(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137514
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20060101AFI20170522BHJP
A01G 1/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
A01G31/00 606
A01G1/00 303D
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-139806(P2016-139806)
(22)【出願日】2016年7月14日
(62)【分割の表示】特願2012-536120(P2012-536120)の分割
【原出願日】2012年2月6日
(65)【公開番号】特開2016-185164(P2016-185164A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2016年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-26951(P2011-26951)
(32)【優先日】2011年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 安代
(72)【発明者】
【氏名】涌井 孝
【審査官】
木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平6−98627(JP,A)
【文献】
特開2007−74970(JP,A)
【文献】
特開平2−109920(JP,A)
【文献】
特開平9−183971(JP,A)
【文献】
特開昭52−21131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
A01G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体チップを含む植物栽培用培地を容器に入れ、該容器に培養液を加えた後に、播種又は苗を移植して植物を栽培する工程、
生長した植物を収穫した後に、植物の根から培地を取り外す工程、
取り外した培地を、再度、植物栽培用培地として使用する工程、を含むことを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップに含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量が20〜60モル%である、請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項3】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップに含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(温度190℃、荷重2.16kgの条件下にASTM D1238に記載の方法により測定)が0.1〜100g/10分である、請求項1または2に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップがエチレン−ビニルアルコール共重合体と水を含有し、水の含有量がエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して20〜300質量部である、請求項1〜3のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項5】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップを23℃の水に24時間浸漬した後のチップの質量をW1とし、当該浸漬後のチップを乾燥した後のチップの質量をW0とした際に、以下の式(1)で規定される吸水率が20質量%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の植物栽培方法。
吸水率(質量%) = 100 × (W1−W0)/W0 (1)
【請求項6】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの最大長さが1〜50mmの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項7】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの形状が、略球状、略円盤状、略円柱状またはフレーク状である、請求項1〜6のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項8】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの含有率が50質量%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花卉、野菜、果物類、穀類などの各種作物の栽培の際に、従来の土壌やロックウールの代わりに用いることのできる植物栽培用の培地に関する。より詳細には、作物を充分に生長させることができるとともに、リサイクル性に優れていて廃棄の際の処理も容易であり環境への負荷の小さい植物栽培用の培地に関する。
【背景技術】
【0002】
養液栽培は、作物を栽培するのに土壌を使用しないため、連作障害がなく、栽培環境や養水分管理をコントロールしやすい。また自動化、省力化ができ、収穫物の清浄性や肥料効率が高い栽培方法として注目されている。
【0003】
養液栽培用の固形培地は水に浸漬されるため、ある程度の耐水性が必要であると共に、透水性、保水性、通気性、強度などが要求される。従来、養液栽培用の固形培地としては天然石(おもに玄武岩)を繊維状にしたものを収束させたロックウールなどが知られている。
【0004】
