(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の繊維はポリビニルアルコールをベースにしたアロイであるため、膨潤が激しく実使用に問題を抱えていた。
また、特許文献2に開示されている、グラフト重合の基材として用いられるポリエチレンは、放射線照射にて発生したラジカルが失活し易いため、得られたグラフト体のグラフト率が変動し易く、性能にバラツキが発生しやすいという懸念があった。
さらにまた、特許文献3に開示の粒子状の結晶性セルロースは、それ自体高価であるため、実使用に制約を有していた。また、セルロースも放射線にて発生したラジカルが失活しやすいため、得られたグラフト体のグラフト率が変動し易く、性能にバラツキが発生しやすいという懸念があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、金属イオンの吸着性に優れるだけでなく、安価で耐乾燥性も有するキレート樹脂として有用であり、性能のバラツキの少ないグラフト共重合体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、親水性であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体に、リン酸基およびホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖を導入することによりグラフト共重合体に親水性を付与することができ、その結果、乾燥しても優れた金属イオンの吸着性を発現するキレート樹脂の可能性を見出し、本発明を完成した。さらに、多孔質なエチレン-ビニルアルコール系共重合体を出発原料とすることで、高い官能基導入量、高い金属イオンの吸着性能を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明第1の構成は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体に、リン酸基、およびホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖が導入されたグラフト共重合体である。
【0010】
前記グラフト共重合体において、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体が多孔質体であり、前記多孔質体に前記グラフト鎖が導入されたグラフト共重合体が好ましい。
【0011】
前記グラフト共重合体において、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体が粒子状の多孔質体であり、前記粒子状の多孔質体粒子の表面に形成された細孔の長径が0.01μm〜20μmである多孔質体に前記グラフト鎖が導入されたグラフト共重合体であることが好ましい。
本発明において、多孔質とは、体積1cm
3あたり、細孔を少なくとも10個、好ましくは100個以上、より好ましくは1,000個以上含む構造を意味している。なお、この細孔は、連続構造であってもよく、独立構造であってもよい。
【0012】
前記グラフト共重合体が、粒子径が10μm〜2000μmの粒子状であるグラフト共重合体であることが好ましい。
【0013】
本発明第2の構成は、(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を準備する工程と、(2)前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して、リン酸基およびホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖を導入して、グラフト共重合体を得る工程と、を備える、グラフト共重合体の製造方法である。
【0014】
前記製造方法において、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が多孔質であることが好ましい。
【0015】
前記製造方法において、多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と水溶性ポリマーとを溶融混合し、溶融物を冷却固化させた複合体を得る工程と、
前記複合体から水溶性ポリマーを抽出する工程と、から形成されることが好ましい。
【0016】
前記製造方法において、電離放射線を用いて、グラフト鎖を導入することが好ましい。
【0017】
前記の製造方法において、前記水溶性ポリマーがポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0018】
本発明第3の構成は、前記のグラフト共重合体を用いてなる金属イオン吸着材である。
【発明の効果】
【0019】
本発明第1の構成に係るグラフト共重合体は、親水性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して、リン酸基およびホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖を導入しているため、親水性を付与することができ、耐乾燥性に優れた金属イオンの吸着性を発現させることが可能である。
【0020】
本発明第2の構成に係るグラフトの製造方法によれば、リン酸基およびホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖を導入して、グラフト共重合体を得る工程を備えることにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体からグラフト共重合体を製造することができる。
【0021】
