特許第6139416号(P6139416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6139416水和物形成バインダーのための固化遅延剤
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  • 特許6139416-水和物形成バインダーのための固化遅延剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139416
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】水和物形成バインダーのための固化遅延剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/12 20060101AFI20170522BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20170522BHJP
   C04B 28/14 20060101ALI20170522BHJP
   C04B 103/22 20060101ALN20170522BHJP
【FI】
   C04B24/12 Z
   C04B24/04
   C04B28/14
   C04B103:22
【請求項の数】22
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-557107(P2013-557107)
(86)(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公表番号】特表2014-510010(P2014-510010A)
(43)【公表日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】EP2012054052
(87)【国際公開番号】WO2012123340
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2015年3月2日
(31)【優先権主張番号】11157796.1
(32)【優先日】2011年3月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ ハンペル
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク ツィンマーマン
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0056409(US,A1)
【文献】 特開2001−261395(JP,A)
【文献】 特開昭62−041747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)オリゴペプチドではないアミノ酸及び/又はアミノ酸誘導体を含む第一の反応体Aと、
(b)アミンがないカルボン酸、及び/又はアミンがないカルボン酸誘導体を含む第二の反応体Cと
を反応させて、反応生成物を形成し、ここで、前記反応を、7.5〜11.5のpH値の範囲内に保たれるように行う、水和物形成バインダーのための固化遅延剤を製造する方法。
【請求項2】
前記アミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、リシン塩酸塩、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及び/又はアミノブタン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ酸が、リシン及び/又はトレオニンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
反応体Cが、アミンがないカルボン酸誘導体を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アミンがないカルボン酸誘導体が、アミンがない無水カルボン酸及びカルボン酸エステルからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アミンがないカルボン酸誘導体が、アミンがない無水カルボン酸である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記無水カルボン酸が、無水コハク酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応体AとCとを反応させて、アミドを形成する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応体AとCとを反応させて、ジアミドを形成する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
反応体AとCとを反応させて、ジ−生成物を形成する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
