特許第6142657号(P6142657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許6142657癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法
<>
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000006
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000007
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000008
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000009
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000010
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000011
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000012
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000013
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000014
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000015
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000016
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000017
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000018
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000019
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000020
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000021
  • 特許6142657-癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142657
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス、及び、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/28 20060101AFI20170529BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20170529BHJP
   C12M 1/32 20060101ALI20170529BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C12M1/28
   C12M1/26
   C12M1/32
   C12M1/00 A
【請求項の数】23
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2013-100466(P2013-100466)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-255487(P2013-255487A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2016年3月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-110898(P2012-110898)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】上原 寿茂
(72)【発明者】
【氏名】菊原 得仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇裕
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−163830(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/135603(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/139445(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/139233(WO,A1)
【文献】 特開2006−193825(JP,A)
【文献】 細川正人 ほか,"循環腫瘍細胞の迅速検出に向けたマイクロデバイスの開発",Chemical Sensors,2010年,Vol. 26, Supplement B,pp. 40-42
【文献】 吉川貴之 ほか,全血からの循環腫瘍細胞濃縮に向けたマイクロフィルター構造の最適化,第63回日本生物工学会大会講演要旨集,2011年,p. 201, 2Lp11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−3/00
G01N 1/00−1/34
B01D 39/00−41/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が金属である金属シートの厚み方向に貫通孔が形成された癌細胞捕捉金属フィルタであって、
前記貫通孔が、長方形又は角丸長方形の単孔が端部同士で所定の交差角度をなして複数個連結される波形状である癌細胞捕捉金属フィルタ。
【請求項2】
前記貫通孔が複数配列する請求項1に記載の癌細胞捕捉金属フィルタ。
【請求項3】
前記貫通孔の開口率が10〜50%である請求項1又は2に記載の癌細胞捕捉金属フィルタ。
【請求項4】
前記金属シートの表面が金めっきされている請求項1〜3の何れか一項に記載の癌細胞捕捉金属フィルタ。
【請求項5】
主成分が金属である金属シートの厚み方向に貫通孔が形成された複数のフィルタ部と、前記複数のフィルタ部に含まれる互いに隣接する2つのフィルタ部の間に設けられた接続部と、を備える癌細胞捕捉金属フィルタシートであって、
前記フィルタ部には、長方形又は角丸長方形の単孔が端部同士で所定の交差角度をなして複数個連結される波形状である前記貫通孔が複数設けられている癌細胞捕捉金属フィルタシート。
【請求項6】
前記フィルタ部において前記貫通孔の開口率が10〜50%である請求項5記載の癌細胞捕捉金属フィルタシート。
【請求項7】
前記接続部において、位置決め孔を有する請求項5又は6に記載の癌細胞捕捉金属フィルタシート。
【請求項8】
前記金属シートの表面が金めっきされている請求項5〜7の何れか一項に記載の癌細胞捕捉金属フィルタシート。
【請求項9】
透光性を有する樹脂素材からなり、被検液を内部へ導入するための導入流路を有する蓋部材と、前記被検液を外部へ排出するための排出流路を有する収納部材と、を有する筺体と、
前記導入流路と前記排出流路との間の前記筺体の内部の流路上に前記被検液が貫通孔を通過するように設けられた請求項1〜4の何れか一項に記載の癌細胞捕捉金属フィルタと、
を備える癌細胞捕捉デバイス。
【請求項10】
前記貫通孔の上流側の主面における孔径は前記主面に対する裏面側の孔径よりも小さい請求項9に記載の癌細胞捕捉デバイス。
【請求項11】
前記癌細胞捕捉金属フィルタの替わりに、主成分が金属である金属シートの厚み方向に、長方形又は角丸長方形の単孔が端部同士で所定の交差角度をなして複数個連結される波形状の貫通孔が複数形成されたフィルタ部と、前記フィルタ部の周囲に設けられて位置決め孔を備える接続部と、を備える癌細胞捕捉金属フィルタ部材を備え、
前記蓋部材又は前記収納部材の少なくとも一方は、前記癌細胞捕捉金属フィルタ部材を取り付けた際に前記位置決め孔に対応する位置に前記位置決め孔に挿入される突起部を備える請求項9又は10に記載の癌細胞捕捉デバイス。
【請求項12】
前記蓋部材と前記収納部材とが溶着されている請求項9〜11の何れか一項に記載の癌細胞捕捉デバイス。
【請求項13】
金属箔上にフォトレジストをラミネートする工程と、
前記フォトレジストの上に、長方形又は角丸長方形の単孔が端部同士で所定の交差角度をなして複数個連結される波形状をなす透光部を有するフォトマスクを重ねて露光する工程と、
現像して前記フォトレジストの未硬化部を除去してフォトレジストパターンを形成する工程と、
前記フォトレジストパターン間を金属めっきして前記フォトレジストパターンの高さより低い金属めっきパターンを形成する工程と、
前記金属箔を化学的溶解によって除去して、前記金属めっきパターンと前記フォトレジストパターンからなる構造物を得る工程と、
前記構造物から前記フォトレジストパターンを除去して、前記透光部に対応する貫通孔を有する前記金属めっきパターンを得る工程と、
を含む癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法。
【請求項14】
前記金属箔は、キャリア層に貼付され、
前記金属めっきパターンを形成する工程の後に、前記キャリア層を剥離する工程を更に有する請求項13に記載の癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法。
【請求項15】
前記貫通孔の開口率が10〜50%である請求項13又は14に記載の癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法。
【請求項16】
前記金属めっきパターンを得る工程の後に、金属めっきパターンの表面を金めっきする工程を含む請求項13〜15の何れか一項に記載の癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法。
【請求項17】
金属箔上にフォトレジストをラミネートする工程と、
前記フォトレジストの上に、長方形又は角丸長方形の単孔が端部同士で所定の交差角度をなして複数個連結される波形状をなす透光部を複数ブロック有するフォトマスクを重ねて露光する工程と、
現像して前記フォトレジストの未硬化部を除去してフォトレジストパターンを形成する工程と、
前記フォトレジストパターン間を金属めっきして前記フォトレジストパターンの高さより低い金属めっきパターンを形成する工程と、
前記金属箔を化学的溶解によって除去して、前記金属めっきパターンと前記フォトレジストパターンからなる構造物を得る工程と、
前記構造物から前記フォトレジストパターンを除去して、前記透光部に対応する貫通孔を有する前記金属めっきパターンを得る工程と、
を含む癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法。
【請求項18】
前記金属箔は、キャリア層に貼付され、
前記金属めっきパターンを形成する工程の後に、前記キャリア層を剥離する工程を更に有する請求項17に記載の癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法。
【請求項19】
前記フォトマスクを前記フォトレジストの上に重ねて露光する工程において、前記波形の透光部のブロックの周囲に前記透光部とは異なる第2の透光部を有するフォトマスクを用いる請求項17又は18に記載の癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法。
