【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 熱工学コンファレンス講演論文集2012(平成24年11月16日)一般社団法人日本機械学会発行No.12−62、第365〜366ページに発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可動手段によって前記針電極を前記穿孔対象物に近づけてゆき、前記針先端を前記穿孔対象物に押し付けることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の穿針装置。
前記針電極によって前記最外層部分の内側に生じた、前記針電極と逆極性の電荷と、前記針先端とが引き寄せられることにより、前記針電極に前記最外層に対する穿刺力を発生させる
ことを特徴とする請求項11または12記載の穿針方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0013】
(1)穿針装置の構成
図1において、1は本発明による穿針装置を示し、凹み部2aが支持液Lで満たされた容器2と、容器2の凹み部2a内に設置され、支持液Lに浸漬されたグランド電極3と、針先端が凹み部2a内に配置され、支持液L中にて針先端がグランド電極3と対向配置された針電極5とを備えており、中空構造の針電極5によって魚卵EGに孔を穿孔した後、そのまま針電極5の針先端から魚卵EG内に保護物質を導入し得るようになされている。
【0014】
この実施の形態の場合、容器2は、例えばガラス等の絶縁体により形成されており、イオン交換水や、リン酸緩衝液(PBS)等からなる支持液Lを凹み部2a内に貯留可能に構成されている。容器2の凹み部2aは、針電極5の針先端とグランド電極3とを支持液L中に浸漬させ得るとともに、魚卵EG全体を支持液L中に浸漬させ得るようにその深さが選定されている。
【0015】
グランド電極3は、ステンレス鋼等の導電性部材からなり、外形が平板状に形成され、凹み部2aの底面および内壁面に対し固定され得る。また、グランド電極3は、凹み部2a内に貯留した支持液L内に一の側面が露出されており、当該側面に対し魚卵EGが当接されて当該魚卵EGを支持液L中にて位置決めし得るようになされている。
【0016】
針電極5は、ニッケル等の導電性部材により一体成形されており、容器2の上方より凹み部2a内に向けて延びる筒状の傾斜部6と、当該傾斜部6の先端部に一体成形され、かつ凹み部2a内にてグランド電極3に向けて延びる筒状の針部7とにより構成されており、傾斜部6および針部7の各内部に形成された中空空間が連通した構成を有する。なお、針部7は、穿孔対象物としての魚卵EGに穿刺可能な直径からなり、当該魚卵EGの大きさに応じて選定され得る。
【0017】
この実施の形態の場合、針電極5は、マイクロマニピュレータ(図示せず)に保持されており、当該マイクロマニピュレータ(可動手段)によって針部7の長手方向に沿って水平移動され、グランド電極3に当接した魚卵EGに針先端を押し付けた状態で静止され、グランド電極3と針先端との間に魚卵EGを挟み込む。ここで、針電極5は、魚卵EGに孔を穿孔する穿孔時、魚卵EGの卵膜EMが凹む程度に針先端を卵膜EMに押し込めた状態で静止され、この状態では当該卵膜EMが針先端によって穿刺されていない。
【0018】
実際上、針部7は、魚卵EGの卵膜EMを突き破り易いように針先端が尖鋭に形成され、外周面が凹凸を有しない滑らかな形状に形成されていることにより、後述するパルス電圧の印加により針先端が卵膜EMを穿刺した際、外周面がそのままスムーズに魚卵EG内の卵黄にまで挿入し得るようになされている。
【0019】
ここで、針電極5には、傾斜部6の根本部に、微量シリンジポンプ等の保護物質供給手段10が設けられており、この保護物質供給手段10により液体状の保護物質が傾斜部6の中空空間に供給され得る。これにより、針部7は、魚卵EGに穿刺された状態で傾斜部6の中空空間に保護物質が供給されることで、当該保護物質を針先端の開口部から魚卵EG内に導入し得るようになされている。
【0020】
なお、この際、魚卵EGでは、針先端の開口部から内部に保護物質が排出されることにより、針部7が挿入された卵膜EMの孔の隙間から内部の卵黄が卵膜EM外部に排出され、卵膜EMに覆われた内部に保護物質が導入され得る。また、この際、針電極5は、魚卵EG内への保護物質の導入速度や量が調整されることにより、卵膜EMに穿孔した孔の隙間から卵黄EYを排出させずに、間充溶液のみを排出させることもできる。因みに、この実施の形態の場合、保護物質としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、トレハロース、またはポリエチレングリコール等、細胞膜非透過性の高分子からなる液体状の保護物質を適用し得る。
【0021】
かかる構成に加えて、この穿針装置1は、電源9に針電極5およびグランド電極3が電気的に接続された構成を有し、当該電源9によって針電極5およびグランド電極3間に所定のパルス電圧を印加し得る。この実施の形態の場合、穿針装置1は、支持液L内にて、針電極5の針先端を魚卵の卵膜EMに押し込めた状態で針電極5に対し所定のパルス電圧を印加し得る。
【0022】
