特許第6139392号(P6139392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139392
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20170522BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20170522BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B23Q15/12 A
   G05B19/404 K
   G05B19/4093 M
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-255798(P2013-255798)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-112676(P2015-112676A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年8月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月3日に、一般社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料」のMEC−13−159、第1頁〜第6頁にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博志
(72)【発明者】
【氏名】石橋 央成
(72)【発明者】
【氏名】石井 眞二
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】寺田 祐貴
【審査官】 木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−88968(JP,A)
【文献】 特開2012−148372(JP,A)
【文献】 特開2012−130983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 − 15/28
G05B 19/18 − 19/416
G05B 19/42 − 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械を用い、その主軸の回転速度を周期的に変動させて、ワークを加工する方法であって、
前記主軸回転速度を周期的に変動させてワークを加工する際の、前記主軸回転速度の速度変動率RVAと、前記主軸回転速度の速度変動周期比RVFと、加工時に工具に生じる振動との三者間の相関データを予め取得し、
得られた前記相関データを基に、前記工具の振動が許容範囲内であり、且つ加工精度が許容範囲内となるような前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定した後、設定した速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを基に、前記主軸回転速度の変動振幅及び変動周期を決定し、
ついで、前記主軸を、目標回転速度を中心とし、前記決定した変動振幅及び変動周期で変動するように回転させて、前記ワークを加工するようにしたことを特徴とする加工方法。
但し、
RVA=N/N
RVF=2π/(N×T)
であり、Tは主軸回転速度の変動周期[s]であり、Nは主軸回転速度の変動振幅[rad/s]であり、Nは前記目標回転速度[rad/s]である。
【請求項2】
前記相関データを基に、前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定する際に、前記工具の許容振動範囲内において、速度変動率RVAをその最小値、速度変動周期比RVFをその最大値に設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の加工方法。
【請求項3】
前記相関データを基に、前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定する際に、前記工具の許容振動範囲内において、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを共にその最小値に設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の加工方法。
【請求項4】
前記相関データを、前記工作機械の3次元モデルを用いた加工シミュレーションによって取得するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかの加工方法。
【請求項5】
