特許第6140161号(P6140161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6140161
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】骨強化用粉乳組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/152 20060101AFI20170522BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20170522BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20170522BHJP
   A61K 38/22 20060101ALN20170522BHJP
   A61P 19/08 20060101ALN20170522BHJP
   A61K 38/00 20060101ALN20170522BHJP
   A61K 9/16 20060101ALN20170522BHJP
   A61K 38/55 20060101ALN20170522BHJP
【FI】
   A23C9/152
   A23L33/17
   A23L33/10
   !A61K37/24
   !A61P19/08
   !A61K37/18
   !A61K9/16
   !A61K37/64
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-527854(P2014-527854)
(86)(22)【出願日】2012年7月31日
(86)【国際出願番号】JP2012069397
(87)【国際公開番号】WO2014020681
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2015年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大町 愛子
(72)【発明者】
【氏名】松山 博昭
(72)【発明者】
【氏名】森田 如一
(72)【発明者】
【氏名】石田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】奈良 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 篤
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏
(72)【発明者】
【氏名】浦園 浩司
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−007585(JP,A)
【文献】 特表2011−519960(JP,A)
【文献】 特開2000−281587(JP,A)
【文献】 特開2002−000193(JP,A)
【文献】 特開平08−151331(JP,A)
【文献】 芹澤篤,骨強化食品素材「乳塩基性タンパク質」の開発,第3回食品薬学シンポジウム講演要旨集,2009年,vol.3rd,p.33-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
FROSTI(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、シスタチン及び/又はシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物
【請求項2】
アンジオジェニン及び/又は分子量が500以上8000以下であるアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、
シスタチン及び/又は分子量が500以上8000以下であるシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物。
【請求項3】
アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を均一に乳原料に混合する工程を含む請求項1記載の骨強化用粉乳組成物の製造方法。
【請求項4】
アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を乳原料に混合し、造粒する工程を含む請求項1記載の骨強化用粉乳組成物の製造方法。
【請求項5】
精製されたアンジオジェニン及び/又はそのアンジオジェニン分解物と精製されたシスタチン及び/又はそのシスタチン分解物を均一に乳原料に混合する工程を含む、
アンジオジェニン及び/又は分子量が500以上8000以下であるアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、
シスタチン及び/又は分子量が500以上8000以下であるシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物の製造方法。
【請求項6】
精製されたアンジオジェニン及び/又はそのアンジオジェニン分解物と精製されたシスタチン及び/又はそのシスタチン分解物を乳原料に混合し、造粒する工程を含み、
アンジオジェニン及び/又は分子量が500以上8000以下であるアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、
