(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Qが、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、シルフェニレン結合、シルエチレン結合及びアルキレン結合からなる群より選ばれる1以上の結合を含んでよい、炭素数2〜12の炭化水素基である、請求項2または4記載の表面処理剤。
ガラス、ハードコートフイルム、高硬度フイルム、反射防止フイルム、メガネレンズ、光学レンズ、及び石英基板から選ばれるいずれか1つである、請求項7記載の物品。
請求項3または4に記載の表面処理剤の製造方法であって、上記式(1)で示される基を少なくとも1つ有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及び/又は該ポリマーの部分加水分解縮合物と、上記式(3)で示されるポリマーとを含有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を、100℃〜400℃の範囲にある温度で分子蒸留して低沸点成分及び/または高沸点成分を除去する工程を含む、製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明は上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーまたはフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物が、0.1Pa以下の圧力下、2℃/分で昇温したときに、150℃から350℃までの範囲における該ポリマーまたは組成物の全重量に対する重量減少が75%以上である(即ち、75%以上が気化(飛散)する)ような分子量分布を有することを特徴とする。好ましくは、150℃から350℃までの範囲において、ポリマーまたは組成物の全重量に対する重量減少が80%以上、特に好ましくは90%以上であるのがよい。
【0013】
本発明は、表面処理剤に含まれるポリマーまたは組成物が上記要件を満たすことにより、蒸着条件に依らず安定的に高性能な撥水撥油膜を形成することができる。ポリマーまたは組成物が気化温度150℃未満を有する低分子量の成分を多く含むと、得られる表面処理膜の耐スチールウール性能が劣化する。また、ポリマーまたは組成物が気化温度350℃超を有する高分子量の成分を多く含むと、緩やかな蒸着温度(例えば、350℃程度)にて表面処理剤を蒸着することが難しく塗工に長時間を要し、これにより、ポリマーの末端基が分解する場合があるため好ましくない。
【0014】
本発明における重量減少率は、0.1Pa以下の圧力下、2℃/分の昇温下にポリマーまたは組成物をおいて測定した値である。測定は例えば、1.0×10
−3〜9.0×10
−2Paの真空中にて、25℃〜500℃の温度範囲で熱天秤測定により行うことができる。測定装置は従来公知のものを使用すればよく特に制限されるものでない。例えば、飽和蒸気圧測定装置VPE−9000SP(アルバック理工社製)を使用することができる。
【0015】
本発明の第一の態様は、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及び/又は該ポリマーの部分加水分解縮合物を含む表面処理剤である。該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、分子中に−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q−で示されるフルオロオキシアルキレン構造(前記式中、p、qはそれぞれ独立に5〜80の整数であり、かつ、p+q=10〜100であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい)を有し、かつ、少なくとも1の末端に下記式(1)
【化4】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3であり、cは1〜10の整数である)
で示される基を少なくとも1つ有する。
【0016】
本発明の第一の態様においては、上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが、0.1Pa以下の圧力下、2℃/分で昇温したときに、150℃から350℃までの温度範囲においてポリマーの全重量に対する重量減少が75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であることを特徴とし、これにより本発明の表面処理剤は撥水撥油性及び耐擦傷性に優れた膜を形成することができる。上記重量減少率を有するような分子量分布を有するポリマーは、ポリマーを精留または分子蒸留することにより得ることができる。特には、熱履歴の観点から分子蒸留によるのが好ましい。分子蒸留の方法は後述する通りである。
【0017】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、特には、下記式(a)で示すことができる。
A
0−Rf
0−B
0 (a)
式中、Rf
0は−OC
kF
2k−で示される(式中kは1〜6の整数である)繰返し単位を5〜200個、好ましくは10〜100個、さらに好ましくは10〜80個、より好ましくは20〜60個含む2価の直鎖状フルオロオキシアルキレン基であり、かつ、分子中に(OCF
2)で示される単位と(OCF
2CF
2)で示される単位を、それぞれ独立に5〜80個、かつ、合計が10〜100個となるように有する。A
0及びB
0は、互いに独立に、Rf
1基または上記式(1)で示される基である。
【0018】
上記式(a)において、Rf
1は、F、H、または末端が−CF
3基または−CF
2H基である1価のフッ素含有基である。但し、A
0及びB
0の少なくとも一方は上記式(1)で示される基である。Rf
0は、特には、−(CF
2)
d−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q(OCF
2CF
2CF
2)
r(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s−O(CF
2)
