(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137303
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】被膜付きガラス基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20170522BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20170522BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
C03C17/34 A
G02F1/1333 500
G02F1/1335 500
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-510074(P2015-510074)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059413
(87)【国際公開番号】WO2014163035
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2016年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-76617(P2013-76617)
(32)【優先日】2013年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 敦義
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−319038(JP,A)
【文献】
特開昭55−047249(JP,A)
【文献】
特開2002−220258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に樹脂領域が形成されるガラス基板であって、
前記ガラス基板の表面に、炭素数が14以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーからなる被膜を有し、
前記樹脂領域は、前記被膜を介して、前記ガラス基板表面に形成されていることを特徴とする被膜付きガラス基板。
【請求項2】
前記陽イオン界面活性剤の疎水性基の炭素数が16〜18である請求項1記載の被膜付きガラス基板。
【請求項3】
前記カチオンポリマーが、分子量1000あたり、4〜25個のカチオン性基を有する請求項1記載の被膜付きガラス基板。
【請求項4】
前記被膜付きガラス基板の、純水との接触角が20〜90度である請求項1〜3のいずれか1項記載の被膜付きガラス基板。
【請求項5】
前記ガラス基板が、カラー液晶ディスプレイ用である請求項1〜4のいずれか1項記載の被膜付きガラス基板。
【請求項6】
ガラス基板の表面に、炭素数が14以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、前記陽イオン界面活性剤又は前記カチオンポリマーからなる被膜を形成する工程を有し、
前記ガラス基板の表面に、前記被膜を介して樹脂領域を形成することを特徴とする被膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記被膜を形成する際に使用する溶液が、pH8〜12の水溶液である請求項6記載の被膜付きガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被膜付きガラス基板およびその製造方法に係り、特に、ガラス基板表面の樹脂密着力を改善する被膜を有してなる被膜付きガラス基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶ディスプレイに用いる基板は、通常、透明ガラス板上に画素の間から光が漏洩するのを防止するために、遮光層をマトリックス状としたブラックマトリックスを形成している。さらに、画素となる領域に、カラーフィルター層を設け、カラーフィルター層の上にさらに表面を平坦化するためのオーバーコート(通常有機樹脂が用いられる)層が設けられる。そしてこのオーバーコート層の表面に、ITO透明導電膜が設けられて形成される。ブラックマトリックスは、画素有効領域以外から漏れる光を抑制して、表示特性を向上させる役割をもつ。
【0003】
近年では、このブラックマトリックスとして樹脂材料が使われるようになってきており、この場合、一般にフォトリソグラフィー技術によるパターニングにより形成される。ところが、この樹脂製のブラックマトリックスとブラックマトリックスを形成する透明ガラス基板との相互作用が小さいために密着性が不十分となることがあり、パターニングプロセスにおいて、局部的にブラックマトリックスの剥離が生じることがあった。したがって、液晶ディスプレイの生産歩留まりが低下してしまったり、この剥離を抑制しようと、生産工程の条件を厳格に管理して、管理の手間や製造コストが増大してしまったり、していた。
【0004】
このような問題を解消するため、例えば、樹脂材料とガラス基板との相互作用を改善して密着性を向上するために、ガラス基板に有機官能基を付与したり、二酸化ケイ素膜を形成したりするなどの方法が知られている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−221485号公報
【特許文献2】特開2000−302487号公報
【特許文献3】特開2001−192235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カラー液晶ディスプレイが高精細化されるに伴い、ブラックマトリックスにより微細なパターン形成が要求されるようになってきている。すなわち、ブラックマトリックスのパターニング時の剥離をより効果的に抑制でき、さらに製造時の管理やコストの負担をも抑制できるようなガラス基板が求められてきている。
【0007】
