特許第6136851号(P6136851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136851はんだ用フラックスおよびはんだペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136851
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】はんだ用フラックスおよびはんだペースト
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   B23K35/363 C
   B23K35/363 E
   B23K35/363 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-221542(P2013-221542)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-80814(P2015-80814A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2015年11月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】山辺 秀敏
【審査官】 大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−222932(JP,A)
【文献】 特開昭60−170594(JP,A)
【文献】 特開2001−105180(JP,A)
【文献】 特開2012−086269(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/151894(WO,A1)
【文献】 特許第3702969(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
35質量%以上70%質量未満のフラックス主成分と、5質量%以上30質量%未満の活性剤と、5質量%以上15質量%未満の不飽和脂肪酸アミドとのみからなり、あるいは、35質量%以上70%質量未満のフラックス主成分と、5質量%以上30質量%未満の活性剤と、5質量%以上15質量%未満の不飽和脂肪酸アミドと、20質量%以上50質量%未満の有機溶剤および/または0.1質量%以上10質量%未満の添加剤とのみからなり、
前記フラックス主成分は、ロジン、変性ロジン、アビエチン酸および変性アビエチン酸の群から選択される少なくとも1種であり、
前記活性剤は、2−フェニルコハク酸、コハク酸、アジピン酸およびステアリン酸の群から選択される少なくとも1種であり、
前記添加剤は、シランカップリング剤、界面活性剤、リン酸系アクリルモノマー、トリアジンジチオール系モノマー、レオロジーコントロール剤および熱可塑性樹脂の群から選択される少なくとも1種であり、
酸価が100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満である、
はんだ用フラックス。
【請求項2】
前記フラックス主成分は、軟化点が70℃〜170℃であり、かつ、酸価が100mgKOH/g〜200mgKOH/gである、請求項1に記載のはんだ用フラックス。
【請求項3】
前記不飽和脂肪酸アミドは、オレイン酸アミド、エライジン酸アミドおよびエルカ酸アミドの群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載のはんだ用フラックス。
【請求項4】
前記有機溶剤は、200℃〜300℃の範囲の沸点を有する、請求項1〜のいずれかに記載のはんだ用フラックス。
【請求項5】
レオメータで測定した、25℃、せん断速度10/sにおけるせん断粘度が、1×102Pa・s以上、1×105Pa・s未満である、請求項1〜のいずれかに記載のはんだ用フラックス。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のはんだ用フラックスを5質量%〜20質量%、はんだ粉末を80質量%〜95質量%含有する、はんだペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ接合に用いる、はんだ用フラックスおよびこのはんだ用フラックスを用いたはんだペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板に回路素子を実装する方法としては、はんだ浴にプリント基板の下面を浸すフロー法や、プリント回路基板上に、はんだペースト(はんだ粉末にフラックスを加えて適当な粘度に調整したもの)を印刷し、その上に回路素子を載置した後、はんだを加熱溶融するリフロー法などが挙げられる。いずれの方法においても、母材表面の酸化膜を除去するとともに、母材およびはんだの酸化を防止し、かつ、はんだ表面の濡れ性を良好にするために、フラックスの使用が必須とされている。
【0003】
