特許第6137627号(P6137627)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6137627計測システム、タッチプローブ、及び受信ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137627
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】計測システム、タッチプローブ、及び受信ユニット
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20170522BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20170522BHJP
   B23B 31/00 20060101ALI20170522BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20170522BHJP
   G01B 5/008 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G01B7/00 102M
   G01B7/00 101F
   B23Q17/20 A
   B23B31/00 D
   B23Q17/00 B
   G01B5/008
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-211935(P2014-211935)
(22)【出願日】2014年10月16日
(65)【公開番号】特開2016-80507(P2016-80507A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2016年8月17日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘之
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−042608(JP,U)
【文献】 特開2004−085387(JP,A)
【文献】 特開2006−320979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00− 5/30
G01B 7/00− 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸ヘッドに回転自在に支持された主軸にタッチプローブが着脱可能に装着される計測システムにおいて、
前記工作機械の主軸ヘッド側に設置された1次コイルと、
前記タッチプローブ側に前記1次コイルと対向するように設置された2次コイルと、
を備え、
前記1次コイル及び前記2次コイルを磁気的に結合することにより、前記1次コイル側から前記2次コイル側に非接触で給電を行う非接触給電部を構成するとともに、前記タッチプローブで得られた情報を前記2次コイル側から前記1次コイル側へ非接触で伝送する非接触伝送部を構成し、
前記1次コイルを含んで構成され、前記タッチプローブの前記主軸への装着状態の異常を判定しかつ前記タッチプローブの装着誤差を検出する異常判定誤差検出手段を有する、
計測システム。
【請求項2】
前記1次コイルに電流を供給して前記2次コイルに誘導起電力を発生させる電流供給部を備える、請求項1に記載の計測システム。
【請求項3】
前記1次コイルは、前記工作機械の主軸ヘッドに着脱可能に取り付けられた受信ユニットに設けられる、
請求項1又は2に記載の計測システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の計測システムで用いられるタッチプローブにおいて、
前記主軸が回転したときに前記1次コイルに対向する円筒状の外周壁部を有し、前記外周壁部の内周面の一部分に対向して前記2次コイルが配置されるハウジングを備え、
前記外周壁部のうち、前記2次コイルに対向配置される部分であるコイル対向部は非磁性体で、かつ絶縁体により形成され、前記コイル対向部以外の部分である非コイル対向部は導体により形成される、
タッチプローブ。
【請求項5】
請求項4に記載のタッチプローブと組み合わせて使用される受信ユニットであって、
前記1次コイルを有し、前記工作機械の主軸ヘッドに着脱可能に取り付けられる、
