特許第6137485号(P6137485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニコンの特許一覧

特許6137485露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法
<>
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000002
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000003
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000004
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000005
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000006
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000007
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000008
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000009
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000010
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000011
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000012
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000013
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000014
  • 特許6137485-露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137485
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20170522BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20170522BHJP
   G02B 26/06 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G03F7/20 505
   G02F1/01 D
   G02B26/06
【請求項の数】22
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-554221(P2013-554221)
(86)(22)【出願日】2012年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2012083753
(87)【国際公開番号】WO2013108560
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-7727(P2012-7727)
(32)【優先日】2012年1月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100098165
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 聡
(72)【発明者】
【氏名】大和 壮一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 陽司
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−513770(JP,A)
【文献】 特開2003−133201(JP,A)
【文献】 特開2006−128194(JP,A)
【文献】 特表2005−536875(JP,A)
【文献】 米国特許第06312134(US,B1)
【文献】 特表2004−514280(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043497(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20 − 7/24 、 9/00 − 9/02 、
H01L21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に第1ピッチで配置され且つ前記第1方向と交差する第2方向に第2ピッチで配置された複数の光学要素を介した露光光を用いて物体露光する露光方法であって、
前記複数の光学要素のうち、第1方向に延びた第1領域内の光学要素を第1の状態に設定することと、
前記複数の光学要素のうち、前記第1領域の前記第2方向側に位置する第2領域内の光学要素を前記第1の状態と異なる第2の状態に設定することと、
前記複数の光学要素のうち、前記第1領域前記第2領域との間の第3領域内の複数の光学要素の一部を前記第1の状態に設定する共に、前記第3領域内の前記複数の光学要素の他部を第2の状態に設定することと、
前記第1乃至第3領域内の複数の光学要素からの露光光で前記物体を露光することと
を含み、
前記第1の状態の光学要素からの露光光と前記第2の光学要素からの露光光とは位相差を有する露光方法。
【請求項2】
前記第2方向と対応する方向に周期性を持つラインアンドスペースパターンを露光する、請求項1に記載の露光方法。
【請求項3】
前記露光することは、投影光学系を介した前記複数の光学要素からの露光光を前記物体に照射することを含む、請求項に記載の露光方法。
【請求項4】
前記ラインアンドスペースパターンは、前記第2ピッチに前記投影光学系の倍率を乗じた値とは異なるピッチを有する、請求項3に記載の露光方法。
【請求項5】
前記複数の光学要素のうち少なくとも1つは、前記投影光学系によって解像されない大きさである、請求項3又は4に記載の露光方法。
【請求項6】
前記複数の光学要素のうち、前記第2領域に関して前記第3領域と反対領域内の光学要素を前記第1状態に設定することを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の露光方法。
【請求項7】
前記第2領域と前記第領域との間の前記複数の光学要素のうちの一部を前記第1の状態に設定すると共に、前記第2領域と前記第4領域との間の前記複数の光学要素のうちの他部を第2の状態に設定することをさらに含む、請求項6に記載の露光方法。
【請求項8】
前記第2領域は前記第1方向に延びた形状である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の露光方法。
【請求項9】
前記第2領域には、前記第2方向に沿って配置された複数の前記光学要素が位置する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の露光方法。
【請求項10】
前記第3領域における前記一部の前記光学要素は、前記第2方向において所定の周期で配置され、
前記一部の光学要素の前記周期は、前記投影光学系によって前記一部の光学要素が解像されないように設定される請求項1乃至9のいずれか一項に記載の露光方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の露光方法を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、
前記パターンが形成された前記基板を処理することと、を含むデバイス製造方法。
【請求項12】
露光光で物体を露光する露光装置において、
前記露光光の光路中に配置される複数の光学要素を有する空間光変調器と、
前記空間光変調器の前記複数の光学要素を駆動して第1の状態または第2の状態にする制御と、を備え、
前記空間光変調器の前記複数の光学要素は、第1方向に第1ピッチで配置され且つ前記第1方向と交差する第2方向に第2ピッチで配置され、
前記制御は、
前記複数の光学要素のうち、前記第1方向に延びた第1領域内の光学要素を前記第1の状態に設定し、前記第1領域の前記第2方向側に位置する第2領域内の光学要素を前記第1の状態と異なる第2の状態に設定し、且つ前記複数の光学要素のうち、前記第1領域と前記第第2領域との間の第3領域内の光学要素の一部を前記第1の状態に設定すると共に、前記第3領域内の前記複数の光学要素の他部を前記第2の状態に設定し、
前記複数の光学要素を介した露光光のうち、前記第1の状態の光学要素からの露光光と前記第2の状態の光学要素からの露光光とは位相差を有する露光装置。
【請求項13】
前記複数の光学要素からの露光光で前記第2方向と対応する方向に周期性を持つラインアンドスペースパターンを露光する、請求項12に記載の露光装置。
【請求項14】
前記複数の光学要素からの露光光を前記物体に投影する投影光学系を備える、請求項13に記載の露光装置。
【請求項15】
前記ラインアンドスペースパターンは、前記第2ピッチに前記投影光学系の倍率を乗じた値とは異なるピッチを有する、請求項14に記載の露光装置。
【請求項16】
前記複数の光学要素のうち少なくとも1つは、前記投影光学系によって解像されない大きさである、請求項14又は15に記載の露光装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記複数の光学要素のうち、前記第2領域に関して前記第3領域と反対領域内の前記光学要素を前記第1状態に設定する、請求項12乃至16のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項18】
前記制御部は、前記第2領域と前記第領域との間の前記複数の光学要素のうちの一部を前記第1の状態に設定すると共に、前記第2領域と前記第領域との間の前記複数の光学要素の内の他部を前記第2の状態に設定する、請求項17に記載の露光装置。
【請求項19】
前記第2領域は前記第1方向に延びた形状である、請求項12乃至18のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項20】
前記第2領域には、前記第2方向に沿って配置された複数の前記光学要素が位置する、請求項12乃至19のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項21】
前記第3領域における前記一部の前記光学要素は、前記第2方向において所定の周期で配置され、
前記一部の光学要素の前記周期は、前記投影光学系によって前記一部の光学要素が解像されないように設定される請求項12乃至20のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項22】
