(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記式(1)で表される希土類酸化物を主成分として含む透光性セラミックス又は下記式(1)で表される希土類酸化物の単結晶からなり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であることを特徴とする磁気光学材料。
(TbxGdyR1-x-y)2O3 (1)
(式中、xは0.3以上1未満、yは0.1以上0.3以下、x+y<1であり、Rはイットリウム、ルテチウム、ツリウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である。)
光路長10mmとして波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmで入射させた場合、熱レンズが発生しないレーザー光の入射パワーの最大値が30W以上であることを特徴とする請求項1記載の磁気光学材料。
上記焼結助剤又はフラックスが、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化ケイ素、酸化ストロンチウムよりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物であって、その添加量が5質量%以下であることを特徴とする請求項5記載の磁気光学材料。
上記磁気光学材料をファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータである請求項7記載の磁気光学デバイス。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力化が可能となってきたこともあり、ファイバーレーザーを用いたレーザー加工機の普及が目覚しい。ところで、レーザー加工機に組み込まれるレーザー光源は、外部からの光が入射すると共振状態が不安定化し、発振状態が乱れる現象が起こる。特に発振された光が途中の光学系で反射されて光源に戻ってくると、発振状態は大きく撹乱される。これを防止するために、通常光アイソレータが光源の手前等に設けられる。
【0003】
光アイソレータは、ファラデー回転子と、ファラデー回転子の光入射側に配置された偏光子と、ファラデー回転子の光出射側に配置された検光子とからなる。また、ファラデー回転子は、光の進行方向に平行に磁界を加えて利用する。このとき、光の偏波線分はファラデー回転子中を前進しても後進しても一定方向にしか回転しなくなる。更に、ファラデー回転子は光の偏波線分が丁度45度回転される長さに調整される。ここで、偏光子と検光子の偏波面を前進する光の回転方向に45度ずらしておくと、前進する光の偏波は偏光子位置と検光子位置で一致するため透過する。他方、後進する光の偏波は検光子位置から45度ずれている偏光子の偏波面のずれ角方向とは逆回転に45度回転することになる。すると、偏光子位置における戻り光の偏波面は偏光子の偏波面に対して45度−(−45度)=90度のずれとなり、偏光子を透過できない。こうして前進する光は透過、出射させ、後進する戻り光を遮断する光アイソレータとして機能する。
【0004】
上記光アイソレータを構成するファラデー回転子として用いられる材料では、従来からTGG結晶(Tb
3Ga
5O
12)やTSAG結晶(Tb
(3-x)Sc
2Al
3O
12)が知られている(特開2011−213552号公報(特許文献1)、特開2002−293693号公報(特許文献2))。TGG結晶のベルデ定数は比較的大きく、40rad/(T・m)であり、現在標準的なファイバーレーザー装置用として広く搭載されている。TSAG結晶のベルデ定数はTGG結晶の1.3倍程度あるとされており、こちらもファイバーレーザー装置に搭載される材料である。
【0005】
上記以外では、特開2010−285299号公報(特許文献3)に、(Tb
xR
1-x)
2O
3(xは、0.4≦x≦1.0)であり、Rは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ユウロピウム、ガドリニウム、イッテルビウム、ホルミウム及びルテチウムよりなる群から選択される酸化物を主成分とする単結晶あるいはセラミックスが開示されている。上記成分からなる酸化物は、ベルデ定数が0.18min/(Oe・cm)以上あり、実施例では最大0.33min/(Oe・cm)のものまで記載がある。また、同一文献の本文中にはTGGのベルデ定数が0.13min/(Oe・cm)とも記載されている。両者のベルデ定数の差は実に2.5倍に達している。
【0006】
また、特開2011−121837号公報(特許文献4)、あるいは特開2013−91601号公報(特許文献5)にも類似成分からなる酸化物が開示されており、TGG単結晶よりも大きなベルデ定数を有すると記載されている。
【0007】
上記特許文献3、4、5のように、ベルデ定数の大きな光アイソレータが得られると、ファラデー回転子における45度回転するために必要な全長を短くすることができ、光アイソレータの小型化につながり好ましい
【0008】
ところで、単位長さあたりのベルデ定数が非常に大きな材料として、鉄(Fe)を含むイットリウム鉄ガーネット(通称:YIG)単結晶がある(特開2000−266947号公報(特許文献6))。ただし、鉄(Fe)は波長0.9μmに大きな光吸収があり、波長0.9〜1.1μm帯の光アイソレータにはこの光吸収の影響が出る。そのため、このイットリウム鉄ガーネット単結晶を用いた光アイソレータは、高出力化傾向の著しいファイバーレーザー装置での利用は困難となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献3、4、5に開示されている(Tb