d−で示されるフルオロオキシアルキレン基である(式中、dは0または1〜5の整数であり、p、qはそれぞれ独立に5〜80の整数であり、r、sはそれぞれ独立に0〜80の整数であり、かつ、p+q+r+s=10〜100であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい)。
【0019】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、上記式(1)で示される基を片末端にのみ有する(即ち、上記A
0及びB
0のいずれか一方が上記(1)で示される基であり、他方がRf
1基である)ポリマー(以下、片末端型ポリマーと称す)であってもよいし、両末端に有する(即ち、上記A
0及びB
0のいずれも上記(1)で示される基である)ポリマー(以下、両末端型ポリマーと称す)であってもよい。また、片末端型ポリマーと両末端型ポリマーとの混合物であってもよい。混合物である場合、本発明においてその混合比率は特に制限されるものでない。但し、混合物が、0.1Pa以下の圧力下、2℃/分で昇温したときに、150℃から350℃までの温度範囲において、混合物の全重量に対する重量減少が75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であるような分子量分布を有する比率である。好ましくは、片末端型ポリマーである。
【0020】
片末端型ポリマーは下記式(2)で示すことができる。
【化5】
(式中、Rf基は−(CF
2)
d−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q(OCF
2CF
2CF
2)
r(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s−O(CF
2)
d−であり、AはF、H、または末端が−CF
3基または−CF
2H基である1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1〜7の整数、cは1〜10の整数であり、αは0または1であり、dは0または1〜5の整数であり、p、qはそれぞれ独立に5〜80の整数であり、r、sはそれぞれ独立に0〜80の整数であり、かつ、p+q+r+s=10〜100であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。)
【0021】
両末端型ポリマーは下記式(3)で示すことができる。
【化6】
(式中、Rf基は−(CF
2)
d−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q(OCF
2CF
2CF
2)
r(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s−O(CF
2)
d−であり、Q、Z、R、X、a、b、c、d、α、p、q、r、及びsは、上記式(2)の為に規定したものと同じである)。
【0022】
上記各式において、p、qはそれぞれ独立に、好ましくは10〜60、より好ましくは20〜50であり、r、sはそれぞれ独立に、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜10であるのがよく、かつ、p+q+r+sが好ましくは10〜80、より好ましくは20〜60を満たす数であるのがよい。但し、p、q、r、及びsは、上記ポリマーが、0.1Pa以下の圧力下、2℃/分で昇温したときに、150℃から350℃までの温度範囲において、ポリマーの全重量に対する重量減少が75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であるような分子量を有する値である。
【0023】
上記各式において、AはF、H、または、末端が−CF
3基または−CF
2H基である1価のフッ素含有基、好ましくは炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。特には、ポリマーの末端が−OCF
3または−OCF
2Hとなるのが好ましい。
【0024】
上記各式において、Xは互いに異なっていてよい加水分解性基である。このようなXとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0025】
上記各式において、Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、中でもメチル基が好適である。aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、3が好ましい。bは1〜7、好ましくは1〜3の整数、cは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。
【0026】
上記各式において、Qは2価の有機基であり、Rf基とZ基との連結基、またはRf基と−(CH
2)
c−基との連結基である。好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、又はビニル結合から成る群より選ばれる1以上の結合を含んでよい、炭素数2〜12の有機基、好ましくは前記結合を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の炭化水素基であり、例えば下記の基が挙げられる。
【化7】
【0027】
上記各式において、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、ケイ素原子数2〜13個、好ましくは、ケイ素原子数2〜5個の鎖状または環状オルガノポリシロキサン残基である。但し、2つのケイ素原子がアルキレン基で結合されたシルアルキレン構造、即ちSi−(CH
2)
n−Si、を含んでよい(前記式においてnは2〜6の整数)。本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、分子中にシロキサン結合を有することにより耐摩耗性、耐擦傷性に優れたコーティングを与えることができる。
【0028】
該オルガノポリシロキサン残基は、炭素数1〜8、より好ましくは1〜4のアルキル基又はフェニル基を有するものが良い。また、シルアルキレン結合におけるアルキレン基は、炭素数2〜6、好ましくは2〜4であるのが良い。
【0029】
このようなZとしては、下記に示されるものが挙げられる。
【化8】
【0030】
