(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137035
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】塩化ニッケル溶液の浄液方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/06 20060101AFI20170522BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
C22B23/06
C22B3/44 101A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-89729(P2014-89729)
(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公開番号】特開2015-209551(P2015-209551A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨紀
(72)【発明者】
【氏名】横川 友彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 靖匡
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−062303(JP,A)
【文献】
特開2005−089808(JP,A)
【文献】
特開昭63−083234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液の浄液方法であって、
塩化ニッケル溶液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離する溶媒抽出工程と、
前記溶媒抽出工程後の塩化ニッケル溶液に含まれる不純物を酸化中和法により除去する酸化中和工程と、を備え、
前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上5.5以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整する
ことを特徴とする塩化ニッケル溶液の浄液方法。
【請求項2】
不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液の浄液方法であって、
コバルト濃度が10mg/L以下の塩化ニッケル溶液に含まれる不純物を酸化中和法により除去する酸化中和工程を備え、
前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上5.5以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整する
ことを特徴とする塩化ニッケル溶液の浄液方法。
【請求項3】
不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液の浄液方法であって、
酸化中和法により塩化ニッケル溶液中のニッケルを析出させるとともに不純物を共沈させる酸化中和工程を備え、
前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上5.5以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整する
ことを特徴とする塩化ニッケル溶液の浄液方法。
【請求項4】
前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを5.0以上5.2以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の塩化ニッケル溶液の浄液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ニッケル溶液の浄液方法に関する。さらに詳しくは、不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液から不純物を除去するための塩化ニッケル溶液の浄液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルの湿式製錬プロセスでは、原料であるニッケル硫化物を塩素浸出し、得られた浸出液から不純物を除去して、電解採取により電気ニッケルを回収することが行われる。
【0003】
原料のニッケル硫化物は、従来はニッケルマットが主流であったが、近年では原料の多様化により、低品位ラテライト鉱を硫酸浸出し、浸出液中のニッケルとコバルトを硫化物として回収して得たニッケル・コバルト混合硫化物が用いられるようになってきた。また、同一の湿式製錬プロセスの原料としてニッケルマットとニッケル・コバルト混合硫化物の両方を用いることが行われるが、原料に占めるニッケル・コバルト混合硫化物の割合は年々高くなってきている。
【0004】