【請求項20】
前記貫通孔の開口率が10〜50%である請求項17〜19の何れか一項に記載の癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法。
【請求項21】
前記金属めっきパターンを得る工程の後に、金属めっきパターンの表面を金めっきする工程を含む請求項17〜20の何れか一項に記載の癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法。
【請求項22】
透光性を有する樹脂素材からなり、被検液を内部へ導入するための導入流路を有する蓋部材と、前記被検液を外部へ排出するための排出流路を有する収納部材と、を有する筺体における前記導入流路と前記排出流路との間の前記筺体の内部の流路上に、請求項1〜4の何れか一項に記載の癌細胞捕捉金属フィルタを、前記貫通孔の上流側の主面における孔径が前記主面に対する裏面側の孔径よりも小さくなるように設ける癌細胞捕捉デバイスの製造方法。
【請求項23】
前記蓋部材と前記収納部材とを溶着する請求項22に記載の癌細胞捕捉デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中循環癌細胞(Circulating Tumor Cell、以下、場合により「CTC」という。)を効率良く捕獲できる癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイス及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CTCは人間の末梢血流を循環する腫瘍細胞と定義され、原発腫瘍又は転移腫瘍から血管中へ浸潤した腫瘍細胞であり、CTCを血流中と同様の状態で捕捉することができれば、癌の早期発見や有効な医薬の早期開発が期待できる。しかしながら、CTCの数は、転移性癌患者の血液中に含まれる血液細胞10〜10個に対して1個程度とごく僅かであり、血液細胞を除いてCTCだけを捕捉することは非常に困難であった。
【0003】
これに対して、血液細胞のサイズと癌細胞のサイズとの差を利用してこれらを分離する方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、金属のフィルタを用いることによって、孔のサイズのばらつきが少なく高い分離精度で癌細胞を分離、濃縮できることが期待されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上記特許文献2に開示される金属フィルタは長方形の穴形状をしており、一般にレジストを用いた電着、電鋳、又はめっきによって形成される。この方法で金属フィルタを製造する場合、製造工程途中の段階においては、フィルタの貫通孔を形成するためのレジストの島が基板上に多数近接して配列される。ここで、リンス液がレジスト間の狭い空間を流れると、島状に形成されたレジストパターンが倒れたり、レジストパターンが基板から剥離したりする不具合が発生し、金属フィルタの歩留まりが低下するという問題がある。また、同様に電鋳により作製した金属フィルタによるCTCの捕捉を検討したものがある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/135603号
【特許文献2】特開平7−51521号公報
【特許文献3】特開2011−163830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、CTCが、転移性の癌症例において早期治療効果の判定及び予測因子、並びに予後予測因子として有用性が認められるようになったこともあり、CTC測定の精度向上が望まれていて、CTCの分離精度の向上を目的として、高開口率を有するフィルタの提供が望まれている。特許文献3では、電鋳技術を用いた金属フィルタを開示しているが、構造上レジストパターン倒れが起きにくい構造を開示している。しかしながら、特許文献3の金属フィルタは、構造上隣接する貫通孔間の距離を縮めることが困難であり、高開口率のものが得られにくい。
【0007】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、高開口率で生産効率の高い癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、及びこの癌細胞捕捉金属フィルタを用いた癌細胞捕捉デバイス、並びに、これらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る癌細胞捕捉金属フィルタは、主成分が金属である金属シートの厚み方向に貫通孔が形成された癌細胞捕捉金属フィルタであって、貫通孔の開口が波形状であることを特徴とする。
【0009】
上記のように、貫通孔の開口が波形状であることにより、その短辺側の孔径(以下、便宜上短辺側の長さを「孔径」と呼ぶ。孔径の定義は後述する)を利用して他の成分からCTCを抽出することができると共に、波形状を有することで、CTCの捕捉能力を維持したまま、上記貫通孔同士をより近接させることができる。したがって、癌細胞捕捉金属フィルタにおける開口率をより向上させることができる。
【0010】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成として、具体的には、貫通孔が複数配列する態様とすることが好ましい。複数の貫通孔を配列することで、複数の貫通孔をより近接した状態で配置することができるため、開口率をより効果的に向上させることができる。
【0011】
ここで、開口の開口率が10〜50%である態様とすることが好ましい。開口率を上記の範囲とすることで、金属フィルタによるCTCの捕捉能を維持したまま、フィルタとしての取り扱いやすさや、歩留まりの向上も達成することができる。
【0012】
また、金属シートの表面が金めっきされている態様とすることが好ましい。金属シートの表面が金めっきされていることで、CTC及び血球成分のフィルタに対する付着性が一様となり、データの再現性を高めることが期待できる。
【0013】
また、本発明に係る癌細胞捕捉金属フィルタシートは、主成分が金属である金属シートの厚み方向に貫通孔が形成された複数のフィルタ部と、複数のフィルタ部に含まれる互いに隣接する2つのフィルタ部の間に設けられた接続部と、を備える癌細胞捕捉金属フィルタシートであって、フィルタ部には、開口が波形状である貫通孔が複数設けられていることを特徴とする。
【0014】
上記のように、フィルタ部に設けられた貫通孔の開口が波形状であることにより、その短辺側の孔径を利用して他の成分からCTCを抽出することができると共に、波形状を有することで、CTCの捕捉能力を維持したまま、上記貫通孔同士をより近接させることができる。したがって、癌細胞捕捉金属フィルタシートにおける開口率をより向上させることができる。
【0015】
ここで、フィルタ部において開口の開口率が10〜50%である態様とすることが好ましい。
【0016】
また、接続部において、位置決め孔を有する態様とすることが好ましい。この位置決め孔を貫通孔とは別に設けることにより、癌細胞捕捉金属フィルタシートを用いて癌細胞捕捉デバイスを構成する際に、取付けを容易に行うことが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る癌細胞捕捉デバイスは、透光性を有する樹脂素材からなり、被検液を内部へ導入するための導入流路を有する蓋部材と、被検液を外部へ排出するための排出流路を有する収納部材と、を有する筺体と、導入流路と排出流路との間の筺体の内部の流路上に被検液が貫通孔を通過するように設けられた上記の癌細胞捕捉金属フィルタと、を備えることを特徴とする。
【0018】
ここで、貫通孔の上流側の主面における孔径は主面に対する裏面側の孔径よりも小さい態様とすることが好ましい。このような態様にすることで、上流側から貫通孔を一度通過した物質が貫通孔にとどまることを回避することができ、フィルタの目詰まり等を防止することができる。
【0019】
また、癌細胞捕捉金属フィルタの替わりに、主成分が金属である金属シートの厚み方向に貫通孔が形成されたフィルタ部と、前記フィルタ部の周囲に設けられて位置決め孔を備える接続部と、を備える癌細胞捕捉金属フィルタ部材を備え、蓋部材又は収納部材の少なくとも一方は、癌細胞捕捉金属フィルタ部材を取り付けた際に位置決め孔に対応する位置に位置決め孔に挿入される突起部を備える態様とすることが好ましい。上記の構成を有することで、癌細胞捕捉金属フィルタ部材を用いて癌細胞捕捉デバイスを構成する際に、取付けを簡便に且つ正確に行うことが可能となる。
【0020】
また、蓋部材と収納部材とが溶着されている態様とすることが好ましい。蓋部材と収納部材とが溶着された構成とすることで、癌細胞捕捉金属フィルタを含む内部の固定が容易になると共に封入が確実となる。
【0021】
また、本発明に係る癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法は、金属箔上にフォトレジストをラミネートする工程と、フォトレジストの上に波形状をなす透光部を有するフォトマスクを重ねて露光する工程と、現像してフォトレジストの未硬化部を除去してフォトレジストパターンを形成する工程と、フォトレジストパターン間を金属めっきしてフォトレジストパターンの高さより低い金属めっきパターンを形成する工程と、金属箔を化学的溶解によって除去して、金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を得る工程と、構造物からフォトレジストパターンを除去して、透光部に対応する貫通孔を有する金属めっきパターンを得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0022】
上記の製造方法によれば、波形状をなすフォトレジストパターンが金属箔上に形成され、これに基づいて金属めっきパターンを形成することにより、波形状の貫通孔が形成された癌細胞捕捉金属フィルタを得ることができる。ここで、フォトレジストパターンが直線状ではなく波形状となっていることにより、フォトレジストパターンがより安定した構造となり、レジストパターンの間を金属めっきする工程等において、レジストパターンが倒れたり、金属箔から剥がれ落ちたりすることを防止できるため、癌細胞捕捉金属フィルタとしての歩留まりを向上させることができる。
【0023】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成として、具体的には、金属箔は、キャリア層に貼付され、金属めっきパターンを形成する工程の後に、キャリア層を剥離する工程を更に有する態様が好ましい。
【0024】
また、開口の開口率が10〜50%である態様とすることが好ましい。
【0025】
さらに、金属めっきパターンを得る工程の後に、金属めっきパターンの表面を金めっきする工程を含む態様とすることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法は、金属箔上にフォトレジストをラミネートする工程と、フォトレジストの上に波形状をなす透光部を複数ブロック有するフォトマスクを重ねて露光する工程と、現像してフォトレジストの未硬化部を除去してフォトレジストパターンを形成する工程と、フォトレジストパターン間を金属めっきしてフォトレジストパターンの高さより低い金属めっきパターンを形成する工程と、金属箔を化学的溶解によって除去して、金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を得る工程と、構造物からフォトレジストパターンを除去して、透光部に対応する貫通孔を有する金属めっきパターンを得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