養液栽培においては根が固形培地の内部に張り詰めるために新たな固形培地に交換する必要性が生じることがあるが、ロックウールを固形培地に使用した場合には、リサイクルが困難である。その上、ロックウールは無機物であるため使用後のロックウールの有効な処分方法がない。現在、処分方法としては、産廃として廃棄する、田に少量ずつ鋤き込む等の方法が取られているが、これにも限界がある。そのため、植物栽培用培地として必要な耐水性、透水性、保水性、通気性、強度等の物性を保持し、理化学的にも安定していて作物を充分に生長させることができ、しかも、環境への負荷の小さい培地が求められている。
【0005】
上記課題を克服するために、ビール粕などの食品製造にて発生する有機性廃棄物を炭化処理して得られる炭化物を植物栽培用培地として利用する方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1には当該培地が、通気性や保水性などに優れ、生産や廃棄の際に環境への負荷が少ないことが記載されている。しかしながら、炭化物を得る際に高温(例えば750〜850℃)で焼成する必要があり、その操作が煩雑で炭化にかかるエネルギー(コスト)の増大にも繋がり、実用化は難しい。
【0006】
一方、ポリビニルアルコールを用いた植物栽培用培地も知られている。例えば、特許文献2には、木炭粉の結合剤としてけん化度98モル%以上の完全けん化型ポリビニルアルコール樹脂を用いることが記載されている。特許文献2には、けん化度98モル%以上の完全けん化型ポリビニルアルコール樹脂が親水性でありながら水に溶解しにくく、木炭粉の結合剤として使用した場合、木炭粉粒子表面の水に対する濡れ性を向上させると共に水中に浸漬されても容易には倒壊しない培地となることが記載されている。しかしながら、たとえけん化度98モル%以上の完全けん化型ポリビニルアルコール樹脂を使用したとしても水溶性ポリマーであることに変わりはなく、特許文献2に記載された培地を長期間使用した場合にはポリビニルアルコール樹脂が徐々に溶出するため、長期にわたり作物を生長させることは困難であった。
【0007】
また、特許文献3には、培地として粒状またはチップ状の多孔体を用いる養液栽培方法が記載されており、当該多孔体としては、ポリビニルアルコールを素材とするものが吸水性および吸湿性の保持力の点で好ましいことが記載されている。しかしながら、上述したように、ポリビニルアルコールは水溶性ポリマーであるために湿潤下では長期安定性に乏しく、長期にわたり作物を生長させる場合には、培地の形状を維持することが困難であり実用性に乏しかった。
【0008】
さらに、ポリビニルアルコールは水との親和性が高く水の保持力が高いため、トマトなどの作物を栽培する際には、作物に水分ストレスがかからず糖度が上がらないといった課題もある。また、ポリビニルアルコールチップを培地として使用した場合、長期使用によりチップ同士の融着が見られ空隙が少なくなる結果、植物の根の生長が阻害される。また、植物の根を取り込んだ状態でチップ同士が融着してしまうため、根を取り外すことができず培地のリサイクル性に欠けるといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−325044号公報
【特許文献2】特開平8−280281号公報
【特許文献3】特開平2−109920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、土壌やロックウールの代わりに用いることができる植物栽培用培地であって、作物を充分に生長させることができるとともに、リサイクル性に優れていて廃棄の際の処理も容易であり環境への負荷の小さい植物栽培用培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップを用いることにより上記課題が解決されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]エチレン−ビニルアルコール共重合体チップを含む植物栽培用培地を容器に入れ、該容器に培養液を加えた後に、播種又は苗を移植して植物を栽培する工程、
生長した植物を収穫した後に、植物の根から培地を取り外す工程、
取り外した培地を、再度、植物栽培用培地として使用する工程、を含むことを特徴とする植物栽培方法、
[2]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップに含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量が20〜60モル%である、上記[1]の植物栽培方法、
[3]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップに含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(温度190℃、荷重2.16kgの条件下にASTM D1238に記載の方法により測定)が0.1〜100g/10分である、上記[1]または[2]の植物栽培方法、
[4]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップがエチレン−ビニルアルコール共重合体と水を含有し、水の含有量がエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して20〜300質量部である、上記[1]〜[3]のいずれか1つの植物栽培方法、
[5]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップを23℃の水に24時間浸漬した後のチップの質量をW1とし、当該浸漬後のチップを乾燥した後のチップの質量をW0とした際に、以下の式(1)で規定される吸水率が20質量%以上である、上記[1]〜[4]のいずれか1つの植物栽培方法、
吸水率(質量%) = 100 × (W1−W0)/W0 (1)
[6]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの最大長さが1〜50mmの範囲内である、上記[1]〜[5]のいずれか1つの植物栽培方法、
[7]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの形状が、略球状、略円盤状、略円柱状またはフレーク状である、上記[1]〜[6]のいずれか1つの植物栽培用培地、