前記相関データを、前記工作機械を用いた実加工によって取得するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械を用い、その主軸の回転速度を周期的に変動させてワークを加工する加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いてワークを加工する際に、びびり振動によって加工精度(特に表面精度)が悪化することは旧来より良く知られている。このようなびびり振動は、強制びびり振動と自励びびり振動に大別され、強制びびり振動は過大な外力が作用すること、或いは外力の周波数と振動系の共振周波数が同期することによって発生し、一方、自励びびり振動は、切削抵抗の周期的変動と切り取り厚さの周期的変動の相互作用が互いに強め合う切削を継続すること(所謂再生効果)によって引き起こされると考えられている。
【0003】
そして、従来、前記びびり振動の内、自励びびり振動を抑制する方法として、主軸の回転速度を所定の振幅で周期的に変動させる手法が提案されており(特許文献1及び特許文献2)、更に、特許文献3には、主軸回転速度の変動振幅及び周期をパラメータ化し、びびり振動が生じた際に、パラメータ化した変動振幅及び周期を変更するといった手法が提案されている。
【0004】
また、特許文献3では、びびり振動を抑制する効果がある平均回転速度の候補を下式から求めて、現在の回転速度に近いものから順に予め設定された数だけ表示手段に表示し、オペレータが所望の回転速度に変更するようにした手法が提案され、更に、周期を縦軸に、平均回転速度を横軸にとった平面上に現在の設定値を表示し、びびり振動の抑制効果がある周期と平均回転速度の値、又はその範囲を前記平面上で色付けして表示するようにした手法が開示されている。
R=120/(m(2n−1)N)
但し、Rは回転速度変動周期[s]、mは工具の刃数、nは整数、Nは主軸の平均回転速度[min−1]である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−105277号公報
【特許文献2】特開2000−126991号公報
【特許文献3】特開2012−91283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1〜3に開示される手法では、切削抵抗の変動及び切り取り厚さの変動の周期性を崩すために、主軸の回転速度を所定の変動振幅及び周期で変動させるようにしており、これによって、自励びびり振動が抑制される。したがって、自励びびり振動の効果的な抑制のみを考慮すると、主軸回転速度の変動振幅は、これが大きいほど自励びびり振動が抑制され、逆に、変動周期は、これが短いほど自励びびり振動が抑制される。
【0007】
ところが、主軸回転速度の変動振幅を大きくすると、自励びびり振動を安定して抑制することができるというメリットがある反面、例えば、旋盤の場合には、ワーク1回転あたりの工具の送り量に大きな変動を生じ、また、同様に、マシニングセンタの場合には、工具1回転あたりの送り量に大きな変動を生じ、いずれの場合にも、ワーク加工面の表面粗さが不均一になる、即ち、加工精度が悪化するという問題を生じる。
【0008】
主軸回転速度の変動周期についても同様であり、これが短いほど自励びびり振動が抑制されるというメリットがある反面、主軸回転速度を短い周期で変動させることによって、ワーク加工面の表面粗さにムラを生じて加工精度が悪化することになり、また、消費エネルギーが過大になるという問題も生じる。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、自励びびり振動を適切に抑制しながらも、良好な加工精度を得ることが可能な加工方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、工作機械を用い、その主軸の回転速度を周期的に変動させて、ワークを加工する方法であって、
前記主軸回転速度を周期的に変動させてワークを加工する際の、前記主軸回転速度の速度変動率RVAと、前記主軸回転速度の速度変動周期比RVFと、加工時に工具に生じる振動との三者間の相関データを予め取得し、
得られた前記相関データを基に、前記工具の振動が許容範囲内であり、且つ加工精度が許容範囲内となるような前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定した後、設定した速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを基に、前記主軸回転速度の変動振幅及び変動周期を決定し、
ついで、前記主軸を、目標回転速度を中心とし、前記決定した変動振幅及び変動周期で変動するように回転させて、前記ワークを加工するようにした加工方法に係る。
但し、
RVA=N/N
RVF=2π/(N×T)
であり、Tは主軸回転速度の変動周期[s]であり、Nは主軸回転速度の変動振幅[rad/s]であり、Nは前記目標回転速度、即ち、区間Tにおける主軸回転速度の平均値[rad/s]である。
【0011】