上記の製造方法によれば、波形状をなすフォトレジストパターンが金属箔上に形成され、これに基づいて金属めっきパターンを形成することにより、波形状の貫通孔が形成された癌細胞捕捉金属フィルタシートを得ることができる。ここで、フォトレジストパターンが直線状ではなく波形状となっていることにより、フォトレジストパターンがより安定した構造となり、レジストパターンの間を金属めっきする工程等において、レジストパターンが倒れたり、金属箔から剥がれ落ちたりすることを防止できるため、癌細胞捕捉金属フィルタシートとしての歩留まりを向上させることができる。
【0028】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成として、具体的には、金属箔は、キャリア層に貼付され、金属めっきパターンを形成する工程の後に、キャリア層を剥離する工程を更に有する態様とすることが好ましい。
【0029】
また、フォトマスクをフォトレジストの上に重ねて露光する工程において、波形の透光部のブロックの周囲に透光部とは異なる第2の透光部を有するフォトマスクを用いる態様とすることが好ましい。
【0030】
また、開口の開口率が10〜50%である態様とすることが好ましい。
【0031】
さらに、金属めっきパターンを得る工程の後に、金属めっきパターンの表面を金めっきする工程を含む態様とすることが好ましい。
【0032】
また、本発明に係る癌細胞捕捉デバイスの製造方法は、透光性を有する樹脂素材からなり、被検液を内部へ導入するための導入流路を有する蓋部材と、上記被検液を外部へ排出するための排出流路を有する収納部材と、を有する筺体における導入流路と排出流路との間の筺体の内部の流路上に、上記の癌細胞捕捉金属フィルタを、貫通孔の上流側の主面における孔径が主面に対する裏面側の孔径よりも小さくなるように設けることを特徴とする。
【0033】
ここで、蓋部材と収納部材とを溶着する態様とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高開口率で生産効率の高い癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、及びこの癌細胞捕捉金属フィルタを用いた癌細胞捕捉デバイス、並びに、これらの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタの構成を説明する概略斜視図である。
図2】金属シートの表面における連結貫通孔12の形状を説明するための概略平面図である。図2(A)は、2つの長方形状の単孔の端部同士が所定の角度をなして連結されて形成された連結貫通孔を示し、図2(B)は、2つの角丸長方形状の単孔の端部同士が所定の角度をなして連結されて形成された連結貫通孔を示す図である。
図3】連結貫通孔の形状が異なる癌細胞捕捉金属フィルタの例を示す概略斜視図である。
図4】連結貫通孔の形状が異なる癌細胞捕捉金属フィルタの例を示す概略斜視図である。
図5】本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタシートに構成を説明する概略上面図である。
図6】本実施形態に係る癌細胞捕捉デバイスの概略斜視図である。
図7図6に示す癌細胞捕捉デバイスの概略平面図である。
図8図8(A)は、図7のVIIIA−VIIIA断面図であり、図8(B)は、図7のVIIIB−VIIIB断面図である。
図9図1に示す癌細胞捕捉金属フィルタ1のIX−IX断面図である。
図10】癌細胞捕捉デバイスの変形例について説明する図であって、図8に対応する図である。
図11】癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法について説明する図である。
図12】癌細胞捕捉金属フィルタの他の製造方法について説明する図である。
図13】癌細胞捕捉金属フィルタのフィルタ機能を有する領域の面積を算出する方法について説明する図である。
図14】比較例1に係る癌細胞捕捉金属フィルタの構成について説明する概略斜視図である。
図15】連結貫通孔の形状が異なる癌細胞捕捉金属フィルタの例を示す概略斜視図である。
図16】連結貫通孔の形状が異なる癌細胞捕捉金属フィルタの例を示す概略斜視図である。
図17】癌細胞捕捉デバイスの他の構成について説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は理解の助けのための概略図であり、実際のものと寸法、寸法比等が異なる。また、本明細書における「工程」とは、独立した工程を示すのみではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0037】
(癌細胞捕捉金属フィルタ)
図1は、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタの構成を説明する概略斜視図である。図1に示す癌細胞捕捉金属フィルタ1は、転移性癌患者の血液中に含まれる赤血球、血小板及び白血球(以下、これらを総称して「血球成分」とする)を通過させる一方で、CTCを捕捉するためのフィルタである。
【0038】
図1に示すように、癌細胞捕捉金属フィルタ1は、金属シート11に厚み方向に複数の連結貫通孔12(貫通孔)が形成されており、その金属シート11の表面における連結貫通孔12の形状が波形状である。波形状の連結貫通孔は、金属シート表面における形状が長方形又は角丸長方形の単孔が端部同士で所定の交差角度をなして複数個連結して形成される。なお、図1では、説明のために、癌細胞捕捉金属フィルタ1の主面に沿ったXY座標軸を記載している。図1の癌細胞捕捉金属フィルタ1では、連結貫通孔12の波形状は、X軸方向に沿って形成されている。
【0039】
癌細胞捕捉金属フィルタ1を形成する金属シート11の材質は金属が主成分となる。ここで、主成分とは上記金属シートを形成する材料のうち最も割合の多い成分をいう。癌細胞捕捉金属フィルタ1のシートの材質の主成分として金属を用いることによって、孔のサイズのばらつきが少なく高い分離精度でCTCを分離、濃縮できる。また、金属はプラスチックなどの他の材料と比べて剛直であるため、外部から力が加わってもそのサイズや形状が維持されやすい。このため、連結貫通孔の孔径よりも若干大きな血液成分(特に白血球)を変形させて通過させ、高精度の分離、濃縮が可能になると考えられる。白血球の中にはCTCと同じ程度のサイズを有する細胞が存在し、サイズの違いだけではCTCのみを高濃度で区別できない場合がある。しかしながら、白血球はCTCよりも変形能が大きいため、吸引や加圧などによる外部の力により、自分(白血球)より小さな孔を通過することができ、CTCと分離することが可能になると考えられる。
【0040】
金属シート11に用いられる金属の材質は、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム及びこれらの金属の合金が例示できるが、これらに限定するものではない。また、金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。価格や入手の容易さの観点から、ニッケル、銅、金及びこれらを主成分とする金属を用いることが好ましく、特にニッケルを主成分とする金属が用いられることが好ましい。また、金属シート11がニッケルを主成分とする材料から形成される場合、ニッケルの表面に金めっきがされていることが好ましい。金めっきによって、フィルタ表面の酸化を防止できるため、CTC及び血球成分のフィルタに対する付着性が一様となり、データの再現性を高めることができる。
【0041】
癌細胞捕捉金属フィルタ1の厚みは、3〜100μmであることが好ましい。膜厚を上記の範囲とした場合、フィルタの取り扱いが容易であり、精密加工にも適している。
【0042】
また癌細胞捕捉金属フィルタ1のサイズは、25mm〜1000mmが好ましい。25mm〜225mmがより好ましく、25mm〜100mmがさらに好ましい。癌細胞捕捉金属フィルタ1のサイズが1000mmを超えると、デッドスペースが多くなる。また、25mm未満だと処理時間が長くなる。なお、この癌細胞捕捉金属フィルタ1のサイズは、癌細胞捕捉金属フィルタ1を取り付けて使用する癌細胞捕捉デバイスの構成とも関連があるので、詳細は後述する。
【0043】
次に、癌細胞捕捉金属フィルタ1に設けられた連結貫通孔12の形状について説明する。図2は金属シート11の表面における連結貫通孔12の形状を説明するための概略平面図である。図2(A)は、2つの長方形状の単孔の端部同士が所定の角度をなして連結されて形成された連結貫通孔12Aを示し、図2(B)は、2つの角丸長方形状の連結貫通孔の端部同士が所定の角度をなして連結されて形成された連結貫通孔12Bを示す図である。ここで、角丸長方形とは、端部の角が丸められている長方形のことであり、そのような形状の一例として、2つの等しい長さの長辺と2つの半円形からなり、長方形の2つの短辺の外側に長方形の短辺の中点を中心とする半円形状が設けられた形状が挙げられる。
【0044】
また、長方形状又は角丸長方形状(以下、これらを総称して「略長方形状」とする)をなす連結貫通孔12の大きさのうち、短辺(図2(A)において短辺121A、図2(B)において短辺121Bとして示す)の長さの範囲はおおよそ5.0〜15.0μmである。一方、連結貫通孔12の長辺(図2(A)において長辺122として示す)の長さは、連結貫通孔12(12A、12B)が癌細胞捕捉金属フィルタ1の外縁と交差しないような範囲で適宜変更することができ、その範囲はおおよそ10μm〜5mmである。
【0045】
なお、癌細胞捕捉金属フィルタ1の孔径は、捕獲対象とするCTCのサイズに応じて変更される。ここで、連結貫通孔の孔径は、それぞれの連結貫通孔を通過できる変形しない球の直径の最大値を以て定義する。例えば、図2に示す連結貫通孔12A、12Bの孔径は、その連結貫通孔の短辺の長さ121A、121Bとなる。穴の形状が長方形や角丸長方形の場合、捕獲対象とする成分が捕獲された状態であっても穴の長辺方向に隙間ができる。この隙間を通して液体が通過可能であり、フィルタの目詰まりを防止することができる。
【0046】
癌細胞捕捉金属フィルタ1の連結貫通孔12においては、2つの単孔120A,120Bがその端部同士で連結して波形状を作ることによって、単孔120A,120Bの間の余分なスペースを節約できるため、複数の単孔同士をより近接して配置することができるため、フィルタ表面における単位面積あたりの貫通孔(単孔又は連結貫通孔)の面積で示される開口率の向上を図ることができる。
【0047】
複数の連結貫通孔12は、向きを同じくして近接配置をすることが好ましい。図1の癌細胞捕捉金属フィルタ1では、連結貫通孔12が2つの略長方形状の単孔の一端側を連結して形成されていて、連結部分となる連結貫通孔12の中央部同士がより近接して配置するようにフィルタ表面における連結貫通孔12の配列方向が揃えられている。これにより、癌細胞捕捉金属フィルタ1の開口率が向上し、より効率よく血液中のCTCを分離、濃縮できる。また、このように連結貫通孔12を近接して配置をすることで、癌細胞捕捉金属フィルタ1におけるフィルタ部の面積を小さくすることができる。ここで、フィルタ部とは、癌細胞捕捉金属フィルタ1全体に対してフィルタとして機能する領域、すなわち、連結貫通孔12が設けられる領域を指し、癌細胞捕捉金属フィルタ1が有する連結貫通孔12の面積が同一である場合には、連結貫通孔12同士を近接させることで連結貫通孔12を密集して配置することにより、フィルタ部の面積を小さくすることができると共に上記領域におけるCTCの分離効率を高めることができる。フィルタ部の面積については、後述する。