これにより針電極5は、尖鋭に形成された針先端において電界強度が高められ、針先端が接触した魚卵EGの卵膜EM部分に誘導電荷を局所化させ得る。また、針電極5は、このように尖鋭に形成されて電場が極度に高い針先端において電流密度を高くさせることもでき、針先端が接触した魚卵EGの卵膜EM部分に高電流を局所化させ得る。 実際上、
図2Aに示すように、針部7は、針先端を魚卵EGの卵膜EMに押し付けた状態で電源9からパルス電圧が印加されると、当該パルス電圧印加直後、正の帯電粒子(
図2中、○印中に+印を記載して表記)が発生し得る。これにより、魚卵EGでは、
図2Bに示すように、針部7に帯電した正の帯電粒子によって針先端が接触している卵膜EM部分の内面に誘導電荷として負の帯電粒子(
図2中、○印中に−印を記載して表記)が集まるとともに、当該卵膜EMの内面に集まった負の帯電粒子によって卵膜EMの外面に正の帯電粒子が集まる。なお、この場合、支持液Lは、伝導率が魚卵EG内の導電率と異なる値に調整されており、
図2Cに示すように、魚卵EG内外での導電率の違いにより卵膜EMの内面に負の帯電粒子を迅速に誘導させ得るようになされている。
【0023】
ここで、針部7は、低電圧で印加電圧時間(パルス長)を長くしたパルス電圧が印加されることにより、
図3に示すように、電場によって生じた卵膜EMの内外面での電位差によって、針先端が接触している卵膜EM部分を絶縁破壊させ、当該卵膜EM部分を針先端により穿刺し易い膜質に変質させ得る。また、針部7は、電場が極度に高い針先端において電流密度も高くなり、針先端が接触した魚卵EGの卵膜EM部分に高電流を局所化させることにより、荷電粒子同士やその周辺の卵膜EM部分でのジュール損失によって卵膜EM部分の温度が極局所的に上昇し、針先端が接触している卵膜EM部分を熱的破壊させ、当該卵膜EM部分を針先端により穿刺し易い膜質に変質させ得る。この際、針部7は、予め針先端が魚卵EGに押し込められていることから、卵膜EMが変質することで針先端から卵膜EMに与えられている押し込み力によって当該卵膜EMに針先端が穿刺し、魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔し得る。
【0024】
なお、上述した実施の形態においては、針先端と、針先端が接触した卵膜EM部分とにおける電位差によって、卵膜EM部分に絶縁破壊および熱的破壊(これら絶縁破壊、熱的破壊の両方、或いは一方を、以下、単に局所的破壊とも呼ぶ)の両方を起こさせるように述べたが、本発明はこれに限らず、針電極5に印加される電圧を調整し、針先端と、針先端が接触した卵膜EM部分とにおける電位差によって、卵膜EM部分に絶縁破壊または熱的破壊のいずれか一方だけを起こさせるようにしてもよい。
【0025】
また、この際、この針部7は、針先端に発生した正の帯電粒子とは逆極性の負の帯電粒子が卵膜EMの内面に集まっていることから、卵膜EM内面の逆極性の帯電粒子により針先端が卵膜EMに強く引き寄せられ、尖鋭に形成された針先端に局所的な穿刺力が生じ、このような穿刺力によっても針先端が卵膜EMに穿刺し得、当該卵膜EMを貫通した孔を魚卵EGに穿孔し得る。なお、針部は、針先端が尖鋭に形成されていることから、針先端付近の電界強度が高められ、針先端付近の卵膜EMに誘導電荷や高電流を局在化させることができるとともに、針先端を卵膜EMに押し込んだ際に卵膜EMへの穿刺力を高めることができる。
【0026】
かくして、針電極5は、針部7が魚卵EG内に穿刺された状態で、保護物質供給手段10によって内部の中空空間に保護物質が供給されることにより、魚卵EG内に保護物質を導入し得る。その後、電源9は針電極5およびグランド電極3に対するパルス電圧の印加を停止し得る。
【0027】
因みに、この実施の形態の場合、
図4に示すように、中空空間7aを有する針部7は、長手方向の延長線x1上に魚卵EGの中心点Oが位置するように針先端が卵膜EMに位置決めされ、マイクロマニピュレータにより針先端が卵膜EMに押し込められており、パルス電圧印加時、針先端を魚卵EGに対し確実に穿刺し得るように配置されている。
【0028】
また、針部7は、卵黄EY内に胚Eがある魚卵EGに穿刺する際、卵黄EY内の胚Eと、魚卵EGの中心点Oとを結んだ直線x2上以外にある卵膜EM部分、好ましくは、当該直線x2に対して90±45度の角度θ内の卵膜EM部分、さらに好ましくは90±10度の角度内の卵膜EM部分に針先端を接触させることが望ましい。これにより針部7は、針先端付近の電界強度による胚Eに対する電気的な損傷を抑制し得、その他の卵膜EM部分に針先端を接触させたときに比べて魚卵EGの孵化率を向上し得る。因みに、針先端付近の電界強度による胚Eに対する電気的な損傷を抑制する他の方法としては、グランド電極3を魚卵EGから離すことも有効であるが、魚卵EGからグランド電極3を離した構成については、後段の「(4)支持液による流体力を利用した穿針装置」にて後述する。
【0029】
なお、魚卵EG内の胚Eに対し最適な位置に針先端を位置決めする手法としては、エレクトロローテーション技術(詳細は、「Ryo Shirakashi, Miriam Mischke, Peter Fischer, Simon Memmel, Georg Krohne, Guenter R. Fuhr,Heiko Zimmermann,Vladimir L. Sukhorukov, Changes in the dielectric properties of medaka fish embryos during
