(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アニオンを挿入乃至脱離可能な正極活物質を含む正極と、金属リチウム及びリチウムイオンの少なくともいずれかを吸蔵乃至放出可能な負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極の間に第1のセパレータと、非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液とを有してなり、
25℃、放電電圧4.0Vにおいて固体状のリチウム塩を含み、
前記正極と前記第1のセパレータとの間に陰イオンを選択透過させる陰イオン交換膜を有することを特徴とする非水電解液蓄電素子。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(非水電解液蓄電素子)
本発明の非水電解液蓄電素子は、正極と、負極と、第1のセパレータと、非水電解液とを有してなり、第2のセパレータ、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
前記非水電解液蓄電素子としては、例えば、非水電解液二次電池、非水電解液キャパシタ、などが挙げられる。
【0010】
本発明の非水電解液蓄電素子においては、蓄電素子内部に固体状態で過剰に添加した支持塩としてのリチウム塩は蓄電素子の充電に伴ってアニオンとカチオンが正負電極に吸蔵されると、非水電解液中からアニオンとカチオンが正負電極に移動していくため、リチウム塩濃度が低下する。すると、蓄電素子内部に固体状態で過剰に添加されていたリチウム塩が非水電解液に溶け込んで、非水電解液の濃度低下を補償する。そして、前記正負電極が充電された後、蓄電素子を放電すると正負電極からアニオンとカチオンが非水電解液中に放出される。前記非水電解液のリチウム塩濃度が飽和するとリチウム塩は析出し、固体状のリチウム塩が蓄電素子内部に保持される。
このとき、正極及び負極の少なくともいずれかとセパレータとの間にイオン交換膜を配置することにより、支持塩としてのリチウム塩が電極表面に析出することを防止できる。また、前記セパレータには過剰なリチウム塩が固体状態で常に存在するため、前記リチウム塩が析出する放電時には、この既に存在するリチウム塩を種として析出が行われる。このため、蓄電素子の出力密度を高く保つことができる。
【0011】
本発明においては、前記非水電解液蓄電素子が、25℃、放電電圧4.0Vにおいて固体状のリチウム塩を含むことを特徴とする。前記非水電解液蓄電素子は、放電電圧3.0V〜5.4Vで使用されるが、25℃、放電電圧が4.0Vにおいて、蓄電素子内部に固体状のリチウム塩が必ず存在している。
前記固体状のリチウム塩は、前記非水電解液蓄電素子の内部であれば特に制限はなく、いかなる場所に存在していてもよく、例えば、非水電解液中に析出した状態であってもよく、前記正極、前記負極、前記第1のセパレータ、前記第2のセパレータ、外装缶の内側、又はこれらの組み合わせなどが含まれるが、電極表面に対するリチウム塩の被覆による出力密度低下の点から、前記第1のセパレータに存在していることが特に好ましい。具体的には、前記固体状のリチウム塩は、前記第1のセパレータの表面上乃至近傍に含まれていることが好ましい。
【0012】
ここで、前記25℃、放電電圧4.0Vにおいて固体状のリチウム塩を含むことは、25℃、放電電圧4.0Vで放電終了時に非水電解液蓄電素子を分解し、前記正極、前記負極、前記第1のセパレータ、前記第2のセパレータ、及び前記外装缶の内側の少なくともいずれかの表面上乃至近傍を、例えば、(1)顕微鏡観察してLiPF
6の結晶を測定する方法、(2)赤外線分光法(IR)分析によりLiPF
6固有のスペクトルを測定する方法、(3)X線回折でLiPF
6固有のスペクトルを測定する方法、(4)誘導結合プラズマ(ICP)発光分析による元素の発光スペクトルを測定する方法、又は(5)ラマン分光分析法でLiPF
6固有のラマンスペクトルを測定する方法などにより、確認することができる。
前記(4)では、LiPF
6の構成元素の分析になる。同じ固体物質から同時にLiPF
6が見つかれば、LiPF
6結晶が存在するといえる。電極にインターカレーションされるのはアニオン又はカチオンであり、アニオンとカチオンが同時には存在しないからである。
【0013】
ここで、前記「25℃、放電電圧4.0Vにおいて固体状のリチウム塩を含む」ことは、蓄電素子内部に「過剰のリチウム塩を含有する」ことを意味し、以下に示す(1)〜(4)のように換言することもできる。
【0014】
(1)非水電解液が蓄電素子の放電時にリチウム塩が析出する過剰のリチウム塩を含み、蓄電素子の放電が進むとリチウム塩の一部が固体状態に析出し、蓄電素子を充電すると、固体状のリチウム塩が非水電解液に溶解し、電極に挿入される動作をする。これにより、非水電解液が含むことのできるリチウム塩の量より多くのリチウム塩を蓄電素子内部に含むことができ、蓄電素子の容量を増すことができる。
【0015】
(2)使用条件(冷温〜室温〜高温)において非水電解液に対するリチウム塩の溶解度が過飽和である。ここで、前記非水電解液に対するリチウム塩の過飽和の溶解度は、温度、非水溶媒の種類、リチウム塩の種類などに応じて異なるが、前記溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)が1:2(体積比)の溶媒を用い、前記リチウム塩としてLiPF
6を用いた場合には、25℃では、LiPF
6の過飽和の溶解度は5mol/L〜7mol/Lである。−30℃では、LiPF
6の過飽和の溶解度は0.5mol/L以下ではほとんど溶けない。80℃では、LiPF
6の過飽和の溶解度は7mol/L〜8mol/Lである。なお、−30℃では非水電解液は高粘度になり、固体状態に近くなりイオン伝導度が小さくなって、蓄電素子の充放電がスムーズに行われない。
【0016】
(3)蓄電素子の放電時に、蓄電素子内部で固体状のリチウム塩が存在している。充電時には、過飽和でない状態も有りうるが、放電時には、過飽和となって蓄電素子内部のどこかで固体状のリチウム塩が析出している。
【0017】
(4)蓄電素子の放電が進めば、蓄電素子内部のどこかに必ず固体状のリチウム塩が析出するので、蓄電素子の放電開始から1Cの電流で30分間後においては、蓄電素子内部のどこかに固体状のリチウム塩を含有する。ここで、1Cは蓄電素子容量を1時間で使い切る電流量をいう。
【0018】
ここで、前記過剰なリチウム塩(例えば、LiPF
6)の存在は、放電終了時に非水電解液蓄電素子を分解し、前記正極、前記負極、前記第1セパレータ、前記第2のセパレータ、及び前記外装缶の内側の少なくともいずれかの表面上乃至近傍を、例えば、(1)顕微鏡観察してLiPF
6の結晶を測定する方法、(2)赤外線分光法(IR)分析によりLiPF
6固有のスペクトルを測定する方法、(3)X線回折でLiPF
6固有のスペクトルを測定する方法、(4)誘導結合プラズマ(ICP)発光分析による元素の発光スペクトルを測定する方法、又は(5)ラマン分光分析法でLiPF
6固有のラマンスペクトルを測定する方法により、確認することができる。
【0019】
ここで、過剰な支持塩としてのリチウム塩の添加について説明する。
