(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びイミダゾール系酸化防止剤を、それぞれ、前記工程(a1)及び前記工程(a2)の少なくとも一方において混合する請求項1に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体15〜70質量%、エチレン−α−オレフィン共重合体10〜50質量%及びポリプロピレン17〜40質量%を含むベース樹脂(RB)100質量部に対し、有機過酸化物0.01〜0.6質量部、金属水和物20〜120質量部、臭素系難燃剤10〜60質量部、三酸化アンチモン5〜30質量部、シランカップリング剤1〜15質量部及びシラノール縮合触媒を溶融混合してなる耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造に用いられるシランマスターバッチであって、
前記ベース樹脂(RB)の全部又は一部、前記有機過酸化物、前記金属水和物及び前記シランカップリング剤を前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合してなるシランマスターバッチ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明における好ましい実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明の「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法」、本発明の「架橋性樹脂成形体の製造方法」及び本発明の「耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法」は、いずれも工程(a)を行う。
したがって、本発明の「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法」、本発明の「架橋性樹脂成形体の製造方法」及び本発明の「耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法」(三者の共通部分の説明においては、これらを併せて、本発明の製造方法ということがある。)を、併せて、以下に説明する。
工程(a):酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体15〜70質量%、エチレン−α−オレフィン共重合体10〜50質量%、及びポリプロピレン17〜40質量%を含むベース樹脂(R
B)100質量部に対し、有機過酸化物0.01〜0.6質量部、金属水和物20〜120質量部、臭素系難燃剤10〜60質量部、三酸化アンチモン5〜30質量部、シランカップリング剤1〜15質量部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して混合物を得る工程
工程(b):混合物を成形して架橋性樹脂成形体を得る工程
工程(c):架橋性樹脂成形体を水と接触させて耐熱性シラン架橋樹脂成形体を得る工程
【0021】
工程(a)は、下記工程(a1)でベース樹脂(R
B)の全部を溶融混合する場合には少なくとも下記工程(a1)及び工程(a3)を有し、下記工程(a1)でベース樹脂(R
B)の一部を溶融混合する場合には少なくとも下記工程(a1)、工程(a2)及び工程(a3)を有する。
工程(a1):ベース樹脂(R
B)の全部又は一部、有機過酸化物、金属水和物及びシランカップリング剤を有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(a2):ベース樹脂(R
B)の残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(a3):シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを混合する工程。
【0022】
まず、本発明に用いる各成分について説明する。
【0023】
<ベース樹脂(R
B)>
本発明に用いられるベース樹脂(R
B)は、樹脂成分として、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、及びポリプロピレンを含む。また、ベース樹脂(R
B)は、これらの樹脂成分以外の樹脂成分やオイル成分等を適宜含有していてもよい。
【0024】
(i)酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体(単に、ポリオレフィン共重合体ということがある)における酸共重合成分又は酸エステル共重合成分としては、酢酸ビニル成分、(メタ)アクリル酸成分、(メタ)アクリル酸アルキル成分等が挙げられる。すなわち、ポリオレフィン共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。この中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が好ましく、金属水和物への受容性及び耐熱性の点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体がさらに好ましい。
【0025】
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であれば、エチレン成分及び酢酸ビニル成分が交互に重合してなる交互共重合体であってもよく、また、エチレン成分の重合ブロック及び酢酸ビニル成分の重合ブロックが繰り返して結合してなるブロック共重合体でもよく、さらにエチレン成分及び酢酸ビニル成分がランダムに重合しているランダム共重合体であってもよい。
【0026】
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が17〜80質量%のものを使用することが好ましく、より好ましくは20〜50質量%、さらに好ましくは25〜41質量%である。酢酸ビニル成分含有量は、JIS K 7192に準拠して求めることができる。酢酸ビニル含有量の異なる共重合体を二種以上組み合わせてもよい。上述の範囲内の酢酸ビニル含有量のエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いることにより、十分な難燃性を確保することができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、例えば、「エバフレックス」(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)、「レバプレン」(商品名、バイエル社製)を挙げることができる。
【0027】
エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレン−アクリル酸エステル共重合体と、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体の両者を含む。本明細書においては、両者を含むものとして「エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体」という。このことはエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体も同じである。
エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であれば、上述のエチレン−酢酸ビニル共重合体と同様に、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよい。(メタ)アクリル酸エステル成分は、特に限定されないが、炭素数1〜12のアルキル基を有するのが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基を有するのがさらに好ましい。例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル又はメタクリル酸ヘキシル等の各成分が挙げられる。
【0028】
エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の共重合成分である(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、15〜80質量%であるのが好ましい。この含有量が上述の範囲にあると十分な難燃性を確保することができる。
【0029】
このようなエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体として、例えば、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体等を挙げることができる。エチレン−アクリル酸エチル共重合体としては、例えば、「エバルロイ」(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)、NUC−6510(商品名、NUC社製)の等を挙げることができる。また、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては、例えば、ニュクレル(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)等を挙げることができる。
ポリオレフィン共重合体は、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
(ii)エチレン−α−オレフィン共重合体
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、好ましくは、エチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。
α−オレフィン成分の具体例としては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等の各成分が挙げられる。
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的には、エチレン−ブチレン共重合体(EBR)、シングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン−α−オレフィン共重合体、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)又は超低密度ポリエチレン(VLDPE)等が挙げられる。
また、このエチレン−α−オレフィン共重合体には、ジエン成分を含有する共重合体、例えばエチレン−プロピレン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム)等を含んでもよい。
エチレン−α−オレフィン共重合体は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、エボリューSP0540(商品名、プライムポリマー社製)、UE320(商品名、密度0.922g/cm
3、宇部丸善ポリエチレン社製)、UBEC180(商品名、密度0.924g/cm
3、宇部丸善ポリエチレン社製)、ハイゼックス540E(商品名、密度0.956g/cm
3、プライムポリマー社製)が挙げられる。
【0031】
(iii)ポリプロピレン
