特許第6137260号(P6137260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137260
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/077 20060101AFI20170522BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20170522BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20170522BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20170522BHJP
   F16C 25/08 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F16C35/077
   F16C19/16
   F16C33/32
   F16C33/62
   F16C25/08 Z
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-194041(P2015-194041)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-67184(P2017-67184A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2016年5月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】小川 衛介
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−173593(JP,A)
【文献】 特開2003−306752(JP,A)
【文献】 特開2014−59060(JP,A)
【文献】 特開2000−39026(JP,A)
【文献】 特開2008−57657(JP,A)
【文献】 特開2015−59617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 13/00 − 13/06
F16C 19/06
F16C 19/16
F16C 35/04
F16C 35/067− 35/07
C23C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき浴中に浸漬されるセラミックス製ロールの軸部を回転自在に支持する軸受装置であって、
前記ロール軸部の軸線方向に配列された複数の軸受部材と、前記軸受部材を保持するセラミックス製ホルダーとを有し、
各軸受部材は、複数のセラミックス製ボールと、前記ボールが転動する周方向のボール溝を内周面に有するセラミックス製外輪と、前記ボールが転動する周方向のボール溝を外周面に有するとともに前記ロール軸部に摺接するセラミックス製内輪とからなり、
前記ホルダーは、前記軸受部材の前記外輪のみを固定する構造を有し、もって前記内輪は前記ボールを介して前記外輪に対して回動自在であり、
前記外輪の外周面の直径D2と前記ホルダーの内面の直径D1との差A(ただし、A=D1−D2、前記内輪の内周面の直径D3と前記ロール軸部の外周面の直径D4との差B(ただし、B=D3−D4、及び前記外輪ボール溝又は前記内輪ボール溝と前記ボールとの最大隙間CがA<B<Cの関係を満たすとともに、前記Aが0.01 mm以上であることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受装置において、前記Aが0.01〜0.17 mmであり、前記Bが0.02〜0.5 mmであることを特徴とする軸受装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の軸受装置において、前記ホルダーが、一端に内方フランジを有し他端に雌ねじ部を有するホルダー本体と、前記ホルダー本体の雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を有するナット部材とからなり、前記外輪が前記ホルダー本体に螺合した前記ナット部材及び前記内方フランジに固定されることを特徴とする軸受装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の軸受装置において、前記軸受部材がアンギュラ玉軸受構造を有することを特徴とする軸受装置。
【請求項5】
請求項4に記載の軸受装置において、
前記外輪の内周面は、前記ボール溝と、前記ボール溝の一方の側の第一の平坦部と、前記ボール溝の他方の側の第二の平坦部とからなり、
前記第一の平坦部の内径は、前記第二の平坦部の内径より大きく設定されており、
対向する前記外輪及び前記内輪のボール溝に前記第一の平坦部の側から前記ボールが入るが、前記外輪及び前記内輪の前記ボール溝から前記ボールが第二の平坦部の側に脱離しないように、前記第一及び第二の平坦部の内径が設定されており、
隣接する一対の軸受部材が、両外輪の前記第一の平坦部同士が対向するように配置されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項6】