本発明によれば、まず、前記主軸回転速度を周期的に変動させてワークを加工する際の、前記主軸回転速度の速度変動率RVAと、速度変動周期比RVFと、加工時に前記工具に生じる振動との三者間の相関データを予め取得する。
【0012】
この相関データは、加工に用いる工作機械、ワーク及び工具の3次元モデルを用い、CAE解析手法などを用いた加工シミュレーションによって取得することができ、或いは、前記工作機械、ワーク及び工具を用いた実加工下で、工具の変位(振動)を光学変位センサや加速度計などによって測定することにより取得することができる。
【0013】
ついで、得られた前記相関データを基に、前記工具の振動が許容範囲内であり、且つ加工精度が許容範囲内となるような前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定し、設定した速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを基に、前記主軸回転速度の変動振幅及び変動周期を決定する。そして、主軸を、前記目標回転速度を中心とし、前記決定した変動振幅及び変動周期で変動するように回転させて、前記ワークを加工する。
【0014】
斯くして、本発明に係る加工方法によれば、主軸回転速度の速度変動率RVAと、速度変動周期比RVFと、加工時に工具に生じる振動との三者間の相関データを基に、工具の振動が許容範囲内であり、且つ加工精度が許容範囲内となるような速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定するようにしているので、自励びびり振動を適切に抑制しながら、良好な加工精度を得ることができる。
【0015】
尚、前述したように、主軸回転速度の変動周期をより短くする、即ち、前記速度変動周期比RVFをより大きくすれば、自励びびり振動をより安定して抑制することができものの、加工精度が悪化する虞があり、一方、主軸回転速度の変動振幅は、これを小さくする、即ち、速度変動率RVAをより小さくするほど良好な加工精度が得られるものの、自励びびり振動の抑制が不完全なものとなる。そこで、両者のこのような相反的な作用を考慮し、前記工具の許容振動範囲内において、速度変動率RVAをその最小値、速度変動周期比RVFをその最大値に設定すれば、両者の作用のバランスがとれ、自励びびり振動を安定して抑制しつつ、良好な加工精度を得ることが可能となる。
【0016】
他方、上記相反的な作用を踏まえ、加工精度をより重視するのであれば、前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFは、これらを共にその最小値に設定するのが好ましい。このようにすれば、自励びびり振動を適度に抑制しつつ、より良好な加工精度を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明に係る加工方法によれば、主軸回転速度の速度変動率RVAと、速度変動周期比RVFと、加工時に工具に生じる振動との三者間の相関データを基に、工具の振動が許容範囲内であり、且つ加工精度が許容範囲内となるような速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定するようにしているので、自励びびり振動を適切に抑制しながら、良好な加工精度を得ることができる。
【0018】
また、工具の許容振動範囲内において、速度変動率RVAをその最小値、速度変動周期比RVFをその最大値に設定すれば、自励びびり振動を安定して抑制しつつ、良好な加工精度を得ることができ、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを共にその最小値に設定すれば、自励びびり振動を適度に抑制しつつ、より良好な加工精度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る加工方法を実施するための加工モデルを示した説明図である。
図2】本実施形態の加工方法における主軸回転速度の変動振幅及び変動周期を説明するための説明図である。
図3】速度変動率RVAと、速度変動周期比RVFと、工具の変位(振動)との間の相関関係を示した状態図である。
図4】速度変動率RVAと、速度変動周期比RVFと、工具の変位(振動)との間の相関関係を示した状態図である。
図5】速度変動率RVAを0.1として、速度変動周期比RVFを変化させたときの工具の変位を示した説明図である。
図6】速度変動率RVAを0.1、速度変動周期比RVFを0.2に設定したときの工具の変位状態を示した説明図である。
図7】速度変動率RVAを0.1、速度変動周期比RVFを0.4に設定したときの工具の変位状態を示した説明図である。
図8】速度変動率RVAを0.1、速度変動周期比RVFを0.8に設定したときの工具の変位状態を示した説明図である。
図9】主軸の回転速度を示した説明図である。
図10図9に示した回転速度で主軸を回転させたときの工具の加速度(振動)を示した説明図である。