請求項12乃至21のいずれか一項に記載の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、
前記パターンが形成された前記基板を処理することと、を含むデバイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光学要素を有する空間光変調器の駆動方法、空間光変調器を用いる露光用パターンの生成方法、空間光変調器を用いて物体を露光する露光技術、及びこの露光技術を用いるデバイス製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子又は液晶表示素子等のデバイス(電子デバイス又はマイクロデバイス)を製造するためのリソグラフィ工程中で、所定のパターンを投影光学系を介してウエハ又はガラスプレート等の基板の各ショット領域に形成するために、ステッパー等の一括露光型の露光装置、又はスキャニングステッパー等の走査露光型の露光装置等が使用されている。
【0003】
最近では、複数種類のデバイス毎に、さらに基板の複数のレイヤ毎にそれぞれマスクを用意することによる製造コストの増大を抑制し、各デバイスを効率的に製造するために、マスクの代わりに、それぞれ傾斜角が可変の多数の微小ミラーのアレイを有する空間光変調器(spatial light modulators: SLM)を用いて、投影光学系の物体面に可変のパターンを生成するいわゆるマスクレス方式の露光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、空間光変調器としては、入射する光の位相分布を制御するために、それぞれ反射面の高さが制御可能な多数の微小ミラーのアレイを有するタイプも提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/060745号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yijian Chen et al., “Design and fabrication of tilting and piston micromirrors for maskless lithography,” Proc. of SPIE (米国) Vol. 5751, pp.1023-1037 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の空間光変調器を用いて基板上にパターンを形成する場合には、空間光変調器の各微小ミラー(光学要素)の像を最小単位としてそのパターンが形成されていた。そのため、例えば微小ミラーの像の幅よりも微細な位置精度でそのパターンの位置を設定することが困難であるとともに、微小ミラーの像の幅の非整数倍のピッチを持つライン・アンド・スペースパターンを形成することも困難であった。
【0007】
本発明の態様は、このような事情に鑑み、複数の光学要素のアレイを有する空間光変調器を用いて物体にパターンを投影(形成)する際に、その光学要素の像の幅よりも微細な位置精度又は形状精度でパターンを形成可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、第1方向に第1ピッチで配置され且つ前記第1方向と交差する第2方向に第2ピッチで配置された複数の光学要素を介した露光光を用いて物体露光する露光方法であって、その複数の光学要素のうち、第1方向に延びた第1領域内の光学要素を第1の状態に設定することと、その複数の光学要素のうち、その第1領域のその第2方向側に位置する第2領域内の光学要素をその第1の状態と異なる第2の状態に設定することと、その複数の光学要素のうち、その第1領域その第2領域との間の第3領域内の複数の光学要素の一部をその第1の状態に設定する共に、その第3領域内のその複数の光学要素の他部を第2の状態に設定することと、その第1乃至第3領域内の複数の光学要素からの露光光でその物体を露光することとを含み、その第1の状態の光学要素からの露光光とその第2の光学要素からの露光光とは位相差を有する露光方法が提供される。
また、本発明によれば、露光光で物体を露光する露光装置において、その露光光の光路中に配置される複数の光学要素を有する空間光変調器と、その空間光変調器のその複数の光学要素を駆動して第1の状態または第2の状態にする制御と、を備え、その空間光変調器のその複数の光学要素は、第1方向に第1ピッチで配置され且つその第1方向と交差する第2方向に第2ピッチで配置され、その制御は、その複数の光学要素のうち、その第1方向に延びた第1領域内の光学要素をその第1の状態に設定し、その第1領域のその第2方向側に位置する第2領域内の光学要素をその第1の状態と異なる第2の状態に設定し、且つその複数の光学要素のうち、その第1領域とその第第2領域との間の第3領域内の光学要素の一部をその第1の状態に設定すると共に、その第3領域内のその複数の光学要素の他部をその第2の状態に設定し、その複数の光学要素を介した露光光のうち、その第1の状態の光学要素からの露光光とその第2の状態の光学要素からの露光光とは位相差を有する露光装置が提供される。
また、本発明の第1の態様によれば、それぞれ光を投影光学系に導くことが可能な複数の光学要素のアレイを有する第1の空間光変調器の駆動方法が提供される。この駆動方法は、第1方向に隣接して配置されるとともにそれぞれその第1方向に交差する第2方向に伸びた第1領域及び第2領域のうち、その第1領域内でその第2方向にその投影光学系で解像されない第1のピッチで配列されたその複数の光学要素を第1の状態に設定し、その第1領域内の他の光学要素をその第1の状態と異なる第2の状態に設定し、その第2領域内でその第2方向にその投影光学系で解像されない第2のピッチで配列されたその複数の光学要素をその第2の状態に設定し、その第2領域内の他の光学要素をその第1の状態に設定するものである。
【0009】
また、第2の態様によれば、それぞれ光を投影光学系に導くことが可能な複数の光学要素のアレイを有する第2の空間光変調器の駆動方法が提供される。この駆動方法は、第1方向に隣接して又は離れて配置されるとともにそれぞれその第1方向に交差する第2方向に伸びた第1領域及び第2領域のうち、その第1領域内でその第2方向にその投影光学系で解像されない第1のピッチで配列されたその複数の光学要素を第1の状態に設定し、その第1領域内の他の光学要素をその第1の状態と異なる第2の状態に設定し、その第2領域内の少なくとも一部の光学要素をその第1の状態に設定するものである。
【0010】
また、第3の態様によれば、露光光で複数の光学要素のアレイを有する空間光変調器及び投影光学系を介して基板を露光する露光方法が提供される。この露光方法は、第1の態様又は第2の態様の空間光変調器の駆動方法によって複数の光学要素の少なくとも一部をその第1の状態又はその第2の状態に設定し、その露光光でその第1の状態又はその第2の状態に設定されたその複数の光学要素及びその投影光学系を介して形成される空間像でその基板を露光するものである。
【0011】
また、第4の態様によれば、照明光学系からの露光光で投影光学系を介して基板を露光する露光装置が提供される。この露光装置は、その投影光学系の物体面側に配置されて、それぞれその露光光をその投影光学系に導くように制御可能な複数の光学要素のアレイを有する空間光変調器と、その空間光変調器の複数の光学要素を駆動する制御装置と、を備え、その制御装置は、その基板上にその投影光学系を介して形成される空間像に応じて、第1方向に隣接して又は離れて配置されるとともにそれぞれその第1方向に交差する第2方向に伸びた第1領域及び第2領域のうち、その第1領域内でその第2方向にその投影光学系で解像されない第1のピッチで配列されたその複数の光学要素を第1の状態に設定し、その第1領域内の他の光学要素をその第1の状態と異なる第2の状態に設定し、その第2領域内の少なくとも一部の光学要素をその第1の状態に設定するものである。
【0012】
また、第5の態様によれば、投影光学系を用いて基板を露光するときに用いられ、グリッド状に配列された複数の区画を備える露光用パターンの生成方法が提供される。この露光用パターンの生成方法は、第1方向に隣接して又は離れて配置されるとともにそれぞれその第1方向に交差する第2方向に伸びた第1領域及び第2領域に配列されたその複数の区画のうち、その第1領域内でその第2方向にその投影光学系で解像されない第1のピッチで配列されたその複数の区画を第1の状態に設定し、その第1領域内の他の区画をその第1の状態と異なる第2の状態に設定し、その第2領域内の少なくとも一部の区画をその第1の状態に設定するものである。
【0013】
また、第6の態様によれば、第3の態様の露光方法又は第4の態様の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、そのパターンが形成されたその基板を処理することと、を含むデバイス製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の態様によれば、空間光変調器において、第1領域内で第2方向に投影光学系で解像されない第1のピッチで配列された複数の光学要素を第1の状態に設定し、その第1領域内の他の光学要素をその第1の状態と異なる第2の状態に設定することによって、その第1領域の境界線(光学要素の端部)の像は、その第2方向に交差する第1方向にその光学要素の像の幅よりも微細な位置精度でシフト可能になる。従って、複数の光学要素のアレイを有する空間光変調器を用いて物体にパターンを投影(形成)する際に、その光学要素の像の幅よりも微細な位置精度又は形状精度でパターンを形成可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の一例に係る露光装置の概略構成を示す図である。
図2】(A)は図1中の空間光変調器28の一部を示す拡大斜視図、(B)は図2(A)のBB線に沿う断面図である。
図3】(A)は走査露光時のウエハのショット領域を示す図、(B)はステップ・アンド・リピート方式で露光する際のウエハのショット領域を示す図である。
図4】(A)、(B)はそれぞれ空間光変調器によって設定される反射光の位相分布の例を示す部分拡大平面図、(C)、(D)はそれぞれ図4(A)、図4(B)の位相分布に対応する空間像の強度分布を示す図である。
図5】(A)、(B)、(C)はそれぞれ空間光変調器によって設定される反射光の位相分布の別の例を示す部分拡大平面図、(D)、(E)、(F)はそれぞれ図5(A)、図5(B)、図5(C)の位相分布に対応する空間像の強度分布を示す図である。
図6】(A)は実施形態で設定される反射光の位相分布の例を示す部分拡大平面図、(B)は比較例の反射光の位相分布を示す部分拡大平面図、(C)は実施形態の位相分布の空間像に対応するレジストパターンを示す拡大図、(D)は比較例のレジストパターンを示す拡大図である。
図7】(A)はL&Sパターンを形成するために空間光変調器で設定される反射光の位相分布の一例を示す部分拡大平面図、(B)は図7(A)の位相分布に対応する空間像の強度分布を示す図である。