請求項5に記載の軸受装置において、前記一対の軸受部材が軸線方向に2組以上配置されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の軸受装置において、各軸受部材のボール溝における前記ボールの充填率(ボールの充填率(%)は、全てのボールを接触させた時に生じる隙間の中心角をθとしたとき、[(360°−θ)/360°]×100で表される。)が80〜90%であることを特徴とする軸受装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の軸受装置において、前記軸受部材を形成するセラミックス及び前記ホルダーを形成するセラミックスが、室温から800℃の範囲において1×10-6/℃以下の熱膨張係数差を有することを特徴とする軸受装置。
【請求項9】
請求項8に記載の軸受装置において、前記セラミックスが窒化珪素質セラミックスであることを特徴とする軸受装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の軸受装置において、前記ホルダーの外面が、軸線方向両端から中央部にかけて拡径する凸曲面状であることを特徴とする軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板に亜鉛めっき等の金属めっきを施すために溶融金属めっき浴中に浸漬するシンクロールやサポートロール等のセラミックス製ロールの軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、表面を清浄化及び活性化した鋼板を亜鉛等の溶融金属めっき浴103中で走行させながら連続的にめっきを行う連続溶融金属めっき装置は、溶融金属めっき浴103中に深く浸漬されたシンクロール104と、溶融金属めっき浴103の浴面に近い位置に浸漬されたサポートロール105,105とを有する。シンクロール104の軸部104aは溶融金属めっき浴103中に進入したアーム106に回転自在に支持されており、また各サポートロール105の軸部105aは、溶融金属めっき浴103中に進入した各アーム107に回転自在に支持されている。
【0003】
焼鈍炉から送出された鋼板101は、酸化防止のスナウト102を通って溶融金属めっき浴103に浸漬され、回転自在のシンクロール104により進行方向を変えられる。シンクロール104を通過した鋼板101は浴面に近い位置で一対のサポートロール105,105で挟まれてパスラインを保ち、シンクロール104を通過した際に生じる鋼板101の反りや振動を防ぐ。溶融金属めっき浴103の上方にあるガスワイピングノズル108,108は、めっきした鋼板101に高速ガスを吹き付け、ガス圧及び吹き付け角度によりめっき層の厚さを均一化する。
【0004】
シンクロール104は鋼板101により常に上方に押圧され、また一対のサポートロール105,105も鋼板101により常に側方に押圧され回転しているので、シンクロール104の軸部104a及びサポートロール105,105の軸部105a,105aを軸受装置で回転自在に支持する必要がある。溶融金属めっき浴にはめっき形成の際に生成したドロスが含まれているので、溶融金属めっき浴中に浸漬された軸受装置の内部に溶融金属だけでなくドロスも進入する。溶融金属は軸受装置内で潤滑剤のような作用を有するが、ドロスは異物として作用するので、軸受装置の回転を妨害するおそれがある。
【0005】
このような溶融金属めっき浴中に浸漬されるシンクロールやサポートロールを回転自在に支持するための軸受に、最近耐食性及び耐摩耗性に優れたセラミックスが使用されるようになってきた。例えば、特開平5-230607号(特許文献1)は、溶融金属めっき浴中で回転自在に支持される耐熱合金製ガイドロールに使用される玉軸受又はコロ軸受であって、内輪、外輪及びリテーナの摺動面に固体潤滑性部材が固定されており、球状又は円柱状の転動体がサイアロン焼結体からなり、固体潤滑性部材がカーボン繊維を一方向に配向したピッチ系カーボンを焼結してなるC繊維分散黒鉛複合材からなる玉軸受又はコロ軸受を開示している。この軸受では、転動体のみがセラミックス製であり、内輪、外輪及びリテーナの摺動面がC繊維分散黒鉛複合材製であるので、溶融金属めっき浴中で使用する場合に十分な耐摩耗性を有さないだけでなく、リテーナを有する軸受構造では、進入したドロスにより転動体の回転が阻害されるおそれが大きい。
【0006】
実用新案登録2-548939号(特許文献2)は、図12に示すように、溶融めっき浴中に浸漬されたサポートロール201を回転自在に支持する玉軸受装置であって、サポートロール201の軸部202に固定されたセラミックス製内輪204と、内輪204と半径方向に対向するとともに軸受箱206に固定されたセラミックス製外輪208と、内輪204及び外輪208の間で転動する複数のセラミックス製ボール210と、ボール210の保持器212とを具備する玉軸受装置を開示している。この玉軸受装置では内輪204、外輪208及びボール210のいずれもセラミックス製であるので、それら自体は十分な耐食性及び耐摩耗性を有するが、各ボール210が保持器212に支持されているので、内輪204と外輪208の間に進入したドロス等の異物により保持器212に対するボール210の回転が停止するおそれが大きい。回転が停止したボール210は内輪204及び外輪208の溝を摺動するので、軸受の摩耗が著しく多くなる。しかも、軸受は一組の内輪204、外輪208及びボール210からなるので、一旦ボール210が内輪204及び外輪208に対して摺動するようになると、サポートロール201の振動が始まり、溶融めっきの品質が著しく低下してしまう。
【0007】
