(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2つのアーム導波路をそれぞれ通る前記プラズモンを構成する電子の波に所定の位相差を与えるように、前記磁場発生手段が前記磁場を制御する磁場制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の変調器。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0015】
(動作原理)
最初に、本発明の動作原理を説明する。誘電体と金属との界面に光を入射すると、光の電界振動により金属中の自由電子が集団的に振動し、電子密度の疎密波として界面方向に伝搬することが知られている。この電子密度の疎密波をプラズモンという。プラズモンは、光の回折限界の拘束を受けないため、光の波長よりも小さい領域に閉じ込めることが可能となる。
【0016】
図1(a)は、光の波形1を示す模式図である。
図1(b)は、光の入射前の金属中の電子の波形2を示す模式図である。ここでは、簡略化のため、
図1(b)は、個々の電子の波(電子波ともいう)は位相が揃った状態(すなわち、コヒーレントな状態)を示している。そのため、
図1(b)に示す波形1は、多数の電子波が重畳されたものであって、1つの電子波の振幅のみが大きくなった形状となっている。
【0017】
金属に光が入射すると、入射光の電界振動により電子密度に疎密が発生するため、
図1(a)に示す光の波形1にしたがって
図1(b)に示す金属中の電子の波形2の振幅が変化する。
図1(c)は、光の入射後の金属中の電子の波形2’を示している。このように入射光により変化した電子の波形2’の包絡線(波形1’)が、電子密度の疎密波であるプラズモンの波形を示す。なお、
図1(a)〜(c)は、見やすさを考慮し、実際の波長とは異なる波長を示している。実際の電子密度の疎密波(波形1’)の波長はμmオーダーの長さであるのに対して、電子の波(波形2’)の波長はその千分の一以下(サブnmオーダー、例えば0.5nm程度)の長さである。すなわち、波形1’の一の波の中には、波形2’の千以上の波が含まれることになる。
【0018】
プラズモンを構成する個々の電子には、量子干渉効果によって位相変化を起こすことができる。本発明は、プラズモンの干渉に、従来のようなEO効果やTO効果による伝搬定数変化を用いるのではなく、プラズモンを構成する個々の電子の量子力学的波動の位相を変化させる量子干渉効果を用いる。従来のプラズモン変調器は電子の疎密波であるプラズモンの波(
図1(c)の波形1’に対応)の伝搬定数を変化させるものであった。それに対して、本発明では電子波(
図1(c)の波形2’に対応)の位相を変化させる。そのため、本発明では変調の対象が波長の小さい電子波であるため、従来よりも変調器の小型化が可能になる。また、変調器のサイズを小さくすることによって回路のCR時定数が小さくなるため、変調速度の高速化が可能になる。
【0019】
本発明で利用する量子干渉効果を以下に説明する。この量子干渉効果は、アハラノフ=ボーム効果としても知られている。
図2は、プラズモンを用いるマッハツェンダ干渉計3の模式図である。マッハツェンダ干渉計3は、入力導波路4と、入力導波路4から分岐する2つのアーム導波路5a、5bと、2つのアーム導波路5a、5bが合流する出力導波路6とを有する。このようなマッハツェンダ干渉計3をプラズモンが通過する際に、2つのアーム導波路5a、5bに対して磁場および電場を印加すると、各導波路におけるプラズモンを構成する電子波の波動関数の関係を以下のように表すことができる。
【0023】
ψ
1およびψ
2はそれぞれ2つのアーム導波路5a、5bに分岐した直後の電子波の波動関数、ψ
1’およびψ
2’はそれぞれ2つのアーム導波路5a、5bにおいて磁場および電場の影響を受けた後の電子波の波動関数、ψ’は出力導波路6における電子波の波動関数である。
【0024】
φは電場に対応するスカラーポテンシャルであり、A(x)は磁場に対応するベクトルポテンシャルである。式(1)および式(2)の積分はそれぞれアーム導波路5aおよび5bの経路に沿った積分であり、式(3)の積分はアーム導波路5a、5bに囲まれた領域の面積分である。
【0025】
式(3)中のベクトルポテンシャルA(x)の積分は、以下の式(4)により表されるように、アーム導波路5a、5bに囲まれた領域を貫通する全磁束Φに等しい。
【0027】
