特許第6138554号(P6138554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138554複合材料、この複合材料の製造方法、この複合材料を用いたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138554
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】複合材料、この複合材料の製造方法、この複合材料を用いたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20170522BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170522BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20170522BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/36 C
   H01G11/30
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-77404(P2013-77404)
(22)【出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2014-203606(P2014-203606A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【弁理士】
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
(72)【発明者】
【氏名】爪田 覚
(72)【発明者】
【氏名】湊 啓裕
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
(72)【発明者】
【氏名】玉光 賢次
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−048963(JP,A)
【文献】 特開2011−213556(JP,A)
【文献】 特開2010−280560(JP,A)
【文献】 特開2010−226116(JP,A)
【文献】 特開2009−252421(JP,A)
【文献】 特開2011−113924(JP,A)
【文献】 特開2012−146763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボン粉末と、該導電性カーボン粉末に付着しているスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子と、を含み、酸化チタンを実質的に含まない複合材料の製造方法であって、
a)旋回可能な反応器内にリチウム源とチタン源と導電性カーボン粉末とを含む反応液を導入する調製工程、
b)前記反応器を旋回させて前記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、前記導電性カーボン粉末にチタン酸リチウム前駆体を高分散状態で担持させる担持工程、
c)前記チタン酸リチウム前駆体を担持させた導電性カーボン粉末を、200〜500℃の温度で一次焼成した後、真空中又は窒素中で600〜950℃の温度で二次焼成することにより、前記導電性カーボン粉末上で前記チタン酸リチウム前駆体をスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子に転化する焼成工程
を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程において、500℃から二次焼成の温度までの昇温過程を真空中又は窒素中で5分以下の時間で行い、二次焼成を1〜20分の範囲で行い、二次焼成後の500℃までの降温過程を真空中又は窒素中で5分以下の時間で行う、請求項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記スピネル型のチタン酸リチウムが酸素欠陥を有し、該酸素欠陥に窒素がドープされており、
前記焼成工程において、500℃から二次焼成の温度までの昇温過程、二次焼成、及び二次焼成後の500℃までの降温過程を窒素中で行う、請求項1又は2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記反応液に含まれているチタン源がチタンアルコキシドであり、前記反応液にチタンアルコキシドと錯体を形成する反応抑制剤がさらに含まれている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル型のチタン酸リチウム(Li4+xTi12(0≦x≦3))(以下、単に「チタン酸リチウム」と表わす。)のナノ粒子と導電性カーボンとの複合材料であって、チタン酸リチウム生成時に副生しやすい酸化チタンを実質的に含まない複合材料及びその製造方法に関する。本発明はまた、上記複合材料を用いたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パソコンなどの情報機器の電源として、エネルギー密度が高い非水系電解液を使用したリチウムイオン二次電池が広く使用されている。現在の非水系電解液を使用したリチウムイオン二次電池は、コバルト酸リチウム(LiCoO)を正極活物質とし、黒鉛を負極活物質とし、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩をエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの非水系溶媒に溶解させた液を電解液としたものが主流である。しかし、負極の黒鉛に関しては、黒鉛へのリチウムイオン挿入時に、黒鉛の表面に電解液の分解反応により熱安定性が乏しい固体電解質界面(SEI)被膜が形成されやすい、リチウムデンドライドが析出しやすい、という問題があった。
