(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持基板と支持基板の片面に設けられたシリコーン樹脂層とを有し、前記シリコーン樹脂層上にガラス基板を積層してガラス積層体を製造するために使用される、樹脂層付き支持基板の製造方法であって、
硬化性シリコーンと溶媒とを含む硬化性シリコーン組成物を前記支持基板上に塗布して、前記支持基板上に硬化性シリコーン組成物層を形成し、前記支持基板および前記硬化性シリコーン組成物層を備える硬化性層付き支持基板を得る塗布工程と、
加熱処理装置内に前記硬化性層付き支持基板を搬入し、前記加熱処理装置内の支持ピン上に前記硬化性層付き支持基板を載置する搬入工程と、
前記硬化性層付き支持基板の前記硬化性シリコーン組成物層上に加熱プレートを配置して、排気を行いながら、前記硬化性層付き支持基板に第1の温度以下で加熱処理を行い、前記硬化性シリコーン組成物層に残存する前記溶媒を除去する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程後、前記加熱処理が施された前記硬化性シリコーン組成物層と、前記加熱プレートとを遠ざける移動工程と、
前記加熱処理装置から前記硬化性層付き支持基板を搬出する搬出工程と、
前記硬化性層付き支持基板に前記第1の温度より高い第2の温度で加熱処理を行い、シリコーン樹脂層を得る第2加熱工程とをこの順で備える、樹脂層付き支持基板の製造方法。
前記硬化性シリコーンが、アルケニル基を有するオルガノアルケニルポリシロキサンと、ケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含む、請求項1に記載の樹脂層付き支持基板の製造方法。
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法より製造される樹脂層付き支持基板中の前記シリコーン樹脂層上にガラス基板を積層して、支持基板とシリコーン樹脂層とガラス基板とをこの順で有するガラス積層体を得る積層工程を有するガラス積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適実施態様について図面を参照して説明するが、本発明は、以下の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0010】
本発明者らは、上記問題点について検討を行ったところ、硬化性シリコーン組成物層の上部に配置された加熱プレートを用いて硬化性シリコーン組成物層を乾燥する際に、硬化性シリコーン組成物層に残存する溶媒が揮発して、加熱プレートと硬化性シリコーン組成物層との間に滞留している点が原因の一つであることを見出している。このような滞留した揮発溶媒が多く存在すると、硬化性シリコーン組成物層から残存溶媒が揮発しづらいと共に、加熱処理装置から硬化性層付き支持基板を搬出する際に、溶媒がシリコーン樹脂層上に再び戻り、シリコーン樹脂層の硬化性が低下し、結果として凝集破壊が進行しやすくなったと推測される。
そこで、加熱終了後に加熱プレートと硬化性シリコーン組成物層を遠ざけて、両者の間の空間を広げることにより、溶媒の排気が促進され、滞留していた溶媒濃度が低下し、シリコーン樹脂層への影響を低下させることにより、所望の効果が得られるようになったと推測される。
【0011】
図1は、本発明の樹脂層付き支持基板の製造方法における製造工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、樹脂層付き支持基板の製造方法は、塗布工程S102、搬入工程S104、第1加熱工程S106、移動工程S108、搬出工程S110、および第2加熱工程S112を備える。
以下に、各工程で使用される材料およびその手順について詳述する。まず、塗布工程S102について詳述する。
【0012】
<塗布工程>
塗布工程S102は、硬化性シリコーンと溶媒とを含む硬化性シリコーン組成物を支持基板上に塗布して、支持基板上に硬化性シリコーン組成物層を形成し、支持基板および硬化性シリコーン組成物層を備える硬化性層付き支持基板を得る工程である。該工程S102を実施することにより、
図2に示すように、支持基板10上に硬化性シリコーン組成物層12が形成され、硬化性層付き支持基板14が得られる。
以下で、まず、本工程S102で使用される材料(支持基板、硬化性シリコーン組成物)について詳述し、その後該工程S102の手順について詳述する。
【0013】
(支持基板)
支持基板10は、表面および裏面の2つの主面を有し、後述するシリコーン樹脂層16と協働して、後述するガラス基板20を支持して補強し、後述する部材形成工程(電子デバイス用部材の製造工程)において電子デバイス用部材の製造の際にガラス基板20の変形、傷付き、破損などを防止する。また、従来よりも厚さが薄いガラス基板を使用する場合、従来のガラス基板と同じ厚さのガラス積層体とすることにより、部材形成工程において、従来の厚さのガラス基板に適合した製造技術や製造設備を使用可能にすることも、支持基板10を使用する目的の1つである。
【0014】
支持基板10としては、例えば、ガラス板、プラスチック板、SUS板、セラミック板などの金属板などが用いられる。支持基板10は、部材形成工程が熱処理を伴う場合、ガラス基板20との線膨張係数の差の小さい材料で形成されることが好ましく、ガラス基板20と同一材料で形成されることがより好ましく、支持基板10はガラス板であることが好ましい。特に、支持基板10は、ガラス基板20と同じガラス材料からなるガラス板であることが好ましい。
【0015】
支持基板10の厚さは、ガラス基板20よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。好ましくは、ガラス基板20の厚さ、樹脂層16の厚さ、およびガラス積層体の厚さに基づいて、支持基板10の厚さが選択される。例えば、現行の部材形成工程が厚さ0.5mmの基板を処理するように設計されたものであって、ガラス基板20の厚さと樹脂層16の厚さとの和が0.1mmの場合、支持基板10の厚さを0.4mmとする。支持基板10の厚さは、通常の場合、0.2〜5.0mmであることが好ましい。
【0016】
支持基板10がガラス板の場合、ガラス板の厚さは、扱いやすく、割れにくいなどの理由から、0.08mm以上であることが好ましい。また、ガラス板の厚さは、電子デバイス用部材形成後に剥離する際に、割れずに適度に撓むような剛性が望まれる理由から、1.0mm以下であることが好ましい。
【0017】
支持基板10とガラス基板20との25〜300℃における平均線膨張係数(以下、単に「平均線膨張係数」という)の差は、好ましくは500×10
-7/℃以下であり、より好ましくは300×10
-7/℃以下であり、さらに好ましくは200×10
-7/℃以下である。差が大き過ぎると、部材形成工程における加熱冷却時に、ガラス積層体が激しく反ったり、ガラス基板20と後述する樹脂層付き支持基板18とが剥離したりする可能性がある。ガラス基板20の材料と支持基板10の材料が同じ場合、このような問題が生じるのを抑制することができる。
【0018】
(硬化性シリコーン組成物)