ポリプロピレンは、重合成分の1つがプロピレン成分である重合体等であれば特に限定されない。ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレンともいう)のほか、ランダムポリプロピレン及びブロックポリプロピレンを包含する。ここでいう「ランダムポリプロピレン」は、一般的にはプロピレンとエチレンとの共重合体であって、エチレン成分含有量が1〜6質量%のプロピレン系共重合体でプロピレン連鎖の中にエチレン等の共重合成分がランダムに取り込まれているものをいう。また、「ブロックポリプロピレン」は、ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体とを含む組成物であって、一般的にはエチレン成分含有量が18質量%程度以下で、プロピレン成分と共重合成分とが独立した成分として存在するものをいう。
【0032】
本発明においては、これらのポリプロピレンのいずれをも特に制限されることなく、用いることができる。耐熱性、耐加熱変形性を向上させることができる点で、ブロックポリプロピレン及びランダムポリプロピレンが好ましい。
ポリプロピレンのMFR(ASTM−D−1238)は、好ましくは0.1〜60g/10分、より好ましくは0.3〜25g/10分、さらに好ましくは0.5〜15g/10分である。この範囲内のポリプロピレンを配合することにより、電線に被覆した際、外観が良好になる。
ポリプロピレンは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
ポリプロピレンとしては、BC8A(商品名、日本ポリプロ社製)、PB222A、PB270A(いずれも商品名、サンアロマー社製)、E150GK(商品名、プライムポリマー社製)が挙げられる。
【0034】
(iv)スチレン系エラストマー
ベース樹脂(R
B)は、スチレン系エラストマーを含有してもよい。
スチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、p−(tert−ブチル)スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物は、これらの中でも、スチレンが好ましい。この芳香族ビニル化合物は、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。共役ジエン化合物は、これらの中でも、ブタジエンが好ましい。この共役ジエン化合物は、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
また、スチレン系エラストマーとして、スチレン成分が含有されてなく、スチレン以外の芳香族ビニル化合物を含有するエラストマーを使用してもよい。
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SBS、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、水素化SIS、水素化スチレン・ブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。具体的には、例えば、セプトン4077、セプトン4055、セプトン8105(いずれも商品名、クラレ社製)、ダイナロン1320P、ダイナロン4600P、6200P、8601P、9901P(いずれも商品名、JSR社製)等が挙げられる。
【0035】
(v)オイル
ベース樹脂(R
B)は、可塑剤として又はゴムの鉱物油軟化剤としてのオイルを含有していてもよい。
このようなオイルとして、例えば、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系の各オイル等が挙げられる。パラフィン系オイルはパラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものであり、ナフテン系オイルはナフテン環炭素数が30〜40%のものであり、アロマ系オイル(芳香族系オイルともいう)は芳香族炭素数が30%以上のものをいう。オイルは1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
オイルとしては、例えば、ダイアナプロセスオイルPW90、PW380(いずれも商品名、出光興産社製)、コスモニュートラル500(コスモ石油社製)等が挙げられる。
【0036】
<有機過酸化物>
本発明に用いられる有機過酸化物は、分解によりラジカルを発生してシランカップリング剤の樹脂成分へのグラフト反応を生起させる働きを有する。有機過酸化物は、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はない。例えば、一般式:R
1−OO−R
2、R
1−OO−C(=O)R
3、R
4C(=O)−OO(C=O)R
5で表される化合物が好ましく用いられる。ここで、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は各々独立にアルキル基、アリール基、又はアシル基を表す。このうち、本発明においては、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5がいずれもアルキル基であるか、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0037】
このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド等を挙げることができる。これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
【0038】
有機過酸化物の分解温度は、80〜195℃であるのが好ましく、125〜180℃であるのが特に好ましい。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0039】
<シランカップリング剤>
本発明に用いられる(加水分解性)シランカップリング剤は、ラジカルの存在下で樹脂成分にグラフト反応しうる基と、金属水和物と化学結合しうる基とを有するものであればよい。シランカップリング剤は、末端に、アミノ基、グリシジル基又はエチレン性不飽和基を含有する基と、ケイ素原子に結合する加水分解しうる基とを有するものがより好ましく、さらに好ましくは、末端にエチレン性不飽和基を含有する基と、ケイ素原子に結合する加水分解しうる基とを有しているシランカップリング剤である。エチレン性不飽和基を含有する基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p−スチリル基等が挙げられる。加水分解しうる基は、加水分解性を有する基であればよく、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。本発明においては、これらのシランカップリング剤とその他の末端基を有するシランカップリング剤を併用してもよい。
【0040】
このようなシランカップリング剤としては、例えば、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を好適に用いることができる。
【0042】
一般式(1)中、R
a11はエチレン性不飽和基を含有する基、R
b11は脂肪族炭化水素基、水素原子又はY
13である。Y
11、Y
12及びY
13は各々独立に加水分解しうる基である。Y
11、Y
12及びY
13は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0043】
R
a11は、エチレン性不飽和基を含有する基である。エチレン性不飽和基を含有する基としては、例えば、上記の通りであり、好ましくはビニル基である。
【0044】
R
b11は脂肪族炭化水素基、水素原子又は後述のY
13である。脂肪族炭化水素基としては脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1〜8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。炭素数1〜8の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基のうち炭素数が1〜8のものと同様のものが挙げられる。R
b11は好ましくはY
13である。
【0045】
Y
11、Y
12及びY
13の加水分解しうる基としては、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が挙げられる。これらの中でも炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、加水分解の反応性の点で、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
【0046】
一般式(1)で示されるシランカップリング剤としては、好ましくは、加水分解速度の速い不飽和基含有シランカップリング剤であり、より好ましくは一般式(1)においてR
b11がY
13であり、かつY
11、Y
12及びY
13が互いに同じ加水分解しうる基であるシランカップリング剤である。好ましいシランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。これらの中でも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
シランカップリング剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。また、シランカップリング剤は、単独で用いられてもよく、溶剤で希釈された液として用いられてもよい。
【0047】
<金属水和物>
金属水和物は、水酸基又は結晶水を有する金属化合物をいい、金属水酸化物を含む。また、金属水和物は表面処理されていても、いなくてもよい。
【0048】
本発明に用いる金属水和物は、その形態、種類に関わらず、平均粒径が0.2〜10μmであるのが好ましく、0.3〜8μmであるのがより好ましく、0.35〜5μmであるのがさらに好ましく、0.35〜3μmであるのが特に好ましい。平均粒径が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤の混合時に2次凝集を引き起こしにくく、ブツも生じにくく、成形体の外観に優れる。しかも、シランカップリング剤の保持効果によりベース樹脂(R
B)が十分に架橋する。
平均粒径は、アルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0049】
1.表面処理されていない金属水和物(表面未処理金属水和物)
表面処理されていない金属水和物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウム、水和ケイ酸アルミニウム、アルミナ、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
この金属水和物は、上述した中でも、金属水酸化物、炭酸カルシウムが好ましく、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムがさらに好ましい。
金属水和物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
2.表面処理金属水和物
表面処理金属水和物は、表面未処理金属水和物を表面処理剤で表面処理してなる。また、表面処理金属水和物は、既に表面処理された表面処理金属水和物をさらに表面処理したものでもよい。
表面処理金属水和物又は既に表面処理された表面処理金属水和物を形成するための表面未処理金属水和物は、特に限定されないが、上述の表面未処理金属水和物が好ましく、さらに水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムが好ましい。