1molの反応体A当たりに、1.5〜3molの反応体Cを反応させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1molの反応体A当たりに、1.8〜2.5molの反応体Cを反応させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
1molの反応体A当たりに、2.0molの反応体Cを反応させる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記反応を、20〜60℃の温度で行う、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも一つの塩基を反応混合物に加える、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一つの塩基が、アルカリ水酸化物、アルカリ土類水酸化物、及び/又はアルカリ土類酸化物の一つ以上を含んでいる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも一つの塩基が、アルカリ土類水酸化物及び/又はアルカリ土類酸化物を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも一つの塩基が、CaO及び又はCa(OH)を含み、又はこれらから成る、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第一のプロセス工程において、反応体Aの水溶液を調製し、塩基を加えることによって、pHを7.5〜11.5に調節する、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
更なるプロセス工程において、塩基の部分的な量、及び反応体Cの部分的な量を交互に加える、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法で固化遅延剤を製造し、そして水和物形成バインダーと混合する、水和物形成バインダー組成物の製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法によって得られたバインダー組成物と水とを混合すること、及びこれを固化することを含む、成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水和物形成バインダーのための固化遅延剤を製造する方法、及び対応する固化遅延剤に関する。本発明は更に、固化遅延剤を含むバインダー組成物、及び上記のバインダー組成物を製造する方法に関する。本発明の更なる側面は、水和物形成バインダーの固化開始を遅延させる、固化遅延剤の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
多量の水和物形成バインダー、例えばセメント、石灰、及び石膏材料が、例えば建築産業において使用されている。
【0003】
石膏材料、焼成石膏、及び石膏は、単独で、又は石灰、砂、及び軽量集合体と組み合わせて用いられる。しかしながら、いったん水と混合された石膏材料の固化時間は比較的短く、更なる方法を実施しない限り、非常にすばやく処理を行わなければならない。しかしながら、これらの材料と固化遅延剤とを混合することによって石膏材料の固化開始を遅延させ、それによって材料の処理可能性を改善することが知られている。公知の固化遅延剤としては、例えば、果物酸、例えば酒石酸、及びクエン酸のほか、タンパク質加水分解物、例えば商業的に入手可能なPlast Retard L(Sicit 2000 S.p.Aから入手可能)も挙げられる。
【0004】
この点について、特許文献1(Tricosal社)は、例えば、アミノ酸化合物と、カルボン酸又はカルボン酸誘導体とに基づく付加体の形態の、固化遅延剤を記載している。この付加体は、アミノ酸化合物と、カルボン酸又カルボン酸誘導体とを、水溶液中で反応させることによって製造される。
【0005】
公知の固化遅延剤は非常に効果的であるが、特に水と混合した後の固化開始を更に遅延させる、改善された固化遅延剤に対する必要性が未だ存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2108628A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明によって解決される課題は、改善された固化遅延剤、及びその製造方法を提供することである。特に、本発明に従って製造することができる固化遅延剤は、水和物形成バインダー、特に石膏の固化開始を、できる限り遅延させることを目的とする。本方法は更に、可能性のある改善された固化遅延剤の、最も信頼でき、再現性があり、かつ安全な製造を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