シスタチン及び/又は分子量が500以上8000以下であるシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な粉乳組成物及びその製造方法に関する。本発明の粉乳組成物は、特定の乳成分を含有することにより、骨粗鬆症や骨折、リウマチ、関節炎などの種々の骨疾患の予防や治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的規模で、高齢化等に伴い、骨粗鬆症や骨折あるいは腰痛などの種々の骨に関連する疾患が増加しており、大きな社会問題となっている。これは、カルシウムの摂取不足やカルシウム吸収能力の低下、閉経後のホルモンのアンバランスなどが原因であるとされている。骨粗鬆症や骨折、腰痛などの種々の骨疾患を予防するためには、若齢期から骨芽細胞による骨形成を促進して体内の骨量をできるだけ増加させ、最大骨量や骨強度(骨密度+骨質)を高めることが有効であるとされている。なお、骨質とは、骨の微細構造や代謝回転、微小骨折、石灰化を指すものである。また、骨粗鬆症や骨折、腰痛などの種々の骨疾患を予防する方法としては、破骨細胞による骨吸収を抑制することも考えられる。骨はバランスのとれた吸収と形成を絶えず繰り返している(リモデリング)が、閉経後のホルモンバランスの変化等により、骨吸収が骨形成を上回り、これが骨粗鬆症や骨折、腰痛などの種々の骨疾患の原因となる。したがって、破骨細胞による骨吸収を抑制して骨強度を一定に保つことにより、結果的に骨を強化することが可能である。
【0003】
このような現状から、骨を強化する目的で、炭酸カルシウムやリン酸カルシウム、乳酸カルシウムなどのカルシウム塩ならびに乳清カルシウムや牛骨粉、卵殻などの天然カルシウム剤を、それぞれ単独で医薬品や飲食品、飼料などに添加したものが摂取されている。又は、これらのカルシウム剤をカゼインホスホペプチドやオリゴ糖などのカルシウム吸収促進効果を有する物質と共に医薬品や飲食品、飼料などに添加したものが摂取されている。しかしながら、これらのカルシウム塩や天然カルシウム剤を飲食品に添加したものを摂取した場合のカルシウムの吸収率は50%以下であり、多くのカルシウムは吸収されずに体外に排出されてしまうといわれている。また、体内に吸収されたカルシウムであっても、その形態や同時に摂取される他の栄養成分の種類によって骨への親和性が異なるので、必ずしも骨代謝の改善や骨強化の作用を示さないこともある。その他、骨粗鬆症治療や骨強化のための医薬として、女性ホルモン製剤や活性型ビタミンD製剤、ビタミンK製剤、ビスフォスフォネート製剤、カルシトニン製剤などが知られており、抗RANKL抗体などの新薬開発が進められている。しかし、これらの医薬品を用いた場合、耳鳴り、頭痛、食欲不振などの副作用を伴うことがある。さらに、これらの物質は安全性及びコストなどの面から、現在のところ飲食品に添加することができない状況にある。一方、骨粗鬆症や骨折、腰痛などの種々の骨疾患の疾病の性質から、長期的に経口摂取することができ、骨形成促進的及び骨吸収抑制的に作用して骨強度を高め、その予防または治療効果が期待できるような飲食品の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−151331号公報
【特許文献2】特開平10−7585号公報
【特許文献3】特開2000−281587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、骨粗鬆症や骨折、リウマチ、関節炎などの種々の骨疾患の予防や治療に有用な粉乳類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を含有し、かつ、シスタチン及び/又はシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して特定の範囲の質量比で含有する粉乳類を摂取することによって、効果的に骨密度を高める作用が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、以下の内容に関する
(1)アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、シスタチン及び/又はシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物
(2)アンジオジェニン及び/又は分子量が500以上8000以下であるアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、
シスタチン及び/又は分子量が500以上8000以下であるシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物。
(3)アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を均一に乳原料に混合する工程を含む上記(1)記載の骨強化用粉乳組成物の製造方法。
(4)アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を乳原料に混合し、造粒する工程を含む上記(1)記載の骨強化用粉乳組成物の製造方法。