development, studied by electrorotation, Biochemical and Biophysical Research Communications, Vol. 428 (2012), 127-131」参照)を用いて魚卵EGを回転させる回転手段や、撮像手段により得られた魚卵EGの画像を基に胚Eの位置を特定し、支持液Lによる流体力やアーム等の外力で魚卵EGを回転させる回転手段等その他種々の回転手段を適用することができる。
【0030】
さらに、魚卵EGが浸漬される支持液Lは、浸透圧が魚卵EG内部の浸透圧よりも低く選定されており、これによって支持液L内に魚卵EGを浸漬させた際に、魚卵EG内外の浸透圧の違いにより生じる魚卵EGの変形を抑制し得、針先端を魚卵EGの卵膜EMに対し正確に穿刺させることができる。
【0031】
なお、針電極5およびグランド電極3間に印加されるパルス電圧は、
図5に示すように、パルス電圧値と、電圧印加時間(パルス長)とが調整され、例えば、魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔するとともに、魚卵EG内の胚Eに対する電気的な損傷を抑制し得るような条件に選定され得る。例えば低電圧で印加電圧時間を長くしたパルス電圧を針電極5に印加した場合には、卵膜EMの内外面で生じる電位差によって、卵膜EM部分に絶縁破壊(局所的破壊)を生じさせたり、ジュール損失による熱的破壊(局所的破壊)を生じさせることができる。
【0032】
一方、高電圧で印加電圧時間を短くしたパルス電圧を針電極5に印加した場合には、卵膜EMに上述したような絶縁破壊や熱的破壊が必ずしも生じないものの、魚卵EGの針先端が接触した卵膜EM部分に、より多くの誘導電荷が局所化することで、針先端を卵膜EMに強く引き寄せ、先端に生じる穿刺力によって卵膜EMに孔を穿孔することができる。
【0033】
ここで、支持液Lの導電率と浸透圧を調べたところ、
図6に示すような結果が得られた。
図6に示すように、導電率と浸透圧とは連動しており、電解質濃度を調整して導電率を高くすると、浸透圧も比例的に高くなってゆく。このような支持液Lは、導電率が高いほど、穿孔時、針電極5に印加するパルス電圧値を低減できることから、魚卵EG内の浸透圧よりも低い浸透圧であって、かつその範囲において導電率が最も高くなるよう、浸透圧および導電率が選定され得る。
【0034】
(2)検証試験
次に、上述した
図1に示す穿針装置1を用いて、針電極5によって魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔できるか否かの検証試験を行った。実際上、この検証試験では、魚卵EGとして約φ1.2[mm]の産卵直後のメダカ受精卵を用い、この魚卵EGをイオン交換水で洗浄した後、使用する水溶液(支持液L)中に1時間以上浸漬させて試料とした。なお、穿針装置1に設けた針部7としては、外径φ70[μm]、内径φ50[μm]、針先端の角度40度のニッケル製の針部を用いた。なお、グランド電極3はステンレス鋼でなる平板状のグランド電極を用いた。
【0035】
そして、凹み部2aを支持液Lで満たして魚卵EG全体を支持液L中に浸漬させ、針部7とグランド電極3で魚卵EGを挟んだ。この検証試験では、支持液Lとして、導電率〜0[μS/cm]、浸透圧0[mOsmol/kg]のイオン交換水と、導電率200[μS/cm]、浸透圧4[mOsmol/kg]のリン酸緩衝液(PBS)と、導電率390[μS/cm]、浸透圧8[mOsmol/kg]のリン酸緩衝液と、導電率1730[μS/cm]、浸透圧36[mOsmol/kg]のリン酸緩衝液の4種類の支持液Lを用意し、支持液Lを変えて針電極5によって魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔できるか否かの検証試験を行った。
【0036】
そして、電源9にて発生させたパルス電圧を、マイクロマニピュレータに保持された針電極5に印加した。パルス電圧の印加は、マイクロマニピュレータを操作して、
図7に示すように、針部7の針先端を魚卵EGの卵膜EMに接触させた状態から約100[μm]押し込んだ状態で行った。なお、
図7は、針部7の針先端を魚卵(この検証試験ではメダカ受精卵)EGの卵膜EMに押し込んだ状態での光学顕微鏡画像であり、
図7中、Eはメダカ受精卵の胚であり、EYは卵黄である。
【0037】
検証試験は、上述した4種類の各支持液Lにおいて、それぞれパルス電圧の電圧印加時間とパルス電圧値とを変化させ、パルス電圧印加後の卵膜EMの穿孔の可否により、各電圧印加時間での穿孔可能な必要最低電圧値を調べた。その結果、
図8に示すような結果が得られた。
【0038】
図8から、パルス電圧の電圧印加時間(パルス長)が長くなるに従い、卵膜EMの穿刺に必要なパルス電圧値が単調低下してゆくことが分かり、最終的に200[V]付近に漸近してゆくことが確認できた。また、パルス電圧の電圧印加時間を同じにした場合、導電率が高い支持液Lほど、卵膜EMに孔を穿孔するのに必要なパルス電圧値が低くなることが確認できた。但し、支持液Lの導電率が400[μS/cm]以上となると、卵膜EMの穿刺に必要なパルス電圧値に大きな変化がないことが確認できた。