特許文献1には、ニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出して得られるニッケル浸出液を酸化中和法により浄液する方法が開示されている。特許文献1の浄液方法は、(1)ニッケル浸出液とニッケル電解廃液との混合割合を調整することにより、ニッケル濃度が90〜130g/L、コバルト濃度が1.0〜3.0g/Lである塩化ニッケル溶液を調整し、(2)塩化ニッケル溶液に酸化剤を用いて酸化還元電位を600〜1,200mV(銀/塩化銀電極基準)とし、かつ中和剤を用いてpHを4.0〜6.0とすることで、(3)Ni/Co比が3以下のコバルト澱物を除去する。そのため、コバルト澱物への過剰なニッケルの共沈を防止でき、その分の酸化剤および中和剤の使用量を低減できる。
【0005】
特許文献1における酸化中和工程では、塩化ニッケル溶液中のコバルトを析出させるとともに、その他の不純物を共沈させることで、塩化ニッケル溶液から不純物を除去している。その反応を下記化1に示す。ここで、酸化剤として塩素ガス(Cl
2)、中和剤として塩基性炭酸ニッケル(Ni
3(CO
3)(OH)
4・4H
2O)を用いている。
(化1)
CoCl
2 + 1/2Cl
2 + 1/2Ni
3(CO
3)(OH)
4・4H
2O → Co(OH)
3 + 3/2NiCl
2 + 1/2CO
2↑ + 3/2H
2O
【0006】
ところで、ニッケル・コバルト混合硫化物はニッケルマットに比べてコバルト品位が高いため、原料に占めるニッケル・コバルト混合硫化物の割合が高くなると、その原料を塩素浸出して得られたニッケル浸出液はコバルト濃度が高くなる。コバルト濃度が高いニッケル浸出液を酸化中和法により浄液すると、酸化剤および中和剤の使用量が増加するという問題が生じる。
【0007】
この問題を解決するため、溶媒抽出により、塩化ニッケル溶液に含まれるコバルトを塩化コバルト溶液として分離する方法が知られている(例えば、特許文献2)。溶媒抽出により塩化ニッケル溶液に含まれるコバルトの大部分が除去される。溶媒抽出後の塩化ニッケル溶液には微量のコバルト、鉛、マンガン等の不純物が含まれるため、これらの不純物は酸化中和法により除去される。
【0008】
ここで、溶媒抽出後の塩化ニッケル溶液にニッケル電解廃液を混合して希釈するとコバルト濃度が10mg/L以下となり、特許文献1の場合(コバルト濃度1.0〜3.0g/L)に比べて非常に低い値となる。そのため、酸化中和法により塩化ニッケル溶液中のコバルトを析出させることで、その他の不純物を共沈させることが困難となる。その結果、酸化中和工程における塩素効率が60%以下となり、不純物の除去効率が悪くなる。不純物を目標値まで除去するためには、多量の酸化剤および中和剤が必要となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−157604号公報
【特許文献2】特開2011−6759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、効率よく不純物を除去できる塩化ニッケル溶液の浄液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の塩化ニッケル溶液の浄液方法は、不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液の浄液方法であって、塩化ニッケル溶液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離する溶媒抽出工程と、前記溶媒抽出工程後の塩化ニッケル溶液に含まれる不純物を酸化中和法により除去する酸化中和工程と、を備え、前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上5.5以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下
の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整することを特徴とする。
第2発明の塩化ニッケル溶液の浄液方法は、不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液の浄液方法であって、コバルト濃度が10mg/L以下の塩化ニッケル溶液に含まれる不純物を酸化中和法により除去する酸化中和工程を備え、前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上5.5以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下
の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整することを特徴とする。
第3発明の塩化ニッケル溶液の浄液方法は、不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液の浄液方法であって、酸化中和法により塩化ニッケル溶液中のニッケルを析出させるとともに不純物を共沈させる酸化中和工程を備え、前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上5.5以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下