方法に関する課題は、下記の〈1〉項の特徴による本発明によって解決される。固化遅延剤に関する課題は、下記の〈13〉項の特徴によって解決される。

【0009】
本発明による方法の主な特徴は、2つの反応体AとCとの反応を、7.5〜11.5、好ましくは8〜11、特に8.5〜10.5のpH値で行うということである。これは、特に、反応の間、pH値を特定の範囲内で一定に保つことを意味する。これは、2つの反応体AとCとの反応の、全継続時間について同様である。予想外にも、この態様で製造した固化遅延剤は、公知の方法に従って製造した固化遅延剤と比較して、水和物形成バインダー、特に石膏の固化開始を著しく遅延できることが分かった。これは、特に、ジ―生成物、特にジアミドの形態の固化遅延剤にあてはまる。更に、本発明による方法は、極めて信頼でき、容易に実施できることが判明した。特に、本発明による方法は、改善された性能を有する固化遅延剤の、再現性がある製造を可能にする。
【0010】
本発明の更なる態様は、下記の更なる独立項の対象である。本発明の特に好ましい実施形態は、下記の従属項の対象である。
〈1〉(a)アミノ酸、及び/又はアミノ酸誘導体を含む第一の反応体Aと、
(b)アミンがないカルボン酸、及び/又はアミンがないカルボン酸誘導体を含む第二の反応体Cと
を反応させて、反応生成物を形成し、ここで、上記反応を、7.5〜11.5、好ましくは8〜11、特に8.5〜10.5のpH値で行う、水和物形成バインダーのための固化遅延剤を製造する方法。
〈2〉上記アミノ酸がリシン及び/又はトレオニン、特にリシンである、上記〈1〉項に記載の方法。
〈3〉反応体Cがアミンがないカルボン酸誘導体、特に無水カルボン酸を含む、上記〈1〉又は〈2〉項のいずれかに記載の方法。
〈4〉上記無水カルボン酸が無水コハク酸である、上記〈3〉項に記載の方法。
〈5〉反応体AとCとを反応させて、アミド、特にジアミドを形成する、上記〈1〉〜〈4〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈6〉上記反応を20〜60℃、好ましくは35〜55℃、特に好ましくは40〜50℃の温度で行う、上記〈1〉〜〈5〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈7〉少なくとも一つの塩基を反応混合物に加える、上記〈1〉〜〈6〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈8〉上記塩基が、アルカリ水酸化物、アルカリ土類水酸化物、及び/又はアルカリ土類酸化物の一つ以上を含んでおり、ここで、上記塩基は、特にNaOH、KOH、CaO、及び/又はCa(OH)を含んでおり、特に水溶液の形態で加える、上記〈7〉項に記載の方法。
〈9〉第一のプロセス工程において、反応体Aの水溶液を調製し、塩基を加えることによって、pHを7.5〜11.5、好ましくは8〜11、特に8.5〜10.5に調節する、上記〈7〉又は〈8〉項のいずれかに記載の方法。
〈10〉更なるプロセス工程において、塩基の部分的な量、及び反応体Cの部分的な量を交互に加え、かつ任意にその後のプロセス工程において、反応混合物を、特に噴霧乾燥によって乾燥させる、上記〈7〉〜〈9〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈11〉反応の間、pH値を7.5〜11.5、好ましくは8〜11、特に8.5〜10.5の範囲内で一定に保つ、上記〈1〉〜〈10〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈12〉上記〈1〉〜〈11〉項のいずれか一項に記載の固化遅延剤を製造し、そして水和物形成バインダー、特に石膏と混合する、水和物形成バインダー組成物の製造方法。
〈13〉上記〈1〉〜〈11〉項のいずれか一項に記載の方法によって得られる、特に水和物形成バインダーのための固化遅延剤であって、特に、上記固化遅延剤が液体又は固体の形態、特に粉末の形態である、固化遅延剤。
〈14〉上記〈13〉項に記載の固化遅延剤と、水和物形成バインダー、特に石膏とを含む、バインダー組成物。
〈15〉上記〈14〉項に記載のバインダー組成物と水とを混合し、そしてこれを固化させることにより得られる、成型体。
〈16〉水和物形成バインダー、特に石膏の固化開始を遅延させるための、上記〈13〉項に記載の固化遅延剤の使用。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例の説明のために用いるものであり、かつ異なる固化遅延剤を含む水性の石膏混合物の、時間の関数としての温度変化を表している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一の側面は、特に、水和物形成バインダーのための固化遅延剤を製造する方法であって、(a)アミノ酸、及び/又はアミノ酸誘導体を含む第一の反応体Aと、(b)アミンがないカルボン酸、及び/又はアミンがないカルボン酸誘導体を含む第二の反応体Cとを反応させて、反応生成物を形成する方法に関する。ここで、この反応は、7.5〜11.5、好ましくは8〜11、特に8.5〜10.5のpH値で行う。