(5)精製されたアンジオジェニン及び/又はそのアンジオジェニン分解物と精製されたシスタチン及び/又はそのシスタチン分解物を均一に乳原料に混合する工程を含む、アンジオジェニン及び/又は分子量が500以上8000以下であるアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、シスタチン及び/又は分子量が500以上8000以下であるシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物の製造方法。
(6)精製されたアンジオジェニン及び/又はそのアンジオジェニン分解物と精製されたシスタチン及び/又はそのシスタチン分解物を乳原料に混合し、造粒する工程を含み、アンジオジェニン及び/又は分子量が500以上8000以下であるアンジオジェニン分解物を1.4〜24mg/15g含有し、かつ、シスタチン及び/又は分子量が500以上8000以下であるシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対して質量比が0.03〜1.3の範囲で含有する骨強化用粉乳組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粉乳類は、骨を強化する作用を有し、骨粗鬆症や骨折、リウマチ、関節炎などの種々の骨疾患の予防や治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粉乳組成物の特徴は、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を特定の範囲の量で含有し、かつ、特定の範囲の質量比でアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を含有することにある。
一般に粉乳組成物中には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物は22.5μg〜90μg/g(0.34mg〜1.35mg/15g)程度、シスタチン及び/又はシスタチン分解物は45μg〜113μg/g(0.68mg〜1.70mg/15g)程度含まれている。
これに対し、本発明の粉乳組成物は、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を添加して、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を1.4mg〜24mg/15g含有し、かつ、シスタチン及び/又はシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対する質量比が0.03〜1.3の範囲で含有するものである。
なお、本明細書において「粉乳組成物」を「粉乳類」と記載することもある。
【0010】
本発明の粉乳類に含有されるアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物やシスタチン及び/又はシスタチン分解物としては、ヒト、ウシ、水牛、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類の乳から調製されるアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を含む画分、シスタチン及び/又はシスタチン分解物を含む画分や、遺伝子工学的手法により生産されるこれらの画分、血液や臓器から精製されたアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物、シスタチン及び/又はシスタチン分解物等が使用可能である。また、精製され、市販されているアンジオジェニンやシスタチンの試薬を用いることも可能である。
また、上述のアンジオジェニンを含む画分、アンジオジェニンの試薬やシスタチンを含む画分、シスタチンの試薬等をそれぞれ1種類以上のタンパク質分解酵素で分解したアンジオジェニン分解物やシスタチン分解物を含有させることも可能である。
【0011】
一方、乳、または脱脂乳や乳清などの乳由来の原料から直接、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を含む画分を抽出して調製したタンパク質素材を含有させることも可能である。このようなタンパク質素材は、例えば、乳又は乳原料を陽イオン交換樹脂と接触させた後、その樹脂に吸着した乳由来タンパク質を0.1〜2.0Mの塩濃度で溶出して、逆浸透膜や電気透析膜、限外濾過膜、精密濾過膜などにより脱塩、濃縮した後、必要に応じて、トリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、カリクレイン、カテプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素で分子量が8,000以下となるように分解することにより調製することができる。なお、タンパク質分解酵素で分解する場合は、分子量の下限は500以上とすることが好ましい。また、このようにして得られたタンパク質素材は、凍結乾燥や噴霧乾燥などにより乾燥することも可能であり、乾燥したものを粉乳類に含有させてもよい。
【0012】
本発明では、上述したアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物、シスタチン及び/又はシスタチン分解物、これらを含むタンパク質素材等を乳原料に添加し、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を1.4mg〜24mg/15g含有させ、かつ、シスタチン及び/又はシスタチン分解物を、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対する質量比が0.03〜1.3の範囲で含有させる。