本発明の表面処理剤は上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの部分加水分解縮合物を含んでも良い。該部分加水分解縮合物とは、上述したフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解し、縮合させて得られる生成物である。
【0031】
本発明の第二の態様は、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を含む表面処理剤である。該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、分子中に−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q−で示されるフルオロオキシアルキレン構造(前記式中、p、qはそれぞれ独立に5〜80の整数であり、かつ、p+q=10〜100であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい)を有し、かつ、少なくとも1の末端に下記式(1)
【化9】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3であり、cは1〜10の整数である)
で示される基を少なくとも1つ有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及び/又は該ポリマーの部分加水分解縮合物と、
下記式(3)
【化10】
(式中、Rf基は−(CF
2)
d−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q(OCF
2CF
2CF
2)
r(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s−O(CF
2)
d−であり、dは0または1〜5の整数であり、p、qはそれぞれ独立に5〜80の整数であり、r、sはそれぞれ独立に0〜80の整数であり、かつ、p+q+r+s=10〜100であり、及びAはF、H、または末端が−CF
3基または−CF
2H基である1価のフッ素含有基である)
で示されるポリマー(以下、無官能型ポリマーという)を含有する。
【0032】
上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、特には、上述した式(a)で示すことができる。好ましくは、該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、上述した式(2)で示される片末端型ポリマー、又は上述した式(3)で示される両末端型ポリマー、あるいは、該片末端型ポリマーと両末端型ポリマーの混合物である。本発明の組成物において、片末端型ポリマー及び/又は両末端型ポリマーと無官能型ポリマーとの混合比率は特に制限されるものでない。但し、組成物が、0.1Pa以下の圧力下、2℃/分で昇温したときに、150℃から350℃までの温度範囲において、組成物の全重量に対する重量減少が75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であるような分子量分布を有する比率である。好ましくは、本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は上記式(2)で示される片末端型ポリマーを主成分として含むのがよい。
【0033】
本発明の第二の態様においては、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物が、0.1Pa以下の圧力下、2℃/分で昇温したときに、150℃から350℃までの温度範囲において組成物の全重量に対する重量減少が75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であることを特徴とし、これにより本発明の表面処理剤は撥水撥油性及び耐擦傷性に優れた膜を形成することができる。該重量減少率を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物は、上記片末端型ポリマー及び/又は両末端型ポリマーと無官能型ポリマーの混合物、及び/又はこれらのポリマーの部分加水分解縮合物を含む組成物を、精留または分子蒸留することにより得ることができる。特には、熱履歴の観点から分子蒸留によるのが好ましい。
【0034】
本発明の第一の態様及び第二の態様において分子蒸留に使用する装置は、従来公知の装置を使用すればよく特に制限されないが、例えば、ポット式分子蒸留装置、流下膜式分子蒸留装置、遠心式分子蒸留装置、薄膜式蒸留装置、及び薄膜蒸発装置等を使用することができる。分子蒸留は、0.1Pa以下の真空中100℃〜400℃の範囲にある温度で行うのがよい。中でも、高真空中100℃〜300℃の温度範囲で分子蒸留して低沸点成分を除去した後、高真空中150℃〜400℃の温度範囲で分子蒸留して高沸点成分を除去することが望ましい。ただし、組成物が狭い沸点分布を有する時には、上述した低沸点成分の除去または高沸点成分の除去のいずれか一方のみを行えばよい。真空度は高い方がより低い温度で目的物を得られるため好ましい。例えば、1.0×10
−3〜50Paである。
【0035】
表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、フッ素変性カルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫、フッ素変性カルボン酸などが望ましい。添加量は触媒量であり、通常、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及び/又はその部分加水分解縮合物100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜1質量部である。
【0036】