基板実装用のフラックスとしては、主として、ロジン、変性ロジン、合成樹脂などを主材として用いた樹脂系のフラックスが用いられる。主材のみでは活性力が弱いため、フラックスには、通常、有機酸や有機ハロゲン化合物などの活性剤が添加される。多量の活性剤が添加された活性フラックスでは、はんだ接合後のフラックス残渣と母材との錯化物生成反応により、母材または導体が腐食されてしまうという問題があり、はんだ接合後にフラックス残渣をフロン系洗浄液で洗浄し、除去することが必要とされる。
【0004】
しかしながら、近年、環境保護の観点から、フロン系洗浄液の使用が規制されており、アルコール系、水系または準水系、代替フロン系の洗浄液によって洗浄する技術や、無洗浄型のフラックスの開発が盛んに行われている。ただし、アルコール系洗浄液には、引火点が低く、安全性に問題があり、水系または準水系洗浄液には、排水処理や微細部分の乾燥が困難であるという問題があり、また、代替フロン系洗浄液には、コストが高く、その用途が限られるという問題がある。このため、現在では、無洗浄型のフラックスの開発が主流となっている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、アクリル系樹脂とともに、酸価および軟化点の両方において高水準と低水準であって、その酸価および軟化点の両方において一致点がない2種類のロジン系樹脂を樹脂成分に用いた、フラックスが記載されている。また、特許文献2には、ロジンを主成分として、炭素数14以上30以下の直鎖飽和一塩基脂肪酸と、2価〜6価の多価アルコールとの縮合反応により得られ、示差熱曲線における極大ピークの温度が70℃〜85℃の範囲にあり、酸価が3mgKOH/g以下かつ水酸基価が5mgKOH/g以下であるエステルを添加した、フラックスが記載されている。これらのフラックスにより、はんだ接合後の洗浄が不要となるばかりでなく、接合部のボイドや割れを改善できるとされている。しかしながら、これらのフラックスには、母材に対する濡れ性が十分でなかったり、フラックス残渣が残存したりする問題がある。
【0006】
これに対して、特許文献3には、ロジン系樹脂、活性剤および溶剤を少なくとも含有するフラックスにおいて、0.05質量%〜1.0質量%の不飽和脂肪酸アミドを含有させたことを特徴とする液状フラックスが記載されている。このフラックスによれば、マイグレーションを十分に防止できるばかりでなく、フラックス残渣を絶縁被膜として有効に利用することができるとされている。しかしながら、このフラックスにも、フラックス残渣が残存するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−264367号公報
【特許文献2】特開2010−46687号公報
【特許文献3】特許3702969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、はんだ接合時の濡れ性に優れ、かつ、接合後の洗浄が不要なはんだ用フラックス、および、このはんだ用フラックスを用いたはんだペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のはんだ用フラックスは、フラックス主成分を35質量%以上70質量%未満、活性剤を5質量%以上30質量%未満、不飽和脂肪酸アミドを5質量%以上15質量%未満含み、前記フラックス主成分は、ロジン、変性ロジン、アビエチン酸および変性アビエチン酸の群から選択される少なくとも1種であり、酸価が100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満であることを特徴とする。
【0010】
前記フラックス主成分は、軟化点が70℃〜170℃であり、かつ、酸価が100mgKOH/g〜200mgKOH/gであることが好ましい。
【0011】
前記活性剤は、2−フェニルコハク酸、コハク酸、アジピン酸およびステアリン酸の群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
前記不飽和脂肪酸アミドは、オレイン酸アミド、エライジン酸アミドおよびエルカ酸アミドの群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
有機溶剤を20質量%以上50質量%未満さらに含むことができ、該有機溶剤は、200℃〜300℃の範囲の沸点を有するものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明のはんだ用フラックスは、レオメータで測定した、25℃、せん断速度10/sにおけるせん断粘度が、1×102Pa・s以上、1×105Pa・s未満であることが好ましい。
【0015】