以上の式(1)〜(4)より、出力導波路6における電子波の波動関数ψ’は、スカラーポテンシャルφおよびベクトルポテンシャルA(x)の少なくとも一方を変化させることにより、変化させることができることがわかる。すなわち、アーム導波路5a、5bに印加する電圧(スカラーポテンシャルφに対応)およびアーム導波路5a、5bに囲まれた領域の磁場(ベクトルポテンシャルA(x)に対応)の少なくとも一方を変化させることによって、電子波の変調を行うことができる。
【0028】
(第1の実施形態)
本実施形態では、式(1)〜式(4)を用いて説明した量子干渉効果において、ベクトルポテンシャルA(x)を変化させる、すなわち磁場を変化させることによって電子波の変調を行う。本実施形態では、式(3)においてスカラーポテンシャルφ成分を0とする。そのため、ベクトルポテンシャルA(x)を変化させることによって出力される電子波が変調されることになる。ここで、式(3)の積分値に磁束量子単位h/2eを代入すると、h(エイチバー)=h/2πの関係から以下の式(5)が得られる。
【0030】
したがって、2つのアーム導波路5a、5bに囲まれた領域における磁場を磁束量子単位の分だけ変化させることによって、2つのアーム導波路5a、5bを通る電子波を打ち消し合う位相差にする、すなわちπラジアンの位相シフト(π位相シフトともいう)を起こすことができる。したがって、磁束量子単位の磁場変動を起こすために必要な非常に小さい電力で十分な位相干渉を起こすことができるため、プラズモン変調器の消費電力を大きく低減することができる。
【0031】
図3(a)は、本実施形態に係るプラズモン変調器10の平面図である。プラズモン変調器10(プラズモン量子干渉変調器ともいう)は、基板11中に、入力光導波路12と、入力光導波路12に接続されている入力プラズモン導波路13と、入力プラズモン導波路13から分岐する2つのアーム導波路14a、14bと、アーム導波路14a、14bが合流する出力プラズモン導波路15と、出力プラズモン導波路15に接続されている出力光導波路16と、を備える。各導波路は、光信号またはプラズモンが入力(入射)される入力端と、光信号またはプラズモンが出力(出射)される出力端とを有する。
【0032】
さらに、プラズモン変調器10は、2つのアーム導波路14a、14bに囲まれた領域に磁場を発生させるための磁場発生手段としての導電性ワイヤ17と、導電性ワイヤ17に電流を供給するための磁場制御装置18とを備える。
【0033】
基板11は、誘電体材料(例えば、SiO
2)を用いて形成されている。入力光導波路12は、光信号を導波するための伝送路であり、基板11よりも屈折率が高い誘電体材料(例えば、不純物をドーピングしたSiO
2)で形成されている。入力光導波路12の入力端からは、光が入力される。このような構成により、基板11がクラッド、入力光導波路12がコアとして働き、光信号が導波される。
【0034】
入力プラズモン導波路13は、プラズモンを導波するための伝送路である。入力プラズモン導波路13の入力端は、入力光導波路12の出力端に接続されている。入力プラズモン導波路13は、プラズモンが励起および伝搬されやすい材料(例えば、金、銀等の金属材料)で形成されており、薄膜状の形状を有する。入力プラズモン導波路13の表面に光信号が入射されるとプラズモンが励起され、励起されたプラズモンは入力プラズモン導波路13の表面を伝搬される。
【0035】
図3(b)は、本実施形態に係るプラズモン変調器10の断面図であり、入力光導波路12と入力プラズモン導波路13との接続部分(
図3(a)のA−A’線)におけるプラズモン変調器10の断面を表している。入力光導波路12と入力プラズモン導波路13とは、それらの接続部分において、光信号およびプラズモンの伝搬方向に所定の面積をもって接触している。このような構成により、入力光導波路12と入力プラズモン導波路13とを端面同士で接続するよりも広い接触面積が確保されるため、入力光導波路12を通る光信号が入力プラズモン導波路13に十分に入射される。その結果、光信号によって入力プラズモン導波路13の表面にプラズモンが励起されやすくなる。
【0036】
アーム導波路14a、14bは、それぞれプラズモンを導波するための伝送路である。アーム導波路14a、14bのそれぞれの入力端は、入力プラズモン導波路13の出力端に接続されている。アーム導波路14a、14bは、プラズモンが励起および伝搬されやすい金属材料(例えば、金、銀)で形成されており、薄膜状の形状を有する。入力プラズモン導波路13上を伝搬されるプラズモンは、入力プラズモン導波路13がアーム導波路14a、14bに接続されている部分で2つに分岐され、それぞれアーム導波路14a、14bの表面を伝搬される。
