特許第6137814号(P6137814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キユーピー株式会社の特許一覧

特許6137814カカオ分含有ペースト状食品の製造方法、及びそれにより得られるカカオ分含有ペースト状食品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137814
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】カカオ分含有ペースト状食品の製造方法、及びそれにより得られるカカオ分含有ペースト状食品
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/00 20060101AFI20170522BHJP
   A23G 1/30 20060101ALI20170522BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20170522BHJP
【FI】
   A23G1/00
   A23L5/00 L
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-260411(P2012-260411)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-103926(P2014-103926A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年4月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−229493(JP,A)
【文献】 J. Grad. Sch. Biosp. Sci.,2009年,48,77-94,http://www.hiroshima-u.ac.jp/upload/61/kankobutsu/kiyou2009/77.pdf参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00
A23L 5/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ分含有ペースト状食品の製造方法であって、
該カカオ分含有ペースト状食品が、配合原料として少なくとも、食用油脂、糖質(糖アルコールを除く)、カカオ分、糖アルコール、および乳化剤を含有し、
前記糖アルコールは原料糖のDE値が40以下の還元澱粉糖化物であり、該カカオ分含有ペースト状食品の食用油脂含有量が12〜65質量%、水分含有量が5〜25質量%、糖質(糖アルコールを除く)含有量が10〜60質量%、カカオ分含有量が5〜50質量%、乳化剤含有量が固形分換算で0.01〜20質量%であり、
前記糖アルコールが食用油脂100質量部に対して40〜200質量部であり、
カカオ分を含む粉体と食用油脂とを混合することにより粉体の油中分散物を調製する工程1、
および該油中分散物に前記糖アルコールを含む他の原料を混合する工程2を有し、
工程1で食用油脂と混合する粉体の合計量が、カカオ分含有ペースト状食品全体に対して25〜50質量%である、
カカオ分含有ペースト状食品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカカオ分含有ペースト状食品の製造方法であって、
非脂肪カカオ分を5〜50質量%含む、
カカオ分含有ペースト状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カカオ分含有ペースト状食品の製造方法、及びそれにより得られるカカオ分含有ペースト状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、カカオの種子を発酵、焙煎したカカオマスにカカオバター、粉糖、粉乳などを混ぜて練り固めた食品である。チョコレートは幅広い世代に人気が高く、近年、チョコレートの味や風味を利用した様々な形態の菓子やパンなどが市販されている。
【0003】
現在、食品にチョコレート風味を利用する際、チョコレートの他、準チョコレート、チョコレートフラワーペースト、チョコレートスプレッドなど、数多くのカカオ分含有食品が使用されている。特に、パンや菓子に包餡する用途として利用する場合、ペースト状の物性が求められることから、チョコレートフラワーペーストやチョコレートスプレッドが使用されるケースが多い。これらのカカオ分含有ペースト状食品は、カカオ分がフラワーペーストの物性や乳化に影響を与えるため、カカオ分の添加量が制限され、良好なチョコレート風味が付与できないという問題があった。
【0004】