本発明のはんだペーストは、前記はんだ用フラックスを5質量%〜20質量%、はんだ粉末を80質量%〜95質量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、はんだ接合時の濡れ性に優れ、かつ、接合後の洗浄が不要なはんだ用フラックス、および、このはんだ用フラックスを用いたはんだペーストを、容易に提供することができるため、その工業的意義はきわめて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上記問題に鑑みて、無洗浄型のフラックスについて鋭意研究を重ねた結果、フラックス残渣の発生には、はんだ用フラックスの酸価が大きく関係していることを見出した。本発明者らは、この点についてさらに研究を重ねた結果、はんだ用フラックスを、ロジン、変性ロジン、アビエチン酸または変性アビエチン酸からなる主成分、活性剤、不飽和脂肪酸アミドおよび有機樹脂により構成し、これらの構成成分の含有量を所定範囲に制御するとともに、従来の無洗浄型のフラックスにおいて、50mgKOH/g未満とされていたフラックス全体の酸価を、100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満の範囲に制御することにより、濡れ性を含むはんだ付け性を犠牲にすることなく、フラックス残渣に起因する母材または導体の腐食を効果的に防止することができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0018】
以下、本発明について、「1.はんだ用フラックス」と、「2.はんだペースト」に分けて説明する。
【0019】
1.はんだ用フラックス
本発明のはんだ用フラックスは、フラックス主成分を35質量%以上70質量%未満、活性剤を5質量%以上30質量%未満、不飽和脂肪酸アミドを5質量%以上15質量%未満含み、フラックス主成分が、ロジン、変性ロジン、アビエチン酸および変性アビエチン酸の群から選択される少なくとも1種であり、酸価が100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満であることを特徴とする。このようなはんだ用フラックスを用いた場合、接合時の濡れ性を改善し、また、フラックス残渣の発生を抑制することができるため、接合後の洗浄作業が不要になる。
【0020】
(1)構成成分
はじめに、本発明のはんだ用フラックスの構成成分である、フラックス主成分、活性剤、不飽和脂肪酸アミドおよび有機溶剤のそれぞれについて説明する。
【0021】
(フラックス主成分)
本発明のはんだ用フラックスにおいては、ロジン、変性ロジン、ロジンの主成分であるアビエチン酸、および、これを変性した変性アビエチン酸からなる群から選択される少なくとも1種を主成分として採用する。これは、ロジン、変性ロジン、アビエチン酸および変性アビエチン酸は、その骨格にカルボキシル基を含んでおり、このカルボキシル基が、はんだ粉末の表面に形成された酸化物と反応することで、酸化被膜を除去することができるからである。
【0022】
これらの中でも、軟化点が70℃〜170℃、かつ、酸価が100mgKOH/g〜200mgKOH/gの範囲にあるものが好ましい。軟化点が70℃未満または酸価が100mgKOH/g未満では、接合時にはんだ粉末の表面に形成された酸化被膜を除去しきれない場合がある。一方、軟化点が170℃を超えまたは酸価が200mgKOH/gを超えると、はんだ粉末とフラックス主成分との反応により、はんだペーストの粘度を含めた特性が経時的に劣化する場合がある。
【0023】
具体的には、天然ロジン(軟化点:76℃〜85℃、酸価:167mgKOH/g〜175mgKOH/g)、重合ロジン(軟化点:96℃〜99℃、酸価:159mgKOH/g〜163mgKOH/g)、水素添加ロジン(軟化点:74℃〜75℃、酸価:160mgKOH/g〜170mgKOH/g)、アビエチン酸(軟化点:129℃〜137℃、酸価:179mgKOH/g〜182mgKOH/g)、ジヒドロアビエチン酸(軟化点:150℃〜155℃、酸価:154mgKOH/g〜158mgKOH/g)、デヒドロアビエチン酸(軟化点:160℃〜168℃、酸価:174mgKOH/g〜178mgKOH/g)などを好適に使用することができる。
【0024】
フラックス主成分の含有量は、35質量%以上70質量%未満、好ましくは35質量%以上60質量%以下とすることが必要である。フラックス主成分の含有量が35質量%未満では、はんだ用フラックスの酸価が100mgKOH/g未満となるため、母材に対する濡れ性が不足する。一方、70質量%以上では、有機溶媒に完全に溶解できなかったり、はんだ用フラックスの酸価が230mgKOH/g以上となり、接合後において、過剰なフラックスが残留し、母材や導体が腐食するおそれがある。また、せん断粘度が1×105Pa・s以上ときわめて高粘度となってしまう。
【0025】
(活性剤)
活性剤としては、上述したフラックス主成分との組み合わせにより、はんだ用フラックスの酸価を100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満の範囲に制御することができるものであれば、特に限定されることはない。しかしながら、フラックス主成分のみで十分な活性力を得ることは現実的ではないため、活性剤として、2−フェニルコハク酸、コハク酸、アジピン酸、ステアリン酸の群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0026】