実開平5-72963号(特許文献3)は、図13に示すように、溶融めっき槽内でロール軸301を回転自在に支持する軸受装置であって、ロール軸301に嵌められたセラミックス製内輪304と、中心軸線に垂直な平面で二分割されたセラミックス製外輪306と、内輪304及び外輪306の軌道溝に回転自在に収容された玉308と、内周面に外輪306を受承する環状溝310が形成されたホルダ312と、ロール軸301の段部302との間に内輪304を固定するためにロール軸301に嵌められたスリーブ314と、各外輪306の軸方向端面とホルダ312の内面との間に設けられたスペーサ316とを具備し、内輪304、外輪306及び玉308がいずれもセラミックス製であり、ホルダ312及びスリーブ314がステンレススチール製であり、スペーサ316がアルミニウム合金製である軸受装置を開示している。熱膨張係数はアルミニウム合金>ステンレススチール>セラミックスの関係を有するので、アルミニウム合金製スペーサ316により溶融めっき槽内でステンレススチール製ホルダ312とセラミックス製外輪306との間に隙間が生じるのを防止している。しかし、この軸受装置では内輪304がロール軸301に固定されているので、溶融めっき浴中のドロスが内輪304と外輪306の間に進入して玉308の回転を停止させた場合、玉308の摺動により内輪304及び外輪306の軌道溝は著しく損傷するという問題がある。さらにスペーサ316は、亜鉛等の溶融金属に浸食され易いアルミニウム合金製であるため、上記の隙間防止効果は早期に失われると容易に推定される。
【0008】
特許文献1〜3の軸受はいずれもセラミックス製であるが、ロール自体は金属製である。しかし、シンクロールやサポートロールの溶融金属めっき浴中での使用条件は著しく過酷であるので、これらのロールにも優れた耐食性及び耐摩耗性が要求されるようになってきた。そのため、特許第4147509号(特許文献4)は、溶融金属浴中に浸漬して用いられる連続溶融金属めっき用ロールであって、セラミックス製の中空状ロール胴部と、セラミックス製の中空状軸部とからなり、中空状ロール胴部の両端部に中空状軸部を嵌合又は螺合により接合したことを特徴とするロールを提案している。
【0009】
しかし、(a) セラミックロール自体の交換サイクルの延長に応じて軸受の交換サイクルも延びないと、シンクロール装置やサポートロール装置全体の交換サイクルが十分に長くならないが、(b) 単にセラミックロールにセラミックス製軸受を組合せても、溶融金属めっき浴中のドロス等の異物が軸受に進入して軸受の回転が停止するという問題が生じ、十分な交換サイクルの延長が達成できないことが分った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5-230607号公報
【特許文献2】実用新案登録2548939号公報
【特許文献3】実開平5-72963号公報
【特許文献4】特許第4147509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の目的は、十分な耐食性及び耐摩耗性を有するとともに、ドロス等の異物が進入して軸受部材の回動が停止しても全体の回転抵抗を最小化し、もって交換サイクルを十分に延ばした軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、発明者は、(a) たとえ軸受をセラミックス製としても、溶融金属めっき浴中で長時間使用するとドロス等の異物の進入を完全に防止することができないこと、(b) 従って、ドロス等の異物が進入しても、ボールの回転停止をできるだけ防止して、長期間安定的に回転できる構造にするとともに、(c) 個々の軸受部材において幾つかのボールが回転停止しても、内輪及び外輪の異常摩耗等の損傷をできるだけ抑制しつつ、軸受装置全体の回転機能をできるだけ長く保持し得る構造にし、かつ(d) 個々の軸受部材の玉軸受機能が停止した場合に、外輪がホルダーに対して摺動せずに内輪がロール軸部に対して摺動するのを確実化することにより、セラミックロールに必要な長い交換サイクルを有する軸受装置が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0013】
すなわち、溶融金属めっき浴中に浸漬されるセラミックス製ロールの軸部を回転自在に支持する本発明の軸受装置は、
前記ロール軸部の軸線方向に配列された複数の軸受部材と、前記軸受部材を保持するセラミックス製ホルダーとを有し、
各軸受部材は、複数のセラミックス製ボールと、前記ボールが転動する周方向のボール溝を内周面に有するセラミックス製外輪と、前記ボールが転動する周方向のボール溝を外周面に有するとともに前記ロール軸部に摺接するセラミックス製内輪とからなり、
前記ホルダーは、前記軸受部材の前記外輪のみを固定する構造を有し、もって前記内輪は前記ボールを介して前記外輪に対して回動自在であり、
前記外輪の外周面の直径D2と前記ホルダーの内面の直径D1との差A(ただし、A=D1−D2、前記内輪の内周面の直径D3と前記ロール軸部の外周面の直径D4との差B(ただし、B=D3−D4、及び前記外輪ボール溝又は前記内輪ボール溝と前記ボールとの最大隙間CがA<B<Cの関係を満たすとともに、前記Aが0.01 mm以上であることを特徴とする。
【0014】
前記Aは0.01〜0.17 mmであるのが好ましく、前記Bは0.02〜0.5 mmであるのが好ましい。
【0015】