そこで、本発明は、従来のカラー液晶ディスプレイ用基板における上記問題点を解決すべく、ブラックマトリックス原料である樹脂との密着性が良好で、解像性も高く、かつ、製造管理やコストの負担を軽減できるガラス基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の被膜付きガラス基板は、基板上に樹脂領域が形成されるガラス基板であって、前記ガラス基板の表面に、炭素数が14以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーからなる被膜を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の被膜付きガラス基板の製造方法は、ガラス基板の表面に、炭素数が14以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、前記陽イオン界面活性剤又は前記カチオンポリマーからなる被膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被膜付きガラス基板及びその製造方法によれば、ガラス基板の表面に、樹脂材料との密着性を改善する被膜が設けられており、樹脂材料をガラス表面に安定して形成できる。特に、カラー液晶ディスプレイの製造時に安定してブラックマトリックスを形成できる。また、この被膜を設けたガラス基板は、ブラックマトリックス形成の解像性も改善でき、高精細な液晶ディスプレイを安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の被膜付きガラス基板の概略構成を示す断面図である。
【
図2】実施例及び比較例のガラス基板の純水との接触角を示した図である。
【
図3】実施例及び比較例のガラス基板の純水との接触角と残し解像度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の被膜付きガラス基板について、以下、図面を参照しながら説明する。なお、
図1は、本発明の被膜付きガラス基板の概略構成を示す断面図であり、本発明の被膜付きガラス基板1は、ガラス基板2と、その表面に形成された被膜3で構成される。
【0013】
ここで用いられるガラス基板2は、その表面に樹脂領域を形成するガラス基板であれば特に限定されずに挙げられる。このガラス基板2としては、透明で平坦な表面を有するものが好ましく、例えば、樹脂製のブラックマトリックス等を表面に形成するカラー液晶ディスプレイ用のガラス基板が好ましいものとして挙げられる。
【0014】
このガラス基板2の素材としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物等が挙げられ、特に、二酸化ケイ素および酸化ホウ素を主成分とするボロシリケート系の無アルカリガラスや、二酸化ケイ素と酸化ナトリウムと酸化カルシウムを主成分とするソーダライムシリカ系のガラス等が好ましく挙げられる。
【0015】
本発明に用いられる被膜3は、ガラス基板2の表面に設けられた単層構造の膜である。ここで、被膜3は、炭素数が14以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーから構成される膜である。
【0016】
ここで使用する陽イオン界面活性剤としては、炭素数が14以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤であれば特に限定されずに使用できる。この陽イオン界面活性剤としては、アミン塩型または第4級アンモニウム塩型のいずれでもよく、例えば、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム等のトリメチルアンモニウム塩;塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩;等が挙げられる。この陽イオン界面活性剤により、樹脂材料とガラス基板との密着性を改善させることができる。
【0017】
また、ここで使用されるカチオンポリマーとしては、平均分子量が500〜1000万であって分子中にカチオン性基を有するポリマーであればよい。なお、本明細書において平均分子量は、重量平均分子量を意味する。
【0018】
ここで使用するカチオンポリマーとしては、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC)、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、トリメチルアンモニウムアルキルアクリルアミド重合体塩、ジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合体塩、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0019】
カチオンポリマーとしては、カチオン性基の個数が分子量1000当たり4〜25個を持つことが好ましい。カチオン性基とは、水等の溶媒に溶解させたときにカチオンとなる基であり、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。このとき、アミノ基はアンモニア、1級アミン、2級アミンから水素を除去した1価の官能基であり、それぞれ1級アミン、2級アミン、3級アミンを形成する。また、4級アンモニウム基は4級アンモニウムカチオンを形成する。
【0020】
上記の被膜3は単層構造の被膜であり、その製造操作が簡便で構造も簡素でありながら、ガラス表面の樹脂材料との密着性を改善する機能を有する。また、ここで形成される被膜3は界面活性剤からなり、ガラス基板の表面とは静電結合により結合されており、純水やアルカリ洗剤を使用した洗浄で容易に除去できる。
【0021】
次に、被膜付きガラス基板の製造方法について説明する。