硬化性シリコーン組成物は、硬化性シリコーンと溶媒とを少なくとも含有する。後述するように、該硬化性シリコーン組成物を支持基板10上に塗布することにより、硬化性シリコーンを含む硬化性シリコーン組成物層が得られる。
以下に、該組成物中に含まれる材料について詳述する。
【0019】
硬化性シリコーンとは、硬化してシリコーン樹脂となる化合物または組成物である。このような硬化性シリコーンは、その硬化機構により縮合反応型シリコーン、付加反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーンおよび電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれも使用することができる。これらの中でも付加反応型シリコーンが好ましい。これは、硬化反応のしやすさ、シリコーン樹脂層を形成した際に剥離性の程度が良好で、耐熱性も高いからである。
【0020】
付加反応型シリコーンは、主剤および架橋剤を含み、白金系触媒などの触媒の存在下で硬化する硬化性の組成物である。付加反応型シリコーンの硬化は、加熱処理により促進される。付加反応型シリコーン中の主剤は、ケイ素原子に結合したアルケニル基(ビニル基など)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノアルケニルポリシロキサン。なお、直鎖状が好ましい)であることが好ましく、アルケニル基などが架橋点となる。付加反応型シリコーン中の架橋剤は、ケイ素原子に結合した水素原子(ハイドロシリル基)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノハイドロジェンポリシロキサン。なお、直鎖状が好ましい)であることが好ましく、ハイドロシリル基などが架橋点となる。
付加反応型シリコーンは、主剤と架橋剤の架橋点が付加反応をすることにより硬化する。なお、架橋構造に由来する耐熱性がより優れる点で、オルガノアルケニルポリシロキサンのアルケニル基に対する、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.5〜2であることが好ましい。
【0021】
硬化性シリコーン組成物には、溶媒が含まれる。溶媒としては、各種成分を容易に溶解でき、かつ、容易に揮発除去させることのできる溶媒であることが好ましい。具体的には、例えば、酢酸ブチル、ヘプタン、2−ヘプタノン、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート、トルエン、キシレン、THF、クロロホルム等を例示することができる。なかでも、飽和炭化水素が好ましく、各種の飽和炭化水素(直鎖状飽和炭化水素、分岐鎖状飽和炭化水素、脂環式飽和炭化水素)の1種または2種以上から実質的になる各種の飽和炭化水素溶剤が用いられる。例えば、アイソパーG(エクソンモービル有限会社製)、アイソパーL(エクソンモービル有限会社製)、アイソパーH(エクソンモービル有限会社製)、アイソパーM(エクソンモービル有限会社製)、ノルパー13(エクソンモービル有限会社製)、ノルパー15(エクソンモービル有限会社製)、エクソールD40(エクソンモービル有限会社製)、エクソールD60(エクソンモービル有限会社製)、エクソールD80(エクソンモービル有限会社製)、ネオチオゾール(中央化成株式会社製)、IPソルベント 2028(出光興産株式会社)が挙げられる。
なかでも、後述するように、第1加熱工程において溶媒が揮発しやすい点から、初留点(大気圧下)が210℃以下の溶媒を使用することが好ましい。
【0022】
硬化性シリコーン組成物に含まれる硬化性シリコーンが付加反応型シリコーンの場合、硬化性シリコーン組成物には触媒(特に、白金族金属系触媒)や、反応抑制剤がさらに含まれていてもよい。
白金族金属系触媒(ヒドロシリル化用白金族金属触媒)は、上記オルガノアルケニルポリシロキサン中のアルケニル基と、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン中の水素原子とのヒドロシリル化反応を、進行・促進させるための触媒である。白金族金属系触媒としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系などの触媒が挙げられ、特に白金系触媒として用いることが経済性、反応性の点から好ましい。
反応抑制剤(ヒドロシリル化用反応抑制剤)は、上記触媒(特に、白金族金属系触媒)の常温での触媒活性を抑制して、硬化性シリコーン組成物の可使時間を長くする所謂ポットライフ延長剤(遅延剤とも呼ばれる)である。反応抑制剤としては、例えば、各種有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン系化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などが挙げられる。特に、アセチレン系化合物(例えば、アセチレンアルコール類およびアセチレンアルコールのシリル化物)が好適である。
【0023】
(工程の手順)
支持基板上に上記硬化性シリコーン組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、例えば、塗布方法としては、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法などが挙げられる。このような方法の中から、硬化性シリコーン組成物の種類に応じて適宜選択することができる。
なお、硬化性シリコーン組成物層の厚みは特に制限されず、後述する好適な厚みを有するシリコーン樹脂層が得られるように適宜調整される。
【0024】
<搬入工程>
搬入工程S104は、加熱処理装置内に硬化性層付き支持基板を搬入し、加熱処理装置内の支持ピン上に硬化性層付き支持基板を載置する工程である。本工程を実施することにより、
図3に示すように、加熱処理装置30内の支持ピン34の先端(頂部)上に、硬化性層付き支持基板14に載置される。なお、支持ピン34は、硬化性層付き支持基板14中の支持基板10の裏面(硬化性シリコーン組成物層がある側とは反対側の面)を支持する。
以下では、まず、本工程で使用される加熱処理装置30について詳述する。
【0025】
図3は、本発明による加熱処理装置30の一例の概略を示す断面図である。加熱処理装置30は、後述する第1加熱工程S106での加熱処理を実施するための装置であり、いわゆるプリベーク装置である。
加熱処理装置30は、加熱チャンバ32内に、硬化性層付き支持基板14を支持する支持ピン34と、支持ピン34を支持する支持台36と、硬化性層付き支持基板14の上部に配置された板状の加熱プレート38とを備える。
図3においては、支持ピン34は2本しか図示していないが、その本数は特に制限されない。また、加熱処理装置30は、図示しない、加熱プレート38を昇降させる昇降機構を有しており、加熱プレート38は
図3中、上下に移動可能である。
【0026】
また、加熱処理装置30の上部には、排気手段(図示せず)と接続する排気管40が設けられており、図示しないガス供給口から加熱処理装置30内に供給された空気や、硬化性シリコーン組成物層12から揮発した溶媒などは、排気管40から排気される。さらに、加熱処理装置30の側方には、硬化性層付き支持基板14を搬入出するための搬入出口42が設けられている。