前記ホルダーは、一端に内方フランジを有し他端に雌ねじ部を有するホルダー本体と、前記ホルダー本体の雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を有するナット部材とからなり、前記外輪は前記ホルダー本体に螺合した前記ナット部材と前記内方フランジにより固定されるのが好ましい。
【0016】
前記軸受部材はアンギュラ玉軸受構造を有するのが好ましい。
【0017】
前記外輪の内周面は、前記ボール溝と、前記ボール溝の一方の側の第一の平坦部と、前記ボール溝の他方の側の第二の平坦部とからなり、前記第一の平坦部の内径は、前記第二の平坦部の内径より大きく設定されており、対向する前記外輪及び前記内輪のボール溝に前記第一の平坦部の側から前記ボールが入るが、前記ボール溝から前記ボールが第二の平坦部の側に脱離しないように、前記第一及び第二の平坦部の内径は設定されており、かつ隣接する一対の軸受部材は、両外輪の前記第一の平坦部同士が対向するように配置されているのが好ましい。
【0018】
前記一対の軸受部材は軸線方向に2組以上配置されているのが好ましい。
【0019】
各軸受部材のボール溝における前記ボールの充填率は80〜90%であるのが好ましい。
【0020】
前記軸受部材を形成するセラミックス及び前記ホルダーを形成するセラミックスは、室温から800℃の範囲において1×10-6/℃以下の熱膨張係数差を有するのが好ましい。
【0021】
前記セラミックは窒化珪素質セラミックスであるのが好ましい。
【0022】
前記ホルダーの外面は、軸線方向両端から中央部にかけて拡径する凸曲面状であるのが好ましい。
【0023】
前記軸受部材を収容した前記ホルダーは金属製のケースに支持されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の軸受装置は、ロール軸部の軸線方向に配列されたセラミックス製の複数の軸受部材と、各軸受部材の外輪を固定するセラミックス製のホルダーとを有し、各軸受部材の内輪がロール軸部に固定されずに摺接しており、かつ外輪の外周面の直径D2とホルダーの内面の直径D1との差A(ただし、A=D1−D2、内輪の内周面の直径D3とロール軸部の外周面の直径D4との差B(ただし、B=D3−D4、及び前記外輪ボール溝又は前記内輪ボール溝と前記ボールとの最大隙間CがA<B<Cの関係を満たすとともに、前記Aが0.01 mm以上であるので、(a) 内輪と外輪との間にドロス等の異物が進入してもボールの回転が妨害されにくく、(b) ドロス等の異物の進入の結果、幾つかのボールの回転が停止して外輪に対して内輪が回転しなくなっても、A<Bの関係のために内輪がロール軸部に対して摺動するので、ホルダーの損傷を防止でき、かつ(c) 摺動する軸受部材以外の軸受部材では外輪に対して内輪が回転し続けるので、装置全体の回転機能をできるだけ長く保持することができる。そのため、本発明の軸受装置はセラミックロールに使用したときに十分に長い交換サイクルを有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1(a)】セラミックロールの軸部に取り付けた本発明の軸受装置を示す断面図である。
図1(b)】図1(a) の軸受装置の端部側を示す側面図である。
図2(a)】本発明の軸受装置を構成する軸受部材を示す断面図である。
図2(b)】図2(a) の軸受部材を示す側面図である。
図2(c)】図2(a) の軸受部材を構成する外輪を示す断面図である。
図2(d)】図2(a) の軸受部材を構成する内輪を示す断面図である。
図2(e)】図2(a) の軸受部材の一部を示す拡大断面図である。
図3】外輪、内輪、ボール及びホルダーの直径の関係を示す部分拡大断面図である。
図4(a)】内輪同士が接触した一対の軸受部材を示す部分拡大断面図である。
図4(b)】図4(a) の一対の軸受部材を軸線方向に押圧して外輪も接触させた状態を示す部分拡大断面図である。
図5(a)】図1(a) の軸受装置を構成するホルダーを示す分解断面図である。
図5(b)】図5(a) のホルダー本体及びナット部材を組み立てた状態を示す断面図である。
図6(a)】図5(a) のホルダー本体の内方フランジ側を示す側面図である。
図6(b)】図5(a) のホルダー本体の入り口側を示す側面図である。
図6(c)】図6(a) のA-A断面図である。
図7図5(a) のナット部材のスリット側を示す側面図である。
図8(a)】軸受装置を収容するケースを示す断面図である。
図8(b)】図8(a) のケースの側板側を示す側面図である。
図8(c)】図8(a) のケースの端板側を示す側面図である。
図8(d)】図8(a) のケースの入り口側を示す側面図である。
図9】セラミックロールを示す断面図である。
図10(a)】セラミックロールの軸部を嵌入した軸受装置を示す部分断面図である。
図10(b)】セラミックロールの軸部を嵌入した軸受装置を示す端面図である。
図11】連続溶融金属めっき装置を示す概略断面図である。
図12】特許文献2の玉軸受装置を示す断面図である。
図13】特許文献3の軸受装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を添付図面を参照して以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0027】
[1] 軸受装置の構成