【0003】
この問題を解決するために、黒鉛に代わる負極材料としてチタン酸リチウムを使用することが提案されている。チタン酸リチウムの表面にはSEI被膜が形成されにくく、リチウムデンドライドが析出せず、また、チタン酸リチウムにリチウムイオンが挿入・脱離するときの体積変化がほとんどないため、安定に動作するリチウムイオン二次電池が得られることが期待される。しかし、原料となるチタン化合物(チタン源)とリチウム化合物(リチウム源)とを混合して加熱焼成することによりチタン酸リチウムを製造するときに、電池性能を低下させるルチル型酸化チタンが副生しやすいという問題があった。また、得られたチタン酸リチウムは一般に凝集構造を有するため、この材料を負極に用いた電池の容量が低く、また大電流での放電において容量が大幅に低下するという問題があった。
【0004】
ところで、出願人は、特許文献1(特開2007−160151号公報)において、旋回可能な反応器内に金属酸化物の原料と導電性カーボンとを含む反応液を導入した後、上記反応器を旋回させて反応液にずり応力と遠心力を加えて導電性カーボンを分散させつつ化学反応を進行させ、導電性カーボン上に金属酸化物前駆体を分散性良く析出させ、次いで、得られた金属酸化物前駆体が担持された導電性カーボンを加熱し、導電性カーボン上で金属酸化物前駆体を金属酸化物に転化させることにより、導電性カーボンの表面に金属酸化物のナノ粒子が担持された複合材料を製造する方法を提案している。この製造方法は、チタン酸リチウムのナノ粒子と導電性カーボンとの複合材料の製造にも好適に応用することができる。なお、「ナノ粒子」とは、球状粒子の場合には直径が100nm以下の粒子を意味し、針状、管状或いは繊維状の粒子の場合には粒子断面の直径(短径)が100nm以下の粒子を意味する。ナノ粒子は、一次粒子であっても二次粒子であっても良い。
【0005】
特許文献2(特開2008−270795号公報)及び特許文献3(特開2011−213556号公報)には、特許文献1に記載された製造方法を改良したチタン酸リチウムのナノ粒子と導電性カーボンとの複合材料の製造方法が記載されている。チタン源としてチタンアルコキシドを用いると、反応条件によってはずり応力と遠心力を加えた化学反応が迅速すぎて、チタン酸リチウムではなく酸化チタンのナノ粒子が主に導電性カーボンに担持された生成物が得られるという問題が生ずる。特許文献2はこの問題を解決すべく、チタンアルコキシドと錯体を形成する酢酸等を反応抑制剤として反応液に添加する方法を開示している。特許文献3は、ずり応力と遠心力を加えた化学反応により導電性カーボン上にチタン酸リチウム前駆体を担持させた後に窒素雰囲気中で加熱処理を施すことにより、窒素がドープされたチタン酸リチウムのナノ粒子を含む複合材料を製造する方法を開示している。窒素雰囲気中での加熱処理の間に、カーボンの還元作用によりチタン酸リチウムに酸素欠陥が生じ、この酸素欠陥に窒素がドープされる。この窒素ドープチタン酸リチウムは高い電気伝導度を有し、またチタン酸リチウムの結晶格子間に対するリチウムイオンの出入りが容易である。
【0006】
特許文献1〜3に記載された方法により、比表面積の大きなチタン酸リチウムのナノ粒子が導電性カーボン上に付着した複合材料が得られる。そして、この複合材料を負極に用いたリチウムイオン二次電池は高い放電容量を示し、また大電流での放電においても容量の低下が抑制された優れたレート特性を示す。これらの文献には、この複合材料が電気化学キャパシタの負極のためにも好適であることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−160151号公報
【特許文献2】特開2008−270795号公報
【特許文献3】特開2011−213556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3に記載された方法でチタン酸リチウムのナノ粒子が導電性カーボン上に付着した複合材料を製造し、X線粉末回折により分析した結果、微量の酸化チタンが混在していることがわかった。そして、複合材料1回あたりの製造量を増やすほど、或いは反応液中のチタン源及びリチウム源の濃度を増やすほど、複合材料における酸化チタンの含有量が顕著になった。混在する酸化チタンはリチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタの性能を低下させるため、酸化チタンを含まない複合材料の製造が望まれる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、チタン酸リチウムのナノ粒子と導電性カーボンとの複合材料の製造方法であって、酸化チタンを実質的に含まない複合材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、特許文献1〜3に示されている反応方法を基礎として鋭意検討した結果、ずり応力と遠心力を加えた化学反応によりチタン酸リチウム前駆体を導電性カーボン上に担持させた後、焼成を2段階で行うことにより、上記目的が達成されることを発見した。