前記過剰なリチウム塩の添加量は、正極活物質又は負極活物質の電気量のうちの少ない方の電極の充電電気量を基準とし、非水電解液由来のリチウム塩と固体状態で添加するリチウム塩の総量が前記電極の充電電気量と同等となるような量とする。具体的には、Li金属が充電時に負極表面へ析出することを防ぐため、負極電気量のほうが正極電気量より大きい。前記正極電気量が100mAh/gの活物質特性でLiPF
6の添加量が10mgである場合には正極電気量は3.6クーロンである。1molのLiPF
6が持つアニオンの電気量は、1F(ファラデー)、即ち、9.64×10
4クーロンである。したがって、3.6クーロン相当の電気容量を持つLiPF
6は、3.6/9.64×10
4=3.7×10
−5molである。これは5.6mgとなる。このことは、非水電解液由来のLiPF
6と固体添加由来のLiPF
6の両方の和として5.6mg以上のLiPF
6が必要であることを意味する。実際には、非水電解液由来のLiPF
6と固体添加由来のLiPF
6の合計が5.6mg以上となるように添加する。
前記非水電解液の溶媒の量が不足する場合、電極からイオンが出てくると、前記非水電解液中にリチウム塩を溶解した状態でリチウム塩をすべて保持できない。前記非水電解液はリチウム塩で飽和する。
なおも放電が進んでイオンが電極から出てくると、リチウム塩は電解液から析出して固体になる。
充電時はイオンが非水電解液に溶けている分が電極に取り込まれても電極にはまだ取り込む余裕がある。
前記非水電解液に溶けていたリチウム塩が電極に入り、前記非水電解液のリチウム塩濃度が飽和濃度から低下すると、析出していたリチウム塩が非水電解液に溶け、これが再び電極に取り込まれる。
この作用が正極の内部がPF
6イオン、負極の内部がLiイオンで満たされるまで続く。こうして非水電解液中に析出した状態で存在した過剰な、溶けきれなかったリチウム塩が電極に取り込まれて充放電に寄与する。
なお、正負極の蓄電量は必ずしもバランスしているわけではないので、充電時に両極ともイオンで完全に満たされるとは限らない。
【0020】
本発明においては、非水電解液とは別に、蓄電素子内部に固体状のリチウム塩を添加する。このとき、前記固体状のリチウム塩の添加は、非水電解液中への単純な添加ではなく、(1)正極に固体状のリチウム塩を添加する場合には、正極活物質と混合して添加する方法、(2)負極に固体状のリチウム塩を添加する場合には、負極活物質と混合して添加する方法、及び(3)セパレータに固体状のリチウム塩を添加する場合には、セパレータに付着させて添加する方法、の少なくともいずれかを行うことが好ましい。前記(1)〜(3)の具体的な添加方法については、以下に示すとおりである。なお、前記正極活物質、前記負極活物質、前記セパレータ、前記リチウム塩などの詳細については、後述する。
【0021】
(1)正極に固体状のリチウム塩を添加する場合には、例えば、正極活物質としての黒鉛粉末と、固体状のリチウム塩としてのLiPF
6粉末を混錬した後、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、増粘剤としてのポリビニルアルコール、溶媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、混錬して、正極集電体としてのアルミニウム箔に塗布し、これを乾燥して正極とする。
前記正極における固体状のリチウム塩の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記正極活物質100質量部に対して10質量部〜80質量部が好ましい。
前記正極に固体状のリチウム塩が練り込まれていることは、誘導結合プラズマ(ICP)による元素分析にてLi、P、Fがすべて同時に見つかることで同定できる。正極にインターカレーションするのはアニオンのPF
6−のみであり、結晶のLiPF
6が存在する場合以外はLi、P、Fがすべて同時に存在することはないからである。
【0022】
(2)負極に固体状のリチウム塩を添加する場合には、例えば、負極活物質としての黒鉛粉末と、固体状のリチウム塩としてのLiPF
6粉末を混錬した後、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、増粘剤としてのポリビニルアルコール、溶媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、混錬し、負極集電体としての銅箔に塗布し、これを乾燥して負極とする。
前記負極における固体状のリチウム塩の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記負極活物質100質量部に対して10質量部〜80質量部が好ましい。
前記負極に固体状のリチウム塩が練り込まれていることは、誘導結合プラズマ(ICP)による元素分析にてLi、P、Fがすべて同時に見つかることで同定できる。
【0023】
(3)第1のセパレータ又は第2のセパレータに固体状のリチウム塩を添加する場合には、例えば、少量のバインダと、固体状のリチウム塩としてのLiPF
6粉末を混合し、ガラス繊維性ろ紙のような多孔性シートに付着し、乾燥して第1のセパレータ又は第2のセパレータとする。
前記第1のセパレータ又は前記第2のセパレータにおける固体状のリチウム塩の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第1のセパレータ又は前記第2のセパレータ100質量部に対して10質量部〜300質量部が好ましい。
LiPF
6粉末は加水分解するため、電極に練り込む場合は、バインダにカルボキシメチルセルロース(CMC)等の水系溶媒を用いる材料は用いることができないが、前記第1のセパレータ又は前記第2のセパレータにLiPF
6粉末を練り込む場合は、バインダにCMCを用いることができる。
【0024】
本発明の非水電解液蓄電素子としては、25℃、放電電圧4.0Vにおいて固体状のリチウム塩を含んでいれば(即ち、蓄電素子内部に過剰なリチウム塩を含んでいれば)特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、上述したように、正極と、負極と、第1のセパレータと、非水電解液とを有してなり、第2のセパレータ、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
本発明の非水電解液蓄電素子は、蓄電素子内部に過剰なリチウム塩を含めるため、上述した方法により、前記正極、前記負極、前記第1のセパレータ、及び前記第2のセパレータの少なくともいずれかに固体状のリチウム塩を含有させている以外は、以下に説明するように、従来の非水電解液蓄電素子と共通する構造を備えている。
【0025】
<正極>
前記正極は、正極活物質を含んでいれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体上に正極活物質を有する正極材を備えた正極、などが挙げられる。
前記正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、などが挙げられる。
【0026】
<<正極材>>
前記正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極活物質を少なくとも含み、更に必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、などを含んでなる。