【0027】
本工程S104の手順としては、搬入出口42を介して硬化性層付き支持基板14を加熱処理装置30内に搬入させ、支持ピン34上に硬化性層付き支持基板14を載置する。
【0028】
<第1加熱工程>
第1加熱工程S106は、硬化性層付き支持基板の硬化性シリコーン組成物層上に加熱プレートを配置して、排気を行いながら、硬化性層付き支持基板に第1の温度以下で加熱処理を行い、硬化性シリコーン組成物層の残存する溶媒を除去する工程である。本工程S106はいわゆるプリベーク工程であり、本工程S106を実施することにより、硬化性シリコーン組成物層中に残存している溶媒を除去すると共に、適切な温度で加熱することで硬化性シリコーン組成物表面を平滑化することができる。このようにプリベーク処理を実施した後、後述する第2加熱工程S112にてポストベーク処理を実施することにより、形成されるシリコーン樹脂層中に残存する溶媒をさらに除去することで表面面状がより平坦となり、ガラス基板との密着性がより向上する。
【0029】
本工程S106では、
図3に示すように、硬化性層付き支持基板14の上部に加熱プレート38が配置され、加熱処理が実施される。なお、
図3に示すように、加熱プレート38は、硬化性シリコーン組成物層12と対向する。
加熱プレート38と硬化性シリコーン組成物層12との距離は特に制限されないが、硬化性シリコーン組成物層12からの溶媒の除去が効率的に進行すると共に、硬化性シリコーンの分解が抑制される点で、30〜120mmが好ましく、60〜90mmがより好ましい。
なお、本工程S106においては、加熱プレート38と硬化性シリコーン組成物層12との距離を段階的に変化させながら加熱処理を行ってもよい。例えば、加熱プレート38と硬化性シリコーン組成物層12との距離を段階的に遠ざけながら、加熱処理を実施してもよい。より具体的には、加熱プレート38と硬化性シリコーン組成物層12との間が距離Xの条件で加熱処理を行い、次に、距離Xよりも加熱プレート38と硬化性シリコーン組成物層12とを遠ざけた条件(加熱プレート38と硬化性シリコーン組成物層12との距離Y>距離X)で再度加熱処理を実施してもよい。
【0030】
本工程S106での加熱処理の条件としては、使用される溶媒や硬化性シリコーンの種類により適宜最適な条件が選択されるが、溶媒の除去性がより優れ、硬化性シリコーン組成物層の表面が平坦になると共に、硬化性シリコーンの分解がより抑制される点で、第1の温度は、溶媒の初留点−30℃〜溶媒の初留点+30℃の範囲内であることが好ましい。言い換えると、第1の温度Xは、以下の関係式を満たすことが好ましい。
式 溶媒の初留点−30℃≦温度X≦溶媒の初留点+30℃
なお、溶媒の初留点とは、JIS K0066(1992)に従って測定される値を意味する。
さらに、第1の温度としては、硬化性シリコーン組成物層の表面が平坦になると共に、硬化性シリコーンの分解がより抑制される点で、210℃以下にて加熱処理が実施されることが好ましい。なかでも、シリコーン樹脂層の凝集破壊をより抑制できる点で、150〜210℃が好ましく、180〜205℃がより好ましい。
加熱時間は特に制限されず、使用される溶媒や硬化性シリコーンの種類により適宜最適な条件が選択されるが、残存溶媒の除去性、および、生産性の点から、1〜5分が好ましく、2〜3分がより好ましい。
【0031】
本工程S106では、排気を実施しながら加熱処理を行う。
図3に示すように、加熱処理装置30には排気管40が設けられており、加熱処理の際には、該排気管40にて排気を行う。排気量は特に制限されないが、溶媒の除去がより効率的に進行する点から、100L/min以上が好ましく、900L/min以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、装置の性能および経済性の点から、2000L/min以下が好ましい。
なお、上記排気量は、排気管40からの排気全開時を100%とした場合、50%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0032】
本工程S106を実施する際には、図示しないガス供給口からガスを供給してもよい。ガスを供給することにより、加熱チャンバ32内の揮発溶媒を効率的に除去することができる。供給されるガスの種類は特に制限されず、空気や、窒素などの不活性ガスなどが挙げられる。
ガスの供給量は特に制限されないが、溶媒の除去がより効率的に進行する点から、100L/min以上が好ましく、900L/min以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、装置の性能および経済性の点から、2000L/min以下が好ましい。
また、供給されるガスとしては、硬化性シリコーン組成物層中の残存溶媒の除去性がより優れる点で、加熱空気が供給されることが好ましい。加熱空気の温度は特に制限されないが、溶媒の除去性と硬化性シリコーン組成物層の表面平滑性の点から、100〜150℃が好ましい。
【0033】
<移動工程>
移動工程S108は、上記第1加熱工程S106の後、加熱処理が施された硬化性シリコーン組成物層と、加熱プレートとを遠ざける工程である。より具体的には、
図3においては、矢印の方向に加熱プレート38を移動させることにより、硬化性シリコーン組成物層12と加熱プレート38とを遠ざけて、両者の間の距離をあけ、両者の間の空間を広げる。本工程S108を実施することにより、硬化性シリコーン組成物層12と加熱プレート38との間に滞留していた溶媒の濃度を薄めることができ、溶媒の除去性が向上すると共に、硬化性シリコーン組成物層12上への再度の溶媒の付着を抑制することができる。
【0034】
上述したように、加熱処理装置30には、図示しない、加熱プレート38を昇降させる昇降機構が備わっており、該昇降機構によって加熱プレート38が硬化性シリコーン組成物層12から遠ざかるように移動する。
硬化性シリコーン組成物層12と加熱プレート38とが遠ざかる距離としては、上記第1加熱工程S106時の両者の距離からさらに20mm以上離れることが好ましく、40mm以上離れることがより好ましい。上限は特に制限されないが、装置上の大きさの問題より、通常、100mm以下の場合が多い。
加熱プレート38の移動時間は特に制限されないが、生産性の点から、5秒以内が好ましく、3秒以内がより好ましい。
【0035】
なお、
図3の態様においては、加熱プレート38が移動して、硬化性シリコーン組成物層12と加熱プレート38との間の距離が広がったが、本工程S108の手順はこの態様に限定されず、硬化性シリコーン組成物層12を含む硬化性層付き支持基板14を移動させ、両者を遠ざけてもよい。例えば、支持ピンがいわゆるリフトピンである場合は、第1加熱工程S106の後に硬化性層付き支持基板を支持するリフトピンと降下させて、硬化性シリコーン組成物層と加熱プレートとを遠ざけてもよい。
【0036】
<搬出工程>
搬出工程S110は、加熱処理装置から硬化性層付き支持基板を搬出する工程である。