【0048】
また、同一の癌細胞捕捉金属フィルタ1に設けられる複数の連結貫通孔12の形状は、一種類に限定する必要はなく、適宜変更することができるが、図1に示すように、波形状とすることにより、癌細胞捕捉金属フィルタ1のフィルタ部の面積に対する連結貫通孔12の割合を高めることができる。
【0049】
また、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタ1においては、図2(A)に示すように、略長方形状をなす2つの単孔120A,120Bが端部同士で連結するときに2つの単孔120A,120Bの中心軸線の交点で形成される角のうち180°未満の角を交差角度Rと称する。そして、癌細胞捕捉金属フィルタ1において、2つの略長方形状の単孔を端部同士で連結して形成される波形状の連結貫通孔12を複数備える場合、各連結貫通孔12における交差角度Rは、他の連結貫通孔12の交差角度とほぼ同じであることが好ましい。これは、複数の連結貫通孔12の交差角度Rが共通である場合には、連結貫通孔12同士を近接して配置した場合に連結貫通孔12が形成されない領域の面積を減らすことができるためである。
【0050】
なお、連結貫通孔12における交差角度Rは、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、図2(A)に示すように、略長方形状の単孔120Aの長辺方向の中心線Pと、略長方形状の単孔120Bの長辺方向の中心線Qとが交差する点における中心線Pと中心線Qとがなす角度のうち、180°より小さい方の角度が交差角度Rとなる。なお、2つの略長方形状の単孔120A,120Bの交差角度Rは、連結貫通孔12の形成しやすさの観点から、30°以上150°以下が好ましく、45°以上135°以下がより好ましく、60°以上120°以下がさらに好ましい。
【0051】
癌細胞捕捉金属フィルタ1において、連結貫通孔12を複数個配列する場合、隣接する連結貫通孔12の間でのY方向の孔間の距離は10μm以上115μm以下が好ましく、15μm以上65μm以下がより好ましく、20μm以上45μm以下がさらに好ましい。孔間の距離が10μm未満であると、連結貫通孔12の配列形成が困難になる傾向があり、115μmを超えると開口率が小さくなるため、ノイズである血球成分の残存が増加する傾向がある。また、X方向の孔間の距離は10μm以上300μm以下が好ましく、30μm以上200μm以下がより好ましく、35μm以上100μm以下がさらに好ましい。10μm未満であると、連結貫通孔12の配列形成が困難になる傾向があり、300μmを超えると、開口率が小さくなるため、ノイズである血球成分の残存が増加する傾向がある。
【0052】
また、癌細胞捕捉金属フィルタ1における連結貫通孔の開口率は10〜50%であることが好ましく、10〜40%がより好ましく、10〜30%がさらに好ましい。開口率とは癌細胞捕捉金属フィルタ1においてフィルタとして機能する領域の面積に対する貫通孔(単孔又は連結貫通孔)が占める面積の割合をいう(図13参照)。ここで、フィルタとして機能する領域の面積は、図13に示す矩形又は楕円形の領域の面積である。即ち、癌細胞捕捉金属フィルタに含まれる複数の連結貫通孔のうち、連結貫通孔の配列方向(癌細胞捕捉金属フィルタ1のY方向)に沿って、連結貫通孔の端部同士を結んで得られる2本の直線L1、L2と、2本の直線と直交し、癌細胞捕捉金属フィルタ1のX方向に沿って連結貫通孔の中央の連結部同士を結んで得られる直線L3と、癌細胞捕捉金属フィルタ1のX方向に沿って連結貫通孔の端部同士を結んで得られる直線L4と、によって得られる矩形、又は、連結貫通孔と当接すると共に連結貫通孔を全て含むように形成された楕円のうち最も小さい楕円L5である。
【0053】
なお、フィルタとして機能する領域の面積を算出する際には、上記の矩形及び楕円形のうちより小さい面積のものをフィルタとして機能する領域の面積として採用する。例えば、図13に示すフィルタの場合、L1〜L4を結んで得られる矩形の面積の方が、連結貫通孔と当接すると共に連結貫通孔全てを含むように形成された楕円L5の面積よりも小さいので、矩形の面積をフィルタとして機能する領域の面積として採用する。なお、癌細胞捕捉金属フィルタは、後述するように、一方側の面における連結貫通孔の短辺の長さが、他方側の面における連結貫通孔の短辺の長さよりも大きい。この場合、開口率の算出又は測定に際しては、連結貫通孔の短辺の長さが小さい方を採用する。なお、一方側の面における連結貫通孔12の短辺の長さと他方側の面における連結貫通孔12の短辺の長さとの差は、0.1μm〜2.5μmであることが好ましく、0.1μm〜2.0μmであることがより好ましく、0.1μm〜1.5μmであることがさらに好ましい。
【0054】
開口率は、上記定義に基づいて、計算で求めることができる場合があるが、分光光度計を用いて、上記フィルタとして機能する領域の面積に相当する開口を有するマスクフィルムを発光部と受光部の間に設置して400〜800nmの可視光の吸光度の平均値を求め、次に癌細胞捕捉金属フィルタを発光部と受光部の間に設置して400〜800nmの可視光の吸光度の平均値を求め、フィルタとして機能する領域の面積の吸光度に対する癌細胞捕捉金属フィルタの吸光度の比率(%)を開口率とすることができる。なお、分光光度計の発光部の面積がフィルタとして機能する領域の面積よりも小さい場合がある。この場合は、フィルタとして機能する領域のうち、測定領域を任意にずらして3回測定し、開口率の平均値をそのフィルタの開口率とする。このとき測定領域は一部重複してもよい。目詰まり防止の観点から、開口率は大きいほど好ましいが、50%を超えるとフィルタの強度の低下や、加工が困難になることに由来する歩留まりの低下等が発生する可能性がある。また、開口率が10%より小さいと、目詰まりが発生しやすくなり、フィルタの濃縮性能が低下する場合がある。
【0055】
なお、癌細胞捕捉金属フィルタに設けられる貫通孔の形状は、波形状であれば図1の形状に限定されない。図3図4図15及び図16に貫通孔の形状が異なる癌細胞捕捉金属フィルタ1の例を示す。図3の癌細胞捕捉金属フィルタ1Aでは、長方形状を有する単孔が癌細胞捕捉金属フィルタ1AのX軸方向に延びるように端部同士で3つ連結した波形状の連結貫通孔13が設けられている。癌細胞捕捉金属フィルタ1Aに示すように、長方形状の単孔が3つ連結する場合には、全体として連結貫通孔13がS字形状をなすように、隣の連結部分との交差角度の向きが互いに逆方向になるように長方形状の単孔同士を連結させて波形状とすることが好ましい。交差角度が長方形状の中央軸線に対して同じ側に連続して形成されてもよいが、癌細胞捕捉金属フィルタを製造する際の歩留まりや、連結貫通孔の大きさの精度、フィルタ全体としての開口率等に応じて適宜変更することが好ましい。
【0056】
また、図4の癌細胞捕捉金属フィルタ1Bでは、角丸長方形状を有する単孔がその端部同士をX軸方向に沿って角度を変えながら8つ連結した波形状の連結貫通孔14が設けられている。この場合も、角丸長方形状の単孔の隣の連結部分との交差角度の向きが互いに逆方向になるように角丸長方形状の単孔同士を連結させることで波形状とすることが好ましい。なお、図4では紙面の都合により、癌細胞捕捉金属フィルタ1BのY軸方向に沿って1列しか配置していないが、複数列配置することもできる。
【0057】
また、図15の癌細胞捕捉金属フィルタ1Cでは、角丸長方形状を有する単孔がその端部同士をX軸方向に沿って角度を変えながら7つ連結された波形状の連結貫通孔16が設けられている。この連結貫通孔16の場合、X軸方向に伸びる単孔と、X軸に対して交差する方向に伸びる単孔とが交互に連結された波形状となり、X軸方向に伸びる単孔が波形の「腹」を形成する。
【0058】
また、図16の癌細胞捕捉金属フィルタ1Dでは、半円が交互に向き合って端部で連結してX軸方向に延びる波形状の貫通孔17が設けられている。この貫通孔17では、他の癌細胞捕捉金属フィルタとは異なり、貫通孔が1つの曲線で形成されることから貫通孔の短辺の長さをほぼ一定に設計することができる点で好ましい。貫通孔17は、例えば、CADを用いてフォトレジストパターンを描くことで形成することができる。癌細胞捕捉金属フィルタに設けられる貫通孔は、金属シート表面における形状が長方形又は角丸長方形の単孔が端部同士で所定の交差角度をなして複数個連結された連結貫通孔である必要はない。癌細胞捕捉金属フィルタ1Dにおける貫通孔17のように、金属シート表面においてその外形が曲線で形成されていてもよい。
【0059】
図3の癌細胞捕捉金属フィルタ1A及び図4の癌細胞捕捉金属フィルタ1Bのいずれにおいても、波形状を有する連結貫通孔同士を近接する配置とすることができ、癌細胞捕捉金属フィルタにおける開口率が向上する。また、連結貫通孔を波形状とすることにより、後述の製造工程における歩留まりを向上することができる。この点については後述する。
【0060】
(癌細胞捕捉金属フィルタシート)
次に、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタシート2について説明する。図5は、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタシート2の構成を説明する概略上面図である。癌細胞捕捉金属フィルタシート2は、複数の癌細胞捕捉金属フィルタを効率よく生産するためのシートであって、図5に示すように切断線Lに沿って裁断することにより得られる癌細胞捕捉金属フィルタ部材10は、それぞれ癌細胞捕捉金属フィルタとして使用することができる。裁断後の個片即ち癌細胞捕捉金属フィルタ部材10には、連結貫通孔12が複数形成されたフィルタ部21と、フィルタ部21の周囲に設けられた接続部22とが含まれる。このうち、フィルタ部21が癌細胞捕捉金属フィルタ1と同等の機能を有している。
【0061】
裁断前の癌細胞捕捉金属フィルタシート2は、連結貫通孔12が複数形成されて主成分が金属からなるフィルタ部21と、フィルタ部21の同一の材料からなり隣接するフィルタ部21の間を接続する接続部22とを備える。
【0062】
なお、癌細胞捕捉金属フィルタシート2の各フィルタ部21の外側に設けられた接続部22には、フィルタ部21における波形状の連結貫通孔とは異なる位置決め孔23が形成されているのが好ましい。この位置決め孔23は、切断線Lに沿って裁断した後にフィルタ部21を後述の蓋部材又は収納部材の所定の位置に取り付けるために用いられる。
【0063】
フィルタ部21は、連結貫通孔12の開口率が10〜50%であることが好ましく、10〜40%がより好ましく、10〜30%がさらに好ましい。開口率とは、フィルタとして機能する領域の面積に対する貫通孔(単孔又は連結貫通孔)が占める面積の割合をいい、分光光度計を用いて計測して算出することができる。開口率は目詰まり防止の観点から大きいほど好ましいが、50%を超えるとフィルタ部21の強度が低下する場合や加工が困難になる場合がある。また、10%より小さいと目詰まりが発生しやすくなり、フィルタとしての性能が低下する場合がある。
【0064】
癌細胞捕捉金属フィルタシート2は、癌細胞捕捉金属フィルタ1の金属シート11と同様に、主成分が金属である。金属の材質は、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム及びこれらの金属の合金が例示できるが、これらに限定するものではない。また、癌細胞捕捉金属フィルタシート2の表面には金めっきがされていることが好ましい。金めっきによって、フィルタ表面の酸化を防止できるため、CTC及び血球成分のフィルタに対する付着性が一様となり、データの再現性を図ることができる。
