特許第6139155号(P6139155)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6139155拡散剤組成物および不純物拡散層の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139155
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】拡散剤組成物および不純物拡散層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/225 20060101AFI20170522BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   H01L21/225 Q
   H01L21/225 R
   H01L31/04 440
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-19794(P2013-19794)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2013-254934(P2013-254934A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-106176(P2012-106176)
(32)【優先日】2012年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100134256
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 武司
(72)【発明者】
【氏名】宮城 忠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元樹
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/116569(WO,A1)
【文献】 特開昭58−131730(JP,A)
【文献】 特開2007−326947(JP,A)
【文献】 特表2005−509695(JP,A)
【文献】 特開2012−084698(JP,A)
【文献】 特開2013−026524(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0045624(US,A1)
【文献】 特開2011−071489(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0160306(US,A1)
【文献】 米国特許第04619719(US,A)
【文献】 特開2013−008953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/225
H01L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
バインダー樹脂(B)と、
を含有し、
不純物拡散成分(A)が下記一般式(1)で表されるリン酸エステルであることを特徴とする拡散剤組成物。
【化1】
(1)式中、Rは炭素数5以上のアルキル基またはアルケニル基であり、Rが複数ある場合には同一でも異なっていてもよい。nは1または2である。
【請求項2】
不純物拡散成分(A)の熱分解温度が200℃以上である請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂(B)の重量平均分子量が10000以上である請求項1または2に記載の拡散剤組成物。
【請求項4】
バインダー樹脂(B)がアクリル樹脂である請求項3に記載の拡散剤組成物。
【請求項5】
沸点が100℃以上の有機溶剤(C)をさらに含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項6】
半導体基板に、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を塗布してパターンを形成するパターン形成工程と、
前記拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。
【請求項7】
前記半導体基板が太陽電池に用いられる請求項6に記載の不純物拡散層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散剤組成物および不純物拡散層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池の製造において、半導体基板中に、例えばN型の不純物拡散層を形成する場合には、N型の不純物拡散成分を含む拡散剤を半導体基板表面に塗布された拡散剤からN型の不純物拡散成分を拡散させて、N型不純物拡散層を形成していた。具体的には、まず、半導体基板表面に熱酸化膜を形成し、続いてフォトリソグラフィ法により所定のパターンを有するレジストを熱酸化膜上に積層し、当該レジストをマスクとして酸またはアルカリによりレジストでマスクされていない熱酸化膜部分をエッチングし、レジストを剥離して熱酸化膜のマスクを形成する。そしてN型の不純物拡散成分を含む拡散剤を塗布してマスクが開口している部分に拡散組成物膜が形成される。その部分を高温により拡散させてN型不純物拡散層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−71489号公報
【特許文献2】特開2002−75892号公報
