【実施例】
【0064】
以下に本発明の実施例を示すが、これに限定されるものではない。
【0065】
まず、本発明の実施例の材料及び方法を説明する。
【0066】
1−1.ファーウエスタンブロット法
(1)C1qに対するアディポネクチンの結合評価
組換えアディポネクチンタンパク質(rhAPN、200μg)のビオチン標識は、EZ-Link Sulfo-NHS-LC-biotin(Pierce社)を用いて添付文書に従い行った。ヒトC
1q精製タンパク質(100ng)をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にて分離後、ニトロセルロースメンブレン(Protran BA 85 Nitrocellulose Membrane)(Whatman社)に転写した。前記メンブレンはBlock Ace(DS pharma社)にて室温で1時間ブロッキングを行った。その後、前記メンブレンを、1μg/mLに希釈したビオチン標識rhAPNにて4℃で18時間インキュベートした。PBSTにて3回洗浄した後、10000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Invitrogen社)にて室温で1時間攪拌した。最後に、再度3回洗浄した後、ECL Plus Western Blotting Detection Reagent(GE healthcare社)にて検出した。
【0067】
(2)アディポネクチンに対するC1qの結合評価
rhAPN(200ng)はSDS−PAGEにて分離後、ニトロセルロースメンブレンに転写した。メンブレンはBlock Ace(DS pharma社)にて室温、1時間ブロッキングを行った。その後、1μg/mLに希釈したヒトC1q精製タンパク質にて室温で3時間インキュベートした。PBSTにて3回洗浄した後、1000倍希釈したHRP標識抗ヒトC1qポリクローナル抗体にて室温で1時間攪拌した。最後に、再度3回洗浄した後、前記1)と同様にECL Plus試薬にて検出した。
【0068】
1−2.免疫沈降法
各100μgの抗ヒトアディポネクチン−F(ab’)2抗体、及び抗ヒトC1q−F(ab’)2抗体は、添付文書に従い磁気ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated)(Invitrogen社)にカップリングさせた。検体希釈液(1% Tween20、1M NaCl、0.1% ProClin300を含むPBS(−))にて希釈したヒト血清は、各抗体を結合させた前記磁気ビーズと混合し、4℃で18時間転倒混和した。
前記磁気ビーズを検体希釈液にて3回洗浄した後、各免疫沈降産物をSDS−PAGE及びウェスタンブロッティングに用いた。
【0069】
1−3.ヒトC1q−アディポネクチン複合体ELISA法
抗アディポネクチンモノクローナル抗体は、市販のキット(ImmunoPure IgG1 Fab and F(ab')2 Preparation Kit)(Pierce社)を用い使用説明書に従ってF(ab’)2抗体を作製した。EIA/RIA用96ウェルマイクロタイタープレート(96-Well EIA/RIA 1x8 Stripwell Plate、Cornig社)に3μg/mLに調整した抗アディポネクチン−F(ab’)2抗体を100μL添加して4℃で18時間インキュベートして固相化した。その後、洗浄液(0.05% Tween20を含むD−PBS(−))にて1回洗浄し、ブロッキング液(1% ウシ血清アルブミン(BSA)、5% D−Sorbitolを含むD−PBS(−))を300μLにて添加し4℃で18時間インキュベートした。プレートは、ブロッキング液を除去し、ドライルーム内にて乾燥し使用時まで4℃保存した。
【0070】
C1q−アディポネクチン(APN)複合体標準品は、組換えヒトアディポネクチンタンパク質、及びヒトC1q精製タンパク質を各10μg/mLずつ混合し、37℃で24時間攪拌することにより作製した。なお、本標準品を800倍希釈したものを1単位/mLのC1q−APN複合体任意量として定義した。
【0071】
標準曲線作製には、前記で作製したC1q−APN複合体標準品を検体希釈液(1% BSA、1% ブタ血清、0.1% Tween20、1M NaCl、0.1% ProClin300を含むPBS(−))にて希釈し、5、2.5、1.25、0.625、0.313、0.156単位/mLを調製した。標準液及びヒト血清(検体希釈液にて80倍希釈)を各100μLずつウェルに添加し、25℃で1時間インキュベートした。