【0037】
出力プラズモン導波路15は、プラズモンを導波するための伝送路である。出力プラズモン導波路15の入力端は、アーム導波路14a、14bのそれぞれの出力端に接続されている。出力プラズモン導波路15は、プラズモンが励起および伝搬されやすい材料(例えば、金、銀等の金属材料)で形成されており、薄膜状の形状を有する。アーム導波路14a、14b上を伝搬されたプラズモンは、アーム導波路14a、14bが出力プラズモン導波路15に接続されている部分で1つに合流され、出力プラズモン導波路15の表面を伝搬される。
【0038】
出力光導波路16は、光信号を導波するための伝送路であり、基板11よりも屈折率が高い誘電体材料(例えば、不純物をドーピングしたSiO
2)で形成されている。出力光導波路16の入力端は、出力プラズモン導波路15の出力端に接続されている。出力プラズモン導波路15上を伝搬されたプラズモンは、出力プラズモン導波路15と出力光導波路16との接続部分で光信号に変換され、出力光導波路16に入力される。このような構成により、基板11がクラッド、出力光導波路16がコアとして働き、光信号が導波される。出力光導波路16の出力端からは、光が出力される。
【0039】
図3(c)は、本実施形態に係るプラズモン変調器10の断面図であり、出力プラズモン導波路15と出力光導波路16との接続部分(
図3(a)のB−B’線)における断面を表している。出力プラズモン導波路15と出力光導波路16とは、それらの接続部分において、光信号およびプラズモンの伝搬方向に所定の面積をもって接触している。このような構成により、出力プラズモン導波路15と出力光導波路16とを端面同士で接続するよりも広い接触面積が確保されるため、出力プラズモン導波路15を通るプラズモンが光信号に変換されて出力光導波路16に出力されやすくなる。
【0040】
導電性ワイヤ17は、任意の導電体材料を用いて形成され、光信号およびプラズモンの伝搬方向に沿って直線状に設けられている。磁場制御装置18は、導電性ワイヤ17に接続されており、導電性ワイヤ17に対して電流Cを供給し、電流Cの大きさおよびタイミングを制御する。磁場制御装置18から導電性ワイヤ17に電流Cを供給すると、導電性ワイヤ17の周囲に磁場が発生し、その結果2つのアーム導波路14a、14bにより囲まれた領域にも磁場が発生する。したがって、磁場制御装置18から導電性ワイヤ17に供給する電流Cを制御することによって、アーム導波路14a、14bを通るプラズモンを構成する電子への量子干渉効果を制御することができ、その結果出力プラズモン導波路15に出力されるプラズモンの強度を変調することができる。
【0041】
磁場発生手段としての導電性ワイヤ17は、
図3(a)に示すような直線状の形状に限らず、2つのアーム導波路14a、14bにより囲まれた領域に磁場を発生させることができる任意の形状でよい。
図4(a)、(b)は、磁場発生手段としての導電性ワイヤ17の別の形態を示す平面図および斜視図である。
図4(a)、(b)に示す導電性ワイヤ17は、単周回コイルであり、基板11の表面に平行に、2つのアーム導波路14a、14bに沿って設けられている。導電性ワイヤ17に電流Cを流すと、2つのアーム導波路14a、14bにより囲まれた領域に磁束Φが発生する。
【0042】
本実施形態では、導電性ワイヤ17および磁場制御装置18は基板11とは別に設けられているが、導電性ワイヤ17および磁場制御装置18の少なくとも一部が基板11中に設けられてもよい。
【0043】
本実施形態に係るプラズモン変調器10において、位相変調に必要な電流を算出した。
図5は、電流の計算方法を説明するための図である。
図5に示すように、2つのアーム導波路14a、14および導電性ワイヤ17は同一平面上に存在するものとし、2つのアーム導波路14a、14bで囲まれた領域を半径Rの円Dとみなす。2つのアーム導波路14a、14bで囲まれた領域の総磁束Φは、以下の式(6)で表すことができる。
【0045】
rは導電性ワイヤ17に垂直な方向の座標(導電性ワイヤ17の位置をゼロとする)であり、lは導電性ワイヤ17に沿った方向の座標(円Dの中心をゼロとする)である。θは円Dの中心に関する角度である。dは導電性ワイヤ17と、導電性ワイヤ17に近い方のアーム導波路14bとの間の距離である。μは透磁率(1.275×10
−6H/mとする)である。Iは導電性ワイヤ17を流れる直流電流の値である。