【0011】
したがって、本発明はまず、導電性カーボン粉末と、該導電性カーボン粉末に付着しているスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子とを含み、酸化チタンを実質的に含まないことを特徴とする複合材料を提供する。「酸化チタンを実質的に含まない」の語は、複合材料のX線粉末回折図に酸化チタンの回折ピークが認められないことを意味する。
【0012】
本発明の複合材料は、
a)旋回可能な反応器内にリチウム源とチタン源と導電性カーボン粉末とを含む反応液を導入する調製工程、
b)上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記導電性カーボン粉末にチタン酸リチウム前駆体を高分散状態で担持させる担持工程、
c)上記チタン酸リチウム前駆体を担持させた導電性カーボン粉末を、200〜500℃の温度で一次焼成した後、真空中又は窒素中で600〜950℃の温度で二次焼成することにより、上記導電性カーボン粉末上で上記チタン酸リチウム前駆体をスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子に転化する焼成工程
を含む、本発明の複合材料の製造方法により得ることができる。
【0013】
上記担持工程において、上記反応器の旋回により上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、導電性カーボン粉末を分散させるとともに、チタン源の加水分解反応、縮合反応及びこれに続くリチウム源との反応を促進させて、リチウムと酸化チタンとの複合体から成るチタン酸リチウム前駆体を導電性カーボン粉末に担持させる。上記反応器の旋回により上記反応液に印加される遠心力は、一般に「超遠心力」といわれる範囲の遠心力であり、好ましくは1500kgms−2以上の遠心力である。この範囲の遠心力により、チタン酸リチウム前駆体が均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末上に担持される。本明細書において、旋回する反応器内で反応液にずり応力と遠心力とを印加する処理を、「超遠心処理」ということがある。反応器としては、特許文献1(特開2007−160151号公報)の図1に記載されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。特許文献1における反応器に関する記載は、参照により本明細書に組み入れられる。上記反応器において、内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、5mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましい。
【0014】
上述したように、チタン源がチタンアルコキシドである場合には、反応条件によってはずり応力と遠心力を加えた化学反応が迅速すぎて、チタン酸リチウムではなく酸化チタンのナノ粒子が主に導電性カーボンに担持された生成物が得られる。このことを解消するために、反応液にチタンアルコキシドと錯体を形成する反応抑制剤を含めるのが好ましい。
【0015】
本発明の複合材料の製造方法では、上記焼成工程における一次焼成により、導電性カーボン粉末に担持されたチタン酸リチウム前駆体から、LiTiOと酸化チタンとが生成する。導電性カーボン粉末上にチタン酸リチウム前駆体が高分散状態で担持されているため、一次焼成後に、微細なLiTiO及び酸化チタンが導電性カーボン粉末上に均一に生成する。そして、二次焼成により、均一に分布した微細なLiTiOと酸化チタンとから、スピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子が生成する。チタン酸リチウム前駆体からLiTiOと酸化チタンとを生成させる段階を経ることにより、最終的に得られる複合材料中の酸化チタンを実質的に消滅させることができることがわかった。
【0016】
上記焼成工程において、一次焼成の雰囲気及び焼成時間には厳密な制限がないが、二次焼成は導電性カーボンの消失を防止するために真空中又は窒素中で行う必要がある。焼成温度については、一次焼成が200〜500℃の範囲であり、二次焼成が600〜950℃の範囲である。この範囲であると、良好なチタン酸リチウムが得られ、良好な容量、レート特性が得られる。一次焼成における焼成温度が200℃未満では、チタン酸リチウム前駆体からLiTiO及び酸化チタンへの転化が十分でないため好ましくなく、一次焼成における焼成温度が500℃を超えると、チタン酸リチウム前駆体からLiTiO及び酸化チタンへの転化を経ないでチタン酸リチウムが生成するようになるため好ましくなく、また焼成雰囲気に酸素が含まれている場合には、導電性カーボン粉末の消失が無視できなくなるため好ましくない。二次焼成温度が600℃未満であると、LiTiO及び酸化チタンからチタン酸リチウムへの転化が十分でないため好ましくなく、二次焼成温度が950℃を超えると、チタン酸リチウムが凝集して粒径がナノ粒子のサイズを超えるようになるため好ましくない。