【0027】
−正極活物質−
前記正極活物質としては、アニオンを挿入乃至脱離可能な物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素質材料、導電性高分子、などが挙げられる。これらの中でも、エネルギー密度が高い点から炭素質材料が特に好ましい。
前記導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、などが挙げられる。
前記炭素質材料としては、例えば、コークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物、などが挙げられる。これらの中でも、人造黒鉛、天然黒鉛が特に好ましい。
前記炭素質材料としては、結晶性が高い炭素質材料であることが好ましい。前記結晶性はX線回折、ラマン分析などで評価することができ、例えば、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.3°における回折ピーク強度I
2θ=22.3°と、2θ=26.4°における回折ピーク強度I
2θ=26.4°の強度比I
2θ=22.3°/I
2θ=26.4°が0.4以下が好ましい。
前記炭素質材料の窒素吸着によるBET比表面積は、1m
2/g以上100m
2/g以下が好ましく、レーザー回折・散乱法により求めた平均粒径(メジアン径)は、0.1μm以上100μm以下が好ましい。
【0028】
−バインダ−
前記バインダとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安定な材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダ、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記正極にLiPF
6粉末を練り込まない場合は、前記バインダとして前記CMCを用い、前記溶媒として水を用いることが好ましい。
【0029】
−増粘剤−
前記増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
−導電剤−
前記導電剤としては、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質材料、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
<<正極集電体>>
前記正極集電体の材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記正極集電体の材質としては、導電性材料で形成されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、などが挙げられる。これらの中でも、ステンレススチール、アルミニウムが特に好ましい。
前記正極集電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記正極集電体の大きさとしては、非水電解液蓄電素子に使用可能な大きさであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
−正極の作製方法−
前記正極は、前記正極活物質に、必要に応じて前記バインダ、前記増粘剤、前記導電剤、溶媒等を加えてスラリー状とした正極材を、前記正極集電体上に塗布し、乾燥することで製造することができる。前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水系溶媒、有機系溶媒、などが挙げられる。前記水系溶媒としては、例えば、水、アルコール、などが挙げられる。前記有機系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、トルエン、などが挙げられる。
なお、前記正極活物質をそのままロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極とすることもできる。
【0033】
<負極>
前記負極は、負極活物質を含んでいれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、負極集電体上に負極活物質を有する負極材を備えた負極、などが挙げられる。
前記負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、などが挙げられる。
【0034】
<<負極材>>
前記負極材としては、負極活物質を少なくとも含み、更に必要に応じてバインダ、導電剤、などを含んでなる。
【0035】
−負極活物質−
前記負極活物質としては、金属リチウム及びリチウムイオンの少なくともいずれかを吸蔵乃至放出可能な物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素質材料、酸化アンチモン錫、一酸化珪素等のリチウムを吸蔵、放出可能な金属酸化物、アルミニウム、錫、珪素、亜鉛等のリチウムと合金化可能な金属又は金属合金、リチウムと合金化可能な金属と該金属を含む合金とリチウムとの複合合金化合物、チッ化コバルトリチウム等のチッ化金属リチウム、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安全性とコストの点から、炭素質材料が特に好ましい。
前記炭素質材料としては、例えば、コークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物、などが挙げられる。これらの中でも、人造黒鉛、天然黒鉛が特に好ましい。
【0036】
−バインダ−
前記バインダとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダ、エチレン−プロピレン−ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダ、カルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましく、繰り返し充放電回数が他のバインダに比べて向上する点から前記CMCが特に好ましい。前記CMCを用いるとPVDFに比べて繰り返し充放電回数が2倍以上改善する(1C充放電、蓄電素子寿命を初期容量の80%になったときと定義した場合)。なお、前記負極にLiPF
6粉末を練り込まない場合は、前記バインダとして前記CMCを用い、前記溶媒として水を用いることが好ましい。
【0037】
−導電剤−
前記導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質材料、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
<<負極集電体>>
前記負極集電体の材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記負極集電体の材質としては、導電性材料で形成されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、などが挙げられる。これらの中でも、ステンレススチール、銅が特に好ましい。