xR
1-x)
2O
3酸化物は、確かに特許文献1に開示されているTGG結晶、あるいは特許文献3の本文中で言及されているTGG結晶に比べ、ベルデ定数が1.4〜2.5倍と非常に大きいが、該酸化物はその利用が想定される波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光をわずかながら吸収してしまう。近年のファイバーレーザー装置ではその出力のハイパワー化が進んでいることから、イットリウム鉄ガーネットのように大きな吸収があるのは論外としても、わずかに吸収のある光アイソレータであっても、そこに搭載すると熱レンズ効果によるビーム品質の劣化をまねき問題となる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光の吸収が抑制され、そのため高出力のレーザー光に対しても熱レンズが発生しにくく、ベルデ定数がTGG結晶よりも大きく、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適な磁気光学材料及び磁気光学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の磁気光学材料及び磁気光学デバイスを提供する。
〔1〕 下記式(1)で表される希土類酸化物を主成分として含む透光性セラミックス又は下記式(1)で表される希土類酸化物の単結晶からなり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であることを特徴とする磁気光学材料。
(Tb
xGd
yR
1-x-y)
2O
3 (1)
(式中、xは0.3以上1未満、yは0.1以上0.3以下、x+y<1であり、Rはイットリウム、ルテチウム、ツリウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウ
ムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素であ
る。)
〔2〕 光路長10mmとして波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmで入射させた場合、熱レンズが発生しないレーザー光の入射パワーの最大値が30W以上であることを特徴とする〔1〕記載の磁気光学材料。
〔3〕 光路長10mm当たりの波長1064nmの光の透過率が70%以上である〔1〕又は〔2〕記載の磁気光学材料。
〔4〕 立方晶の結晶構造を有することを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の磁気光学材料。
〔5〕 更に、焼結助剤又はフラックスを含有することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の磁気光学材料。
〔6〕 上記焼結助剤又はフラックスが、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化ケイ素、酸化ストロンチウムよりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物であって、その添加量が5質量%以下であることを特徴とする〔5〕記載の磁気光学材料。
〔7〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の磁気光学材料を用いて構成されることを特徴とする磁気光学デバイス。
〔8〕 上記磁気光学材料をファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータである〔7〕記載の磁気光学デバイス。
〔9〕 上記ファラデー回転子は、その光学面に反射防止膜を有することを特徴とする〔8〕記載の磁気光学デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高濃度にテルビウムを含むことでベルデ定数をTGG結晶よりも1.4倍以上大きくすることができ、且つ一定割合でガドリニウムを含むことで波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー装置に搭載してもビーム品質を劣化させることなく、小型化の可能な、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適な磁気光学材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[磁気光学材料]
以下、本発明に係る磁気光学材料について説明する。
本発明に係る磁気光学材料は、下記式(1)で表される希土類酸化物を主成分として含む透光性セラミックス又は下記式(1)で表される希土類酸化物の単結晶からなり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であることを特徴とするものである。
(Tb
xGd
yR
1-x-y)
2O
3 (1)
(式中、xは0.3以上1未満、yは0.1以上0.3以下、x+y<1であり、Rはイットリウム(Y)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、スカンジウム(Sc)、イッテルビウム(Yb)、ユーロピウム(Eu)よりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である(ただし、ユーロピウム単独は除く)。)
【0016】