受信ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械における座標測定システムに係り,特に数値制御工作機械においてワークの座標測定を行う工作機械における座標測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ(MC:machining center)等の数値制御工作機械(NC工作機械)では、主軸に工具を装着することでワークの加工が行われる。また、タッチプローブ等の測定プローブを主軸に取り付けることで、工作機械におけるワーク(ワーク表面)の座標測定が機上測定として行われている。
【0003】
このような機上測定に使用されるプローブは、プローブの信号を取得して処理する信号取得部(制御装置等)に対して有線で接続することが困難であるため、電波や赤外線などを利用した無線通信により信号伝達が行われている(特許文献1、2参照)。また、プローブへの電力の供給も外部から行うことが困難なため、プローブに電池を内蔵することが一般的であるが、特許文献1では、電池の代わりに発電システムを内蔵させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−265103号公報
【特許文献2】特許第5274775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにプローブと信号取得部との間の信号伝達に無線通信を用いる場合には、プローブと信号取得部とに無線通信用の送受信器を搭載する必要があるため、コストが高くなり、かつ、故障の原因となるおそれがあるという問題がある。特に無線通信として電波を用いる場合には、混信のトラブルがあり、また、法律の規制を受けるため利用が制限されるという問題もある。また、赤外線を用いる場合には、切削粉、加工油等の悪環境によるトラブルが生じやすいという問題もある。
【0006】
また、プローブと信号取得部の間に、ワークなどの物がある場合などでは、信号受信エラーになることもある。
【0007】
また、上記のようにプローブに電池を搭載する場合には、稼働時間に制約があり、定期的に電池の交換や充電を行う必要があるためメンテナンスに手間を要するという問題がある。その点、特許文献1のように発電システムを搭載した場合には短期間でのメンテナンスを不要にすることが可能となるが、製造コストが高くなるという欠点がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、工作機械においてワークの座標測定を機上測定として行うシステムであって、安定的に信号を検知することができ、製造コスト及びメンテナンス作業の低減等を図り、小型で安価なプローブによる高信頼性の座標測定を可能にする工作機械における座標測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る工作機械における座標測定システムは、主軸を回転駆動してワークを加工する工作機械において、主軸にワークへの測定子の接触の有無を検知するタッチプローブを取り付けることによりワークの座標測定を行う座標測定システムであって、タッチプローブは、測定子のワークへの接触の有無によって流れる電流が変化する2次コイルを備え、工作機械は、主軸に取り付けられたタッチプローブの2次コイルに磁気結合可能な位置に設置された検出コイルと、検出コイルに電流を供給して2次コイルに誘導起電力を発生させる電流供給部と、検出コイルのインピーダンスの変化に応じて値が変化する測定信号を出力する測定信号出力部と、測定信号出力部から出力された測定信号に基づいて測定子のワークへの接触の有無を判断する信号取得部と、を備える。
【0010】
本発明によれば、タッチプローブの2次コイルと工作機械の検出コイルとの磁気結合を介してタッチプローブへの電力供給が可能となり、タッチプローブに電池や発電システムを搭載する必要がなくなる。したがって、稼働時間の制約がなく、電池交換や充電などのメンテナンス作業の負担も軽減される。また、小型で安価なタッチプローブを提供することができる。
【0011】
また、タッチプローブによる測定信号は、タッチプローブの2次コイルと工作機械の検出コイルとの磁気結合、及び測定信号出力部を介して取得することができるため、無線通信等の通信を行うための送受信回路をプローブや信号取得部に設けることが不要である。したがって、製造コストの低減を図ることができ、小型で安価なタッチプローブを提供することができる。また、通信におけるエラーを未然に防止することができるため、高信頼性の座標測定を行うことができる。