図8】空間光変調器を用いる露光動作の一例を示すフローチャートである。
図9】(A)は所定のパターンの目標とするシフト量と実際のシフト量との関係の一例を示す図、(B)は第1変形例における所定のパターンの目標とするシフト量と実際のシフト量との関係の一例を示す図である。
図10】(A)、(B)、(C)、(D)はそれぞれ第1変形例の空間光変調器で設定される反射光の位相分布の例を示す部分拡大平面図である。
図11】(A)は図7(A)の位相分布の空間像の強度分布等を示す図、(B)は第2変形例の位相分布の空間像の強度分布等を示す図である。
図12】第2変形例の空間光変調器で設定される反射光の位相分布を示す部分拡大平面図である。
図13】第3変形例に係る露光装置の概略構成を示す図である。
図14】電子デバイスの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態の一例につき図1図8を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るマスクレス方式の露光装置EXの概略構成を示す。図1において、露光装置EXは、パルス発光を行う露光用の光源2と、光源2からの露光用の照明光(露光光)ILで被照射面を照明する照明光学系ILSと、ほぼその被照射面又はその近傍の面上に二次元のアレイ状に配列されたそれぞれ高さが可変の微小ミラーである多数のミラー要素30を備えた空間光変調器28と、空間光変調器28を駆動する変調制御部48とを備えている。さらに、露光装置EXは、多数のミラー要素30によって生成された反射型の可変の凹凸パターン(可変の位相分布を持つマスクパターン)で反射された照明光ILを受光して、その凹凸パターン(位相分布)に対応して形成される空間像(デバイスパターン)をウエハW(基板)の表面に投影する投影光学系PLと、ウエハWの位置決め及び移動を行うウエハステージWSTと、装置全体の動作を統括制御するコンピュータよりなる主制御系40と、各種制御系等とを備えている。
【0017】
以下、図1において、ウエハステージWSTの底面(不図示のガイド面に平行な面)に垂直にZ軸を設定し、Z軸に垂直な平面内において図1の紙面に平行な方向にY軸を、図1の紙面に垂直な方向にX軸を設定して説明する。また、X軸、Y軸、Z軸の回りの角度をそれぞれθx方向、θy方向、θz方向の角度とも呼ぶ。本実施形態では、露光時にウエハWはY方向(走査方向)に走査される。
【0018】
光源2としては、波長193nmでパルス幅50ns程度のほぼ直線偏光のレーザ光を4〜6kHz程度の周波数でパルス発光するArFエキシマレーザ光源が使用されている。なお、光源2として、波長248nmのKrFエキシマレーザ光源、パルス点灯される発光ダイオード、又はYAGレーザ若しくは固体レーザ(半導体レーザ等)から出力されるレーザ光の高調波を生成する固体パルスレーザ光源等も使用できる。固体パルスレーザ光源は、例えば波長193nm(これ以外の種々の波長が可能)でパルス幅1ns程度のレーザ光を1〜2MHz程度の周波数でパルス発光可能である。
【0019】
本実施形態においては、光源2には電源部42が連結されている。主制御系40が、パルス発光のタイミング及び光量(パルスエネルギー)を指示する発光トリガパルスTPを電源部42に供給する。その発光トリガパルスTPに同期して、電源部42は指示されたタイミング及び光量で光源2にパルス発光を行わせる。
光源2から射出された断面形状が矩形でほぼ平行光束のパルスレーザ光よりなる照明光ILは、1対のレンズよりなるビームエキスパンダ4、照明光ILの偏光状態を制御する偏光制御光学系6及びミラー8Aを介して、Y軸に平行に、複数の回折光学素子(diffractive optical element)10A,10B等から選択された回折光学素子(図1では回折光学素子10A)に入射する。偏光制御光学系6は、例えば照明光ILの偏光方向を回転する1/2波長板、照明光ILを円偏光に変換するための1/4波長板、及び照明光ILをランダム偏光(非偏光)に変換するための楔型の複屈折性プリズム等を照明光ILの光路に交換可能に設置可能な光学系である。
【0020】
回折光学素子10A,10B等は、回転板12の周縁部にほぼ等角度間隔で固定されている。主制御系40が駆動部12aを介して回転板12の角度を制御して、照明条件に応じて選択された回折光学素子を照明光ILの光路上に設置する。選択された回折光学素子で回折された照明光ILは、レンズ14a,14bよりなるリレー光学系14によってマイクロレンズアレイ16の入射面に導かれる。マイクロレンズアレイ16に入射した照明光ILは、マイクロレンズアレイ16を構成する多数の微小なレンズエレメントによって二次元的に分割され、各レンズエレメントの後側焦点面である照明光学系ILSの瞳面(照明瞳面IPP)には二次光源(面光源)が形成される。
【0021】
一例として、回折光学素子10Aは通常照明用であり、回折光学素子10Bは、小さいコヒーレンスファクター(σ値)の照明光を生成する小σ照明用であり、その他に、2極照明用、4極照明用、及び輪帯照明用等の回折光学素子(不図示)も備えられている。なお、複数の回折光学素子10A,10B等の代わりに、それぞれ傾斜角が可変の多数の微小ミラーのアレイを有する空間光変調器を使用してもよく、マイクロレンズアレイ16の代わりにフライアイレンズ等も使用可能である。
【0022】
照明瞳面IPPに形成された二次光源からの照明光ILは、第1リレーレンズ18、視野絞り20、光路を−Z方向に折り曲げるミラー8B、第2リレーレンズ22、コンデンサ光学系24、及びミラー8Cを介して、XY平面に平行な被照射面(設計上の転写用パターンが配置される面)にθx方向に平均的な入射角αで入射する。言い換えると、その被照射面に対して照明光学系ILSの光軸AXIはθx方向に入射角αで交差している。入射角αは例えば数deg(°)から数10degである。その被照射面又はその近傍の面に、空間光変調器28の2次元のアレイ状に配列された多数のミラー要素30の電源オフ時の反射面が配置される。ビームエキスパンダ4からコンデンサ光学系24及びミラー8Cまでの光学部材を含んで照明光学系ILSが構成されている。照明光学系ILSからの照明光ILは、空間光変調器28の多数のミラー要素30のアレイ上のX方向に細長い長方形状の照明領域26Aをほぼ均一な照度分布で照明する。多数のミラー要素30は、照明領域26Aを含む長方形の領域にX方向及びY方向に所定ピッチで配列されている。照明光学系ILS及び空間光変調器28は、不図示のフレームに支持されている。
【0023】
図2(A)は、図1中の空間光変調器28の反射面の一部を示す拡大斜視図、図2(B)は図2(A)のBB線に沿う断面図である。図2(A)において、空間光変調器28の反射面には、X方向及びY方向にそれぞれピッチ(周期)px及びpyで、多数のミラー要素30が配列されている。ミラー要素30のX方向及びY方向の幅は、それぞれピッチpx及びpyとほぼ等しいとみなすことができる。一例としてミラー要素30は正方形であり、ピッチpx,pyは互いに等しい。なお、ミラー要素30は長方形等でもよく、ピッチpx,pyは互いに異なってもよい。
【0024】
その反射面において、X方向にi番目(i=1,2,…,I)及びY方向にj番目(j=1,2,…,J)の位置P(i,j)にそれぞれミラー要素30が配置されている。一例として、ミラー要素30のY方向(ウエハWの走査方向に対応する方向)の配列数Jは数100〜数1000であり、X方向の配列数Iは配列数Jの数倍〜数10倍である。また、ミラー要素30の配列のピッチ(又は幅)px(=py)は例えば10μm〜1μm程度である。
【0025】
また、空間光変調器28は、多数のミラー要素30と、各ミラー要素30をそれぞれ可撓性(弾性)を持つヒンジ部35(図2(B)参照)を介して支持するベース部材32とを備えている。
図2(B)において、ベース部材32は、例えばシリコンよりなる平板状の基材32Aと、基材32Aの表面に形成された窒化ケイ素(例えばSi34)等の絶縁層32Bとから構成されている。また、ベース部材32の表面にX方向、Y方向に所定ピッチで支持部34が形成され、隣接するY方向の支持部34の間に、弾性変形によってZ方向に可撓性を持つ1対の2段のヒンジ部35を介して、ミラー要素30の裏面側の凸部が支持されている。支持部34、ヒンジ部35、及びミラー要素30は例えばポリシリコンから一体的に形成されている。ミラー要素30の反射面(表面)には、反射率を高めるために金属(例えばアルミニウム等)の薄膜よりなる反射膜31が形成されている。
【0026】
また、ミラー要素30の底面側のベース部材32の表面に電極36Aが形成され、電極36Aに対向するようにヒンジ部35の底面に電極36Bが形成されている。ベース部材32の表面及び支持部34の側面には、ミラー要素30毎に対応する電極36A,36B間に所定の電圧を印加するための信号ライン(不図示)がマトリクス状に設けられている。この場合、電源オフ状態又は電源オン状態で電極36A,36B間に電圧が印加されていない状態(第1の状態)では、照明光IL2が入射している位置P(i,j−1)のミラー要素30で示すように、ミラー要素30の反射面は、XY平面に平行な平面である基準平面A1に合致している。一方、電源オン時で電極36A,36B間に所定の電圧が印加されている状態(第2の状態)では、照明光IL1が入射している位置P(i,j)のミラー要素30で示すように、ミラー要素30の反射面は、XY平面に平行で基準平面A1からZ方向に間隔d1だけ変位した平面A2に合致している。図1の変調制御部48が、主制御系40から設定される照明光ILの位相分布(凹凸パターン)の情報に応じて、位置P(i,j)のミラー要素30毎に電極36A,36B間の電圧を制御する。各ミラー要素30は、その第1の状態又はその第2の状態のいずれかに設定される。
【0027】
このような微小な立体構造の空間光変調器28は、例えば背景技術で引用した非特許文献1に記載されているように、MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)技術を用いて製造することが可能である。空間光変調器28の各ミラー要素30は、平行移動によって第1の状態又は第2の状態に設定できればよいだけであるため、ミラー要素30の小型化及びミラー要素30の配列数の増大が容易である。
【0028】
また、各ミラー要素30の反射面が基準平面A1に合致している状態(第1の状態)で、当該ミラー要素30によって反射される照明光ILの位相の変化量を第1の位相δ1とすると、本実施形態では位相δ1は0°である。また、各ミラー要素30の反射面が基準平面A1から間隔d1だけ変位した平面A2に合致している状態(第2の状態)で、当該ミラー要素30で反射される照明光ILの位相の変化量を第2の位相δ2とすると、位相δ2は位相δ1に対して180°(π(rad))異なっている。すなわち、以下の関係が成立する。ただし、空間光変調器28の製造誤差及び変調制御部48による駆動誤差等を考慮して、位相δ2は、以下の式に対して数deg(°)程度の誤差は許容される。
【0029】