表面処理剤は、特に限定されないが、脂肪酸、リン酸エステル、ポリエステル、チタネート系カップリング剤、シランカップリング剤等が挙げられる。これらの中でも脂肪酸及びシランカップリング剤が好ましい。脂肪酸としては、特に限定されないが、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリル酸等が好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、アミノ基を末端に有するシランカップリング剤、ビニル基やメタクロイル基等の二重結合を末端に有するシランカップリング剤、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤が好ましい。このようなシランカップリング剤として、例えば、上述のシランカップリング剤が挙げられる。
表面処理金属水和物は、上述の表面処理剤の1種で表面処理されたものでも、また2種以上で表面処理されたものでもよい。
【0051】
脂肪酸又はシランカップリング剤で表面処理された表面処理金属水和物は、表面未処理金属水和物等と脂肪酸又はシランカップリング剤を混合して、得られる。表面未処理金属水和物等と脂肪酸又はシランカップリング剤とを混合する方法としては、特に限定されないが、表面未処理金属水和物、又は、適宜の表面処理剤(例えば、脂肪酸もしくはシランカップリング剤)で表面処理された表面処理金属水和物中に、脂肪酸又はシランカップリング剤を、加熱又は加熱せずに、加え混合する方法、これらの金属水和物を水等の溶媒に分散させた状態で脂肪酸又はシランカップリング剤を加える方法等がある。これらの表面処理量は、特に限定されないが、通常、表面未処理金属水和物等の、表面処理前の金属水和物に対して0.1〜4質量%であるのが好ましい。表面処理量がこの範囲内にあると、機械強度、耐摩耗性を改善できるうえ、伸び及び外観にも優れ、押出負荷も低減できる。
【0052】
ステアリン酸で表面処理された表面処理金属水和物、例えば水酸化マグネシウムとして、キスマ5AL(商品名、協和化学社製)等が挙げられる。
シランカップリング剤で表面処理してなる表面処理金属水和物としては、例えば、シランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウム及びシランカップリング剤表面処理水酸化アルミニウム等が挙げられる。シランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとして、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、協和化学社製)、マグシーズS6、マグシーズS4(いずれも商品名、神島化学工業社製)等が挙げられ、シランカップリング剤表面処理水酸化アルミニウムの市販品として、ハイジライトH42−ST−V、ハイジライトH42−ST−E(いずれも商品名、昭和電工社製)等が挙げられる。
【0053】
表面処理金属水和物は、1種類を単独で配合してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、表面未処理金属水和物と併用することもできる。
【0054】
<臭素系難燃剤>
本発明においては、臭素系難燃剤を用いる。臭素系難燃剤を用いると、金属水和物の使用量を低減しても、電子線架橋による成形体と同等以上の優れた難燃性を発揮する。
【0055】
本発明に用いる臭素系難燃剤としては、難燃剤として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド及びその誘導体、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド及びその誘導体、臭素化ビスフェノール(例えばテトラブロモビスフェノールA)及びその誘導体、1,2−ビス(ブロモフェニル)エタン及びその誘導体、ポリブロモジフェニルエーテル(例えばデカブロモジフェニルエーテル)及びその誘導体、並びに、ポリブロモビフェニル(例えばトリブロモフェニル)及びその誘導体、ヘキサブロモシクロドデカン、臭素化ポリスチレン、ヘキサブロモベンゼン等の有機系臭素含有難燃剤が使用可能である。ここで、「誘導体」とは、アルキル基等の有機基を置換基として有するもの、又は、臭素原子の数が相違するもの等をいう。
これらの中でも、安全性の点で、臭素化ビスフェノール(特にテトラブロモビスフェノールA)、臭素化ポリスチレン、下記構造式1で表される臭素化エチレンビスフタルイミド及び下記構造式2で表される1,2−ビス(ブロモフェニル)エタン誘導体が好ましく、下記構造式1で表される臭素化エチレンビスフタルイミド、下記構造式2で表される1,2−ビス(ブロモフェニル)エタン誘導体がさらに好ましい。
構造式2において、nはそれぞれ独立に1〜5の整数であり、好ましくは3〜5の整数である。
【0057】
<三酸化アンチモン>
三酸化アンチモンは難燃助剤としての作用を有する。三酸化アンチモンを用いると耐熱性シラン架橋樹脂成形体の難燃性をさらに向上させることができる。
本発明で用いる三酸化アンチモンは、平均粒径が0.1〜20μmであるのが好ましく、0.2〜10μmであるのがより好ましく、0.5〜5μmであるのがさらに好ましく、0.8〜2μmであるのが特に好ましい。
例えば、三酸化アンチモンとして、PATOX−M、PATOX−K(いずれも商品名、日本精鉱社製)、AT3、AT−3CN(いずれも商品名、鈴裕化学社製)、三酸化アンチモン(豊田通商社製)等が挙げられる。
【0058】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、シランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤同士が架橋する。
【0059】
シラノール縮合触媒としては、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が用いられる。一般的なシラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物等が用いられる。これらの中でも、特に好ましくはジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物である。
【0060】
<キャリヤ樹脂>
本発明に用いられるシラノール縮合触媒は、樹脂に混合されてもよい。このような樹脂(キャリヤ樹脂ともいう)としては、特に限定されないが、ベース樹脂(R
B)の一部を用いることができる。また、このベース樹脂(R
B)とは別の樹脂を用いることもできる。
【0061】
<酸化防止剤>
耐熱性シラン架橋樹脂成形体、架橋性樹脂成形体、又は耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、酸化防止剤(老化防止剤ともいう)を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イミダゾール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤が挙げられる。なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イミダゾール系酸化防止剤が好ましい。特に、少なくとも1種のヒンダードフェノール系酸化防止剤と少なくとも1種のイミダゾール系酸化防止剤とを併用することが、長期耐熱性の観点から好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンが挙げられる。
また、イミダゾール系酸化防止剤としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩、2−メチルメルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等が挙げられる。
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ビス(2−メチル−4−(3−normal−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル)スルフィド、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等が挙げられる。
酸化防止剤は、1種単独で使用されてもよく、又は2種以上が併用されてもよい。
【0062】
<その他の成分>
本発明において、電線、電気ケーブル、電気コード、シート、発泡体、チューブ、パイプ等に一般的に使用される各種の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜用いてもよい。このような添加剤としては、例えば、架橋助剤、滑剤、充填剤、他の樹脂等が挙げられる。
【0063】
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下において、ベース樹脂(R
B)との間に部分架橋構造を形成するものをいう。例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のメタクリレート化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル化合物、マレイミド化合物、ジビニル化合物等の多官能性化合物を挙げることができる。
【0064】
滑剤としては、炭化水素、シロキサン、脂肪酸、脂肪酸アミド、エステル、アルコール、金属石けん等の各滑材が挙げられる。
【0065】
これらの添加剤は、いずれの成分に含有されてもよいが、触媒マスターバッチに含有されるのがよい。このとき、架橋助剤は実質的に含有していないことが好ましい。特に架橋助剤はシランマスターバッチを調製する工程(a1)において実質的に混合されないのが好ましい。架橋助剤を加えると、混練り中に有機過酸化物により架橋助剤が反応し、ベース樹脂(R
B)同士の架橋が生じ、ゲル化が生じて耐熱性シラン架橋樹脂成形体の外観が低下することがある。また、シランカップリング剤のベース樹脂(R
B)へのグラフト反応が進行しにくく、最終的な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性が得られなくなるおそれがある。ここで、実質的に含有しない又は混合されないとは、架橋助剤を積極的に添加又は混合しないことを意味し、不可避的に含有又は混合されることを除外するものではない。
【0066】
次に、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法等を具体的に説明する。
この耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法は、上記の通り、工程(a)と工程(b)と工程(c)とを有している。
【0067】
この製造方法において、工程(a)は、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体15〜70質量%、エチレン−α−オレフィン共重合体10〜50質量%及びポリプロピレン17〜40質量%を含むベース樹脂(R
B)100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量部と、金属水和物20〜120質量部と、臭素系難燃剤10〜60質量部と、三酸化アンチモン5〜30質量部と、シランカップリング剤1〜15質量部と、シラノール縮合触媒とを混合して、混合物を調製する工程である。
【0068】
ベース樹脂(R
B)は、各共重合体等及び各種オイル等の配合成分の合計が100質量%となるように、各配合成分の配合量(含有率)それぞれが後述する範囲から選択される。