【0046】
式(5)を用いて説明したように、π位相シフトを起こすことは、2つのアーム導波路14a、14bで囲まれた領域の磁束を磁束量子単位h/2e変化させることに対応する。したがって、式(6)において、Φに磁束量子単位h/2eを代入することによって、π位相シフトを起こすのに必要な電流Iの値を算出することができる。
【0047】
図6は、式(6)を用いて算出した、円Dの半径Rと、π位相シフトを起こすのに必要なIの値との関係のグラフを示す図である。導電性ワイヤ17とアーム導波路14bとの間の距離dは1μm、2μm、3μmの3通りに設定した。
【0048】
図6より、半径Rが大きいほど、すなわち2つのアーム導波路14a、14bで囲まれた領域が大きいほど、小さい電流でπ位相シフトを起こすことができることがわかる。また、
図6より、導電性ワイヤ17とアーム導波路14bとの間の距離dが近いほど、小さい電流でπ位相シフトを起こすことができることがわかる。
【0049】
具体的には、
図6によれば、導電性ワイヤ17とアーム導波路14bとの間の距離dが3μm以下であり、半径Rが10μm以下であり、π位相シフトを発生させる電流値が数mA以下のプラズモン変調器を実現することができる。この場合、導電性ワイヤ17の抵抗値を数Ω程度と仮定すると、消費電力は1mWより小さい値となる。このように、プラズモン変調器10は非常に小さいサイズで構成可能であり、磁束量子単位の磁束変動でπ位相シフトを起こすことができるため消費電力を大きく低減することが可能である。
【0050】
本実施形態に係るプラズモン変調器10は、波長の小さい電子波に対して変調を行うため、従来のプラズモン変調器よりもサイズを小さくすることが可能になる。また、プラズモン変調器のサイズを小さくすることで回路としてのCR時定数が小さくなるため、変調速度の高速化が可能になる。さらに、磁束量子単位の磁束変動でπ位相シフトを起こすことができるため、消費電力を大きく低減することが可能となる。
【0051】
(第2の実施形態)
図1(a)〜(c)の説明では、各電子波はコヒーレントな状態であることを仮定した。しかしながら、一般的に常温において、各電子波の位相は揃っていない状態(インコヒーレントな状態)にある。
【0052】
図7(a)は、各電子波がインコヒーレントな状態にある場合における、光の入射後の金属中の電子の波形を示す模式図である。
図7(a)では、個々の電子波の位相が揃っておらず、重畳されると波の形状をとらないため、電子の波形8を斜線で示している。
【0053】
電子がインコヒーレントな状態であってもプラズモン励起は発生するため、プラズモンの波形である電子の波形8の包絡線である波形7は、
図1(c)の波形1’と同じである。しかしながら、電子がインコヒーレントな状態では、各電子に係る量子干渉効果が平均化されるため、干渉強度が低下する、すなわち強度変調の分解能が低下する。したがって、干渉強度を向上させ、強度変調の分解能を向上させるためには、電子のコヒーレント性を高めることが望ましい。
【0054】
電子をコヒーレントな状態に近づけるためには、電子波の導波路を超伝導体で構成すればよい。電子は常温ではフェルミ粒子としてふるまうため、それぞれ異なる状態を占める。それに対して、超伝導状態においては、電子の対がボース粒子としてふるまい、ボース=アインシュタイン凝縮が発生するため、複数の電子対が同じ状態を占めてコヒーレントな状態となる。
【0055】
図8は、本実施形態に係るプラズモン変調器20の平面図である。プラズモン変調器20は、基板11中に、入力光導波路12と、入力光導波路12に接続されている入力プラズモン導波路13と、入力プラズモン導波路13に接続されている入力超伝導導波路23と、入力超伝導導波路23から分岐する2つのアーム超伝導導波路24a、24bと、アーム超伝導導波路24a、24bが合流する出力超伝導導波路25と、出力超伝導導波路25に接続されている出力プラズモン導波路15と、出力プラズモン導波路15に接続されている出力光導波路16と、を備える。各導波路は、光信号またはプラズモンが入力(入射)される入力端と、光信号またはプラズモンが出力(出射)される出力端とを有する。
【0056】
さらに、プラズモン変調器20は、2つのアーム超伝導導波路24a、24bに囲まれた領域に磁場を発生させるための磁場発生手段としての導電性ワイヤ17と、導電性ワイヤ17に電流を供給するための磁場制御装置18と、部材を冷却するための冷却装置21と、を備える。
【0057】