の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整することを特徴とする。
第4発明の塩化ニッケル溶液の浄液方法は、第1、第2または第3発明において、前記酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを5.0以上5.2以下、かつ、銀/塩化銀基準の酸化還元電位を900mV以上1,100mV以下
の範囲であって、pHおよび酸化還元電位をニッケルイオンの安定領域に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、溶媒抽出工程後のコバルト濃度が低い塩化ニッケル溶液であっても、酸化中和工程における塩素効率を向上させることができ、効率よく不純物を除去できる。そのため、酸化剤および中和剤の使用量を低減できる。
第2発明によれば、コバルト濃度が10mg/L以下の塩化ニッケル溶液であっても、酸化中和工程における塩素効率を向上させることができ、効率よく不純物を除去できる。そのため、酸化剤および中和剤の使用量を低減できる。
第3発明によれば、塩化ニッケル溶液中のニッケルを析出させるとともに不純物を共沈させるので、コバルト濃度が低い塩化ニッケル溶液であっても、酸化中和工程における塩素効率を向上させることができ、効率よく不純物を除去できる。そのため、酸化剤および中和剤の使用量を低減できる。
第4発明によれば、コバルト濃度が低い塩化ニッケル溶液であっても、酸化中和工程における塩素効率を向上させることができ、効率よく不純物を除去できる。そのため、酸化剤および中和剤の使用量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ニッケルの湿式製錬プロセスの全体工程図である。
【
図2】実施例における操業監視項目の値を示す表である。
【
図3】ニッケル濃度100g/L、反応温度50℃におけるニッケル水酸化物の電位−pH図と、実施例の操業条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る塩化ニッケル溶液の浄液方法は、以下に説明するニッケルの湿式製錬プロセスに適用される。なお、本発明に係る塩化ニッケル溶液の浄液方法は、塩化ニッケル溶液の由来を問わず、不純物として少なくともコバルトを含む塩化ニッケル溶液を浄液するプロセスであれば、いかなるプロセスにも適用される。
【0015】
図1に示すように、ニッケルの湿式製錬プロセスでは、まず、原料であるニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド)およびニッケルマットを塩素浸出してニッケル浸出液を得る。ニッケル浸出液は、主成分が塩化ニッケル溶液であり、コバルトのほか、鉛やマンガン等の不純物が含まれる。
【0016】
塩素浸出工程から得られたニッケル浸出液は溶媒抽出工程に送られる。溶媒抽出工程では、ニッケル浸出液(塩化ニッケル溶液)に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、塩化ニッケル溶液と塩化コバルト溶液とを得る。なお、説明の便宜のため、溶媒抽出工程から得られた塩化ニッケル溶液および塩化コバルト溶液を、それぞれ粗塩化ニッケル溶液および粗塩化コバルト溶液と称する。粗塩化ニッケル溶液には、不純物として微量のコバルトのほか、鉛やマンガン等が含まれる。また、ニッケル濃度は160〜200g/Lである。
【0017】
溶媒抽出工程に用いられる有機溶媒は特に限定されないが、ニッケルとコバルトを分離する溶媒抽出法では、有機抽出剤として、Cyanex272に代表される燐酸エステル系酸性抽出剤や、TNOA(Tri-n-octylamine)、TIOA(Tri-i-octylamine)等に代表されるアミン系抽出剤が用いられる。一般的には、液中の金属イオンおよび塩化物イオン濃度が高い塩化物水溶液の場合には、アミン系抽出剤が好ましく用いられる。また、アミン系抽出剤として、ニッケルとコバルトとの選択性に優れる3級アミンを用いる場合には、必要により芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素からなる希釈剤が混合される。
【0018】
溶媒抽出工程後の粗塩化ニッケル溶液に希釈剤を添加して希釈することにより塩化物イオン濃度を低下させる(希釈工程)。ここで、希釈の指標としては粗塩化ニッケル溶液のニッケル濃度が用いられる。粗塩化ニッケル溶液のニッケル濃度と塩化物イオン濃度との間には相関関係があるからである。具体的には、溶媒抽出工程後の粗塩化ニッケル溶液(ニッケル濃度160〜200g/L)を、ニッケル濃度が90〜130g/Lとなるように希釈する。なお、希釈後の粗塩化ニッケル溶液のコバルト濃度は10mg/L以下となる。
【0019】