【0017】
二次焼成は高温での焼成であるため、長時間の焼成を行うと、チタン酸リチウムが凝集して粒径が増大する(特許文献2の実施例2参照)ため好ましくない。この粒径の増大は、二次焼成の温度までの昇温過程及び二次焼成後の降温過程でも生じうる。この粒径の増大を抑制するために、本発明の複合材料の製造方法では、上記焼成工程において、500℃から二次焼成の温度までの昇温過程を真空中又は窒素中で5分以下の時間で行い、二次焼成を1〜20分の範囲で行い、二次焼成後の500℃までの降温過程を真空中又は窒素中で5分以下の時間で行うのが好ましい。この範囲であると、凝集のない良好なチタン酸リチウムが得られ、良好なレート特性が得られる。
【0018】
本発明の複合材料において、複合材料中のチタン酸リチウムが酸素欠陥を有し、該酸素欠陥に窒素がドープされていると、窒素ドープチタン酸リチウムが高い電気伝導度を有する上に、結晶格子間に対するリチウムイオンの出入りが容易になるため好ましい。本発明の複合材料の製造方法における焼成工程において、500℃から二次焼成の温度までの昇温過程、二次焼成、及び二次焼成後の500℃までの降温過程を窒素中で行うことにより、窒素ドープチタン酸リチウムを含む複合材料を好適に得ることができる。
【0019】
本発明の複合材料は、高い放電容量と優れたレート特性とを示す電極を与えるため、リチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタの負極のために好適である。したがって、本発明はまた、本発明の複合材料を含む活物質層を有する負極を備えたリチウムイオン二次電池、及び、本発明の複合材料を含む活物質層を有する負極を備えた電気化学キャパシタ、を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の複合材料の製造方法により、リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタの性能に悪影響を与える酸化チタンを実質的に含まない、スピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子と導電性カーボンとの複合材料が得られる。この複合材料の利用により、放電容量が高く、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一次焼成を経て製造された複合材料と一次焼成を経ないで製造された複合材料についてのX線粉末回折図である。
図2】一次焼成を経て製造された複合材料を用いた半電池と、一次焼成を経ないで製造された複合材料を用いた半電池についての、レート特性を示す図である。
図3】一次焼成を経て製造された複合材料を用いた半電池と、一次焼成を経ないで製造された複合材料を用いた半電池についての、レート特性を容量維持率の形態で示した示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(A)複合材料及びその製造方法
本発明の複合材料は、導電性カーボン粉末と、該導電性カーボン粉末に付着しているスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子と、を含み酸化チタンを実質的に含まない。この複合材料は、
a)旋回可能な反応器内にリチウム源とチタン源と導電性カーボン粉末とを含む反応液を導入する調製工程、
b)上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記導電性カーボン粉末にチタン酸リチウム前駆体を高分散状態で担持させる担持工程、
c)上記チタン酸リチウム前駆体を担持させた導電性カーボン粉末を、200〜500℃の温度で一次焼成した後、真空中又は窒素中で600〜950℃の温度で二次焼成することにより、上記導電性カーボン粉末上で上記チタン酸リチウム前駆体をスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子に転化する焼成工程
を含む方法により、製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0023】
a)調製工程
調製工程では、溶媒に、チタン酸リチウムの原料となるリチウム源及びチタン源と、チタン酸リチウムを付着させるための導電性カーボン粉末とを少なくとも添加し、リチウム源及びチタン源を溶媒に溶解させることによって、反応液を得る。
【0024】
溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない液であれば特に限定なく使用することができ、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを好適に使用することができる。2種以上の溶媒を混合して使用しても良い。
【0025】
リチウム源及びチタン源としては、上記溶媒に溶解可能な化合物を特に限定なく使用することができる。リチウム源の例としては、酢酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウムが挙げられる。チタン源としては、チタンのメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等のアルコキシドが好適であるが、この他に、酢酸塩等の有機金属塩、塩化物、硝酸塩等の無機金属塩が挙げられる。リチウム源及びチタン源のそれぞれについて、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を混合して使用しても良い。チタン源中のチタンに対するリチウム源中のリチウムの原子比は、0.8より大きい値が選択され、略1であるのが好ましい。