テルビウム(Tb)は、鉄(Fe)を除く常磁性元素のなかで最大のベルデ定数をもつ材料であり、かつ波長1.06μmにおいて透明(光路長1mmにおける光の透過率が80%以上)であるため、この波長域の光アイソレータに使用するには最も適した元素である。ただし、この透明性を活かすためにはテルビウムが金属結合状態であってはならず、安定な化合物状態に仕上げる必要がある。
【0017】
ここで、安定で透明な化合物を形成する最も典型的な形態として酸化物が挙げられる。即ち、テルビウムを含む系からなる酸化物が波長域1.06μmの光アイソレータに使用するには好ましい。
【0018】
ただし、テルビウムは酸化物であっても、そのままでは相変化の影響が出るため、単結晶を引き上げることも、焼結によって透光性セラミックスを作製することも難しい。そこでテルビウムの酸化物と同じ結晶構造を有し、イオン半径がテルビウムのそれよりわずかに小さい希土類元素であって、更に1000℃以下での相変化のないものであって、かつ波長1.06μmにおける透明性の高い元素をテルビウム酸化物に酸化物として固溶させる必要がある。
【0019】
そのような元素として、イットリウム、ルテチウム、ツリウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウムが好適に利用できる。ただし、これらの希土類元素を1種類ないしは複数種類含み、かつテルビウムと固溶させた酸化物を作製してみると、その利用が想定される波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光をわずかながら吸収してしまうという事実が実験から確認された。
【0020】
ところが、そこへテルビウムのイオン半径よりわずかに大きな希土類元素であるガドリニウムを含んだ酸化物を作製してみると、その利用が想定される波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光をわずかながら吸収してしまう課題が低減されることが同じく実験から確認された。
【0021】
なお、テルビウムよりイオン半径がわずかに大きく、更に1000℃以下での相変化のない元素としてユーロピウムも挙げられる。ただし、ユーロピウムを大量に固溶させると、立方晶構造が不安定化するという別の課題も確認された。そのため、ユーロピウムは本発明の希土類酸化物に含めることは可能であるが、ガドリニウムのように積極的に主成分として大量に含ませない方が好ましい。
【0022】
いずれにせよ本発明にあっては、上記式(1)で表される希土類酸化物を主成分として含む透光性セラミックス又は上記式(1)で表される希土類酸化物の単結晶からなる磁気光学材料が、その利用が想定される波長帯0.9〜1.1μmでのわずかな吸収がより低減され、そのため熱レンズを生じさせずに入射できる入射パワーの最大値が増大することが判明した。
【0023】
上記式(1)中、Rとしてはイットリウム、ルテチウム、ツリウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ユーロピウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素を含むもの(ただし、ユーロピウム単独は除く)であれば特に限定されず、その他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、希土類元素であればエルビウム(Er)、ディスプロシウム(Dy)、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)が例示でき、様々な不可避的な不純物群として、希土類酸化物作製時に用いる金属容器由来の鉄、クロム、燐、また高温処理容器由来のタングステン、モリブデン等が典型的に例示できる。
【0024】
その他の元素の含有量は、モル比としてテルビウムの全量を100としたとき、10以下であることが好ましく、1以下であることが更に好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.001以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0025】
ここで、Rは1種類の元素単独であってもよいし、複数のRが任意の比率で含まれていてもよく、特に制限されない。これらの中でも、原料が入手容易であるという観点から、Rとしては、イットリウム、ルテチウムが好ましく、より好ましくはイットリウムである。
【0026】
式(1)中、xは0.3以上1未満であり、0.3以上0.8以下であることが好ましく、0.45以上0.75以下であることが更に好ましい。xが0.3未満であると、高いベルデ定数を得ることができない。また、xが上記範囲内であると高いベルデ定数が得られ、更に透明性に優れるので好ましい。特にxが0.8以下であると、テルビウムの相変化の影響によるクラックの発生が抑制されるので好ましい。
【0027】
式(1)中、yは0.1以上0.3以下である。yが上記範囲内であると、その利用が想定される波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光をわずかながら吸収してしまう課題が低減され、更に異相の析出も抑えられる。
なお、上記式(1)において、テルビウム及びガドリニウムのモル比合計は1未満であり、希土類元素Rのモル比との合計で1となる。
【0028】
本発明の磁気光学材料は、上記式(1)で表される希土類酸化物を主成分として含有する。即ち、本発明の磁気光学材料は、上記式(1)で表される希土類酸化物を主成分として含有していればよく、その他の成分を副成分として含有していてもよい。
【0029】