本発明における被膜3を形成する方法としては、ガラス基板2の表面に、炭素数が14以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーからなる被膜を形成すればよい。
【0022】
このとき、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーは、溶媒として純水又はエタノール等の水溶性有機溶剤の水溶液を用いて、これに溶解して溶液とする。このとき、カチオン性基の濃度(当量)は0.01meq/L〜100meq/Lが好ましく、ガラス製品表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.1〜10meq/Lがより好ましい。ちなみに、溶液1L中にカチオン性基を1mol有する場合に、その濃度を1eq/Lと表す。また、溶液のpHは酸性〜アルカリ性(例えば、pH4〜12程度)で使用が可能であるが、ガラス表面のシラノール基の電離を促進しマイナス帯電させることで静電的な結合力をより強固にしつつ付着量を増加できる点で、溶液のpHは8〜12が好ましく、10〜11がより好ましい。
【0023】
このようにして得られた溶液を、被膜を形成するガラス基板表面に接触させて塗布する。このとき、塗布方法は、ディップコート、スプレーコート、スポンジ等による塗布の公知の膜形成方法に使用される塗布方法が挙げられる。また、この工程では、溶液中に含まれる陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーが、接触させるだけで陽イオン界面活性剤の親水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分がガラス基板の表面側に、陽イオン界面活性剤の疎水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分を繋ぐポリマーの主鎖部分がその反対側である雰囲気中に向かって、整列する。これは、ガラス基板の表面に存在するシラノール基(−Si−OH)が−電荷に帯電しやすいため、接触させるだけで+電荷を帯びている陽イオン界面活性剤の親水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分がガラス基板の表面側に静電的にひきつけられるためである。
【0024】
このように陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーを整列させた状態で、加熱やエアブロー等により溶媒を除去すると、均質な第1の膜を容易に形成できる。このとき、加熱乾燥では、50〜90℃に加熱することが好ましく、エアブローでは15〜30℃のエアーを吹き付けることが好ましい。
【0025】
また、この被膜を形成する場合、溶液を室温で塗布する簡便な操作で達成でき、さらに、排水規制に抵触することもなく、環境負荷を増大させることのないガラス基板の表面改質を達成できる。
【0026】
そして、このようにして得られた被膜付きガラス基板は、その表面に被膜を介して樹脂領域を安定して形成できる。そのため、基板表面に樹脂領域を形成する場合に、樹脂領域の精度が高く、かつ、歩留まりが良好な製品が製造できる。
【0027】
例えば、カラー液晶ディスプレイを製造する場合には、ボロシリケート系の無アルカリガラスやソーダライムシリカ系のガラスの透明ガラス基板を用意し、その表面に上記被膜を形成して被膜付きのガラス基板を形成し、次いで、上記ガラス基板上に、上記被膜を介して樹脂製ブラックマトリックス、カラーフィルター層、オーバーコート層、ITO透明導電膜を順次設ければよい。
【0028】
ここで、樹脂製ブラックマトリックスとしては、寸法精度良くパターン形成できるアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等に微粉カーボン等の黒色物質を分散混合されてなる樹脂を用い、公知のパターン形成によりブラックマトリックスを形成する。また、カラーフィルター層も、カラー液晶ディスプレイに使用される公知の材料を、公知の方法、例えば、顔料分散法、フィルム転写法、染色法、印刷法、電着法等により形成すればよい。
【0029】
また、オーバーコート層は、樹脂製のブラックマトリックスの上に設けられるカラーフィルター層のR,G,Bがその境界で生じる凹凸を平坦化するために設けられ、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の公知のものを公知の方法で形成すればよい。さらに、公知の方法でITO透明電極膜を形成すればよい。
【0030】
このようにして得られたカラー液晶ディスプレイは、上記本発明の被膜付きガラス基板を使用しているため、製造時、使用時におけるブラックマトリックス等の樹脂剥がれが生じにくく、製品歩留まりが良好で、性能の安定したものとなる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。
【0032】
[各種溶液の調製]
<被膜形成用の溶液1>
陽イオン性界面活性剤である塩化オクチルトリメチルアンモニウムが2mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液1を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
<被膜形成用の溶液2>
陽イオン性界面活性剤である塩化デシルトリメチルアンモニウムが2mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液2を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0033】
<被膜形成用の溶液3>
陽イオン性界面活性剤である塩化ドデシルトリメチルアンモニウムが2mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液3を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