フラワーペーストのチョコレート風味を強化する方法として、特定比率の乳清ミネラルを含有する方法が知られている(特許文献1)。この方法では、従来のフラワーペーストと比較してチョコレート風味を強化することはできるが、フラワーペーストの概念を超えるほどの強い風味は得られなかった。また、喫食した際の口溶けに課題が残った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−217646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、喫食した際に口中で乳化することにより、口溶けが良く、かつ口中でチョコレート風味が拡散する特徴を有するカカオ分含有ペースト状食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の成分を含有し、配合原料である粉体の一部と食用油脂とを混合することにより粉体の油中分散物を調製し、その後、該油中分散物に他の原料を混合することにより、喫食した際に口溶けが良く、かつ口中でチョコレート風味が拡散する特徴を有するカカオ分含有ペースト状食品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)カカオ分含有ペースト状食品の製造方法であって、
該カカオ分含有ペースト状食品が、配合原料として少なくとも、食用油脂、糖質(糖アルコールを除く)、カカオ分、糖アルコール、および乳化剤を含有し、
該カカオ分含有ペースト状食品の食用油脂含有量が12〜65%、水分含有量が5〜25%であり、
配合原料である粉体の一部と食用油脂とを混合することにより粉体の油中分散物を調製する工程1、
および該油中分散物に他の原料を混合する工程2を有する、
カカオ分含有ペースト状食品の製造方法、
(2)工程1で食用油脂と混合する粉体の合計量が、カカオ分含有ペースト状食品全体に対して5〜50%である(1)記載のカカオ分含有ペースト状食品の製造方法、
(3)非脂肪カカオ分を5〜50%含む(1)または(2)記載のカカオ分含有ペースト状食品の製造方法、
(4)食用油脂12〜65%、水分5〜25%、糖質(糖アルコールを除く)を10〜60%、カカオ分、糖アルコール、および乳化剤を含有するカカオ分含有ペースト状食品であって、
カカオ分含有ペースト状食品100gに対し水300gを添加し、ハンドホイッパーを用いて、25℃、120rpmで3分間撹拌混合し、その後5分間静置した際に、油相又は水相の分離が視認できない特性を有する、
カカオ分含有ペースト状食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、喫食した際に口中で乳化することにより、口溶けが良く、かつ口中でチョコレート風味が拡散する特徴を有するカカオ分含有ペースト状食品を提供できる。したがって、チョコレートの味や風味を利用した様々な形態の菓子やパンなどの需要拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明は、カカオ分含有ペースト状食品の製造方法であって、
該カカオ分含有ペースト状食品が、配合原料として少なくとも、食用油脂、糖質(糖アルコールを除く)、カカオ分、糖アルコール、および乳化剤を含有し、
該カカオ分含有ペースト状食品の食用油脂含有量が12〜65%、水分含有量が5〜25%であり、
配合原料である粉体の一部と食用油脂とを混合することにより粉体の油中分散物を調製する工程1、
および該油中分散物に他の原料を混合する工程2を有する、
カカオ分含有ペースト状食品の製造方法である。
【0012】
本発明により得られたカカオ分含有ペースト状食品は、喫食した際に口中の唾液を吸収することで容易に相転移を起こし、水中油型乳化食品になる特性を有する。この相転移を起こす際、カカオ分が分散している食用油脂が微粒子化することで、チョコレートの風味を一気に口中に拡散することができ、これにより喫食した際に従来にないチョコレート風味の強さを付与することが可能となる。
【0013】
<カカオ分含有ペースト状食品>
本発明のカカオ分含有ペースト状食品は、後述するカカオ分を含有したペースト状の食品であれば特に限定するものではない。
【0014】
<カカオ分>
本発明のカカオ分とは、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー及びカカオエキスパウダーなどのカカオ豆由来物から水分を除いたものであり、具体的には、カカオ脂肪分と非脂肪カカオ分を合計したものである。ここでカカオ脂肪分とはココアバターのことを指し、非脂肪カカオ分とは、ココアバター以外のカカオ分の総称であり、ポリフェノール、テオブロミン、カフェインなどを含む。
【0015】
本発明のカカオ分含有ペースト状食品において、カカオ分の含有量は特に限定するものではないが、本発明の効果であるチョコレート風味を強化するため、5〜50%が好ましく、10〜40%がより好ましく、12〜30%がさらに好ましい。また、本発明の効果をより顕著にするため、非脂肪カカオ分として上記比率で含有することが一層好ましい。
【0016】
なお、従来のフラワーペーストが、その物性や乳化に影響を与えるため、カカオ分の添加量が制限されていたのに対し、本発明のカカオ分含有ペースト状食品は、カカオ分、特に非脂肪カカオ分を多量に入れても物性を維持できる。この非脂肪カカオ分を多量に含有できる特性自体が、従来のカカオ分含有ペースト状食品と差別化できる本発明の特徴である。
【0017】
<食用油脂>
食用油脂とは、トリアシルグリセロール又はジアシルグリセロールを主成分とする脂質のことであり、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、乳脂、牛脂、豚脂、卵黄油等の動植物油、カカオ脂肪分及びこれらの精製油、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、酵素処理卵黄油等のように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる油脂等が挙げられる。このような食用油脂は、1種で使用してもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0018】