【0026】
導電性カーボン粉末としては、導電性を有しているカーボンであれば特に限定なく使用することができる。例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、活性炭、メソポーラス炭素などを挙げることができる。また、気相法炭素繊維を使用することもできる。これらのカーボン粉末は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。カーボン粉末の比表面積が大きいと、最終生成物におけるチタン酸リチウムの分散性を向上させることができ、最終生成物の複合材料におけるチタン酸リチウムの含有量を増加させることができるため、カーボン粉末もナノ粒子であるのが好ましい。
【0027】
チタン源がチタンアルコキシドである場合には、例えば、酢酸、クエン酸、蓚酸、ギ酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、プロピオン酸、レプリン酸、EDTA、トリエタノールアミン等のチタンアルコキシドと錯体を形成する化合物を、反応抑制剤として、チタンアルコキシドの加水分解反応速度を抑制する目的で反応液中に含めるのが好ましい。
【0028】
旋回可能な反応器としては、反応液に超遠心力を印加可能な反応器であれば特に限定なく使用することができるが、特許文献1(特開2007−160151号公報)の図1に記載されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。以下、この好適な反応器を使用する形態について説明する。
【0029】
超遠心力場での反応に付すための反応液は、上記反応器の内筒内に導入される。予め調製した反応液を内筒内に導入しても良く、内筒内で反応液を調製することにより導入しても良い。リチウム源、チタン源、及び必要に応じた反応抑制剤が溶媒に溶解しており且つ導電性カーボン粉末が液に分散している反応液が得られれば良く、溶媒に対するリチウム源、チタン源、必要に応じた反応抑制剤、及び導電性カーボン粉末の添加順序には限定がない。溶媒にチタン源と導電性カーボン粉末とを添加し、得られた液を攪拌して導電性カーボン粉末を液に分散させた後、加水分解のための水を含む溶媒にリチウム源と必要に応じて反応抑制剤とを溶解させた液を混合するのが好ましい。導電性カーボン粉末の分散性を高めることによって、以下の担持工程においてチタン酸リチウム前駆体がより均一且つ微細に導電性カーボン粉末上に担持されるからである。攪拌は、ホモジナイザー等の攪拌手段を用いて行っても良く、反応器内で反応液を調製する場合には反応器を旋回させることによって行っても良い。
【0030】
b)担持工程
担持工程では、反応器を旋回させて反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、導電性カーボン粉末を分散させつつ、チタン源の加水分解反応、縮合反応及びこれに続くリチウム源との反応を促進させて、リチウムと酸化チタンとの複合体から成るチタン酸リチウム前駆体を導電性カーボン粉末上に担持させる。
【0031】
チタン源及びリチウム源からチタン酸リチウム前駆体への転化、及び、チタン酸リチウム前駆体の導電性カーボン粉末への担持は、反応液に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現されると考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒の旋回により反応液に加えられる遠心力によって生じる。内筒の反応液に加えられる遠心力は、一般に「超遠心力」といわれる範囲の遠心力であり、一般には1500kgms−2以上、好ましくは70000kgms−2以上、特に好ましくは270000kgms−2以上である。
【0032】
上述した外筒と内筒とを有する好適な反応器を使用する形態について説明すると、反応液を導入した反応器の内筒を旋回させると、内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の反応液が貫通孔を通じて外筒に移動し、内筒外壁と外筒内壁の間の反応液が薄膜状となって外筒内壁上部にずり上がる。その結果、この薄膜にずり応力と遠心力が加わり、この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われるが、短時間で反応が進行する。
【0033】
上記反応において、内筒外壁面と外筒内壁面との間隔が狭いほど、薄膜に大きな機械的エネルギーを印加できるため好ましい。内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、5mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましく、1.0mm以下であるのが特に好ましい。内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、反応器のせき板の幅及び反応器に導入される反応液の量によって設定することができる。