<被膜形成用の溶液4>
陽イオン性界面活性剤である塩化テトラデシルトリメチルアンモニウムが2mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液4を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0034】
<被膜形成用の溶液5>
陽イオン性界面活性剤である塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが2mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液5を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
<被膜形成用の溶液6>
陽イオン性界面活性剤である塩化オクタデシルトリメチルアンモニウムが2mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液6を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0035】
<被膜形成用の溶液7>
陽イオン性界面活性剤である塩化ヘキサデシルピリジニウム(CPC)が2mmol/LM及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液7を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0036】
<被膜形成用の溶液8>
カチオンポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC;和光純薬工業社製コロイド滴定用標準液、分子量6万〜11万)が2meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、被膜形成用の溶液8を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0037】
(比較例1)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記被膜形成用の溶液1中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に被膜を形成し、被膜付きのガラス基板とした。
【0038】
(比較例2〜3)
被膜形成用の溶液1の代わりに、被膜形成用の溶液2(比較例2)又は被膜形成用の溶液3(比較例3)を使用した以外は、比較例1と同様の操作により被膜付きガラス基板を製造した。
【0039】
(実施例1)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記被膜形成用の溶液4中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に被膜を形成し、被膜付きのガラス基板とした。
【0040】
(実施例2〜5)
被膜形成用の溶液4の代わりに、被膜形成用の溶液5(実施例2)、被膜形成用の溶液6(実施例3)、被膜形成用の溶液7(実施例4)又は被膜形成用の溶液8(実施例5)を使用した以外は、実施例1と同様の操作により被膜付きガラス基板を製造した。
【0041】
(試験例)
被膜を形成していないガラス基板、実施例1〜5及び比較例1〜3のガラス基板の表面の水の接触角を測定し、その結果を
図2に示した。この結果から、形成された被膜の疎水性基の炭素数が長くなることで撥水性が向上することがわかった。カチオンポリマーを塗布した場合は、一部のカチオン基がガラスの反対側に向いているため、接触角はやや小さくなる。
また、被膜を形成していないガラス基板、実施例1〜5及び比較例3のガラス基板の表面に、それぞれ所定のフォトレジストのパターニングを形成し、残し解像度試験を行い、その結果を
図3に示した。この結果から、疎水基の炭素数が14以上となる陽イオン界面活性剤およびカチオンポリマーを用いた実施例においては残し解像性が向上し、ガラス基板への樹脂の密着力が向上し、安定した樹脂パターンが形成でき、より高精細なカラー液晶ディスプレイを製造できることがわかった。なお、比較例3の疎水性基の炭素数が12のものは、被膜なしのガラス基板と同程度の解像性であり、解像性の向上効果がほとんどなかった。
【0042】
また、陰イオン界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム、非イオン界面活性剤としてTriton X−100(ポリエチレングリコールpオクチルフェニルエーテル)についても、上記と同様にガラス基板上への被膜形成処理を行い、残し解像度試験を行ったが、被膜を形成しないガラス基板と同様の残し解像度であった。
【0043】
[接触角]
測定対象のガラス基板の表面に純水を1滴滴下し、その表面の水滴を基板側面から撮像したデータに基づいて、5点の測定結果を平均して各基板における純水との接触角を算出した。
【0044】
[残し解像度]
測定対象のガラス基板の表面に、ネガ型フォトレジストを塗布し、レジスト幅が2μm、5μm、7μm、9μm、10μm、13μm、15μm、20μmの線幅となるようにフォトリソグラフィー工程により水酸化カリウム(KOH)で現像を行い、剥離せずガラス基板上に残ったレジストの最小線幅を残し解像度とした。
【0045】
これらの結果から、本発明の被膜付きガラス基板は、ガラス基板への撥水性を調整し、樹脂のガラス基板への密着力を改善でき、また、残し解像度も良好で、微細なパターンの形成も可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の被膜付きガラス基板及びその製造方法は、広くガラス基板に適用でき、使用する疎水性基の炭素数に応じてその特性の大小を調整でき、使用目的に応じて適宜材料を選択することで最適な被膜付きのガラス基板を製造できる。本発明は、特に、カラー液晶ディスプレイに使用されるガラス基板に好適である。