本発明第3の構成に係る前記グラフト共重合体で構成された金属イオン吸着材は、耐乾燥性を有するだけでなく、金属イオンの吸着性に優れ、高収率で金属イオンを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(グラフト共重合体)
本発明は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体に、リン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖が導入されたグラフト共重合体である。
なお、本発明においてリン酸基とは、−OPO(OH)
2または(−O)
2P(O)OHを意味し、ホスホン酸基とは、−PO(OH)
2または>PO(OH)を意味する。
上記のリン酸基またはホスホン酸基は、塩の状態で存在していてもよく、塩の状態で存在する基は、上記のリン酸基またはホスホン酸基に含まれる。
【0023】
本発明のグラフト共重合体の形状は、特に限定されず、グラフト共重合体の適用箇所に応じて、繊維やその集合である織布や不織布、粒子、シート、フィルムあるいはそれらの加工品など各種の形状から選択することができる。これらのうち、金属イオンとの吸着性を向上する観点から、粒子状であることが好ましい。
【0024】
グラフト共重合体が粒子状の場合、適宜粉砕により目的の粒子径に調整すれば良いが、粒子径は10μm〜2000μmが好ましく、20μm〜1800μmがさらに好ましく、30μm〜1500μmが最も好ましい。粒子径が10μm以下の場合、微粉が舞い易いなど取り扱いが難しい。粒子径が2000μm以上の場合、金属イオンの吸着性能が充分に得られないことがある。
【0025】
(グラフト共重合体の製造方法)
本発明のグラフト共重合体の製造方法は、
エチレン−ビニルアルコール系共重合体を準備する工程と、
前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して、リン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖を導入し、リン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖が導入されたグラフト共重合体を得る工程と、を備えている。
【0026】
(エチレン−ビニルアルコール系共重合体)
本発明のグラフト共重合体の基材として用いられるエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、上記の性質を有するグラフト共重合体を得ることができる限り特に限定されないが、例えば、そのエチレン含有量は、10〜60モル%程度であってもよく、20〜50モル%程度が好ましい。エチレン含量が10モル%未満の場合、得られるグラフト共重合体の耐水性が低下する虞がある。一方、エチレン含量が60モル%を越えると製造が難しく入手が困難である。
【0027】
また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体のけん化度は、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合、成形性が悪くなったり、得られるグラフト共重合体の耐水性が低下したりする虞がある。
【0028】
また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)についても特に限定されないが、0.1g/分以上が好ましく、0.5g/分以上がより好ましい。0.1g/分未満の場合、耐水性や強度が低下する虞がある。なお、メルトフローレートの上限は通常用いられる範囲であればよく、例えば、25g/分以下であってもよい。
【0029】
本発明のエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で別の不飽和単量体単位を含んでいてもよい。該不飽和単量体単位の含量は、10モル%以下であることが好ましく、5%モル以下であることがより好ましい。
このようなエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
このようなエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、グラフト鎖を導入するに際し、その用途に応じて、フィルム、シート、容器、粒子、粉体などの各種形状であればよい。また、グラフト鎖を効率的に導入する観点から、グラフト鎖を導入するために多孔体化され、多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体として用いられるのが好ましい。
【0031】
多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、発泡剤などの気孔形成材とエチレン−ビニルアルコール系共重合体とを溶融混合することにより多孔質化させてもよいが、細孔のサイズを制御する観点から、多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体はエチレン−ビニルアルコール系共重合体と水溶性ポリマーとを溶融混練などにより混合し、溶融物を冷却固化させた複合体を得る工程と、前記複合体から水溶性ポリマーを抽出する工程と、によって形成するのが好ましい。
なお、本発明において、「溶融物の冷却固化」とは、溶融物を凝固浴など用いることなく冷却固化することを意味している。
【0032】