【0013】
本明細書における表現「水和物形成バインダー」は、特に、水の存在下において水和反応で反応して、固体水和物又は水和相を形成するバインダーを指す。これらは、例えば、水硬性バインダー(例えば、セメント、又は水硬性石灰)、潜在水硬性バインダー(例えば、スラグ、又はフライアッシュ)、又は非水硬性バインダー(石膏、又は白石灰)とすることができる。
【0014】
水和物形成バインダーは、好ましくは石膏を含み、又は石膏から成る。この文脈における用語「石膏」は、任意の公知の形態の石膏の、特に硫酸カルシウム―α―半水和物、硫酸カルシウム―β―半水和物、硫酸カルシウム無水石膏、及び/又はこれらの混合物を指す。本発明に関して、硫酸カルシウム―β―半水和物が特に有利であることが分かる。
【0015】
バインダーは、例えば砂、砂利、及び/又は砕いた石である集合体と1又複数種の水和物形成バインダーとの混合物であることもできる。
【0016】
本願における用語「反応」は、特に、反応体AとCとの間の化学結合、好ましくは共有化学結合が形成される、2つの反応体AとCとの化学反応を指す。
【0017】
反応体Aは、アミノ酸、及び/又はアミノ酸誘導体を含む。これは、例えば、タンパク質加水分解物、純粋なアミノ酸、アミノ酸混合物、及び/又はこれらの塩酸塩とすることができる。反応体Aは、アミノ酸及び/又はアミノ酸誘導体と、更なる化合物との混合物とすることもできる。反応体Aは、有利にはアミノ酸から成る。
【0018】
本明細書において、用語「アミノ酸」は、特に、少なくとも一つのカルボキシル基(―COOH)及び少なくとも一つのアミン基(―NH)を有し、特に、これらが双性イオンのアンモニウムカルボキシレートとして存在する化合物として理解される。特に適切なものは、カルボキシル基で終端し、これに直接にビシナルアミン基又はアミン基がα位で隣接している、α―アミノ酸である。この場合、カルボキシル基を脱プロトン化することができ、例えば、任意にカウンターイオン、例えば金属カチオンを付加することができる。アミン基は、プロトン化された形態で存在することもできる。
【0019】
1つの好ましい実施形態によれば、アミノ酸は、正確に1つのカルボキシル基、及び正確に2つのアミン基を有する。上記のように、これらは、プロトン化及び/又は脱プロトン化された形態で存在することができる。このように、反応体Cを用いて、特に有効な固化遅延剤となることが判明しているジ―生成物を製造することができる。
【0020】
アミノ酸は、特に、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、リシン塩酸塩、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及び/又はアミノブタン酸からなる群から選択される。
【0021】
特に好ましい一実施形態において、アミノ酸は、リシン、及び/又はトレオニンである。リシンが特に好ましい。そのようなアミノ酸によって、特にリシンによって、本発明の利点は特に明らかとなる。
【0022】
反応体Cは、アミンがないカルボン酸、及び/又はアミンがないカルボン酸誘導体を含む。本発明に関して用語「カルボン酸」は、特に、モノ―、ジ―、又はポリカルボン酸を表す。本発明に関して、モノカルボン酸は正確に1つのカルボキシル基を有し、ジカルボン酸は正確に2つのカルボキシル基を有し、かつポリカルボン酸は少なくとも3つのカルボキシル基を有する。カルボキシル基は、例えば、脱プロトン化された形態で存在することができ、例えば任意にカウンターイオン、例えば金属カチオンを付加することができる。
【0023】
本願に関して、カルボン酸は、アミンがないカルボン酸である。換言すれば、これは、カルボン酸がアミノ酸から誘導されないこと、及び/又はアミン基を有していないことを意味する。したがって、アミンがないカルボン酸誘導体もまた、アミン基を有していない。
【0024】
特に好ましくは、アミンがないジカルボン酸、及び/又はこれらの誘導体、特にジカルボン酸の分子内酸無水物を用いる。反応体C、例えばアミノ酸、特にリシンとの、対応する反応は、結果として、簡単な様式で、本発明に関して有利であることが判明している遊離カルボキシル基を有する反応生成物をもたらす。
【0025】
反応体Cは、例えば、純粋な、アミンがないカルボン酸、及び/又は純粋な、アミンがないカルボン酸誘導体であることができる。様々なアミンがないカルボン酸、及び/又はアミンがないカルボン酸誘導体の混合物もまた可能である。反応体Cは、他の化合物との混合物の形態で提供することもできる。しかしながら、好ましくは、化合物Cとして、アミンがないカルボン酸、及び/又はアミンがないカルボン酸誘導体を用いる。
【0026】
アミンがないカルボン酸誘導体は、好ましくは、無水カルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、及び/又はカルボン酸エステルからなる群から選択される。