<食用油脂含有量>
食用油脂の含有量は、カカオ分含有ペースト状食品に対して12〜65%であり、好ましくは15〜55%、より好ましくは20〜45%である。食用油脂の含有量が多すぎたり少なすぎたりすると、上述の相転移が生じにくくなり、結果としてチョコレート風味を強化できなくなるため好ましくない。なお、カカオ脂肪分を含有する場合、カカオ脂肪分の含有量は食用油脂の一部として計算する。
【0019】
<水分含有量>
本発明のカカオ分含有ペースト状食品の水分含有量は、カカオ分含有ペースト状食品に対して5〜25%であり、好ましくは7〜22%、より好ましくは10〜18%である。水分が過度に多いと、上述の相転移が生じにくくなり、結果としてチョコレート風味を強化できなくなるため好ましくない。逆に水分含有量が過度に少ないと油相分離が生じ易くなる。
【0020】
<糖質>
本発明に用いる糖質としては特に制限はなく、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖等のオリゴ糖、アミロース,アミロペクチン等の澱粉、デキストリン、グルカン等の多糖類、ぶどう糖果糖液糖、及び果糖ぶどう糖液糖が挙げられる。なお、本発明の糖質として、糖アルコールは含まない。
【0021】
糖質(糖アルコールを除く)の含有量は、本発明の効果であるチョコレート風味を強化するため、カカオ分含有ペースト状食品に対して10〜60%であり、好ましくは15〜55%である。
【0022】
本発明のカカオ分含有ペースト状食品は、口中で乳化することにより、口溶けが良いことを特徴としているため、口溶けを悪くする澱粉やガム質の含有量が少ないことが好ましく、具体的には澱粉およびガム質の合計含有量が3%以下であることが好ましく、1%以下がより好ましい。ここで澱粉としては馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、これらの澱粉をアルファ化、架橋などの処理を施した化工澱粉、並びに湿熱処理澱粉などが挙げられ、ガム質としてはキサンタンガム、タマリンド種子ガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、アラビアガム、サイリュームシードガムなどが挙げられる。
【0023】
<糖アルコール>
本発明に用いる糖アルコールとは、糖のアルデヒド基及びケトン基を還元してアルコール基とした多価アルコールであり、例えばソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、および還元澱粉糖化物等が挙げられる。ここで、還元澱粉糖化物とは、例えば、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉類を分解して得られるデキストリン、マルトデキストリン、水飴等と称される澱粉糖化物に水素を添加して得られる還元物であり、様々な重合度のグルコースを骨格とする糖アルコールの混合糖質である。本発明で用いる糖アルコールの形態としては、市販されているものであれば、特に限定するものではないが、液体状、粉末状のもの等を用いることができる。
【0024】
本発明に用いる糖アルコールとしては、特に限定はしないが、口中での相転移を起こし、結果としてチョコレート風味を強化しやすくする観点から、還元澱粉糖化物を用いることが好ましく、原料糖のDE値が40以下の還元澱粉糖化物がより好ましく、原料糖のDE値が30以下の還元澱粉糖化物がさらに好ましい。一方、DE値が10を下回る還元澱粉糖化物は、一般的に販売されていないため、DE値10以上が好ましい。DE値とは、「デキストロースエキュイバレント(dextrose equivalent)」の略称で、澱粉糖化物(澱粉糖)の品質表示の一方法で、澱粉の加水分解の程度を示す指標である。DEが高いほうが加水分解の程度が高く、一方、DEが低い方が加水分解の程度が低いことを意味する。
【0025】
また、糖アルコールの合計配合量は、食用油脂100部に対して固形分換算で好ましくは40〜200部であり、より好ましくは50〜180部である。糖アルコールの配合量が少なすぎると、油相分離が生じやすい。反対に多すぎると、上述の相転移を生じさせ難くなる。
【0026】
<乳化剤>
本発明に用いる乳化剤としては特に制限はなく、例えばリン脂質、リゾリン脂質、カゼインナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられ、乳化力を持つ食品素材である卵黄、乳タンパク質、大豆タンパク質を用いてもよい。また、これらの1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0027】
乳化剤として卵黄を用いる場合、生の卵黄、および卵黄を含む全卵の他、当該生卵に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したものを用いればよい。
【0028】