本発明に用いられる水溶性ポリマーは、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と溶融混合できる限り特に限定されず、一般に知られている水溶性ポリマーが利用できる。当該水溶性ポリマーは、例えば、デンプン;ゼラチン;セルロース誘導体;ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の水溶性アミン系ポリマー;ポリアクリル酸;ポリイソプロピルアクリルアミド等のポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、エチレン−ビニルアルコール系共重合体との溶融混練のし易さに優れ、空隙の制御が容易であることから、特にポリビニルアルコールが好適に用いられる。
【0033】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体と水溶性ポリマーとの割合は、必要とする多孔質の程度に応じて、適宜決めることができるが、例えば、エチレン−ビニルアルコール系共重合体:水溶性ポリマーは、100:0〜20:80程度であってもよく、好ましくは、100:0〜30:70程度であってもよい。
【0034】
本発明に用いられるポリビニルアルコールは、本発明の効果が得られる限り、ビニルアルコール単位及びビニルエステル系単量体に由来する構造単位以外の構造単位を有することができる。当該構造単位は、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸N−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸N−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸N−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸N−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩またはエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニルである。当該構造単位の含有量は、10モル%未満である。
【0035】
本発明に用いられるポリビニルアルコールの粘度平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は特に限定されないが、好ましくは100〜10,000であり、より好ましくは200〜7,000であり、さらに好ましくは300〜5,000である。粘度平均重合度が上記範囲から逸脱すると、得られる多孔質体の表面積が低下する虞がある。
【0036】
本発明に用いられるポリビニルアルコールのけん化度は特に限定されないが、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60〜98モル%であり、特に好ましくは70〜95モル%である。けん化度が50モル%未満になると水溶性が低下し成形後の熱水抽出での抽出性が悪くなる。けん化度が98モル%より高いポリビニルアルコールは溶融混合が難しい。
【0037】
本発明の多孔質エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、例えば、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と水溶性ポリマーを溶融混練にて混合して溶融物を冷却固化させた複合体(コンパウンド)を得た後に、この複合体から水溶性ポリマーを抽出することによって得られる。溶融混練する方法は特に限定されず、一軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、ニーダーなど公知の混練機を用いることができる。目的とする形状を得るために、必要に応じて各段階で粉砕などを実施しても良い。
【0038】
また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶解せず、水溶性ポリマーを抽出することができる限り、抽出に用いられる溶媒は特に限定されず、水、各種有機溶媒、水と有機溶媒との混合物などを用いることができるが、水溶性ポリマーを利用している観点から、溶媒としては水、特に熱水を用いるのが好ましい。熱水の温度は、40℃〜120℃が好ましく、50℃〜100℃がさらに好ましい。
【0039】
このようにして得られた多孔質なエチレン−ビニルアルコール系重合体粒子は、多孔質体であるが、少なくとも粒子の表面に細孔が形成されていればよく、粒子内部まで細孔が形成されている必要はない。表面に形成される細孔は、その長径の平均値が0.01μm〜20μm程度であってもよく、好ましくは0.05μm〜10μm、より好ましくは0.2μm〜5μm程度であってもよい。これら細孔の長径の平均値は、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。中でも細孔が大きい多孔質な粒子を用いることにより、低線量の電離放射線の照射でも高いグラフト率が達成でき、目的とする金属イオンの吸着性能が得られ易い。
【0040】
グラフト重合に用いるエチレン−ビニルアルコール系重合体の形態としては、特に限定されないが、金属イオン吸着材の使用を考慮し、粒子状であることが好ましい。粒子状である場合、適宜粉砕などにより目的の粒子径の粒子を用いることができるが、粒子径としては10μm〜2000μmであることが好ましく、30μm〜1800μmがさらに好ましく、40μm〜1500μmが最も好ましい。粒子径が10μm以下の場合、微粉が舞い易いなど取り扱いが難しい。粒子径が2000μm以上の場合、目的の金属イオン吸着能が充分に得られないことがある。
【0041】