δ1=0°…(1A), δ2=180°=π(rad) …(1B)
なお、以下では、単位のない位相はradを意味する。また、位置P(i,j)のミラー要素30の反射面が基準平面A1に合致しているときの点線で示す反射光B1の波面の位相の変化量と、その反射面が間隔d1の平面A2に合致しているときの反射光B2の波面の位相の変化量との差分が第2の位相δ2である。一例として、入射角αをほぼ0°として、ミラー要素30の反射面に入射する照明光IL1の波長をλ(ここではλ=193nm)とすると、間隔d1はほぼ次のようになる。
【0030】
d1=λ/4 …(2)
図2(A)において、空間光変調器28の各ミラー要素30はそれぞれ入射する照明光ILの位相を0°変化させて反射する第1の状態、又は入射する照明光ILの位相を180°変化させて反射する第2の状態に制御される。以下では、その第1の状態に設定されたミラー要素30を位相0のミラー要素、その第2の状態に設定されたミラー要素30を位相πのミラー要素とも呼ぶこととする。
【0031】
一例として、所定パルス数の照明光ILの発光毎に、主制御系40が変調制御部48に、空間光変調器28によって設定される照明光ILの位相分布(凹凸パターン)の情報を供給する。これに応じて変調制御部48が空間光変調器28の各ミラー要素30を位相0又は位相πに制御する。ウエハWの表面にはその位相分布に応じた空間像が形成される。
図1において、空間光変調器28の照明領域26A内の多数のミラー要素30のアレイで反射された照明光ILは、平均的な入射角αで投影光学系PLに入射する。不図示のコラムに支持された光軸AXWを持つ投影光学系PLは、空間光変調器28(物体面)側に非テレセントリックであり、ウエハW(像面)側にテレセントリックの縮小投影光学系である。投影光学系PLは、空間光変調器28によって設定される照明光ILの位相分布に応じた空間像の縮小像を、ウエハWの1つのショット領域内の露光領域26B(照明領域26Aと光学的に共役な領域)に形成する。投影光学系PLの投影倍率βは例えば1/10〜1/100程度である。投影光学系PLの像面側の開口数をNA、照明光ILの波長をλとして、照明条件を通常照明とすると、投影光学系PLの解像度Re(周期的パターンのピッチ又は線幅の2倍で表した解像限界)は、次のようになる。
【0032】
Re=λ/NA …(3)
一例として、解像度Reは、空間光変調器28のミラー要素30の像の幅(β・py)の1倍〜数倍程度である。例えば、ミラー要素30の大きさ(配列のピッチ)が数μm程度、投影光学系PLの投影倍率βが1/100程度であれば、解像度Reは数10nm〜その数倍程度である。ウエハW(基板)は、例えばシリコン又はSOI(silicon on insulator)等の円形の平板状の基材の表面に、フォトレジスト(感光材料)を数10nm〜200nm程度の厚さで塗布したものを含む。
【0033】
本実施形態のように物体側に非テレセントリックの投影光学系PLを用いることによって、空間光変調器28の多数のミラー要素30の反射面とウエハWの露光面(フォトレジストの表面)とをほぼ平行に配置できる。従って、露光装置の設計・製造が容易である。さらに、照明光ILの偏光状態を任意の状態に設定できる。
また、露光装置EXが液浸型である場合には、例えば米国特許出願公開第2007/242247号明細書に開示されているように、投影光学系PLの先端の光学部材とウエハWとの間に照明光ILを透過する液体(例えば純水)を供給して回収する局所液浸装置が設けられる。液浸型の場合には開口数NAを1より大きくできるため、解像度をさらに高めることができる。
【0034】
図1において、ウエハWはウエハホルダ(不図示)を介してウエハステージWSTの上面に吸着保持され、ウエハステージWSTは、不図示のガイド面上でX方向、Y方向にステップ移動を行うとともに、Y方向に一定速度で移動する。ウエハステージWSTのX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角等はレーザ干渉計45によって形成され、この計測情報がステージ制御系44に供給されている。ステージ制御系44は、主制御系40からの制御情報及びレーザ干渉計45からの計測情報に基づいて、リニアモータ等の駆動系46を介してウエハステージWSTの位置及び速度を制御する。なお、ウエハWのアライメントを行うために、ウエハWのアライメントマークの位置を検出するアライメント系(不図示)等も備えられている。
【0035】
ウエハWの露光時には、基本的な動作として、ウエハWのアライメントを行った後、照明光学系ILSの照明条件を設定する。また、主制御系40から変調制御部48に、ウエハWの各ショット領域に露光されるパターンに対応する位相分布の情報が供給される。そして、例えば図3(A)に示すウエハWの表面でY方向に一列に配列されたショット領域SA21,SA22,…に露光を行うために、ウエハWを走査開始位置に位置決めする。その後、ウエハWの+Y方向への一定速度での走査を開始する。なお、図3(A)のショット領域SA21等の中の矢印は、ウエハWに対する露光領域26Bの相対的な移動方向を示している。
【0036】
次に、主制御系40は、露光領域26Bに対するウエハWのショット領域SA21の相対位置の情報を変調制御部48に供給し、その相対位置に応じて変調制御部48は、転写対象の部分位相分布を読み出し、読み出した部分位相分布を空間光変調器28で設定する。そして、主制御系40が電源部42に発光トリガパルスTPを供給することによって、ウエハW上の露光領域26Bには、Y方向の位置に応じて目標とする空間像が露光される。この動作は、ウエハWが所定量移動する毎に、かつショット領域SA21が露光領域26Bを横切るまで繰り返される。
【0037】
その後、ウエハWのショット領域SA21に隣接するショット領域SA22に露光するために、ウエハWを同じ方向に走査したまま、主制御系40は、変調制御部48に露光領域26Bに対するショット領域SA22の相対位置の情報を供給するとともに、電源部42に発光トリガパルスTPを供給する。このようにして、マスクレス方式で、ショット領域SA21からSA22にかけて連続的に露光を行うことができる。そして、図3(A)のウエハWのX方向に隣接するショット領域SA31,SA32を含む列の露光に移行する場合には、ウエハステージWSTを駆動してウエハWをX方向(走査方向に直交する非走査方向)にステップ移動する。そして、点線で示す露光領域26Bに対するウエハWの走査方向を逆の−Y方向に設定し、主制御系40から変調制御部48に露光領域26Bに対するショット領域SA31等の相対位置の情報を供給し、電源部42に発光トリガパルスTPを供給する。これによって、ショット領域SA32からSA31にかけて連続的に露光を行うことができる。この露光に際して、ショット領域SA21,SA22等に互いに異なる空間像を露光することも可能である。その後、ウエハWのフォトレジストの現像を行うことで、ウエハWの各ショット領域に回路パターンに対応するレジストパターンが形成される。
【0038】
次に、本実施形態の露光装置EXにおいて、空間光変調器28のミラー要素30の像の幅よりも微細な位置精度及び/又は形状精度でパターンを形成する動作につき説明する。初めに、ウエハWの表面に、X方向に伸びた一つ又は複数のラインパターンをミラー要素30の像の幅よりも微細なシフト量で次第にシフトさせて露光するものとする。この場合の照明光学系ILSの照明条件は、例えばσ値が0.14程度の小σ照明で、照明光ILの偏光方向がウエハW上でX方向(ラインパターンの長手方向)になるように設定される。
【0039】
まず、ウエハWの表面に形成されるラインパターンの中心が、複数のミラー要素30の像の境界部にある場合を想定する。この場合、空間光変調器28のミラー要素30のアレイの位相分布は、図4(A)の部分拡大平面図(ベース部材32側から見た配置、以下同様)で示すように、Y方向に複数列(例えば4列以上)でX方向に複数行(例えば15行以上)のミラー要素30を含む矩形の第1パターン領域37A内で各ミラー要素30が第2の状態(位相π)となり、第1パターン領域37Aの−Y方向に隣接し、第1パターン領域37Aとほぼ同じ大きさの矩形の第2パターン領域37B(図4(A)ではそのうちの+Y方向の2列分が現れている)内で各ミラー要素30が第1の状態(位相0)となる分布に設定される。なお、説明の便宜上、図4(A)及び後述の図4(B)、図5(A)〜(C)等では、第2の状態(位相π)のミラー要素30にはハッチングを施している。また、ミラー要素30のX方向及びY方向の配列のピッチ(ミラー要素30の幅)はpx及びpy(ここではpx=py)である。
【0040】
なお、一例として、Y方向の幅PY2(図4(A)ではPY2=4py)のパターン領域37A,37BはY方向に交互に繰り返して配列されて周期的な位相分布を形成しており、図4(A)にはその周期的な位相分布のうちのY方向に1ピッチPY1(PY1=2PY2)分の位相パターンMP1が示されている。図4(A)で、第1パターン領域37Aの+Y方向に隣接して配列されている2列分の位相0のミラー要素30のアレイは、次の周期の第2パターン領域37Bの一部である。同様に、後述の図4(B)、図5(A)〜(C)等においても、それぞれ周期的な位相分布のうちのY方向に1ピッチ(1周期)分の位相パターンMP1A,MP1B〜MP1D等が示されている。
【0041】
図4(A)の位相パターンMP1からの照明光ILによってウエハW表面の例えばポジ型のフォトレジスト層に投影される空間像のY方向の強度INTの分布は、図4(C)の強度分布C1で示すように、Y方向の位置Y1,Y2で最小となり、位置Y1,Y2の間隔はβ・PY2(βは投影倍率)である。言い替えると、強度分布C1は、図4(A)のパターン領域37Aと±Y方向のパターン領域37Bとの境界線BR及びBLと共役なX方向に平行な中心線C2R及びC2L(位置Y1及びY2)を中心とする部分で低レベル(感光レベルより低いレベル)となり、その両側で高レベル(感光レベルを超えるレベル)となっている。そのフォトレジスト層を現像すると、図6(C)に示すように、Y方向の幅がβ・2PY/2(ここではPY2=4py)で、Y方向の間隔がβ・PY2/2のX方向に細長いレジストパターンよりなる点線で現した2つのラインパターンC1Pが得られる。2つのラインパターンC1Pの中心線C2R,C2LのY方向の位置が図4(C)のY2及びY1である。実際には、多数のラインパターンC1PがY方向に周期的に形成される。
【0042】
次に、ウエハWの表面に形成されるラインパターンの中心を、ミラー要素30の像の幅よりも狭い間隔δ1(又はその像の幅の整数倍にその幅より狭い端数を加えた間隔)だけY方向にシフトさせるものとする。シフトした後のラインパターンを形成するための空間像の強度INTの分布は、図4(D)の実線の強度分布60Aで示すように、シフト前の点線の強度分布C1に対してY方向にδ1だけ移動している。これは、例えば図4(A)の位相パターンMP1に対応するレジストパターンに対してX方向に離れた位置に、そのレジストパターンを間隔δ1だけY方向にシフトさせた形状のレジストパターンを形成する場合、又はウエハWの走査露光時にウエハWのY方向への移動に追従して空間光変調器28で生成される位相パターンMP1をY方向に次第にシフトさせる場合に必要となる。