ここで、主成分として含有するとは、上記式(1)で表される希土類酸化物を50質量%以上含有することを意味する。式(1)で表される希土類酸化物の含有量は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、97質量%以上であることが特に好ましい。
【0030】
一般的に例示される、その他の副成分(主成分以外の成分)としては、単結晶育成の際にドープされるドーパント、フラックス、セラミックス製造の際に添加される焼結助剤等があり、マグネシウム、チタン、ケイ素、カルシウム、アルミニウム、ストロンチウム、バリウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物などが例示できる。なかでもセラミックス製造の際に添加される焼結助剤として好適な副成分としては、チタン、ケイ素、カルシウム、アルミニウム、バリウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物、ないしは炭酸塩が典型的に例示できる。
【0031】
本発明の磁気光学材料の製法としては、フローティングゾーン法、マイクロ引下げ法などの単結晶製造方法、並びにセラミックス製造法があり、いずれの製法を用いても構わない。ただし、一般に単結晶製造方法では固溶体の濃度比の設計に一定程度の制約があり、セラミックス製造法の方が本発明ではより好ましい。
【0032】
以下、本発明の磁気光学材料の製造方法の例としてセラミックス製造法について更に詳述するが、本発明の技術的思想を踏襲した単結晶製造方法を排除するものではない。
【0033】
《セラミックス製造法》
[原料]
本発明で用いる原料としては、テルビウム及びガドリニウム、並びに希土類元素R(Rは、イットリウム、ルテチウム、ツリウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ユーロピウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である(ただし、ユーロピウム単独は除く)。)からなる本発明の磁気光学材料の構成元素となる希土類金属粉末、ないしは硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、あるいは上記希土類の酸化物粉末等が好適に利用できる。
【0034】
それらを、テルビウム、ガドリニウム及びRの酸化物としてのモル比が上記式(1)の範囲となるように所定量秤量し、混合してから焼成して所望の構成の複合酸化物を得る方法が好ましい。なお、これら原料の純度は99.9質量%以上が好ましい。
【0035】
また、最終的には所望の構成の希土類酸化物粉末を用いてセラミックス製造をすることになるが、その際の粉末形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また、二次凝集している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された顆粒状粉末であっても好適に利用できる。
【0036】
更に、これらの原料粉末の調製工程については特に限定されない。共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。また、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0037】
本発明で用いる希土類酸化物粉末原料中には、適宜焼結抑制助剤(上記焼結助剤)を添加してもよい。特に高い透光性を得るためには、テルビウム酸化物、及びガドリニウム酸化物、またはRとして選択される希土類元素酸化物の組合せに見合った焼結抑制助剤を添加することが好ましい。ただし、その純度は99.9質量%以上が好ましい。なお、焼結抑制助剤を添加しない場合には、使用する原料粉末についてその一次粒子の粒径がナノサイズであって焼結活性が極めて高いものを選定するとよい。こうした選択は適宜なされてよい。
【0038】
更に、製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。こうした有機添加剤としては分散剤、結合剤、可塑剤、潤滑剤、離型剤などが例示できる。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、可塑剤、潤滑剤、離型剤等が好適に利用できる。
【0039】
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも91%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP)処理を行うことが好ましい。
【0040】
(プレス成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧するプレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧するCIP(Cold Isostatic Press)工程が利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。
【0041】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できる。脱脂温度も特に制限はないが、もしも有機添加剤が混合されている原料を用いる場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
【0042】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気は特に制限されないが、不活性ガス、酸素、水素、真空等が好適に利用できる。
【0043】