【0065】
(癌細胞捕捉デバイス)
次に、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタ1を取り付けて用いられる癌細胞捕捉デバイス3の構成について説明する。図6は、癌細胞捕捉デバイス3の概略斜視図である。また、図7は癌細胞捕捉デバイス3の概略平面図である。また、図8(A)は、図7のVIIIA−VIIIA断面図であり、図8(B)は、図7のVIIIB−VIIIB断面図である。
【0066】
本実施形態に係る癌細胞捕捉デバイス3は、透明な樹脂製の筺体33と被検液となる細胞分散液を通過させる癌細胞捕捉金属フィルタ1とを備える。また、筺体33は、CTCが含まれる被検液を内部に導入するための導入流路301を有する蓋部材31と、被検液を内部から外部へ排出するための排出流路302を有する収納部材32と、を含んで構成され、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10は、蓋部材31と収納部材32との間に設けられる。癌細胞捕捉デバイス3では、共に凹部を有する蓋部材31と収納部材32とを組み合わせることで、筺体33の内部に被検液が流れるための空間が設けられる。この筺体33の内部の空間に対して接続された導入流路301から被検液を導入し、同様に空間に対して接続する排出流路302から被検液を排出させる構成とすることで、導入流路301から排出流路302へ向かう被検液の流路が形成される。この被検液の流路上に癌細胞捕捉金属フィルタを配置することで、被検液が癌細胞捕捉金属フィルタを通過し、捕捉対象であるCTCがフィルタにより捕捉される。
【0067】
また、本実施形態に係る癌細胞捕捉デバイスは、他の形状とすることもできる。例えば、図17に示す癌細胞捕捉デバイス3’は、癌細胞捕捉デバイス3と比較して、被検液が流れるための空間の形状を矩形から楕円形(もしくは円形)にしたものである。すなわち、上面及び下面の形状が楕円形筺体33’と被検液となる細胞分散液を通過させる癌細胞捕捉金属フィルタ1’とを備える。さらに、筺体33’は、導入流路301’を有する蓋部材31’と、排出流路302’を有する収納部材32’と、を含んで構成され、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10’が、蓋部材31’と収納部材32’との間に設けられる。このように、癌細胞捕捉デバイスの形状は適宜変更することができ、内部の空間の形状に応じて、癌細胞捕捉金属フィルタ1’においてフィルタとして機能する領域の形状が変更される。
【0068】
なお、以下の実施形態では、図5に示した癌細胞捕捉金属フィルタシート2を裁断して得られ、フィルタ部21と接続部22とを含んで構成される癌細胞捕捉金属フィルタ部材10をデバイスに取り付けた構成について説明する。
【0069】
癌細胞捕捉デバイス3の筐体33を上方から見たときの大きさは5mm×5mm〜50mm×50mmのサイズが好ましい。また、筐体の厚みは、5〜30mmが好ましい。また、筺体33の材質はCTCを検出するための可視光領域において実質的に透明であることが好ましい。これにより、血液を流してCTCの分離、濃縮処理を行った後、デバイスを分解することなく、外部から癌細胞捕捉金属フィルタ部材10上に捕捉されたCTCを観察することができる。具体的には、アクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン等の高分子が挙げられ、CTC観察時に300〜800nmの波長領域の光を照射時に材料自体が発する自家蛍光性の低いアクリル樹脂がより好ましく、ポリメチルメタクリレートが特に好ましい。筺体33が上記の樹脂からなる場合、射出成形して作製することが生産効率の観点から好ましい。なお、導入流路301及び排出流路302は被検液の通過を確認するため透明な樹脂製であることが求められるが、CTCを観察することは求められないので、蓋部材や収納部材と異なる樹脂製でも構わない。
【0070】
また、筺体33の材質が透光性を有する部材からなる場合、被検液を通過させた癌細胞捕捉金属フィルタ(本実施形態においては癌細胞捕捉金属フィルタ部材10)を癌細胞捕捉デバイス3から取り出す必要がないため、癌細胞捕捉金属フィルタに対するゴミの付着等に由来する誤判定を防止することができる。また、各種病原菌やウイルスで汚染されている可能性のある、ヒト由来の被検液やCTCが付着したデバイス内部を外部に露出する必要がないことから、作業の安全性の確保における煩雑さを低減することができる。
【0071】
筺体33は、蓋部材31と収納部材32とを固着することにより形成される。筺体33の形状は特に限定されないが、内部に収容された癌細胞捕捉金属フィルタ(本実施形態においては癌細胞捕捉金属フィルタ部材10)の連結貫通孔12に対して被検液を通過させた後、外部から癌細胞捕捉金属フィルタの表面に残存する物質の観察をするため、癌細胞捕捉金属フィルタの主面と対向する面となる上面及び下面は平坦であって且つ互いに平行であることが好ましい。
【0072】
筺体33のうち、蓋部材31は、導入流路301及び導入口303を備える。導入流路301は蓋部材31の側面に配置される。また蓋部材31には癌細胞捕捉金属フィルタ(本実施形態においては癌細胞捕捉金属フィルタ部材10)を被検液が通過するための導入領域311が設けられる。導入領域311は、癌細胞捕捉デバイス3を上方から見たときに、収納部材32に取り付けられた癌細胞捕捉金属フィルタ部材10のうち連結貫通孔12が設けられるフィルタ部21を全て含むように、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10のフィルタ部21の上方に設けられる。導入領域311は、導入口303を介して導入流路301に接続され、導入口303から導入された被検液を癌細胞捕捉金属フィルタ部材10のフィルタ部21の連結貫通孔12に対して誘導するための空間となる。
【0073】
蓋部材31の導入口303は、癌細胞捕捉デバイス3を上方から見たときにフィルタ部21が位置する観察領域よりも外側の位置に配置され、導入流路301は、癌細胞捕捉金属フィルタ1の面内方向に沿って延びている。このような構成を有することにより、癌細胞捕捉デバイス3の外部から、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10のフィルタ部21を観察する場合に視界を妨げる構造物が存在することを回避することができる。したがって、癌細胞捕捉デバイス3を直に顕微鏡の台座に安定的に固定することができると共に癌細胞捕捉デバイス3を分解することなく観察することができる。なお、面内方向とは、癌細胞捕捉金属フィルタ1の面内のあらゆる方向をいい、癌細胞捕捉金属フィルタ1の面に平行な面に沿った全方向である。また、「面内方向に沿って」とは、面内方向に対して60°未満、好ましくは45°未満、さらに好ましくは30°未満の角度をなす方向であることを意味する。
【0074】
導入流路301は、ポリプロピレン(PP)等の樹脂製が好ましい。導入流路301の外径は0.4〜2.4mmであることが好ましく、その内径は0.2〜2.2mmであることが好ましい。また、導入領域311と接続される導入口303の内径は0.4〜2.5mmであることが好ましい。
【0075】
また、筺体33のうち、収納部材32は、排出流路302及び排出口304を備える。排出流路302は収納部材32の側面に配置される。また、収納部材32の内部には、癌細胞捕捉金属フィルタ1を取り付けるための取付け領域312と、癌細胞捕捉金属フィルタ1の取付け領域312の下方に設けられて、癌細胞捕捉金属フィルタ1を通過した被検液を排出流路302へ誘導するための空間である排出領域313と、が設けられる。
【0076】
取付け領域312は、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10の形状に対応して収納部材32の上面側に設けられた凹部である。また、上面から見たときの形状が取付け領域312よりも小さい排出領域313が、取付け領域312の中央部に凹部として設けられる。取付け領域312の周縁側(排出領域313が形成されない領域)には、突起部314が設けられる。この突起部314は、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10の接続部22に設けられた位置決め孔23に対応して設けられていて、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10を収納部材32に対して取り付ける際の位置決め部材としての機能を有する。このように、収納部材に設けられた突起部314を利用して癌細胞捕捉金属フィルタ部材10を収納部材32に対して取り付ける構成とすることで、デバイスの組立時における癌細胞捕捉金属フィルタ部材10の設置が容易になり、生産効率が向上する。取付け領域312の厚みは癌細胞捕捉金属フィルタの厚みに相当する。即ち、3〜100μmであることが好ましい。
【0077】
ここで、取付け領域312に対して取り付ける癌細胞捕捉金属フィルタの連結貫通孔12の形状が、上面側と下面側とで相違する場合がある。図9は、図1に示す癌細胞捕捉金属フィルタ1のIX−IX断面図である。後述の癌細胞捕捉金属フィルタ1の製造方法に沿って癌細胞捕捉金属フィルタ1を製造した場合、図9に示すように、一方側の面における連結貫通孔12の短辺の長さが、他方側の面における連結貫通孔12の短辺の長さよりも大きくなる。この場合、連結貫通孔12の短辺の長さが小さい面を蓋部材31側、すなわち被検液の流路において上流側となる側に配置することが好ましい。このように短辺の長さが小さい面を上流側とすることにより、被検液に含まれる血球成分等による目詰まりの発生を抑制することができる。一方側の面における連結貫通孔12の短辺の長さと他方側の面における連結貫通孔12の短辺の長さとの差は、0.1μm〜2.5μmであることが好ましく、0.1μm〜2.0μmであることがより好ましく、0.1μm〜1.5μmであることがさらに好ましい。なお、連結貫通孔の孔径の大きさの設計においては、より小さい側の短辺の長さに基づいて規定する。
【0078】
筺体33の中央部下方に設けられる排出領域313は、癌細胞捕捉デバイス3を上方から見たときに、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10のうち連結貫通孔12が設けられるフィルタ部21を全て含むように、収納部材32に取り付けられた癌細胞捕捉金属フィルタ1のフィルタ部21の下方に設けられる。排出領域313は、排出流路302に接続され、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10のフィルタ部21の連結貫通孔12を通過した被検液を排出流路302から排出するための空間となる。
【0079】
排出流路302は、ポリプロピレン(PP)等の樹脂製が好ましい。排出流路302の外径は0.4〜2.4mmであることが好ましく、その内径は0.2〜2.2mmであることが好ましい。また、排出領域313と接続される排出口304の内径は0.4〜2.5mmであることが好ましい。
【0080】