本工程S110では、加熱処理装置30の搬入出口42を介して、硬化性層付き支持基板14が、加熱処理装置30内から搬出される。つまり、搬入出口42を開けて、加熱処理装置30内から硬化性層付き支持基板14を回収する。
【0037】
<第2加熱工程>
第2加熱工程S112は、上記搬出工程S110で回収された硬化性層付き支持基板に上記第1の温度より高い第2の温度で加熱処理を行い、シリコーン樹脂層を得る工程である。本工程S112はいわゆるポストベーク処理であり、本工程S112を実施することにより、硬化性シリコーン組成物層中の溶媒がさらに除去されることで硬化性シリコーンの硬化が進行し、シリコーン樹脂層が得られる。本工程を実施することにより、
図2(B)に示すように、支持基板10とシリコーン樹脂層16とを備える樹脂層付き支持基板18が得られる。
【0038】
本工程S112での加熱処理の方法は特に制限されず、オーブンなどの公知の加熱装置を使用することができる。
本工程S112の加熱処理の温度条件は、上述した第1加熱工程S106の第1の温度よりも高い温度で実施する。第1の温度と第2の温度との差は特に制限されず、使用される硬化性シリコーンや溶媒の種類により適宜最適な条件が選択されるが、シリコーン樹脂層の凝集破壊がより抑制される点より、10〜100℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。
なかでも、第2の温度としては、210℃超であることが好ましい。シリコーン樹脂層16での溶媒除去、および、硬化反応がより優れる点で、210℃超250℃以下が好ましい。加熱時間は、使用される材料により適宜最適な条件が選択されるが、生産性および溶媒の除去性の点から、10〜120分間が好ましく、20〜60分間がより好ましい。
【0039】
(樹脂層付き支持基板)
上記工程を経ることにより、支持基板10と、支持基板10上に固定されたシリコーン樹脂層16とを備える樹脂層付き支持基板18が得られる。
該樹脂層付き支持基板18は、
図4に示すように、シリコーン樹脂層16上にガラス基板20を積層してガラス積層体100を製造するために使用される。
樹脂層付き支持基板18中のシリコーン樹脂層16は、支持基板10上で硬化性シリコーン組成物層12の硬化反応を実施することで支持基板10の片面上に固定されており、また、後述するガラス基板20と剥離可能に密着する。シリコーン樹脂層16は、ガラス基板20と支持基板10とを分離する操作が行われるまでガラス基板20の位置ずれを防止すると共に、分離操作によってガラス基板20から容易に剥離し、ガラス基板20などが分離操作によって破損するのを防止する。また、シリコーン樹脂層16は支持基板10に固定されており、分離操作においてシリコーン樹脂層16と支持基板10とは剥離せず、分離操作によって樹脂層付き支持基板18が得られる。
シリコーン樹脂層16のガラス基板20と接する表面は、ガラス基板20の第1主面に剥離可能に密着する。本発明では、このシリコーン樹脂層16表面の容易に剥離できる性質を易剥離性(剥離性)という。
【0040】
本発明において、上記固定と剥離可能な密着は剥離強度(すなわち、剥離に要する応力)に違いがあり、固定は密着に対し剥離強度が大きいことを意味する。また、剥離可能な密着とは、剥離可能であると同時に、固定されている面の剥離を生じさせることなく剥離可能であることも意味する。具体的には、本発明のガラス積層体において、ガラス基板20と支持基板10とを分離する操作を行った場合、密着された面で剥離し、固定された面では剥離しないことを意味する。したがって、ガラス積層体をガラス基板20と支持基板10に分離する操作を行うと、ガラス積層体はガラス基板20と樹脂層付き支持基板18の2つに分離される。
つまり、シリコーン樹脂層16の支持基板10の表面に対する結合力は、シリコーン樹脂層16のガラス基板20の第1主面に対する結合力よりも相対的に高い。
【0041】
シリコーン樹脂層16の厚さは特に限定されないが、2〜100μmであることが好ましく、3〜50μmであることがより好ましく、7〜20μmであることがさらに好ましい。シリコーン樹脂層16の厚さがこのような範囲であると、シリコーン樹脂層16とガラス基板20との間に気泡や異物が介在することがあっても、ガラス基板20のゆがみ欠陥の発生を抑制することができる。また、シリコーン樹脂層16の厚さが厚すぎると、形成するのに時間および材料を要するため経済的ではなく、耐熱性が低下する場合がある。また、シリコーン樹脂層16の厚さが薄すぎると、シリコーン樹脂層16とガラス基板20との密着性が低下する場合がある。
【0042】
<ガラス積層体の製造方法>
上述したように、上記工程を得て得られる樹脂層付き支持基板は、シリコーン樹脂層上にガラス基板を積層してガラス積層体を製造するために使用される。
該ガラス積層体を製造する方法は特に制限されないが、樹脂層付き支持基板中のシリコーン樹脂層上にガラス基板を積層して、支持基板とシリコーン樹脂層とガラス基板とをこの順で有するガラス積層体を得る積層工程を実施することが好ましい。
以下、積層工程の手順について詳述する。
【0043】
(積層工程)
積層工程は、樹脂層付き支持基板18中のシリコーン樹脂層16の表面上にガラス基板20を積層し、支持基板10の層とシリコーン樹脂層16とガラス基板20の層とをこの順で備えるガラス積層体100を得る工程である。より具体的には、
図4に示すように、シリコーン樹脂層16の支持基板10側とは反対側の表面16aと、第1主面20aおよび第2主面20bを有するガラス基板20の第1主面20aとを積層面として、シリコーン樹脂層16とガラス基板20とを積層し、ガラス積層体100を得る。
使用されるガラス基板20については、後段で詳述する。
【0044】
ガラス基板20をシリコーン樹脂層16上に積層する方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
例えば、常圧環境下でシリコーン樹脂層16の表面上にガラス基板20を重ねる方法が挙げられる。なお、必要に応じて、シリコーン樹脂層16の表面上にガラス基板20を重ねた後、ロールやプレスを用いてシリコーン樹脂層16にガラス基板20を圧着させてもよい。ロールまたはプレスによる圧着により、シリコーン樹脂層16とガラス基板20の層との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。
【0045】
真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると、気泡の混入の抑制や良好な密着の確保が行われるのでより好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱により気泡が成長することがなく、ガラス基板20のゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。
【0046】
ガラス基板20を積層する際には、シリコーン樹脂層16に接触するガラス基板20の表面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。クリーン度が高いほど、ガラス基板20の平坦性は良好となるので好ましい。