前記集電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記集電体の大きさとしては、非水電解液蓄電素子に使用可能な大きさであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
−負極の作製方法−
前記負極は、前記負極活物質に、必要に応じて前記バインダ、前記導電剤、溶媒等を加えてスラリー状とした負極材を、前記負極集電体上に塗布し、乾燥することで製造することができる。前記溶媒としては、前記正極の作製方法と同様の溶媒を用いることができる。
また、前記負極活物質に前記バインダ、前記導電剤等を加えたものをそのままロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極としたり、蒸着、スパッタ、メッキ等の手法で前記負極集電体上に前記負極活物質の薄膜を形成することもできる。
【0040】
<非水電解液>
前記非水電解液は、非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる電解液である。
【0041】
−非水溶媒−
前記非水溶媒としては、非プロトン性有機溶媒であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート等のカーボネート系有機溶媒、環状エステル、鎖状エステル等のエステル系有機溶媒、環状エーテル、鎖状エーテル等のエーテル系有機溶媒、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、カーボネート系有機溶媒が、リチウム塩の溶解力が高い点で好ましい。
【0042】
前記環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、などが挙げられる。
前記鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート、などが挙げられる。
前記環状エステルとしては、例えば、γ−ブチロラクトン(γBL)、2−メチル−γ−ブチロラクトン、アセチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、などが挙げられる。
前記鎖状エステルとしては、例えば、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル、などが挙げられる。
前記環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アルキル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、などが挙げられる。
前記鎖状エーテルとしては、例えば、1,2−ジメトキシエタン(DME)、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、などが挙げられる。
これらの中でも、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を混合したものが好ましく、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合割合は、体積比で、EC:DMC=1:1〜1:10が好ましく、1:2が特に好ましい。
【0043】
−リチウム塩−
前記リチウム塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、塩化リチウム(LiCl)、ホウ弗化リチウム(LiBF
4)、LiB(C
6H
5)
4、六弗化砒素リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(LiN(CF
3SO
2)
2)、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(LiN(C
2F
5SO
2)
2)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素電極中へのアニオンの吸蔵量の大きさの観点から、LiPF
6が特に好ましい。
【0044】
前記リチウム塩の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記有機溶媒中に、0.5mol/L〜3mol/Lが好ましく、1mol/L程度が粘度の点から特に好ましい。
【0045】
<第1のセパレータ>
前記第1のセパレータは、正極と負極の短絡を防ぐために正極と負極の間に設けられる。
前記第1のセパレータの材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第1のセパレータの材質としては、例えば、クラフト紙、ビニロン混抄紙、合成パルプ混抄紙等の紙、セロハン、ポリエチレングラフト膜、ポリプロピレンメルトブロー不織布等のポリオレフィン不織布、ポリアミド不織布、ガラス繊維不織布、などが挙げられる。
前記第1のセパレータの形状としては、例えば、シート状、などが挙げられる。
前記第1のセパレータの大きさとしては、非水電解液蓄電素子に使用可能な大きさであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第1のセパレータの構造は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0046】
<イオン交換膜>
前記イオン交換膜は、イオンを選択的に透過させる膜であり、例えば、海水の淡水化等で使用されるイオン交換膜、などが用いられる。
前記イオン交換膜の材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記イオン交換膜の構造は、膜中にイオンが添加され、多くの微細な孔が形成されたものであることが好ましい。
前記イオン交換膜は、該イオン交換膜中のイオンの電荷と正負の電荷が反対の電荷を持つイオンだけが孔を通過する仕組みを有するので、正負どちらか片方のイオンしか通過させない性質を持ち、陰イオンを選択透過する陰イオン交換膜と、陽イオンを選択透過する陽イオン交換膜とがある。
【0047】
本発明においては、正極側に陰イオン交換膜を配置し、アニオンのみが陰イオン交換膜を通過するようにする。一方、負極側に陽イオン交換膜を配置し、カチオンのみが陽イオン交換膜を通過するようにする。このように構成することで、過剰な支持塩としてのリチウム塩を含み、飽和濃度に達した非水電解液が電極活物質に直接触れることがなく、電極近傍においてアニオンとカチオンが同量過飽和で存在することが無いので、電極上にリチウム塩の析出が生じない。前記リチウム塩は固体状態では絶縁体であり、これが電極表面を覆うと蓄電素子の出力電流密度が低下してしまう。
【0048】
前記陽イオン交換膜としては、例えば、ポリエチレンオキシドを基材とし、該基材に、カルボン酸基、リン酸基、又はスルフォン酸基を添加した固体電解質膜、などが挙げられる。前記固体電解質膜は、リチウムイオンのみを選択的に通すことができる。
また、LaLiTiO、LiTiAl(PO
4)等の酸化物固体電解質、Li
2S−P
2S
5等のチオリシコン物質は陽イオンを選択的に透過する固体電解質として動作する。
【0049】