粗塩化ニッケル溶液のニッケル濃度を130g/L以下に調整することにより、コバルトのクロロ錯体を不安定化してコバルトを3価とし、酸化中和工程においてコバルト澱物として十分沈殿させることが可能となる。また、粗塩化ニッケル溶液のニッケル濃度を90g/L以上に調整することにより、希釈剤の添加量を抑えて、粗塩化ニッケル溶液の液量の大幅な増加を抑制できるので、設備容量を増加させる必要がない。
【0020】
希釈剤としてはニッケル電解廃液を用いることが好ましい。ニッケル電解廃液は、後述の電解工程において清澄塩化ニッケル溶液を電解液として用いた後の廃液として得られる。ニッケル電解廃液を希釈剤として用いることで、湿式製錬プロセスの系内全体の液量を増加させないようにすることができる。希釈剤としてニッケル電解廃液に代えて工業用水を用いてもよい。工業用水を用いれば、ニッケル電解廃液を用いるよりも、少量の液量で粗塩化ニッケル溶液を目的とする塩化物濃度にまで希釈することが可能となる。
【0021】
希釈後の粗塩化ニッケル溶液は酸化中和工程に送られる。酸化中和工程では、粗塩化ニッケル溶液に酸化剤と中和剤を添加して、粗塩化ニッケル溶液に含まれる不純物を酸化中和法により除去する。
【0022】
ここで、酸化剤としては、酸化還元電位を上昇させることができるものであれば特に限定されないが、不純物の蓄積が生じない塩素ガスが好ましい。また、中和剤としては、特に限定されないが、不純物の蓄積が生じない塩基性炭酸ニッケル、炭酸ニッケルまたは水酸化ニッケルが好ましい。
【0023】
酸化中和工程では、粗塩化ニッケル溶液中のニッケルを析出させるとともに、コバルト、鉛、マンガン等の不純物を共沈させることで、粗塩化ニッケル溶液から不純物を除去する。その反応を下記化2に示す。ここで、酸化剤として塩素ガス(Cl
2)、中和剤として塩基性炭酸ニッケル(Ni
3(CO
3)(OH)
4・4H
2O)を用いている。また、澱物の詳細な化学式は明らかでないが、便宜上Ni(OH)
3であると仮定している。
(化2)
NiCl
2 + 1/2Cl
2 + 1/2Ni
3(CO
3)(OH)
4・4H
2O → Ni(OH)
3 + 3/2NiCl
2 + 1/2CO
2↑ + 3/2H
2O
【0024】
以上の操作により不純物が除去された塩化ニッケル溶液が得られる。なお、説明の便宜のため、酸化中和工程から得られた塩化ニッケル溶液を清澄塩化ニッケル溶液と称する。
【0025】
澱物と清澄塩化ニッケル溶液とが混合されたスラリーは、フィルターで固液分離され、清澄塩化ニッケル溶液と澱物とに分けられる。清澄塩化ニッケル溶液は電解工程に送られる。電解工程では、清澄塩化ニッケル溶液を電解液として用い、不溶性アノードを陽極として用いて、電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0026】
一方、澱物にはニッケル、コバルト、鉛、マンガン、塩素等が含まれており、その主成分はニッケルの水酸化物である。そのため、硫酸ニッケルの原料の一つとして、硫酸ニッケル製造工程に送られる。
【0027】
本実施形態は、以上の湿式製錬プロセスの酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上5.5以下、好ましくは5.0以上5.2以下、かつ、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を900mV以上1,100mV以下に調整するところに特徴を有する。ここで、pHの調整は中和剤の添加量を調整することにより行うことができ、酸化還元電位の調整は酸化剤の添加量を調整することにより行うことができる。
【0028】
酸化中和工程における塩化ニッケル溶液のpHおよび酸化還元電位を上記の範囲に調整することで、溶媒抽出工程後のコバルト濃度が低い(10mg/L以下)塩化ニッケル溶液であっても、酸化中和工程における塩素効率を向上させることができ、効率よく不純物を除去できる。具体的には、塩素効率を90%以上に向上させることができる。そのため、酸化剤および中和剤の使用量を低減できる。
【0029】
ここで、塩素効率は、以下に示すように、酸化中和工程に実際に供給した塩素の量(実績値)と、化1または化2から求められる澱物(Co(OH)
3またはNi(OH)
3)の製造に必要な塩素の量(理論値)との比として定義される。
塩素効率[%] = 澱物製造に必要な塩素量(理論値)/塩素使用量(実績値)×100
【0030】
また、本実施形態の酸化中和工程では、塩化ニッケル溶液中のニッケルを析出させるとともに不純物を共沈させるので、これによっても、コバルト濃度が低い塩化ニッケル溶液であっても、酸化中和工程における塩素効率を向上させることができ、効率よく不純物を除去できる。
【0031】
本願発明者は、上記のように塩素効率が向上する理由を、酸化中和工程の操業条件をニッケル水酸化物の安定領域に近づけたためであると考える。すなわち、
図3に示すような電位−pH図において、酸化中和工程における酸化還元電位およびpHを、Ni
2+の安定領域としつつも、Ni(OH)
3の安定領域との境界に近づけることで、塩素効率が向上するのである。
【実施例】
【0032】
つぎに、実施例を説明する。
上記湿式製錬プロセスに基づき、2011年10月から2012年5月までの8ヶ月間操業を行った。希釈工程では粗塩化ニッケル溶液にニッケル電解廃液を添加して希釈し、酸化中和工程では酸化剤として塩素ガス、中和剤として炭酸ニッケルを用いた。