図1(a) 及び図1(b) に示すように、本発明の軸受装置1は、セラミックロール40の軸部42に沿って軸線方向に配列された複数の軸受部材10と、軸受部材10を保持するホルダー20とを有する。図2(a)〜図2(e) に示すように、各軸受部材10は、複数のボール11と、ボール11が転動する周方向のボール溝12aを内周面に有する外輪12と、ボール11が転動する周方向のボール溝13aを外周面に有するとともにロール軸部42に摺接する内輪13とからなる。本発明では、各軸受部材10を構成するボール11、外輪12及び内輪13は全て、耐食性及び耐摩耗性に優れ、高い高温強度を有するセラミックス製である。
【0028】
(A) 軸受部材
図2(c) 及び図2(e) に示すように、外輪12のボール溝12aは浅く、その一方の側に第一の平坦部12bを有し、他方の側に第二の平坦部12cを有する。第一の平坦部12bの直径はボール溝12aの底部の直径(ボール溝12aの最大直径)とほぼ同じであり、第二の平坦部12cの直径より2C1だけ大きい。C1はほぼ(ボール溝12aの最大直径−第二の平坦部12cの直径)/2に等しい。一方、図2(d) 及び図2(e) に示すように、内輪13のボール溝13aは深く、その両側に同じ直径の平坦部13b,13bを有する。そのため、内輪13のボール溝13aにボール11を収容した状態で、内輪13に外輪12を第一の平坦部12bの側から組合せると、ボール11が両ボール溝12a,13aに収容された軸受部材10に組み立てることができる。
【0029】
ボール11は外輪12及び内輪13のボール溝12a,13aにリテーナなしに収容される。ボール11の間隔一定に保つのにリテーナは有効であるが、ボール11とリテーナとの間隔が狭いので、外輪12と内輪13の間に進入したドロス等の異物はボール11とリテーナとの隙間に噛み込まれ、ボール11の回転が停止してしまうおそれが大きくなる。従って、本発明の軸受部材10はリテーナを具備しないことで、溶融金属やドロスの流入や排出をスムーズに行うことができる。
【0030】
その上、外輪12及び内輪13のボール溝12a,13aにボール11は比較的大きな間隔で収容されている。隣接するボール11の間隔が狭いと、やはりドロス等の異物が滞留し、ボール11の回転が停止してしまうおそれが大きくなる。リテーナを使用していないので、ボール11の間隔が一定とは限らない。従って、本発明ではボール11の間隔の指標として、ボール溝12a,13aにおけるボール11の充填率を用いる。ボール11の充填率(%)は、全てのボール11を接触させた時に生じる隙間の中心角をθとしたとき、[(360°−θ)/360°]×100で表される。ボール11の充填率は80〜90%であるのが好ましい。ボール11の充填率が80%未満であると、隣接するボール11の間隔が広すぎて、軸受部材の回転が不安定となる。一方、ボール11の充填率が90%超であると、隣接するボール11の間隔が狭すぎ、ドロス等の異物が滞留しやすい。
【0031】
本発明は、図1に示すように、複数の軸受部材10がロール軸部42の軸線方向に配列されていることを特徴とする。複数の軸受部材10の外輪12同士は密着し、固定されているが、内輪13の軸線方向の動きは外輪12との間に介在するボール11により阻止されているだけである。内輪13はロール軸部42に摺接しているだけで、ロール軸部42に固定されていない。従って、軸受部材10が負荷を受けることなく、ロール軸方向に移動でき、1つの内輪13がロール軸部42に対して摺動しても、他の隣接する内輪13は外輪12に対して回動し得る(ロール軸部42に対して停止したままでいられる)。
【0032】
本発明の軸受装置1を効果的に作動させるのに重要な内輪13とロール軸部42との隙間の大きさは内輪13の内径により決まるので、内輪13の内径を所定の大きさに正確に設定する必要がある。内輪13とロール軸部42との隙間は、(a) 内輪13がボール11を介して外輪12に対して回動自在である間、内輪13がロール軸部42に対して摺動しないが、(b) ボール溝12a,13aへの異物の進入により内輪13が外輪12に対して回動自在でなくなったときには、内輪13がロール軸部42に対して摺動可能となるような大きさでなければならない。このような隙間の一例は直径差で0.1〜0.3 mmである。
【0033】
外輪12と内輪13がボール11を介してスムーズに回転している間、内輪13はロール軸部42に対して摺動しない。すなわち、軸受部材10は玉軸受として機能し、セラミックロール40の回転抵抗は非常に小さい。一方、例えば、ある軸受部材10について、ドロス等の異物の噛み込みにより幾つかのボール11が回転停止に陥った結果、その玉軸受機能が停止したとき、内輪13はロール軸部42に固定されている訳ではないので、ロール軸部42に対して摺動することができる。他の軸受部材10は依然として玉軸受として機能しているので、その軸受部材10が摺動しても、軸受部材10全体としては低抵抗でのセラミックロール40の回転を可能にする。
【0034】
図2(e) に詳細に示すように、外輪12のボール溝12a及び内輪13のボール溝13aは、ボール11を介して外輪12及び内輪13が組み立てられたとき、外輪12と内輪13が軸線方向にD2だけずれるように設定されている。従って、図4(a) に示すように一対の軸受部材10、10を両外輪12,12の第一の平坦部12b,12bが対向するように隣接させると、両内輪13、13が接触しても両外輪12,12の間に2D2の大きさの隙間が残る。そこで、図4(b) に示すように両外輪12,12の間に隙間がなくなるまで一対の軸受部材10、10を相互に押圧すると、ボール11は外輪12及び内輪13から斜めの力Fを受ける。このように、ロール軸部42の軸線方向に配列された軸受部材10がアンギュラ玉軸受構造を有することにより、軸受部材10は軸線方向の力(スラスト荷重)に対しても受圧可能となる。