活性剤の含有量は、5質量%以上30質量%未満、好ましくは5質量%以上20質量%以下とすることが必要である。活性剤の含有量が5質量%未満では、はんだ用フラックスの酸価が100mgKOH/g未満となるため、母材に対する濡れ性が不足する。一方、30質量%以上では、はんだ用フラックスの酸価が230mgKOH/g以上となり、接合後において、過剰なフラックスが残留し、母材や導体が腐食するおそれがある。また、25℃におけるせん断粘度が1×105Pa・s以上ときわめて高粘度となってしまう。
【0027】
(不飽和脂肪酸アミド)
不飽和脂肪酸アミドは、はんだ用フラックスの粘度特性を向上させるために添加される成分である。すなわち、長鎖の脂肪酸である不飽和脂肪酸がフラックスに添加されると、分子内でカルボキシル基同士が水素結合性のゲルを形成し、これにより、はんだ用フラックスにチクソトロピー性(粘度が経時的に変化する性質)が付与されることとなる。
【0028】
このような不飽和脂肪酸アミドとしては、その炭素数が17〜23の範囲にあるものを使用することが好ましく、具体的には、オレイン酸アミド(炭素数:18)、エライジン酸アミド(炭素数:18)、エルカ酸アミド(炭素数:22)の群から選択される少なくとも1種を使用することがより好ましい。不飽和脂肪酸アミドの炭素数が17未満では、分子内で水素結合が生じ難くなるという問題がある。一方、炭素数が23を超えると、過剰なゲルが生成し、フラックスが高粘度化しやすくなるという問題がある。
【0029】
不飽和脂肪酸アミドの含有量は、5質量%以上15質量%未満、好ましくは5質量%以上10質量%以下とすることが必要である。不飽和脂肪酸アミドの含有量が5質量%未満では、プリント回路基板の使用時におけるヒートサイクルにより、絶縁被膜を構成するフラックス残渣にクラックが発生しやすくなってしまう。一方、15質量%以上では、フラックス残渣に埃などの吸湿性異物が付着しやすくなり、絶縁被膜の強度の経時的劣化が顕著となる。
【0030】
(有機溶剤)
本発明のはんだ用フラックスにおいて、フラックスのペースト化を容易にするため、有機溶剤が含まれることが好ましい。この有機溶剤は、特に限定されることはなく、公知の有機溶剤を使用することができるが、フラックス主成分や活性剤を容易に溶解することができる極性溶剤であり、かつ、はんだ粉末と混合することにより得られるはんだペーストを、はんだ接合に使用可能な粘度に溶解できる高沸点溶剤、具体的には、200℃〜300℃の範囲に沸点を有する有機溶剤を使用することが好ましい。沸点が200℃未満では、はんだペーストの製造中に蒸発してしまう場合がある。一方、300℃を超えると、はんだ溶融後も残存し、導電性を阻害する場合がある。このような有機溶剤としては、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールブチルメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0031】
有機溶剤の含有量は、好ましくは20質量%以上50質量%未満、より好ましくは25質量%以上45質量%以下とする。有機溶剤の含有量が20質量%未満では、はんだ用フラックスの構成成分を均一に混合することが困難となる。一方、50質量%以上では、フラックスを塗布した際にダレが発生しやすくなるという問題がある。
【0032】
(その他の添加剤)
本発明のはんだ用フラックスには、上述した構成成分のほかに、必要に応じて、表面保護剤や仮止め接着性を向上させる成分を添加することができる。具体的には、表面保護剤としては、シランカップリング剤や界面活性剤などを、仮止め用接着性を向上させる成分としては、リン酸系(メタ)アクリルモノマーやトリアジンジチオール系モノマーなどを添加することができる。
【0033】
また、本発明のはんだ用フラックスでは、はんだペーストとした際のレオロジーコントロール剤として、カオリン、タルク、シリカ、アエロジル、有機ベントナイト、硬化ひまし油などのチクソ剤を使用することができる。
【0034】
また、本発明のはんだ用フラックスでは、ヒートサイクルでの耐割れ性を向上させるためにロジン成分に添加または代替する材料として、熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的には、ポリアミド、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリル酸もしくはそのエステル、メタクリル酸もしくはそのエステル、エチレンなどの重合体、または、これらの2種以上からなる共重合体を使用することもできる。
【0035】
添加剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上10質量%未満、より好ましくは1質量%以上9質量%未満とする。添加剤の含有量が0.1質量%未満では、その効果を発揮することができない。一方、10質量%を超えると、他の構成成分の含有量との関係で、所望の特性を得ることができなくなる場合がある。
