するときの波長(透過帯側の基点)から、その近赤外側に向かって透過率が最初に40%に達するときの上昇が開始するときの波長(近赤外側の基点)までとする。
【0048】
なお、本発明において、透過率が局所的に低下する量は、リップルによる局所的な透過率損失量を意味する。具体的には、透過帯の分光特性において、透過帯の平坦部もしくはそれに類する連続的な透過率変動部(例えば吸収ガラスなどでは透過帯はなだらかな山形状を描いている)から、リップルによって形成される極小値に向かう最初の変曲点の透過率を(A)、リップルによる透過率の極小値を(B)、リップルの極小値から上記透過帯平坦部に透過率が上昇し、この上昇の終端であり、透過帯平坦部に戻った最初の変曲点の透過率を(C)とした時(A)−(B)、(C)−(B)の絶対値のうち、大きいものをいう。
【0049】
(近赤外波長域の光を吸収する透明基板11と光学多層膜との組み合わせの分光特性)
透明基板11として、近赤外波長域の光を吸収するものを用いると、第1,第2の光学多層膜12A,12Bの阻止帯における平均透過率が多少大きくても、組み合わせの分光特性において、900〜1200nmの波長範囲内の透過率が低く、固体撮像素子用途に好適な阻止帯を形成することができる。そのため、第1,第2の光学多層膜12A,12Bを少ない膜層数で構成することができ、生産性がよく低コストで近赤外線カットフィルタを製作することができる。また、近赤外波長域の光を吸収する透明基板11は、特に700nm前後の波長範囲において、人間の視感度特性に近い分光特性を作り出すことができるため、本発明の近赤外線カットフィルタを固体撮像素子に用いることで自然な色調の撮像画像を得ることができる。
【0050】
(その他の実施形態)
以上のように、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0051】
図1図2を参照して説明したIRCF100は、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等における視感度補正フィルタとして用いられる。デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置においては、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。自動露出計においては、例えば受光素子の前面に配置される。
【0052】
撮像装置では、固体撮像素子の前面から離れた位置にIRCF100を配置してもよいし、固体撮像素子、または固体撮像素子のパッケージに直接貼着してもよいし、固体撮像素子を保護するカバーをIRCF100としてもよい。また、モアレや偽色を抑制するための水晶やニオブ酸リチウム等の結晶を使用したローパスフィルタに直接貼着してもよい。撮像装置のカバーガラスやレンズ群等にIRCF100を適用することで、近赤外線カットフィルタに起因する分光特性の入射角度依存性(リップルの発生)を抑制できるので、自然な色調の撮像画像を得ることができる。
【実施例】
【0053】
次に実施例を参照して具体的に説明する。
発明者らは、以下に説明する実施例1,2および比較例1〜3に係る近赤外線カットフィルタ(IRCF)を作成し、0°入射条件(光学多層膜12の主面に対して光が垂直(0°)に入射する条件)及び45°入射条件(光学多層膜12の主面に対して光が垂直(0°)から45°傾いた状態で入射する条件)における分光特性を調べた。なお、以下の説明では、高屈折率膜Hの波長500nmにおけるQWOT(Quarter-wave Optical Thickness)をQ、低屈折率膜Lの波長500nmにおけるQWOTをQとする。
【0054】
また、高屈折率膜の材料として、酸化チタン(TiO)を用い、低屈折率膜の材料として、酸化珪素(SiO)を用いた。分光特性は、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて検証した。本願では波長500nmにおける各膜の屈折率を代表値として使用しているが、シミュレーション上は屈折率の波長依存性を考慮してシミュレーションを行った。なお、シミュレーションでは、高屈折率膜H(TiO)の波長500nmにおける屈折率を、実施例1、比較例1及び比較例では2.47、実施例2及び比較例3では2.421とし、低屈折率膜L(SiO)の波長500nmにおける屈折率を、実施例1、比較例1及び比較例では1.48、実施例2及び比較例3では1.456とした。
【0055】
屈折率には、分散などと呼ばれる波長依存性がある。例えば、300〜1300nmの波長範囲において、本出願が対象とする膜物質などでは、波長が短いほど屈折率が大きく、波長が長くなると屈折率は小さくなる傾向がある。これら波長−屈折率の関係は線形関係ではなく、一般的にはHartmann、Sellmeierなどの近似式を用いて表されることが多い。また、膜物質の屈折率(分散)は、各種成膜条件によって変わる。そのため、蒸着法、イオンアシスト蒸着法、スパッタ法などで実際に成膜を行い、得られた各膜の屈折率の分散データを以下のシミュレーションにて用いた。
【0056】
実施例1、比較例1および比較例2では、可視波長域に吸収のない透明基板を用いた。また、0°入射条件において950〜1200nmの波長範囲内において、平均透過率が30%以下の領域の幅は100〜280nmである阻止帯を構成する光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)を形成した。各例のIRCFとしての分光特性(各光学多層膜および透明基板の組合せの分光特性)をシミュレーションにて算出した。なお、以下実施例・比較例の膜構成において、層数が1の側が透明基板側に形成された光学薄膜である。