【0043】
これらの場合、空間光変調器28のミラー要素30のアレイの位相パターンMP1Aは、図4(B)に示すように、図4(A)の位相パターンMP1の境界線BR及びBLをδ1に対応するΔy(=δ1/β)だけY方向にシフトさせた境界線BR1及びBL1の内側で位相πとなり、それらの外側で位相0となる位相分布(目標とする位相分布)と実質的に等価であればよい。図4(B)の位相パターンMP1Aにおいて、図4(A)の第1パターン領域37AのうちY方向の両端の1列のミラー要素30を除いた部分に対応する第1パターン領域37C内の全部のミラー要素30は位相π(第2の状態)となる。また、図4(A)の第2パターン領域37BのうちY方向の両端の1列を除いた部分に対応する複数列(ここでは2列)のミラー要素30のアレイよりなる第2パターン領域37D内のミラー要素30は位相0(第1の状態)となる。そして、第1パターン領域37Cに対して+Y方向に隣接して配置された1列のミラー要素30よりなる第1境界領域38Aにおいて、X方向に投影光学系PLで解像されない第1のピッチP1で配列された複数のミラー要素30Aを位相0に設定し、第1境界領域38A内の他のミラー要素30Bを位相πに設定する。さらに、第1境界領域38Aに対して+Y方向に隣接して配置された1列のミラー要素30よりなる第2境界領域38Bにおいて、X方向に投影光学系PLで解像されない第2のピッチP2で配列された複数のミラー要素30Dを位相πに設定し、第2境界領域38B内の他のミラー要素30Cを位相0に設定する。境界領域38A,38Bの境界が位相パターンをシフトさせる前の境界線BRである。
【0044】
ここで、ピッチP1及びP2内にそれぞれN1個及びN2個(N1及びN2はそれぞれ2以上の整数)のミラー要素30が含まれるものとすると、次の関係が成立する。
P1=N1・px …(4A), P2=N2・px …(4B)
ここで、投影光学系PLの投影倍率βを用いると、ピッチP1の位相パターンの像のピッチは、β・P1となる。また、ピッチP1,P2は投影光学系PLで解像されないように設定されているため、その位相パターンからの±1次回折光が投影光学系PLを通過しない条件を求めればよい。式(3)の投影光学系PLの解像度Re及び式(4A)、(4B)を用いると、ピッチP1,P2の位相パターンが投影光学系PLで解像されない条件、つまりピッチP1,P2の位相パターンが投影光学系PLの解像限界を超える条件は次のようになる。
【0045】
β・P1=β・N1・px<λ/NA …(5A),
β・P2=β・N2・px<λ/NA …(5B)
これらの条件から整数N1,N2の条件は次のようになる。ただし、β・px(ミラー要素30の像の幅)をDとおいている。
N1<λ/(NA・D) …(6A), N2<λ/(NA・D) …(6B)
一例として、λ=193nm、NA=1.35(液浸法の適用時)、D=β・px=20(nm)とすると、式(6A)及び(6B)の右辺はほぼ7.15となるため、ピッチP1,P2の位相パターンが投影光学系PLで解像されない条件は、次のように整数N1,N2が7以下であればよい。
【0046】
N1≦7 …(7A), N2≦7 …(7B)
また、図4(B)において、第1境界領域38A内でピッチP1内の位相0のミラー要素30Aの個数をn1(n1はN1より小さい整数)、第2境界領域38B内でピッチP2内の位相πのミラー要素30Dの個数をn2(n2はN2より小さい整数)とすると、境界線BRに対してΔyだけシフトした境界線BR1を持つ位相分布と等価な位相パターンMP1Aを形成する条件は、境界領域38A,38BのY方向の幅(ここではミラー要素30のY方向の幅と同じ)pyを用いて次のようになる。
【0047】
Δy={−(n1/N1)+(n2/N2)}py …(8A)
また、シフト量Δyに対応する図4(D)の強度分布60Aが最小となる位置(境界線BR1と共役な像C3R)の位置Y1からのシフト量δ1は、投影倍率βを用いて次のようになる。ただし、β・py(ミラー要素30の像のY方向の幅)をDとおいている。
δ1={−(n1/N1)+(n2/N2)}D …(8B)
本実施形態では、ピッチP1,P2を規定する整数N1,N2が式(6A)及び(6B)を満たす範囲内で、整数N1,N2及び整数n1,n2の値の少なくとも一つを変更することによって、位相パターンMP1Aと等価な位相分布における境界線BR1のシフト量Δy、ひいては境界線BR1と共役な像のシフト量δ1を調整する。また、光学的近接効果による誤差であるOPE(Optical Proximity Error )等を考慮しないものとすると、2つの境界領域38A,38Bを用いる場合には、原則としてピッチP1とピッチP2とは異なっている。すなわち、ピッチP1,P2が互いに等しいときには、位相0のミラー要素30Aと位相πのミラー要素30Dとの一方が相殺によって省略されるため、境界領域38A,38Bのうちの一方が省略される。
【0048】
一例として、ミラー要素30の像の幅Dが20nmである場合に、シフト量δ1を1nmに設定する場合には、図4(B)に示すように、N1=5,n1=1,N2=4,n2=1に設定すればよい。これらの値を式(8B)に代入すると、次のようにシフト量δ1は1nmとなる。
δ1=(−1/5+1/4)20=1(nm) …(9A)
また、本実施形態では、図4(B)の位相パターンMP1Aと等価な位相分布の−Y方向の境界線BL1は、元の境界線BLに対して第1パターン領域37C側を正の符号としてΔyだけ移動している。このため、位相パターンMP1Aにおいて、第2パターン領域37Dに対して+Y方向に隣接して配置された1列のミラー要素30よりなる第3境界領域39Aの位相分布が第1境界領域38Aの位相分布を反転した分布となり、第3境界領域39Aに対して+Y方向に隣接して配置された(第1パターン領域37Cに対して−Y方向に隣接して配置された)1列のミラー要素30よりなる第4境界領域39Bの位相分布が第2境界領域38Bの位相分布を反転した分布となっている。境界領域39A,39Bの境界が位相パターンをシフトさせる前の境界線BLである。
【0049】
具体的にN1=5,n1=1,N2=4,n2=1の場合には、第3境界領域39Aにおいて、X方向にピッチ5pxでそれぞれ幅pxで配列された複数のミラー要素30Bが位相πに設定され、他のミラー要素30Aが位相0に設定される。さらに、第4境界領域39Bにおいて、X方向にピッチ4pxでそれぞれ幅pxで配列された複数のミラー要素30Cが位相0に設定され、他のミラー要素30Dが位相πに設定される。この位相パターンMP1Aを用いることによって、図4(A)の位相パターンMP1の空間像をY方向に1nmだけシフトさせた空間像を形成できる。
【0050】
同様に、図4(A)の位相パターンMP1の像の強度分布C1をY方向に2nm、3nm、及び4nmだけシフトした図5(D)の強度分布60B、図5(E)の強度分布60C、及び図5(F)の強度分布60Dを形成するためには、空間光変調器28のミラー要素30のアレイの位相分布をそれぞれ図5(A)の位相パターンMP1B、図5(B)の位相パターンMP1C、及び図5(C)の位相パターンMP1Dに設定すればよい。図5(A)の位相パターンMP1Bにおいて、第1パターン領域37Cの+Y方向の第1境界領域38Cでは、X方向にピッチ5pxでそれぞれ幅2pxで配列された複数のミラー要素30Aが位相0(第1の状態)に設定され、他のミラー要素30Bが位相π(第2の状態)に設定され、第1境界領域38Cに隣接する第2境界領域38Dにおいて、X方向にピッチ2pxでそれぞれ幅pxで配列された複数のミラー要素30Dが位相πに設定され、他のミラー要素30Cが位相0に設定される。また、第2パターン領域37Dに+Y方向に隣接する第3境界領域39C及びこれに+Y方向に隣接する(第1パターン領域37Cに−Y方向に隣接する)第4境界領域39Dの位相分布は、それぞれ境界領域38C及び38Dの分布を反転した分布となる。この位相分布は、図4(B)でN1=5,n1=2,N2=2,n2=1とした分布に相当するため、式(8B)から次のようにシフト量δ1は2nmとなる。
【0051】
δ1=(−2/5+1/2)20=2(nm) …(9B)
また、図5(B)の位相パターンMP1Cは、第1パターン領域37Cの+Y方向の第1境界領域38Eで、X方向にピッチ4pxでそれぞれ幅pxで配列された複数のミラー要素30Aを位相0に設定し、他のミラー要素30Bを位相πに設定し、それに隣接する第2境界領域38Fにおいて、X方向にピッチ5pxでそれぞれ幅2pxで配列された複数のミラー要素30Dを位相πに設定し、他のミラー要素30Cを位相0に設定したものである。さらに、第2パターン領域37Dに+Y方向に順次隣接する第3境界領域39E及び第4境界領域39Fの位相分布は、それぞれ境界領域38E及び38Fの分布を反転した分布である。この位相分布は、図4(B)でN1=4,n1=1,N2=5,n2=2とした分布に相当するため、式(8B)からシフト量δ1は3nmとなる。
【0052】
また、図5(C)の位相パターンMP1Dにおいて、3列分の位相πのミラー要素30よりなる第1パターン領域37Eの+Y方向に隣接する境界領域62Aでは、X方向にピッチ5pxでそれぞれ幅pxで配列された複数のミラー要素30Dが位相πに設定され、他のミラー要素30Cが位相0に設定され、3列分の位相0のミラー要素30よりなる第2パターン領域37Fの+Y方向(第1パターン領域37Eの−Y方向)に隣接する境界領域64Aの位相分布は境界領域62Aの分布を反転した分布に設定される。この位相分布は、図4(B)でn1=0,N2=5,n2=1とした分布に相当するため、式(8B)からシフト量δ1は4nmとなる。同様に、式(8B)の整数N1,n1,N2,n2の値を調整することによって、図4(A)の位相パターンMP1の像の強度分布をY方向に5nm〜19nmまで1nmずつ又はほぼ1nmずつシフトした強度分布を持つ位相パターンを形成できる。
【0053】
また、仮に図4(B)の位相パターンMP1Aの空間像でウエハWを露光した場合には、図6(C)に示すように、図4(A)の位相パターンMP1の空間像から得られるラインパターンC1Pの中心線C2R,C2Lに対してY方向にδ1だけシフトした中心線C3R,C3Lを持つレジストパターンよりなるX軸に平行な2つのラインパターン60APが得られる。ラインパターン60APの中心線C3R及びC3Lは、それぞれ図4(B)の位相パターンMP1Aと等価な位相分布の境界線BR1及びBL1と共役(境界線BR1及びBL1の像)である。
【0054】
