特許第6139957号(P6139957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6139957-液化ガス運搬船の球形タンク支持構造 図000002
  • 特許6139957-液化ガス運搬船の球形タンク支持構造 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139957
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】液化ガス運搬船の球形タンク支持構造
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/16 20060101AFI20170522BHJP
   B65D 88/04 20060101ALI20170522BHJP
   B65D 90/12 20060101ALI20170522BHJP
   F17C 13/08 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B63B25/16 101B
   B65D88/04 Z
   B65D90/12 C
   F17C13/08 302B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-88350(P2013-88350)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-210518(P2014-210518A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】望月 幸司
(72)【発明者】
【氏名】中村 研
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−129395(JP,U)
【文献】 特開昭48−002219(JP,A)
【文献】 特開昭52−051684(JP,A)
【文献】 実開昭53−147418(JP,U)
【文献】 特開平09−226682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/16
B65D 88/04,90/12
F17C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビルジホッパータンクの斜板の上端から上方に所定距離離間して配置されるファンデーションデッキと、
上端部が球形タンクの赤道部に接合され、下端部が前記ファンデーションデッキに接合される円筒状の支持構造体と、
前記ファンデーションデッキを支持する複数のデッキ支持部材とを備え
前記支持構造体が、上部構造部、中間構造部、下部構造部からなり、
前記中間構造部および前記下部構造部がそれぞれその外側の外周面のみに水平防撓材を備えるとともに垂直防撓材を備えず、
前記ファンデーションデッキが、船底から型深さの50〜80%の範囲にあり、
前記複数のデッキ支持部材は、船底に向けて延び、その下端は少なくとも舷側において前記ビルジホッパータンクの斜板により支持される
ことを特徴とする液化ガス運搬船の球形タンク支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載の球形タンク支持構造を備えたことを特徴とする液化ガス運搬船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形タンク方式を採用した液化ガス運搬船に関し、特に液化ガス運搬船の球形タンクの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
球形タンク方式の液化ガス運搬船では、ファンデーションデッキに据え付けられた円筒状の支持構造体(スカート)の上端に、球形タンクの赤道部が接合され、支持される。なおスカートは、上側からアルミ合金、ステンレス鋼、および通常の鋼材の3部材により構成され、その周囲は水平および垂直の防撓材で補強されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−226682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
球形タンクは近年大型化しているが、その一方で、パナマ運河通行時などにおける船幅、港における荷役装置との接続高さ、喫水の制限などから、船の幅、型深さ、喫水は大きく変更することはできないので、球形タンクの大型化に伴い増大する重量を他の部分で吸収する必要がある。また、タンク重量が増大すると、タンク支持構造体に掛かる荷重も増大し、ファンデーションデッキとの接合部に要求される構造強度も増大する。
【0005】
本発明は、液化ガス運搬船における球形タンク支持構造に係る重量を軽減するとともに、同機構の要求強度の低減を図り、更に構造を簡略化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液化ガス運搬船の球形タンク支持構造は、ビルジホッパータンクの斜板の上端から上方に所定距離離間して配置されるファンデーションデッキと、上端部が球形タンクの赤道部に接合され、下端部がファンデーションデッキに接合される円筒状の支持構造体と、ファンデーションデッキを支持するデッキ支持部材とを備えることを特徴としている。
【0007】
支持構造体が垂直防撓材を備えないことが好ましい。ファンデーションデッキは、船底から、型深さの50〜80%の範囲にあることが好ましい。支持構造体は、上部構造部、中間構造部、下部構造部からなることが好ましく、中間構造部および下部構造部がそれぞれ水平防撓材を備えることが好ましい。
【0008】
本発明の液化ガス運搬船は、上記何れかに記載の球形タンク支持構造を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液化ガス運搬船における球形タンク支持構造に係る重量を軽減するとともに、同機構の要求強度の低減を図り、更に構造を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態である球形タンクの支持構造体の構成を示す船体横断面図(左半分)である。
図2図1の支持構造体の拡大図である。
図3】支持構造体周辺の船体の構造を示す斜視図であり、センタラインの左側に本実施形態の構成が示され、右側に比較のために従来の構成が示される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である球形タンクの支持構造体の構成を示す船体横断面図(左半分)である。
【0012】