【0039】
針先端に発生する電界強度が一定の場合、誘導される最大の帯電量は卵膜内のイオン濃度により決まる。このため、パルス電圧の電圧印加時間を十分長くすることで、
図8に示すように、支持液Lの導電率の値にかかわらず、最低のパルス電圧値(200[V])で針部7により卵膜EMに孔を穿孔できる。その一方、導電率が高い支持液Lを用いると、同じ電界強度で比較した場合、卵膜EMの帯電量が短時間で大きくなるので、短い電圧印加時間(パルス長)で卵膜EMに孔を穿孔できる。
【0040】
ここで、支持液Lの導電率は、支持液L中の電解質濃度に依存するため、支持液Lの浸透圧も変化し、透過性の低い卵膜EMに力学的影響を及ぼすことが予測される。そこで、浸透圧による卵膜EMの変形が穿孔に与える影響についても調べた。ここでは、
図1に示した穿針装置1を用いて、支持液Lであるリン酸緩衝液の浸透圧をパラメータとして変化させ、穿孔に十分なパルス電圧値1[kV]、電圧印加時間100[μs]のパルス電圧を各浸透圧下で印加した時の魚卵(メダカ受精卵)EGの変形を観察し、浸透圧と穿孔の可否の関係について調べた。
【0041】
具体的には、浸透圧50〜200[mOsmol/kg]の間で、魚卵EGの変形の有無、穿孔の可否について光学顕微鏡画像を基に評価を行った。
図9Aの左側(「電圧印加前」と表記)の光学顕微鏡画像は、浸透圧120[mOsmol/kg](導電率5.7[mS/cm])の支持液L中にて魚卵EGに針部7の針先端を約100[μm]ほど押し込んだときの光学顕微鏡画像である。この状態のままパルス電圧値1[kV]、電圧印加時間100[μs]のパルス電圧を針部7に印加したところ、
図9Aの右側(「電圧印加後」と表記)に示すように、魚卵EGに変形が生じることなく卵膜EMに針先端が穿刺し、卵膜EMに孔を正常に穿孔できることが確認できた。
【0042】
また、
図9Bの左側(「電圧印加前」と表記)の光学顕微鏡画像は、浸透圧129[mOsmol/kg](導電率6.1[mS/cm])の支持液L中にて魚卵EGに針部7の針先端を約100[μm]ほど押し込んだときの光学顕微鏡画像である。この状態のままパルス電圧値1[kV]、電圧印加時間100[μs]のパルス電圧を針部7に印加したところ、
図9Bの右側(「電圧印加後」と表記)に示すように、魚卵EGに変形が生じることなく卵膜EMに針先端が穿刺し、卵膜EMに孔を正常に穿孔できることが確認できた。
【0043】
図9Cの左側(「電圧印加前」と表記)の光学顕微鏡画像は、浸透圧133[mOsmol/kg](導電率6.3[mS/cm])の支持液L中にて魚卵EGに針部7の針先端を約100[μm]ほど押し込んだときの光学顕微鏡画像である。この状態のままパルス電圧値1[kV]、電圧印加時間100[μs]のパルス電圧を針部7に印加したところ、
図9Cの右側(「電圧印加後」と表記)に示すように、魚卵EGに変形が生じてしまい、卵膜EMに針先端を穿刺できなかった。
【0044】
また、
図9Dの左側(「電圧印加前」と表記)の光学顕微鏡画像は、浸透圧150[mOsmol/kg](導電率7.1[mS/cm])の支持液L中にて魚卵EGに針部7の針先端を約100[μm]ほど押し込んだときの光学顕微鏡画像である。この状態のままパルス電圧値1[kV]、電圧印加時間100[μs]のパルス電圧を針部7に印加したところ、
図9Dの右側(「電圧印加後」と表記)に示すように、魚卵EGに大きな変形が生じてしまい、卵膜EMに針先端を穿刺できなかった。
【0045】
このようにして浸透圧50〜200[mOsmol/kg]の間で、魚卵EGの変形の有無、穿孔の可否について光学顕微鏡画像を基に評価を行った結果を下記の表1に示す。なお、表1では、魚卵EGが変形しているとき×とし、変形してないとき○とした。また、魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔できたときは○とし、穿孔できなかったときは×とした。
【0047】
表1から、浸透圧130[mOsmol/kg]付近を境に、魚卵EGの変形が生じることが分かった。また、浸透圧200[mOsmol/kg]の支持液Lでは、魚卵EGを支持液Lに浸漬させると直ちに魚卵EGが変形した。一方、浸透圧が200[mOsmol/kg]より小さく、130[mOsmol/kg]よりも大きい支持液Lでは、魚卵EGの浸漬直後、魚卵EGに大きな変形が生じないものの、パルス電圧の印加と同時に針先端付近を中心に、魚卵EGに変形が生じ、針先端が魚卵EGに穿刺せず、卵膜EMに孔を穿孔できなかった。
【0048】
ここで、メダカ受精卵が変形するのは、メダカ受精卵内の浸透圧よりも支持液Lの浸透圧が高い場合と考えられる。そのため、この検証試験に用いたメダカ受精卵内は、支持液Lの浸透圧を130[mOsmol/kg]よりも大きくすると変形したことから、浸透圧が約130[mOsmol/kg]よりも大きいと推測される。このことから、パルス電圧を針部7に印加した際に、魚卵EGに変形を生じさせずに卵膜EMに針先端を穿刺できる支持液Lとしては、浸透圧を、魚卵EG内の浸透圧よりも小さい130[mOsmol/kg]以下にすることが望ましいことが分かった。
【0049】