【0047】
なお、ガラス基板20を積層した後、必要に応じて、プレアニール処理(加熱処理)を行ってもよい。該プレアニール処理を行うことにより、積層されたガラス基板20のシリコーン樹脂層16に対する密着性が向上し、適切な剥離強度とすることができ、後述する部材形成工程の際に電子デバイス用部材の位置ずれなどが生じにくくなり、電子デバイスの生産性が向上する。
プレアニール処理の条件は使用されるシリコーン樹脂層16の種類に応じて適宜最適な条件が選択されるが、ガラス基板20とシリコーン樹脂層16の間の剥離強度をより適切なものとする点から、300℃以上(好ましくは、300〜400℃)で5分間以上(好ましく、5〜30分間)加熱処理を行うことが好ましい。
【0048】
(ガラス基板)
ガラス基板20は、第1主面20aがシリコーン樹脂層16と接し、シリコーン樹脂層16側とは反対側の第2主面20bに電子デバイス用部材が設けられる。
ガラス基板20の種類は、一般的なものであってよく、例えば、LCD、OLEDといった表示装置用のガラス基板などが挙げられる。ガラス基板20は耐薬品性、耐透湿性に優れ、且つ、熱収縮率が低い。熱収縮率の指標としては、JIS R 3102(1995年改正)に規定されている線膨張係数が用いられる。
【0049】
ガラス基板20の線膨張係数が大きいと、後述する部材形成工程は加熱処理を伴うことが多いので、様々な不都合が生じやすい。例えば、ガラス基板20上にTFTを形成する場合、加熱下でTFTが形成されたガラス基板20を冷却すると、ガラス基板20の熱収縮によって、TFTの位置ずれが過大になるおそれがある。
【0050】
ガラス基板20は、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを板状に成形して得られる。このような成形方法は、一般的なものであってよく、例えば、フロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法、フルコール法、ラバース法などが用いられる。また、特に厚さが薄いガラス基板20は、いったん板状に成形したガラスを成形可能温度に加熱し、延伸などの手段で引き伸ばして薄くする方法(リドロー法)で成形して得られる。
【0051】
ガラス基板20のガラスの種類は特に限定されないが、無アルカリホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスが好ましい。酸化物系ガラスとしては、酸化物換算による酸化ケイ素の含有量が40〜90質量%のガラスが好ましい。
【0052】
ガラス基板20のガラスとしては、電子デバイス用部材の種類やその製造工程に適したガラスが採用される。例えば、液晶パネル用のガラス基板は、アルカリ金属成分の溶出が液晶に影響を与えやすいことから、アルカリ金属成分を実質的に含まないガラス(無アルカリガラス)からなる(ただし、通常アルカリ土類金属成分は含まれる)。このように、ガラス基板20のガラスは、適用されるデバイスの種類およびその製造工程に基づいて適宜選択される。
【0053】
ガラス基板20の厚さは、ガラス基板20の薄型化および/または軽量化の観点から、0.3mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15mm以下であり、さらに好ましくは0.10mm以下である。0.3mm以下の場合、ガラス基板20に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、ガラス基板20をロール状に巻き取ることが可能である。
また、ガラス基板20の厚さは、ガラス基板20の製造が容易であること、ガラス基板20の取り扱いが容易であることなどの理由から、0.03mm以上であることが好ましい。
【0054】
なお、ガラス基板20は2層以上からなっていてもよく、この場合、各々の層を形成する材料は同種材料であってもよいし、異種材料であってもよい。また、この場合、「ガラス基板20の厚さ」は全ての層の合計の厚さを意味するものとする。
【0055】
(ガラス積層体)
ガラス積層体100は、支持基板10の層とガラス基板20の層とそれらの間にシリコーン樹脂層16が存在する積層体である。シリコーン樹脂層16は、その一方の面が支持基板10の層に接すると共に、その他方の面がガラス基板20の第1主面20aに接している。
このガラス積層体100は、後述する部材形成工程まで使用される。即ち、このガラス積層体100は、そのガラス基板20の第2主面20b表面上に液晶表示装置などの電子デバイス用部材が形成されるまで使用される。その後、電子デバイス用部材が形成されたガラス積層体は、樹脂層付き支持基板18と電子デバイスに分離され、樹脂層付き支持基板18は電子デバイスを構成する部分とはならない。樹脂層付き支持基板18には新たなガラス基板20が積層され、新たなガラス積層体100として再利用することができる。
【0056】
支持基板10とシリコーン樹脂層16の界面は剥離強度(x)を有し、支持基板10とシリコーン樹脂層16の界面に剥離強度(x)を越える引き剥がし方向の応力が加えられると、支持基板10とシリコーン樹脂層16の界面が剥離する。シリコーン樹脂層16とガラス基板20の界面は剥離強度(y)を有し、シリコーン樹脂層16とガラス基板20の界面に剥離強度(y)を越える引き剥がし方向の応力が加えられると、シリコーン樹脂層16とガラス基板20の界面が剥離する。
上述したように、ガラス積層体100(後述の電子デバイス用部材付き積層体も意味する)においては、上記剥離強度(x)は上記剥離強度(y)よりも大きい(高い)。したがって、ガラス積層体100に支持基板10とガラス基板20とを引き剥がす方向の応力が加えられると、ガラス積層体100は、シリコーン樹脂層16とガラス基板20の界面で剥離してガラス基板20と樹脂層付き支持基板18に分離する。
つまり、シリコーン樹脂層16は支持基板10上に固定されて樹脂層付き支持基板18を形成し、ガラス基板20はシリコーン樹脂層16上に剥離可能に密着している。
【0057】
剥離強度(x)は、剥離強度(y)と比較して、充分高いことが好ましい。剥離強度(x)を高めることは、支持基板10に対するシリコーン樹脂層16の付着力を高め、かつ加熱処理後においてガラス基板20に対してよりも相対的に高い付着力を維持できることを意味する。
支持基板10に対するシリコーン樹脂層16の付着力を高めるためには、上述したように、硬化性シリコーン組成物層12を支持基板10上で架橋硬化させてシリコーン樹脂層16を形成することによりなされる。架橋硬化の際の接着力で、支持基板10に対して高い結合力で結合したシリコーン樹脂層16を形成することができる。
一方、硬化性シリコーン組成物層12の硬化物のガラス基板20に対する結合力は、上記架橋硬化時に生じる結合力よりも低いのが通例である。
【0058】
ガラス積層体100は、種々の用途に使用することができ、例えば、後述する表示装置用パネル、PV、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品を製造する用途などが挙げられる。なお、該用途では、ガラス積層体100が高温条件(例えば、360℃以上)で曝される(例えば、1時間以上)場合が多い。