【0035】
ドロス等の噛み込みによるトラブルに対して高い耐久性を有するために、本発明の軸受装置1は、外輪12,12の第一の平坦部12b,12b同士が対向するように配置された一対の軸受部材10,10を二対有するのが好ましい。この場合でも、全てのボール11は斜めの力Fを受ける。勿論、セラミックロールの軸部が十分に長ければ、本発明の軸受装置1は4個超の軸受部材10を有しても良い。
【0036】
(B) ホルダー
図5(a) に示すように、ホルダー20はホルダー本体21とナット部材22とからなる。ホルダー本体21は一端に内方フランジ21aを有し、他端に雌ねじ部21bを有する。また、ナット部材22はホルダー本体21の雌ねじ部21bに螺合する雄ねじ部22aと、回転用治具(図示せず)が係合する複数のスリット22bと、雄ねじ部22aの奥の小さな環状溝部21eとを有する。図7に示す例では4つのスリット22bが直交する直径上に設けられているが、勿論限定的でない。ホルダー本体21の雌ねじ部21bの深さLはナット部材22の雄ねじ部22aの長さT(ナット部材22の高さに等しい)より大きい。
【0037】
図6(a)〜図6(c) に示すように、ホルダー本体21は円形状の内面21cとほぼ四角形状の外面21dとを有する。ホルダー本体21の円形状内面21cに外輪12が装入され、四角形状外面21dは後述する四角形状のケース30に受承される。ホルダー本体21の各外面21dは軸線方向両端から中央部にかけて拡径する凸曲面状である。そのため、ロール軸部42が傾斜しても、ホルダー本体21の凸曲面状外面21dがケース内で傾斜し得るので、ロール軸部42、軸受部材10及びホルダー本体21に過剰の負荷がかかるおそれがない。外面21dの凸曲面の曲率半径は想定されるロールの傾斜に応じて決めれば良いが、300〜5000 mmが好ましい。
【0038】
ホルダー本体21の雌ねじ部21bの奥に環状溝部21eが設けられているので、ナット部材22の高さTより大きな雌ねじ部21bの深さLと環状溝部21eとにより、雌ねじ部21bに螺合する雄ねじ部22aの長さ(ナット部材22の高さ)Tに公差があっても、ナット部材22の先端がホルダー本体21の内面21cに当接することはなく、ナット部材22の外端面がホルダー本体21の端面から突出することはない。
【0039】
(C) 構成部材の直径
図3は、軸受部材10を構成するボール11、外輪12及び内輪13、及びホルダー20(21)のサイズの関係を示す。図中の記号は以下の通りである。なお、図3ではロール軸部42に下方の力がかかっているので、軸受部材10の下端側では、外輪12はホルダー20に接しており、内輪13はロール軸部42に接しており、ボール11は外輪12及び内輪13のボール溝12a,13aに接している。
D1:ホルダー20(ホルダー本体21)の内面の直径
D2:外輪12の外周面の直径
D3:内輪13の内周面の直径
D4:ロール軸部42の外周面の直径
D5:外輪12のボール溝12aの底部の直径(ボール溝12aの最大直径)
D6:内輪13のボール溝13aの底部の直径(ボール溝13aの最小直径)
D7:ボール11の直径
【0040】
本発明の軸受装置1は、外輪12の外周面の直径とホルダー20の内面の直径との差A、内輪13の内周面の直径とロール軸部42の表面の直径との差B、及び外輪ボール溝12a又は内輪ボール溝13aとボール11との最大隙間CがA<B<Cの関係を満たすことを特徴とする。図3に示すように、A、B及びCはそれぞれ以下の式により表される。最大隙間Cは、例えば図3のようにロール軸部42が大気中で下方に押圧されている場合、軸受部材10の上側ではボール11と外輪ボール溝12aとの間に生じる隙間に等しい。一般的に言うと、外輪ボール溝12a又は内輪ボール溝13aとボール11との最大隙間Cは、外輪ボール溝12aと内輪ボール溝13aとの直径差からボール11の直径の2倍を引いた値に等しい。
A=D1−D2
B=D3−D4
C=(D5−D6)−2D7
【0041】
A<Bであることにより、外輪12及び内輪13のボール溝12a,13aにドロス等の異物が進入した結果、内輪13が外輪12に対して回動する玉軸受機能が失われた場合、外輪12がホルダー20に対して摺動するのではなく、内輪13がロール軸部42に対して摺動する。また、B<Cであることにより、外輪12及び内輪13のボール溝12a,13aにドロス等の異物が進入しても、ボール11の回転が妨害されにくく、軸受部材10の玉軸受機能を維持しやすい。例えば、外径80〜150 mm程度のロール軸部42に装着する軸受装置1では、Aは0.01〜0.17 mmであるのが好ましく、Bは0.02〜0.5 mmであるのが好ましく、Cは0.2〜1.0 mmであるのが好ましい。B−Aは0.01〜0.33 mmであるのが好ましく、C−Bは0.18〜0.5 mmであるのが好ましい。
【0042】
(D) 材質
本発明では、軸受部材10を構成するボール11、外輪12及び内輪13と、ホルダー20は全てセラミックスにより形成されている。セラミックスとしては、溶融金属めっき浴に対して良好な耐食性及び耐熱衝撃性を有するとともに、セラミックロールを回転自在に支持するのに十分な強度、特に高温強度を有する必要があり、例えば窒化珪素質セラミックス、ジルコニア、炭化珪素等からなるのが好ましい。特に、窒化ケイ素質セラミックス(窒化ケイ素、サイアロン等)は、20℃から500℃までの間の平均熱膨張係数が約3×10-6/℃と小さく、耐熱衝撃性に優れ、良好な耐食性及び高い高温強度を有するので好ましい。良好な耐食性及び耐熱衝撃性と高い高温強度を有する限り、軸受部材10を構成するボール11、外輪12及び内輪13と、ホルダー20とを全て同じセラミックスにより形成する必要はなく、室温から800℃の範囲における熱膨張係数差が1×10-6/℃以下であれば、異種のセラミックス又は異なる組成を有する同種のセラミックスにより形成しても良い。熱膨張係数差が1×10-6/℃超であると、溶融金属めっき浴中に浸漬したときに大きく異なる熱膨張を起こし、セラミック部材間にガタが生じるおそれがある。