以上より、支持液Lの導電率を高くすると、穿孔に必要なパルス電圧値が低下するためパルス電圧の印加が容易になるが、同時に増大する浸透圧が一定値以上になると卵膜EMの変形を引き起こして穿孔の妨げとなる。従って、支持液Lとしては、魚卵EGの変形が生じない浸透圧(この検証試験では130[mOsmol/kg]以下)の範囲において、導電率をできるだけ高くした支持液Lを用いることが好ましいことが分かった。
【0050】
(3)作用および効果
以上の構成において、この穿針装置1では、針電極5およびグランド電極3を支持液Lに浸漬し、これら針電極5およびグランド電極3間の支持液L中に配置された魚卵EGの卵膜EMに、針電極5の針先端を接触させ、この状態で針電極5およびグランド電極3間にパルス電圧を印加することにより、針先端の電界強度を高めるようにした。
【0051】
例えば、この際、低電圧で印加電圧時間(パルス長)を長くしたパルス電圧を針電極5に印加した場合には、針先端の電界強度を高めたことで卵膜EMの内外面で生じた電位差によって、針先端が接触している卵膜EM部分を絶縁破壊や熱的破壊させ、当該卵膜EM部分を針先端により穿刺し易い膜質に変質させることができる。これにより、穿針装置1では、針部7の針先端が予め魚卵EGに押し込められていることから、卵膜EMが変質することで卵膜EMに針先端が穿刺し、卵膜EMに孔を穿孔することができる。
【0052】
また、この際、穿針装置1では、針先端に発生した正の帯電粒子とは逆極性の負の帯電粒子が卵膜EMの内面に集まっていることから、卵膜EM内面の逆極性の帯電粒子により、針先端が卵膜EMに引き寄せられ、尖鋭に形成された針先端に局所的な穿刺力が生じ、このような穿刺力によっても針先端を卵膜EMに穿刺させることができる。
【0053】
このように本発明の穿針装置1では、力学的な力だけで針電極5を魚卵EGに穿刺しなくてもよい分、従来よりも簡単に魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔できる。そして、穿針装置1では、針部7を魚卵EG内に穿刺させた状態で、保護物質供給手段10によって内部の中空空間に保護物質を供給することにより、針先端の開口部から魚卵EG内に保護物質を導入できる。
【0054】
また、本発明の穿針装置1では、針先端を魚卵EGの所望の位置に予め押し込んでおけばよく、穿孔時に針先端を移動させることなく魚卵EGに穿刺させることができるので、針先端を魚卵EGに近づけゆき力学的な力だけで針先端を魚卵EGに穿刺する従来の装置に比して、針先端を移動させながら同時に魚卵EGに対し針先端を位置合わせする手間が不要となり、その分、従来よりも簡単に魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔できる。
【0055】
なお、この場合、穿針装置1では、針電極5に印加するパルス電圧値を低く抑えることができるので、電界強度による胚Eに対する電気的な損傷を抑制でき、かくして、針電極5を用いて魚卵EGに孔を穿孔しても魚卵EGの孵化率が低下することなく、従来と同様の孵化率を維持できる。
【0056】
また、本発明の穿針装置1では、針先端を魚卵EGに近づけてゆき力学的な力で針先端を魚卵EGに穿刺する従来の装置に比して、穿孔時に針先端を移動させる必要がない分、魚卵EGの所望の位置に孔を正確に穿孔することができる。さらに、穿針装置1では、穿孔時、力学的な力だけで針先端を魚卵EGに穿刺しないので、魚卵EGに針先端が激しく突き刺さることもなく、その分、魚卵内の胚を傷つけずに孔を穿孔でき、かくして穿孔時における魚卵EGへの力学的ダメ―ジを低減し得る。
【0057】
なお、支持液Lは、浸透圧を下げるとそれに伴い導電率も下がる傾向にあるが、導電率が高いほど、穿孔時、針電極5に印加するパルス電圧値を低減できる。そこで、穿針装置1では、魚卵EG内の浸透圧よりも浸透圧が小さい範囲内にて、最も導電率が高い支持液Lを用いることにより、穿孔時、支持液L内において魚卵EGの変形を抑制しつつ、針電極5に印加するパルス電圧値を低減させることができる。
【0058】
因みに、上述とは異なり、高電圧で印加電圧時間を短くしたパルス電圧を針電極5に印加した場合には、卵膜EMに上述したような絶縁破壊や熱的破壊が必ずしも生じないものの、針先端の電界強度を高めたことで、魚卵EGの針先端が接触した卵膜EM部分に、より多くの誘導電荷を局所化させることができ、これにより卵膜EMの内側に生じた、針電極5と逆極性の電荷によって、針先端を卵膜EMに強く引き寄せることができ、かくして針先端に生じる穿刺力によって卵膜EMに孔を穿孔することができる。但し、このような高電圧を用いた穿針装置1では、高電圧を用いることで生じる魚卵EGの胚Eに対する電気的な損傷を考慮し、パルス電圧値を選定する必要がある。
【0059】
(4)支持液による流体力を利用した穿針装置
図1との対応部分に同一符号を付して示す
図10において、21は他の実施の形態による穿針装置を示す。この穿針装置21は、グランド電極3と基台23とで構成された装置本体22を有しており、装置本体22内においてグランド電極3および基台23間に形成された流路24内を支持液Lが一方向またはその逆の他方向に流れるように構成されている。
【0060】