【0027】
特に、アミンがないカルボン酸、及び/又はアミンがないカルボン酸誘導体は、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、1,3―ジプロピオン酸、ブタン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、ピロメリト酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、並びに/又はこれらの化合物の酸ハロゲン化物、酸無水物及び/若しくはエステルからなる群から選択される。
【0028】
反応体Cは、有利には、アミンがないカルボン酸誘導体、特にアミンがない無水カルボン酸を含むことが分かっている。特に好ましくは、無水カルボン酸は、無水コハク酸である。特に、2つのアミン基を有するアミノ酸、例えばリシンと組み合わせた場合、高純度の、特に有効な固化遅延剤を、高収率で製造することができる。
【0029】
反応体AとCとが反応して、特にアミド、好ましくはジアミドを形成する。特に好ましくは、反応体AとCとが反応して、例えば、特に反応体A、換言すればリシン1mol当たりに、1.5〜3molの反応体C、例えば無水コハク酸が反応して、ジ―生成物を形成する。より好ましくは、1molの反応体A当たりに1.8〜2.5mol、特に好ましくは2.0molの反応体Cが反応する。
【0030】
反応は、20〜60℃、好ましくは35〜55℃、特に好ましくは40〜50℃の温度において、有利に行えることが分かっている。そのような温度範囲内で、本発明のpHの範囲内において、明確に定義された反応生成物の特に高い収率を得ることができる。
【0031】
反応は、特に、水溶液中で行う。
【0032】
特に、少なくとも一つの塩基を反応混合物に加える。例えば、適切な塩基としては、アルカリ水酸化物、アルカリ土類水酸化物、及び/又はアルカリ土類酸化物が挙げられる。少なくとも一つの塩基としては、有利には、NaOH、KOH、Ca(OH)、及び/又はCaOが挙げられ、これらは特に水溶液の形態で加える。この種類の塩基は、本発明に関して特に適切であることがわかった。水溶液の適切な濃度は、例えば、水中に塩基が40〜60質量%である。しかしながら、原則として、他の塩基を用いることもできる。しかしながら、場合によっては、これらは反応を妨げる。
【0033】
1つの好ましい実施形態によれば、塩基は、NaOH及び/又はKOHを含み、又はこれらから成る。NaOHが好ましい。この実施形態については、液体固化遅延剤を、効率的に製造することができる。
【0034】
他の1つの好ましい実施形態において、塩基は、CaO及び/又はCa(OH)を含み、又はこれらから成る。任意に、CaO及び/又はCa(OH)と、NaOH及び/又はKOHとの混合物を用いることもできる。この変形については、反応が完了した後で固化遅延剤を乾燥させることによって、例えば、噴霧乾燥で乾燥させることによって、固体の、特に粉末の生成物が得られることが分かった。
【0035】
保管条件及び固化遅延剤の用途によっては、液体状態の固化遅延剤、又は固体若しくは粉末の形態の固化遅延剤のいずれかが有利であることがある。
【0036】
特に、反応の間に反応溶液のpH値が7.5〜11.5、特に8〜11、特に好ましくは8.5〜10.5の範囲内に一定に保たれるような様式で、反応体A及びC、並びに任意に塩基を、反応の間に計量添加する。特に有利な実施形態によれば、最初のプロセス工程において、反応体Aの水溶液を調製し、塩基を添加することによってpHを7.5〜11.5、特に8〜11、特に好ましくは8.5〜10.5に設定する。更なるプロセス工程において、有利には、塩基の部分的な量、及び反応体Cの部分的な量を交互に加える。特に、部分的な量は、反応の間に反応溶液のpH値が7.5〜11.5、特に8〜11、特に好ましくは8.5〜10.5の範囲内にとどまるように測定する。このようにして、pH値の変動を最適に補償することができ、それによって反応の収率を改善し、最終的に固化遅延剤の性能を増大する。
【0037】
しかしながら、反応体A及び/若しくは反応体C、並びに/又は任意に使用する塩基を、連続的に加えることもできる。この場合、pH値は、例えば異なる添加割合を用いて調整することができ、又は7.5〜11.5、特に8〜11、特に好ましくは8.5〜10.5の範囲内で一定に保つことができる。この様式で得られた固化遅延剤の水溶液は、反応が完了した後、直ちに本態様で使用することができる。固化遅延剤を製造した後、反応溶液を処理する必要はない。
【0038】
このように製造した液体固化遅延剤は、任意に、更なるプロセス工程、乾燥プロセス、好ましくは噴霧乾燥プロセスを受けることができる。これは特に、塩基としてアルカリ土類水酸化物、及び/又はアルカリ土類酸化物、例えば、CaO及び/又はCa(OH)の一つ以上を用いて反応を行う場合に、行われる。これによって、固化遅延剤を、より有効な態様で、ペースト状の又は固体の材料、特に粉末の生成物へと変えることができる。