【0057】
(比較例1)
比較例1では、第1の主面に表1に示す光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)を設け、第2の主面に表2に示す6層からなる反射防止膜(AR)を設けた。
【0058】
比較例1の第1の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の膜条件を表1に示す。また、比較例1の第2の主面に形成し反射防止膜(AR)の膜条件を表2に示す。なお、膜厚は、物理膜厚である。
【表1】
【表2】
【0059】
表1に示すように、比較例1の光学多層膜は、基本単位(1.33Q、1.39Q)が6回(n=6)繰り返し積層された上に、調整層として、(1.33Q、0.67Q)が積層された構造を有する。透明基板に積層された膜は、ARを含めて20層である。
【0060】
図3は、比較例1に係るIRCFの分光特性のシミュレーション結果である。図3は、縦軸に透過率、横軸に波長をとっている。図3には、0°入射条件と45°入射条件とのシミュレーション結果を示している。シミュレーションの結果、比較例1に係るIRCFでは、0°入射条件におけるリップルはほとんど発生していないものの、45°入射条件おけるリップルは、波長495nmの位置に透過率の極小値(70.0%)を持ち、透過率が局所的に低下する量は、25.9%と大きい。
【0061】
(比較例2)
比較例2では、比較例1の第1の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ、調整層を除く)を、2つに分け、基本単位(1.33Q、1.39Q)が3回(n=3)繰り返し積層された光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)を第1の主面および第2の主面にそれぞれ設けた。
【0062】
比較例2の第1の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の膜条件及び比較例2の第2の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の膜条件を表3に示す。表3に示すように、比較例2の第1の主面に形成した光学多層膜と、第2の主面に形成した光学多層膜の膜条件は同一である。なお、膜厚は、物理膜厚である。
【表3】
【0063】
表3に示すように、比較例2の第1の主面および第2の主面に形成された光学多層膜は、基本単位(1.33Q、1.39Q)が3回(n=3)繰り返し積層された上に、調整層として、(1.33Q、0.67Q)が積層された構造を有する。
【0064】
図4は、比較例2に係るIRCFの分光特性のシミュレーション結果である。図4は、縦軸に透過率、横軸に波長をとっている。図4には、0°入射条件と45°入射条件とのシミュレーション結果を示している。シミュレーションの結果、比較例2に係るIRCFでは、0°入射条件におけるリップルはほとんど発生していないものの、45°入射条件おけるリップルは、波長490nmの位置に透過率の極小値(75.3%)を持ち、透過率が局所的に低下する量は、20.5%と大きい。
【0065】
(実施例1)
実施例1では、比較例2の第1の主面に設けられた光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の物理膜厚を一律で0.95倍した。また、比較例2の第2の主面に設けられた光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の物理膜厚を一律で1.05倍した。
【0066】
実施例1の第1の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の膜条件を表4に示す。また、実施例1の第2の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の膜条件を表5に示す。なお、膜厚は、物理膜厚である。
【表4】
【表5】
【0067】
表4および表5に示すように、実施例1の第1の主面および第2の主面に形成された光学多層膜は、基本単位(1.33Q、1.39Q)が3回(n=3)繰り返し積層された上に、調整層として、(1.33Q、0.67Q)が積層された構造を有する。
【0068】
図5は、実施例1に係るIRCFの分光特性のシミュレーション結果である。図5は、縦軸に透過率、横軸に波長をとっている。図5には、0°入射条件と45°入射条件とのシミュレーション結果を示している。シミュレーションの結果、実施例1に係るIRCFでは、0°入射条件におけるリップルはほとんど発生していない。また、45°入射条件おけるリップルは、波長467nmの位置に透過率の極小値(87.6%)を持ち、透過率が局所的に低下する量は、12.0%と比較例1および比較例2と比べて、非常に小さい。また、図5の実施例1に係るIRCFの分光特性からわかるように、可視波長域において、透過率が局所的に低下する箇所が2つ(467nmと515nm)に分散されている。
【0069】
上記実施例1、比較例1および比較例2の結果より、比較例1および比較例2は可視波長域のリップルの発生する位置(波長)が1つであるため、リップルの大きさを十分に抑制できない。これに対し、実施例1は、可視波長域のリップルの発生する位置(波長)が2つに分散されており、リップルの大きさが十分に抑制されている。