[8]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの含有率が50質量%以上である、上記[1]〜[7]のいずれか1つの植物栽培方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作物を充分に生長させることができるとともに、リサイクル性にも優れていて繰り返し使用することができ、使用後に焼却などによって容易に廃棄することができて廃棄の際の処理も容易であり、環境への負荷の小さい植物栽培用培地が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の植物栽培用培地は、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップを含む。
【0015】
エチレン−ビニルアルコール共重合体チップに含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体は、主としてエチレン単位(−CH
2CH
2−)とビニルアルコール単位(−CH
2−CH(OH)−)とからなる共重合体である。当該エチレン−ビニルアルコール共重合体を構成する全構造単位のモル数に対してエチレン単位およびビニルアルコール単位の合計のモル数が占める割合は80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが特に好ましい。
【0016】
また、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量(エチレン−ビニルアルコール共重合体を構成する全構造単位のモル数に対してエチレン単位のモル数が占める割合)は、20〜60モル%の範囲内であることが好ましく、22〜58モル%の範囲内であることがより好ましい。エチレン含量が上記範囲を下回る場合には、得られる植物栽培用培地の耐久性が不足し、長期間連続して使用した際にエチレン−ビニルアルコール共重合体が溶出するおそれがある。また、エチレン含量が上記範囲を上回る場合には、得られる植物栽培用培地の親水性、強度が低下するおそれがある。
【0017】
当該エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法に特に制限はなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば、エチレンとビニルエステル系単量体とを共重合して得られたエチレン−ビニルエステル共重合体をけん化触媒の存在下にアルコールを含む有機溶媒中でけん化する方法が一般的である。
【0018】
上記のビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
エチレンとビニルエステル系単量体とを共重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等、公知の方法を採用することができる。重合開始剤としては、重合方法に応じて、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。このとき、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物や、その他の連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0020】
けん化反応としては、有機溶媒中で公知のアルカリ触媒または酸触媒をけん化触媒として用いる加アルコール分解、加水分解等を採用することができ、中でもメタノールを溶媒として苛性ソーダ触媒を用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
【0021】
上記のエチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(温度190℃、荷重2.16kgの条件下にASTM D1238に記載の方法により測定)は、チップへの成形加工が良好になることから、0.1〜100g/10分の範囲内であることが好ましく、0.5〜50g/10分の範囲内であることがより好ましく、1〜20g/10分の範囲内であることがさらに好ましい。メルトフローレートが上記範囲を下回る場合には、チップへの成形加工を溶融混練によって行う際にトルクが上がりすぎることがある。また、メルトフローレートが上記範囲を上回る場合には、チップの連続生産性が難しく、かつ、チップにした場合の強度が不足して培地としての性能が低下するおそれがある。
【0022】
本発明の植物栽培用培地が含むエチレン−ビニルアルコール共重合体チップは、上記したエチレン−ビニルアルコール共重合体の他に水を含有していることが好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体チップにおける水の含有量はエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましい。また、当該水の含有量はエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して300質量部以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の植物栽培用培地が含むエチレン−ビニルアルコール共重合体チップは、上記したエチレン−ビニルアルコール共重合体のみ、またはエチレン−ビニルアルコール共重合体と水のみから構成されていてもよいが、必要に応じて、アルカリ金属塩、ホウ素化合物、カルボン酸またはその塩、リン系化合物、アルカリ土類金属塩、炭酸ガスなどの、エチレン−ビニルアルコール共重合体および水以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。