本発明の焼結工程における焼結温度は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には選択された出発原料を用いて、製造しようとする希土類酸化物焼結体の融点よりも数10℃から100℃乃至は200℃程度低温側の温度が好適に選定される。また、選定される温度の近傍に立方晶以外の相に相変化する温度帯が存在する希土類酸化物焼結体を製造する際には、厳密にその温度以下となるように管理して焼結すると、立方晶から非立方晶への相転移が事実上発生しないため材料中に光学歪やクラックなどが発生し難いメリットがある。
【0044】
本発明の焼結工程における焼結保持時間は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には数時間程度で十分な場合が多い。ただし、焼結工程後の希土類酸化物焼結体の相対密度は最低でも91%以上に緻密化されていなければならない。
【0045】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Press))処理を行う工程を設けることができる。
【0046】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr−O
2、Ar−SO
2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透光性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透光性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0047】
また、その際の処理温度(所定保持温度)は材料の種類及び/又は焼結状態により適宜設定すればよく、例えば1000〜2000℃、好ましくは1100〜1650℃の範囲で設定される。このとき、焼結工程の場合と同様に焼結体を構成する希土類酸化物の融点以下及び/又は相転移点以下とすることが必須であり、熱処理温度が2000℃超では本発明で想定している希土類酸化物焼結体が融点を超えるか相転移点を超えてしまい、適正なHIP処理を行うことが困難となる。また、熱処理温度が1000℃未満では焼結体の透光性改善効果が得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、焼結体を構成する希土類酸化物の特性を見極めながら適宜調整するとよい。
【0048】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン(Mo)、タングステン(W)が好適に利用できる。
【0049】
(光学研磨)
本発明の製造方法においては、上記一連の製造工程を経た透光性希土類酸化物焼結体(透光性セラミックス)について、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度はλ/8以下が好ましく、λ/10以下が特に好ましい(λ=633nmである)。なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学損失を更に低減させることも可能である。
【0050】
[磁気光学デバイス]
本発明の磁気光学材料は、磁気光学デバイス用途に好適であり、特に波長0.9〜1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
【0051】
図1は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子を光学素子として有する光学デバイスである光アイソレータの一例を示す断面模式図である。
図1において、光アイソレータ100は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子110を備え、該ファラデー回転子110の前後には、偏光材料である偏光子120及び検光子130が備えられている。また、光アイソレータ100は、ファラデー回転子110の光学軸上に偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置され、それらの側面のうちの少なくとも1面に磁石140が載置されていることが好ましい。
【0052】
また、上記光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置に好適に利用できる。即ち、レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを防止するのに好適である。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例
、参考例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、原料粉の一次粒径は、レーザー光回折法による重量平均値として求めた。
【0054】
[実施例1〜1
4、参考例1、比較例1〜5]
上記式(1)で表される希土類酸化物を主成分とする透光性セラミックスを作製した。
まず、信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、酸化ガドリニウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化ルテチウム粉末、酸化ツリウム粉末、酸化ホルミウム粉末、酸化スカンジウム粉末、酸化イッテルビウム粉末、酸化ユーロピウム粉末を用意した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。これらの原料粉の一次粒径はいずれも約200nmであった。更に焼結助剤として、第一稀元素化学工業(株)製酸化ジルコニウム粉末、アメリカンエレメンツ社製酸化ハフニウム粉末、和光純薬工業(株)製酸化アルミニウム粉末、関東化学(株)製の酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸バリウムの各粉末群を入手した。これらはいずれも純度99.9質量%以上であった。