入力光導波路12、入力プラズモン導波路13、出力プラズモン導波路15および出力光導波路16は、第1の実施形態と同様の構成を有する。
【0058】
冷却装置21は、プラズモン変調器20の少なくとも超伝導体の部分、すなわち、入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24bおよび出力超伝導導波路25を冷却する。金属や化合物を超伝導状態にするには、その物質により異なる所定の温度以下に冷却が必要である。所定の温度とは、例えば、Alであれば1K程度であり、YBCOであれば90K程度である。冷却装置21としては、入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24bおよび出力超伝導導波路25を構成する超伝導体材料が超伝導状態になる低温まで冷却することが可能な任意の構成を用いることができる。冷却装置21は、プラズモン変調器20の全体を冷却するように冷却するように構成されてもよく、またはプラズモン変調器20の少なくとも超伝導体材料で構成されている部分のみを冷却するように構成されてもよい。
【0059】
プラズモン変調器20を用いて変調動作を行う際には、冷却装置21を作動させて入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24bおよび出力超伝導導波路25を超伝導状態に維持しておく。
【0060】
入力超伝導導波路23は、入力プラズモン導波路13から伝搬されるプラズモンを導波するための伝送路である。入力超伝導導波路23の入力端は、入力プラズモン導波路13の出力端に接続されている。入力超伝導導波路23は、超伝導体材料(例えば、Al、Nb、In、Sn等の金属や、YBCO等の化合物)で形成されており、薄膜状の形状を有する。入力プラズモン導波路13から伝搬されたプラズモンは、入力超伝導導波路23の表面を超伝導状態で伝搬される。
【0061】
アーム超伝導導波路24a、24bは、プラズモンを導波するための伝送路である。アーム超伝導導波路24a、24bのそれぞれの入力端は、入力超伝導導波路23の出力端に接続されている。アーム超伝導導波路24a、24bは、超伝導体材料(例えば、Al、Nb、In、Sn等の金属や、YBCO等の化合物)で形成されており、薄膜状の形状を有する。入力超伝導導波路23上を伝搬されるプラズモンは、入力超伝導導波路23がアーム超伝導導波路24a、24bに接続されている部分で2つに分岐され、それぞれアーム超伝導導波路24a、24bの表面を超伝導状態で伝搬される。
【0062】
出力超伝導導波路25は、プラズモンを導波するための伝送路である。出力超伝導導波路25の入力端は、アーム超伝導導波路24a、24bのそれぞれの出力端に接続されている。出力超伝導導波路25は、超伝導体材料(例えば、Al、Nb、In、Sn等の金属や、YBCO等の化合物)で形成されており、薄膜状の形状を有する。アーム超伝導導波路24a、24b上を伝搬されたプラズモンは、超伝導導波路24a、24bが出力超伝導導波路25に接続されている部分で1つに合流され、出力超伝導導波路25の表面を超伝導状態で伝搬される。その後、伝搬されたプラズモンは、出力超伝導導波路25の出力端から出力プラズモン導波路15の入力端へ入力される。
【0063】
導電性ワイヤ17および磁場制御装置18は、第1の実施形態と同様の構成であり、2つのアーム超伝導導波路24a、24bにより囲まれた領域に磁場を発生させる。磁場制御装置18から導電性ワイヤ17に供給する電流Cを制御することによって、アーム超伝導導波路24a、24bを通るプラズモンを構成する電子の量子干渉効果を制御することができ、その結果出力超伝導導波路25に出力されるプラズモンの強度を変調することができる。
【0064】
本実施形態においては、アーム超伝導導波路24a、24bを通るプラズモンは超伝導状態であるので、プラズモンを構成する個々の電子はコヒーレントな状態にある。そのため、第1の実施形態よりも干渉強度を向上させ、変調の分解能を向上させることができる。さらに、超伝導状態においては、電子の対が一体となって電子波干渉を引き起こすため、磁束量子単位h/2eの半分の磁束変動でπ位相シフトを行うことができる。その結果、磁束量子単位h/2eの磁束変動でπ位相シフトを行う第1の実施形態よりも、プラズモン変調器の消費電力をさらに低減可能である。
【0065】