後の試験例で示すが、上述のようにアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物、シスタチン及び/又はシスタチン分解物を含有させることにより、各々の成分を単独で摂取するよりも効果的に骨強化作用を得ることができる。
【0013】
本発明の粉乳類は、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物、シスタチン及び/又はシスタチン分解物を特定量で含有させること以外は特に制限はなく、一般的な方法に従って製造すればよい。本発明によって製造される粉乳類は、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、クリームパウダー、全脂粉乳、ホエイ粉、乳ミネラル濃縮物、乾燥チーズ粉末、WPI、WPC、調製粉乳、特殊粉乳等のすべての粉乳類である。例えば、乳原料にアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物を特定量の範囲となるように配合し、かつ、シスタチン及び/又はシスタチン分解物をアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対し特定の範囲の質量比となるように添加して、均一に混合することにより調製する。ここで、乳原料には、脱脂乳、脱脂粉乳、部分脱脂乳、部分脱脂粉乳、クリーム、クリームパウダー、牛乳、全脂粉乳、脱脂濃縮乳、ホエイ粉、乳ミネラル濃縮物、乾燥チーズ粉末、カゼイン、WPI、WPC、調製粉乳、特殊粉乳等が含まれる。
また、乳原料にアンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物とシスタチン及び/又はシスタチン分解物を特定量添加して均一に混合した後、常法に従って、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等によって濃縮、乾燥して水分を除去し、本発明の粉乳類を製造することもできる。その際、粉乳類に含まれる乳脂肪や乳タンパク質の含量を調整して無脂乳固形当たりの乳タンパク質の含量を34%以下に調整したり、濃縮、乾燥により、粉乳類の水分含量を5%以下にすることも可能である。また、粉乳類の溶解性を高めるために、造粒等の工程を入れることも可能である。
なお、本発明の粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物やシスタチン及び/又はシスタチン分解物以外に、上述した乳原料のほか、糖類や脂質、タンパク質、ビタミン類、ミネラル類、フレーバー、安定剤、pH調整剤、固化防止剤等、飲食品に通常使用する原材料等も配合することが可能であり、他の骨強化作用を示す成分、例えばカルシウムやビタミンD、ビタミンK、イソフラボン等を配合することも可能である。
【0014】
本発明の粉乳類は、後述する実験動物での試験において、体重1kgあたり15g以上経口摂取させることにより、骨を強化することができる。この実験動物における摂取量は、血中薬物濃度において、成人一人あたりの摂取量に該当することから(中島 光好 (1993) 「第8巻 薬効評価」 廣川書店 2−18頁)、通常、成人一人一日あたり、本発明の粉乳類を15g以上摂取することにより骨を強化することができ、骨粗鬆症や骨折、リウマチ、関節炎などの種々の骨疾患の予防や治療の効果が特に期待できる。
【0015】
以下に、参考例、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0016】
[参考例1]
(アンジオジェニン画分の調製1)
陽イオン交換樹脂であるスルホン化キトパール(富士紡績社製)30kgを充填したカラムを脱イオン水で十分に洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳1,000L(pH6.7)を通液した。次に、このカラムを脱イオン水で十分洗浄した後、0.1〜2.0Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配で溶出した。そして、アンジオジェニンを含有する溶出画分をS−Sepharose陽イオン交換クロマトグラフィー(アマシャムバイオサイエンス社製)で分画し、得られたアンジオジェニン含有画分を90℃で10分間加熱処理し、遠心分離することにより沈澱を除去した。さらに、このアンジオジェニン含有画分をSuperose12ゲル濾過クロマトグラフィーで処理した。この溶出液を逆浸透膜により脱塩した後、凍結乾燥してアンジオジェニンの純度が90%のアンジオジェニン画分16.5gを得た。これら一連の処理を30回繰り返した。
【0017】
[参考例2]
(アンジオジェニン画分の調製2)
ヘパリンアフィニティセファロース(GEヘルスケア社製)10kgを充填したカラムを脱イオン水で十分に洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳500L(pH6.7)を通液した。次に、このカラムを0.5Mの塩化ナトリウム溶液で十分洗浄した後、1.5Mの塩化ナトリウム溶液で溶出した。そして、この溶出液を逆浸透膜により脱塩した後、凍結乾燥してアンジオジェニンの純度が5%のアンジオジェニン画分18gを得た。これら一連の処理を50回繰り返した。