【0069】
ポリオレフィン共重合体の含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、15〜70質量%の範囲から選択される。この含有率が15質量%未満であると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも長期耐熱性が劣ることがある。一方、70質量%を超えると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも外観又は破断時伸びが劣ることがある。このような現象は押出成形時の線速が速い場合などにみられることがある。得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体が長期耐熱性、外観、破断時伸び、難燃性を高い水準で兼ね備える点で、ポリオレフィン共重合体の含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、20〜50質量%の範囲から選択されるのが好ましく、25〜40質量%の範囲から選択されるのがより好ましい。
【0070】
エチレン−α−オレフィン共重合体の含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、10〜50質量%の範囲から選択される。この含有率が10質量%未満であると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも破断時伸びが劣ることがある。一方、50質量%を超えると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも長期耐熱性が劣ることがある。得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体が長期耐熱性、破断時伸び及び難燃性を高い水準で兼ね備える点で、エチレン−α−オレフィン共重合体の含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、15〜45質量%の範囲から選択されるのが好ましく、20〜35質量%の範囲から選択されるのがより好ましい。
【0071】
ポリプロピレンの含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、17〜40質量%の範囲から選択される。この含有率が17質量%未満であると、高結晶性成分であるポリプロピレンの含有率が少なくなるため、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも耐加熱変形性、特に押出直後の架橋性樹脂成形体の耐加熱変形性が劣ることがある。一方、40質量%を超えると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも破断時伸び、長期耐熱性又は耐寒性が劣ることがある。ポリプロピレンの含有率が上記範囲内にあると、ポリプロピレンが架橋性樹脂成形体中に適度に存在しているため、押出直後の架橋性樹脂成形体の耐加熱変形性が向上する。そのため、架橋性樹脂成形体の架橋工程(工程(c))において水中浸漬又は蒸気暴露を採用しなくてもよく、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造に有利になる。
ポリプロピレンの含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、20質量%を超え、40質量%以下であることが好ましい。
【0072】
スチレン系エラストマーの含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、20質量%以下であるのが好ましい。
オイル成分の含有率は、ベース樹脂(R
B)全体に対して、20質量%以下であるのが好ましい。
【0073】
工程(a)において、ベース樹脂(R
B)は、後述するように、そのすべてを工程(a1)で用いてもよく、また、一部を工程(a1)で用い、残部を工程(a2)で用いてもよい。シラノール縮合触媒の混合性の点で、ベース樹脂(R
B)は、一部を工程(a1)で用い、残部を工程(a2)で用いるのが好ましい。このときの、工程(a1)と工程(a2)とで用いるベース樹脂(R
B)の質量割合は後述する。
【0074】
工程(a)において、有機過酸化物の配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、0.01〜0.6質量部であり、好ましくは0.03〜0.5質量部である。有機過酸化物の配合量をこの範囲内にすることにより、適切な範囲でグラフト反応を行うことができ、架橋ゲル等に起因する凝集塊も発生することなく、押出し性に優れた混合物を得ることができる。
すなわち、有機過酸化物の配合量が0.01質量部未満では、工程(a1)においてグラフト反応が進行せず、また遊離したシランカップリング剤同士が結合してしまい、耐熱性、機械強度及び耐加熱変形性(補強性ともいう)を十分に得ることができないことがある。一方、0.6質量部を超えると、副反応によって樹脂成分同士の多くが直接的に架橋してしまい、押出し性が低下するうえ、ブツが生じるおそれがある。
【0075】
金属水和物の配合量は、後述する臭素系難燃剤との併用によって低減でき、具体的には、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、20〜120質量部である。金属水和物の配合量が20質量部未満であると、シランカップリング剤のベース樹脂(R
B)へのグラフト反応が不均一となり、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも引張強さ、耐熱性、長期耐熱性又は耐加熱変形性が劣ることがある。また、不均一なグラフト反応により外観が低下することがある。一方、120質量部を超えると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の少なくとも破断時伸び又は長期耐熱性が劣ることがある。また、成形時や混練時の負荷が非常に大きくなり、2次成形が難しくなるおそれがある。得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体が引張強さ、耐熱性、長期耐熱性、耐加熱変形性、破断時伸び及び難燃性に優れる点で、金属水和物の配合量は、30〜100質量部が好ましく、40〜80質量部がより好ましい。
【0076】
シランカップリング剤の配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、1〜15質量部である。この配合量が1質量部未満の場合は、架橋反応が十分に進行せず、優れた耐熱性を発揮しないことがある。一方、15質量部を超えると、金属水和物表面にシランカップリング剤が吸着できないことがある。そのため、シランカップリング剤が混練中に揮発してしまい、経済的でない。また、吸着しないシランカップリング剤同士が縮合して、耐熱性シラン架橋樹脂成形体にブツや焼けが生じ外観が悪化することがある。さらには、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の破断時伸び又は長期耐熱性が劣ることがある。得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体が外観、破断時伸び、長期耐熱性及び耐加熱変形性に優れる点で、シランカップリング剤の配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、3〜10質量部が好ましく、4〜8質量部がより好ましい。
【0077】
工程(a)において、臭素系難燃剤の配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、10〜60質量部であり、好ましくは20〜60質量部であり、より好ましくは20〜40質量部である。臭素系難燃剤の配合量が10質量部未満であると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の難燃性が劣ることがある。一方、60質量部を超えると得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の引張強さ、破断時伸び又は長期耐熱性が低下することがある。
【0078】
工程(a)において、三酸化アンチモンの配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、5〜30質量部であり、好ましくは10〜20質量部である。三酸化アンチモンの配合量が5質量部未満であると、得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の難燃性が低下することがある。一方、30質量部を超えると得られる耐熱性シラン架橋樹脂成形体の長期耐熱性が低下することがある。
【0079】
工程(a)において、酸化防止剤を用いる場合、酸化防止剤の配合量(合計量)は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは2〜20質量部である。
工程(a)においてヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いる場合、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量は、上記酸化防止剤(合計量)の範囲内で設定される。ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部であり、さらに好ましくは1〜5質量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量が上記範囲内にあると、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の長期耐熱性が向上する。
工程(a)においてイミダゾール系酸化防止剤を用いる場合、イミダゾール系酸化防止剤の配合量は、上記酸化防止剤(合計量)の範囲内で設定される。ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部であり、さらに好ましくは2〜15質量部である。イミダゾール系酸化防止剤の配合量が上記範囲内にあると、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤と併用すると、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の長期耐熱性が向上する。
【0080】
工程(a)において、上記添加剤等を用いる場合、添加剤の配合量は、適宜に設定される。
【0081】
耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法において、工程(a)は、下記工程(a1)及び工程(a3)を有し、下記工程(a1)でベース樹脂(R
B)の一部を溶融混合する場合にさらに下記工程(a2)を有している。工程(a)がこれらの工程を有していると、各成分を均一に溶融混合でき、所期の効果を得ることができる。
工程(a1):ベース樹脂(R
B)の一部又は全部と、有機過酸化物と、金属水和物と、シランカップリング剤とを有機過酸化物の分解温度以上で溶融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(a2):キャリヤ樹脂としてのベース樹脂(R