次に、各ウェルを洗浄液350μLにて3回洗浄後、一次抗体希釈液(1% BSA、1% ブタ血清、0.1% Tween20、1M NaCl、0.1% ProClin300を含むPBS(−))にて5000倍希釈した抗ヒトC1qポリクローナル抗体(DAKO社)を100μL添加し、25℃にて1時間インキュベートした。その後、3回洗浄後、二次抗体希釈液(1% BSA、1% ブタ血清、0.1% Tween20、0.1% ProClin300を含むPBS(−))にて10000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ウサギIgG抗体を100μL添加し、25℃にて1時間インキュベートした。最後に、各ウェルを洗浄液で3回洗浄後、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)発色液100μLを添加し、室温で15分間発色させた。発色後のウェルは、1N希硫酸100μLを添加して反応を停止させ、450nm吸光度(参照波長650nm)(Abs(450-650nm))をマイクロプレートリーダーVmax(Molecular Devices社)にて測定した。血清中のC1q−APN複合体量は、Softmax Pro software(Molecular Devices社)にて標準曲線を作成し算出した。
【0072】
1−4.ヒト血清のゲル濾過分画法
ヒト血清(150μL)は、0.22 μmシリンジフィルターにて濾過後、AKTA Explorer 10S(GE healthcare社)に接続したSuperdex−200(GE healthcare社)クロマトグラフィーにて分画した。各フラクションは、280nm吸収を測定下、流速0.5mL/minにて分取した。
【0073】
1−5.ヒトC1q ELISA法【0074】
抗ヒトC1q−F(ab’)2抗体は、ペプシン消化法により作製した。抗ヒトC1qポリクローナル抗体は、500μgを0.1M Sodium acetate Buffer、pH4.4にて希釈し、20μg ペプシン(和光純薬工業)にて37℃で18時間消化した。その後、F(ab’)2抗体は、Protein Aクロマトグラフィー及びSephacryl S−300(GE healthcare社)クロマトグラフィーにて精製した。EIA/RIA用96ウェルマイクロタイタープレートに3μg/mLに調整した抗ヒトC1q−F(ab’)2抗体を100μL添加して4℃で18時間インキュベートして固相化した。その後、洗浄液にて1回洗浄し、ブロッキング液を300μL添加して4℃で18時間インキュベートした。プレートは、ブロッキング液を除去しドライルーム内にて乾燥後、使用時まで4℃保存した。
【0075】
ヒトC1q標準品は、ヒトC1q精製タンパク質を検体及び抗体希釈液(0.5% BSA、0.05% Tween20、0.05% ProClin300を含むPBS(−))にて希釈し、150、75、37.5、18.75、9.38、4.69、2.34ng/mLを調製した。標準液及びヒト血清(検体希釈液にて3000倍希釈)を各100μLずつウェルに添加し、25℃で1時間インキュベートした。次に、各ウェルを洗浄液350μLにて3回洗浄後、検体及び抗体希釈液にて40000倍希釈したHRP標識抗ヒトC1qポリクローナル抗体を100μLずつ添加し、25℃にて1時間インキュベートした。以降は、前記のC1q−APN複合体ELISA法と同一手法にて検出・定量を行った。今回、検出抗体として使用したHRP標識抗ヒトC1qポリクローナル抗体は、Peroxidase Labelling Kit−NH
2(DOJINDO社)を用い添付文書に従い作製した。
【0076】
実施例1 インビトロでのアディポネクチンとC1qの結合評価
ファーウエスタンブロット法によるアディポネクチンとC1qの結合評価結果を
図1に示した。還元・加熱下にて組換えアディポネクチンタンパク質(rhAPN)のSDS−PAGEを実施した後、ブロットしたメンブレンをヒトC1q精製タンパク質と反応させ、その後、抗ヒトC1qポリクローナル抗体にて検出した(
図1.A 左(APN))。
また、同様に、ヒトC1q精製タンパク質をブロットしたメンブレンをビオチン標識rhAPNと反応後にHRP標識ストレプトアビジンにて反応させた(
図1.A 右(C1q))。以上の手法より、アディポネクチンとC1qの直接結合をインビトロにて証明した。
【0077】
次に、rhAPN及びヒトC1q精製タンパク質結合プレートを用いた結合評価を実施した。
図1.Bには、rhAPN固相化プレート(1μg/mL)に対し、ヒトC1q精製タンパク質を表記濃度にて添加し、その後、抗ヒトC1q抗体にて検出した結果を示した。また、
図1.Cには、ヒトC1q精製タンパク質固相化プレート(1μg/mL)に対し、rhAPNを表記濃度にて添加し、その後、抗ヒトアディポネクチン抗体にて検出した結果を示した。これらELISAプレートを用いた結合実験からも、アディポネクチンとC1qの直接結合を確認した。一方、rhAPN、ヒトC1q精製タンパク質ともに対照であるBSAプレートへの結合はほとんど認められなかった。