超伝導体材料においては、光を入射した際のプラズモンの励起効率が低い場合がある。そのため、プラズモンが伝搬される導波路の全てを超伝導材料で構成すると、プラズモンの励起効率が低下し、プラズモン変調器としての変調効率が悪化しうる。それに対して、本実施形態では、入力プラズモン導波路13および出力プラズモン導波路15はプラズモンが励起および伝搬されやすい材料で構成され、入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24b、および出力超伝導導波路25は超伝導体材料で構成されている。このため、プラズモンの励起効率の低下を抑えて、導波路の特定の部分のみを超伝導状態にすることができる。
【0066】
さらに、本実施形態に係るプラズモン変調器20は、第1の実施形態と同様に、波長の小さい電子波に対して変調を行うため、従来のプラズモン変調器よりもサイズを小さくすることが可能になる。また、プラズモン変調器のサイズを小さくすることで回路としてのCR時定数が小さくなるため、変調速度の高速化が可能になる。
【0067】
本実施形態では入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24bおよび出力超伝導導波路25が超伝導体で構成されているが、必ずしもこれらの全てを超伝導体にする必要はなく、プラズモンが伝搬される導波路の少なくとも一部が超伝導体で構成されていれば、電子のコヒーレント性を高めて干渉強度を向上させることができる。
【0068】
本実施形態ではプラズモン導波路が超伝導体で構成されているが、必ずしも超伝導体を用いる必要はなく、単にプラズモン導波路を低温にすることによっても電子のコヒーレント性を高めて干渉強度を向上させることができる。例えば、第1の実施形態において冷却装置21をさらに設け、プラズモン変調器10の各プラズモン導波路の温度を低下させてもよい。
【0069】
(第3の実施形態)
第2の実施形態ではプラズモンの通る導波路を超伝導体で構成することによって、プラズモンを構成する電子のコヒーレント性を高めている。それに対して、本実施形態では、導波路にコヒーレントな電流を流すことによって、導波路中の電子のコヒーレント性をさらに高める。具体的には、導波路にコヒーレントな電流を流し、プラズモンの波によって該コヒーレントな電流を振幅変調し、振幅変調された該コヒーレントな電流に対して磁場による変調を行っている。これにより、量子干渉効果の干渉強度を向上させ、変調の分解能を向上させることができる。
【0070】
ここで、コヒーレントな電流とは、電流を構成する電子がコヒーレントな状態にあることをいう。
図7(b)は、コヒーレントな電流を構成する電子の波形9を示す模式図である。波形9は、
図1(b)に示す波形1と同様に、多数のコヒーレントな電子波が重畳されたものであって、1つの電子波の振幅のみが大きくなった形状となっている。
【0071】
このようなコヒーレントな電流を構成する電子の波形9に対して、
図7(a)に示す波形7を有するプラズモンを重畳させると、該プラズモンの波によってコヒーレントな電流を構成する電子の波が振幅変調される。
図7(c)は、プラズモンによって振幅変調されたコヒーレントな電流を構成する電子の波形9’を示す模式図である。このように振幅変調された波形9’の包絡線(波形7’)は、
図7(a)に示すプラズモンの波形7に対応する。
【0072】
本実施形態においては、プラズモンを構成する電子ではなく、コヒーレントな電流を構成する電子に対して量子干渉効果を用いた変調を行う。第1および第2の実施形態と同様に波長の小さい電子波の位相を変化させるため、非常に小さなサイズで素子が構成可能であり、かつ変調速度の高速化が可能である。
【0073】
図9は、本実施形態に係るプラズモン変調器30の平面図である。プラズモン変調器30は、第2の実施形態(
図8)のプラズモン変調器20の構成に加え、導波路に電流を流すための電流源31をさらに備える。
【0074】
電流源31は、入力プラズモン導波路13および出力プラズモン導波路15に接続されており、入力プラズモン導波路13、入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24b、出力超伝導導波路25および出力プラズモン導波路15に、プラズモンが進行する方向とは逆方向に直流電流Eを供給する。電流Eを構成する電子の電子波E’は電流Eとは逆方向に進行するため、電子波E’の進行方向はプラズモンの進行方向と同じになる。
【0075】