ここで、表示装置用パネルとは、LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル、量子ドットLEDパネル、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)シャッターパネル等が含まれる。
【0059】
<電子デバイス(部材付きガラス基板)およびその製造方法>
本発明においては、上述したガラス積層体を用いて、ガラス基板と電子デバイス用部材とを含む電子デバイス(部材付きガラス基板)が製造される。
該電子デバイスの製造方法は特に限定されないが、電子デバイスの生産性に優れる点から、上記ガラス積層体中のガラス基板上に電子デバイス用部材を形成して電子デバイス用部材付き積層体を製造し、得られた電子デバイス用部材付き積層体からシリコーン樹脂層のガラス基板側界面を剥離面として電子デバイスと樹脂層付き支持基板とに分離する方法が好ましい。
以下、上記ガラス積層体中のガラス基板上に電子デバイス用部材を形成して電子デバイス用部材付き積層体を製造する工程を部材形成工程、電子デバイス用部材付き積層体からシリコーン樹脂層のガラス基板側界面を剥離面として電子デバイスと樹脂層付き支持基板とに分離する工程を分離工程という。
以下に、各工程で使用される材料および手順について詳述する。
【0060】
(部材形成工程)
部材形成工程は、上記積層工程において得られたガラス積層体100中のガラス基板20上に電子デバイス用部材を形成する工程である。より具体的には、
図5(A)に示すように、ガラス基板20の第2主面20b(露出表面)上に電子デバイス用部材22を形成し、電子デバイス用部材付き積層体24を得る。
まず、本工程で使用される電子デバイス用部材22について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0061】
(電子デバイス用部材(機能性素子))
電子デバイス用部材22は、ガラス積層体100中のガラス基板20上に形成され電子デバイスの少なくとも一部を構成する部材である。より具体的には、電子デバイス用部材22としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、または、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品などに用いられる部材(例えば、表示装置用部材、太陽電池用部材、薄膜2次電池用部材、電子部品用回路)が挙げられる。
【0062】
例えば、太陽電池用部材としては、シリコン型では、正極の酸化スズなど透明電極、p層/i層/n層で表されるシリコン層、および負極の金属等が挙げられ、その他に、化合物型、色素増感型、量子ドット型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、薄膜2次電池用部材としては、リチウムイオン型では、正極および負極の金属または金属酸化物等の透明電極、電解質層のリチウム化合物、集電層の金属、封止層としての樹脂等が挙げられ、その他に、ニッケル水素型、ポリマー型、セラミックス電解質型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、電子部品用回路としては、CCDやCMOSでは、導電部の金属、絶縁部の酸化ケイ素や窒化珪素等が挙げられ、その他に圧力センサ・加速度センサなど各種センサやリジッドプリント基板、フレキシブルプリント基板、リジッドフレキシブルプリント基板などに対応する各種部材等を挙げることができる。
【0063】
(工程の手順)
上述した電子デバイス用部材付き積層体24の製造方法は特に限定されず、電子デバイス用部材の構成部材の種類に応じて従来公知の方法にて、ガラス積層体100のガラス基板20の第2主面20b表面上に、電子デバイス用部材22を形成する。
なお、電子デバイス用部材22は、ガラス基板20の第2主面20bに最終的に形成される部材の全部(以下、「全部材」という)ではなく、全部材の一部(以下、「部分部材」という)であってもよい。シリコーン樹脂層16から剥離された部分部材付きガラス基板を、その後の工程で全部材付きガラス基板(後述する電子デバイスに相当)とすることもできる。
また、シリコーン樹脂層16から剥離された、全部材付きガラス基板には、その剥離面(第1主面20a)に他の電子デバイス用部材が形成されてもよい。また、全部材付き積層体を組み立て、その後、全部材付き積層体から支持基板10を剥離して、電子デバイスを製造することもできる。さらに、全部材付き積層体を2枚用いて組み立て、その後、全部材付き積層体から2枚の支持基板10を剥離して、2枚のガラス基板を有する部材付きガラス基板を製造することもできる。
【0064】
例えば、OLEDを製造する場合を例にとると、ガラス積層体100のガラス基板20のシリコーン樹脂層16側とは反対側の表面上(ガラス基板20の第2主面20bに該当)に有機EL構造体を形成するために、透明電極を形成する、さらに透明電極を形成した面上にホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する、裏面電極を形成する、封止板を用いて封止する、等の各種の層形成や処理が行われる。これらの層形成や処理として、具体的には、例えば、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理等が挙げられる。
【0065】
また、例えば、TFT−LCDを製造する場合は、ガラス積層体100のガラス基板20の第2主面20b上に、レジスト液を用いて、CVD法およびスパッター法など、一般的な成膜法により形成される金属膜および金属酸化膜等にパターン形成して薄膜トランジスタ(TFT)を形成するTFT形成工程と、別のガラス積層体100のガラス基板20の第2主面20b上に、レジスト液をパターン形成に用いてカラーフィルタ(CF)を形成するCF形成工程と、TFT形成工程で得られたTFT付き積層体とCF形成工程で得られたCF付き積層体とを積層する貼合わせ工程等の各種工程を有する。
【0066】
TFT形成工程やCF形成工程では、周知のフォトリソグラフィ技術やエッチング技術等を用いて、ガラス基板20の第2主面20bにTFTやCFを形成する。この際、パターン形成用のコーティング液としてレジスト液が用いられる。
なお、TFTやCFを形成する前に、必要に応じて、ガラス基板20の第2主面20bを洗浄してもよい。洗浄方法としては、周知のドライ洗浄やウェット洗浄を用いることができる。
【0067】
貼合わせ工程では、TFT付き積層体の薄膜トランジスタ形成面と、CF付き積層体のカラーフィルタ形成面とを対向させて、シール剤(例えば、セル形成用紫外線硬化型シール剤)を用いて貼り合わせる。その後、TFT付き積層体とCF付き積層体とで形成されたセル内に、液晶材を注入する。液晶材を注入する方法としては、例えば、減圧注入法、滴下注入法がある。
【0068】
(分離工程)
分離工程は、