【0036】
(2)はんだ用フラックスの製造方法
次に、本発明のはんだ用フラックスの製造方法について説明をする。
【0037】
本発明のはんだ用フラックスの製造方法は、フラックス主成分を35質量%以上70質量%未満、活性剤を5質量%以上30質量%未満、不飽和脂肪酸アミドを5質量%以上15質量%未満、または、これらに加えて、有機溶剤を20質量%以上50質量%未満、表面保護材などの添加剤を0.1質量%以上10質量%未満秤量し、これらの構成成分が均一となるまで混合する。この際の混合手段は、特に限定されることはないが、自公転ミキサ、ホモジナイザ、ヘイシェルミキサなどを用いて混合することが好ましい。なお、構成成分を均一に混合する観点から、最初に固体成分のみを混合した後、有機溶剤を加えて、さらに混合することが好ましい。このような方法であれば、はんだ用フラックスの酸価を、100mgKOH/g〜230mgKOH/gの範囲に、容易に制御することができる。
【0038】
(3)特性
(酸価)
本発明では、各構成成分の種類および含有量を上述のように調製することにより、はんだ用フラックスの酸価を、100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満に制御していることを特徴とする。なお、酸価とは、はんだ用フラックス1g中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)の質量(mg)を意味する。はんだ用フラックスの酸価をこのような範囲に制御することにより、はんだ接合時の濡れ性を向上させることができ、また、フラックス残渣の発生量を抑制し、かつ、発生した微量のフラックス残渣については絶縁被膜として有効に利用することができるため、フラックス残渣に起因する導体や母材の腐食を効果的に防止することができる。
【0039】
はんだ用フラックスの酸価は、100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満、好ましくは100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下に制御することが必要となる。酸価が100mgKOH/g未満では、はんだを十分に活性化することができないため、母材に対する濡れ性が不足し、電子部品と配線基板の導電性が損なわれてしまう。一方、230mgKOH/g以上では、はんだ粉末とフラックスとの反応を抑制することができず、接合後にフラックスが過剰に残留し、母材の腐食などの不具合が生じるため、アルコールや水などを用いた洗浄が必要となる。なお、酸価は、はんだ付用フラックス試験方法(JIS Z 3197)に基づき、求めることができる。
【0040】
(せん断粘度)
本発明のはんだ用フラックスは、コーンプレート(0.5°、25mm)を使用したレオメータを用いて、25℃、せん断速度10/sの条件で測定した場合のせん断粘度が、好ましくは1×102Pa・s以上1×105Pa・s未満、より好ましくは5×102Pa・s以上6×103Pa・s以下の範囲にある。せん断粘度が1×102Pa・s未満では、はんだ粉末と混合し、はんだペーストを構成した場合に、はんだ粉末とはんだ用フラックスとが分離するおそれがある。一方、1×105Pa・s以上では、はんだペーストの流動性が低下し、接合強度が低下するおそれがある。
【0041】
2.はんだペースト
最後に、本発明のはんだ用フラックスを用いたはんだペーストについて説明する。
【0042】
(1)はんだ粉末
本発明のはんだ用フラックスと混合する、はんだ粉末の合金成分は特に限定されることはなく、公知のものを使用することができる。たとえば、Pb−Sn系合金はんだ、Bi−Zn系合金はんだやSn−Ag系合金はんだなどのPbフリーはんだ、または、これらのはんだ合金に、Cu、Bi、In、Alなどを添加したものを使用することができる。
【0043】
はんだ粉末の平均粒径は、1μm以上100μm以下の範囲にあることが好ましく、50μm以下のものがより好ましい。はんだ粉末の平均粒径が1μm未満では、はんだ用フラックスとの混合時に、はんだ粉末が凝集してしまうおそれがある。一方、100μmを超えると、接合時に2種材料間に樹脂を含んだ新たな導電層が形成されてしまうため、導電性が低下するおそれがある。
【0044】
(2)混合比
本発明のはんだペーストは、5質量%〜20質量%、好ましくは10質量%〜15質量%のはんだ用フラックスと、80質量%〜95質量%、好ましくは85質量%〜90質量%のはんだ粉末とから構成され、はんだ用フラックスとして、本発明のはんだ用フラックスを使用することを特徴とする。はんだ用フラックスおよびはんだ粉末の混合比をこのような範囲に制御することにより、得られるはんだペーストの接合時における濡れ性を優れたものとすることができる。また、フラックス残渣を、絶縁被膜として利用することができるため、母材の腐食を効果的に防止することができる。