実際上、基台23には、平板状のグランド電極3と対向配置され、かつ流路24内に露出した表面に23aに、穿孔対象物である例えば魚卵EGが収納される複数の位置決め部27が形成されている。各位置決め部27は、魚卵EGの外形に合わせて湾曲状に凹んでおり、この凹んだ空間内に魚卵EGが収納可能に形成されている。
【0061】
また、位置決め部27には、凹んだ空間の底部に連通孔28が形成されており、当該連通孔28に針電極5が挿通され、凹み空間の底部から僅かに突出した針電極5の針先端がグランド電極3に対向配置されている。連通孔28は、針電極5との間に隙間が形成されており、後述する支持液Lがこの隙間を流れ得る。また、各針電極5は、図示しないマイクロマニピュレータに保持されており、当該マイクロマニピュレータによって、針先端の連通孔28からの突出量が調整可能に構成されており、針先端が魚卵EGに対し僅かに押し込まれる程度に針先端の突出量が選定されている。
【0062】
流路24は、グランド電極3と基台23との間に形成された第1流路形成部25aと、当該第1流路形成部25aと並走するようにして基台23内部に形成された第2流路形成部25bとを有し、第1流路形成部25aと第2流路形成部25bとが連通孔28を介して連通された構成を有する。流路24は、第1流路形成部25a、第2流路形成部25b、および連通孔28内が支持液Lで満たされており、第1流路形成部25a内を魚卵EGが通過可能に形成されている。
【0063】
この場合、先ず始めに、流路24には、第1流路形成部25aの一端側から他端側(
図10中、「→」で表記)に向けて支持液Lが流れている。次いで、針電極5の針先端にて魚卵EGに孔を穿孔する場合、流路24は、第1流路形成部25aの他端側に設けたバルブを閉状態とし、第1流路形成部25a内を流れる支持液Lを、連通孔28を介して第2流路形成部25bに流し、第2流路形成部25bの末端から排出し得る。この際、流路24では、第1流路形成部25aの一端から複数の魚卵EGが供給され得る。これにより各魚卵EGは、支持液Lに押され、第1流路形成部25a内を流れるとともに、連通孔28から第2流路形成部25bに向けて流れる支持液Lによって各連通孔28に吸い寄せられ、窪んだ位置決め部27にそれぞれ収容され得る。
【0064】
この場合、流路24は、一の位置決め部27に魚卵EGが収納されると、当該位置決め部27における吸引力が低下し、後続の魚卵EGが隣接する位置決め部27に吸い寄せられ位置決めされ得る。このようにして流路24内では、連続して供給された魚卵EGが、位置決め部27に順次収容されてゆき、全ての位置決め部27に魚卵EGが収容され得る。
【0065】
この際、魚卵EGは、連通孔28から突出した針電極5の針先端に、支持液Lによる流体力によって押し付けられ、当該針先端が卵膜EMに押し込められた状態となり得る。このように流路24では、支持液Lが流れる第1流路形成部25aに魚卵EGを供給するだけで、複数ある位置決め部27にそれぞれ魚卵EGを自動的に収容させることができるとともに、各魚卵EGに針先端を自動的に押し込ませることもできる。
【0066】
なお、全ての位置決め部27に魚卵EGが収容されるまで針電極5には、魚卵の配向と誘導泳動が最も効果的に起きる強度と周波数の交流電場を印加し続け得る。その後、全ての位置決め部27に魚卵EGが収容されると、針電極5およびグランド電極3間には電源9によりパルス電圧が印加され、上述した実施の形態と同様の原理により、針電極5によって魚卵EGに孔を穿孔し得る。すなわち、例えば、低電圧で印加電圧時間を長くしたパルス電圧を針電極5に印加した場合には、電場によって生じた卵膜EMの内外面での電位差によって、針先端が接触している卵膜EM部分を絶縁破壊や熱的破壊させ、当該卵膜EM部分を針先端により穿刺し易い膜質に変質させ得る。この際、針電極5は、支持液Lの流体力によって針先端が魚卵EGに押し込められていることから、卵膜EMが変質することで針先端から卵膜EMに与えられている押し込み力によって当該卵膜EMに針先端が穿刺し、魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔し得る。
【0067】
また、上述した実施の形態と同様に、この際、針電極5は、針先端に発生した正の帯電粒子とは逆極性の負の帯電粒子が卵膜EMの内面に集まっていることから、卵膜EM内面の逆極性の帯電粒子により針先端が卵膜EMに強く引き寄せられ、尖鋭に形成された針先端に局所的な穿刺力が生じ、このような穿刺力によっても針先端が卵膜EMに穿刺し得、当該卵膜EMを貫通した孔を魚卵EGに穿孔し得る。
【0068】
なお、この穿針装置21においても、上述した実施の形態と同様に、エレクトロローテーション技術を用いて魚卵EGを回転させる回転手段や、撮像手段により得られた魚卵EGの画像を基に胚Eの位置を特定し、支持液Lによる流体力やアーム等の外力で魚卵EGを回転させる回転手段等その他種々の回転手段を設けることができ、この場合、魚卵内の胚Eに対し最適な位置に針先端を位置決めし得、針先端付近の電界強度による胚Eに対する電気的な損傷を抑制でき、かくして、その他の卵膜部分に針先端を接触させたときに比べて魚卵の孵化率を向上し得る。
【0069】
その後、針電極5は、針先端にて魚卵EGに孔を穿孔すると、針先端を魚卵EG内に穿刺させた状態で、保護物質供給手段10によって内部の中空空間に保護物質が供給されることにより、魚卵EG内に保護物質を導入した後、電源9によるパルス電圧の印加が停止され得る。