【0034】
内筒の旋回時間には厳密な制限がなく、反応液の量や内筒の旋回速度(遠心力の値)によっても変化するが、一般的には0.5分〜10分の範囲である。反応終了後に、内筒の旋回を停止し、チタン酸リチウム前駆体を担持させた導電性カーボン粉末を回収して乾燥する。
【0035】
この担持工程では、旋回する反応器を用いることにより、導電性カーボン粉末が反応液中に高分散し、この高分散した導電性カーボン上にチタン酸リチウム前駆体が高分散状態で担持される。
【0036】
c)焼成工程
焼成工程では、担持工程において得られたチタン酸リチウム前駆体を担持させた導電性カーボン粉末を、200〜500℃の温度で一次焼成した後に、真空中又は窒素中で600〜950℃の温度で二次焼成する。
【0037】
一次焼成は、200〜500℃の範囲の温度で行われる。一次焼成により、導電性カーボン粉末に担持されたチタン酸リチウム前駆体がLiTiOと酸化チタンとに転化する。
【0038】
一次焼成の雰囲気には特に限定がなく、真空中での焼成でも良く、窒素中の焼成でも良く、大気等の酸素含有雰囲気中での焼成でも良い。一次焼成の時間にも特別な限定がないが、一般には30分〜10時間の範囲である。一次焼成における焼成温度が200℃未満では、チタン酸リチウム前駆体からLiTiO及び酸化チタンへの転化が十分でないため好ましくなく、一次焼成における焼成温度が500℃を超えると、チタン酸リチウム前駆体からLiTiO及び酸化チタンへの転化を経ないでチタン酸リチウムが生成するようになるため好ましくなく、また焼成雰囲気に酸素が含まれると導電性カーボン粉末の消失が無視できなくなるため好ましくない。
【0039】
上記担持工程において、導電性カーボン粉末上にチタン酸リチウム前駆体が高分散状態で担持されるため、一次焼成後に、微細なLiTiO及び酸化チタンが導電性カーボン粉末上に均一に生成する。
【0040】
一次焼成の終了後に、二次焼成が行われる。一次焼成の後直ぐに二次焼成を行ってもよいが、一次焼成後に冷却過程を設け、その後に二次焼成を行ってもよい。一次焼成により導電性カーボン粉末上に均一に生成した微細なLiTiOと酸化チタンが、二次焼成によりスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子に導電性カーボン粉末上で転化する。
【0041】
二次焼成は、導電性カーボンの消失を防止するために真空中又は窒素中で行う必要がある。焼成温度は、600〜950℃の範囲で選択される。二次焼成の温度が600℃未満であると、LiTiO及び酸化チタンからチタン酸リチウムへの転化が十分でないため好ましくなく、二次焼成温度が950℃を超えると、チタン酸リチウムが凝集して粒径がナノ粒子のサイズを超えるようになるため好ましくない。
【0042】
二次焼成は高温での焼成であるため、長時間の焼成を行うと、チタン酸リチウムが凝集して粒径が増大するため好ましくない。この粒径の増大は、二次焼成の温度までの昇温過程及び二次焼成後の降温過程でも生じうる。したがって、この凝集を抑制するために、500℃から二次焼成の温度までの昇温過程を真空中又は窒素中で5分以下の時間で行い、二次焼成を1〜20分の時間で行い、二次焼成後の500℃までの降温過程を真空中又は窒素中で5分以下の時間で行うのが好ましい。
【0043】
二次焼成は窒素中で行うのが好ましい。窒素中での二次焼成の間に、カーボンの還元作用によりチタン酸リチウムに酸素欠陥が生じ、この酸素欠陥に窒素がドープされる。この窒素ドープチタン酸リチウムは高い電気伝導度を有し、またチタン酸リチウムの結晶格子間に対するリチウムイオンの出入りが容易である。この窒素ドープチタン酸リチウムは、500℃から二次焼成の温度までの昇温過程、二次焼成、及び二次焼成後の500℃までの降温過程の全てを窒素中で行うことにより、好適に得ることができる。
【0044】
一次焼成によってチタン酸リチウム前駆体からLiTiOと酸化チタンを生成させる段階を経ることにより、二次焼成後に得られる複合材料中の酸化チタンを実質的に消滅させることができる。担持工程において得られたチタン酸リチウム前駆体を担持させた導電性カーボン粉末を、一次焼成を経ずに、窒素中或いは真空中で600〜950℃の温度で焼成しても、酸化チタンが混在した複合材料しか得られない。
【0045】
(B)複合材料の用途
本発明の複合材料は、リチウムイオン二次電池の負極のために好適である。したがって、本発明はまた、本発明の複合材料を含む活物質層を有する負極と、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な正極活物質を含む活物質層を備えた正極と、負極と正極との間に配置された非水系電解液を保持したセパレータとを備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【0046】
負極のための活物質層は、必要に応じてバインダを溶解した溶媒に、本発明の複合材料を分散させ、得られた分散物をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた分散物を所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
【0047】