上記のエチレン−ビニルアルコール共重合体チップにおけるエチレン−ビニルアルコール共重合体および水の合計の含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の植物栽培用培地が含むエチレン−ビニルアルコール共重合体チップの形状に特に制限はなく、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む溶融物をホットカットするなどして得られる略球状または略円盤状の形状や、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含むストランドをカットするなどして得られた略円柱状の形状であってもよいし、フレーク状や不定形の形状であってもよい。また、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体チップのサイズにも特に制限はないが、例えば、最大長さとして1〜50mmの範囲内であることが好ましく、1〜20mmの範囲内であることがより好ましい。なお当該最大長さはノギスを用いて測定することができる。
【0025】
本発明の植物栽培用培地が含むエチレン−ビニルアルコール共重合体チップは、それを23℃の水に24時間浸漬した後のチップの質量をW1とし、当該浸漬後のチップを乾燥(105℃で24時間乾燥)した後のチップの質量をW0とした際に、以下の式(1)で規定される吸水率が20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。吸水率が上記範囲にあることにより、保水性に優れた植物栽培用培地となる。なお、上記の吸水率の上限に特に制限はないが、チップの強度の観点から300質量%以下であることが好ましい。
吸水率(質量%) = 100×(W1−W0)/W0 (1)
【0026】
本発明の植物栽培用培地は、上記のエチレン−ビニルアルコール共重合体チップのみから構成されていてもよいが、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体チップとともに、ロックウール、砂、土、セラミックボール、ヤシガラ、バーク、ピートモス、水苔などの成分をさらに含んでいてもよい。本発明の植物栽培用培地におけるエチレン−ビニルアルコール共重合体チップの含有率は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の植物栽培用培地の使用形態に特に制限はないが、培養液を用いた養液栽培用の培地として用いることが好ましい。本発明の植物栽培用培地を養液栽培用の培地として使用する場合に、その使用方法としては、例えば、本発明の植物栽培用培地をポット等の容器に入れ、これに培養液を加えた後に、播種したり苗を移植したりする方法などを例示することができる。また、本発明の植物栽培用培地が敷き詰められた栽培用ベッドを用意し、これに生育した苗を移植して各種作物を栽培する方法なども例示できる。
【0028】
本発明の植物栽培用培地を用いて栽培する植物の種類に特に制限はなく、例えば、花卉、野菜、果物類、穀類などが挙げられ、特にトマト、ナス、ピーマンなどの野菜栽培に使用することが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された、苗の生長度合いや収穫物の各評価方法およびリサイクル性や廃棄の容易さの各判定方法を以下に示す。
【0030】
[苗の生長度合いの評価方法]
5月24日に30℃に設定したインキュベータ内でトマト(品種「ハウス桃太郎」)の種子を催芽し、5月27日に催芽種子を育苗用バーク堆肥を充填した育苗バッドに播種した。本葉が展開開始した頃の6月10日に、以下の実施例または比較例において準備した栽培用器材に移植して苗を養液栽培した。そして、6月24日に育成苗の地上部生体重(茎葉部分の重さ)、地上部乾物率、葉重、茎重および根重を測定することにより苗の生長度合いを評価した。
なお、栽培期間中の培養液として、大塚化学株式会社製 養液栽培用肥料「大塚ハウス1号」、「大塚ハウス2号」および「大塚ハウス5号」を混合溶解したもの(N:98.7ppm、P:19.4ppm、K:125.7ppm、Ca:63.0ppm、Mg:13.4ppm、Mn:0.709ppm、B:0.487ppm、Fe:2.025ppm、Cu:0.018、Zn:0.048ppm、Mo:0.019ppm)を用い、天候や苗の生育状況に応じて適宜上記培養液により灌水した。
【0031】
[収穫物の評価方法]
上述の評価より得られた苗を用いて、トマト栽培を行い収穫物を評価した。具体的には、
ビニルアルコール共重合体チップを敷き詰めたプランターとロックウールを敷き詰めたプランターを用意した。そして、苗を生育させたときと同じ培地が敷き詰められたプランターに、上述の評価より得られた苗を移植してトマトを栽培した。灌水は点滴チューブを用いて前述の培養液を栽培初期では天候に応じて1日当たり1〜4回、第1果房の果実肥大期以降から試験終了時までは、7時から17時まで1時間に1回(3分間/回)与えた。
【0032】
果実の収穫は果実全体が赤く色づいた時に行った。そして1株あたりの果房平均重量を測定した。また、果房平均重量の測定後、トマトの糖度についても評価した。評価方法は、果実をガーゼで絞り、濾過後、その濾液の糖度を株式会社アタゴ製の「PR−1」を用いて評価した。
【0033】
[リサイクル性の判定方法]
苗の生長度合いの評価時に、手で根から培地を取り外し、再度、植物栽培用培地として使用可能かどうか判定した。根から培地を簡単に取り外すことができた場合には「A」と判定し、簡単に取り外すことができなかった場合には「B」と判定した。
【0034】
[廃棄の容易さの判定方法]
培地を焼却処理できる場合には「A」と判定し、焼却処分できない場合には「B」と判定した。
【0035】
[実施例1]