【0070】
次いで、流路24は、第1流路形成部25aの他端側に設けたバルブを開状態とした後、第2流路形成部25b内を加圧させることにより、第2流路形成部25bから連通孔28を介して第1流路形成部に向けて働く流体力によって、各位置決め部27において針先端から魚卵EGを離脱させ、第1流路形成部25a内を流れる支持液Lにより魚卵EGをそのまま第1流路形成部25bの他端側へ流し、魚卵EGを回収し得るようになされている。
【0071】
以上の構成において、この穿針装置21でも、針電極5およびグランド電極3間の支持液L中に配置された魚卵EGの卵膜EMに、針電極5の針先端を接触させ、この状態で針電極5およびグランド電極3間にパルス電圧を印加することで、針先端の電界強度が高められ、魚卵EGの針先端が接触した卵膜EM部分に孔を穿孔でき、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
すなわち、例えば、低電圧で印加電圧時間(パルス長)を長くしたパルス電圧を針電極5に印加した場合には、針先端の電界強度を高めたことで卵膜EMの内外面で生じた電位差によって、針先端が接触している卵膜EM部分を絶縁破壊や熱的破壊させ、当該卵膜EM部分を針先端により穿刺し易い膜質に変質させることができる。これにより、穿針装置21では、支持液Lの流体力によって針電極5の針先端が魚卵EGに押し込められていることから、卵膜EMが変質することで卵膜EMに針先端が穿刺し、卵膜EMを貫通した孔を魚卵EGに穿孔することができる。
【0073】
また、この際、穿針装置21でも、針先端に発生した正の帯電粒子とは逆極性の負の帯電粒子が卵膜EMの内面に集まっていることから、卵膜EM内面の逆極性の帯電粒子により、針先端が卵膜EMに引き寄せられ、尖鋭に形成された針先端に局所的な穿刺力が生じ、このような穿刺力によっても針先端を卵膜EMに穿刺させることができる。
【0074】
このように本発明の穿針装置21でも、力学的な力だけで針電極5を魚卵EGに穿刺しなくてもよい分、従来よりも簡単に魚卵EGの卵膜EMに孔を穿孔できる。そして、穿針装置21でも、針部7を魚卵EG内に穿刺させた状態で、保護物質供給手段10によって内部の中空空間に保護物質を供給することにより、針先端の開口部から魚卵EG内に保護物質を導入できる。
【0075】
また、穿針装置21では、上述した実施の形態による効果の他、魚卵EGの針先端への位置決めや、魚卵EGに対する針先端の押し込み、魚卵EGの針先端からの離脱の他、その後の魚卵EGの回収を、流路24内を満たす支持液Lの流れを制御するだけで連続的に行うことができ、魚卵EGに孔を穿孔する穿孔作業を効率的に行うことができる。また、この穿針装置21では、複数の位置決め部27を設けたことにより、複数の魚卵EGに対して一括して穿孔処理を行うことができ、かくして魚卵EGに孔を穿孔する穿孔作業の効率を向上させることができる。
【0076】
なお、
図10に示すような構成を有する穿針装置21では、第1流路形成部25aや、凹んだ位置決め部27の大きさを適切に選定することで、魚卵EGの操作に支持液Lの微妙な圧力制御を行うことなく、各魚卵EGを位置決め部27に順次収容させ、針先端に魚卵EGを押し込めることができ、単なるパルス電圧の印加の切り替えだけで、魚卵EGに孔を穿孔できる。因みに、この穿針装置21でも、高電圧で印加電圧時間を短くしたパルス電圧を針電極5に印加した場合、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
(5)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、例えば穿孔対象物としてメダカ受精卵以外の淡水魚の魚卵や、海水魚の魚卵を適用してもよく、また、このような魚の卵細胞(魚卵)の他、牛や豚等の家畜の卵細胞や、マウス等その他種々の動物の卵細胞を適用してもよい。さらに、他の穿孔対象物としては、最外層に囲まれた細胞であれば、卵細胞以外の細胞を適用してもよい。
【0078】
また、上述した実施の形態においては、穿孔対象物に導入される導入物質として、凍結・乾燥保存に伴う細胞の損傷を防ぐ保護物質を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、保護物質以外のものを適用するようにしてもよい。例えば、本発明の穿針装置1,21を備え、導入物質として遺伝子を適用した遺伝子導入装置では、最外層に囲まれた細胞に、穿針装置1,21の針電極5により孔を穿孔した後、遺伝子供給手段から当該針電極5の中空空間に遺伝子を供給し、これにより当針電極5の針先端の開口部から細胞内に当該遺伝子を導入することができ、かくして、細胞の遺伝子組み換えを行うことができる。
【0079】
また、例えば、本発明の穿針装置1,21を備え、穿孔対象物としてラットやマウス(動物)の胚盤胞を適用した胚性幹細胞導入装置では、上述した実施の形態と同様の原理により穿針装置1,21の針電極5によって胚盤胞に孔を穿孔した後、相同組換えを起こした胚性幹細胞(ES細胞)を、胚性幹細胞供給手段により当該針電極5の中空空間に供給し、これにより当該針電極5を介して胚盤胞内に胚性幹細胞を導入することもできる。このようにして得らえた胚盤胞を偽妊娠ラットに移植することで、遺伝子組み換えマウス(ノックアウトマウスやノックインマウス)を得ることができる。