B)の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(a3):シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを混合する工程
【0082】
工程(a)において、工程(a2)は、工程(a1)でベース樹脂(R
B)の一部を溶融混合する場合に行われ、工程(a1)でベース樹脂(R
B)の全部を溶融混合する場合は行われない。この場合、工程(a3)においては、触媒マスターバッチの代わりにシラノール縮合触媒を単独で用いる。
また、工程(a)において、臭素系難燃剤は、工程(a1)及び工程(a2)の少なくとも一方において混合される。臭素系難燃剤がより均一に混合され、高い難燃性を発揮する点で、少なくとも工程(a1)において混合されるのが好ましく、工程(a1)及び工程(a2)の両工程において混合されてもよい。
さらに、工程(a)において、三酸化アンチモンは、工程(a1)及び工程(a2)のいずれか一方において混合されればよい。
工程(a)において、酸化防止剤は、工程(a1)及び工程(a2)の少なくとも一方において混合される。酸化防止剤は、シランカップリング剤のベース樹脂(R
B)へのグラフトを阻害しないように、工程(a2)、例えば触媒マスターバッチのキャリヤ樹脂に混合されることが好ましい。
工程(a)において、スチレン系エラストマーを混合する場合、工程(a1)及び工程(a2)の少なくとも一方の工程で混合する。好ましくは、工程(a1)で混合する。
【0083】
工程(a1)においては、ベース樹脂(R
B)の一部又は全部と、有機過酸化物と、金属水和物と、シランカップリング剤と、所望により臭素系難燃剤及び三酸化アンチモンの一部又は全部とを、混合機に投入し、有機過酸化物の分解温度以上に加熱しながら溶融混練(混合)して、シランマスターバッチを調製する。
【0084】
工程(a1)において、混練温度は、有機過酸化物の分解温度以上であり、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25〜110)℃である。この分解温度はベース樹脂(R
B)が溶融してから設定することが好ましい。また、混練時間等の混練条件も適宜設定することができる。有機過酸化物の分解温度未満で混練りすると、ベース樹脂(R
B)とシランカップリング剤とのグラフト反応、金属水和物とベース樹脂(R
B)との結合、金属水和物間の結合が起こらず、所望の耐熱性を得ることができない。また、成形中に有機過酸化物による架橋反応が起こり、所望の形状に成形できない場合がある。
【0085】
混練方法としては、ゴム、プラスチック等の混練に通常用いられる方法であればよい。混練装置は例えば金属水和物の量に応じて適宜に選択される。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられ、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーがベース樹脂(R
B)の分散性及び架橋反応の安定性の面で好ましい。
【0086】
また、金属水和物がベース樹脂(R
B)100質量部に対して100質量部を超えて混合される場合には、連続混練機、加圧式ニーダー、バンバリーミキサーでの混練りが一般的である。
【0087】
本発明において、「ベース樹脂(R
B)の全部又は一部、有機過酸化物、金属水和物及びシランカップリング剤を溶融混合する」とは、溶融混合する際の混合順を特定するものではなく、どのような順で混合してもよいことを意味する。すなわち、工程(a1)における混合順は特に限定されない。
また、ベース樹脂(R
B)の混合方法も特に限定されない。例えば、予め混合調製されたベース樹脂(R
B)を用いてもよく、各成分、例えば樹脂成分及びオイルそれぞれを別々に用いてもよい。
【0088】
工程(a1)において、例えば、ベース樹脂(R
B)、有機過酸化物、金属水和物、シランカップリング剤を一度に溶融混合することができる。
好ましくは、シランカップリング剤は、金属水和物と前混合等して導入される。これにより、シランカップリング剤が混練中に揮発しにくくなり、また、金属水和物に吸着しないシランカップリング剤が縮合して溶融混練が困難になることも防止できる。また、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
さらに好ましい混合方法の1つとしては、バンバリーミキサーやニーダー等のミキサー型混練機を用い、有機過酸化物の分解温度未満の温度で有機過酸化物と金属水和物とシランカップリング剤とを混合又は分散させた後に、この混合物とベース樹脂(R
B)と、必要により臭素系難燃剤及び三酸化アンチモンの一部又は全部とを有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合させる方法が挙げられる。このようにすると、樹脂成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観が優れる。
【0089】
金属水和物とシランカップリング剤と有機過酸化物は、有機過酸化物の分解温度未満の温度で混合されるのが好ましく、室温(25℃)で混合するのがより好ましい。
【0090】
金属水和物とシランカップリング剤と有機過酸化物との混合方法として、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。
湿式処理としては、例えば、アルコールや水等の溶媒に金属水和物を分散させた状態でシランカップリング剤を加える処理が挙げられる。また、乾式処理としては、例えば、加熱又は非加熱で両者を加え混合する処理が挙げられる。本発明においては、金属水和物、好ましくは乾燥させた金属水和物中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。
上述の湿式混合では、シランカップリング剤が金属水和物と強く化学結合しやすくなるため、その後のシラノール縮合反応が進みにくくなることがある。一方、乾式混合は、金属水和物とシランカップリング剤の結合が比較的弱いため、効率的にシラノール縮合反応が進みやすくなる。
【0091】
金属水和物に加えられたシランカップリング剤は、金属水和物の表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部は金属水和物に吸着されたり、金属水和物表面と化学的な結合を生じたりする。このような状態になることにより、次の効果が得られると考えられる。(i)ニーダーやバンバリーミキサー等で混練り加工する際のシランカップリング剤の揮発が大幅に低減される。その結果、十分な量のシランカップリング剤が樹脂成分と架橋反応する。(ii)また、成形後に水分と接触した際に、シラノール縮合触媒によってシランカップリング剤同士が縮合反応すると考えられる。この反応の機構は定かではないが、金属水和物とシランカップリング剤の結合が強く、工程(a3)においてシラノール縮合触媒を加えても金属水和物と結合したシランカップリング剤が金属水和物から遊離しにくく、この工程でのシラノール縮合反応(架橋反応)が進みにくくなる。
【0092】
金属水和物とシランカップリング剤と有機過酸化物とを混合する方法としては、特に限定されない。例えば、有機過酸化物は、金属水和物等と同時に混合されてもよく、また金属水和物とシランカップリング剤との混合段階の途中で混合されてもよい。さらに、有機過酸化物は、シランカップリング剤と混合した後に金属水和物に混合させてもよく、シランカップリング剤と分けて別々に金属水和物に混合させてもよい。
本発明において、生産条件によっては、シランカップリング剤のみを先に金属水和物に混合し、次いで有機過酸化物を加えてもよい。すなわち、工程(a1)において金属水和物はシランカップリング剤と予め混合したものを用いることができる。有機過酸化物を加える方法としては、他の成分に分散させて加えてもよいし、単体で加えてもよい。
【0093】
好ましい混合方法においては、次いで、金属水和物、シランカップリング剤及び有機過酸化物等の混合物とベース樹脂(R
B)とを、有機過酸化物の分解温度以上に加熱しながら、溶融混練して、シランマスターバッチを調製する。
【0094】
工程(a1)において、シラノール縮合触媒は用いられない。すなわち、工程(a1)は、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練する。これにより、シランカップリング剤が縮合しないため溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a1)において、シラノール縮合触媒は、樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば存在していてもよい。
【0095】
このようにして工程(a1)を実施して、シランマスターバッチ(シランMB)が調製される。
【0096】
工程(a1)で調製されるシランMBは、後述するように、工程(a)で調製される混合物(耐熱性シラン架橋性樹脂組成物)の製造に、好ましくは、シラノール縮合触媒又は後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。このシランMBは、工程(a1)により上記成分を溶融混合して調製される混合物である。
このシランMBは、シランカップリング剤がベース樹脂(R
B)にグラフト反応したシラン架橋性樹脂を含有している。
【0097】
工程(a)においては、工程(a1)でベース樹脂(R
B)の一部を溶融混合する場合には、工程(a2)を行う。工程(a2)は、キャリヤ樹脂としてのベース樹脂(R
B)の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程である。
【0098】
シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、例えば、工程(a)で用いるベース樹脂(R
B)100質量部に対して、好ましくは0.001〜0.5質量部であり、より好ましくは0.003〜0.1質量部である。
シラノール縮合触媒の配合量が、上記の範囲内であれば、シランカップリング剤の縮合反応による架橋が適度に進行し、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性が十分に向上する。また、生産性が高くなる。さらに、シランカップリング剤の縮合反応を均一にすることができる。加えて、シラノール縮合反応の進行速度が適当となり、部分的なゲル化の発生を防止して、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の外観を向上させ、又は物性を維持できる。
【0099】
キャリヤ樹脂は、ベース樹脂(R
B)の一部を用いるのが好ましい。この場合、工程(a1)で用いるベース樹脂(R
B)と工程(a2)で用いるキャリヤ樹脂との合計が100質量部となるように、ベース樹脂(R
B)とキャリヤ樹脂との使用量を適宜に設定する。具体的には、キャリヤ樹脂は、ベース樹脂(R
B)との合計100質量部のうち5〜40質量部であるのがよく、10〜30質量部であるのが特によい。この場合、工程(a1)で使用されるベース樹脂(R
B)は60〜95質量部になり、特によい場合には70〜90質量部となる。
また、キャリヤ樹脂の配合量が多すぎると、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の架橋度が低下してしまい、適正な耐熱性が得られなくなるおそれがある。
ベース樹脂(R
B)とキャリヤ樹脂との合計量が各成分の配合量の基準になる。
【0100】