【0055】
上記原料を用いて、テルビウムとガドリニウムのモル比率を変えながら、これらと式(1)の希土類元素Rとしてイットリウムと固溶させた系、ルテチウムと固溶させた系、ツリウムと固溶させた系、ホルミウムと固溶させた系、イッテルビウムと固溶させた系、更にスカンジウムやユーロピウムも固溶させた四元系の作製を行なった。ここで、それぞれの系の固溶比率(モル比率)が表1に示すものとなるように上記原料粉末を秤量し、用意した。また、表1に示すようにそれぞれの実施例のサンプルには酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等の焼結抑制助剤を適宜添加した。
【0056】
【表1】
【0057】
上記各原料に、更に有機分散剤と有機結合剤を加えた後、エタノール中でジルコニア製ボールミル分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後、スプレードライ処理を行って平均粒径が20μmの顆粒原料(出発原料)を作製した。
次に、得られた出発原料を直径40mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ6mmのロッド状に仮成形した後、198MPaの圧力で静水圧プレスしてCIP成形体を得た。続いて得られたCIP成形体をマッフル炉に入れ、大気中800℃で3時間熱処理して脱脂した。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1500〜1700℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が92%以上となるよう焼結温度や保持時間を調整した。
更に、上記焼結体について、加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度1500〜1700℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。
こうして得られた各セラミックス焼結体を、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(λ=633nm)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートした。ここで得られたサンプルの光学外観もチェックした。
【0058】
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルの前後に偏光素子をセットしてから磁石を被せ、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、透過率とベルデ定数、並びに熱レンズの発生しない入射パワーの最大値を測定した。
【0059】
(透過率の測定方法)
透過率は、波長1064nmの光を透過させたときの光の強度により測定され、以下の式に基づいて求めた。
透過率=I/Io×100
(式中、Iは透過光強度(長さ10mmの試料を透過した光の強度)、Ioは入射光強度を示す。)
【0060】
(ベルデ定数の測定方法)
ベルデ定数Vは、以下の式に基づいて求めた。
θ=V×H×L
(式中、θはファラデー回転角(min)、Vはベルデ定数、Hは磁界の大きさ(Oe)、Lはファラデー回転子の長さ(この場合、1cm)である。)
【0061】
(熱レンズの発生しない入射パワーの最大値の測定方法)
熱レンズの発生しない入射パワーの最大値は、それぞれの入射パワーの光を1.6mmの空間光にして出射させ、そこへファラデー回転子を挿入した際の焦点距離の変化が0.1m以下となるときの最大入射パワーを読み取ることにより求めた。
なお、使用したハイパワーレーザーは最大出力が100Wまでのため、これ以上の熱レンズ評価はできなかった。
これらの結果をすべて表2にまとめて示す。
【0062】
【表2】
【0063】
上記結果より、テルビニウムの固溶比率を0.3以上にするとベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)となり、またガドリニウムの固溶比率を0.3以下にすると無色透明の透光性セラミックス焼結体が得られ、かつガドリニウムの固溶比率を0.1以上にすると熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が30W以上となることが確認された。更に、テルビニウムとガドリニウム以外の固溶元素の選択が特に好ましい組合せの場合には、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が80W以上にまで改善されることも確認された。
逆に、比較例1からテルビニウムの固溶比率0.2以下ではベルデ定数0.1min/(Oe・cm)未満と小さいことも明らかとなった。またガドリニウムの固溶比率が0.4以上の場合(比較例2、3)には透光性が損なわれ、0.05以下の場合(比較例4)には熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が20W以下にとどまってしまうことも判明した。
【0064】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。