入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24b、および出力超伝導導波路25は、第2の実施形態と同様の構成を有する。電流Eは、超伝導体で構成されている入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24b、出力超伝導導波路25を通るため、コヒーレントな電流となる。すなわち、電流Eを構成する電子の電子波E’はコヒーレントな状態となる。
【0076】
入力プラズモン導波路13上を伝搬されたプラズモンは、入力超伝導導波路23に入力されると、入力超伝導導波路23を流れるコヒーレントな電子波E’に重畳される。その結果、プラズモンの波によって電子波E’が振幅変調を受ける。
【0077】
電子波E’は2分岐されてアーム超伝導導波路24a、24bを通った後、出力超伝導導波路25に合流される。その際に、導電性ワイヤ17および磁場制御装置18によりアーム超伝導導波路24a、24bに囲まれた領域の磁場が変化されることによって、出力超伝導導波路25に出力される電子波E’の強度が変調される。結果として、電子波E’は、プラズモンによる変調の情報に加え、磁場を用いた量子干渉効果による変調の情報が付加された状態となる。
【0078】
その後、電子波E’は、出力超伝導導波路25からプラズモン導波路15に入力されると再度プラズモンに変換される。このプラズモンを構成する電子は、量子干渉効果によって変調を受けた状態となっている。
【0079】
本実施形態においては、アーム超伝導導波路24a、24bを通る電流は超伝導状態であるので、電流を構成する個々の電子はコヒーレントな状態にある。そのため、第1の実施形態よりも干渉強度を向上させ、変調の分解能を向上させることができる。さらに、超伝導状態においては、電子の対が一体となって電子波干渉を引き起こすため、磁束量子単位h/2eの半分の磁束変動でπ位相シフトを行うことができる。その結果、磁束量子単位h/2eの磁束変動でπ位相シフトを行う第1の実施形態よりも、プラズモン変調器の消費電力をさらに低減可能である。
【0080】
超伝導体材料においては、光を入射した際のプラズモンの励起効率が低い場合がある。そのため、プラズモンが伝搬される導波路の全てを超伝導材料で構成すると、プラズモンの励起効率が低下し、プラズモン変調器としての変調効率が悪化しうる。それに対して、本実施形態では、入力プラズモン導波路13および出力プラズモン導波路15はプラズモンが励起および伝搬されやすい材料で構成され、入力超伝導導波路23、アーム超伝導導波路24a、24b、および出力超伝導導波路25は超伝導体材料で構成されているため、プラズモンの励起効率の低下を抑えて、導波路の特定の部分のみを超伝導状態にすることができる。
【0081】
さらに、本実施形態に係るプラズモン変調器20は、第1の実施形態と同様に、波長の小さい電子波に対して変調を行うため、従来のプラズモン変調器よりもサイズを小さくすることが可能になる。また、プラズモン変調器のサイズを小さくすることで回路としてのCR時定数が小さくなるため、変調速度の高速化が可能になる。
【0082】
本実施形態では入力超伝導導波路23b、アーム超伝導導波路24a、24bおよび出力超伝導導波路25が超伝導体で構成されているが、必ずしもこれらの全てを超伝導体にする必要はなく、プラズモンが伝搬される導波路の少なくとも一部が超伝導体で構成されていれば、電子のコヒーレント性を高めて干渉強度を向上させることができる。
【0083】
(第4の実施形態)
本実施形態では、式(1)〜式(4)を用いて説明した量子干渉効果において、スカラーポテンシャルφを変化させる。すなわち、電場を変化させることによって電子波の変調を行う。本実施形態では、式(3)においてベクトルポテンシャルA(x)成分を0とする。そのため、スカラーポテンシャルφを変化させることによって出力される電子波が変調されることになる。
【0084】
図10は、本実施形態に係るプラズモン変調器40の平面図である。プラズモン変調器40は、第1の実施形態(
図3(a))のプラズモン変調器10から導電性ワイヤ17および磁場制御装置18をなくし、その代わりにアーム導波路14aに電圧を印加するための電圧印加手段としての電極41と、電極41に電圧を与えるための電圧制御装置42とを備える構成を有する。その他の構成については第1の実施形態のプラズモン変調器10と同様である。
【0085】