前記陰イオン交換膜としては、例えば、ポリエチレンオキシドを基材とし、該基材に、プラス電荷を有する基(例えば、アミノ基等)を添加した固体電解質膜、などが挙げられる。
【0050】
<第2のセパレータ>
前記第2のセパレータは、1mol/L程度の飽和していない薄い非水電解液を電極近傍に保持するために、前記正極と前記陰イオン交換膜との間、及び前記負極と前記陽イオン交換膜との間の少なくともいずれかに設けられることが好ましい。
前記第2のセパレータの材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第1のセパレータと同様のものが挙げられる。
【0051】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、外装缶、電極取り出し線、などが挙げられる。
【0052】
<非水電解液蓄電素子の製造方法>
本発明の非水電解液蓄電素子は、前記正極、前記負極、前記第1のセパレータ、及び前記非水電解液と、必要に応じて用いられる前記第2のセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装缶等の他の構成部材を用いることも可能である。前記非水電解液蓄電素子を組み立てる方法としては、特に制限はなく、通常採用されている方法の中から適宜選択することができる。
【0053】
ここで、
図1は、本発明の非水電解液蓄電素子の一例を示す概略図である。前記非水電解液蓄電素子10は、外装缶(不図示)内に、アニオンを挿入乃至脱離可能な正極活物質を含む正極1と、金属リチウム及びリチウムイオンの少なくともいずれかを吸蔵乃至放出可能な負極活物質を含む負極5と、正極1と負極5の間に第1のセパレータ3とを収容してなり、正極1は陰イオン交換膜2と接し、陰イオン交換膜2は第1のセパレータ3と接し、更に第1のセパレータ3は陽イオン交換膜4を介して負極5と接している。
これら正極1、負極5、第1のセパレータ3、陰イオン交換膜2、及び陽イオン交換膜4は、非水溶媒に支持塩としてのリチウム塩を溶解してなる非水電解液(不図示)に浸っている。なお、
図1では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
図2は、本発明の非水電解液蓄電素子の他の一例を示す概略図である。前記
図2の非水電解液蓄電素子10は、
図1の非水電解液蓄電素子において、陰イオン交換膜2を有しない以外は、
図1の非水電解液蓄電素子と同様である。
【0054】
図3は、本発明の非水電解液蓄電素子の他の一例を示す概略図である。前記
図3の非水電解液蓄電素子10は、
図1の非水電解液蓄電素子において、正極1と陰イオン交換膜2との間、及び負極5と陽イオン交換膜4との間に第2のセパレータ6、7を有する以外は、
図1の非水電解液蓄電素子と同様である。
図4は、本発明の非水電解液蓄電素子の他の一例を示す概略図である。前記
図4の非水電解液蓄電素子10は、
図3の非水電解液蓄電素子において、陰イオン交換膜2及び第2のセパレータ6を有しない以外は、
図3の非水電解液蓄電素子と同様である。
【0055】
−形状−
本発明の非水電解液蓄電素子の形状は、特に制限はなく、一般的に採用されている各種形状の中から、その用途に応じて適宜選択することができる。前記形状としては、例えば、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ、などが挙げられる。
【0056】
<用途>
本発明の非水電解液蓄電素子の用途としては、特に制限はなく、各種用途に用いることができ、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ、などが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質として、炭素粉末(TIMCAL社製、KS−6)を用いた。前記炭素粉末は窒素吸着によるBET比表面積20m
2/g、レーザー回折粒度分布計(株式会社島津製作所製、SALD−2200)により測定した平均粒径(メジアン径)は3.4μmであった。
前記炭素粉末(TIMCAL社製、KS−6)10mg、バインダ(カルボキシルメチルセルロース(CMC)の3質量%水溶液)10mg、及び導電剤(内訳:アセチレンブラック95質量%、ポリテトラフルオロエチレン5質量%)10mgに水を5mL加えて混錬し、スラリーを作製した。これをステンレスメッシュに圧着して200℃で4時間真空乾燥させ、正極とした。このとき、前記ステンレスメッシュに圧着した正極中の炭素粉末(黒鉛)の質量は10mgであった。
【0059】
<負極の作製>
負極活物質として、炭素粉末(日立化成工業株式会社製、MAGD)を用いた。前記炭素粉末は、窒素吸着によるBET比表面積4,600m
2/g、レーザー回折粒度分布計(株式会社島津製作所製、SALD−2200)により測定した平均粒径(メジアン径)は20μm、タップ密度630kg/m
3であった。
前記炭素粉末(日立化成工業株式会社製、MAGD)96質量%、及びバインダ(カルボキシルメチルセルロース(CMC)の3質量%水溶液)4質量%からなる混合物350mgに水を5mL加えて混錬し、スラリーを作製した。これを銅箔に圧着して160℃で1時間真空乾燥させ、負極とした。このとき、前記銅箔に圧着した負極中の炭素粉末(黒鉛)の質量は10mgであった。
【0060】
<非水電解液>
非水電解液として、1mol/LのLiPF
6を溶解させた溶媒〔エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)〕を0.3mL用意した。
【0061】
<第1のセパレータ>
第1のセパレータとして、実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用意した。前記第1のセパレータに固体LiPF
6粉末200mgを練り込んだ。
【0062】
<陽イオン交換膜>
陽イオン交換膜として、30Li
2S・26B
2S
3・44LiI(mol%)の硫化物ガラス固体電解質膜(株式会社リコー試作品)を用いた。前記陽イオン交換膜の厚みは、15μmであった。
【0063】
<陰イオン交換膜>
陰イオン交換膜として、ポリエチレン製平織布ベースにイオン交換基を固定した膜(アストム社製、ネオセプタAHA)を用いた。前記陰イオン交換膜の厚みは、50μmであった。
【0064】
<蓄電素子の作製>
前記正極、前記負極、前記第1のセパレータ、前記陰イオン交換膜、及び前記陽イオン交換膜を用い、アルゴンドライボックス中で、
図1に示したような実施例1の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子10を作製した。
作製した実施例1の非水電解液蓄電素子10は、正極1は陰イオン交換膜2と接し、この陰イオン交換膜2は第1のセパレータ3と接し、更に第1のセパレータ3は陽イオン交換膜4を介して負極5と接している構成であった。なお、
図1の非水電解液蓄電素子10では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
【0065】
<初期及び100回後の放電容量の測定方法>
作製した実施例1の非水電解液蓄電素子を室温(25℃)において1mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.2Vまで充電した。1回目の充電の後、1mA/cm