収納部材32の排出流路302及び排出口304は、癌細胞捕捉デバイス3の上方から見たときにフィルタ部21が位置する観察領域よりも外側の位置に配置され、排出流路302は、癌細胞捕捉金属フィルタ1の面内方向に沿って延びていることにより、癌細胞捕捉デバイス3の外部から上面を通して癌細胞捕捉金属フィルタ部材10のフィルタ部21を観察する場合に視界を妨げる構造物が存在することを回避することができる。したがって、癌細胞捕捉デバイス3を直に顕微鏡の台座に安定的に固定することができると共に癌細胞捕捉デバイス3を分解することなく観察することができる。
【0081】
上述したように、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10の上方に設けられる導入領域311及び癌細胞捕捉金属フィルタ部材10の下方に設けられる排出領域313は、癌細胞捕捉金属フィルタ1のうち連結貫通孔12が設けられるフィルタ部21を全て含むように形成されることが好ましい。
【0082】
癌細胞捕捉デバイス3における筺体33を形成する蓋部材31と収納部材32とは溶着されていることが好ましい。溶着とは、高温で材料自体を一部溶かすことによってこれらを直接に結合することをいう。溶着は、融着、熱接着、ヒートシールと呼ばれる場合もある。溶着方法としては、熱溶着、超音波溶着、高周波溶着等が挙げられる。癌細胞捕捉金属フィルタ1を取付け領域312に載置した後に、その周囲を熱または超音波等の処理によって溶着し蓋部材31と収納部材32とを固定することにより、癌細胞捕捉デバイスの気密性を確実に得ることができ、癌細胞捕捉デバイス内に被検液となる細胞分散液を流入させた時の高い液シール性を確保することができる。また、溶着による接合は、短時間で接合処理が可能であるため生産性にも優れる。上記の溶着方法のうち、特に超音波溶着又は高周波溶着が、材料の必要箇所のみをより短時間で溶かすことができるので好ましい。
【0083】
なお、上記実施形態では、収納部材32に癌細胞捕捉金属フィルタ部材10が取り付けられる構成について説明したが、この構成は適宜変更をすることができる。
【0084】
図10は、癌細胞捕捉デバイスの変形例について説明する図であって、図8に対応する図である。図10に示す癌細胞捕捉デバイス3Aでは、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10を固定するための凹部である取付け領域312’が蓋部材31側に設けられている点が図8に示す癌細胞捕捉デバイス3と相違する。このように、癌細胞捕捉デバイスの内部の構成は、上記実施形態に限定されず適宜変更を行うことができる。
【0085】
上記の癌細胞捕捉デバイス3の使用方法について説明する。
【0086】
細胞分散液としては、骨髄、脾臓、肝臓等にプールされている血液、リンパ、組織液、臍帯血等を利用することが可能であるが、体内を循環している末梢血を使うことが最も簡便である。末梢血中のCTCの存在を検出することは、癌の病状進行を判断する有用な手段である。
【0087】
細胞分散液中のCTCの存在の有無を検出する場合、癌細胞捕捉デバイスの導入流路301に細胞分散液を導入し、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10を通過させた後、排出流路302から排出させる。これにより、癌細胞捕捉金属フィルタ1上にCTCを含む細胞を濃縮し、濃縮された細胞の中にCTCが存在するか否かを確認すればよい。導入流路301への細胞分散液の導入には、加圧又は減圧による方法、ペリスタルティックポンプを使用する方法等が例示できる。また、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10の捕捉領域の面積(フィルタ部21の面積)は、例えば1mLの血液からCTCを濃縮する場合、25mm〜1000mmが適している。
【0088】
上記の方法でCTCを濃縮した場合、CTCだけでなく白血球等の血球細胞も同時に濃縮される。このため、回収された細胞に癌原発巣に由来する上皮細胞が含まれているか否かを確認することが必要である。例えば、上記の方法でCTCを濃縮した後、蛍光標識された上皮細胞マーカーに対する抗体で染色し、上皮細胞であることを確認することができる。上皮細胞マーカーに対する抗体としては、抗Cytokeratin抗体等が例示できる。
【0089】
濃縮した細胞の染色及び観察は、例えば次のようにして行うことができる。細胞を濃縮後の癌細胞捕捉デバイス3の導入流路301からホルマリン溶液を導入して癌細胞捕捉フィルタ1上の細胞の状態を保護固定し、洗浄処理した後に、非イオン界面活性剤で染色液が細胞内に浸入できるようにした後、抗Cytokeratin抗体溶液を内部に導入して所定時間静置する。続いて、癌細胞捕捉デバイスの導入流路301に、洗浄用のバッファーを導入し、未反応の抗体を洗浄除去する。続いて、癌細胞捕捉デバイス3を直に顕微鏡の台座に固定し、蛍光顕微鏡観察を行う。癌細胞捕捉デバイス3に抗体溶液を導入する前に、抗体の非特異的な反応を抑制するためのブロッキング用バッファーを導入してもよい。
【0090】
また、上記の方法で濃縮された細胞を回収し、遺伝子を解析することにより、CTCであることを確認してもよい。細胞の回収は、例えば、癌細胞捕捉デバイスの排出流路側からバッファーを導入し、導入流路側から回収することにより行うことができる。例えば、p53、K−RAS、H−RAS、N−RAS、BRAF、APC等の遺伝子における変異を解析し、CTCであることを確認できる。また、これらの遺伝子解析の結果は、その後の患者の治療方針の決定等にも利用することができる。あるいは、上記の方法で濃縮した細胞のテロメラーゼ活性等を測定することにより、CTCであることを確認してもよい。
【0091】
細胞分散液中のCTCの存在の有無の検出が終了した後、癌細胞捕捉デバイスの排出流路302側からバッファーを導入し、導入流路301側から排出することにより、癌細胞捕捉金属フィルタ1に捕捉された細胞を洗浄除去し、癌細胞捕捉デバイス3を再利用することも可能である。
【0092】
(癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法)
次に、上記の癌細胞捕捉金属フィルタ1の製造方法について図11及び図12を用いて説明する。本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタ1の製造方法は、金属箔上にフォトレジストをラミネートする工程と、フォトレジスト層の上に波形の透光部を有するフォトマスクを重ねて露光する工程と、現像してフォトレジスト層の未露光部を除去してフォトレジストパターンを形成する工程と、フォトレジストパターン間を金属めっきしてフォトレジストパターンの高さより低い金属めっきパターンを形成する工程と、金属箔を化学的溶解によって除去して、金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を得る工程と、構造物からフォトレジストパターンを除去して、金属めっきパターンを得る工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0093】
図11(A)は、キャリア層401に対して金属箔402を積層した状態を示す。図11(B)に示す積層工程において、金属箔402に感光性樹脂組成物からなるフォトレジスト403を形成する。続いて、図11(C)に示す露光工程において、フォトマスク404を通してフォトレジスト403に活性光線(UV光)を照射し、露光された部分を光硬化させてフォトレジストの硬化物を形成する。続いて、図11(D)に示す現像工程において、硬化物以外のフォトレジスト403を除去し、フォトレジストパターン403aを形成する(図11(D)の403bは、未硬化のフォトレジストが除去された部分であり、後の工程でめっき層が形成される部分である)。続いて、図11(E)に示すめっき工程において、硬化物からなるフォトレジストパターン403aが形成された金属箔402上にめっき層405を形成する。続いて、図11(F)に示すように、金属箔402とキャリア層401とを剥離する。続いて、図11(G)に示す溶解工程において、金属箔402を化学的溶解により除去する。この結果、フォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン403a及びめっき層405が残る。続いて、図11(H)に示す剥離工程において、フォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン403aを除去し、めっき層405からなる金属フィルタを回収する。金属フィルタには連結貫通孔406が形成されている。
【0094】
図12(A)〜(G)は、癌細胞捕捉金属フィルタ1の他の製造方法を説明する工程図である。図12に示す製造方法は、図11に示す製造方法と比較して、金属箔402の代わりに金属製の基板402’を使用する点が相違する。この場合、図11(F)において示した金属箔402とキャリア層401とを剥離する工程が存在しない点以外は図11に示す製造方法と同様の方法により癌細胞捕捉金属フィルタ1を製造することができる。ただし、基板402’は金属箔402よりも厚いため、溶解工程において基板402’を化学的溶解により除去する工程において用いられる化学的溶解剤と時間が、金属箔402を除去する場合と比較して増加する。
【0095】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0096】
(ラミネート工程)
まず、キャリア層401に対して金属箔402を積層させた状態を示す。金属箔402としては、エッチングによって除去可能な金属箔を用いることができ、具体的には銅、ニッケル、ニッケル・クロム合金等の箔が用いられるが、銅箔が好ましい。銅箔はケミカルエッチングで容易に除去可能であり、フォトレジストとの密着力においても他の材料に比べると優れている。銅張り積層板からなるキャリア層401に対して後の工程で剥離可能な程度に金属箔402を貼り付けたものを用いると、癌細胞捕捉金属フィルタ製造工程途中の作業性及び取り扱い性に優れるので好ましい。上記のような構成として、具体的には、ピーラブル銅箔(日立化成工業(株)社製)を用いることができる。ピーラブル銅箔とは、極薄銅箔とキャリア層の少なくとも2層からなる銅箔のことである。
【0097】
図11(B)は金属箔402の上に感光性樹脂組成物によるフォトレジスト403を形成した状態を示す図である。フォトレジスト403としては、ネガ型及びポジ型のいずれも使用可能であるが、ネガ型フォトレジストが好ましい。ネガ型フォトレジストは、少なくとも、バインダー樹脂、不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合開始剤を含むものであることが好ましい。なお、ポジ型のフォトレジストを使用する場合には、フォトレジスト層のうち、活性光線の照射により露光された部分の現像液に対する溶解性が増大するため、現像工程において、露光された部分が除去されることになる。以下、ネガ型フォトレジストを使用した場合について説明する。
【0098】
最終的に得られる癌細胞捕捉金属フィルタ1の厚みは、フォトレジストパターンの厚み以下となる。このため、目的とする金属フィルタの厚みに適した膜厚のフォトレジスト層を形成する必要がある。例えば、15μm未満の厚みの金属フィルタを製造する場合には膜厚15μmのフォトレジストを使用することが好ましい。また、15μmを超え25μm未満の厚みの金属フィルタを製造する場合には膜厚25μmのフォトレジストを使用することが好ましい。また、連結貫通孔の孔径が小さくなるほど膜厚の薄いフォトレジストを使用することが好ましい。
【0099】