触媒マスターバッチ(触媒MB)は、シラノール縮合触媒及びキャリヤ樹脂に加えて他の成分を含有していてもよい。例えば、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、酸化防止剤、金属不活性化剤、金属水和物を含有していてもよい。
触媒MBが臭素系難燃剤を含む場合には、臭素系難燃剤の配合量は、工程(a1)でのシランMB中の臭素系難燃剤の配合量に応じて適宜に設定される。例えば、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して配合される10〜60質量部の内の、3〜30質量部であるのが好ましい。
触媒MBが三酸化アンチモンを含む場合には、三酸化アンチモンの配合量は、工程(a1)でのシランMB中の三酸化アンチモンの配合量に応じて適宜に設定される。例えば、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して配合される5〜30質量部の内の、3〜20質量部であるのが好ましい。
触媒MBが酸化防止剤を含む場合には、酸化防止剤の配合量は、工程(a1)でのシランMB中の酸化防止剤の配合量に応じて適宜に設定される。例えば、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して配合される2〜20質量部の内の、2〜20質量部であるのが好ましい。
触媒MBが金属水和物を含む場合には、金属水和物の配合量は、特に限定されないが、キャリヤ樹脂100質量部に対して300質量部以下が好ましい。あまり金属水和物が多いとシラノール縮合触媒が分散しにくく、架橋が進行しにくくなるためである。
【0101】
シラノール縮合触媒とキャリヤ樹脂との溶融混合条件は、キャリヤ樹脂の溶融温度に応じて適宜に設定される。例えば、混練温度は、80〜250℃、より好ましくは100〜240℃で行うことができる。混練時間等の混練条件は適宜設定することができる。混練方法は、上記工程(a1)の混練方法と同様の方法で行うことができる。
【0102】
このようにして得られる触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリヤ樹脂、所望により添加される、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、酸化防止剤、金属不活性化剤の混合物である。
【0103】
工程(a2)で調製される触媒MBは、シランMBとともに、工程(a)で調製される耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造に用いられる。
【0104】
工程(a)においては、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとを混合する工程(a3)を行う。
したがって、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとは、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造用バッチセットとして、用いられる。
工程(a3)において、工程(a2)を行う場合は工程(a2)で調製した触媒MBを用い、工程(a2)を行わない場合はシラノール縮合触媒を用いる。
工程(a1)においてベース樹脂(R
B)の全部を使用する場合、キャリヤ樹脂としてベース樹脂(R
B)以外の他の樹脂を用いることができる。この場合、キャリヤ樹脂の配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、好ましくは1〜60質量部、より好ましくは2〜50質量部、さらに好ましくは2〜40質量部である。上記範囲内であれば、工程(a2)においてシラン架橋を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくくなる。他の樹脂とシラノール縮合触媒とは溶融混合するのが好ましい。
【0105】
工程(a3)においては、シランMBと触媒MB等とを加熱しながら溶融混練するのが好ましい。この溶融混練は、DSC等で融点が測定できないベース樹脂(R
B)、例えばエラストマーもあるが、少なくともベース樹脂(R
B)及び有機過酸化物のいずれかが溶融する温度で混練する。キャリヤ樹脂はシラノール縮合触媒を分散させるために溶融させるのが好ましい。混練時間等の混練条件は適宜設定することができる。溶融混練方法は工程(a1)の混練方法と同様の方法で行うことができる。
本発明において、工程(a2)と工程(a3)は、連続して又は一挙に(同一工程で)行うこともできる。
本発明の製造方法において、予め、シランMBと触媒MB等とを乾式混合(ドライブレンド)することもできる。
【0106】
このようにして、後述するように少なくとも2種の架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有する耐熱性シラン架橋性樹脂組成物が調製される。この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、工程(a)によって調製される混合物であって、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとの混和物と考えられる。得られる耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、ポリオレフィン共重合体及びエチレン−α−オレフィン共重合体にポリプロピレンを特定の配合量で混合したベース樹脂を含んでいる。このように上記配合量で各樹脂成分が混合されたベース樹脂を含む耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、後述する工程(b)において成形しうる加工性を有する。しかも成形後にも成形された形状(成形状態)を保持できる特性を有し、例えば、架橋性樹脂成形体とされたときに後述する「押出直後の耐加熱変形性」を満たすことができる。これにより、工程(b)で得られる架橋性樹脂成形体を、水中浸漬又は蒸気暴露することなく、架橋性樹脂成形体の形状を保ったまま、シラノール縮合させることができる。その結果、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の生産効率が向上する。
また、上記の加工性と、成形状態の保持特性とは、樹脂成分、特にポリプロピレンが一部架橋(部分架橋)することによって、さらに補強されると考えられる。
得られる耐熱性シラン架橋性樹脂組成物において、シランカップリング剤が有する加水分解しうる基は、加水分解も架橋もしていない、又は一部が加水分解して架橋している。一部が加水分解して架橋している場合であっても、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、後述する工程(b)において成形しうる加工性を有している。
【0107】
耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、次いで、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を成形する工程(b)を行い、架橋性樹脂成形体を得る。成形方法は、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を成形できればよく、本発明の耐熱性製品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。例えば、本発明の耐熱性製品が電線又は光ファイバケーブルである場合には、押出成形等が選択される。
【0108】
この工程(b)は、シランMB及び触媒MB等の混合と同時に又は連続して行うことができる。例えば、シランMBと触媒MBとを溶融混合(工程(a3))し、次いで成形、例えば押出成形して(工程(b))、架橋性樹脂成形体を得ることができる。押出し電線やファイバを製造する場合、シランMBと触媒MBとを被覆装置内で溶融混合(工程(a3))し、次いで押出成形し、電線やファイバに被覆して所望の形状に成形(工程(b))する一連の工程を採用できる。
【0109】
このようにして、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体として(耐熱性シラン)架橋性樹脂成形体が得られる。得られる架橋性樹脂成形体は、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物と同様の架橋状態になっている。したがって、架橋性樹脂成形体は、耐熱性シラン架橋樹脂成形体又はそれを含む耐熱性製品の半製品として取り扱われ、取引することができる。
【0110】
耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、次いで、工程(b)で得られた架橋性樹脂成形体を水と接触させて架橋させる工程(c)を行う。これにより、シランカップリング剤が架橋した耐熱性シラン架橋樹脂成形体が得られる。すなわち、シランカップリング剤の加水分解しうる基が加水分解されてシラノールとなる。このシラノールの水酸基同士が、樹脂中に存在するシラノール縮合触媒により、縮合して架橋反応が起こる。
【0111】
この工程(c)は、通常の方法によって行うことができる。すなわち、シランカップリング剤同士の縮合は、常温で保管するだけで進行する。特に、架橋性樹脂成形体は、上記のように、成形された形状を保持できる。したがって、工程(c)において、架橋性樹脂成形体を水に積極的に接触させる必要はない。
架橋を加速させるために、水分と接触させる際に、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の方法を採用してもよい。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0112】
工程(c)は、上記工程(b)とは別々に、例えば時又は場所を異にして、行うこともできる。具体的には、架橋性樹脂成形体又はこれを含む耐熱性製品の半製品を製造した後に、この半製品を保管又は運搬(出荷)しながら架橋する(工程(c))こともできる。また、使用前に使用場所で半製品を架橋する(工程(c))こともできる。
【0113】
このようにして、本発明の製造方法が実施され、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物から耐熱性シラン架橋樹脂成形体が製造される。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、工程(a)、工程(b)及び工程(c)を行うことによって得られる、シランカップリング剤の加水分解しうる基が目的とする架橋状態に架橋された架橋成形体である。ここで、「目的とする架橋状態」(架橋度)は、用途等に応じて適宜に設定され、特に限定されない。例えば、後述する特性を満たす架橋状態が挙げられる。
【0114】
本発明の製造方法について、反応機構の詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。
すなわち、ベース樹脂(R
B)は、有機過酸化物成分の存在下、シランカップリング剤及び金属水和物とともに、有機過酸化物の分解温度以上で加熱混練されると、有機過酸化物の分解により発生したラジカルによって、シランカップリング剤でグラフト化される。これにより、ベース樹脂(R
B)同士が結合(架橋)し、またベース樹脂(R
B)と金属水和物とが結合する。
【0115】
また、これら反応が生じる理由はまだ定かではないが次のように推定される。
【0116】