【0043】
[2] 金属製ケース
本発明の軸受装置1を溶融金属めっき槽の金属製アームに取り付けるために、図1に示すように金属製ケース30に収容する。図1及び図8(a)〜図8(d) に示すように、金属製ケース30は、軸受装置1の上下左右を覆う4枚の金属製側板30aと、ロール軸部42の端部を覆うために側板30aの奥側端部に接合された金属製端板30bとからなる。これらの金属板は一体的に成形しても良いが、製作と取替の容易さから溶接により接合するのが好ましい。
【0044】
溶融金属めっき浴中に浸漬したときに軸受装置1に溶融金属が早く流入するとともに、溶融金属めっき浴から取り出したときに軸受装置1から溶融金属が早く除去されるように、金属製ケース30の側板30a及び端板30bに開口部及び/又は切欠き部を設けるのが好ましい。図示の例では、各側板30aは4つの円形開口部31及び4つの切欠き部32を有し、端板30bは4つの切欠き部33を有するが、勿論限定的でない。また、図示の例では側板30a及び端板30bは全て溶接されており、溶接箇所は太線で表示されている。端板30bの内面中央部にはロールの軸端部が当接し得るスラスト受け34が設けられている。スラスト受け34は、耐食性及び耐摩耗性を有するステライト、WC-Co等の材料から肉盛法又は溶射法により形成するのが好ましい。金属製ケース30に収容した軸受装置1の脱落を防止するために、金属製ケース30の各側板30aの入り口側端面に金属製係止板35を溶接する。なお、各側板30aの内面の奥側端部に、軸受装置1が端板30bと衝突するのを防止するストッパー36を設けるのが好ましい。ストッパー36は軸受装置1のホルダー20に当接する。なお、金属製ケース30には、耐食性向上のため窒化等の表面処理を施すのが望ましい。
【0045】
[3] セラミックロール
図9は本発明の軸受装置1に組合せるのに好適なセラミックロール40を示す。このセラミックロール40は、中空円筒状の胴部材41と、胴部材41の各端部に嵌入される軸部材42と、軸部材42の端部に嵌入される端部材43とからなる。溶融金属めっき浴中に浸漬したときにセラミックロール40の中空部に溶融金属が早く流入するとともに、溶融金属めっき浴から取り出したときにセラミックロール40から溶融金属が早く除去されるように、胴部材41に嵌入される軸部材42の拡径部に胴部材41の中空部に連通する複数の開口部42aを有する。端部材43も軸部材42の中空部に連通する開口部43aを有する。
【0046】
軸受部材10、ホルダー20及びセラミックロール40を全て同じセラミックスにより形成する必要はなく、室温から800℃の範囲における熱膨張係数差が1×10-6/℃以下であれば、異種のセラミックス又は異なる組成を有する同種のセラミックスにより形成しても良い。特に内輪13とセラミックロール40との熱膨張係数差は重要である。それが1×10-6/℃超であると、溶融金属めっき浴中に浸漬したときに内輪13とセラミックロール40との隙間が変化し、(a) 内輪13がセラミックロール40より大きく熱膨張する場合には、隙間が大きくなりすぎて、内輪13がセラミックロール40に対して摺動するようになって玉軸受機能が失われたり、ロール40の振れ回りが起こるおそれがあり、また(b) セラミックロール40が内輪13より大きく熱膨張する場合には、隙間が小さくなりすぎて、内輪13がセラミックロール40に固定されたようになり、内輪の張り割れが起こったり、ドロスを噛み込んだときの摺動機能が失われるおそれがある。以上から、セラミックロール40も窒化珪素質セラミックス、ジルコニア、炭化珪素等からなるのが好ましく、窒化ケイ素質セラミックス(窒化ケイ素、サイアロン等)からなるのがより好ましい。
【0047】
[4] 軸受装置の組立及び作動
外輪12及び内輪13の間に所定数のボール11を入れた複数の軸受部材10をホルダー本体21に入れた後、ナット部材22のスリット22bに治具(図示せず)を係合させて、ナット部材22の端面がホルダー本体21の端面から突出しなくなるまで、ナット部材22の雄ねじ部22aをホルダー本体21の雌ねじ部21bに螺合する。このとき、軸線方向に配列された複数の外輪12はホルダー本体21の内方フランジ21aとナット部材22により十分に押圧されるので、外輪12はホルダー20に固定される。
【0048】
図10(a) 及び図10(b) に示すように、複数の軸受部材10を保持したホルダー20内に、セラミックロール40の軸部42を嵌入する。軸受部材10及びセラミックロール40の熱膨張係数を考慮に入れて、ボール11、外輪12、内輪13、ホルダー20、及びロール軸部42の直径を上記A<B<Cの条件を満たすように設定すると、軸受部材10は以下の通り作用する。
(a) ボール溝12a,13aにドロス等の異物が進入しても、ボール11とボール溝12a,13aとの比較的大きな隙間のためにボール11の回転が阻害されるおそれが小さく、内輪13が外輪12に対して回動する玉軸受機能が長期間発揮される。