【0012】
特に、工作機械側の検出コイルは、主軸の横に沿って配線されるため、工作機械の主軸の運動に伴って移動し、邪魔になることはない。
【0013】
また、タッチプローブの2次コイルと工作機械の検出コイルとは、絶えず一定距離を保っているために、信号伝達の狂いは生じない。また、安定した電力供給も可能となる。
【0014】
本発明の他の態様に係る工作機械における座標測定システムにおいて、信号取得部は、測定信号出力部から出力される測定信号に基づいて検出コイルからタッチプローブのハウジング外周面までの距離情報を取得し、かつ、主軸の回転によってタッチプローブの一周分における距離情報を取得し、取得した距離情報に基づいてタッチプローブの主軸へのチャックミスを検出する態様とすることができる。
【0015】
本態様によれば、検出コイル及び測定信号出力部を、タッチプローブにおける測定子のワークへの接触の検出に使用するだけでなく、タッチプローブの主軸へのチャックミスを検出することができる。また、チャックミスによる座標測定の精度の低下を未然に防止することができ、高精度な測定を可能にする。
【0016】
さらには、微小なチャックずれを加味してタッチプローブ位置の補正も可能にする。
【0017】
本発明の更に他の態様に係る工作機械における座標測定システムにおいて、工作機械は、渦電流式変位センサを備え、渦電流式変位センサは、検出コイル、電流供給部、及び測定信号出力部を備え、検出コイルの対向位置に配置された導体までの距離に応じた値の信号を測定信号として出力する態様とすることができる。
【0018】
本態様によれば、周知の渦電流式変位センサを用いて簡易且つ安価にシステムを構築することができる。
【0019】
本発明の更に他の態様に係る工作機械における座標測定システムにおいて、検出コイル、電流供給部、及び測定信号出力部は、主軸に工具が取り付けられた際におけるチャックミスの検出に兼用され、信号取得部は、測定信号出力部から出力される測定信号に基づいて検出コイルから工具のホルダの外周面までの距離情報を取得し、かつ、主軸の回転によってホルダの一周分における距離情報を取得し、取得した距離情報に基づいて工具の主軸へのチャックミスを検出する態様とすることができる。
【0020】
本態様によれば、座標測定システムとしてではなく、検出コイル、及び測定信号出力部を有効に利用して座標測定システムを構築することができる。したがって、このようなチャックミスの検出を行う工作装置においては、タッチプローブの追加と、信号取得部における処理の追加のみによって座標測定を可能にすることができる。
【0021】
本発明の更に他の態様に係る工作機械における座標測定システムにおいて、タッチプローブは、測定子のワークへの接触の有無によってオンとオフとが切り替えられるスイッチを有し、2次コイルは、スイッチを含む閉回路を構成する態様とすることができる。
【0022】
本態様は、タッチプローブにおける検出回路の一形態であるが、簡易な構成の検出回路とすることができ、タッチプローブの小型化と製造コストの低減を図ることができる。
【0023】
本発明の更に他の態様に係る工作機械における座標測定システムにおいて、工作機械は、マシニングセンタ又は数値制御工作機械とすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、工作機械においてワークの座標測定を機上測定として行うシステムにおいて、安定的に信号を検知することができ、製造コスト及びメンテナンス作業の低減等を図り、製造コスト及びメンテナンス作業の低減等を図り、小型で安価なプローブによる高信頼性の座標測定を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明において利用されるチャックミス検出装置の概略構成図
図2】ホルダ一周分の測定データのグラフ
図3】測定データのFFT解析の結果をパワースペクトル表示したグラフ
図4】本発明が適用された座標測定システムの概略構成図
図5】タッチプローブの検出回路の概略構成図
図6】座標測定の際にタッチプローブのワーク接触の有無により変位センサから出力される測定データを例示した図
図7】タッチプローブの取付け時におけるチャックミスの検出における測定信号を例示した図
図8】渦電流式変位センサの内部構成を示したブロック図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0027】