【0039】
適切な乾燥方法は、当業者に知られている。この点において特に有利な噴霧乾燥において、乾燥すべき生成物は、通常、ノズル又は回転ディスクアトマイザーを介して、熱い気流へと導入し、ここで、細かい粉末へと乾燥し、そして例えば遠心セパレータを用いて分離し、取り出すことができる。
【0040】
噴霧乾燥を行う際に、好ましくは石灰石の粉末、リグニンスルホネート、タルク、ケイ酸、ポリアクリレート、及び/又はポリビニルアルコールからなる群から選択される、少なくとも一つの噴霧添加剤を、噴霧乾燥の前及び/又はその間に加えることが有利であることがある。
【0041】
本発明の更なる側面は、固化遅延剤を前述のように製造し、そして水和物形成バインダー、特に石膏と混合する、水和物形成バインダー組成物の製造方法に関する。
【0042】
乾燥形態の水和物形成バインダー100質量%に対して、有利には、0.001〜0.5質量%、好ましくは0.001〜0.1質量%の固化遅延剤を加える。
【0043】
本発明は更に、特に水和物形成バインダーのための、上述の方法によって得ることができる固化遅延剤に関する。この種類の固化遅延剤は、公知の方法に従って製造した固化遅延剤と比較して、特に効果的であることが分かった。適切に反応を行う場合、2つの反応体AとCとを反応させて、結果として高収率にできることが分かっている。効果的でない第二の生成物、又は固化遅延剤の遅延効果を減少させる第二の生成物(例えば、未反応の反応体A及びC)の割合は、これによって極めて低く保つことができる。固化遅延剤の総モル量に関して、固化遅延剤は、有利には、少なくとも90mol%、好ましくは少なくとも95mol%、特に好ましくは少なくとも98mol%の、2つの反応体A及びCの反応生成物から成る。
【0044】
この点について、反応生成物は特に好ましくは、ジ―生成物であり、2モル分率の反応体Cと、1モル分率の反応体Aとから形成される。ジ―生成物は特に、ジアミドであり、2モル分率の無水コハク酸と、1モル分率のリシンとから形成される。本発明による反応に基づいて、ジ―生成物又はジアミドを高収率で得ることができ、ここで、固化遅延剤中の未反応の反応体A、C、及び/又はモノ生成物(例えば、1モル分率のリシン、及び1モル分率の無水コハク酸から成る)の比率は極めて低い。驚くべきことに、本発明の固化遅延剤の遅延効果は、この態様において著しく改善させることができる。
【0045】
固化遅延剤のpH値は、有利には7〜11、特に8〜9の範囲である。水和物形成バインダー、特に石膏における最適な遅延効果は、この態様において達成される。
【0046】
所望により、レオロジー剤、溶媒、消泡剤、促進剤、充填材、乾燥剤、染料、防腐剤、錆抑制剤、疎水化剤、及び/又は色素からなる群のうちの一つ以上の添加剤を、固化遅延剤に加えることができる。
【0047】
特に有利には、防腐剤を固化遅延剤に加える。これは、保管安定性を著しく向上させることができる。
【0048】
好ましい一実施形態において、固化遅延剤は液体状態で提供する。他の有利な実施形態によれば、固化遅延剤はペースト状、又は固体生成物、特に粉末から成る。
【0049】
本発明の更なる側面は、本発明による固化遅延剤と、水和物形成バインダー、特に石膏とを含む、バインダー組成物に関する。乾燥形態の水和物形成バインダー100質量%に対して、バインダー組成物は、有利には、0.001〜0.5質量%、好ましくは0.001〜0.1質量%の固化遅延剤を含む。本発明によって製造された固化遅延剤に基づいて、この種類のバインダー組成物は、水と混合した後、バインダーが固化し始める前に、予想外に長時間にわたって処理することができる。
【0050】
バインダー組成物を含む固化遅延剤と組み合わせて、上記に特定した添加剤を混合することもできる。
【0051】
この種類のバインダー組成物は、水を加えた後に固まり、水和相を形成する。したがって、バインダー組成物と水とを混合し、そして固化させることによって、成型体を製造することができる。水と混合したバインダー組成物は、原則として、任意の型にキャストすることができ、その結果、ほとんど任意の形状の成型体を製造することができる。
【0052】
固化遅延剤は、特に、水和物形成バインダー又は組成物の固化を遅延させることに適している。固化遅延剤は、水和物形成バインダー又は水和物形成組成物の調製の前に、調製の間に、及び/又は調製の後に加える。更なる有利な実施形態、及び本発明の特徴の組合せを、以下の実施形態の例において、及び特許請求の範囲の全体にわたって、特定する。
【実施例】
【0053】
《製造例1》
第一のプロセス工程において、室温で、320gのリシン(反応体A)を反応容器に入れ、792gの水を撹拌しながら加えた。次に、希釈した塩基を、水中の50質量%NaOHの溶液の形態で、反応溶液が10.5のpHに達するまで加えた。次に、混合物の温度を約45℃に調節した。
【0054】