【0033】
溶媒抽出工程後の粗塩化ニッケル溶液(希釈前)の組成は表1に示す通りである。ここで、各組成は化学分析により求めた。
【表1】
【0034】
酸化中和工程後の清澄塩化ニッケル溶液は、8ヶ月間の操業の間、ニッケル、コバルト、鉛、銅、亜鉛の組成に変化がみられなかった。その組成を表2に示す。ここで、各組成は化学分析により求めた。
【表2】
【0035】
図2に、各月(2011年10月から2012年5月)の操業監視項目の値を示す。操業監視項目は、酸化中和工程における塩化ニッケル溶液のpH、酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀基準)、酸化中和工程後の澱物中のニッケル量、酸化中和工程に投入した塩素の量、酸化中和工程の塩素効率、酸化中和工程後の清澄塩化ニッケル溶液のマンガン濃度(終液中Mn濃度)である。ここで、マンガン濃度は原子吸光分析により求めた。また、塩素効率および終液中Mn濃度を基に、各月の操業効率の合否を判定した。ここで、終液中Mn濃度を基準としたのは、除去が困難なマンガンの除去能力を考慮に入れるためである。なお、表中の×は不合格、○は合格、◎は最適を意味する。
【0036】
また、各月の操業条件をニッケル水酸化物(ニッケル濃度100g/L、反応温度50℃)の電位−pH図上にプロットしたものを
図3に示す。
【0037】
(実施例1:2012年4月)
酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.98、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を1031mVとして1ヶ月間操業した。
その結果、塩素効率は99%、終液中Mn濃度は0.005mg/Lであり、操業効率が良いことが確認された。
【0038】
(実施例2:2012年5月)
酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを5.02、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を1018mVとして1ヶ月間操業した。
その結果、塩素効率は125%、終液中Mn濃度は0.005mg/Lであり、操業効率がさらに良いことが確認された。
【0039】
(比較例1:2011年10月)
酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.81、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を1051mVとして1ヶ月間操業した。
その結果、塩素効率は55%、終液中Mn濃度は0.010mg/Lであった。
【0040】
(比較例2:2011年11月)
酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.71、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を1015mVとして1ヶ月間操業した。
その結果、塩素効率は37%、終液中Mn濃度は0.010mg/Lであった。
【0041】
(比較例3:2011年12月)
酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.78、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を1055mVとして1ヶ月間操業した。
その結果、塩素効率は40%、終液中Mn濃度は0.009mg/Lであった。
【0042】
(比較例4:2012年1月)
酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.81、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を1055mVとして1ヶ月間操業した。
その結果、塩素効率は48%、終液中Mn濃度は0.009mg/Lであった。
【0043】
(比較例5:2012年2月)
酸化中和工程において、塩化ニッケル溶液のpHを4.86、酸化還元電位(銀/塩化銀基準)を1053mVとして1ヶ月間操業した。
その結果、塩素効率は43%、終液中Mn濃度は0.014mg/Lであった。
【0044】
以上のように、塩化ニッケル溶液のpHを4.9以上とした実施例1、2では塩素効率がそれぞれ99%、125%であり、90%を超えている。特に、pHを5.0以上とした実施例2では塩素効率が125%であり、効果が高いことが分かる。また、終液中Mn濃度に関しても実施例1、2では0.007mg/L未満となり、高純度な電気ニッケルを得るために十分な値となっている。
【0045】
一方、塩化ニッケル溶液のpHを4.9未満とした比較例1〜5では、塩素効率が37〜55%と低くなっていることが分かる。また、終液中Mn濃度に関しても0.007mg/L以上であり、高純度が電気ニッケルを得るために十分な値ではない。