すなわち、工程(a1)での混練り前及び/又は混練り時に、シランカップリング剤は、強い結合又はと弱い結合で金属水和物と結びつく。このとき、シランカップリング剤の一部は、加水分解しうる基で金属水和物と強く結合する。また、シランカップリング剤の一部は、金属水和物と結合することなく、金属水和物の穴や表面に物理的及び化学的に吸着して、保持される。このように、金属水和物に対して強い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、金属水和物表面の水酸基等との化学結合の形成が考えられる)と、弱い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷もしくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が考えられる)とが共存する。
【0117】
この状態で、有機過酸化物を加えて混練りを行うと、シランカップリング剤がほとんど揮発することなく、金属水和物との結合状態が異なる、樹脂成分にシランカップリング剤がグラフト反応した少なくとも2種のシラン架橋性樹脂が形成される。
すなわち、金属水和物と強い結合を有するシランカップリング剤は、金属水和物との結合が保持されたまま、上記グラフト反応しうる基が樹脂成分の架橋部位とグラフト反応する。特に、1つの金属水和物粒子の表面に複数のシランカップリング剤が強い結合を介して存在した場合、この金属水和物粒子を介して樹脂成分が複数結合する。これにより、この金属水和物での架橋ネットワークが広がる。このようにして、金属水和物に結合しているシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が形成される。このシラン架橋性樹脂は金属水和物と樹脂との強い結合のため、優れた機械的強度、耐寒性及び難燃性に寄与する。
【0118】
一方、金属水和物と弱い結合を有するシランカップリング剤は、金属水和物の表面から離脱して、樹脂成分にグラフトする。すなわち、金属水和物から離脱したシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応したシラン架橋性樹脂が形成される。
【0119】
このようにして生じたグラフト部分のシランカップリング剤は、その後シラノール縮合触媒と混合され、水分と接触することにより、縮合反応(架橋反応)を生じる。この架橋反応により得られた耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性は非常に高くなり、高温でも溶融しない耐熱性シラン架橋樹脂成形体を得ることが可能となる。すなわち、優れた耐加熱変形性やはんだ耐熱性及び長期耐熱性を示す。
上記の金属水和物と強い結合を有するシランカップリング剤の場合は、このシラノール縮合触媒による水存在下での縮合反応で、金属水和物の表面の水酸基と共有結合により化学結合したシランカップリング剤同士も縮合反応すると、さらに架橋のネットワークが広がる。
【0120】
特に、本発明では、この工程(c)における、水存在下でのシラノール縮合触媒を使用した縮合による架橋反応を、成形体を形成した後に行う。これにより、従来の最終架橋反応後に成形体を形成する方法と比較して、成形体形成までの工程での作業性に優れる。また、1つの金属水和物粒子表面に複数のシランカップリング剤を結合でき、従来以上に高い耐熱性を得ることが可能となると共に、高い機械強度及び難燃性を得ることができる。
【0121】
このように金属水和物に対して強い結合で結合したシランカップリング剤は高い機械強度、難燃性及び耐寒性に寄与し、また金属水和物に対して弱い結合で結合したシランカップリング剤は架橋度の向上に寄与する。
また、シランカップリング剤が金属水和物に結合した状態で混練されるため、シランカップリング剤は金属水和物と共に樹脂組成物中に均一に分散する。これにより架橋反応も均一に進行し、局所的な架橋が原因で発生するブツなどが抑制され、優れた外観の成形体が得られる。
【0122】
金属水和物として、予めシランカップリング剤又は他の表面処理剤で少し表面処理された表面処理金属水和物を用いると、予め処理されたシランカップリング剤又は後添加のシランカップリング剤が強く結合した金属水和物が多く形成される。これにより、高い機械特性(例えば機械的強度)及び難燃性の成形体を得ることができる。一方で、金属水和物として、予めシランカップリング剤又は他の表面処理剤で多く表面処理された金属水和物を用いると、後に添加されるシランカップリング剤が弱く結合した金属水和物が多く形成される。これにより、機械強度は大きく向上しないものの、柔軟性等の優れた成形体を得ることができる。また、シランカップリング剤が金属水和物と弱く結合した金属水和物が多く形成されると高い架橋度の成形体を得ることができ、またシランカップリング剤が弱く結合した金属水和物の形成量を少なく制御することにより、架橋度は下がり、マテリアルリサイクル可能な材料を得ることが可能となる。
【0123】
このような作用を奏する金属水和物と臭素系難燃剤とを併用すると、金属水和物の使用量を低減させても難燃性に優れる。このように難燃性に優れる理由はまだ定かではないが次のように考えられる。すなわち、臭素系難燃剤は電気陰性度の高い臭素を多量に含んでおり極性が高い。そのためベース樹脂(R
B)と金属水和物との間の強固なネットワークにさらにシランカップリング剤を介して臭素系難燃剤も取り込まれることにより、相互作用が高まり難燃性が向上したものと考えられる。
【0124】
また、本発明においては、工程(a1)での混練り前及び/又は混練り時に、上記したように、融点の高いポリプロピレンを特定量含むベース樹脂が用いられる。そして、このポリプロピレンは混練りによって混合物中によく分散する。また部分架橋(動的架橋)されることもある。これにより、架橋性樹脂成形体はその成形状態を保持できる。また、耐加熱変形性を押出直後及び架橋後にも発揮することができると考えられる。
【0125】
本発明の製造方法は、耐熱性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、強度が求められる製品、ゴム材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。このような製品として、例えば、耐熱性難燃絶縁電線等の電線、耐熱難燃ケーブル被覆材料、ゴム代替電線・ケーブル材料、その他耐熱難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃耐熱フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気、電子機器の内部及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ケーブルの製造に適用することができる。本発明の製造方法は、上述の製品の構成部品等の中でも、特に電線及び光ケーブルの絶縁体、シース等の製造に好適に適用され、これらの被覆として形成することができる。
【0126】
本発明の耐熱性製品は、耐熱性シラン架橋樹脂成形体を含む、上述の各種耐熱性製品であり、耐熱性シラン架橋樹脂成形体を絶縁体又はシース等の被覆として含む耐熱製品、例えば、電線、光ケーブルが挙げられる。
絶縁体、シース等は、それらの形状に、押出被覆装置内で溶融混練しながら被覆する等により成形することができる。このような絶縁体、シース等の成形体は、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚線等の任意のものを用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。導体の周りに形成される絶縁層(本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが通常0.15〜8mm程度である。
【実施例】
【0127】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、表1〜表4において、各実施例及び比較例における配合組成の数値は、特に断らない限り、質量部を表し、空白は該当する成分が無含有であることを表す。
【0128】
表1〜表4中に示す各化合物としては下記のものを使用した。
<ベース樹脂(R
B)及びキャリヤ樹脂>
(ポリオレフィン共重合体)
EVA1:「エバフレックス」V5274(商品名)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、VA含有量17質量%、三井・デュポンケミカル社製
EVA2:「エバフレックス」EV170(商品名)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、VA含有量33質量%、三井・デュポンケミカル社製
EEA:NUC−6510(商品名)、エチレンエチルアクリレートコポリマー、EA含有量23%、NUC社製
(エチレン−α−オレフィン共重合体)
LLDPE:「エボリューSP0540」(商品名)、プライムポリマー社製
(ポリプロピレン)
PP:「PB270A」(商品名)、サンアロマー社製
(スチレン系エラストマー)
SEPS:「セプトン4077」(商品名、スチレン含有量30質量%、クラレ社製)
(オイル)
PW90:「ダイアナプロセスオイルPW90」(商品名)、出光興産社製
【0129】
<金属水和物>
水酸化マグネシウム:「キスマ5L」(商品名)、シランカップリング剤処理水酸化マグネシウム(処理量1質量%)、協和化学工業製
<三酸化アンチモン>
三酸化アンチモン:豊田通商社製
<シランカップリング剤>
「KBM−1003」(商品名)、ビニルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製
<有機過酸化物>
「パークミルD」(商品名)、ジクミルパーオキサイド(DCP)、分解温度151℃、日本油脂社製
<シラノール縮合触媒>
「アデカスタブOT−1」(商品名)、ジオクチルスズジラウリレート、ADEKA製
<臭素系難燃剤>
「サイテックス8010」(商品名)、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、アルベマール社製
【0130】
<その他>
(酸化防止剤)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤:「イルガノックス1010」(商品名)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、BASF社製
イミダゾール系酸化防止剤:「ノクラックMBZ」(商品名)、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、大内新興化学工業社製
【0131】
(実施例1)
まず、表1の「シランMB組成」欄に示す、水酸化マグネシウム、シランカップリング剤及び有機過酸化物を、表1に示す配合量で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入して室温で10分混合し、粉体混合物を得た。
次に、この粉体混合物と、表1の「シランMB組成」欄に示す、ポリオレフィン共重合体(EVA2)、エチレン−α−オレフィン共重合体(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、及び臭素系難燃剤を日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、そのミキサーで約12分混練り後、材料排出温度180〜190℃で排出し、シランMBを得た(工程(a1))。排出前に、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には180〜190℃で5分間混練した。