図1は、マシニングセンタ(MC)におけるチャックミスの検出及びワークの座標測定に兼用される検出装置10を示した構成図である。
【0028】
同図に示す検出装置10は、不図示のATC装置により主軸33に装着されたホルダ32(工具30)のチャックミスを自動で検出するチャックミス検出装置として、渦電流式変位センサ12(以下、単に変位センサ12という)、データ処理部14とを備える。後述のように、これらの変位センサ12及びデータ処理部14は、主軸33にタッチプローブ1を取り付けることにより、ワーク(ワーク表面)の座標を機上測定する座標測定システムの構成要素として用いられる。
【0029】
まず、検出装置10により工具30のチャックミスを検出する場合について説明する。
【0030】
図1に示すように、主軸33に着脱される任意の種類の工具30は、ホルダ32に保持されており、そのホルダ32には、円錐状の嵌合部32A(シャンク)が設けられる。
【0031】
一方、主軸33には、円錐状の被嵌合部33Aが設けられており、その被嵌合部33Aにホルダ32の嵌合部32Aが嵌合して工具30が主軸33に取り付けられる。MCにおいて、主軸33への工具30の取付けは、不図示のATC装置により行われ、ATC装置は各種工具を保持したホルダ32、又は、後述のタッチプローブ1を工具マガジンから自動で取り出し、主軸33に自動で装着する。
【0032】
変位センサ12は、主軸33を回動可能に支持するヘッド35にブラケット36を介して取り付けられ、主軸33に装着されたホルダ32の導体で形成されたフランジ部32B(フランジ部32Bの一部分)に対向する位置に配置される。そして、主軸33に対して任意の位置に設置可能なデータ処理部14にケーブルにより接続される。
【0033】
変位センサ12は、周知のように、検出コイルを搭載しており、その検出コイルに高周波電流を供給することにより高周波磁界を発生させる。そして、その高周波磁界内に存在するホルダ32のフランジ部32Bに電磁誘導による渦電流を発生させ、検出コイルのインピーダンスを変化させる。この検出コイルのインピーダンスの変化は、変位センサ12(検出コイル)とフランジ部32B(検出コイルに対向する部分)との間の距離dに応じたものであり、変位センサ12は、その内部において検出コイルから出力される交流電圧を所定の処理回路(測定信号出力部)で処理することにより、距離dに対応した電圧値の電圧信号を測定信号として出力する。
【0034】
また、チャックミスの検出を実施する際において、MCの全体を統括的に制御するMC制御装置24は、主軸33を所定の速度で少なくとも1回転させ、変位センサ12に対向するフランジ部32Bの位置を周方向に一周(360度)に渡って変化させる。これによって、フランジ部32Bの周方向の各位置を変位センサ12に対向させたときの距離dを示す測定信号が変位センサ12から順次出力される。
【0035】
データ処理部14は、変位センサ12から出力される測定信号を取得して各種処理を行う信号取得部であり、A/Dコンバータ16、CPU18、メモリ20、入出力回路22等を備える。
【0036】
A/Dコンバータ16は、変位センサ12から出力された距離dを示す測定信号をアナログ信号からデジタル信号に順次変換して測定データとしてCPU18に出力する。
【0037】
CPU18は、MC制御装置24が主軸33の回転を開始した際に、MC制御装置24から入出力回路22を介して測定開始(チャックミス検出の開始)の指示を受ける。その測定開始の指示を受けると、以下のような処理を実施する。
【0038】
まず、A/Dコンバータ16から順次出力される測定データをホルダ32の回転角度θ(主軸33の回転角度)に対応させてメモリ20に記憶させ、ホルダ32の一周分の測定データをメモリ20に記憶させる。このときにメモリ20に記憶される測定データをグラフ表示すると図2のようになる。
【0039】
続いてCPU18は、メモリ20に記憶されたホルダ32の一周分の距離dの測定データをFFT解析する。即ち、ホルダ32の一周分の測定データをフーリエ解析し、各周波数の成分に分解する。なお、FFT解析は測定と同時に実行しても良い。FFT解析の結果をパワースペクトル表示すると例えば図3のようになる。
【0040】
ここで、FFT解析された各周波数成分のうち基本波周波数成分(1山成分)の振幅値がホルダ32の偏心量の2倍とみなせるので、CPU18は上記FFT解析の結果から基本波周波数成分を抽出し、その振幅値を算出してホルダ32の偏心量Tを取得する。