図11図9に示した周期変動期間における工具加速度(振動)の周波数成分を示した説明図である。
図12図9に示した一定速度期間における工具加速度(振動)の周波数成分を示した説明図である。
図13】主軸の回転速度を示した説明図である。
図14図13に示した回転速度で主軸を回転させたときの工具の加速度(振動)を示した説明図である。
図15図13に示した周期変動期間における工具の加速度(振動)の周波数成分を示した説明図である。
図16図13に示した一定速度期間における工具の加速度(振動)の周波数成分を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係る加工方法を実施するための工作機械の概略モデルについて説明する。図1は、当該工作機械の概略モデルを示した説明図である。同図1に示すように、本例の工作機械1は、基台2、この基台2に回転自在に支持されるボールねじ4、ボールねじ4をその軸中心に回転させる送りモータ3、ボールねじ4に螺合し、当該ボールねじ4の回転によってその軸方向(X軸方向)に移動するテーブル5、テーブル5の上方領域に配設される主軸6、主軸6を軸中心に回転させる主軸モータ7、送りモータ3及び主軸モータ7を数値制御する制御装置10、制御装置10から送信される制御信号を基に、これに応じた電力を送りモータ3及び主軸モータ7にそれぞれ供給するドライバ11などからなる。
【0022】
尚、図1では、便宜的に、テーブル5をX軸方向に移動させる送り機構(ボールねじ4及び送りモータ3)のみを図示しているが、当該工作機械1は、この他に、テーブル5と主軸6とを、図示Y軸方向及びZ軸方向に相対的に移動させる送り機構を備えており、この送り機構も前記制御装置10及びドライバ11によってその作動が制御される。
【0023】
斯くして、この工作機械1では、制御装置10の制御下で送りモータ3及び主軸モータ7を含む送り機構によって、テーブル5と主軸6とが直交3軸方向であるX軸,Y軸及びZ軸に沿って相対的に移動する。そして、テーブル5上にワークWを載置し、主軸6に工具8を装着するとともに、当該主軸6を所定の回転速度で回転させた状態で、テーブル5と主軸6とを適宜相対的に移動させることで、ワークWを加工することができる。
【0024】
尚、言うまでもなく、本発明に用い得る工作機械としては、上記の構成に限られるものではなく、NC旋盤の他、工具とワークとの相対的な回転によってワークを切削加工する公知のあらゆる工作機械が含まれる。
【0025】
次に、本実施形態に係る加工方法について説明する。まず、上記工作機械1を使用し、主軸6の回転速度を、図2に示すように、所定の目標回転速度(平均回転速度)N[rad/s]を中心として、所定の変動振幅2×N[rad/s]及び変動周期T[s]で変動させながら加工を行う際に、工具8に生じる振動の値を、変動振幅及び変動周期を変数として予め取得する。そして、主軸回転速度の速度変動率RVAと、主軸回転速度の速度変動周期比RVFと、工具8に生じる振動との三者間の相関データを得る。尚、前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFは、次式によって表される。また、前記回転速度の変動波形としては、図2に示した三角波に限られるものではなく、例えば、正弦波や台形波であっても良い。
RVA=N/N
RVF=2π/(N×T)
【0026】
この相関データは、工作機械1、ワークW及び工具8の3次元モデルを用い、CAE解析手法などを用いた加工シミュレーションによって取得することができ、或いは、前記工作機械1、ワークW及び工具8を用いた実加工下で、工具8の振動を加速度計や光学変位センサなどによって測定することにより取得することができる。尚、前記加工シミュレーションや実加工における切削条件は、実際に予定している切削条件であって、自励びびり振動が発生する切削条件とする。
【0027】
加工シミュレーションによって得られた前記相関データを図3及び図4に示す。図3は、横軸に速度変動率RVAをとり、縦軸に速度変動周期比RVFをとって、工具8の変位(振動)の大きさ(レベル)を、これに応じて色分けした状態図であって、更に、これをグレースケールで表わした状態図である。また、図4は、縦軸に工具8の変位をとり、横軸に速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをとって、同様に、工具8の変位の大きさに応じ色分けして3次元的に表した状態図であって、これをグレースケールで表わした状態図である。色分けは、変位が大きいほど濃い赤色、変位が小さいほど濃い青色、中間を黄色としている。
【0028】