図5(B)に示すように、上記部材形成工程で得られた電子デバイス用部材付き積層体24から、シリコーン樹脂層16とガラス基板20との界面を剥離面として、電子デバイス用部材22が積層したガラス基板20(電子デバイス)と、樹脂層付き支持基板18とに分離して、電子デバイス用部材22およびガラス基板20を含む電子デバイス26を得る工程である。
剥離時のガラス基板20上の電子デバイス用部材22が必要な全構成部材の形成の一部である場合には、分離後、残りの構成部材をガラス基板20上に形成することもできる。
【0069】
ガラス基板20と支持基板10とを剥離する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、ガラス基板20とシリコーン樹脂層16との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。好ましくは、電子デバイス用部材付き積層体24の支持基板10が上側、電子デバイス用部材22側が下側となるように定盤上に設置し、電子デバイス用部材22側を定盤上に真空吸着し(両面に支持基板が積層されている場合は順次行う)、この状態でまず刃物をガラス基板20−シリコーン樹脂層16界面に刃物を侵入させる。そして、その後に支持基板10側を複数の真空吸着パッドで吸着し、刃物を差し込んだ箇所付近から順に真空吸着パッドを上昇させる。そうするとシリコーン樹脂層16とガラス基板20との界面やシリコーン樹脂層16の凝集破壊面へ空気層が形成され、その空気層が界面や凝集破壊面の全面に広がり、支持基板10を容易に剥離することができる。
また、支持基板10は、新たなガラス基板と積層して、本発明のガラス積層体100を製造することができる。
【0070】
なお、電子デバイス用部材付き積層体24から電子デバイス26を分離する際においては、イオナイザによる吹き付けや湿度を制御することにより、シリコーン樹脂層16の欠片が電子デバイス26に静電吸着することをより抑制することができる。
【0071】
上述した電子デバイス26の製造方法は、携帯電話やPDAのようなモバイル端末に使用される小型の表示装置の製造に好適である。表示装置は主としてLCDまたはOLEDであり、LCDとしては、TN型、STN型、FE型、TFT型、MIM型、IPS型、VA型等を含む。基本的にパッシブ駆動型、アクティブ駆動型のいずれの表示装置の場合でも適用することができる。
【0072】
上記方法で製造された電子デバイス26としては、ガラス基板と表示装置用部材を有する表示装置用パネル、ガラス基板と太陽電池用部材を有する太陽電池、ガラス基板と薄膜2次電池用部材を有する薄膜2次電池、ガラス基板と電子デバイス用部材を有する電子部品などが挙げられる。表示装置用パネルとしては、液晶パネル、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネルなどを含む。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0074】
以下の実施例および比較例では、ガラス基板として、無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦880mm、横680mm、板厚0.2mm、線膨張係数38×10
-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。また、支持基板としては、同じく無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦920mm、横730mm、板厚0.5mm、線膨張係数38×10
-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。
【0075】
<実施例1>
初めに、支持基板の表面をアルカリ、純水の順に洗浄して清浄化した。
次に、後述する溶液Xをダイコーター(塗布速度:40mm/s、吐出量:8ml)にて支持基板の第1主面上に塗布して、未硬化の架橋性オルガノポリシロキサンを含む層(硬化性シリコーン組成物層)を支持基板上に設けて、硬化性層付き支持基板を得た(塗工量20g/m
2)。
【0076】
(溶液X)
成分(A)として直鎖状ビニルメチルポリシロキサン(「VDT−127」、25℃における粘度700−800cP(センチポアズ):アヅマックス製、オルガノポリシロキサン1molにおけるビニル基のmol%:0.325)と、成分(B)として直鎖状メチルヒドロポリシロキサン(「HMS−301」、25℃における粘度25−35cP(センチポアズ):アヅマックス製、1分子内におけるケイ素原子に結合した水素原子の数:8個)とを、全ビニル基と全ケイ素原子に結合した水素原子とのモル比(水素原子/ビニル基)が0.9となるように混合し、このシロキサン混合物100重量部に対して、成分(C)として下記式(1)で示されるアセチレン系不飽和基を有するケイ素化合物(沸点:120℃)1質量部を混合した。
HC≡C−C(CH
3)
2−O−Si(CH
3)
3 式(1)
次いで成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量に対して、白金換算で白金金属濃度が100ppmとなるように白金系触媒(信越シリコーン株式会社製、CAT−PL−56)を加えオルガノポリシロキサン組成物の混合液を得た。さらに、得られた混合液に100重量部に対して、IPソルベント2028(初留点:200℃、出光興産製)を150重量部加えて混合溶液を得た。
【0077】
次に、
図3に示す加熱処理装置内の搬入出口を介して、硬化性層付き支持基板を加熱チャンバ内に搬入し、加熱チャンバの底部に設けられた複数の支持ピンの先端に、上記硬化性層付き支持基板を載置し、搬出入口を閉じた。なお、支持ピンの先端は、硬化性層付き支持基板中の支持基板の裏面側(硬化性シリコーン組成物層がある側とは反対側)の表面と接触していた。
加熱処理装置内には、
図3に示すように、硬化性層付き支持基板の硬化性シリコーン組成物層の上部に加熱プレートが配置され、硬化性シリコーン組成物層と加熱プレートとの距離は70mmであった。
まず、該加熱プレートにより200℃で60秒間にわたって硬化性層付き支持基板を加熱し、次に、硬化性シリコーン組成物と加熱プレートとの距離を80mmに変更して、さらに90秒間加熱を行った。
なお、加熱処理の際には、960L/minの条件で排気を行う(排気管からの排気量は全開時に該当)と共に、加熱空気(温度120℃)を1000L/minを供給した。
【0078】
加熱処理終了後に、加熱プレートを硬化性シリコーン組成物層から遠ざけるように50mm移動させた。その後、加熱処理装置の搬入出口を開けて、加熱処理が施された硬化性層付き支持基板を加熱処理装置内から搬出した。
【0079】
その後、上記加熱処理後の硬化性層付き支持基板を別の加熱処理装置に入れ、さらに250℃で1450秒間の加熱処理(ポストベーク処理)を実施して、支持基板の第1主面に厚さ8μmのシリコーン樹脂層を形成した。
次に、ガラス基板と、支持基板上のシリコーン樹脂層面とを、室温下で大気圧プレスにより貼り合わせ、ガラス積層体S1を得た。
得られたガラス積層体S1においては、支持基板とガラス基板は、シリコーン樹脂層と気泡を発生することなく密着しており、歪み状欠点もなく、平滑性も良好であった。なお、ガラス積層体S1においては、シリコーン樹脂層と支持基板の層との界面の剥離強度が、ガラス基板の層とシリコーン樹脂層との界面の剥離強度よりも大きかった。