【0041】
CPU18は、このようして得られた偏心量Tと、予めメモリ20に記憶された許容値Sとを比較し、偏心量Tが許容値S以下であればチャックミスはない(正常にチャックされた)と判定し、偏心量Tが許容値Sを超えている場合にはチャックミスと判定する。そして、その判定結果を、入出力回路22を介してMC制御装置24に出力する。
【0042】
MC制御装置24は、ATC装置により主軸33に工具30を取り付けた際に、上述のようなチャックミスの検出を行い、データ処理部14から正常にチャックされたことの判定結果を得た場合には、そのまま、加工を開始する。
【0043】
一方、データ処理部14からチャックミスとの判定結果を得た場合には、再度、ATC装置による主軸33への工具30の取付けをやり直し、チャックミスの検出からやり直す。
【0044】
なお、チャックミスの場合は、ホルダ32と主軸33との嵌合部分に切り粉を挟み込んだ可能性が考えられるので、主軸33の被嵌合部33A内にエア等を噴射して切り粉を除去するようにしてもよい。
【0045】
このような検出装置10によるチャックミスの検出によれば、複雑な制御を必要とせず、極めてシンプルな装置構成によりチャックミスを検出することができ、正確に工具30(ホルダ32)の主軸33に取り付けることができる。
【0046】
以上のような検出装置10の変位センサ12及びデータ処理部14による工具30のチャックミスの検出に対して、主軸33に図1に示されているタッチプローブ1を図4のように取り付け、変位センサ12及びデータ処理部14において以下の処理を行うことにより、ワーク(ワーク表面)の座標測定を機上測定として行う座標測定システムを構成することができる。
【0047】
タッチプローブ1は、円筒状のハウジング4(プローブ本体)を有し、ハウジング4の基端側に工具を保持する上述のホルダ32と同様に円錐状の嵌合部5(シャンク)が設けられる。したがって、タッチプローブ1は、嵌合部5が主軸33の被嵌合部33Aに嵌合して装着されることにより主軸33に取り付けられる。
【0048】
ハウジング4の先端面からは、ハウジング4に支持された測定子であって、ハウジング4の中心軸に沿ってハウジング4の内部から外部に突出する円柱状(棒状)のスタイラス2が延在し、そのスタイラス2の先端部に球状のスタイラスチップ3が設けられる。
【0049】
タッチプローブ1の機械的な構造については周知であるため説明は省略するが、タッチプローブ1のハウジング4内部には、図5(A)、(B)に示すように、スイッチ42と2次コイル44(内蔵コイル)とが直列接続された閉回路である検出回路40が設けられる。
【0050】
スイッチ42は、スタイラス2と連動してオン/オフが切り替えられ、図5(A)に示すように、スタイラスチップ3がワークWに接触しない状態では、スタイラス2はハウジング4の中心軸方向に沿って配置されており、検出回路40のスイッチ42がオフの状態にある。
【0051】
これに対して、図5(B)に示すように、スタイラスチップ3がワークWに接触してスタイラス2が傾斜すると、その傾斜によって検出回路40のスイッチ42がオフからオンに切り替えられる。
【0052】
一方、2次コイル44は、ハウジング4内部において、変位センサ12の検出コイル12Aを1次コイルとして検出コイル12Aに磁気結合可能に設けられる。
【0053】
ここで、ハウジング4は、外形上において工具の図1のホルダ32のフランジ部32Bに相当するフランジ部4Aを有しており、そのフランジ部4Aの内周面の一部分に対向して2次コイル44が配置される。なお、同図のハウジング4は、円筒状の側面の基端側にフランジ部4Aとして拡径した部分を有するが、側面全体が同一径であってもいし、ホルダ32のフランジ部32Bの位置に対応する部分が縮径されていてもよい。
【0054】
また、ハウジング4の少なくともフランジ部4Aは、2次コイル44が対向配置される部分(コイル対向部という)を除いて導体により形成され、コイル対向部は非磁性体で、かつ、絶縁体(不導体)の材料(樹脂等)で形成される。
【0055】
タッチプローブ1により座標測定を行う際には、MC制御装置24による主軸33の回転角度の制御によりタッチプローブ1の回転角度θが調整され、タッチプローブ1のフランジ部4Aのコイル対向部が変位センサ12の検出コイル12Aに対向する位置に配置される。これによって、タッチプローブ1の2次コイル44が、ハウジング4に阻害されることなく、変位センサ12の検出コイル12Aと磁気結合可能な状態に設定される。