【0078】
実施例2 ヒト血清におけるC1q−アディポネクチン複合体の検出
ヒト血清を、還元及び加熱、非還元及び加熱、又は非還元及び非加熱条件下にて、SDS−PAGE、及びウェスタンブロッティングを行うことにより、アディポネクチン及びC1qの多量体構造を検出した。結果を
図2.Aに示した。加熱及び還元処理下では、31kDa付近にアディポネクチンに由来するシグナルを、また31、30、26kDa付近にC1qに由来するシグナルを検出した。一方、非還元及び非加熱処理下においては、114kDa以上に、アディポネクチン及びC1qの高分子量体を検出した。
【0079】
次に、ヒト血清を用いた共免疫沈降法により血中に存在するC1q−アディポネクチン複合体の直接検出を実施した。血清中のアディポネクチン及びC1qを免疫沈降し、その後、各々の免疫沈降産物を抗ヒトアディポネクチン抗体、あるいは抗ヒトC1q抗体にてウェスタンブロッティングを行った。
図2.Bにはアディポネクチン免疫沈降結果を、
図2.CにはC1q免疫沈降結果を示した。その結果、アディポネクチン免疫沈降産物中にはC1qに特異的なシグナルが検出され、同様にC1q免疫沈降産物についてもアディポネクチンに特異的なシグナルが検出された。以上、共免疫沈降法による検討結果から、ヒト血清中においてもC1q−アディポネクチン複合体が存在していることを証明した。
これまでに、インビトロでの検討にて、アディポネクチンとC1qが結合することは報告されていた[非特許文献8]。しかしながら、ヒト血清中にC1q−アディポネクチン複合体が存在することを証明したことは本発明が初めてである。
【0080】
実施例3 ヒト血清中のC1q−アディポネクチン複合体測定ELISA法の構築【0081】
ヒト血清に存在するC1q−アディポネクチン複合体の臨床的意義を解析する目的にて、血清中のC1q−アディポネクチン複合体量の測定のためのELISA法を開発した。
抗アディポネクチン−F(ab’)2抗体固相化プレートに対し、複合体標準品及び80倍希釈ヒト血清を各ウェルに添加した。検出抗体には、抗ヒトC1qポリクローナル抗体及びHRP標識抗ウサギIgG抗体を使用した。C1q−アディポネクチン複合体標準品は、5−0.315単位/mLまで段階希釈したものにより標準曲線を作成した(
図3.A)。ヒト血清希釈検体は、
図3.Bに示すように良好な希釈曲線が得られ、対照として用いたマウスIgG−F(ab’)2抗体固相化プレートでは吸光度は確認されなかった。
【0082】
実施例4 ヒト血清中C1q−アディポネクチン複合体のゲル濾過分画様式
アディポネクチンは循環血中に高分子分画(High-molecular weight; HMW)、中分子分画(Middle-molecular weight; MMW)、低分子量分画(Low-molecular weight; LMW)の分画パターンにて存在していることが報告されている[Komura N, Kihara S, Sonoda M, et al., Clinical significance of high-molecular weight form of adiponectin in male patients with coronary artery disease. Circ J. 2008 Jan;72(1):23-8]。本発明では、ヒト循環血中においてC1q−アディポネクチン複合体がどのような分布様式にて存在しているかゲル濾過クロマトグラフィー法にて解析した。ヒト血清をSuperdex−200クロマトグラフィーにて分画し、各フラクションにおける総アディポネクチン量及びC1q−アディポネクチン複合体量を測定した。
図3.Cに示すように、C1q−アディポネクチン複合体は、HMW及びMMW分画のアディポネクチン中に存在している可能性が示唆された。
【0083】
実施例5 ヒト血清中のC1q測定ELISA法の構築
血清中C1qに特異的なELISA測定法の構築を行った。抗ヒトC1q−F(ab’)2抗体固相化プレートに対し、ヒトC1q標準品及び3000倍希釈ヒト血清を各ウェルに添加した。検出抗体には、HRP標識抗ヒトC1qポリクローナル抗体を使用した。
ヒトC1q標準品は、150−2.34ng/mLまで段階希釈し標準曲線を作成した(
図4.A)。希釈したヒト血清は、
図4.Bに示すように良好な希釈曲線が得られ、対照として用いたウサギIgG−F(ab’)2抗体固相化プレートでは吸光度は確認されなかった。
【0084】