(b) 内輪13がボール11を介して外輪12に対して回動自在である間、内輪13がボール11を介して外輪12に対して回動するときの抵抗は内輪13がロール軸部42に対して摺動するときの抵抗より著しく小さいので、内輪13がロール軸部42に対して摺動することはない。
(c) ボール溝12a,13aへの異物の進入により内輪13が外輪12に対して回動自在でなくなると、A<Bの条件により、外輪12がホルダー20に対して摺動することはなく、内輪13がロール軸部42に対して摺動可能となる。
【0049】
セラミックロール40の軸部42に取り付けた軸受装置1を金属製ケース30に収容し、金属製ケース30の入り口端面に金属製係止板35を溶接する。これにより、一対の金属製アーム(図示せず)に保持したセラミックロール40を溶融金属めっき浴中に浸漬する過程又はそこから取り出す過程で、軸受装置1が金属製ケース30から脱落するおそれがなくなる。
【0050】
セラミックロール40は、両軸部42,42に取り付けた軸受装置1,1を介して一対の金属製アーム(図示せず)に保持され、溶融金属めっき浴中に浸漬されるので、金属製アームの熱膨張により一対の軸受装置1,1の間隔は拡大する。そのため、セラミックロール40の軸部42の金属製ケース30に対する軸線方向位置は、溶融金属めっき浴に浸漬されると変化する。
【0051】
めっき中、溶融金属めっき浴への投入中、又は溶融金属めっき浴から取り出し中にセラミックロール40が軸線方向の力を受けることがある。その場合、(a) 軸受部材10の内輪13がロール軸部42に摺接している(固定されていない)ので、セラミックロール40は軸受装置1に対して軸線方向に移動自在である。セラミックロール40の最大移動距離は、(両金属製ケース30,30のスラスト受け34,34間の距離)−(セラミックロール40の長さ)である。このようにセラミックロール40が軸受装置1に対して軸線方向に移動自在であるので、軸線方向の力が全て軸受部材10にかかることがなく、もって軸受部材10の外輪12及び内輪13のボール溝12a,13a及びボール11が損傷するのを防止することができる。
【0052】
複数の軸受部材10がロール軸部42の軸線方向に配列しているので、1つ又はそれ以上の軸受部材10で内輪13とロール軸部42との摺動が起こっても、他の軸受部材10は依然として玉軸受として正常に機能しているので、軸受装置1全体の回転抵抗は十分に低く抑えられる。また、内輪13とロール軸部42との摺動が起こっていない他の軸受部材10では、ボール11が外輪12及び内輪13に対して正常に回動しているので、異常摩耗等の損傷を十分に防止することができる。
【0053】
軸受部材10のスムーズな回転又は摺動が不可能になるほど軸受部材10に異常摩耗が起こると、溶融金属めっき中の鋼板に振動が起こり、めっきにムラが生じる。そうなると、軸受装置1の交換時期が来たことになる。1つ又は複数の軸受部材10に異常摩耗が起こっても、内輪13とロール軸部42との摺動によりその影響を最小化できるので、軸受装置1の交換サイクルは十分に長くなり、もって溶融金属めっきの生産性が上がる。
【0054】
ホルダー20の外面21dは軸線方向両端から中央部にかけて拡径する凸曲面状であるので、一対の金属製アーム(図示せず)に保持したセラミックロール40を溶融金属めっき浴中で使用するか、そこから取り出す過程で、セラミックロール40が傾斜しても、ホルダー20は揺動し得るので、軸受部材10に過剰な負荷がかかるおそれがなく、もって軸受部材10を構成するボール11、外輪12及び内輪13が損傷を受けることはない。
【符号の説明】
【0055】
1:軸受装置
10:軸受部材
11:ボール
12:外輪
12a:外輪内周面のボール溝
12b:外輪内周面の第一の平坦部
12c:外輪内周面の第二の平坦部
13:内輪
13a:内輪内周面のボール溝
13b:内輪内周面の平坦部
20:ホルダー
21:ホルダー本体
21a:ホルダー本体の内方フランジ
21b:ホルダー本体の雌ねじ部
21c:ホルダー本体の内面
21d:ホルダー本体の外面
21e:ホルダー本体の環状溝部
22:ナット部材
22a:ナット部材の雄ねじ部
22b:ナット部材のスリット
30:金属製ケース
30a:金属製ケースの側板
30b:金属製ケースの端板
31:金属製ケースの側板の開口部
32:金属製ケースの側板の切欠き部
33:金属製ケースの端板の切欠き部
34:スラスト受け
35:金属製係止板
36:ストッパー
40:セラミックロール
41:セラミックロール本体
42:セラミックロールの軸部(軸部材)
42:セラミックロールの軸部の開口部
43:セラミックロールの端部(端部材)
43a:セラミックロールの端部(端部材)の開口部
101:鋼板
102:スナウト
103:溶融金属めっき浴
104:シンクロール
104a:シンクロールの軸部
105:サポートロール
105a:サポートロールの軸部
106:シンクロールを支持するアーム
107:サポートロールを支持するアーム
108:ガスワイピングノズル
図1(a)】
図1(b)】
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図2(e)】
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図7
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】
図8(d)】
図9
図10(a)】
図10(b)】
図11
図12
図13