フォトレジスト403の金属箔402上への積層は、例えば、支持フィルム、フォトレジスト及び保護フィルムからなるシート状の感光性エレメントの保護フィルムを除去した後、フォトレジスト403を加熱しながら金属箔402に圧着することにより行われる。これにより、金属箔402とフォトレジスト403と支持フィルムとからなり、これらが順に積層された積層体が得られる。
【0100】
この積層作業は、密着性及び追従性の見地から、減圧の雰囲気下で行うことが好ましい。一方、圧着の際のフォトレジスト403及び/又は金属箔402に対する加熱温度、圧力等の条件に特に制限はないが、70〜130℃の温度で行うことが好ましく、100〜1000kPa程度の圧力で圧着することが好ましい。なお、フォトレジストの圧着において、積層性を向上させるために、金属箔を予熱処理してもよい。なお、支持フィルムにフォトマスクの機能を持たせてもよく、その場合には、そのまま次の工程に移ってフォトマスクとして用いてよいが、そうでない場合には、次の工程においてフォトマスクを重ねる前に支持フィルムを剥離する。
【0101】
(露光工程)
続いて、露光工程について説明する。金属箔402上のフォトレジスト403の上に波形の透光部を有するフォトマスク404を重ねた後、活性光線を照射し、露光された部分を光硬化させてフォトレジストの硬化物403aを形成する。
【0102】
フォトマスクは波形の透光部を有する。前記透光部は、長方形若しくは角丸長方形が端部で所定の角度をなして複数連結して波形の形状を形成しているか、又は半円が交互に向き合って端部で連結して波形の形状を形成している。この形状は、癌細胞捕捉金属フィルタ1における貫通孔の形状となる。
【0103】
露光方法としては、アートワークと呼ばれるネガ又はポジマスクパターンを通して活性
光線を画像上に照射する方法(マスク露光法)が挙げられる。また、LDI(Laser Direct Imaging)露光法やDLP(Digital Light Processing)露光法等の直接描画露光法により活性光線を画像状に照射する方法を採用してもよい。
【0104】
活性光線の光源としては、公知の光源を用いることができ、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、アルゴンレーザ等のガスレーザ、YAGレーザ等の固体レーザ、半導体レーザ等の紫外線、可視光等を有効に放射するものが用いられる。
【0105】
活性光線の波長(露光波長)としては、350〜410nmの範囲内とすることが好ましく、390〜410nmの範囲内とすることがより好ましい。露光は600mmHg以下の真空下で行うのが好ましい。露光量は0.01〜10J/cmの範囲内で行うのが好ましく、0.01〜5J/cmの範囲内で行うのがより好ましい。
【0106】
なお、図11(C)に示すように、フォトマスク404の上方から活性光線を照射するため、上面側はフォトレジスト403が活性光線の影響を受けて硬化しやすく、下面の金属箔402側のフォトレジスト403は上面側に比べて硬化しづらい。その結果、硬化物403aは上方の頂部が大きく、下方の底部へ向かうにつれて小さくなるような形状で得られる。
【0107】
(フォトレジストパターン形成工程)
フォトレジスト403のうち、フォトレジストの硬化物以外の部分を金属箔402上から除去することにより、金属箔402上に、フォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン403aを形成する。フォトレジスト上に支持フィルム又はフォトマスクが存在している場合には、支持フィルム又はフォトマスクを除去してから、上記フォトレジストの硬化物以外の部分の除去(現像)を行う。現像方法には、ウェット現像とドライ現像とがあるが、ウェット現像が広く用いられている。
【0108】
ウェット現像による場合、フォトレジストに対応する現像液を用いて、公知の現像方法により現像する。現像方法としては、ディップ方式、パドル方式、スプレー方式、ブラッシング、スラッピング、スクラッピング、揺動浸漬等を用いた方法が挙げられ、解像性向上の観点からは、高圧スプレー方式が最も適している。これらの現像方法のうち2種以上の方法を組み合わせて現像を行ってもよい。
【0109】
現像液としては、アルカリ性水溶液、水系現像液、有機溶剤系現像液等が挙げられる。アルカリ性水溶液は、現像液として用いられる場合、安全且つ安定であり、操作性が良好である。アルカリ性水溶液の塩基としては、リチウム、ナトリウム又はカリウムの水酸化物等のアルカリ金属水酸化物;リチウム、ナトリウム、カリウム若しくはアンモニウムの炭酸塩又は重炭酸塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩;ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等のアルカリ金属ピロリン酸塩などが用いられる。
【0110】
アルカリ性水溶液としては、0.1〜5質量%炭酸ナトリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%炭酸カリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%水酸化ナトリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%四ホウ酸ナトリウムの希薄溶液等が好ましい。アルカリ性水溶液のpHは9〜11の範囲とすることが好ましく、その温度は、フォトレジストのアルカリ現像性に合わせて調節される。アルカリ性水溶液中には、表面活性剤、消泡剤、現像を促進させるための少量の有機溶剤等を混入させてもよい。
【0111】
なお、フォトレジスト403の硬化物以外の部分を現像により除去し、金属箔402上にフォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン403aを形成した後、必要に応じて60〜250℃程度の加熱又は0.2〜10J/cm程度の露光を行うことにより、フォトレジストパターンを更に硬化してもよい。
【0112】
フォトレジストパターンは、フォトレジストパターンの高さとその短辺の長さのアスペクト比(高さ/短辺の長さ)が、1以上10以下であることが好ましく、2以上7以下であることがさらに好ましく、3以上5以下であることが特に好ましい。アスペクト比が10を超えると、形状が不安定になるためフォトレジストパターンが倒れやすくなり、癌細胞捕捉金属フィルタ製造の歩留まりが低下する。一方、アスペクト比が1未満であると、癌細胞捕捉金属フィルタとしてのCTCの効率的な捕捉が困難になったり、癌細胞捕捉金属フィルタとしての取扱い性が困難になったりする場合がある。このようにして長方形若しくは角丸長方形が端部で連結した波形状のフォトレジストパターン又は半円が交互に向き合って端部で連結した波形状のフォトレジストパターンは、現像時にパターンが倒れにくく生産性に優れる。
【0113】
ここで、長方形又は角丸長方形が端部で連結した波形状のフォトレジストパターンを形成する場合のその好ましい形状についてさらに説明する。フォトマスク404において、波形状の透光部の延在方向を長手方向としたときに、透光部の長手方向に対して直交する短手方向に沿って、複数の透光部が近接して配列している場合、形成されるフォトレジストパターンにおける交差部(波形状の頂点となる部分)がフォトマスク404の透光部の設計よりも角部が丸く形成されることがある。これは、現像時にフォトレジストの硬化部の間を現像液が十分浸透できないためである。したがって、波形状の頂点となる部分におけるフォトレジストパターンの交差角度を90°〜150°とすることで、現像液の浸透についても十分に行うことができる。なお、フォトレジストパターンの交差角度は、金属フィルタの連結貫通孔における連結部の交差角度と同様の方法で算出される。すなわち、波状のパターンの頂点を形成する2つの長方形状パターンの長辺方向の中心線がなす角度のうち、180°より小さい方の角度をいう(図2(B)参照)。
【0114】
このようにしてできた硬化物により形成されたフォトレジストパターン403aは、底部より頂部の方がやや幅広に形成される。これは、頂部に比べて、底部では十分に露光されないことに起因する。
【0115】
(金属めっきパターン形成工程)
現像工程の後、金属箔402上に金属めっきを行い、金属めっきパターン405を形成する。めっきの方法としては、例えば、はんだめっき、ニッケルめっき、金めっきが挙げられる。このめっき層が最終的に金属フィルタとなり、後の工程でフォトレジストパターンが除去されて金属フィルタの連結貫通孔になるので、フォトレジストパターンを塞いでしまわないようフォトレジストパターンの高さより低くめっきすることが重要である。
【0116】
金属めっきの金属種としては金、銀等の貴金属、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム等の卑金属、及びこれらの金属の合金が例示できるがこれらに限定するものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。これらの中でも、腐食等の発生を防止し、加工性、コスト面にも優れることから、ニッケル及びニッケルを主成分とする金属を用いることが好ましい。ここで主成分とは、材料のうち最も多くの割合を占める成分をいう。
【0117】
ここで形成される金属めっきパターン405は頂部より底部の方がやや幅広に形成される。これは、前述したようにフォトレジストパターン403aが、底部より頂部の方がやや幅広の形状を有しているためである。
【0118】
(金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を得る工程)
金属めっきパターン405を形成した後、金属箔402を化学的に溶解して除去する。これにより、人手作業(手剥がし)によらずに金属フィルタとなる金属めっきパターン405とフォトレジストパターン403aとからなる構造物を回収することができる。このため、シワ、折れ、キズ、カール等のダメージや、微細な連結貫通孔の変形を生じることなく、金属フィルタを製造することができる。金属箔を溶解する化学的溶解剤としては、メックブライトSF−5420B(商品名、メック株式会社製)、銅選択エッチング液−CSS(日本化学産業株式会社)等を使用することができる。
【0119】
(フォトレジストパターンを除去する工程)
続いて、レジストパターン403aを、例えば現像に用いたアルカリ性水溶液より更に強アルカリ性の水溶液により除去する。この強アルカリ性の水溶液としては、例えば、1〜10質量%水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を用いることが好ましく、1〜5質量%水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を用いることがより好ましい。レジストパターン(フォトレジストの硬化物)を除去することにより、金属めっきパターン405のみを回収することができる。この金属めっきパターン405が金属フィルタとなる。レジストパターンの除去方式としては、浸漬方式、スプレー方式、超音波を用いる方式等が挙げられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
【0120】
以上の工程を経ることにより、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタが得られる。上記の工程を経て得られた癌細胞捕捉金属フィルタにおいては、硬化物403aの傾斜に対応して、図11(H)等で示されるように下側の面における連結貫通孔の短辺の長さに対して上側の面における連結貫通孔の短辺の長さが大きくなる。このとき、下側の面における連結貫通孔の短辺の長さと上側の面における連結貫通孔の短辺の長さとの差は、0.1μm〜2.5μmであることが好ましく、0.1μm〜2.0μmであることがより好ましく、0.1μm〜1.5μmであることがさらに好ましい。