上記のエチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して、リン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖を導入する方法としては、種々の公知の方法が可能であり、例えば、重合開始剤を用いたラジカル重合を利用してグラフト鎖を導入する方法、電離放射線を用いてラジカルを発生させ、グラフト鎖を導入する方法などが挙げられる。これらのうち、グラフト鎖の導入効率が高い観点から、電離放射線を用いて、グラフト鎖を導入する方法が好ましく用いられる。特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、後述の実施例において示すように、従来放射線グラフト法で利用されてきたポリエチレンと比べて、放射線照射によって発生したラジカルの安定性が高い。
このため、照射後のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を室温の空気中に1〜2時間程度放置してもラジカルは維持されているので、照射後のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を空気存在下で下記に示すよう不飽和単量体と接触させることによりグラフト鎖の導入が可能であり、ポリエチレン、セルロースなど通常のポリマーへのグラフト重合で行われているような、照射工程とグラフト鎖導入工程とを不活性雰囲気下および/または冷蔵下で連続させる必要はなく、工業生産におけるプロセスの許容範囲を広げることが可能である。
【0042】
電離放射線としては、α線、β線、γ線、加速電子線、紫外線などがあるが、実用的には加速電子線またはγ線が好ましい。
【0043】
電離放射線を用いて、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の基材に不飽和単量体をグラフト重合させる方法としては、基材と不飽和単量体とを共存下放射線を照射する同時照射法と、基材のみに予め放射線を照射した後、不飽和単量体と基材とを接触させる前照射法のいずれでも可能であるが、前照射法がグラフト重合以外の副反応を生成しにくい特徴を有する。
【0044】
グラフト重合の際に、基材と不飽和単量体とを接触させる方法としては、液状の不飽和単量体あるいは不飽和単量体溶液と直接接触させる液相重合法と、不飽和単量体の蒸気あるいは気化状態で接触させる気相グラフト重合法とがあるが、目的に応じて選択可能である。
【0045】
電離放射線を照射する線量としては、特に限定されないが、5〜230kGyが好ましく、10〜190kGyがより好ましく、10〜140kGyがさらに好ましい。10〜90kGyが最も好ましい。5kGy未満の場合、線量が少な過ぎるためグラフト率が低下し目的の金属イオン吸着能が得られないことがある。230kGy以上の場合、処理工程にコストがかかる、照射時に樹脂が劣化するなどの懸念がある。
【0046】
リン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有するグラフト鎖を導入する方法としては、電離放射線などを用いて、リン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有する不飽和単量体をグラフト化させてもよいし(方法1)、電離放射線などを用いて反応性基を有する不飽和単量体をグラフト化させた後にリン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基に変換してもよい(方法2)。以下それぞれの詳細を述べる。
【0047】
(方法1)
グラフト重合に用いるリン酸基、ホスホン酸基のうちの少なくともいずれかの官能基を有する不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えば、化学式(1)〜(4)で示される不飽和単量体を用いることができる。
【化1】
式(1)〜(4)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2は直鎖または分岐鎖のC
2−10アルキレン基(好ましくはメチル基を分岐鎖として有してもよいエチレン基、プロピレン基など)であり、Xは−O−または−NH−である。
なお、R1は、化学的安定性の点からメチル基であることが好ましく、リン酸基およびホスホン酸基としては、金属吸着性の点から、−OPO(OH)
2、−PO(OH)
2が好ましい。
【0048】
上記化学式で示される不飽和単量体として、例えば下記のものを例示することができる。
化学式(1)で示されるものとして、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチルアシッドホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルアシッドホスフェート、2−メタルリルアミドエチルアシッドホスフェート
4−メタクリルアミドブチルアシッドホスフェート、10−メタクリルアミドデシルアシッドホスフェート、
化学式(2)で示されるものとして、ジ(2―メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(4−メタクリロイルオキシブチル)アシッドホスフェート、ジ(10−メタクリロイルオキシデシル)アシッドホスフェート、ジ(2―メタクリルアミドエチル)アシッドホスフェート、ジ(4−メタクリルアミドブチル)アシッドホスフェート、
ジ(10−メタクリルアミドデシル)アシッドホスフェート、
化学式(3)で示されるものとして、メタクリロイルエチルホスフェート、メタクリロイルブチルホスフェート、メタクリロイルデシルホスフェート、メタクリルアミドエチルホスフェート、メタクリルアミドブチルホスフェート、メタクルアミドデシルホスフェート、
化学式(4)で示されるものとして、ジ(メタクリロイルエチル)ホスフェート、