【0045】
なお、はんだ用フラックスとはんだ粉末の混合方法は、特に限定されることなく、公知の方法を採用することができ、たとえば、自公転ミキサ、ホモジナイザ、ヘイシェルミキサなどにより混合することができる。
【0046】
(3)特性
本発明のはんだペーストは、本発明のはんだ用フラックスを使用しているため、接合時における濡れ性に優れる。具体的には、本発明のはんだ用フラックスと、Sn/Ag/Cuからなるはんだ粉末を混合することにより、はんだペーストを構成し、これを加熱溶融した場合の母材との接触角を、好ましくは80°以上、より好ましくは85°以上とすることができる。また、本発明のはんだペーストを用いて導体と母材を接合した場合には、フラックス残渣の発生が効果的に抑制され、フラックス残渣に起因する母材または導体の腐食を効果的に防止することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0048】
(実施例1〜15、比較例1〜7)
はんだ用フラックスとして、表1に記載されるフラックス主成分、活性剤、不飽和脂肪酸アミド、有機溶剤および添加剤を用意した。これらの構成成分を表2に記載されるように調製し、はんだ用フラックスを得た。これらのはんだ用フラックスに対して、酸価の測定、せん断粘度の測定、および、はんだ浸漬後の外観評価を行った。
【0049】
[酸価の測定]
酸価の測定は、JIS Z 3197に準拠し、次の通り測定した。
【0050】
はじめに、はんだ用フラックス3.75gを、2−プロパノール(関東化学株式会社製)100mLに溶解し、測定用フラックス溶液を調製した。次に、この測定用フラックス溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン/メタノール溶液を3滴添加した。これを、0.1mL/Lの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、30秒以上撹拌しても指示薬の赤色が消失しなかったときを終点とした。そして、この滴定に要した水酸化カリウムの量から、はんだフラックス1g当たりの酸価を算出した。
【0051】
[せん断粘度の測定]
せん断粘度測定は、コーンプレート(0.5°、25mm)を使用したレオメータ(AntonPaar社製、MCR501)を用いて、25℃、せん断速度10/sの条件で測定した。
【0052】
[はんだ浸漬後の外観評価]
はんだ浸漬後の外観評価は、実施例1〜15および比較例1〜7のはんだ用フラックスを、それぞれ母材(銅製)に塗布し、90℃で予熱した後、Sn−Ag−Cu系合金はんだを、はんだ浴温度:245℃、浸漬時間:3秒の条件ではんだ付けをした後、母材表面の腐食およびフラックス残渣の有無を目視で確認し、この結果、腐食およびフラックス残渣がない場合を「○(良)」、腐食またはフラックス残渣が確認された場合を「×(不良)」と評価した。
【0053】
[濡れ性の評価]
濡れ性の評価は、光学顕微鏡によって、はんだペーストの接触角を観察することにより行った。この結果、はんだペーストの接触角が80°以上であったものを「○(良)」、80°未満であったものを「不良(×)」として評価した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
[総合評価]
実施例1〜15のはんだ用フラックスは、酸価およびせん断粘度のいずれもが、本発明に規定する範囲内にあり、また、浸漬後において、母材の腐食やフラックス残渣は確認されなかった。すなわち、これらのはんだ用フラックスは、優れた濡れ性を有し、かつ、接合後の洗浄が不要であると評価することができる。
【0058】
これに対して、比較例1および2は、フラックス主成分の含有量が本発明の範囲にない例である。比較例1では、フラックス主成分の含有量が少なすぎたため、酸価が100mgKOH/g未満となり、濡れ性が不足し、母材の腐食を防止することができなかった。また、比較例2では、フラックス主成分の含有量が多すぎたため、有機溶剤にフラックス主成分が完全に溶解せず、はんだ用フラックスを調製することができなかった。
【0059】
比較例3および4は、活性剤の含有量が本発明の範囲にない例である。比較例3では、活性剤を含有しなかったため、酸価が100mgKOH/g未満となり、濡れ性が不足し、母材の腐食を防止することができなかった。また、比較例4では、活性剤の含有量が多すぎたため、フラックス残渣が発生した。
【0060】
比較例5および6は、不飽和脂肪酸アミドの含有量が本発明の範囲にない例である。比較例5では、不飽和脂肪酸アミドの含有量が少なすぎたため、フラックス残渣が発生した。また、比較例6では、不飽和脂肪酸アミドの含有量が多すぎため、有機溶剤に不飽和脂肪酸アミドが完全に溶解せず、はんだ用フラックスを調製することができなかった。
【0061】
比較例7は、フラックス主成分として本発明に規定するもの以外を使用した例であり、有機溶剤にフラックス主成分が完全に溶解せず、はんだ用フラックスを調製することができなかった。