集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。
【0048】
バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの公知のバインダが使用される。バインダの含有量は、混合材料の総量に対して1〜30質量%であるのが好ましい。1質量%以下であると活物質層の強度が十分でなく、30質量%以上であると、負極の放電容量が低下する、内部抵抗が過大になるなどの不都合が生じる。
【0049】
正極としては、公知の正極活物質を含む活物質層を備えた正極を特に限定無く使用することができる。正極活物質の例としては、例えば、LiMn、LiMnO、LiV、LiNiO、LiCoOなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、TiS、MoSなどの硫化物、NbSeなどのセレン化物、Cr、V、V13、VO、Cr、MnO、TiO、MoVなどの遷移金属の酸化物、ポリフルオレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレンなどの導電性高分子を使用することができる。
【0050】
正極のための活物質層は、必要に応じてバインダを溶解した溶媒に、上記正極活物質と導電剤とを分散させ、得られた分散物をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた分散物を所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
【0051】
集電体及びバインダについては、負極のための集電体及びバインダについての記載が正極においてもあてはまる。導電剤としては、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素粉末を使用することができる。
【0052】
セパレータとしては、例えばポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布などが好適に使用される。セパレータに保持される電解液は、非水系溶媒に電解質を溶解させた電解液が使用され、公知の非水系電解液を特に制限なく使用することができる。
【0053】
非水系電解液の溶媒としては、電気化学的に安定なエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、3−メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル及びジメトキシエタン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
【0054】
非水系電解液の溶質としては、有機電解液に溶解したときにリチウムイオンを生成する塩を、特に限定なく使用することができる。例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(CFSO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiN(SO、LiAsF、LiSbF、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。非水系電解液の溶質として、リチウムイオンを生成する塩に加えて、第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を使用することができる。例えば、R又はRで表されるカチオン(ただし、R、R、R、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す)と、PF、BF、ClO、N(CFSO、CFSO、C(SOCF、N(SO、AsF又はSbFからなるアニオンとからなる塩、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
【0055】
本発明の複合材料を含む活物質層を備えた負極は、上述したリチウムイオン二次電池における正極を分極性電極に変更することにより、電気化学キャパシタを構成するために好適に使用することができる。したがって、本発明はまた、本発明の複合材料を含む活物質層を有する負極と、正極としての分極性電極と、負極と正極との間に配置された非水系電解液を保持したセパレータとを備えた電気化学キャパシタを提供する。
【0056】
電気化学キャパシタの正極として用いる分極性電極のために、活性炭、カーボンナノチューブ、メソポーラス炭素等の炭素質材料を用いることができる。活性炭としては、やしがら、フェノール樹脂、石油コークス等が挙げられ、また活性炭原料の賦活方法としては水蒸気賦活法、溶融アルカリ賦活法等が挙げられる。バインダを溶解した溶媒に、上記炭素質材料と導電剤とを分散させ、得られた分散物をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより、分極性電極を作成することができる。また、得られた分散物を所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。集電体、導電剤及びバインダとしては、上述したリチウムイオン二次電池の正極のための集電体、導電剤及びバインダについての記載がこの場合にもあてはまる。また、上述したリチウムイオン二次電池の負極、非水系電解液及びセパレータについての記載が電気化学キャパシタにおいてもあてはまる。