2の定電流で3.0Vまで放電した。この充放電を100回繰り返した。初期及び100回充放電後の放電容量を充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ−SD8システム)により測定した。なお、前記放電容量は正極活物質10mg当たりの質量換算値であった。実施例1では、初期の放電容量は120mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は80mAh/正極gであった。その後、300回充放電後の放電容量は80mAh/正極gであり劣化が小さかった。更に1,000回充放電後も75mAh/正極gを維持した。
【0066】
<充放電を100回繰り返した後の電極表面へのリチウム塩の析出の有無>
充放電を100回繰り返した後、前記非水電解液蓄電素子を分解し、正極及び負極表面を顕微鏡(SMZ−1500、NIKON社製)で観察して、LiPF
6の結晶の有無を評価した。実施例1では、電極表面へのリチウム塩の析出は見られなかった。
【0067】
<25℃、放電電圧4.0Vにおける第1のセパレータでの固体状のリチウム塩の有無の評価>
作製した前記非水電解液蓄電素子を25℃、放電電圧4.0Vで放電終了後、非水電解液蓄電素子を分解し、第1のセパレータ表面を、顕微鏡(SMZ−1500、NIKON社製)で観察して、黒色に見える活物質の黒鉛以外に多少明るい結晶が見えていれば、LiPF
6の結晶と判別でき、これにより第1のセパレータでの固体状のLiPF
6の有無を評価した。実施例1では、第1のセパレータに固体状のLiPF
6塩の存在が確認できた。
【0068】
(実施例2)
実施例1において、陰イオン交換膜を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、
図2に示したような、実施例2の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子10を作製した。作製した実施例2の非水電解液蓄電素子10において、正極1は直接第1のセパレータ3に接し、更に、第1のセパレータ3は陽イオン交換膜4を介して負極5と接していた。なお、
図2の非水電解液蓄電素子10では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
次に、作製した実施例2の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は120mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は80mAh/正極gであった。
100回充放電後、蓄電素子を分解してリチウム塩の析出を調べたところ、負極表面へのリチウム塩の析出は見られなかった。正極にはわずかにリチウム塩の析出が見られたが、1mAh/cm
2の充放電を妨げるものではなかった。
【0069】
(実施例3)
<第2のセパレータ>
第2のセパレータとして、実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用意した。
【0070】
<蓄電素子の作製>
実施例1と同様にして作製した前記正極、前記負極、固体LiPF
6粉末200mgを練り込んだ前記第1のセパレータ、前記陰イオン交換膜、前記陽イオン交換膜、及び前記第2のセパレータを用い、実施例1と同様にして、アルゴンドライボックス中で、
図3に示したような実施例3の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子を作製した。前記
図3の非水電解液蓄電素子10は、正極1は第2のセパレータ6を介して陰イオン交換膜2と接し、陰イオン交換膜2は第1のセパレータ3と接していた。更に、第1のセパレータ3は陽イオン交換膜4を介して第2のセパレータ7に接し、第2のセパレータ7は負極5と接していた。
図3中の第1のセパレータ3にのみリチウム塩が添加されていた。即ち、第2のセパレータ6、7にはリチウム塩を添加していない。そのため、1mol/Lの非水電解液を注液すると、第1のセパレータ3の部分だけ、飽和電解液となった。なお、
図3の非水電解液蓄電素子では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
【0071】
次に、作製した実施例3の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は120mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は100mAh/正極gであった。
実施例3では、電極活物質は実用化されているリチウムイオン二次電池と同程度の濃度の非水電解液に接しており、イオンのやり取りが安定的に行われた。これは非水電解液のイオン伝導度、粘度が適当であるからであった。また、負極表面ではSEI(Solid Electrolyte Interface)という不導体皮膜が形成されたが、これは適度な濃度の非水電解液と負極が接していないと適度な不導体皮膜が形成できない。5mol/L程度の飽和に近いLiPF
6を含む非水電解液中では初期充電時に厚すぎるSEIが形成されたと考えられた。
この実施例3は、電極は正負とも通常の濃度、1mol/Lの非水電解液と接しており、電極の動作として無理のないイオンのやり取りができていると考えられた。第1のセパレータ3はリチウム塩を過剰に練り込んであり、ここに存在する非水電解液は高濃度であった。しかし、第1のセパレータ3はイオン交換膜で挟まれており、正極側へはアニオン(PF
6−)のみ、負極側にはカチオン(Li
+)のみしか移動できなかった。したがって、飽和電解液は第1のセパレータ3の領域に限定されることになった。仮に、経時変化で第1のセパレータ3の高濃度電解液と正極1及び第2のセパレータ7の低濃度電解液が混ざることが生じても、負極5上のSEI形成は初期充電時にほとんどが行われるため、SEIが不適当な状態になる恐れはほとんどない。このため、非水電解液蓄電素子の放電容量も実施例1及び2よりやや大きくなっていると考えられた。
【0072】
(実施例4)
実施例3において、陰イオン交換膜を設けなかった以外は、実施例3と同様にして、
図4に示したような実施例4の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子を作製した。作製した実施例4の非水電解液蓄電素子10において、正極1は直接第1のセパレータ3に接し、更に、第1のセパレータ3は陽イオン交換膜4を介して次の第2のセパレータ7に接し、この第2のセパレータ7が負極5と接していた。なお、
図4の非水電解液蓄電素子では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
図4中の第1のセパレータ3にのみ、リチウム塩が添加されており、第2のセパレータ7はリチウム塩を添加していない。そのため、1mol/Lの非水電解液を注液すると、第1のセパレータ3の部分だけ、飽和電解液となった。
次に、作製した実施例4の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は120mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は90mAh/正極gであった。