【0080】
また、穿孔対象物として最外層で囲まれたマイクロカプセル等のような単なる粒子体を適用してもよく、このような粒子体内に導入する導入物質としては薬剤を適用することができる。この場合、穿針装置1,21では、上述した実施の形態と同様の原理により針電極5によって最外層に囲まれた粒子体に孔を穿孔した後、当該針電極5の中空空間を介して粒子体内に薬剤等を導入することができる。なお、この場合、内部に胚Eがある魚卵EGとは異なり、粒子体に対する電気的な損傷を考慮する必要がないため、針電極5に印加するパルス電圧値を高電圧とすることもできる。
【0081】
さらに、上述した実施の形態においては、内部に中空空間が形成された針電極5を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、内部に中空空間がなく中実に形成された針電極を適用してもよい。この場合、針電極によって穿孔対象物の内部に導入物質を導入し得ないものの、上述した実施の形態と同様の原理によって、針電極によって穿孔対象物に孔を穿孔させることができる。
【0082】
すなわち、このような針電極を用いた場合でも、穿孔対象物の針先端が接触した最外層部分に誘導電荷を局所化させることにより最外層部分に絶縁破壊を起こさせたり、当該最外層部分に高電流を局所化させることによりジュール損失による熱的破壊を起こさせることができ、さらに最外層部分の内側に生じた、針電極と逆極性の電荷と、針先端とが引き寄せられることにより最外層に対する穿刺力を発生させ、最外層に孔を穿孔することができる。かくして、この場合でも上述した実施の形態と同様に従来よりも簡単に孔を穿孔させることができる。また、この場合でも、針を移動させてゆき力学的な力のみによって穿孔対象物に孔を穿孔する従来の装置に比して、穿孔時、針先端を移動させない分だけ所望の位置に孔を正確に穿孔することができ、また、最外層に針先端が当たるときの衝撃をも防止し、穿孔時における穿孔対象物への力学的ダメ―ジを低減し得る。
【0083】
さらに、上述した実施の形態においては、ニッケル等の導電性部材により全体を一体成形した針電極を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、表面導電性があれば種々の材質や構造でなる針電極を適用してもよく、例えば非導電性部材により微小形成された針部の表面に導電性部材を被覆し、表面導電性を有した針電極を適用するようにしてもよい。
【0084】
さらに、上述した実施の形態においては、針電極に印加する電圧として、矩形状のパルス電圧を針電極に印加するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、一定の電圧値でなる電圧を一定時間の間連続して針電極に印加するようにしてもよい。
【0085】
さらに、上述した実施の形態において、穿針装置1,21では、穿孔時、針電極5を魚卵EGに押し込んだ状態で静止させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、針電極5を魚卵EGに押し込むことなく、単に接触させるだけでもよく、この場合、針電極5へのパルス電圧の印加によって卵膜EMの内側に生じた、針電極5と逆極性の電荷によって、針先端を卵膜EMに強く引き寄せることで、針先端に生じる穿刺力により卵膜EMに孔を穿孔することができる。
【0086】
さらに、上述した実施の形態において、
図1に示す穿針装置1では、穿孔時、針電極5を魚卵EGに押し込んだ状態で静止させ、この状態において針電極5およびグランド電極3間にパルス電圧を印加するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、穿孔時、必ずしも針電極5が静止している必要はなく、例えば、穿孔時、針電極5を魚卵EGに近づけてゆき、針電極5を静止させることなくそのまま針電極5を魚卵EGに押し込みつつ、針電極5およびグランド電極3間にパルス電圧を印加するようにしてもよい。また、
図10に示す穿針装置21でも同様に、穿孔時、針電極5を魚卵EGに近づけてゆき、針電極5を静止させることなくそのまま針電極5を魚卵EGに押し込みつつ、針電極5およびグランド電極3間にパルス電圧を印加するようにしてもよい。
【0087】
因みに、本発明の穿針装置1,21を用い、受精能を保持したまま凍結、或いは乾燥可能な卵細胞の生産装置および生産方法とした場合には、冷却装置、或いは乾燥装置を設けるようにしてもよく、この場合、卵細胞への保護物質の導入から、当該卵細胞の凍結、或いは乾燥までの一連の処理工程を実行し得る。
【0088】
例えば、冷却装置を備えた生産装置では、保護物質が導入された卵細胞を、支持液の流れに乗せて冷却装置まで導き、当該冷却装置の抽出手段により卵細胞のみを抽出した後、冷却装置でそのまま卵細胞を液体窒素等により急速冷凍させたり、あるいは緩慢凍結、急速ガラス化させることで、凍結した卵細胞を得ることができる。一方、乾燥装置を備えた生産装置では、例えば保護物質が導入された卵細胞を、支持液の流れに乗せて乾燥装置まで導き、当該乾燥装置の抽出手段により卵細胞のみを抽出した後、乾燥装置でそのまま卵細胞を乾燥させることができる。