【0057】
本発明の複合材料の利用により、放電容量が高く、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタが得られる。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0059】
実施例
カーボンナノファイバ0.24gとテトライソプロポキシチタン2.96gとをイソプロピルアルコール15.62gに添加して、テトライソプロポキシチタンをイソプロピルアルコールに溶解させた。チタンアルコキシドとカーボンナノファイバの質量比は、最終生成物である複合材料においてチタン酸リチウムとカーボンナノファイバの質量比が約8:2となるように選択した。得られた液を、特許文献1(特開2007−160151号公報)の図1に示されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器の内筒内に導入し、35000kgms−2の遠心力が液に印加されるように内筒を300秒間旋回させて、カーボンナノファイバを液に高分散させた。
【0060】
酢酸1.99gと酢酸リチウム0.62gとを、イソプロピルアルコール1.74gと水1.84gとの混合溶媒に溶解した。得られた液を上記反応器の内筒内に導入し、反応液を調製した。この反応液に35000kgms−2の遠心力が印加されるように内筒を300秒間旋回させて、外筒の内壁に反応液の薄膜を形成させると共に、反応液にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させ、チタン酸リチウムの前駆体を高分散状態でカーボンナノファイバ上に担持させた。
【0061】
次いで、上記反応器の内容物を回収し、大気中で溶媒を蒸発させ、さらに100℃で17時間乾燥した。得られたチタン酸リチウムの前駆体を担持させたカーボンナノファイバを、窒素中、400℃で1時間一次焼成し、室温まで冷却した後、窒素中、2分で室温から700℃まで昇温し、3分間二次焼成し、500℃まで3分で降温することにより、5〜20nmのナノ粒子がカーボンナノファイバ上に高分散状態で担持された複合材料を得た。
【0062】
得られた複合材料40質量部を、カルボキシメチルセルロース1質量部、アクリル系ゴムバインダ1質量部、及び水300質量部と混合し、この混合物を銅箔に塗布した後に乾燥して、活物質層の厚さが10μmの電極を作製した。
【0063】
得られた電極と対極としてのリチウム箔とをセパレータを介して対向させ、電解液として1M LiBF4/プロピレンカーボネートを用いて、半電池を作製した。得られた半電池について、広範囲の電流密度で充放電特性を評価した。この評価は半電池としての評価であるが、正極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。
【0064】
比較例
チタン酸リチウムの前駆体を担持させたカーボンナノファイバを、窒素中、2分で室温から700℃まで昇温し、3分間焼成(一段階焼成)し、500℃まで3分で降温した点を除いて、実施例の手順を繰り返した。
【0065】
図1には、実施例において得られた複合材料と比較例において得られた複合材料についてのX線粉末回折図を示した。比較例において得られた複合材料、すなわち一段階焼成により得られた複合材料には、スピネル型のチタン酸リチウム(LiTi12)に加えて酸化チタンが混在していることがわかる。これに対し、実施例において得られた複合材料、すなわち一次焼成と二次焼成を経て得られた複合材料のX線粉末回折図には、酸化チタンの回折ピークが認められず、導電性カーボン粉末(カーボンナノファイバ)と該導電性カーボン粉末に付着しているスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子とを含み、酸化チタンを実質的に含まない複合材料が得られていた。また、窒素ドープによりTi−N結合が存在していることを確認するために、実施例及び比較例において得られた複合材料についてX線光電子分光分析(XPS)を行った。いずれの複合材料のXPSスペクトルにもTi−N結合を示すN 1s結合エネルギーのピーク396eVが認められ、いずれの複合材料においてもチタン酸リチウムに窒素がドープされていることが確認された。
【0066】
図2及び図3は、実施例及び比較例における半電池についてのレート特性の評価結果を示した図である。図2は、活物質であるLiTi12あたりの容量とレートとの関係を示しており、図3は、レート12Cにおける容量を100%としたときの容量維持率とレートとの関係を示している。
【0067】
これらの図から明らかなように、導電性カーボン粉末(カーボンナノファイバ)と該導電性カーボン粉末に付着しているスピネル型のチタン酸リチウムのナノ粒子とを含み、酸化チタンを実質的に含まない複合材料を用いた実施例の半電池は、酸化チタンを含む複合材料を用いた比較例の半電池に比較して、高い容量を有する上に、高レートでの容量低下率が抑制された、優れた電池特性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の複合材料の利用により、放電容量が高く、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタが得られる。
図1
図2
図3