ジ(メタクリロイルブチル)ホスフェート、ジ(メタクリロイルデシル)ホスフェート、ジ(メタクリルアミドエチル)ホスフェート、ジ(メタクリルアミドブチル)ホスフェート、ジ(メタクリルアミドデシル)ホスフェートが例示される。
【0049】
(方法2)
グラフト重合させる不飽和単量体としては、重合後、リン酸基、ホスホン酸基に変換可能な反応性基を有するものであればよく、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する不飽和単量体、クロロメチルスチレンやクロロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン化アルキル基を有する不飽和単量体などが用いられる。
【0050】
変換方法としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する不飽和単量体をエチレン-ビニルアルコール系共重合体にグラフト重合した後、当該グラフト体とリン酸、ホスホン酸、それらのエステル体などの化合物とを反応させることにより導入できる。
【0051】
他の変換方法としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する不飽和単量体、クロロメチルスチレンやクロロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン化アルキル基を有する不飽和単量体をエチレン-ビニルアルコール系共重合体にグラフト重合した後、当該グラフト体とアミンを反応させてアミノ基を導入し、その後さらに、クロロメチルリン酸やクロロエチルリン酸などのハロゲン化アルキルリン酸や化学式(2)〜(5)のモノマーを反応させる方法、ホルムアルデヒド、トリオキシメチレン等のアルキル化剤と三塩化リン、亜リン酸、次亜リン酸などのリン系化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0052】
他の変換方法としては、例えば、クロロメチルスチレンやクロロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン化アルキル基を有する不飽和単量体をエチレン‐ビニルアルコール系共重合体にグラフト重合した後、三塩化リンを塩化アルミニウムの存在下反応させる方法などが挙げられる。
【0053】
上記不飽和単量体以外にも性能を損なわない範囲で他の不飽和単量体を併用しても構わない。例えば、グラフト鎖の膨潤を抑制するために、多官能不飽和単量体として、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1−(アクリロイルオキシ)−3−(メタクロイルオキシ)−2−プロパノール、ビスメチレンアクリルアミドなどを用いることができる。
【0054】
エチレン−ビニルアルコール系重合体に対する、グラフト重合により導入する不飽和単量体の量(グラフト率)は、特に限定されないが、エチレン−ビニルアルコール系重合体100質量部に対して10〜900質量部(10〜900%)であることが好ましく、15〜800質量部(150〜800%)であることがより好ましい。グラフト率が10質量部未満の場合は、金属イオン吸着性能が不十分である場合が多い。グラフト率が900質量部を超える場合は、一般的に合成が難しい。
【0055】
本発明のグラフト共重合体は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、架橋剤、無機微粒子、光安定剤、酸化防止剤などの添加剤を含んでいても良い。
【0056】
本発明のグラフト共重合体は、成形体、塗料、接着剤などの広範な用途に使用できる。成形体としては、食品、医薬品、化粧品などの包装材料として有用に用いることが可能であるが、優れた金属イオン吸着能を有しているため、特に、金属イオン吸着材として用いるのが好ましい。
【0057】
(金属イオン回収方法)
本発明の金属イオン吸着材は、各種金属を、簡単な操作で、高効率かつ低コストで金属イオンとして回収することができる。金属イオン回収方法としては、本発明の金属イオン吸着材を用いる限り特に限定されず、金属イオン吸着材の形状に応じてさまざまな回収方法を利用することができる。
例えば、金属イオン回収方法は、本発明の金属イオン吸着材と、目的とする金属イオンを含有する金属イオン含有液とを接触させ、前記吸着材に金属イオンを吸着させる吸着工程と、
金属イオンを吸着した吸着材を回収し、前記吸着材と溶離液とを接触させ、吸着材から金属イオンを溶離させる溶離工程と、を備えていてもよい。
また、金属イオンを吸着した吸着材を燃焼させることにより金属を回収してもよい。
【0058】
本発明の金属イオン吸着材の回収対象となる金属としては、特に限定されないが、銅、鉄、鉛、水銀、亜鉛、カドミウム、ストロンチウム、マグネシウム、カルシウム、また、スカンジウム、ジスプロシウム、ネオジム、ランタン、イットリウム、セリウムなどの希土類元素が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を表す。
【0060】
[細孔長径の平均値の算出]
走査型電子顕微鏡を用い粒子表面を観察した。表面に形成されている細孔から任意に50個選択し、それぞれの細孔の長径を計測した。50個の長径を平均し、平均値を導出した。但し、1nm以下の場合、傷、付着物等との区別がつかないため、選択から除外した。
【0061】
[グラフト率]
グラフト率[w/w(%)]=100×(付与したグラフト鎖の重量)/(基材の重量)
【0062】
[金属吸着量]
金属イオン吸着材50mgを金属イオンの濃度が30mg/Lである0.1規定の硝酸溶液50mLに投入し、25℃にて60分間攪拌する。その後、溶液1mLをサンプリングし50mLにメスアップした後、ICP発光分析装置(日本ジャーレルアッシュ製、IRIS−AP)にて測定した金属濃度をC(mg/L)とする。以下の式より、金属吸着量を求める。