乳化剤として乳タンパク質を用いる場合、乳タンパク質を含有する乳又は乳製品を配合することにより含有させることができる。乳又は乳製品としては、例えば、乳又は乳製品乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)に規定されているものであり、例えば、牛乳、濃縮乳、全粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳、チーズ、ホエーパウダー、タンパク質濃縮ホエーパウダー、クリーム、バター、バターオイル、バターミルク等を使用することができ、また、乳及び乳製品の形態としては粉末のものが好ましく、特に、全粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳等の粉乳が好ましい。
【0029】
乳化剤として大豆タンパク質を用いる場合、脱脂大豆から抽出したたん白質を酸処理の後中和して噴霧乾燥したタンパク質含有量が90%以上の分離大豆タンパク質や、脱脂大豆から水溶性の糖や灰分等を除き、タンパク質含有量を70%以上に高めた濃縮大豆タンパク質を配合することにより含有させることができる。
【0030】
本実施形態に係るカカオ分含有ペースト状食品は、口中での相転移を起こし、結果としてチョコレート風味を強化しやすくする観点から、少なくとも乳タンパク質を含むことが好ましく、卵黄を更に含むことがより好ましい。
【0031】
乳化剤の合計配合量は、口中での相転移を起こし、結果としてチョコレート風味を強化しやすくする観点から、カカオ分含有ペースト状食品に対して固形分換算で0.01〜20%が好ましく、0.5〜15%がより好ましい。これに対し、乳化剤の配合量が少なすぎると、層分離が生じやすい。反対に多すぎると、上述の相転移を生じさせ難くなる。
【0032】
<その他の原料>
本発明のカカオ分含有ペースト状食品は、上述の各成分の他、他に果汁、ドライフルーツ、ジャム等の果物加工品、ナッツ類、チーズ等を細片状又は粉末状にしたもの、シナモン、バジル等の香辛料、フルーツフレーバー、バニラフレーバー等の香料、クチナシ色素等の着色料等、種々の食材や添加材を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し、配合することができる。
【0033】
<カカオ分含有ペースト状食品の製造方法>
下記の工程1及び2を順次行うことにより、水分と食用油脂の分離を生じさせることなく、本発明のカカオ分含有ペースト状食品を製造できることができる。
【0034】
<工程1>
配合原料である粉体の一部と食用油脂とを混合することにより粉体の油中分散物を調製する。より具体的には、上述した糖質、カカオ分、糖アルコールおよび乳化剤、ならびにその他の配合原料であって粉体のものを順次食用油脂に混合するか、あるいは、予めこれらの粉体を混合して食用油脂と混合することにより、粉体の少なくとも一部が食用油脂に非溶解で分散した混合物を調製する。混合操作は、ニーダーやホバートミキサー等の攪拌機を用いて行うことができる。また、本発明において、粉体は水分含有量が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0035】
工程1で食用油脂と混合する粉体の合計量は、口中での相転移を起こし、結果としてチョコレート風味を強化しやすくする観点から、カカオ分含有ペースト状食品全体に対して5〜50%が好ましく、10〜45%がより好ましく、10〜40%がさらに好ましい。
【0036】
<工程2>
本発明のカカオ分含有ペースト状食品を構成する配合原料のうち、工程1で用いたものの残部を工程1で得た粉体の油中分散物に混合することにより、カカオ分含有ペースト状食品を得る。
【0037】
工程2における水分の添加量は、得られるカカオ分含有ペースト状食品が、上述した相転移を生じる性質を満たす量とすればよいが、好ましくはカカオ分含有ペースト状食品に対して5〜25%、より好ましくは7〜22%、さらに好ましくは10〜18%である。
【0038】
水分の添加方法としては、水を配合しても良く、あるいは、水分を含む食品素材、例えば、還元澱粉糖化物として含水した液糖を配合することにより行っても良く、また水分を含む卵黄を配合することにより行っても良い。
【0039】
このように、本発明のカカオ分含有ペースト状食品の配合原料が、形態として粉体のものと、その粉体よりも水分含有量が高い液状のものとが存在する場合(例えば乾燥卵黄と生卵黄)、粉体のものは工程1で添加し、液状のものは工程2で添加することが好ましい。
【0040】
<カカオ分含有ペースト状食品の特性>
本発明のカカオ分含有ペースト状食品は、カカオ分含有ペースト状食品100gに対し水300gを添加し、ハンドホイッパーを用いて、25℃、120rpmで3分間撹拌混合し、その後5分間静置した際に、油相又は水相の分離が視認できない特性を有する。
【0041】
この特性を有することにより、本発明のカカオ分含有ペースト状食品は、喫食した際に口中の唾液を吸収することで容易に相転移を起こし、水中油型乳化食品になる特性を有する。この相転移を起こす際、カカオ分が分散している食用油脂が微粒子化することで、チョコレートの風味を一気に口中に拡散することでき、これにより喫食した際に口中において従来にないチョコレート風味の強さを付与することが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明のカカオ分含有ペースト状食品の製造方法について、実施例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0043】