C1qを構成するサブユニット(C鎖)とアディポネクチンは、特に高い相同性を有することが報告されている[Maeda K, Okubo K, Shimomura I et al., cDNA cloning and expression of a novel adipose specific collagen-like factor, apM1(AdiPose Most abundant Gene transcript 1). Biochem Biophys Res Commun. 1996 Apr 16;221(2):286-9.]。次に、本発明にて構築したヒトC1q ELISA測定法について、組換えアディポネクチンタンパク質(rhAPN)を測定することによりアディポネクチンとの反応交差性を検討した。
図4.Cに示すように、最大250ng/mLにてrhAPNを添加した場合についても吸光度は認められなかった。以上の検討から、本法はヒト血清中C1qに特異性の高いELISA法であると結論付けた。
【0085】
実施例6 循環血中C1q−アディポネクチン複合体量とC1q量の相関関係
日立健康管理センターにてあらかじめ本研究内容を説明し同意を得た2010年度検診受診者より血清を提供してもらった。30歳から74歳までの腹部CTスキャンを受診している重症疾患(癌、脳血管疾患、心筋梗塞)の罹病歴のない男性329名を対象とした。表1に各検体の臨床背景を示した。対象者を内臓脂肪面積(VFA)<100cm
2の非内臓脂肪型肥満者(113名、平均VFA;66±24cm
2)、及びVFA≧100cm
2の内臓脂肪型肥満者(216名、平均VFA;149±38cm
2)に分類した。
表1中、データは、平均値 ± SD (range) 又は分析対象数 (n)である。
略号は以下の通りである。
BMI;ボディー・マス・インデックス、WC;腹囲、VFA;内臓脂肪面積、SFA;皮下脂肪面積、SBP;収縮期血圧、DBP;拡張期血圧、BG;血中グルコース、fIRI;空腹時免疫反応性インスリン、TC;総コレステロール 、HDL−C;高密度リポタンパク質コレステロール、eGFR;推定糸球体濾過量(=194×Cr−1.094×年齢−0.287)、AST;アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ALT;アラニンアミノトランスフェラーゼ、γ−GTP;γ−グルタミルトランスフェラーゼ、Total−APN;総アディポネクチン、HMW−APN;高分子量アディポネクチン、C1q−APN;C1q−アディポネクチン複合体
【0086】
【表1】
【0087】
図5に循環血中の総アディポネクチン(Total−APN)量、高分子アディポネクチン(HMW−APN)量、C1q−アディポネクチン複合体(C1q−APN)量、及びC1q量との相関図を示した。
図5中、○(白丸)は、VFA≧100cm
2を示し、●(黒丸)は、VFA<100cm
2の群を示す。
Total−APN量とHMW−APN量は、有意な正の相関関係が認められ(r=0.9518、p<0.0001、
図5A)、C1q−APN量とは分散した正の相関関係が認められた(r=0.5657、p<0.0001、
図5B)。一方で、Total−APN量とC1q量との相関関係は認められなかった(
図5D)。
HMW−APN量は、C1q−APN量と有意な正の相関関係が認められたが(r=0.5577、p<0.0001、
図5C)、C1q量との相関関係は認められなかった(
図5E)。一方で、C1q量は、C1q−アディポネクチン複合体量と弱い相関関係が認められた(r=0.1140、p=0.0411、
図5F)。
【0088】
次に、C1q−APN量又はC1q量と各種臨床パラメーターとの相関を解析した。各相関係数を表2に示した。IRI、TG、ALT、γ−GTP、及びC1q−APN量は非対称な分散を示したため、Log変換して解析に使用した。Log C1q−APNは、HDL−Cと正に相関しており、BMI、WC、VFA、SFA、log−IRI、HbA1c、log−TG、UA、log−ALT、log−γ−GTPとは負に相関していた。一方で、Log C1q−APNとリスクファクター数との相関は認めなかった。
C1qは、BMI、WC、VFA、SFA、SBP、DBP、log IRI、TC、log TG、Log ALT、及びリスクファクター数との正の相関が認められ、HDL−Cとの負の相関が認められた。
更に、ステップワイズ重回帰分析(Stepwise multiple regression)解析から、BMI(multivariate BMI)、VFA(multivariate VFA)、及びSFA(multivariate SFA)がC1q−APN複合体量の有意な規定因子であった。一方、BMI、VFA、SFAはC1qの有意な規定因子ではなかった。
表2において、C1q−APN、IRI、TG、AST、ALT及びγ−GTPのレベルのデータは、歪んだ分布を示し、分析前に対数変換した。有意水準は、p<0.05(