【0073】
(実施例5)
実施例3において、陰イオン交換膜を設けず、非水電解液として0.5mol/LのLiPF
6を溶解させた溶媒〔エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)〕を0.3mL用意した以外は、実施例3と同様にして、
図4に示したような実施例5の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子を作製した。作製した実施例5の非水電解液蓄電素子10において、正極1は直接第1のセパレータ3に接し、更に、第1のセパレータ3は、陽イオン交換膜4を介して第2のセパレータ7に接し、前記第2のセパレータ7が負極5と接していた。なお、
図4の非水電解液蓄電素子では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
図4中の第1のセパレータ3にのみ、リチウム塩が添加されていた。第2のセパレータ7はリチウム塩を添加していない。そのため、0.5mol/Lの非水電解液を注液すると、第1のセパレータ3の部分だけ、飽和電解液となった。
次に、作製した実施例5の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は120mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は100mAh/正極gであった。
【0074】
(実施例6)
実施例3において、陰イオン交換膜を設けず、非水電解液として2mol/LのLiPF
6を溶解させた溶媒〔エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)〕を0.3mL用意した以外は、実施例3と同様にして、
図4に示したような実施例6の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子を作製した。作製した実施例6の非水電解液蓄電素子10において、正極1は直接第1のセパレータ3に接し、更に、第1のセパレータ3は、陽イオン交換膜4を介して第2のセパレータ7に接し、この第2のセパレータ7が負極5と接していた。なお、
図4の非水電解液蓄電素子では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
図4中の第1のセパレータ3のみ、リチウム塩が添加されており、第2のセパレータ7はリチウム塩を添加していない。そのため、2mol/Lの非水電解液を注液すると、第1のセパレータ3の部分だけ、飽和電解液となった。
次に、作製した実施例6の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は100mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は70mAh/正極gであった。
この実施例6では、蓄電素子を作製するときに添加する非水電解液が2mol/Lと実施例4及び5より濃い。このため、蓄電素子の放電容量、繰り返し容量ともに低下していた。非水電解液濃度が高いと負極でのSEIと呼ばれる皮膜が厚すぎ、蓄電素子の特性が劣化した。今回もそのためにやや特性が劣化した。リチウム塩濃度と非水電解液濃度は比例関係があり、高濃度電解液は蓄電素子作製上の取り扱いが難しくなった。その意味でも蓄電素子を作製するときの非水電解液濃度は2mol/L以下の濃度が好ましい。非水電解液濃度があまり薄いとイオン濃度が減り、電気伝導度が小さくなり蓄電素子の出力密度が低下するので好ましくない。そのため、非水電解液濃度は0.5mol/L〜2mol/Lがより好ましい。
【0075】
(実施例7)
実施例1において、正極及び負極のバインダとしてのカルボキシルメチルセルロース(CMC)をポリフッ化ビニリデン(PVDF)に変更した。これに伴い、溶媒として水ではなく、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を用い、以下のようにして、非水電解液蓄電素子を作製した。
【0076】
<正極の作製>
正極活物質として、炭素粉末(TIMCAL社製、KS−6)を用いた。前記炭素粉末は窒素吸着によるBET比表面積20m
2/g、レーザー回折粒度分布計(株式会社島津製作所製、SALD−2200)により測定した平均粒径(メジアン径)は3.4μmであった。
前記炭素粉末(TIMCAL社製、KS−6)10mg、バインダ(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)5mg、及び導電剤(内訳:アセチレンブラック95質量%、ポリテトラフルオロエチレン5質量%)10mgにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を5mL加えて混錬し、スラリーを作製した。これをステンレスメッシュに圧着して180℃で2時間真空乾燥させ、正極とした。このとき、前記ステンレスメッシュに圧着した正極中の炭素粉末(黒鉛)の質量は10mgであった。
【0077】
<負極の作製>
負極活物質として、炭素粉末(日立化成工業株式会社製、MAGD)を用いた。前記炭素粉末は、窒素吸着によるBET比表面積4,600m
2/g、レーザー回折粒度分布計(島津製作所製、SALD−2200)により測定した平均粒径(メジアン径)は20μm、タップ密度630kg/m
3であった。
前記炭素粉末(日立化成工業株式会社製、MAGD)360mg、及びバインダ(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)5mg、及び導電剤(内訳:アセチレンブラック95質量%、ポリテトラフルオロエチレン5質量%)10mgにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を5mL加えて混錬し、スラリーを作製した。これを銅箔に圧着して160℃で1時間真空乾燥させ、負極とした。このとき、前記銅箔に圧着した負極中の炭素粉末(黒鉛)の質量は10mgであった。
【0078】
<非水電解液>
非水電解液として、1mol/LのLiPF
6を溶解させた溶媒〔エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)〕を0.3mL用意した。
【0079】
<第1のセパレータ>
第1のセパレータとして、実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用意した。前記第1のセパレータに固体LiPF
6粉末200mgを練り込んだ。
【0080】
<陽イオン交換膜>
陽イオン交換膜として、30Li
2S・26B
2S
3・44LiI(mol%)の硫化物ガラス固体電解質膜(株式会社リコー試作品)を用いた。前記陽イオン交換膜の厚みは、15μmであった。
【0081】
<陰イオン交換膜>
陰イオン交換膜として、ポリエチレン製平織布ベースにイオン交換基を固定した膜(アストム社製、ネオセプタAHA)を用いた。前記陰イオン交換膜の厚みは、50μmであった。
【0082】
<蓄電素子の作製>
前記正極、前記負極、前記第1のセパレータ、前記陰イオン交換膜、及び前記陽イオン交換膜を用い、アルゴンドライボックス中で、