電極41は、任意の導電体材料を用いて形成された形成された電極であり、アーム導波路14aの近傍に設けられている。電圧制御装置42は、電極41に接続されており、電極41に対して所定の電圧を与え、電圧の大きさおよびタイミングを制御する。電圧制御装置42から電極41に電圧を供給すると、その近傍に存在するアーム導波路14aに対して電圧が印加される。したがって、電圧制御装置42から電極41に供給する電圧を制御することによって、アーム導波路14a、14bを通るプラズモンの量子干渉効果を制御することができ、その結果出力プラズモン導波路15に出力される電子波の強度を変調することができる。
【0086】
本実施形態においても第1の実施形態と同様に、波長の小さい電子波に対して変調を行うため、従来のプラズモン変調器よりもサイズを小さくすることが可能になる。また、プラズモン変調器のサイズを小さくすることで回路としてのCR時定数が小さくなるため、変調速度の高速化が可能になる。
【0087】
図10において電極41はアーム導波路14aの近傍に設けられているが、電極41はアーム導波路14aおよび14bの少なくとも一方の近傍に設けられていればよく、また複数設けられてもよい。
【0088】
本実施形態においても、第2の実施形態のように、プラズモンが伝搬される導波路の少なくとも一部が超伝導体で構成されてもよい。そのような構成により、プラズモンを構成する電子波のコヒーレント性が向上するため、量子干渉効果の干渉強度を向上させることができる。さらに、第3の実施形態のように、導波路にコヒーレントな電流を流し、プラズモンにより該コヒーレントな電流を振幅変調し、振幅変調された該コヒーレントな電流に対して電場による変調をかけてもよい。そのような構成により、プラズモンの伝搬効率の悪化を抑えて量子干渉効果の干渉強度を向上させることができる。
【0089】
(第5の実施形態)
本実施形態では、式(1)〜式(4)を用いて説明した量子干渉効果において、スカラーポテンシャルφとベクトルポテンシャルA(x)の両方を変化させる。すなわち、電場および磁場を変化させることによって電子波の変調を行う。
【0090】
図11は、本実施形態に係るプラズモン変調器50の平面図である。プラズモン変調器50は、第1の実施形態(
図3(a))のプラズモン変調器10に加え、アーム導波路14aに電圧を印加するための電圧印加手段としての電極41と、電極41に電圧を与えるための電圧制御装置42とを備える。電極41および電圧制御装置42は、第4の実施形態と同様の構成を有する。その他の構成については第1の実施形態のプラズモン変調器10と同様である。
【0091】
本実施形態では、導電性ワイヤ17に供給される電流による磁場を変調に用い、電極41に供給される電圧を補助的に用いる。すなわち、例えば、アーム導波路14aおよび14bの間に光路長差がある場合に、電極41に供給される電圧を該光路長差の影響を吸収するように制御することによって、導電性ワイヤ17に供給される電流を変調のためだけに制御することができるため、制御を容易にすることができる。
【0092】
さらに、本実施形態においても第1の実施形態と同様に、波長の小さい電子波に対して変調を行うため、従来のプラズモン変調器よりもサイズを小さくすることが可能になる。また、プラズモン変調器のサイズを小さくすることで回路としてのCR時定数が小さくなるため、変調速度の高速化が可能になる。
【0093】
本実施形態とは逆に、電極41に供給される電圧を変調に用い、導電性ワイヤ17に供給される電流による磁場を補助的に用いてもよい。
【0094】
本実施形態においても、第2の実施形態のように、プラズモンが伝搬される導波路の少なくとも一部が超伝導体で構成されてもよい。そのような構成により、プラズモンを構成する電子波のコヒーレント性が向上するため、量子干渉効果の干渉強度を向上させることができる。さらに、第3の実施形態のように、導波路にコヒーレントな電流を流し、プラズモンにより該コヒーレントな電流を振幅変調し、振幅変調された該コヒーレントな電流に対して電場による変調をかけてもよい。そのような構成により、プラズモンの伝搬効率の悪化を抑えて量子干渉効果の干渉強度を向上させることができる。
【0095】
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0096】
上述の各実施形態は基板中に導波路を設ける平面光導波路(PLC)として作製されているが、プラズモンを分岐および合流させて干渉させるマッハツェンダ干渉計型の構成であれば、光信号またはプラズモンを伝搬可能な任意の形態の導波路を用いてよい。例えば、光信号またはプラズモンを伝搬する導波路の少なくとも一部を、ワイヤ状(ファイバ状)にしてもよい。