エチレン−ビニルアルコール共重合体チップ(エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のけん化物のチップ、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量:32モル%、エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度:99モル%以上、エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(温度190℃、荷重2.16kgの条件下にASTM D1238に記載の方法により測定):1.3g/10分、吸水率:エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して水を80質量部含有(80質量%)、チップの形状:略円柱状(直径2mm×長さ10mm))を植物栽培用培地として用いて、これを直径9cmの黒色プラスチックポットに充填しさらに培養液を加えて栽培用器材とした。得られた栽培用器材を用いて、上記した方法により苗の生長度合いを評価するとともに、リサイクル性の判定を行った。また、得られた苗を上記の方法に従って栽培し、収穫物の果房平均重量と糖度を測定した。さらに、上記した方法により、植物栽培用培地の廃棄の容易さを判定した。結果を表1に示した。
【0036】
[実施例2]
実施例1において用いたエチレン−ビニルアルコール共重合体チップの代わりに、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップ(エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のけん化物のチップ、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量:27モル%、エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度:99モル%以上、エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(温度190℃、荷重2.16kgの条件下にASTM D1238に記載の方法により測定):3.9g/10分、吸水率:エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して水を90質量部含有(90質量%)、チップの形状:略円柱状(直径2mm×長さ10mm))を用いたこと以外は実施例1と同様にして栽培用器材を作製し、上記した方法により苗の生長度合い、収穫物の果房平均重量および収穫物の糖度を測定するとともに、リサイクル性の判定を行った。また、上記した方法により、植物栽培用培地の廃棄の容易さを判定した。結果を表1に示した。
【0037】
[実施例3]
実施例1において用いたエチレン−ビニルアルコール共重合体チップの代わりに、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップ(エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のけん化物のチップ、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量:44モル%、エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度:99モル%以上、エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(温度190℃、荷重2.16kgの条件下にASTM D1238に記載の方法により測定):5.5g/10分、吸水率:エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して水を70質量部含有(70質量%)、チップの形状:略円柱状(直径2mm×長さ10mm))を用いたこと以外は実施例1と同様にして栽培用器材を作製し、上記した方法により苗の生長度合い、収穫物の果房平均重量および収穫物の糖度を測定するとともに、リサイクル性の判定を行った。また、上記した方法により、植物栽培用培地の廃棄の容易さを判定した。結果を表1に示した。
【0038】
[比較例1]
実施例1において、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの代わりにポリエチレンテレフタレートチップ(アルドリッチ社製、チップの形状:略円柱状(直径2mm×長さ10mm))を用いたこと以外は実施例1と同様にして栽培用器材を作製し、上記した方法により苗の生長度合い、リサイクル性の判定を行った。また、上記の方法より、植物栽培用培地の廃棄の容易さを判定した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
実施例1において、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップの代わりに、現行でよく用いられているロックウール培地(ニチアス株式会社製、サイズ:7cm×6.5cm×7.5cm、側面にビニール包装あり)を用いたこと以外は実施例1と同様にして栽培用器材を作製し、上記した方法により苗の生長度合い、収穫物の果房平均重量および収穫物の糖度を測定するとともに、リサイクル性の判定を行った。また、上記した方法により、植物栽培用培地の廃棄の容易さを判定した。結果を表1に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1〜3と比較例1との対比により、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップを含む本発明の植物栽培用培地では、苗の生長度合いが良好であったが、ポリエチレンテレフタラートチップを植物栽培用培地として用いた比較例1では苗が生長しなかった。また、実施例1〜3と比較例2との対比により、本発明の植物栽培用培地では、ロックウール培地と同等の苗の生長度合いが見られ、さらに、収穫されたトマトの糖度はロックウール培地を用いた場合より高かった。この理由として、エチレン−ビニルアルコール共重合体チップは適度な水分保持力を有するため、本発明の植物栽培用培地においては、作物に水分ストレスがかかった結果、糖度が高くなったものと考えられる。また、本発明の植物栽培用培地は、根から培地を簡単に取り外すことができ、リサイクル性にも優れていた。一方、ロックウール培地を用いた場合は、苗の根がロックウールに絡みついており取り外しが困難であった。