また、図6(A)は、図4(B)の位相パターンMP1AでN1=5,n1=1,N2=4,n2=1としたときの位相パターンMP1Aを示している。従って、図6(A)の位相パターンMP1Aの空間像を露光して現像すると、図6(C)においてシフト量δ1が1nmであるラインパターン60APが得られる。ただし、ミラー要素30の像の幅Dを20nmとしている。これに対して、1nmのシフト量を得るためには、図6(B)の比較例の空間光変調器28Lで設定される位相パターンMP2で示すように、3列分の位相πのミラー要素30よりなる第1パターン領域37Eの+Y方向に隣接する境界領域62Bでは、X方向にピッチ20pxでそれぞれ幅pxで配列された複数のミラー要素30Dを位相πに設定し、他のミラー要素30Cを位相0に設定し、第1パターン領域37Eの−Y方向に隣接する境界領域64Bの位相分布を境界領域62Aの分布を反転した分布に設定することも考えられる。
【0055】
図6(B)の位相パターンMP2は、図4(B)でn1=0,N2=20,n2=1とした分布に相当するため、式(8B)からシフト量δ1は1nmとなる。しかしながら、整数N2の値20が、投影光学系PLで解像されない限界である式(7B)の上限値7を超えているため、境界領域62B及び64Bの像がウエハWに露光されてしまう。そのため、位相パターンMP2の空間像を露光して得られるレジストパターンは、図6(D)の2つのレジストパターン61Pで示すように、X方向に周期的にうねるような形状となり、パターン忠実度が低下しており、好ましくない。
【0056】
本実施形態においては、例えば図4(B)のように位相パターンMP1Aにおいて、2つの境界領域38A,38B及び/又は39A,39Bを設けることによって、投影光学系PLで解像されないという条件(例えば式(7A)及び(7B))を満たしつつ、得られるラインパターンのY方向のシフト量をミラー要素30の像の幅Dに対して例えば1/20以下程度の微少量に設定できる。
【0057】
次に、ウエハWの表面に、X方向に伸びたラインパターンをY方向にミラー要素30の像の幅の非整数倍のピッチで配列したライン・アンド・スペースパターン(以下、L&Sパターンという。)を形成するものとする。この場合の照明条件も、例えばσ値が0.14程度の小σ照明に設定され、偏光条件も、照明光ILの偏光方向がウエハW上でX方向(ラインパターンの長手方向)になるように設定される。また、ミラー要素30の像の幅Dを20nmであるとして、ウエハW上でピッチが78nmのL&Sパターンを形成するものとする。
【0058】
このために、空間光変調器28のミラー要素30のアレイを用いて、図7(A)の部分拡大平面図で示すように、Y方向に7列でX方向に複数行(例えば20行以上)のミラー要素30を含む第1部分パターンSP1と、この第1部分パターンSP1に順次+Y方向に隣接するとともにそれぞれY方向に8行でX方向に複数行(例えば20行以上)のミラー要素30を含む第2、第3、第4、及び第5部分パターンSP2,SP3,SP4,SP5とを含む位相パターンMP3を生成する。第1部分パターンSP1に−Y方向に隣接する領域のミラー要素30は位相0に設定する。なお、図7(A)において図4(A)〜図5(C)に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0059】
図7(A)の位相パターンMP3において、第1部分パターンSP1は、Y方向に3列の位相πのミラー要素30のアレイよりなる第1パターン領域37Eと、この領域に対して+Y方向に隣接して配置されて、X方向にピッチ2pxで配置された幅pxの位相0(第1の状態)のミラー要素30Aとこれ以外の位相π(第2の状態)のミラー要素30Bとを有する第1境界領域38Gと、この領域に対して+Y方向に隣接して配置されて、X方向にピッチ5pxで配置された幅2px(2個)のミラー要素30Dとこれ以外の位相0のミラー要素30Cとを有する第2境界領域38Hと、この領域に対して+Y方向に隣接して配置されたY方向に2行の位相0のミラー要素30のアレイよりなる第2パターン領域37Dと、を有する。この場合、ミラー要素30A,30Dの配列のピッチは投影光学系PLによって解像されない値であり、式(8B)で、N1=2,n1=1,N2=5,n2=2とおくことで、境界領域38G,38Hの境界線BRの像に対して等価的な位相分布(境界線BR1の−Y方向の位相がπで+Y方向の位相が0となる分布)の境界線BR1の像の−Y方向へのシフト量δ1は2nmとなる。
【0060】
また、第1パターン領域37Eの−Y方向の端部とその境界線BR1との間隔PY3に投影倍率βを掛けた値β・PY3は78nmであり、この値β・PY1がウエハW上に形成されるL&SパターンのY方向のピッチとなる。さらに、第2部分パターンSP2,SP3,SP4,SP5は、それぞれ第1パターン領域37E又は37Cの−Y方向に隣接して配置されて等価的な位相分布の境界線の像を−Y方向に4nm、8nm、12nm、16nmシフトさせるための境界領域64D,64C,64E,64Aと、それぞれ第1パターン領域37E又は37Cの+Y方向に隣接して配置されて等価的な位相分布の境界線の像を−Y方向に6nm、10nm、14nm、18nmシフトさせるための境界領域38G,38I、境界領域62C、境界領域38A,38D、及び境界領域38C,38Dと、を有する。これによって、位相パターンMP3の空間像の強度INTは、図7(B)に示すようにピッチβ・PY3が均一に78nmのL&Sパターンの分布となる。従って、L&Sパターンのピッチの精度を形状精度の一つとみなすと、空間光変調器28のミラー要素30の像の幅よりも微細な形状精度で周期的パターンが形成できる。
【0061】
次に、図1の露光装置EXにおいて、空間光変調器28のミラー要素30の幅の像よりも微細な位置精度及び/又は形状精度でパターンを形成する場合の空間光変調器28の駆動方法を含む露光方法の一例につき、図8のフローチャートを参照して説明する。まず、図8のステップ102において、露光装置EXのウエハステージWSTにフォトレジストが塗布されたウエハWをロードし、次のステップ104において、主制御系40は、空間光変調器(SLM)28で設定する全体の位相分布の情報を露光データファイルから読み出し、読み出した情報を変調制御部48に供給する。次のステップ106でウエハステージWSTのY方向への走査を開始し、露光領域26Bとなる部分にウエハWの露光対象のショット領域の先端部が到達したときに、主制御系から変調制御部48に当該ショット領域の相対位置の情報が供給される。
【0062】
次のステップ108において、変調制御部48は、全体の位相分布のデータのうちで露光領域26Bに転写される領域(転写対象領域)の部分位相分布を読み出す。次のステップ110において、変調制御部48は、空間光変調器28のミラー要素30単位で、部分位相分布に対応させてミラー要素30を第1の状態(位相0)又は第2の状態(位相π)に設定する。これによって、転写対象の位相分布が図4(B)の場合には、第1パターン領域37Cのミラー要素30が位相πに、第2パターン領域37Dのミラー要素30が位相0に設定される。
【0063】
次のステップ112で、変調制御部48は、その部分位相分布がミラー要素30の幅の内部に設定される境界線(位相0の領域と位相πの領域との境界線)を含むかどうかを判定し、その境界線を含まないときにはステップ120に移行する。一方、ミラー要素30の幅の内部に設定される境界線を含む場合には、ステップ114に移行する。ステップ114において、変調制御部48は、その境界線が通過する領域及びこの領域に隣接する領域(境界線付近の領域)(図4(B)の例では境界線BR1,BL1が通過している境界領域38A,38B及び39A,39B)のうちの第1境界領域38A(第1領域)で第1のピッチP1で複数のミラー要素30Aの位相を0に設定し、他のミラー要素30Bの位相をπに設定する。
【0064】
次のステップ116において、変調制御部48は、図4(B)の第2境界領域38B(第2領域)で第2のピッチP2で複数のミラー要素30Dの位相をπに設定し、他のミラー要素30Cの位相を0に設定する。なお、境界線BRの境界線BR1に対するシフトを一つの境界領域内のミラー要素30の位相分布を調整するのみで行うことができる場合には、ステップ116は省略できる。次のステップ118において、変調制御部48は、第3境界領域39A(第3領域)及び第4境界領域39B(第4領域)の位相分布をそれぞれ境界領域38A及び38Bの分布を反転した分布(逆の分布)に設定する。なお、境界線BL1が境界線BLと一致する場合には、ステップ118は省略できる。さらに、境界線BL1の境界線BLに対するシフト量が、境界線BR1のシフト量と異なる場合には、ステップ118の動作は、ステップ114(又はステップ114,116)と同様に独立に実行される。
【0065】
次のステップ120において、主制御系40は光源2から照明光学系ILSを介して空間光変調器28に所定パルス数だけ照明光ILを供給する。これによって、空間光変調器28で設定された位相分布に対応する空間像がウエハWに露光される。次のステップ122で走査露光が終了していない場合には、動作はステップ124に移行し、主制御系40から露光領域26Bに対する露光対象のショット領域の更新された相対位置の情報が供給される。これに応じて変調制御部48は、全体の位相分布のうちの転写対象領域を走査方向に対応する方向にシフトする。その後、動作はステップ108に戻り、ステップ108〜120において、シフトした転写対象領域内の部分位相分布に対応する空間像がウエハWに露光される。この露光動作は、ステップ122で走査露光が終了するまで継続される。
【0066】
このように本実施形態によれば、孤立的なライン状の空間像、又はL&Sパターンの空間像をそれぞれミラー要素30の像の幅よりも微細な位置精度又は形状精度でマスクレス方式で形成することができる。従って、ウエハWの表面に種々のパターン(空間像)を高精度に形成できる。
本実施形態の効果等は以下の通りである。
【0067】
本実施形態の露光装置EXは、空間光変調器28及び変調制御部48を備えている。また、変調制御部48による空間光変調器28の駆動方法は、それぞれ照明光ILを投影光学系PLに導く複数のミラー要素30(光学要素)のアレイを有する空間光変調器28の駆動方法である。この駆動方法は、Y方向(第1方向)に隣接して配置されるとともにそれぞれY方向に直交するX方向(第2方向)に伸びた第1境界領域38A及び第2境界領域38Bのうち、第1境界領域38A内でX方向に投影光学系PLで解像されない(解像限界を超える)ピッチP1で配列された複数のミラー要素30Aを位相0の状態(第1の状態)に設定し、他のミラー要素30Bを位相πの状態(第2の状態)に設定するステップ114と、第2境界領域38B内でX方向に投影光学系PLで解像されないピッチP2で配列された複数のミラー要素30Dを位相πの状態に設定し、他のミラー要素30Cを位相0の状態に設定するステップ116と、を有する。
【0068】
この空間光変調器28の駆動方法は、露光用パターンの生成方法でもある。ここで、空間光変調器28の複数のミラー要素30(光学要素)のアレイは、グリッド状に配列された複数の区画と見なすことができ、第1の状態(位相0)および第2の状態(位相π)に設定された空間光変調器28の複数のミラー要素30(区画)の配列は、露光用パターンとみなすことができる。
【0069】