【0056】
変位センサ12及びデータ処理部14は、タッチプローブ1による座標測定の際には、以下のような処理を実施する。
【0057】
変位センサ12は、チャックミスの検出時と同様に検出コイル12Aに高周波電流を供給することにより高周波磁界を発生させる。これにより、タッチプローブ1の2次コイル44に誘導起電力を発生させる。
【0058】
これに対して、変位センサ12からは図6に示すようにタッチプローブ1のスタイラスチップ3がワークに接触しているか否かによって異なる電圧である高電圧VHと低電圧VL(低電圧VL<高電圧VH)の測定信号が出力される。
【0059】
即ち、タッチプローブ1において、スタイラスチップ3がワークに接触していないとき(ワーク非接触状態のとき)には、検出回路40のスイッチ42がオフであることから2次コイル44に電流が流れない。この状態は、チャックミスの検出において、変位センサ12により図1のようにホルダ32のフランジ部32Bまでの距離dを測定した際に、距離dが大きくフランジ部32Bに渦電流が発生しない状態に相当する。したがって、変位センサ12からは、図6に示すように低電圧VLと比較して電圧の高い高電圧VHの測定信号、即ち、距離dが大きいときに相当する測定信号が出力される。
【0060】
そして、スタイラスチップ3がワークに接触したとき(ワーク接触状態のとき)には、検出回路40のスイッチ42がオフからオンに切り替わることから2次コイル44に電流が流れる。この状態は、チャックミスの検出において、変位センサ12により図1のようにホルダ32のフランジ部32Bまでの距離dを測定した際に、距離dが小さくフランジ部32Bに渦電流が発生した状態に相当する。したがって、変位センサ12からは、図6に示すように高電圧VHと比較して電圧の低い低電圧VLの測定信号、即ち、距離dが小さいときに相当する測定信号が出力される。
【0061】
なお、本実施の形態とは反対に、スタイラスチップ3(スタイラス2)がワークに接触していないときに検出回路40のスイッチ42がオン、スタイラスチップ3がワークに接触したときに検出回路40のスイッチ42がオフとなるようにしてもよく、その場合には、変位センサ12が高電圧VHと低電圧VLの測定信号を出力する条件も上記実施の形態とは反対となる。また、検出回路40は、スタイラスチップ3のワークへの接触の有無により2次コイル44に流れる電流が変化するようにした回路であればよい。更に、スタイラスチップ3のワークへの接触の有無によりオン/オフが切り替わるスイッチ42の代わりに、スタイラスチップ3のワークへの接触の有無によりインピーダンスが変化する任意の回路素子とすることができる。
【0062】
データ処理部14において、A/Dコンバータ16は、変位センサ12から出力された測定信号をアナログ信号からデジタル信号に順次変換して測定データとしてCPU18に出力する。
【0063】
CPU18は、MC制御装置24から入出力回路22を介して座標測定の開始(タッチプローブ1のワーク接触の有無検出の開始)の指示を受ける。その指示を受けると、A/Dコンバータ16から順次出力される測定データを取り込み、所定の閾値VT(図6参照)と比較する。閾値VTは、電圧VLよりも大きく、電圧VHよりも小さい値とする。
【0064】
その比較の結果、測定データが閾値VTよりも大きい場合には、スタイラスチップ3がワークに接触していないと判定する。一方、測定データが閾値VT以下になったことを検出した場合には、スタイラスチップ3がワークに接触したと判定する。そして、その判定結果を接触信号として入出力回路22を介してMC制御装置24に出力する。なお、接触信号としてスタイラスチップ3がワークに接触した場合にのみそのことをMC制御装置24に伝達してもよい。
【0065】
MC制御装置24は、スタイラスチップ3をワークの各部に接触させるようにタッチプローブ1を動かしながらデータ処理部14から得られる接触信号に基づいてスタイラスチップ3のワークへの接触の有無を検知する。これにより、ワーク表面の所望位置の座標を測定する。
【0066】
このようなタッチプローブ1及び検出装置10による座標測定によれば、タッチプローブ1を主軸33に取り付けることで機上測定が可能となる。
【0067】