【特許文献3】特開2008−543097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体基板上に拡散剤を塗布した後、乾燥炉内で乾燥処理が行われる。この際、従来の拡散剤では、乾燥炉の炉内や排気口にリン化合物を大量に含む堆積物が溜まりやすいため、乾燥炉を停止して当該堆積物の除去を頻繁に実施する必要があった。このため、太陽電池の生産性の低下を招いていた。また、乾燥炉内に堆積物が溜まると、堆積物がシリコンウエハへ落下することにより、太陽電池の光電変換効率に悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、拡散剤組成物を塗布した半導体基板を乾燥炉で乾燥したときに、炉内にリン化合物を大量に含む堆積物を生じにくくさせることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、拡散剤組成物である。当該拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と、バインダー樹脂(B)と、を含有し、不純物拡散成分(A)が下記一般式(1)で表されるリン酸エステルであることを特徴とする。
【化1】
(1)式中、Rは炭素数5以上の炭化水素基であり、Rが複数ある場合には同一でも異なっていてもよい。nは1または2である。
【0007】
上記態様の拡散剤組成物において、不純物拡散成分(A)の熱分解温度が200℃以上であってもよい。また、バインダー樹脂(B)の重量平均分子量が10000以上であってもよく、バインダー樹脂(B)がアクリル樹脂であってもよい。また、沸点が100℃以上の有機溶剤(C)をさらに含んでもよい。
【0008】
本発明の他の態様は、不純物拡散層の形成方法である。当該不純物拡散層の形成方法は、半導体基板に、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を塗布してパターンを形成するパターン形成工程と、前記拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、を含むことを特徴とする。この態様の不純物拡散層の形成方法において、前記半導体基板が太陽電池に用いられてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、拡散剤組成物を塗布した半導体基板を乾燥炉で乾燥したときに、炉内にリン化合物を大量に含む堆積物を生じにくくさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(A)〜(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
図2図2(A)〜(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
図3】乾燥時の発生ガスを分析する際に用いた装置構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態に係る拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に好適に用いられる。当該半導体基板の用途として、太陽電池が好適である。当該拡散剤組成物は、不純物拡散成分(A)と、バインダー樹脂(B)とを含有する。以下、不純物拡散成分(A)およびバインダー樹脂(B)について詳述する。
【0012】
<不純物拡散成分(A)>
不純物拡散成分(A)は、下記一般式(1)で表されるリン酸エステルである。
【化2】
(1)式中、Rは炭素数5以上の炭化水素基であり、Rが複数ある場合には同一でも異なっていてもよい。炭素数の上限については例えば20以下、好ましくは15以下である。nは1または2である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。
【0013】
不純物拡散成分(A)は、より具体的には、リン酸モノペンチル、リン酸ジペンチル、リン酸モノヘキシル、リン酸ジヘキシル、リン酸モノヘキシル、リン酸ジヘキシル、リン酸モノオクチル、リン酸ジオクチル、リン酸モノエチルヘキシル、リン酸ジエチルヘキシル、リン酸トリデシル、リン酸イソトリデシルなどが挙げられる。これらは2種以上用いてもよい。
【0014】
不純物拡散成分(A)の熱分解温度は200℃以上であることが好ましい。これにより、拡散剤組成物を塗布した半導体基板を乾燥炉で乾燥したときに、炉内にリン化合物を大量に含む堆積物を生じにくくさせるという本発明の効果がより向上する。不純物拡散成分(A)の熱分解温度の上限は特に限定されず、例えば、拡散工程における拡散温度以下であればよい。不純物拡散成分(A)の熱分解温度は、示差熱熱重量同時測定装置(TG−DTA)を用いて測定することができる。たとえば、リン酸エチルヘキシル(モノエステル:ジエステル=1:1(モル比))は229℃、リン酸イソトリデシル(モノエステル:ジエステル=1:1(モル比))は247℃である。
【0015】
拡散剤組成物全体に対する不純物拡散成分(A)の含有量は、5〜70質量%が好ましく、20〜65質量%がより好ましい。
【0016】
<バインダー樹脂(B)>
バインダー樹脂(B)の重量平均分子量は10000以上であることが好ましい。これにより、印刷性または塗布性が良好となる。より好ましくは10000〜100000、さらに好ましくは10000〜50000の範囲である。また、バインダー樹脂(B)がアクリル樹脂であることが好ましい。これにより、拡散工程前にバインダー樹脂が分解して消失するので不純物拡散成分(A)の拡散性が良好となる。
【0017】
アクリル樹脂は、特に限定されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルから誘導された構成単位と、ヒドロキシ(メタ)アクリル酸アルキルエステル若しくはカルボキシ基を有する重合性化合物から誘導された構成単位を含有するアクリル樹脂;またはエーテル結合を有する重合性化合物から誘導された構成単位と、カルボキシ基を有する重合性化合物から誘導された構成単位を含有するアクリル樹脂を挙げることができる。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1〜15のアルキル基を有しているものが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−プロピルヘプチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシ(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1〜5の水酸基含有アルキル基を有しているものが好ましく、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