サンプル1gあたりの金属吸着量(mg/g)=30−C×50
【0063】
[実施例1]
市販のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製、E105)85質量部とビニルアルコール系重合体(株式会社クラレ社製、PVA205)15質量部をラボプラストミルにて、220℃の温度で3分間溶融混練した後、溶融物を冷却固化させたコンパウンドを粉砕し、篩を用いて粒子径212μm〜425μmの粒子を作製した。さらに得られた粒子を100℃の熱水中で2時間攪拌してビニルアルコール系重合体を抽出、乾燥させ多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体粒子を得た。該多孔質粒子の細孔の長径の平均値は0.72μmであった。該多孔質粒子に30kGyの電離放射線を照射し、空気中で1時間放置した後、80℃アルゴン置換した2−メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社 ライトエステル P−1M)の30質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、90分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところグラフト率41%であるリン酸がグラフトしたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を得た。得られた共重合体を用いて、Dy(ジスプロシウム)の吸着試験を行った結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
市販のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製、E105)50質量部とビニルアルコール系重合体(株式会社クラレ社製、PVA205)50質量部をラボプラストミルにて、210℃の温度で3分間溶融混練した後、溶融物を冷却固化させたコンパウンドを粉砕し、篩を用いて粒子径425μm〜710μmの粒子を作製した。さらに得られた粒子を90℃の熱水中で2時間攪拌してビニルアルコール系重合体のみを抽出し、多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体粒子を得た。該多孔質粒子の細孔の長径の平均値は1.79μmであった。該多孔質粒子に30kGyのγ線を照射し、空気中で1時間放置した後、82℃窒素置換した2−メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社 ライトエステル P−1M)の40質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、90分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところグラフト率240%であるリン酸がグラフトしたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を得た。得られた共重合体を用いて、Dyの吸着試験を実施した結果を表1に示す。
【0065】
[実施例3]
市販のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製、E105)を粉砕し、篩を用いて粒子径105μm〜212μmの粒子を作製した。該粒子に200kGyの電離放射線を照射し、空気中で1時間放置した後、80℃窒素置換した2−ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート(城北化学工業株式会社、JPA514)
の60質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、90分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところグラフト率25%であるリン酸がグラフトしたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を得た。得られた共重合体を用いて、Dyの吸着試験を実施した結果を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
市販のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製、F101)90質量部とビニルアルコール系重合体(株式会社クラレ社製、PVA205)10質量部をラボプラストミルにて、210℃の温度で3分間溶融混練した後、溶融物を冷却固化させたコンパウンドを粉砕し、篩を用いて粒子径212μm〜425μmの粒子を作製した。さらに得られた粒子を100℃の熱水中で2時間攪拌してビニルアルコール系重合体のみを抽出し、多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体粒子を得た。該多孔質粒子の細孔の長径の平均値は0.27μmであった。該多孔質粒子に30kGyのγ線を照射し、空気中で1時間放置した後、75℃窒素置換した2−メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社 ライトエステル P−1M)の40質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、90分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところグラフト率79%であるリン酸がグラフトしたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を得た。得られた共重合体を用いて、Dyの吸着試験を実施した結果を表1に示す。