本実施形態の液化ガス運搬船10には、例えば複数の球形タンク11が船体長手方向に沿って配置される。球形タンク11は例えばアルミ合金などを用いて作られ、球形タンク11の赤道部Qは、その全周が略円筒状の支持構造体(スカート)12により支持される。支持構造体12の下端部は、ファンデーションデッキ13により支持される。またファンデーションデッキ13は、複数のデッキ支持部材14により支持される。デッキ支持部材14は船底に向けて延び、その下端は、例えば二重底やビルジホッパータンク(バラストタンク)15により支持される。
【0013】
球形タンク11の赤道部Qは、上甲板D近傍(例えば上甲板Dの少し下)に配置され、球形タンク11の上側半球部は略上甲板Dよりも上側に位置し、その外側は、所定距離を隔ててカバー部材Sによって覆われる。なお、図1は、球形タンク11の中央断面に対応し、図1において球形タンク11の中心が点Cで示される。
【0014】
図2は、図1の支持構造体(スカート)12の拡大図(図1において略破線で囲んだ領域)である。また、図3は支持構造体12周辺の船体の構造を示す斜視図であり、センタラインCLの左側に本実施形態の構成が示され、右側に比較のために従来の構成が示される。以下、図2、3を参照して本実施形態の球形タンク支持構造について説明する。
【0015】
支持構造体12は、上下方向に3つの部分、すなわち上部構造部16、中間構造部17、下部構造部18から構成される。上部構造部16は、球形タンク11の赤道部Qに接合される部分であり、球形タンク11を形成する素材に物性が近い素材、例えば球形タンク11と同様のアルミ合金が用いられる。下部構造部18は、ファンデーションデッキ13に接合される部分であり、ファンデーションデッキあるいは船殻を構成する鋼板に近い素材、例えばファンデーションデッキあるいは船殻と同じ鋼材が用いられる。中間構造部17は、上部構造部16と下部構造部18の間に接続するもので、両者を熱的に分離するために熱伝導率が低い素材が用いられ、例えばステンレス鋼が用いられる。
【0016】
中間構造部17の上端近くの外側面には、外周に沿って環状の水平防撓材19が設けられる。また下部構造部18の上端にも外周に沿って環状の水平防撓材20が設けられる。水平防撓材19、20の断面形状は、例えばT字形であり、それぞれ中間構造部、下部構造部と同じ材料が用いられる。なお、球形タンク11、上部構造部16、中間構造部17、下部構造部18、ファンデーションデッキ13、水平防撓材19、20の相互間の接合は、例えば溶接により行われる。
【0017】
図3に示されるように、ファンデーションデッキ13には、支持構造体12の円周に適合する開口が設けられ、下部構造部18の下端は、同開口部の縁に沿って接合される。また球形タンク11の下側半球部の大部分は、この開口を通して船体構造とは接触しないように船体内に収容される。すなわち、球形タンク11は全て、支持構造体12を通して船体構造によって支持される。
【0018】
図1を参照して説明したように、ファンデーションデッキ13は、デッキ支持部材14により支持され、デッキ支持部材14の下端は、二重底やビルジホッパータンク(バラストタンク)15により支持される。すなわち、ファンデーションデッキ13は、ビルジホッパータンク15の斜板15Sの上端から上方に離間した位置に分離・独立して設けられる。なお、ファンデーションデッキ13は、例えば船底から型深さの50〜80%の範囲にあることが好ましい。
【0019】
図3右側に示されるように、従来のファンデーションデッキ13’は、ビルジホッパータンク15’の頂板を兼ねているため、その位置はかなり船底寄りである。そのため支持構造体は上下に長くなり、その分多くの水平防撓材が必要であった。また支持構造体の長さが長いことから座屈強度を高める必要があり、従来の支持構造体の下部構造部には周方向に沿って多数の垂直防撓材が設けられた。特にこれらの傾向は、球形タンクが大きくなると顕著である。
【0020】
これに対して、本実施形態では、ファンデーションデッキ13を従来に比べ上方に配置し、支持構造体12の長さを低減したことで、水平防撓材の数を減らすとともに、垂直防撓材を省略することができる。これにより本実施形態によれば、船殻重量を低減するとともに、組み立て工程を大幅に低減できる。なお、ファンデーションデッキ13の高さ方向位置については、船底から船の型深さの50%より低い位置とした場合、座屈強度を保つために必要な支持構造体12の板厚が厚くなり過ぎるため、垂直防撓材の設置が必要となる。一方、ファンデーションデッキ13の高さ方向位置を船底から船の型深さの80%より高い位置とした場合、支持構造体12の必要高さを考慮すると、球形タンク11の位置が高過ぎ、船底に無駄な空間が生じるとともに、復原性に悪影響を及ぼすことが考えられる。
【0021】
また、本実施形態のように支持構造体の長さが短いと、タンクの慣性力による支持構造体の転倒モーメントが低減されるため、支持構造体の下端接合部に要求される強度が低減され、設計上の自由度も増大する。更に、従来の支持構造体の構成では、垂直防撓材の下端部で応力集中が発生するため、この部分に要求される疲労強度が高かった。しかし、本実施形態では垂直防撓材が不要なため、このような応力集中箇所を無くすことができる。
【0022】
また従来の構成では、支持構造体の下部がビルジホッパータンクと取り合う箇所においてその構造が複雑となり、強度要求が厳しくなるが、本実施形態では支持構造体の下端部の構造を単純にすることができるので要求強度を更に低減し、強度が要求される箇所も減らすことができる。
【0023】
本実施形態ではファンデーションデッキがビルジホッパータンクからは独立して設けられるため、支持構造体を据え付ける際に支持構造体の直下の構造を目視でき、その位置決めが容易になる。また本実施形態では、支持構造体がビルジホッパータンクまで達しておらず、支持構造体の直下の構造がバラストタンク内に位置することがないので、就航後タンクに水を張った状態においても、目視による保守点検を行うことができる。また、本実施形態では、ファンデーションデッキとは無関係にビルジホッパータンクの設計ができる。このためバラスト水容量など他の要因によりタンク容量を小さくできる場合、ビルジホッパータンクを小さくして船殻重量を減らすことが可能である。
【0024】
更に、球形タンクの下側半球部と船体構造の間の間隔を大きくとることができ、防熱工事の作業性が向上される。また、本実施形態の構成は、船首タンクを含め液化ガス運搬船の全ての球形タンクに共通して適用できるので、船体構造を単純にすることができ製造工程も簡略化される。
【符号の説明】
【0025】
10 液化ガス運搬船
11 球形タンク
12 支持構造体(スカート)
13 ファンデーションデッキ
14 デッキ支持部材
15 ビルジホッパータンク(バラストタンク)
15S ビルジホッパータンクの斜板
16 上部構造部
17 中間構造部
18 下部構造部
19 水平防撓材
20 水平防撓材
C 球形タンクの中心
CL センタライン
D 上甲板
Q 赤道部
S カバー部材
図1
図2
図3