エーテル結合を有する重合性化合物としては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のエーテル結合及びエステル結合を有する(メタ)アクリル酸誘導体等を例示することができる。これらの化合物は単独もしくは2種以上組み合わせて使用できる。なお、本明細書において(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートの一方あるいは両方を示す。
【0020】
カルボキシ基を有する重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸;2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのカルボキシ基及びエステル結合を有する化合物等を例示することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸である。これらの化合物は単独もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
拡散剤組成物全体に対するバインダー樹脂(B)の含有量は、10〜80質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましい。
【0022】
<有機溶剤(C)>
実施の形態に係る拡散剤組成物は、沸点が100℃以上の有機溶剤(C)をさらに含んでもよい。沸点が100度以上であることにより、印刷性または塗布性が良好になる。
【0023】
有機溶剤(C)の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、2−メチル−3−メトキシブチルアセテート、2−エトキシブチルアセテート、4−エトキシブチルアセテート、4−プロポキシブチルアセテート、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、メチル−3−メトキシプロピオネート、エチル−3−メトキシプロピオネート、エチル−3−エトキシプロピオネート、エチル−3−プロポキシプロピオネート、プロピル−3−メトキシプロピオネート、イソプロピル−3−メトキシプロピオネート、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、ブタノール、イソブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ガンマブチロラクトンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
拡散剤組成物全体に対する有機溶剤(C)の含有量は、印刷方法により適宜調整されればよく、1〜70質量%が好ましい。
【0025】
<SiO微粒子(D)>
実施の形態に係る拡散剤組成物は、SiO微粒子(D)をさらに含んでもよい。SiO微粒子(D)の平均粒径は1μm以下が好ましい。SiO微粒子(D)の具体例としては、ヒュームドシリカなどが挙げられる。拡散剤組成物がSiO微粒子(D)を含有することにより、拡散剤組成物にチクソ性あるいは擬塑性を付与することができる。これにより、拡散剤組成物の特性をスクリーン印刷に適したものにすることができる。
【0026】
拡散剤組成物全体に対するSiO微粒子(D)の含有量は、3〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0027】
本実施の形態の拡散剤組成物は、その他の成分として、界面活性剤や添加剤をさらに含んでよい。界面活性剤を含むことによって、塗布性、平坦化性、展開性を向上させることができ、塗布後に形成される拡散剤組成物層の塗りムラの発生を減少することができる。このような界面活性剤成分として、従来公知のものを用いることができるが、シリコーン系の界面活性剤が好ましい。また、界面活性剤成分は、拡散剤組成物全体に対し、100〜10000質量ppm、好ましくは、300〜5000質量ppm、さらに好ましくは500〜3000質量ppmの範囲で含まれることが好ましい。さらに2000質量ppm以下であると、拡散処理後の拡散剤組成物層の剥離性に優れるため、より好ましい。界面活性剤成分は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0028】
添加剤は、拡散剤組成物の粘度等の特性を調整するために必要に応じて添加される。添加剤としては、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0029】
以上説明した拡散剤組成物によれば、半導体基板に拡散剤組成物を塗布した後、乾燥炉で乾燥処理を行ったときに、炉内にリン化合物を大量に含む堆積物が生じることを抑制することができる。また、炉内の堆積物が減少した結果、堆積物に含まれるリン原子が半導体基板に落下する可能性を低減することができるため、当該半導体基板を用いて製造される太陽電池の光電変換特性の安定化を図ることができる。
【0030】
また、不純物拡散成分(A)の熱分解温度を200℃以上とすること、バインダー樹脂(B)の重量平均分子量を10000以上とすること、バインダー樹脂(B)をアクリル樹脂とすること、沸点が100℃以上の有機溶剤(C)をさらに含むこと、のうち1項目、または任意の2項目以上を組み合わせることにより、拡散剤組成物を塗布した半導体基板を乾燥炉で乾燥したときに、炉内にリン化合物を大量に含む堆積物を生じにくくさせるという本発明の効果に加え上述した種々の効果をより一層高めることができる。
【0031】
(不純物拡散層の形成方法、および太陽電池の製造方法)