一方、タッチプローブ1に電池や発電システムを搭載する必要がないため、稼働時間の制約がなく、電池交換や充電などのメンテナンス作業の負担も生じない。また、小型で安価なタッチプローブ1を提供することができる。
【0068】
また、タッチプローブ1の信号を取得して各種処理を行う信号取得部(データ処理部14等)との間で、無線通信等の通信を行うための送受信回路が不要であるため、製造コストの低減を図ることができ、小型で安価なタッチプローブ1を提供することができる。また、通信おけるエラーが生じないため、高信頼性の座標測定を行うことができる。
【0069】
更に、通信が不要であることから、電波方式や赤外線方式などの無線通信が不要であり、混信のトラブル、法律の規制、切削粉や加工油等が飛散する悪環境のための通信トラブルなどが一切生じないものとすることができる。
【0070】
更にまた、座標測定システムの構成する検出装置10は、座標測定とチャックミスの検出とに兼用しているため、ハードウェア資源の有効利用を図ることができると共に、それらの測定及び検出を個別の装置で行う場合に比べて省スペース化、低コスト化を図ることができる。
【0071】
続いて、検出装置10によるタッチプローブ1のチャックミスの検出について説明する。検出装置10は、図4のように主軸33にタッチプローブ1が取り付けられた際においても、図1のように主軸33に工具30が取り付けられた場合と同様の処理によりタッチプローブ1のチャックミスの検出を行うことができる。
【0072】
これについて説明すると、MC制御装置24は、主軸33にタッチプローブ1を取り付けた際に、主軸33を所定の速度で少なくとも1回転させ、変位センサ12に対向するタッチプローブ1のフランジ部4Aの位置を周方向に一周(360度)に渡って変化させる。これによって、変位センサ12に対向するフランジ部4Aの位置を周方向に変化させたときの距離dを示す測定信号が変位センサ12から順次出力される。
【0073】
データ処理部14において、CPU18は、タッチプローブ1の主軸33への取付け後、MC制御装置24が主軸33の回転を開始した際に、MC制御装置24から入出力回路22を介して測定開始(チャックミス検出の開始)の指示を受ける。その測定開始の指示を受けると、A/Dコンバータ16から順次出力される測定データをタッチプローブ1の回転角度θ(主軸33の回転角度)に対応させてメモリ20に記憶させ、タッチプローブ1の一周分の測定データをメモリ20に記憶させる。このときにメモリ20に記憶される測定データをグラフ表示すると図7のようになる。
【0074】
同図に示すように、フランジ部4Aの2次コイル44が対向配置されたコイル対向部が変位センサ12の検出コイル12Aに対向するとき(同図の例では回転角度0度付近)以外は、主軸33に対するタッチプローブ1の偏心量Tに応じた測定データが図2と同様に得られる。
【0075】
一方、フランジ部4Aのコイル対向部が変位センサ12の検出コイル12Aに対向しているときは、測定データとして、図6に示したようにスタイラスチップ3がワークに非接触のときの高電圧VHが出力されるため、高電圧VHとなる測定データが得られる。
【0076】
このときの高電圧VHは、フランジ部4Aまでの距離dを示すものではないが、CPU18が続いてFFT解析した際の基本波周波数成分の振幅値には大きな影響を与えないため、そのままFFT解析を行って上述のように基本波周波数成分に基づいてタッチプローブ1の偏心量Tを取得する。
【0077】
ただし、フランジ部4Aのコイル対向部が変位センサ12の検出コイル12Aに対向しているときの測定値を、その区間の前後の測定データの値を直線で結んだときの直線上の値に変更してFFT解析を行ってもよいし、その他、適度な大きさの値に変更してFFT解析を行っても良い。
【0078】
CPU18は、このようして得られた偏心量Tと、予めメモリに記憶された許容値Sとを比較し、偏心量Tが許容値S以下であればチャックミスはないと判定し、偏心量Tが許容値Sを超えている場合にはチャックミスと判定する。そして、その判定結果を、入出力回路22を介してMC制御装置24に出力する。
【0079】
MC制御装置24は、ATC装置により主軸33にタッチプローブ1を取り付けた際に、上述のようなチャックミスの検出を行い、データ処理部14から正常にチャックされたことの判定結果を得た場合には、そのまま、ワークの座標測定を行う。
【0080】
一方、データ処理部14からチャックミスとの判定結果を得た場合には、再度、ATC装置による主軸33へのタッチプローブ1の取付けをやり直し、チャックミスの検出からやり直す。