また、本発明の表面処理剤は溶媒を含んでよい。溶媒は、好ましくはフッ素変性脂肪族炭化水素系溶媒(パーフルオロヘプタン、パーフルオロクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶媒(m−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、1,3−トリフルオロメチルベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶媒(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶媒(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶媒(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)であるのがよい。中でも、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶媒(フッ素系溶剤という)が望ましく、特には、1,3−トリフルオロメチルベンゼン、m−キシレンヘキサフルオライド、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン、及びエチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0037】
上記溶媒はその2種以上を混合してもよく、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及び/またはその部分加水分解縮合物を均一に溶解させることが好ましい。なお、溶媒に溶解させるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの最適濃度は、表面処理剤の使用方法に応じて適宜選択すればよく制限されるものではない。通常は0.01〜30重量%、好ましくは0.02〜20重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%となるように溶解させる。
【0038】
本発明において表面処理剤は蒸着処理により基材に施与され、良好な膜を形成することができる。蒸着処理の方法は特に限定されるものではなく、例えば抵抗加熱方式、または電子ビーム加熱方式を使用することができる。硬化条件は表面処理方法に応じて適宜選択すればよい。例えば刷毛塗りやディッピングで施与する場合は、室温(20±15℃)から200℃の範囲が望ましい。また、硬化は加湿下で行われることが反応を促進する上で望ましい。硬化被膜の膜厚は、処理する基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1nm〜100nm、特に1〜20nmである。
【0039】
本発明の表面処理剤で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など各種材質のものであってよい。本発明の表面処理剤は前記基板に撥水撥油性、低動摩擦性、及び耐擦傷性を付与することができる。特に、SiO
2処理されたガラスまたは石英基板の表面処理剤として好適に使用することができる。
【0040】
本発明の表面処理剤で処理される物品としては、例えば、ガラス、ハードコートフイルム、高硬度フイルム、反射防止フイルム、眼鏡レンズ、光学レンズ、及び石英基板などが挙げられる。特に、強化ガラス、及び反射防止処理されたガラスの表面に撥水撥油層を形成するための処理剤として有用である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
下記に示す(1a)95モル%、及び(1b)5モル%より成る混合物を以下の合成例1にて使用した。当該混合物は、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物を、フッ素ガスを用いて部分フッ素化して製造されたものであり、陰イオン交換樹脂による吸着除去を使用して各化合物の配合比が上記モル比となるように調整されたものである。各ポリマーの含有比率(モル%、以下同様)は、
19F−NMRにより決定されたものである。
【化11】
【0043】
[合成例1]
上記(1a)95モル%、及び(1b)5モル%より成る混合物50gを、1,3トリフロロメチルベンゼン40gとテトラヒドロフラン10gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40%トルエン溶液30gを滴下した。室温で3時間撹拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物40gを得た。
19F−NMRにより、得られた生成物は下記(2a)95モル%、及び(2b)5モル%より成る混合物であることを確認した。
【0044】
【化12】
【0045】
反応容器に、上記(2a)95モル%、及び(2b)5モル%より成る混合物40g、臭化アリル3.5g、硫酸水素テトラブチルアンモニウム0.4gを入れて50℃で3時間攪拌した後、得られた混合物に、30%水酸化ナトリウム水溶液5.2gを滴下して55℃で12時間熟成した。その後、PF5060と塩酸を適量加え攪拌した後、十分に水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物30gを得た。
19F−NMR及び
1H−NMRにより、下記(3a)95モル%、及び(3b)5モル%より成る混合物であることを確認した(以下、組成物Aと称す)。
【化13】
【0046】
[合成例2]
上記組成物Aを30g、1,3−トリフルオロメチルベンゼン20g、トリメトキシシラン3g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10
−8モルを含有)を混合し、70℃で3時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を533Pa、100℃で減圧溜去したところ液状の生成物25gを得た。得られた生成物は、
1H−NMRにより下記式に示される(1−a)95モル%及び(1−b)5モル%より成る混合物であることを確認した(以下、組成物1−1と称す)。
【化14】
【0047】
組成物1−1を2×10
−2Pa、180℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物1−2とした。回収率は70%であった。
組成物1−1を2×10
−2Pa、320℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物1−3とした。回収率は80%であった。
組成物1−1を2×10