尚、前記加工シミュレーションでは、工具8の送り速度Vsを2×10−3[m/s]、切削幅aを5×10−3[m]、固有切削力Ktを300[MPa]、動的質量Mを10[Ns/m]、機械インピーダンスBを200[Ns/m]、動的剛性Kを5×10[N/m]に設定するとともに、図2に示すように、主軸6の平均回転速度を自励びびり振動が発生する262[rad/s]に設定し、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをそれぞれ0.001以上1.0以下の範囲で変化させた。
【0029】
図3及び図4に示した結果では、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをそれぞれ大きくとるほど工具8の変位、即ち、振動が小さくなることが分かる。また、速度変動率RVAが0.05となる付近を境に急激に工具8の自励びびり振動が抑圧され、速度変動率RVAがこれより小さい領域では、工具8の変位が抑えられていることが分かる。因みに、速度変動率RVAを0.1に固定して速度変動周期比RVFを変化させたときの工具8の変位を図5に示す。この場合、RVFを0.5以上に設定することで、工具8の自励びびり振動が抑えられることが分かる。
【0030】
また、速度変動率RVAを0.1に設定した状態で、速度変動周期比RVFを0.2に設定したときの工具8の変位状態を図6に示し、速度変動周期比RVFを0.4に設定したときの工具8の変位状態を図7に示し、速度変動周期比RVFを0.8に設定したときの工具8の変位状態を図8に示す。図6図8から分かるように、速度変動周期比RVFを0.2又は0.4に設定した場合には、時間経過に伴って工具8の変位量が増大し、自励びびり振動が抑圧できていないが、速度変動周期比RVFを0.8に設定した場合には、工具8の変位量が時間の経過とともに減少しており、自励びびり振動が抑圧されていることが分かる。
【0031】
以上から分かるように、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをそれぞれ大きくとるほど工具8の自励びびり振動を安定して抑制することができる。
【0032】
そして、本例では、上記のようにして得られた速度変動率RVA、速度変動周期比RVF、工具8の変位(振動)の三者間の相関データを基に、工具8の振動が許容範囲であり、加工精度が許容範囲内となるような速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを設定する。
【0033】
例えば、図3及び図4に示した相関データからすると、上述したように、速度変動率RVAが0.3以上であり、且つ速度変動周期比RVFが0.01以上のときに、工具8の振動が許容範囲内に抑圧されていると考えられるので、工具8の振動を許容範囲内に抑えるという面を考慮すると、速度変動率RVAは0.3以上であり、且つ速度変動周期比RVFは0.01以上であるのが好ましい。
【0034】
一方、上式から分かるように、速度変動率RVAを大きくとることは、主軸回転速度の変動振幅を大きくすることであり、このように、主軸回転速度の変動振幅を大きくすると、例えば、旋盤の場合には、ワーク1回転あたりの工具の送り量に大きな変動を生じ、また、同様に、マシニングセンタの場合には、工具1回転あたりの送り量に大きな変動を生じ、いずれの場合にも、ワーク加工面の表面粗さが不均一になる、即ち、加工精度が悪化する傾向にある。したがって、加工精度面を考慮すると、速度変動率RVAはできるだけ小さい方が好ましい。
【0035】
また、速度変動周期比RVFを大きくとることは、主軸回転速度の変動周期を小さくすることであり、このように、主軸回転速度の変動周期を小さくする、即ち、主軸回転速度を短い周期で変動させると、ワーク加工面の表面粗さにムラを生じ、この場合にも、加工精度が悪化する傾向にある。ただ、主軸回転速度の変動振幅を大きくした場合に比べて、加工精度に与える影響度は低い。
【0036】
以上から、本例では、工具8の許容振動範囲内において、速度変動率RVAをその最小値、速度変動周期比RVFをその最大値に設定する。例えば、図3及び図4に示した相関データを基にすると、速度変動率RVAは0.3に設定され、速度変動周期比RVFは1.0に設定される。
【0037】
次に、設定した速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを基に、主軸回転速度の変動振幅N及び変動周期Tを決定する。そして、制御装置10による制御の下で、主軸6を、平均(目標)回転速度Nを中心とし、前記決定した変動振幅N及び変動周期Tで変動するように回転させて、前記ワークWを加工する。尚、変動振幅N及び変動周期Tは、上式を変形した下式によって算出することができる。
=N×RVA
T=2π/(N×RVF)
【0038】
例えば、N=262[rad/s]、RVA=0.3、RVF=1.0とした上記の例では、
=N×RVA=262×0.3=78.6[rad/s]
T=2π/(N×RVF)=2π/(262×1.0)=0.024[s]
となる。
【0039】