【0132】
一方、表1の「触媒MB組成」欄に示す、エチレン−α−オレフィン共重合体(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、三酸化アンチモン、シラノール縮合触媒、酸化防止剤を、表1に示す配合量で、バンバリーミキサーにより120〜160℃で混合し、材料排出温度120〜180℃で溶融混合して、触媒MBを得た(工程(a2))。
【0133】
次いで、得られたシランMB全量(165.1質量部)と得られた触媒MB全量(39.1質量部)とをドライブレンドして、L/D=24の40mm押出機(圧縮部スクリュー温度170℃、ヘッド温度180℃)に導入し、180℃で溶融混合しつつ、溶融混合物を錫めっき軟銅撚線(素線径0.18mm、撚り線本数21本:21/0.18TA導体)の外側に線速50m/分で肉厚が0.84mmとなるように被覆し、外径2.63mmの電線前駆体を得た(工程(a3)及び工程(b))。
得られた電線前駆体の被覆は、いずれも、架橋性樹脂成形体であり、2種の架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有している。
この電線前駆体を温度60℃湿度95%の雰囲気に48時間放置した(工程(c))。
このようにして耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆(絶縁層)を有する絶縁電線(外径2.63mm)を製造した。
【0134】
実施例1で用いた各成分の配合比(混合比)、すなわち耐熱性シラン架橋樹脂成形体の原料組成を、「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の原料組成」として、表1に示す。
【0135】
(実施例2〜19、比較例1〜14)
表1〜表4に示す配合で実施例1と同様にシランMBと触媒MBをそれぞれ作製した(工程(a1)及び工程(a2))。得られたシランMB全量と得られた触媒MB全量とを用いたこと以外は実施例1と同様にして、溶融混合物を錫めっき軟銅撚線の外側に肉厚0.84mmで被覆し、外径2.63mmの電線前駆体を得た(工程(a3)及び工程(b))。この電線前駆体を温度60℃湿度95%の雰囲気に48時間放置して(工程(c))、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆(絶縁層)を有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
比較例14は、有機過酸化物の配合量が多く、シランMBと触媒MBとの溶融物を押し出すことができず、電線を製造できなかった。
【0136】
実施例5、6、比較例7、9では、三酸化アンチモンを工程(a1)で溶融混練した。実施例13及び比較例10では、三酸化アンチモンを工程(a1)及び工程(a2)の両工程で溶融混練した。これら以外の実施例及び比較例では、三酸化アンチモンを工程(a2)で溶融混練した。
また、実施例6、7、比較例4、7、9、12では、臭素系難燃剤を工程(a1)及び工程(a2)の両工程で溶融混練した。実施例10、15、比較例8では臭素系難燃剤を工程(a2)で溶融混練した。これら以外の実施例及び比較例では、臭素系難燃剤を工程(a1)で溶融混練した。
【0137】
(実施例20)
実施例20は、電線前駆体を半製品として製造し、工程(c)を積極的に行わず、電線前駆体を保管しながら架橋して、絶縁電線を製造した例である。
イミダゾール系酸化防止剤(ノクラックMBZ)を含まない以外は実施例1と同一組成の電線前駆体を実施例1と同様にして得た後、その電線前駆体を温度23℃湿度50%の雰囲気に7日間放置した。このようにして絶縁電線を製造した。
【0138】
製造した各絶縁電線について下記の評価を行った。
【0139】
(外観)
絶縁電線の外観試験を行った。押出外観は絶縁電線につき、表面平滑性とブツの有無について評価した。
表面平滑性は、30mの電線表面の凹凸を目視及び手触りにて、評価した。具体的には、手触りにて電線表面が滑らかだった場合を「A」、手触りにて電線表面に若干粗さを感じたが目視では良好であった場合を「B」、目視で悪かった(粗さを確認できた)場合を「C」とした。「A」及び「B」を製品レベルとして合格とした。
ブツの有無についても、30mの電線を目視及び手触りにて評価した。具体的には、目視及び手触りにてブツを確認できなかった場合を「A」、目視ではブツを確認できないが手触りにてブツ(ツブ状物)を確認できた場合を「B」、目視でブツを確認できた場合を「C」とした。「A」及び「B」を製品レベルとして合格とした。
【0140】
(機械特性)
絶縁電線の機械特性として引張試験を行った。この絶縁電線の引張試験は、絶縁電線から導体を抜き取った電線管状片を用いて、UL1581に基づき、標線間25mm、引張速度500mm/分で行い、引張強さ(MPa)及び破断時伸び(%)を測定した。引張強さは13.8MPa以上、破断時伸びは300%以上を製品レベルとして合格とした。
【0141】
(長期耐熱性)
1.熱老化試験
長期耐熱性として熱老化試験を行った。すなわち、製造した絶縁電線それぞれを158℃に7日間加熱した。この加熱後の絶縁電線から導体を抜き取った電線管状片を用いて、上記「機械特性」と同様にして、引張試験を行い、引張強さ及び破断時伸びを測定した。測定された引張強さ及び破断時伸びそれぞれにつき、加熱前の絶縁電線の機械特性に対する割合(引張強さ残率及び破断時伸び残率)を、求めた。
引張強さ残率及び破断時伸び残率が共に80%以上であった場合を「A」(製品レベルとして合格)とし、一方でも80%未満であった場合を「B」(製品レベルとして不合格)とした。
【0142】
2.40,000時間寿命推定温度
長期耐熱性として40,000時間寿命推定温度で評価した。すなわち、製造した絶縁電線それぞれを、158℃、180℃又は200℃の温度に加熱して、加熱後の引張強さ及び破断時伸びを、上記「機械特性」と同様にして、測定した。各温度において、加熱後の引張強さが3.92MPaとなった加熱時間、及び、破断時伸びが50%となった加熱時間を各々求めた。求めた加熱時間と加熱温度とから引張強さ及び破断時伸びについて各々アレニウスプロットを作成した。これらプロットから求めた40,000時間寿命推定温度のうち低い方が125℃以上であった場合を「A」(合格)とし、125℃未満であった場合を「B」(不合格)とした。
ここで、「40,000時間寿命」とは、40,000時間加熱された後、絶縁電線の引張強さが3.92MPaとなる、又は破断時伸びが50%となることをいう。
この40,000時間寿命推定温度評価は、参考までに行ったものであり、必ずしも合格しなくてもよい。
【0143】
(耐加熱変形性)
1.押出直後の耐加熱変形性
上記各実施例及び比較例において、工程(b)で得られた電線前駆体それぞれを用いて、「押出直後の耐加熱変形性」を評価した。具体的には、電線前駆体の耐加熱変形性を、UL1581に基づいて、測定温度121℃、荷重5Nの条件で、測定した。
2.絶縁電線の耐加熱変形性
上記各実施例及び比較例で製造した絶縁電線それぞれを用いて、「絶縁電線の耐加熱変形性」を「押出直後の耐加熱変形性」と同様の方法にて評価した。
3.評価
「押出直後の耐加熱変形性」及び「絶縁電線の耐加熱変形性」の測定値(%)を表1〜表4に示した。評価は、測定値が、いずれも50%以下であった場合を「A」とし、少なくとも一方が50%を超える場合を「B」とした。
本発明においては、評価結果が「A」であった場合を製品レベルとして「合格」とし、「B」であった場合を製品レベルとして「不合格」とする。
【0144】
(難燃性)
難燃性試験として、各絶縁電線について準備した5検体(N=5)それぞれについて、UL1581 VW−1試験(垂直燃焼試験)を行った。本発明においては、5検体すべてが合格した場合のみを製品レベルとして「合格」とし、「A」で表記した。5検体のいずれかが不合格の場合を「B」で表記した。
【0145】
(耐寒性)
耐寒性試験として低温巻付け試験をJIS C 3005に準じて行った。
試験温度は−15℃及び−45℃とし、製造した絶縁電線それぞれを各試験温度で4時間放置した。次いで、絶縁電線を自己径と同じ外径(2.63mm)のマンドレルに6ターン以上巻付けて、絶縁電線にクラックが発生したか否かを目視にて確認した。絶縁電線を試験温度−45℃に放置してもクラックが発生しなかった場合を「A」、絶縁電線を試験温度−45℃に放置した場合にクラックが発生したものの、試験温度−15℃に放置した場合にクラックが発生しなかったものを「B」、絶縁電線を試験温度−15℃に放置した場合にクラックが発生したものを「C」とした。「A」及び「B」を製品レベルとして合格とした。
【0146】
(はんだ耐熱性)
絶縁電線の耐熱性試験としてはんだ耐熱性試験を行った。具体的には、絶縁電線の外周にアルミ箔を1層に巻付け、そのうちの長さ3cmの部分を350℃に設定したはんだバスに浸漬し、3秒間そのまま保持した。その後、絶縁電線をはんだバスから引き挙げて、アルミ箔を除いた。絶縁電線の被覆層の溶融の有無及び被覆層内部の発泡の有無を確認した。その結果、被覆層の溶融や発泡等の異常がなければ合格とし、「A」で表記し、被覆層の溶融又は発泡等の異常があった場合を不合格として「B」で表記した。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
【表4】
【0151】
表1〜表4の結果から以下のことが分かった。
すなわち、実施例1〜20で製造した絶縁電線は、いずれも、外観、機械特性、長期耐熱性(熱老化試験)、耐加熱変形性、難燃性、耐寒性及びはんだ耐熱性のいずれも合格レベルに到達していた。この点は、工程(c)を積極的に行わない実施例20でも同様であった。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とイミダゾール系酸化防止剤とを併用した実施例1〜3、5、7、10、14、18及び19は40,000時間寿命温度が高く長期耐熱性がさらに優れていた。
【0152】
これに対して、比較例1〜13で製造した絶縁電線は、いずれも、外観、機械特性、長期耐熱性、耐加熱変形性、難燃性、耐寒性及びはんだ耐熱性の少なくともいずれかが合格レベルに到達しなかった。
具体的には、ポリオレフィン共重合体の配合量が少ない比較例1は長期耐熱性に劣っていた。また、ポリオレフィン共重合体の配合量が多い比較例2は表面平滑性と破断時伸びに劣っていた。これは押出速度が速いことによるものと考えられる。
エチレン−α−オレフィン共重合体の配合量が少ない比較例3は破断時伸びに劣っていた。また、エチレン−α−オレフィン共重合体の配合量が多い比較例4は長期耐熱性に劣っていた。
ポリプロピレンの配合量が少ない比較例5は押出直後の耐加熱変形性が本発明の合格レベルに到達しなかった。またポリプロピレンの配合量が多い比較例6は破断時伸び、長期耐熱性及び耐寒性に劣っていた。
金属水和物の配合量が少ない比較例7は引張強さ、長期耐熱性、耐加熱変形性、はんだ耐熱性に劣っていた。金属水和物の配合量が多い比較例8は破断時伸び及び長期耐熱性に劣っていた。
三酸化アンチモンの配合量が少ない比較例9は難燃性に劣っていた。三酸化アンチモンの配合量が多い比較例10は破断時伸び及び長期耐熱性に劣っていた。
臭素系難燃剤の配合量が少ない比較例11は難燃性に劣っていた。臭素系難燃剤の配合量が多い比較例12は引張強さ、破断時伸び及び長期耐熱性に劣っていた。
シランカップリング剤の配合量が多い比較例13は、ブツが形成され外観が悪く、破断時伸び及び長期耐熱性に劣っていた。