図1(A)〜図1(D)、および図2(A)〜図2(D)を参照して、半導体基板に不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物を塗布により拡散組成物膜を形成、または印刷してパターンを形成する工程と、拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる工程と、を含む不純物拡散層の形成方法と、これにより不純物拡散層が形成された半導体基板を備えた太陽電池の製造方法について説明する。図1(A)〜図1(D)、および図2(A)〜図2(D)は、実施形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【0032】
まず、図1(A)に示すように、P型のシリコン基板などの半導体基板1を用意する。そして、図1(B)に示すように、周知のウェットエッチング法を用いて、半導体基板1の一方の主表面に、微細な凹凸構造を有するテクスチャ部1aを形成する。このテクスチャ部1aによって、半導体基板1表面の光の反射が防止される。続いて、図1(C)に示すように、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物2を塗布する。
【0033】
拡散剤組成物2はロールコート印刷法やスクリーン印刷法等により半導体基板1の表面に塗布される(なお、塗布膜でなくパターンを形成する場合はスクリーン印刷法が好ましい)。このようにして不純物拡散剤層を形成した後、オーブンなどの周知の手段を用いて塗布した拡散剤組成物2を乾燥させる。
【0034】
次に、図1(D)に示すように、拡散剤組成物2が塗布された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成する。焼成の後、電気炉内で拡散剤組成物2中の不純物拡散成分(A)を半導体基板1の表面から半導体基板1内に拡散させる。拡散工程における拡散温度は、例えば、800〜1000度の範囲である。なお、電気炉に代えて、慣用のレーザーの照射により半導体基板1を加熱してもよい。このようにして、不純物拡散成分(A)が半導体基板1内に拡散してN型不純物拡散層3が形成される。
【0035】
次に、図2(A)に示すように、周知のエッチング法により、不要な酸化膜を除去する。そして、図2(B)に示すように、周知の化学気相成長法(CVD法)、たとえばプラズマCVD法を用いて、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、シリコン窒化膜(SiN膜)からなるパッシベーション膜4を形成する。このパッシベーション膜4は、反射防止膜としても機能する。
【0036】
次に、図2(C)に示すように、たとえば銀(Ag)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1のパッシベーション膜4側の主表面に表面電極5をパターニングする。表面電極5は、太陽電池の効率が高まるようにパターン形成される。また、たとえばアルミニウム(Al)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1の他方の主表面に裏面電極6を形成する。
【0037】
次に、図2(D)に示すように、裏面電極6が形成された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成した後、裏面電極6を形成しているアルミニウムを半導体基板1内に拡散させる。これにより、裏面電極6側の電気抵抗を低減することができる。以上の工程により、本実施の形態に係る太陽電池10を製造することができる。
【0038】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれるものである。上述の実施の形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0039】
上述の実施の形態に係る拡散剤組成物は、スピンオン法、スプレー塗布法、インクジェット印刷法、ロールコート印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、オフセット印刷法などの印刷法に採用することもできる。中でもロールコート印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法が好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0041】
(拡散剤組成物)
実施例1〜8および比較例1、2の拡散剤組成物の各成分および含有量を表1に示す。なお、不純物拡散成分に係る各リン酸エステルについて、モノエステルとジエステルが(モル比1:1で)混合しているものを使用した。
【表1】
表1中のアクリル樹脂1、2は、それぞれ下記式(2)、式(3)で表される。
【化3】
【化4】
【0042】
(発生ガス分析)
各実施例、各比較例の拡散剤組成物を半導体基板に塗布後、乾燥時に生じるガスに含まれるリン原子の量を以下の手順で分析した。
(1)各実施例、各比較例の拡散剤組成物からなるペースト0.1gをシリコンウエハ上にバーコーターで薄く広げる。
(2)図3に示す概略図のように、ホットプレート20にシリコンウエハ30を載置し、シリコンウエハ30を150℃で3分間加熱し、発生したガスをガス捕集器40に貯蔵されたガス捕集溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル)50に捕集させる。
(3)各拡散剤組成物について、上記(1)、(2)を10回繰り返し、ガス捕集溶剤50に捕集されたガス成分に含まれるリン原子濃度をICP−AES(ICP発光)法により測定した。得られた結果を表2に示す。
【表2】
表2に示すように、実施例1〜8の拡散剤組成物を用いた場合には、比較例1,2の拡散剤組成物を用いた場合に比べてガス捕集溶剤中のリン原子濃度が大幅に低減することが確認された。比較例1、2では、拡散剤組成物に含まれるリン化合物が乾燥温度に耐えられずに昇華するが、実施例1〜8の拡散剤組成物に含まれるリン化合物は乾燥温度に耐えて塗布膜中に残存することが示唆された。
【符号の説明】
【0043】
1 半導体基板、 1a テクスチャ部、 2 拡散剤組成物、 3 N型不純物拡散層、 4 パッシベーション膜、 5 表面電極、 6 裏面電極、 10 太陽電池、20 ホットプレート、30 シリコンウエハ、40 ガス捕集器、50 ガス捕集溶剤
図1
図2
図3