【0080】
<実施例2>
加熱処理の際の排気量を960L/minから500L/minに変更し、加熱空気の供給量を1000L/minから600L/minに変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体S2を製造した。なお、ガラス積層体S2においては、シリコーン樹脂層と支持基板の層との界面の剥離強度が、ガラス基板の層とシリコーン樹脂層との界面の剥離強度よりも大きかった。
【0081】
<比較例1>
加熱処理終了後に、加熱プレートを移動させることなく、加熱処理後の硬化性層付き支持基板を加熱処理装置から搬出した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体Cを製造した。
【0082】
<凝集破壊評価>
上記実施例および比較例で得られたガラス積層体を100mm×75mmに切断して、窒素雰囲気下にて350℃で60分間加熱処理を行った。
そして、加熱処理後のガラス積層体を25mm×75mmに切断し、4箇所のうち1箇所のコーナー部におけるガラス基板とシリコーン樹脂層の界面に厚さ0.1mmのステンレス製刃物を10mm挿入させて剥離の切欠部を形成し、互いにガラス基板と支持基板が分離する方向に外力を加えて、ガラス基板と支持基板を分離した。
剥離されたガラス基板のシリコーン樹脂層と接触していた評価対象表面(25mm×65mm)を目視により観察して、シリコーン樹脂層の付着率(%){(剥離されたガラス基板上のシリコーン樹脂層側の表面に付着しているシリコーン樹脂層の面積/観察面積)×100}を求め、以下の基準に従って評価した。付着率が大きいほど、シリコーン樹脂層の一部が凝集破壊していることを意図する。
「○」:付着率が5%未満の場合
「△」:付着率が5%以上10%未満の場合
「×」:付着率が10%以上の場合
【0083】
上記凝集破壊評価の結果としては、実施例1において「○」、実施例2において「△」、比較例1において「×」という評価結果であった。
該結果より、加熱プレートと硬化性シリコーン組成物層との距離を遠ざける処理を実施しなかった比較例1においてシリコーン樹脂層の凝集破壊が進行しやすいことが確認された。
なお、実施例1と実施例2との結果より、排気量が多いほうが、凝集破壊がより抑制される点が確認された。
【0084】
<実施例3>
本例では、実施例1で得た、ガラス積層体S1を用いてOLEDを製造する。
まず、ガラス積層体S1におけるガラス基板の第2主面上に、プラズマCVD法により窒化シリコン、酸化シリコン、アモルファスシリコンの順に成膜する。次に、イオンドーピング装置により低濃度のホウ素をアモルファスシリコン層に注入し、窒素雰囲気下、加熱処理し脱水素処理をおこなう。次に、レーザアニール装置によりアモルファスシリコン層の結晶化処理をおこなう。次に、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングおよびイオンドーピング装置より、低濃度のリンをアモルファスシリコン層に注入し、N型およびP型のTFTエリアを形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、プラズマCVD法により酸化シリコン膜を成膜してゲート絶縁膜を形成した後に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成する。次に、フォトリソグラフィ法とイオンドーピング装置により、高濃度のホウ素とリンをN型、P型それぞれの所望のエリアに注入し、ソースエリアおよびドレインエリアを形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、プラズマCVD法による酸化シリコンの成膜で層間絶縁膜を、スパッタリング法によりアルミニウムの成膜およびフォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりTFT電極を形成する。次に、水素雰囲気下、加熱処理し水素化処理をおこなった後に、プラズマCVD法による窒素シリコンの成膜で、パッシベーション層を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、紫外線硬化性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィ法により平坦化層およびコンタクトホールを形成する。次に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより画素電極を形成する。
続いて、蒸着法により、ガラス基板の第2主面側に、正孔注入層として4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、正孔輸送層としてビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン、発光層として8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq
3)に2,6−ビス[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニル]アミノスチリル]ナフタレン−1,5−ジカルボニトリル(BSN−BCN)を40体積%混合したもの、電子輸送層としてAlq
3をこの順に成膜する。次に、スパッタリング法によりアルミニウムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより対向電極を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、紫外線硬化型の接着層を介してもう一枚のガラス基板を貼り合わせて封止する。上記手順によって、ガラス基板上に有機EL構造体を形成する。ガラス基板上に有機EL構造体を有するガラス積層体S1(以下、パネルAという。)が、本発明の電子デバイス用部材付き積層体である。
続いて、パネルAの封止体側を定盤に真空吸着させたうえで、パネルAのコーナー部のガラス基板と樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、ガラス基板と樹脂層の界面に剥離のきっかけを与える。そして、パネルAの支持基板表面を真空吸着パッドで吸着した上で、吸着パッドを上昇させる。ここで刃物の差し込みは、イオナイザ(キーエンス社製)から除電性流体を当該界面に吹き付けながら行う。次に、形成した空隙へ向けてイオナイザからは引き続き除電性流体を吹き付けながら、かつ、水を剥離前線に差しながら真空吸着パッドを引き上げる。その結果、定盤上に有機EL構造体が形成されたガラス基板のみを残し、樹脂層付き支持基板を剥離することができる。
続いて、分離されたガラス基板をレーザーカッタまたはスクライブ−ブレイク法を用いて切断し、複数のセルに分断した後、有機EL構造体が形成されたガラス基板と対向基板とを組み立てて、モジュール形成工程を実施してOLEDを作製する。こうして得られるOLEDは、特性上問題は生じない。