−2Pa、180℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した後、2×10
−2Pa、320℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物1−4とした。回収率は52%であった。
【0048】
[合成例3]
組成物Aを30g、1,3トリフルオロメチルベンゼン20g、テトラメチルシクロテトラシロキサン10g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5x10
−8モルを含有)を混合し、70℃で3時間熟成させる。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去した。得られた混合物30g、1,3トリフルオロメチルベンゼン20g、アリルトリメトキシシラン3.7g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5x10
−8モルを含有)を混合し、70℃で2時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を533Pa、100℃で減圧溜去し、下記式で示される(2−a)95モル%及び(2−b)5モル%より成る混合物(以下、組成物2−1と称す)29gを得た。
【化15】
【0049】
組成物2−1を2×10
−2Pa、170℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物2−2とした。回収率は83%であった。
組成物2−1を2×10
−2Pa、330℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物2−3とした。回収率は71%であった。
組成物2−1を2×10
−2Pa、170℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した後、2×10
−2Pa、330℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物2−4とした。回収率は42%であった。
【0050】
[合成例4]
組成物Aを30g、1,3トリフルオロメチルベンゼン20g、(4−ジメチルシリルフェニル)−ジメチルシラン8.1g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10
−8モルを含有)を混合し、70℃で3時間熟成させる。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去した。得られた混合物30g、1,3トリフルオロメチルベンゼン20g、アリルトリメトキシシラン1.5g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10
−8モルを含有)を混合し、70℃で2時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を 533Pa、100℃で減圧溜去し、下記式で示される(3−a)95モル%及び(3−b)5モル%より成る混合物(以下、組成物3−1と称す)28gを得ることができた。
【化16】
【0051】
組成物3−1を2×10
−2Pa、170℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物3−2とした。回収率は85%であった。
組成物3−1を2×10
−2Pa、330℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物3−3とした。回収率は75%であった。
組成物3−1を2×10
−2Pa、170℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した後、2×10
−2Pa、330℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物3−4とした。回収率は53%であった。
【0052】
[合成例5]
下記に示す(4a)52モル%、(4b)24モル%、及び(4c)24モル%より成る混合物を合成例5にて使用した。当該混合物は、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物を、フッ素ガスを用いて部分フッ素化して製造されたものであり、陰イオン交換樹脂による吸着除去を使用して各化合物の配合比が上記モル比となるように調整されたものである。各ポリマーの含有比率(モル%、以下同様)は、
19F−NMRにより決定されたものである。
【化17】
【0053】
上記(4a)52モル%、(4b)24モル%、及び(4c)24モル%より成る混合物50gを、1,3トリフロロメチルベンゼン40gとテトラヒドロフラン10gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40%トルエン溶液30gを滴下した。室温で3時間撹拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物40gを得た。
19F−NMRにより、得られた生成物は下記(5a)52モル%、(5b)24モル%、及び(5c)24モル%より成る混合物であることを確認した。
【0054】
【化18】
【0055】
反応容器に、上記(5a)52モル%、(5b)24モル%、及び(5c)24モル%より成る混合物40g、臭化アリル3.5g、硫酸水素テトラブチルアンモニウム0.4gを入れて50℃で3時間攪拌した後、得られた混合物に、30%水酸化ナトリウム水溶液5.2gを滴下して55℃で12時間熟成した。その後、PF5060と塩酸を適量加え攪拌した後、十分に水洗した。さらに、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物30gを得た。
19F−NMR及び
1H−NMRにより同定したところ、下記(6a)52モル%、(6b)24モル%、及び(6c)24モル%より成る混合物であった(以下、組成物Bと称す。特開2011−116947号公報の実施例1に記載の組成物)。
【化19】
【0056】
[合成例6]
組成物Bを30g、1,3トリフルオロメチルベンゼン20g、(4−ジメチルシリルフェニル)−ジメチルシラン16.2g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10