*)に設定した。逐次重回帰分析を実施して、C1q−APN又はC1qに有意に相関するこれらのパラメーターを決定した。次いで、p<0.05及びF>4.0のパラメータを独立変数として回帰分析に投入した(
*)。
これらの略号は表1に同じである。
【0089】
【表2.A】
【表2.B】
【0090】
実施例7 メタボリックシンドローム有無判定に対するROC曲線解析
循環血中の総アディポネクチン(Total−APN)量は、メタボリックシンドロームのバイオマーカーであることが知られている[非特許文献7]。絶対量だけでなく、Total−APNに占める高分子アディポネクチン(HMW−APN)の存在割合(HMW−APN/Total−APN比)又は総アディポネクチン量に占めるC1q−アディポネクチン複合体の存在割合(C1q−APN/Total−APN比)といったアディポネクチンの血中での構造を示す相対指標についても質的変化を観察する上で重要と考えられた。これら循環血中のC1q−APN量、C1q量、C1q−APN/Total−APN比、HMW−APN/Total−APN比、又はC1q−APN/C1q比と、メタボリックシンドロームとの関係については全く不明であった。
【0091】
表3には、内臓脂肪蓄積者をVFA≧100cm
2あるいはWC≧85cmに基づき規定した場合のメタボリックシンドローム有無判断に対する各種臨床指標のROC曲線を示した。内臓脂肪蓄積群をVFA≧100cm
2にて規定した場合(
図6、表3)、ROC曲線下面積(AUC:Area under the specificity-sensitivity curves)は、C1q−APN/Total−APN比が0.704(95%CI、0.632−0.775、
図6E)、Total−APN量が0.668(95%CI、0.596−0.740、
図6A)、そしてHMW−APN量が0.648(95%CI、0.577−0.720、
図6B)であった。一方、C1q−APN量は、0.535(95%CI、0.457−0.613、
図6C)であった。本結果に関しては、WCにてメタボリックシンドロームを規定した場合に関しても同様の結果が得られた(表3)。表3では、AUCが高い順に並べている。表3の略号は、以下の通りである。AUC;特異度−感度曲線下面積、95% CI;95%信頼区間、その他は略号は表1に同じ。
【0092】
【表3.A】
【表3.B】
【0093】
以上の結果から、Total−APN量又はHMW−APN量と比較して、C1q−APN/Total−APN比がアディポネクチン関連指標の中で、最もメタボリックシンドローム判定の最も有効なバイオマーカーである可能性が判明した。一方で、C1q−APN単独量は有効な指標ではなかった。
【0094】
実施例8 内臓脂肪蓄積における各種アディポネクチンと肥満関連心血管リスクファクター集積
脂質異常・高血圧・血糖異常(メタボリックシンドロームの構成要因)を有する集団について、各種アディポネクチン関連指標との関連性を評価した。対象を、VFA<100cm
2とVFA≧100cm
2の2群に分類し、日本人の内臓脂肪蓄積基準に基づきカットオフ値を選定した。表1にこれら2群の臨床的特徴を示した。
【0095】
VFA<100cm
2の集団については、血清中のTotal−APN量、HMW−APN量、C1q−APN量、HMW−APN/Total−APN比、C1q−APN/Total−APN比、又はC1q−APN/HMW−APN比と、肥満関連心血管リスクファクター集積との関連性は認められなかった(
図7A)。一方で、VFA≧100cm
2の集団については、血清中のTotal−APN量とHMW−APN量が肥満関連心血管リスクファクター集積と有意な負の相関が認められた(p=0.0191、[
図7B a]、p=0.0450、[
図7B b]、Kruskal-Wallis test)。C1q量はリスクファクター集積と有意な正の相関が認められたが(p=0.0191、[
図7B d])、C1q−APNとの相関は認められなかった(p=0.5669、[
図7B d])。更に、C1q−APN/Total−APN比、及びC1q−APN/HMW−APN比は、肥満関連心血管リスクファクターの集積と有意な正の相関関係(p=0.0003、[
図7B e]、p=0.0065、[
図7B f]、Kruskal-Wallis test)が認められた一方で、HMW−APN/Total−APN比及びC1q−APN/C1q比はリスクファクター集積との相関は認められなかった(
図7B g、h)。
【0096】
以上の結果から、各種指標と比較して、C1q−APN/Total−APN比が最も肥満関連心血管リスクファクター集積を反映するバイオマーカーであることが判明した。
以上から、本指標は動脈硬化症と関連する可能性が強く示唆された。