[実施例1〜4、比較例1〜6]
表1の配合割合でカカオ分含有ペースト状食品を製造した。具体的には、ニーダーに大豆油、カカオバターを投入し、次に全粉乳、砂糖、ココアパウダー、ショ糖脂肪酸エステルを投入し、撹拌混合後、糖アルコール、生卵黄、清水を投入してさらに撹拌混合後脱気した。続いて品温が90℃に達温するように加熱し、放冷後30gずつ容器に充填して製造した。なお、糖アルコールとしてはエスイー100(日研化成株式会社製、70%水溶液、糖組成の64%以上が5糖以上の糖アルコール、原料デキストリンのDE値15)、エスイー30(日研化成株式会社製、70%水溶液、糖組成の43%以上が5糖以上の糖アルコール、原料デキストリンのDE値30)およびソルビトールを用いた。また、容器としては、小袋パウチを使用した。
【0044】
得られたカカオ分含有ペースト状食品の水分含有量を減圧加熱乾燥法により測定した(表1)。また、得られた比較例1、2および比較例4〜6のカカオ分含有ペースト状食品は油相分離をしていた。
【0045】
[比較例7]
表1の配合割合でカカオ分含有ペースト状食品を製造した。具体的には、ニーダーに糖アルコール、生卵黄、全粉乳、砂糖、ココアパウダー、清水を投入し、撹拌混合後、大豆油を投入しさらに撹拌混合した以外は、実施例1と同様にカカオ分含有ペースト状食品を製造した。得られたカカオ分含有ペースト状食品は油相分離をしていた。
【0046】
[試験例1]カカオ分含有ペースト状食品の水添加後の分離試験
実施例1〜4、および比較例3のカカオ分含有ペースト状食品各100gに水300gを加え、ハンドホイッパーを用いて、25℃で120rpm、3分間撹拌を行い、5分間静置した後、油分または水分の分離を目視で確認した。
【0047】
得られた混合物の分離を下記の評価基準で評価した(表1)。
<評価基準>
○:油分または水分の分離がほとんど見られず、好ましい状態であった。
×:油分または水分の分離が見られ、好ましくない状態であった。
【0048】
[試験例2]官能試験
実施例1〜4、および比較例1〜7のカカオ分含有ペースト状食品と、比較例8のカカオ含有フラワーペーストを喫食し、口中でのチョコレート風味の強さを下記の評価基準で評価した(表1)。
<評価基準>
A:口中で乳化することにより、口溶けが良く、かつ口中でチョコレート風味が一気に拡散した
B:口中で乳化することにより、口溶けが良く、かつ口中でチョコレート風味が徐々に拡散した
C:口中で油分離してしまい、口溶けが悪く、チョコレート風味が弱かった
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、食用油脂、糖質、カカオ分、糖アルコール、および乳化剤を含有し、食用油脂含有量が12〜65%、水分含有量が5〜25%であり、配合原料である粉体の一部と食用油脂とを混合することにより粉体の油中分散物を調製する工程1、および該油中分散物に他の原料を混合する工程2を有する、カカオ分含有ペースト状食品は、口中で乳化することにより、口溶けが良く、かつ口中でチョコレート風味が拡散した(実施例1〜4)。一方、食用油脂や水分の含有量が上記範囲でないカカオ分含有ペースト状食品(比較例3〜6)や、糖アルコール、乳化剤を含有しないカカオ分含有ペースト状食品(比較例1、2)、および上記工程を有さないカカオ分含有ペースト状食品(比較例7)は、口中で油分離してしまい、口溶けが悪く、チョコレート風味が弱かった。
【0051】
[比較例8]
常法によりカカオ含有フラワーペーストを製造した。具体的には、エステル交換油脂8%にキサンタンガム0.2%を添加し、油相とした。清水43.6%、ココアパウダー5%、澱粉5%、ソルビン酸カリウム0.1%、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖35%、小麦粉3%、香料0.1%を混合し水相とした。この油相と水相を混合、乳化、均質化した後、90℃に達温するように加熱し、放冷後30gずつ容器に充填してカカオ含有フラワーペーストを製造した。
【0052】
得られたカカオ含有フラワーペーストを試験例1と同様の方法で水添加後の分離試験を行ったところ、油分または水分の分離が見られ、好ましくない状態であった。また、試験例2と同様の方法で官能試験を行ったところ、口中で乳化は起こらず、口溶けが悪く、チョコレート風味が弱かった。
【0053】
[比較例9]
常法によりカカオ含有スプレッドを製造した。具体的には、ニーダーに大豆油34.5%、卵黄レシチン0.5%を投入し、次に全粉乳22%、砂糖36%、ココアパウダー7%を投入し、撹拌混合後脱気した。続いて品温が90℃に達温するように加熱し、放冷後30gずつ容器に充填してカカオ含有スプレッドを製造した。
【0054】
得られたカカオ含有スプレッドを試験例1と同様の方法で水添加後の分離試験を行ったところ、油分または水分の分離が見られ、好ましくない状態であった。また、試験例2と同様の方法で官能試験を行ったところ、口中で乳化は起こらず、口溶けが悪く、チョコレート風味が弱かった。