斯くして、本例の加工方法によれば、主軸回転速度の速度変動率RVAと、主軸回転速度の速度変動周期比RVFと、加工時に工具に生じる振動との三者間の相関データを基に、前記工具8の許容振動範囲内において、速度変動率RVAをその最小値、速度変動周期比RVFをその最大値に設定しているので、自励びびり振動を安定的に抑制した状態で、良好な加工精度を得ることができる。
【0040】
尚、上述したように、速度変動周期比RVFを大きくする、即ち、主軸回転速度を短い周期で変動させると、ワーク加工面の表面粗さにムラを生じ、加工精度が悪化する傾向にある。したがって、加工精度面をより重視するのであれば、前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFは、前記工具8の許容振動範囲内において、これらを共にその最小値に設定しても良い。このようにすれば、自励びびり振動を適度に抑制しつつ、より良好な加工精度を得ることができる。
【0041】
因みに、主軸6を図9に示す回転速度で回転させて、ワークWを前記切削条件で加工し、その際の工具8の振動を加速度センサによって検出した、その結果を図10に示す。尚、図9に示した主軸6の回転速度は、平均回転速度Nを262[rad/s]とし、切削開始後約6[s]間は、速度変動率RVAを0.3、速度変動周期比RVFを0.01に設定して、回転速度を周期的に変動させ、その後、一定の回転速度とした。但し、図9中のωは主軸6の実回転速度であり、ωrefは主軸モータ7への入力値である。
【0042】
そして、得られた工具8の振動データをスペクトル解析した。その結果を、図11及び図12に示す。図11は、回転速度を周期変動させた期間の工具8の加速度(振動)の周波数成分を示し、図12は、回転速度を一定速度とした期間の工具8の加速度(振動)の周波数成分を示している。これら、図11及び図12から分かるように、速度変動率RVAが0.3、速度変動周期比RVFが0.01となるように、主軸6の回転速度を周期的に変動させることで、工具8の自励びびり振動を抑圧することができる。
【0043】
また、主軸6を図13に示す回転速度で回転させて、ワークWを前記切削条件で加工し、その際の工具8の振動を加速度センサによって検出した。その結果を図14に示す。尚、図13に示した主軸6の回転速度は、平均回転速度Nを262[rad/s]とし、切削開始後約5[s]間は、速度変動率RVAを0.4、速度変動周期比RVFを0.02に設定して、回転速度を周期的に変動させ、その後、一定の回転速度とした。但し、図13中のωは主軸6の実回転速度であり、ωrefは主軸モータ7への入力値である。
【0044】
そして、得られた工具8の振動データをスペクトル解析した。その結果を、図15及び図16に示す。図15は、回転速度を周期変動させた期間の工具8の加速度(振動)の周波数成分を示し、図16は、回転速度を一定速度とした期間の工具8の加速度(振動)の周波数成分を示している。これら、図15及び図16から分かるように、速度変動率RVAが0.4、速度変動周期比RVFが0.02となるように、主軸6の回転速度を周期的に変動させることで、工具8の自励びびり振動を抑圧することができる。
【0045】
以上、詳述したように、本例の加工方法によれば、主軸回転速度の速度変動率RVAと、主軸回転速度の速度変動周期比RVFと、加工時に工具に生じる振動との三者間の相関データを基に、工具の振動が許容範囲内であり、且つ加工精度が許容範囲内となるような速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値を設定する、即ち、工具の許容振動範囲内において、速度変動率RVAをその最小値、速度変動周期比RVFをその最大値に設定する、或いは、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを共にその最小値に設定するようにしているので、自励びびり振動を適切に抑制しながら、良好な加工精度を得ることができる。
【0046】
以上、本発明の具体的な実施の形態について説明したが、本発明が採り得る態様は何らこれに限られるものではない。
【0047】
例えば、上例では、工具8の許容振動範囲内において、速度変動率RVAをその最小値、速度変動周期比RVFをその最大値に設定する、或いは、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFを共にその最小値に設定するようにしたが、これに限られるものではなく、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFの値は、工具の振動が許容範囲内であり、且つ加工精度が許容範囲内となるような値であれば良い。
【符号の説明】
【0048】
1 工作機械
2 基台
3 送りモータ
4 ボールねじ
5 テーブル
6 主軸
7 主軸モータ
8 工具
10 制御装置
11 ドライバ
W ワーク
図1
図2
図3
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