【0081】
このようなチャックミスの検出により、タッチプローブ1を主軸33に対して正確な位置に取り付けることができるため、チャックミスによる測定精度の低下を防止することができ、かつ、精度の高い測定が可能となる。
【0082】
また、偏心量Tが許容値S以下でチャックミスはないとみなされても、微小にずれている場合がある。こうした場合は、その誤差量を検出する。すなわち、誤差の方向と、その誤差量をすべて記録しておく。
【0083】
次に、タッチプローブ1でタッチした際の座標位置に、この誤差方向と誤差量のデータを使用し、オフセット値としてあらかじめ入力しておく。
【0084】
これにより、タッチプローブ1の検出位置もプローブの取り付け誤差を加味して、検出位置を補正することが可能となる。
【0085】
また、測定プローブの交換に関係なく、取り付け誤差のオフセット量を入力することで、安定したタッチプローブ1の検出ができる。
【0086】
なお、オフセット量の入力の実施方法として、事前にホルダーを取り付けた後、先に述べた一周の偏芯量を求める。
【0087】
そのホルダー偏芯量を基に、タッチプローブ先端位置での偏芯量に換算して求める。たとえば、タッチプローブ先端で、ある方向で50μmほど外周側にずれていたとすれば、それを補正するオフセット量を入力すればよい。
【0088】
以上、上記実施の形態において、変位センサ12は、ホルダ32のフランジ部32B又はタッチプローブ1のフランジ部4Aの距離dに対応した測定信号を生成し出力するために、図8に示すように検出コイル12Aの他に、検出コイル12Aに対して電流を供給する電流供給部12Bや、検出コイル12Aのインピーダンスの変化に応じて値が変化する測定信号を生成し出力するための測定信号出力部12Cとを含む構成となっている。
【0089】
電流供給部12Bは、例えばデータ処理部14を介して供給される電源により高周波電流を生成して検出コイル12Aに供給するものであり、発振回路等が相当する。
【0090】
測定信号出力部12Cは、例えば検波回路やリニアライザなどの処理回路を含み、距離dに比例した電圧の測定信号を生成し、出力する。
【0091】
一方、本発明においては、測定信号出力部12Cは、距離dの値とは直接的に対応しない値の測定信号を出力するものであってもよい。例えば、検出コイル12Aのインピーダンス(又はインダクタンス)を検出してその値を測定信号として出力するインピーダンス測定回路(又はインダクタンス測定回路)等であってもよい。
【0092】
また、電流供給部12B及び測定信号出力部12Cを構成する回路、又はこれらで行われる処理の一部又は全体を変位センサ12ではなく、データ処理部14等の検出コイル12Aとは別装置に搭載し又は実施してもよい。例えば、図1図4のように変位センサ12をブラケット36を介してヘッド35に設置する代わりに、検出コイル12Aのみを構成要素(回路素子)として有するセンサ部をヘッド35に設置し、検出コイル12A以外の回路は、検出コイル12Aにケーブルで接続されるデータ処理部14と同一筐体内に配置してもよいし、その回路が行う処理と同等の処理をデータ処理部14における処理の一部として実施するようにしてもよい。
【0093】
また、上記実施の形態において、タッチプローブ1は、任意の種類の工具30を保持するホルダ32にはめ込まれ、ホルダ32と電気的に結合した構成としてもよい。
【0094】
また、上記実施の形態では、MCにおいて本発明を適用した実施の形態について説明したが、MCに対してATC装置を備えていないNC工作機械においても同様に適用でき、さらにNC工作機械以外の工作機械においても適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1…タッチプローブ、2…スタイラス、3…スタイラスチップ、4…ハウジング、4A,32B…フランジ部、5,32A…嵌合部、10…検出装置、12…渦電流式変位センサ(変位センサ)、12A…検出コイル、12B…電流供給部、12C…測定信号出力部、14…データ処理部、16…A/Dコンバータ、18…CPU、20…メモリ、22…入出力回路、24…MC制御装置、30…工具、32…ホルダ、33…主軸、33A…被嵌合部、35…ヘッド、36…ブラケット、40…検出回路、42…スイッチ、44…2次コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8