本実施形態によれば、空間光変調器28において、第1境界領域38A内にピッチP1で配列された複数のミラー要素30Aを位相0に設定し、第2境界領域38B内にピッチP2で配列された複数のミラー要素30Dを位相πに設定することによって、境界領域38A,38B間の境界線BRの像は、実質的に式(8B)に基づいてY方向にミラー要素30の像の幅Dよりも微細な位置精度でシフトする。従って、空間光変調器28を用いてウエハWにパターンを投影する際に、ミラー要素30の像の幅よりも微細な位置精度又は形状精度でパターンを形成可能になる。
【0070】
さらに、ミラー要素30A,30Dの配列ピッチが投影光学系PLで解像されないピッチであるため、ウエハWにラインパターンを形成する際に、ラインパターンの直線性が維持されるとともに、2つの隣接する境界領域38A,38B内で異なるピッチP1,P2で配列されたミラー要素30A,30Dの位相を設定することで、境界線BRの像のシフト量をより微細な精度で制御できる。
【0071】
また、露光装置EXは、照明光IL(露光光)で投影光学系PLを介してウエハW(基板)を露光する露光装置であって、投影光学系PLの物体面側に配置されて、それぞれ照明光ILを投影光学系PLに導くように制御可能な複数のミラー要素30のアレイを有する空間光変調器28と、空間光変調器28の複数のミラー要素30を駆動する変調制御部48(制御装置)と、を備えている。そして、変調制御部48は、ウエハWの表面に投影光学系PLを介して形成される空間像に応じて、Y方向に隣接して配置された境界領域38A及び38Bのうち、第1境界領域38A内でX方向に投影光学系PLで解像されないピッチP1で配列された複数のミラー要素30Aを位相0の状態に設定し、他のミラー要素30Bを位相πの状態に設定し、第2境界領域38B内でX方向に投影光学系PLで解像されないピッチP2で配列された複数のミラー要素30Dを位相πの状態に設定し、他のミラー要素30Cを位相0の状態に設定する。
【0072】
従って、空間光変調器28を用いてウエハWにパターンを投影(形成)する際に、ミラー要素30の像の幅よりも微細な位置精度又は形状精度でパターン(レジストパターン等)を形成できる。
なお、ステップ116とステップ118とは、実質的に同時に実行することも可能である。また、ステップ118をステップ116よりも先に実行することも可能である。さらに、ミラー要素30のアレイのY軸に平行な境界線(ミラー要素30の間の領域)に対して、実質的にX方向にミラー要素30の幅よりも微細な量だけシフトした境界線で位相0の領域と位相πの領域とが分かれている位相分布と等価な位相分布を設定する場合にも本実施形態が適用できる。この場合には、ミラー要素30のアレイ中で、X方向に隣接する2つの境界領域内で、投影光学系PLに解像されないピッチで配列された複数のミラー要素30の位相を0又はπに設定すればよい。
【0073】
また、空間光変調器28は光学要素としてミラー要素30(反射要素)を有するため、照明光ILの利用効率が高い。しかしながら、空間光変調器28の代わりに、個々の光学要素がそれぞれ透過する光の位相を所定のφ1又は(φ1+180°)変化させる透過型の空間光変調器を使用することも可能である。このような光学要素としては、電圧によって屈折率が変化する電気光学素子又は液晶セル等を使用できる。
【0074】
また、本実施形態の露光装置EXの露光方法は、照明光IL(露光光)で複数のミラー要素30のアレイを有する空間光変調器28及び投影光学系PLを介してウエハW(基板)を露光する露光方法であって、上記の空間光変調器28の駆動方法によって複数のミラー要素30の少なくとも一部(照明領域26A内のミラー要素30)を位相0又はπの状態に設定するステップ114,116と、照明光ILでその位相0又はπの状態に設定された複数のミラー要素30及び投影光学系PLを介して形成される空間像でウエハWを露光するステップ120と、を有する。
【0075】
その露光方法又は露光装置EXによれば、ミラー要素30の像の幅より微細な精度でパターン(空間像)を形成できるため、より微細で複雑なパターンをマスクレス方式で形成できる。
なお、空間光変調器28の各ミラー要素30は、位相0の状態(第1の状態)及び位相πの状態(第2の状態)以外の第3の状態(位相をπ/2変化させる状態等)等を含む複数の状態に設定可能としてもよい。
【0076】
また、照明光学系ILSからの照明光ILは、複数のミラー要素30(反射要素)にほぼ入射角αで斜めに入射し、ミラー要素30からの反射光が、投影光学系PLに対して投影光学系PLの光軸AXWに交差するように入射している。従って、投影光学系PLは物体面側に非テレセントリックであるため、空間光変調器28からの反射光の全部を投影光学系PLを介してウエハWに照射でき、照明光ILの利用効率が高い。さらに、偏光制御光学系6で設定される照明光ILの偏光状態をウエハWの表面で正確に再現できる。
【0077】
また、ミラー要素30は、X方向(第2方向)を長手方向とする長方形の領域に設けられ、露光装置EXは、ウエハWを投影光学系PLの像面でX方向と直交するY方向(第1方向)に対応する走査方向に移動するウエハステージWST(基板ステージ)を備え、変調制御部48は、ウエハステージWSTによるウエハWの移動に応じて、複数のミラー要素30によって形成されるパターン(位相分布)をY方向に移動している。これによって、ウエハWの全面を効率的に露光できる。
【0078】
なお、上記の実施形態では以下のような変形が可能である。
上記の実施形態の空間光変調器28のミラー要素30のアレイにおいて、図4(B)に示すように、境界領域38A及び/又は38B内の位相0又はπのミラー要素30A,30DのピッチP1,P2を規定する整数N1,N2及び1ピッチ内のミラー要素30A,30Dの個数を規定する整数n1,n2を調整することで、境界領域38A,38Bの境界線BRに対してY方向にΔyだけシフトした境界線BR1の−Y方向で位相がπで+Y方向で位相が0となる位相分布と等価な位相分布を生成できる。この際に、例えば光学的近接効果による誤差であるOPE(Optical Proximity Error )等を考慮して、図4(B)の位相パターンMP1Aからの照明光ILによって投影光学系PLを介して像面に形成される強度分布をシミュレーションによって求め、その強度分布の図4(D)の基準となる強度分布C1からのシフト量(実際のシフト量)を求めると、この実際のシフト量が、図9(A)に示すように、整数N1,N2及びn1,n2の値を式(8B)に代入して計算される値(ターゲットシフト量)に対してある誤差を持つことが分かった。図9(A)において、点線の直線C4Tは、ターゲットシフト量(nm)と同じ縦軸の値を示し、実線の折れ線C4Rは、ターゲットシフト量に対する実際のシフト量(nm)を現している。従って、直線C4Tに対する折れ線C4Rの差分がシフト量の誤差er1となる。誤差er1は、特にターゲットシフト量が9nmのときに1.6nmで最大になっている。
【0079】
そこで、本実施形態の第1変形例では、例えば図10(A)〜(D)の例で示すように、空間像の強度分布の実際のシフト量がターゲットシフト量にできるだけ近づくように、投影光学系PLによって解像されないという条件は維持した上で、隣接する2つの境界領域内の位相0又はπのミラー要素30A,30DのピッチP1,P2(整数N1,N2)及び1ピッチ内のミラー要素30A,30Dの個数(整数n1,n2)を変更する。図10(A)の実際のシフト量が2nmの位相パターンMP42は、第1パターン領域37Cに+Y方向に隣接する第1境界領域38JでN1=6,n1=1として、それに隣接する第2境界領域38BでN2=4,n2=1として、第1パターン領域37Cの−Y方向側の境界領域39J,39Bの位相分布を境界領域38J,38Bの分布を反転した分布としたものである。位相パターンMP44の式(8B)から得られるシフト量はほぼ1.7(=+5−3.3)nmである。また、図10(B)の実際のシフト量が6nmの位相パターンMP46は、第1パターン領域37Cに+Y方向に隣接する第1境界領域38KでN1=5,n1=3として、それに隣接する第2境界領域38LでN2=5,n2=4として、第1パターン領域37Cの−Y方向側の境界領域39K,39Lの位相分布を境界領域38K,38Lの分布を反転した分布としたものである。この例では、整数N1と整数N2とが等しく設定されているとともに、式(8B)から得られるシフト量はほぼ4(=+16−12)nmである。
【0080】
同様に、図10(C)の実際のシフト量が7nmの位相パターンMP47は、第1パターン領域37Cに+Y方向に隣接する第1境界領域38JでN1=6,n1=1として、それに隣接する第2境界領域38DでN2=2,n2=1として、第1パターン領域37Cの−Y方向側の境界領域39J,39Dの位相分布を境界領域38J,38Dの分布を反転した分布としたものである。この例では、式(8B)から得られるシフト量はほぼ6.66(=+10−3.33)nmである。また、図10(D)の実際のシフト量が9nmの位相パターンMP49は、第1パターン領域37Cに+Y方向に隣接する第1境界領域38AでN1=5,n1=1として、それに隣接する第2境界領域38MでN2=5,n2=3として、第1パターン領域37Cの−Y方向側の境界領域39A,39Mの位相分布を境界領域38A,38Mの分布を反転した分布としたものである。この例では、整数N1と整数N2とが等しく設定されているとともに、式(8B)から得られるシフト量はほぼ8(=+12−4)nmである。
【0081】
図9(B)の点線の直線C5Tは、ターゲットシフト量(nm)と同じ縦軸の値を示し、実線の折れ線C5Rは、シフト量が2nm、6nm、7nm、及び9nmの場合に図10(A)〜(D)の位相パターンMP42〜MP49を用いて、他のシフト量に関しては式(8B)によってシフト量を計算する位相パターンを用いた場合の実際のシフト量(nm)を現している。従って、直線C5Tに対する折れ線C5Rの差分がシフト量の誤差er2となる。誤差er2は、ターゲットシフト量が2nmのときに0.3nmで最大になっているが、この誤差er2は、整数N1,N2及びn1,n2の値を調整しない場合の図9(A)の誤差er1に比べるとかなり小さくなっている。従って、この第1変形例によれば、目標とするパターンをより高精度に形成できる。
【0082】
次に、上記の実施形態の図7(A)の位相パターンMP3を用いて形成したL&Sパターンの空間像の強度分布をシミュレーションによって計算した結果を図11(A)に示す。図11(A)において、横軸は像面のY座標(nm)であり、曲線C6は、L&Sパターンの強度INT(相対値)の10個のピーク(明線)を示し、折れ線ΔCDは、その曲線C6に対してある閾値を設定してレジストパターンを形成したときの目標値に対する線幅CD(critical dimension)の誤差(nm)を現している。曲線C6からL&Sパターンの空間像のピーク強度のばらつきがあることが分かり、折れ線ΔCDから線幅の誤差のばらつきが2nm程度生じていることが分かる。
【0083】