【0070】
次いで、近赤外波長域の光を吸収する透明基板を用いた実施例2および比較例3について説明する。近赤外波長域の光を吸収する透明基板として、近赤外線カットフィルタガラス(AGCテクノグラス社製、NF−50、板厚:0.3mm)を用いた。
【0071】
(実施例2)
実施例2では、第1の主面および第2の主面に光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)を設けた。両面の光学多層膜の層数の合計は44層であり、総膜厚は4.67μmであった。
【0072】
実施例2の第1の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の膜条件を表6に示す。また、実施例2の第2の主面に形成し反射防止膜の膜条件を表7に示す。なお、膜厚は、物理膜厚である。
【表6】
【表7】
【0073】
表6に示す、実施例2の第1の主面に形成された光学多層膜は、紫外線カットフィルタ(UVCF)を構成する層数1〜5、900〜1200nmの波長範囲の赤外線をカットする赤外線カットフィルタ(IRCF)を構成する層数6〜16、750〜950nmの波長範囲の赤外線をカットする赤外線カットフィルタ(IRCF)層数17〜32が積層された構造を有する。
【0074】
また、表7に示す、実施例2の第2の主面に形成された光学多層膜は、900〜1200nmの波長範囲の赤外線をカットする赤外線カットフィルタ(IRCF)を構成する層数1〜12が積層された構造を有する。そのため、第1の主面に形成された層数6〜16の赤外線カットフィルタと、第2の主面に形成された層数1〜12の赤外線カットフィルタの両者により、900〜1200nmの波長範囲における赤外線をカットしている。
【0075】
図6は、実施例2に係るIRCFの分光特性のシミュレーション結果である。図6は、縦軸に透過率、横軸に波長をとっている。図6には、0°入射条件と45°入射条件とのシミュレーション結果を示している。シミュレーションの結果、実施例2に係るIRCFでは、0°入射条件におけるリップルはほとんど発生していない。また、45°入射条件おけるリップルは、波長488nmの位置に透過率の極小値(86.6%)を持ち、透過率が局所的に低下する量は、5.3%と後述する比較例3と比べて、非常に小さい。また、図6の実施例2に係るIRCFの分光特性からわかるように、可視波長域において、透過率が局所的に低下する箇所が複数存在しており、平均的に透過率が減少している。
【0076】
(比較例3)
比較例3では、第1の主面に光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)を設け、第2の主面に反射防止膜(AR)を設けた。両面の光学多層膜の層数の合計は43層であり、総膜厚は5.24μmであった。
【0077】
比較例3の第1の主面に形成した光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)の膜条件を表8に示す。また、比較例3の第2の主面に形成し反射防止膜(AR)の膜条件を表9に示す。なお、膜厚は、物理膜厚である。
【表8】
【表9】
【0078】
表8および表9に示すように、比較例3の第1の主面に形成された光学多層膜は、紫外線カットフィルタ(UVCF)、900〜1200nmの波長範囲の赤外線をカットする赤外線カットフィルタ(IRCF)、750〜950nmの波長範囲の赤外線をカットする赤外線カットフィルタ(IRCF)が積層された構造を有する。また、表9に示すように、比較例3の第2の主面に形成された光学多層膜は、反射防止膜(AR)が積層された構造を有する。そのため、比較例3は、比較例1と同様に透明基板の一方の主面に近赤外線カットフィルタ、他方の主面に反射防止膜が形成された構成となっている。
【0079】
図7は、比較例3に係るIRCFの分光特性のシミュレーション結果である。図7は、縦軸に透過率、横軸に波長をとっている。図7には、0°入射条件と45°入射条件とのシミュレーション結果を示している。シミュレーションの結果、比較例3に係るIRCFでは、0°入射条件におけるリップルはほとんど発生していないものの、45°入射条件おけるリップルは、波長499nmの位置に透過率の極小値(72.3%)を持ち、透過率が局所的に低下する量は、20.2%と実施例2と比べて、非常に大きい。また、図7の比較例3に係るIRCFの分光特性からわかるように、可視波長域において、透過率が局所的に低下する箇所が500nmの波長近辺に存在している。このようなIRCFを固体撮像素子用途に用いると、所望の色調の撮像画像が得られないおそれがある。
【0080】
以上のことから、本発明の近赤外線カットフィルタは、特に400〜700nmの波長範囲における入射光の角度の変動に伴い発生するリップルを非常に効率よく抑制できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の近赤外線カットフィルタは、光の入射角度に依存する透過帯のリップルを抑制することができる。このため、デジタルカメラやデジタルビデオ等の固体撮像素子(例えば、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等)の分光補正に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0082】
100…近赤外線カットフィルタ、11…透明基板、12…光学多層膜。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7