【0018】
[参考例3]
(シスタチン画分の調製)
5%乳清タンパク質溶液100,000Lを90℃で10分間加熱処理し、遠心分離することにより沈澱を除去した。さらに、カルボキシメチル化パパインをトレシルトヨパール(Tresyl−Toyopearl、東ソー社製)に結合させた担体をカラムに充填後、0.5Mの塩化ナトリウム溶液で平衡化し、先の乳清タンパク質溶液を通液した。通液後、0.5Mの塩化ナトリウム溶液と0.1%のTween20を含む0.5Mの塩化ナトリウム溶液で順次カラムを洗浄した。次いで、20mM酢酸−0.5M塩化ナトリウム溶液でシスタチン含有画分を溶出させた。この溶出画分を直ちに1Mの水酸化ナトリウム溶液で中和した。この溶出液を逆浸透膜により脱塩した後、凍結乾燥してシスタチンの純度が90%のシスタチン画分9.6gを得た。これら一連の処理を20回繰り返した。
【0019】
(粉乳類に含まれるアンジオジェニン及びシスタチンの測定)
粉乳類に含まれるアンジオジェニンやアンジオジェニン分解物ならびにシスタチンやシスタチン分解物の測定は、特開2008−164511号公報の方法を改変して実施した。即ち、超純水5mlに粉乳類25mgを加え、これに1/1,000量のギ酸を添加し、試料溶液とした。この溶液10μlをドライアップした後、8M尿素および1mMトリス(カルボキシエチル)フォスフィン(TCEP)を含む0.1M重炭酸アンモニウム20μlに溶解し、56℃で30分間加温した。室温に戻した後、100mMヨードアセトアミド溶液5μlを添加して、遮光下で30分反応させた。これに、54μlの超純水を添加後、0.1μg/mlトリプシン10μlおよび0.1μg/mlリシルエンドペプチダーゼ10μlを添加して、37℃で16時間反応させた。その後、3μlのギ酸を添加して、反応を停止し、測定試料用ペプチド溶液とした。各試料溶液を10fmol/μlの内部標準ペプチド溶液(含0.1%ギ酸、0.02%トリフルオロ酢酸(TFA)、2%アセトニトリル)で6倍に希釈し、希釈した溶液2.5μlをLC/MS/MSにて分析を行った。
【0020】
ペプチドの分離は、HPLCシステムを用いてグラジェント溶出した。すなわち、カラム5μlペプチドトラップつきMAGIC C18 0.2mmID×50mmを用い、流速は2μl/minでMAGIC2002のHPLCシステムを用いて行った。HPLCの溶媒には、A溶液:2%アセトニトリル−0.05%ギ酸とB溶液:90%アセトニトリル−0.05%ギ酸を用いた。溶出条件は、B溶液を2%から65%まで20分間かけてグラジェント溶出させた。
シスタチンの測定対象イオンは、ペアレントイオンがNH2−QVVSGMNYFLDVELGR−COOHでm/z 914.4、MS/MSターゲットイオンがNH2−FLDVELGR−COOHでm/z 948.7、アンジオジェニンの測定対象イオンは、ペアレントイオンがNH2−YIHFLTQHYDAK−COOHでm/z 768.8、MS/MSターゲットイオンがNH2−FLTQHYDAK−COOHでm/z 1122.8で測定した。内部標準ペプチドは、ペアレントイオンがNH2−ETTVFENLPEK−COOH(但し、Pの炭素はC13、窒素はN15で標識)でm/z 656.9であり、MS/MSのターゲットイオンは、NH2−FENLPEK−COOH(但し、Pの炭素はC13、窒素はN15で標識)でm/z 882.4で行った。
MSにはLCQ Advantageを用いた。得られたクロマトグラムから各タンパク質のピーク面積を求め、内部標準ペプチドとの比から濃度を求めた。
【実施例1】
【0021】
脱脂粉乳15gを50℃のお湯に溶解し、参考例1のアンジオジェニン画分26mgと参考例3のシスタチン画分0.05mgを均一に混合した後、噴霧乾燥して、粉乳類(実施例品1)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が24mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は0.03であった。
【実施例2】
【0022】
脱脂粉乳15gを50℃のお湯に溶解し、参考例2のアンジオジェニン画分20mgと参考例3のシスタチン画分1.2mgを均一に混合した後、噴霧乾燥して、粉乳類(実施例品2)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が1.4mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は1.3であった。
【実施例3】
【0023】
脱脂粉乳15gを50℃のお湯に溶解し、参考例1のアンジオジェニン画分20mgと参考例3のシスタチン画分1.2mgを均一に混合した後、噴霧乾燥して、粉乳類(実施例品3)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が18mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は0.1であった。
【0024】
[比較例1]