そこで、本実施形態の第2変形例では、L&Sパターンの空間像のピーク強度(明線の強度)のばらつきを低減するために、空間光変調器28の複数のミラー要素30のアレイの位相分布を図12の位相パターンMP5に設定する。図12において図7(A)に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。図12の位相パターンMP5は、各部分パターンSP1A〜SP5A中の第1パターン領域37E(又は37C)内に、X方向に投影光学系PLで解像されないピッチ(ここではピッチ5px又は6px)で配列された複数のミラー要素30Aを位相0に設定し、第2パターン領域37D(又は37F)内に、X方向に投影光学系PLで解像されないピッチ(ここではピッチ6px又は5px)で配列された複数のミラー要素30Dを位相πに設定したものである。なお、第1パターン領域37E(又は37C)内でミラー要素30A以外のミラー要素30の位相はπに設定され、第2パターン領域37D(又は37F)内でミラー要素30D以外のミラー要素30の位相は0に設定されている。この場合、第1パターン領域37E(又は37C)内のミラー要素30Aのピッチ、及び第2パターン領域37D(又は37F)内のミラー要素30Dのピッチは、その部分の空間像の強度分布のピークレベルが互いにほぼ等しくなるように設定してもよい。
【0084】
図12の位相パターンMP5を用いて形成したL&Sパターンの空間像の強度分布をシミュレーションによって計算した結果を図11(B)に示す。図11(B)において、横軸は像面のY座標(nm)であり、曲線C7は、L&Sパターンの強度INT(相対値)の10個のピーク(明線)を示し、折れ線ΔCDは、その曲線C7に対してある閾値を設定してレジストパターンを形成したときの目標値に対する線幅の誤差(nm)を現している。曲線C7からL&Sパターンの空間像のピーク強度のばらつきが低減されたことが分かり、図11(B)の折れ線ΔCDから線幅の誤差のばらつきが0.5nm程度に減少していることが分かる。
【0085】
このようにこの第2変形例の露光装置EXの変調制御部48による空間光変調器28の駆動方法は、Y方向(第1方向)に離れて配置されるとともにそれぞれX方向(第2方向)に伸びた第1パターン領域37E及び第2パターン領域37Dのうち、第1パターン領域37E内でX方向に投影光学系PLで解像されないピッチ(5px)で配列された複数のミラー要素30Aを位相0(第1の状態)に設定し、第1パターン領域37E内の他のミラー要素30を位相πに設定し、第2パターン領域37D内の少なくとも一部(ミラー要素30D以外)のミラー要素30を位相0に設定している。
【0086】
この変形例によれば、第1パターン領域37E内に投影光学系PLで解像されないピッチで他のミラー要素30と位相が異なるミラー要素30Aを配置しているため、その第1パターン領域37Eに対応する部分の空間像のピークレベルを調整することができる。従って、最終的に形成されるラインパターンの線幅等を最適化できる。さらに、そのミラー要素30Aを例えば第1パターン領域37Eの端部に配置することによって、最終的に形成されるラインパターンの線幅等をミラー要素30の像の幅よりも微細な精度で制御できる。
【0087】
この空間光変調器28の駆動方法も、露光用パターンの生成方法でもある。ここで、空間光変調器28の複数のミラー要素30(光学要素)のアレイは、グリッド状に配列された複数の区画と見なすことができ、第1の状態(位相0)および第2の状態(位相π)に設定された空間光変調器28の複数のミラー要素30(区画)の配列は、露光用パターンとみなすことができる。
【0088】
次に、上記の実施形態では、ウエハWを連続的に移動してウエハWを走査露光している。その他に、図3(B)に示すように、ウエハWの各ショット領域(例えばSA21)をY方向に複数の部分領域SB1〜SB5等に分割し、投影光学系PLの露光領域26Bに部分領域SB1等が達したときに、照明光ILを所定パルス数だけ発光させて、空間光変調器28のミラー要素30のアレイからの反射光で部分領域SB1等を露光してもよい。この後、ウエハWをY方向にステップ移動させて、次の部分領域SB2等が露光領域26Bに達してから、同様に部分領域SB2等に露光が行われる。この方式は実質的にステップ・アンド・リピート方式であるが、部分領域SB1〜SB5等には互いに異なるパターンが露光される。
【0089】
次に、上記の実施形態の空間光変調器28のミラー要素30は平行移動して照明光ILの位相を第1の位相又は第2の位相だけ変化させている。しかしながら、例えば図1において、空間光変調器28の代わりに、例えば米国特許第5,312,513号明細書、又は米国特許第6,885,493号明細書に開示されているように、傾斜角が可変の複数のミラー要素(反射要素)のアレイを有する空間光変調器を使用してもよい。
【0090】
このような傾斜角可変方式の空間光変調器を使用する場合、ミラー要素の第1の状態は、照明光学系ILSからの照明光を投影光学系PLに導く状態(明部となる状態)であり、ミラー要素の第2の状態は、照明光学系ILSからの照明光を投影光学系PLに入射させない状態(暗部となる状態)である。この場合にも、ミラー要素のアレイにおいて、第1領域と第2領域との例えばX方向に伸びる境界領域で、投影光学系PLの解像限界よりも微細なピッチで配列される複数のミラー要素の状態を第1の状態又は第2の状態に設定することによって、Y方向にミラー要素の像の幅よりも微細な位置精度又は形状精度でパターンを形成できる。
また、複数のミラー要素の傾斜角と照明光ILの位相との両方を変化させる空間光変調器を用いても良い。この場合、複数のミラー要素は、複数のミラー要素が配列されている面の法線方向に平行移動すると共に、複数のミラー要素の反射面の当該法線に対する傾斜角が変更されるように傾斜する。
【0091】
次に、上記の実施形態では、物体側に非テレセントリックの投影光学系PLを用いている。それ以外に、図13の第3変形例の露光装置EXAで示すように、物体側及び像面側に両側テレセントリックの投影光学系PLAを用いることも可能である。図13において、露光装置EXAは、光源(不図示)と、この光源からのレーザ光を用いてS偏光の照明光ILをほぼ+Y方向に発生する照明光学系ILSAと、照明光ILを+Z方向に反射する偏光ビームスプリッタ51と、偏光ビームスプリッタ51からの照明光ILを円偏光に変換する1/4波長板52と、円偏光の照明光ILを−Z方向又はそれ以外の方向に反射する多数の傾斜角可変のミラー要素56の2次元のアレイと、これらのアレイを支持するベース部材58とを有する空間光変調器54と、ミラー要素56で反射されてから、1/4波長板52及び偏光ビームスプリッタ51を透過した照明光ILを受光してウエハWの表面の露光領域26Bに空間像(パターン)を投影する投影光学系PLAと、を備えている。照明光学系ILSAは、図1の照明光学系ILSからミラー8B,8Cを除いた光学系である。ミラー要素56のうちで、第1の状態(反射光を投影光学系PLに入射させる状態)のミラー要素56Pと、第2の状態(反射光を投影光学系PLに入射させない状態)のミラー要素56Nとの組み合わせによってウエハW上にマスクレス方式でパターンを形成できる。
【0092】
この第3変形例においても、ミラー要素56のアレイで、第1領域と第2領域との例えばX方向に伸びる境界領域で、投影光学系PLの解像限界よりも微細なピッチで配列される複数のミラー要素56の状態を第1の状態又は第2の状態に設定することによって、Y方向にミラー要素56の像の幅(ピッチ)よりも微細な位置精度又は形状精度でパターンを形成できる。この第3変形例の露光装置EXAによれば、両側テレセントリックの投影光学系PLAを使用できるため、露光装置の構成が簡素化できる。
【0093】
また、この第3変形例において、空間光変調器54として図1の位相可変型の空間光変調器28を使用することも可能である。
なお、照明光ILの利用効率が1/2に低下してもよい場合には、偏光ビームスプリッタ51の代わりに通常のビームスプリッタを使用し、1/4波長板52を省略してもよい。この場合には、偏光照明が使用できる。
【0094】
また、図1の波面分割型のインテグレータであるマイクロレンズアレイ16に代えて、内面反射型のオプティカル・インテグレータとしてのロッド型インテグレータを用いることもできる。
また、電子デバイス(又はマイクロデバイス)を製造する場合、電子デバイスは、図14に示すように、電子デバイスの機能・性能設計を行うステップ221、この設計ステップに基づいたマスクのパターンデータを上記の実施形態の露光装置EX,EXAの主制御系に記憶するステップ222、デバイスの基材である基板(ウエハ)を製造してレジストを塗布するステップ223、前述した露光装置EX,EXA(又は露光方法)により空間光変調器28で生成される位相分布(又は空間光変調器54で生成される強度分布)の空間像を基板(感応基板)に露光する工程、露光した基板を現像する工程、現像した基板の加熱(キュア)及びエッチング工程などを含む基板処理ステップ224、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)225、並びに検査ステップ226等を経て製造される。
【0095】
このデバイスの製造方法は、上記の実施形態の露光装置(又は露光方法)を用いてウエハWを露光する工程と、露光されたウエハWを処理する工程(ステップ224)とを含んでいる。従って、微細な回路パターンを備える電子デバイスを高精度に製造できる。
また、本発明は、半導体デバイスの製造プロセスへの適用に限定されることなく、例えば、液晶表示素子、プラズマディスプレイ等の製造プロセスや、撮像素子(CMOS型、CCD等)、マイクロマシーン、MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイス(電子デバイス)の製造プロセスにも広く適用できる。
【0096】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得る。
また、本願に記載した上記公報、各国際公開パンフレット、米国特許、又は米国特許出願公開明細書における開示を援用して本明細書の記載の一部とする。また、明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約を含む2012年1月18日付け提出の日本国特許出願第2012−007727号の全ての開示内容は、そっくりそのまま引用して本願に組み込まれている。
【符号の説明】
【0097】
EX,EXA…露光装置、ILS,ILSA…照明光学系、PL,PLA…投影光学系、W…ウエハ、28…空間光変調器、30…ミラー要素、30A,30C…位相0のミラー要素、30B,30D…位相πのミラー要素、37C…第1パターン領域、37D…第2パターン領域、38A…第1境界領域、38B…第2境界領域、39A…第3境界領域39A、39B…第4境界領域、48…変調制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14