【0067】
[実施例5]
市販のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製、F101)80質量部とビニルアルコール系重合体(株式会社クラレ社製、PVA217)20質量部をラボプラストミルにて、210℃の温度で3分間溶融混練した後、溶融物を冷却固化させたコンパウンドを粉砕し、篩を用いて粒子径425μm〜710μmの粒子を作製した。さらに得られた粒子を100℃の熱水中で2時間攪拌してビニルアルコール系重合体を抽出、乾燥させ多孔質なエチレン−ビニルアルコール系共重合体粒子を得た。該多孔質粒子の細孔の長径の平均値は0.58μmであった。該多孔質粒子に60kGyの電離放射線を照射し、空気中で1時間放置した後、75℃アルゴン置換した2−ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート(城北化学工業株式会社、JPA514)の50質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、120分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところグラフト率40%であるリン酸がグラフトしたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を得た。
【0068】
[実施例6]
市販のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製、E105)を粉砕し、篩を用いて粒子径212μm〜425μmの粒子を作製した。該粒子に30kGyのγ線を照射し、空気中で1時間放置した後、80℃窒素置換したグリシジルメタクリレートの40質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、90分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところ90%であった。さらに、該粒子を80℃のリン酸水溶液に浸漬攪拌し、1.5時間反応させた。反応後、該粒子を水で洗浄し、乾燥させることでリン酸がグラフトしたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を得た。
【0069】
[比較例1]
市販のポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製 7000F)を粉砕した後、篩を用いて粒子径212μm〜425μmの粒子を作製した。該粒子に30kGyのγ線を照射し、空気中で1時間放置した後、80℃窒素置換した2−メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社 ライトエステル P−1M)の40質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、90分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところ3%のリン酸がグラフトしたポリエチレン系共重合体を得た。得られた共重合体を用いて、Dyの吸着試験を実施した結果を表1に示す。
【0070】
[比較例2]
市販の結晶性セルロース粒子(旭化成ケミカルズ株式会社社製、セルフィアCP−203)を、篩を用いて粒子径212μm〜300μmの粒子に分級した。該粒子に30kGyのγ線を照射し、空気中で1時間放置した後、80℃窒素置換した2−ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート(城北化学工業株式会社製、JPA514)の20質量%イソプロパノール溶液に浸漬し、90分攪拌しグラフト重合を実施した。その後、得られた粒子をメタノールで洗浄し乾燥した後、グラフト率を評価したところ5%であるセルロース系共重合体を得た。得られた共重合体を用いて、Dyの吸着試験を実施した結果を表1に示す。
【0071】
[比較例3]
市販のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製、F101)を粉砕した後、篩を用いて粒子径425μm〜710μmの粒子に分級し、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を得た。得られた共重合体を用いて、Dyの吸着試験を実施した結果を表1に示す。
【0072】
[比較例4]
金属イオン吸着材として、キレート樹脂(ピュロライト社製、S940)を室温にて12時間真空乾燥させ、S940の乾燥樹脂を得た。得られたキレート樹脂を用いて、Dyの吸着試験を実施した結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
また、実施例1〜6に示すように、本発明の製造方法により、リン酸基を有するエチレン−ビニルアルコール系グラフト共重合体を得ることができた。また、実施例1〜4に示すように、樹脂乾燥後の吸着試験から明らかなように、本発明の金属イオン吸着材は、金属イオンを分離回収する際に非常に有効である。
【0075】
比較例1や2のように、ポリエチレンやセルロースを重合基材として用いた場合、ラジカル安定性に劣るため、十分なグラフト率が得られず、金属イオン吸着性能も発現しない。比較例3のように、エチレン−ビニルアルコール共重合体そのものでは、金属イオン吸着性能は発現しない。比較例4に示した市販のキレート樹脂では、乾燥後吸着性能を評価すると充分な吸着特性を発現しなかった。