その後のプロセス工程において、反応溶液のpH値が8.5〜10.5の範囲内に一貫して留まるようにして、無水コハク酸(反応体C)、及び希釈した塩基(水中の50質量%NaOH)の部分的な量を交互に加えた。添加の間、温度を40〜50℃の範囲内で一定に保った。加えた無水コハク酸の総量は220.8gであり、加えた希釈した塩基の総量は264g(第一のプロセス工程の間に加えた塩基を含む)であった。無水コハク酸の総量、及び希釈した塩基の総量を添加すると、反応溶液のpH値は8〜9であった。
【0055】
次に反応溶液を、40〜50℃の温度で更に約30分間攪拌し、次に撹拌しながら冷却した。このようにして製造した溶液は、更なる処理をすることなく、水和物形成バインダーの固化遅延剤として直接用いることができる。以下、これを固化遅延剤AE1と言及する。
【0056】
《製造例2(比較例)》
比較のために、更なる固化遅延剤を、製造例1と類似の様式で製造した。しかしながら、製造例1とは対照的に、希釈した塩基の総量を、第一のプロセス工程において、一度に直接加えた。次に第二のプロセス工程において、無水コハク酸の総量もまた、一度に加えた。反応溶液のpH値は、反応の開始時に11.5を著しく越え、反応溶液の温度上昇を伴って、不活性レベルまで、著しく7.5以下の値まで、ほんの数分以内に、反応の間に急速に減少した。このようにして製造した固化遅延剤は、以下、固化遅延剤AVとして言及する。
【0057】
製造例2は、本質的に、特許文献1に記載されている方法に対応している。
【0058】
《製造例3》
第一のプロセス工程において、室温で、800gのリシン(反応体A)を反応容器に入れ、2000gの水を撹拌しながら加えた。次に50gのCa(OH)を加えた。Ca(OH)を加えた後の溶液のpH値は10〜11.5であった。次に、混合物の温度を約45℃に調節した。
【0059】
その後のプロセス工程において、反応溶液のpH値が8.5〜10.5の範囲内に継続的に保たれるようにして、無水コハク酸(反応体C)、及び希釈した塩基(水中の50質量%NaOH)の部分的な量を交互に加えた。添加の間、温度を40〜50℃の範囲内で一定に保った。加えた無水コハク酸の総量は552gであり、加えた希釈した塩基の総量は650gであった。全ての無水コハク酸、及び全ての希釈した塩基を添加すると、反応溶液のpH値は7〜8であった。
【0060】
次に反応溶液を、40〜50℃の温度で約30分間攪拌し、次に撹拌しながら冷却した。
【0061】
このようにして製造した溶液は、噴霧乾燥器内で粉末にすることができた。この粉末は、以下、AE2として言及する。
【0062】
《石膏の比較実験》
水性の石膏混合物中での様々な固化遅延剤の性能を試験した。
【0063】
石膏混合物を製造するために、室温で、硫酸カルシウム―β―半水和物(雪花石膏Almod BCL8098)を、石膏に対して0.6の質量比で水を用いて、スラリー化し、0.02質量%のAmylotex(例えばAqualonから入手可能な澱粉エーテルベースの増粘剤)と混合した。Amylotexの量は、いずれの場合においても硫酸カルシウム―β―半水和物に対するものである。この目的に関して、下記の表1に掲げた固化遅延剤の各々は、硫酸カルシウム―β―半水和物に対する0.029質量%の濃度で混合した。全ての石膏混合物を、本質的に同一の条件下で製造して、様々な固化遅延剤を形成した。
【0064】
【表1】
【0065】
次に、新たに調製した石膏混合物G1〜G5の、時間の関数としての温度変化を、公知の様式で測定した。図1は、対応する温度プロファイルを表す。この図のx軸は、それぞれの石膏混合物G1〜G5の製造から経過した時間を示しており、y軸は、新たに製造した石膏混合物の温度(室温)との温度差を示す。全ての測定は、本質的に同一の条件下で行った。
【0066】
図1から明らかなように、本発明の固化遅延剤AE1及びAE2を含む石膏混合物G1及びG3は、最良の遅延効果を有した。約115分が経過するまで、温度の著しい増加、すなわちそれぞれの石膏混合物の固化開始は観察されなかった。固化遅延剤AE2(石膏混合物G3)は、固化遅延剤AE1(石膏混合物G1)よりさらに効果的であった。全て従来の固化遅延剤を含む残りの石膏組成物G2、G4、及びG5が遅延させることができた固化開始は、最高でもわずか95分であった。したがって、本発明によって製造した固化遅延剤は、公知の遅延剤より少なくとも20%、処理時間の延長を可能にする。
【0067】
上述の実施形態例は単に例示を意図し、本発明の範囲内において、任意の方法で変更することができる。
【0068】
例えばリシンの代わりに又はリシンに加えて、異なるアミノ酸及び/又はアミノ酸誘導体、例えばトレオニンを使用することができる。無水コハク酸の代わりに又は無水コハク酸に加えて、他のカルボン酸誘導体及び/又はカルボン酸を用いることもできる。例えば、固化遅延剤を、石膏以外の水和物形成バインダー中で使用することもできる。
【0069】
添加剤、特に防腐剤を、本発明による固化遅延剤と混合することが有利である可能性もある。適切な材料は、当業者に知られている。
図1