図1に示したような実施例7の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子10を作製した。
作製した実施例7の非水電解液蓄電素子10は、正極1は陰イオン交換膜2と接し、この陰イオン交換膜2は第1のセパレータ3と接し、更に第1のセパレータ3は陽イオン交換膜4を介して負極5と接している構成であった。なお、
図1の非水電解液蓄電素子10では外装缶、電極取り出し線は図示していない。
【0083】
<初期及び100回後の放電容量の測定方法>
作製した実施例7の非水電解液蓄電素子を室温(25℃)において1mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.2Vまで充電した。1回目の充電の後、1mA/cm
2の定電流で3.0Vまで放電した。この充放電を100回繰り返した。初期及び100回充放電後の放電容量を充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ−SD8システム)により測定した。なお、前記放電容量は正極活物質10mg当たりの質量換算値であった。実施例7では、初期の放電容量は120mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は70mAh/正極gであった。更に、300回充放電後、放電容量は40mAh/正極gとなり、実施例1に比べて劣化が早かった。
【0084】
<充放電を100回繰り返した後の電極表面へのリチウム塩の析出の有無>
充放電を100回繰り返した後、前記非水電解液蓄電素子を分解し、正極及び負極表面を顕微鏡(SMZ−1500、NIKON社製)で観察して、LiPF
6の結晶の有無を評価した。実施例7では、電極表面へのリチウム塩の析出は見られなかった。
【0085】
(比較例1)
実施例1において、第1のセパレータとして固体LiPF
6粉末を練り込まない実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用い、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子を作製した。
次に、作製した比較例1の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は80mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は75mAh/正極gであった。
【0086】
(比較例2)
実施例1において、セパレータとして固体LiPF
6粉末を練り込まない実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用い、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を設けず、非水電解液として5mol/LのLiPF
6を溶解させた溶媒〔エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)〕を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子を作製した。
次に、作製した比較例2の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は90mAh/正極gであり、100回充放電後の放電容量は50mAh/正極gであった。
この比較例2では、非水電解液中のリチウム塩の量を確保するために濃い非水電解液を用いた。しかし、前記濃い非水電解液は負極炭素表面の初期膜形成に問題があり、充放電の繰り返しで蓄電素子特性が劣化して放電容量が小さくなった。
【0087】
(比較例3)
実施例1において、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例3の半開放型セル型の非水電解液蓄電素子を作製した。
次に、作製した比較例3の非水電解液蓄電素子について、実施例1と同様にして、初期及び100回充放電後の放電容量の測定を行ったところ、初期の放電容量は100mAh/正極gであり、100回目充放電後の放電容量は50mAh/正極gであった。
【0088】
次に、実施例及び比較例の内容及び結果を表1−1〜表1−3にまとめて示した。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0089】
表1−1〜表1−3の結果から、実施例1〜7の固体状のリチウム塩を含む非水電解液蓄電素子は、高い放電容量が得られることが判った。なお、実施例1〜7は、リチウム塩の過剰量が多いため、放電電圧4.0Vを含むすべての放電電圧(3.0V〜5.4V)で第1のセパレータに固体状のリチウム塩が析出していた。
比較例1では、非水電解液中のリチウム塩の量が少ないため、充電によりリチウム塩の量が足りなくなり、充放電の繰り返しで蓄電素子特性が劣化して放電容量が小さくなった。
比較例2では、非水電解液中のリチウム塩の量を確保するために濃い非水電解液を用いたが、濃い非水電解液は負極炭素表面の初期膜形成がうまく行われず、充放電の繰り返しで蓄電素子特性が劣化して放電容量が小さくなった。
【0090】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> アニオンを挿入乃至脱離可能な正極活物質を含む正極と、金属リチウム及びリチウムイオンの少なくともいずれかを吸蔵乃至放出可能な負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極の間に第1のセパレータと、非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液とを有してなり、
25℃、放電電圧4.0Vにおいて固体状のリチウム塩を含み、
前記正極及び前記負極の少なくともいずれかと前記第1のセパレータとの間にイオン交換膜を有することを特徴とする非水電解液蓄電素子である。
<2> 正極と第1のセパレータとの間に陰イオンを選択透過させる陰イオン交換膜を有する前記<1>に記載の非水電解液蓄電素子である。
<3> 負極と第1のセパレータとの間に陽イオンを選択透過させる陽イオン交換膜を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<4> 正極と陰イオン交換膜との間、及び負極と陽イオン交換膜との間の少なくともいずれかに第2のセパレータを有する前記<3>に記載の非水電解液蓄電素子である。
<5> 第1のセパレータが、固体状のリチウム塩を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<6> 正極活物質が、炭素質材料である前記<1>から<5>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<7> 負極活物質が、炭素質材料である前記<1>から<6>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<8> リチウム塩が、LiPF
6である前記<1>から<7>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。