脱脂粉乳15gを50℃のお湯に溶解し、参考例2のアンジオジェニン画分18mgと参考例3のシスタチン画分3.2mgを均一に混合した後、噴霧乾燥して、粉乳類(比較例品1)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が1.3mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は2.8であった。
【0025】
[比較例2]
脱脂粉乳15gを50℃のお湯に溶解し、参考例1のアンジオジェニン画分30mgと参考例3のシスタチン画分0.02mgを均一に混合した後、噴霧乾燥して、粉乳類(比較例品2)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が27mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は0.025であった。
【0026】
[試験例1]
実施例品1〜3および比較例品1、2の骨強化作用を動物実験により調べた。実験には5週齢のC3H/HeJ系雄マウスを用いた。実施例品1〜3および比較例品1、2の粉乳類を50℃の湯中に加え、均一に混合、攪拌して、粉乳類の割合が30%になるように調製した。1週間の予備飼育の後、マウスを10匹ずつ6群に分け、実施例品1〜3と比較例品1、2をマウス体重1kgあたり、それぞれ1日当り粉乳類として15gになるよう1日2回ゾンデで経口投与して2週間飼育した。また、実施例品1〜3および比較例品1、2を投与しないものを対照群とした。投与終了後(2週目)に、マウスの右脛骨の骨密度をマイクロCT((株)リガク製)により測定した。その結果を表1に示す。表1に示したように、実施例品1〜3を2週間経口投与した群では、対照群または比較例品1、2を投与した群に比較して、骨密度が有意に上昇した。
【0027】
【表1】
【0028】
[参考例4]
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績社製)400gを充填したカラム(直径4cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳(pH6.7)40Lを流速25ml/minで通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、0.78Mの塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で樹脂に吸着したタンパク質を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透膜により脱塩した後、凍結乾燥して粉末状のタンパク質素材18gを得た(参考例品4)。
【0029】
[参考例5]
参考例品4のタンパク質素材4gを水800mlに溶解し、最終濃度が0.03重量%となるようタンパク質分解酵素であるトリプシン(シグマ社製)を加え、37℃で8時間酵素処理した。そして、90℃で5分間加熱処理して酵素を失活させた後、凍結乾燥して粉末状のタンパク質素材3.0gを得た(参考例品5)。
【実施例4】
【0030】
脱脂粉乳15gに40mgの参考例品4を均一に混合した後、造粒して粉乳類(実施例品4)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が2.5mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は0.29であった。
【実施例5】
【0031】
脱脂粉乳15gに40mgの参考例品5を均一に混合した後、造粒して粉乳類(実施例品5)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が2.4mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は0.30であった。
【0032】
[比較例3]
脱脂粉乳15gに30mgの参考例品4と参考例3のシスタチン画分10mgを均一に混合した後、造粒して粉乳類(比較例品3)を得た。得られた粉乳類には、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物が2.0mg/15g含まれており、アンジオジェニン及び/又はアンジオジェニン分解物に対するシスタチン及び/又はシスタチン分解物の質量比は5.0であった。
【0033】
[試験例2]
実施例品4、5および比較例品3の骨強化作用について動物実験により調べた。実験には51週齢のSD系雌ラット40匹を用いた。実施例品4、5および比較例品3の粉乳類を50℃の湯中に加え、均一に混合、攪拌して、粉乳類の割合が30%になるように調製した。ラットを8匹ずつ5群に分け、4群は卵巣摘出手術を施し、残りの1群は疑似手術を施した。4週間の回復期間を設け、卵巣摘出手術を施したラットに実施例品4、5および比較例品3をラット体重1kgあたり、それぞれ1日当り粉乳類として15gになるよう1日6回ゾンデで経口投与して16週間飼育した。実施例品4、5および比較例品3を投与しないものを対照群とした。また、4週間の回復期間の後、疑似手術を施したラットも対照群と同様に16週間飼育した。投与終了後(16週目)に、ラットの右大腿骨の骨密度をマイクロCT((株)リガク製)により測定した。その結果を表2に示す。表2に示したように、実施例品4、5を16週間経口投与した群では、対照群または比較例品3を投与した群に比べ、骨密度が有意に上昇し、その値は疑似手術群に近いレベルであった。
【0034】
【表2】