−8モルを含有)を混合し、70℃で3時間熟成させる。その後、溶剤及び未反応物を533Pa、100℃で減圧溜去した。得られた混合物30g、1,3トリフルオロメチルベンゼン20g、アリルトリメトキシシラン3.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10
−8モルを含有)を混合し、70℃で2時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧溜去することで、下記式に示される(4−a)52モル%、(4−b)24モル%及び(4−c)24モル%より成る混合物(以下、組成物4−1と称す)27gを得た。
【化20】
【0057】
組成物4−1を2×10
−2Pa、180℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物4−2とした。回収率は80%であった。
組成物4−1を2×10
−2Pa、320℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物4−3とした。回収率は70%であった。
組成物4−1を2×10
−2Pa、180℃で分子蒸留することにより低沸点成分を除去した後、2×10
−2Pa、320℃で分子蒸留することにより高沸点成分を除去した。得られた組成物を組成物4−4とした。回収率は44%であった。
【0058】
重量減少率の測定
上記各組成物を、下記条件で熱天秤測定し、25℃〜500℃の温度範囲で重量変化を測定し、150℃から350℃までの範囲における重量減少率を算出した。各組成物の重量減少率を表1に記載する。
[測定条件及び測定装置]
・測定装置:飽和蒸気圧評価装置VPE−9000SP(アルバック理工社製)
・測定雰囲気:真空中(1.0×10
−3〜9.0×10
−2Pa)
・昇温速度:2℃/分
・測定温度範囲:25〜500℃
【0059】
【表1】
【0060】
表面処理剤の調製
上記組成物1−1〜4−4を、各々濃度20wt%になるように1,3−トリフロロメチルベンゼンに溶解させて、表面処理剤を調製した。
【0061】
350℃で蒸着塗工した膜の形成
最表面にSiO
2を10nm蒸着処理したガラス(50mm×100mm)(コーニング社製 Gorilla2)に、上記各表面処理剤を下記条件で真空蒸着塗工した。40℃、湿度80%の雰囲気下で2時間硬化させて硬化被膜を形成した。
[測定条件及び測定装置]
・測定装置:小型真空蒸着装置VPC−250F
・圧力:2.0x10
−3Pa〜3.0x10
−2Pa
・蒸着温度(ボートの到達温度):350℃
・蒸着距離:20mm
・処理剤の仕込量:10mg
・蒸着量:10mg
【0062】
得られた各硬化被膜について、撥水撥油性の評価、動摩擦係数の測定、及び耐摩耗性の評価を下記の方法により行った。結果を表2〜5に示す。
【0063】
[撥水撥油性の評価]
上記にて作製したガラスを用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角及びオレイン酸に対する接触角を測定した。
【0064】
[動摩擦係数の測定]
ベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を、表面性試験機14FW(新東科学社製)を用いて下記条件で測定した。
接触面積:10mm x 35mm
荷重:100g
【0065】
[耐摩耗性の評価]
ラビングテスター(新東科学社製)を用いて、下記条件で擦った後の硬化被膜の水接触角を評価した。試験環境条件は25℃、湿度40%である。
1.耐布摩耗性
布:ベンコット(旭化成社製)
移動距離(片道):30mm
移動速度:1800mm/分
荷重:1kg/cm
2
擦り回数:50,000回
2.耐消しゴム摩耗性
消しゴム:EB−SNP(トンボ社製)
移動距離(片道):30mm
移動速度:1800mm/分
荷重:1kg/cm
2
擦り回数:10,000回
3.耐スチールウール摩耗性
スチールウール:BONSTAR#0000(日本スチールウール株式会社製)
移動距離(片道):30mm
移動速度1800mm/分
荷重:1kg/cm
2
擦り回数:5,000回
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
特許文献1〜3に記載されるような、得られた組成物を分子蒸留せずに(即ち、組成物の分子量分布を制御せずに)表面処理剤に使用している比較例1、4、7、及び10は、形成された膜の耐スチールウール性が劣った。また、組成物を分子蒸留したが重量減少率が本発明の範囲を満たさない比較例の表面処理剤から形成された膜は何れも、耐スチールウール摩耗性が劣った。これに対し、重量減少率が本発明の範囲を満たす実施例1〜4の組成物を含有する表面処理剤から形成された膜は、いずれも良好な耐摩耗性を有した。
【0071】
700℃で蒸着塗工した膜の形成
最表面にSiO
2を10nm蒸着処理したガラス(50mm×100mm)(コーニング社製 Gorilla2)に、上記各表面処理剤を下記条件で真空蒸着塗工した。40℃、湿度80%の雰囲気下で2時間硬化させて硬化被膜を形成した。
[測定条件及び測定装置]
・測定装置:小型真空蒸着装置VPC−250F
・圧力:2.0 x 10
−2Pa〜3.0 x 10
−2Pa
・蒸着温度(ボートの到達温度):700℃
・蒸着距離:20mm
・処理剤の仕込量:10mg
・蒸着量:10mg
【0072】
得られた各硬化被膜について、撥水撥油性の評価、動摩擦係数の測定、及び耐摩耗性の評価を上記と同じ方法により行った。結果を表6〜9に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
【表9】
【0077】
700℃で蒸着する場合、急に昇温することで、比較的大きな分子量も早い段階で蒸着される。そのため、350℃で蒸着した場合よりも耐スチールウール摩耗性が良くなる傾向がある。従って、比較例の中にも耐スチールウール摩耗性が良いサンプルがあった。しかし、いずれの比較例も本発明の表面処理剤から得られる膜の耐摩耗性には及ばなかった。
尚、700℃で蒸着する場合、急に昇温するために突沸する場合があり、塗り斑が発生し易かった。従って、穏やかな条件(例えば350℃程度)で徐々に蒸着する方が均一な膜が得られるため好ましい。