【0121】
(癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法)
次に、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法について説明する。
【0122】
本実施形態の癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法は、金属箔上にフォトレジストをラミネートする工程と、フォトレジストの上に波形の透光部を複数ブロック有するフォトマスクを重ねて露光する工程と、現像してフォトレジストの未硬化部を除去してフォトレジストパターンを形成する工程と、フォトレジストパターン間を金属めっきしてフォトレジストパターンの高さより低い金属めっきパターンを形成する工程と、金属箔を化学的溶解によって除去して、金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を得る工程と、構造物からフォトレジストパターンを除去して、金属めっきパターンを得る工程を含む。上記の癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法が癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法と相違する点は以下の点である。すなわち、癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法が、複数枚の癌細胞捕捉金属フィルタが接続部で接続されたシートの製造方法であるために、フォトマスクの形状がシートに対応した形状となっている点と、接続部に設けられる位置決め孔に対応するレジストパターンが設けられる点である。したがって、癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造に際して好適に用いられる材料及び製造条件等は癌細胞捕捉金属フィルタと同様である。なお癌細胞捕捉金属フィルタシートの大きさは、一度に製造する癌細胞捕捉金属フィルタの枚数に対応して決定されるので、適宜変更される。
【0123】
なお、癌細胞捕捉金属フィルタシートの一部を癌細胞捕捉金属フィルタとして使用する場合には、癌細胞捕捉金属フィルタシートの接続部となる領域を裁断してフィルタ部を個片に切り離すことによって使用する。
【0124】
(癌細胞捕捉デバイスの製造方法)
次に、本実施形態に係る癌細胞捕捉デバイスの製造方法について説明する。癌細胞捕捉デバイス3は、導入流路301を有する蓋部材31と、排出流路302を有する収納部材32と、の間に、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10を挟み込んで固定をすることで形成される。このとき、癌細胞捕捉金属フィルタ部材10は、連結貫通孔の孔径が小さい側の面が蓋部材31側(上流側)となるように蓋部材31と収納部材32との間に取り付けられる。
【0125】
蓋部材31と収納部材32は超音波溶着によって溶着される。このとき、溶着機のホーンは蓋部材の上面の外周部を均一に加圧できる形状であることが好ましい。このような形状のホーンを用いることによって、蓋部材31と収納部材32の接する面を均一に溶着することができ、被検液が漏れない構造とすることが可能となる。なお、超音波溶着には、日本ヒューチャア(株)社製W5040−20などの溶着機を用いて、10〜30kHz、0.1〜0.5MPa、0.05〜1.5秒の条件で行うことができる。
【0126】
癌細胞捕捉デバイスにおけるフィルタの連結貫通孔の蓋部材側の短辺の長さが収納部材側の短辺の長さよりも短い構造であることが好ましい。このような構造を採ることによって、血球成分による目詰まりを起こしにくくすることができる。
【0127】
また、癌細胞捕捉デバイス3は、蓋部材又は収納部材の少なくとも一方にフィルタを固定するための突起部を有し、フィルタの連結貫通孔が形成されている領域の外側にある位置決め孔に突起部が挿入されてフィルタがカートリッジの蓋部材と収納部材の間に固定される構造であることが好ましい。このような構造を有することで、デバイス組立時のフィルタの設置が容易になり、生産効率が向上する。
【0128】
癌細胞捕捉金属フィルタ部材10の連結貫通孔12については、入口側(上流側)よりも出口側(下流側)の孔径が広いため、一旦連結貫通孔12を通過した血球などのろ過物は孔内に滞留しにくくなる。そのため、フィルタとしての目詰まりの発生を低減でき、圧力損失が生じないため、結果としてフィルタ上に残存する血球、特に白血球数を低減させることが可能となり、フィルタの分離精度の向上が達成される。
【0129】
以上のように、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタ1、癌細胞捕捉金属フィルタシート2、及び癌細胞捕捉金属フィルタ(本実施形態では、癌細胞捕捉金属フィルタとして機能するフィルタ部21を有する癌細胞捕捉金属フィルタ部材10)を用いた癌細胞捕捉デバイス3によれば、連結貫通孔の開口が波形状であることにより、その短辺側の孔径(短辺の長さ)を利用して他の成分からCTCを抽出することができると共に、波形状を有することで、CTCの捕捉能力を維持したまま、上記連結貫通孔同士をより近接させることができる。したがって、癌細胞捕捉金属フィルタにおける開口率をより向上させることができ、癌細胞捕捉デバイス3としてもそのCTCの捕捉能を向上させることができる。
【0130】
また、上記の癌細胞捕捉金属フィルタ及び癌細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法によれば、波形状の連結貫通孔を形成するためのフォトレジストパターンは製造時に倒れたり剥離したりする確率を低減することができるため、高い開口率を有する癌細胞捕捉金属フィルタあるいは癌細胞捕捉金属フィルタシートが得られるのみならず、歩留まりを向上させることができるという効果を奏する。
【0131】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本実施形態に係る癌細胞捕捉金属フィルタ、癌細胞捕捉金属フィルタシート、癌細胞捕捉デバイスは、上記実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0132】
例えば、本発明に係る癌細胞捕捉金属フィルタは、CTC、特に播種および微転移されたCTCを有する細胞含有体液のすべてに適用できる。具体的には、リンパ液、尿、喀痰、腹水、滲出液、羊膜液、吸引液、臓器の洗液、さらに、腸管洗浄液、肺洗浄液、気管支洗浄液、膀胱洗浄液、大便、および特に骨髄および血液がある。このような細胞含有体液を直接フィルタリングして、細胞を濃縮することもできるが、最初に細胞含有体液を準備工程として、密度勾配遠心分離法などで細胞を含まない成分をあらかじめ除去することができる。
【実施例】
【0133】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0134】
まず、以下の実施例における評価方法を説明した後に、実施例及び比較例に係る癌細胞捕捉金属フィルタの製造方法を説明し、上記の評価方法に沿って評価した結果を併せて記載する。
【0135】
<評価方法>
(交差角度の測定方法)
交差角度は、癌細胞捕捉金属フィルタ又は癌細胞捕捉金属フィルタシートの連結貫通孔の端部の連結部を3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡((株)キーエンス社製、VE−8800)で観察し、写真撮影してそれぞれの連結貫通孔の長辺方向の中心線が交わってできる角度の180°より小さい方の角度を測定して求めた。
【0136】
(開口率の測定方法)
開口率は、ダブルビーム分光光度計(20−10型、株式会社日立製作所製商品名)を用いて、フィルタとして機能する領域の面積に相当する開口を有するマスクフィルムを発光部と受光部の間に設置して400〜800nmの可視光の吸光度の平均値を求め、次に癌細胞捕捉金属フィルタを発光部と受光部の間に設置して400〜800nmの可視光の吸光度の平均値を求め、フィルタとして機能する領域の面積の吸光度に対する癌細胞捕捉金属フィルタの吸光度の比率(%)を開口率として求めた。
なお、連結貫通孔の孔径が小さい側の面を用いて、開口率の測定を行った。
【0137】
<実施例及び比較例の製造方法及び評価結果>
(実施例1)
フォトレジスト(PHOTEC RD−1225:厚み25μm、日立化成工業(株)社製)を250mm角の基板(MCL−E679F:MCLの表面にピーラブル銅箔を貼り合わせた基板、日立化成工業(株)社製)の片面にラミネートした。ラミネート条件はロール温度90℃、圧力0.3MPa、コンベア速度2.0m/分で行った。
【0138】
次に、以下の構成のガラスマスクを準備した。1つの波形状の透光部が、短辺が10μm、長辺が30μmの角丸長方形状の透光部2つが端部で隣接して連結しており、波形状の透光部が延在する長手方向(図1のX軸方向)に対して直交する短手方向(図1のY軸方向)に沿って同じ向きで透光部が100個配列し、その透光部の列が長手方向に100列配列している。2つの角丸長方形状の透光部の交差角度は90°であり、隣接する透光部との最短距離は、透光部が延在する長手方向に対して直交する短手方向(図1のY軸方向)に10μm、透光部が延在する長手方向(図1のX軸方向)に10μmである。5000個の透光部が後に形成される1つのフィルタ部となる。このようなフィルタ部を縦横に10個ずつ配列した。このとき隣のフィルタ部との間に接続部を設け、その接続部の幅をそれぞれ10mmずつとした。このガラスマスクを基板のフォトレジストラミネート面に静置した。このとき、ガラスマスクの透光部を設けた面側をフォトレジストラミネート面に向けた。
【0139】
次に、600mmHg以下の真空下において、ガラスマスク上部から紫外線照射装置によって露光量50mJ/cmの紫外線を照射した。
【0140】
次に、1.0%炭酸ナトリウム水溶液で現像を行い、基板上に角丸長方形のフォトレジストが垂直に立ったフォトレジストパターンを形成した。このフォトレジストパターンが付いた基板の銅露出部分にpHが4.5になるように調製したニッケルめっき液でニッケルめっきを行った(液中温度55℃、処理時間20分間)。ニッケルめっき液の組成を表1に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
上記のニッケルめっき層をピーラブル銅箔とともに基板から剥離し、このピーラブル銅箔を温度40℃で約150分間、攪拌処理でのケミカルエッチング(メックブライトSF−5420B、メック株式会社)によって除去することにより金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を取り出した。
【0143】
最後に、金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物に残ったフォトレジストパターンを温度60℃で約40分間、超音波処理(P3 Poleve、Henkel)によって除去し、実施例1に係る癌細胞捕捉金属フィルタを作製した。実施例1に係る癌細胞捕捉金属フィルタは、製造過程でフォトレジストパターンが倒れることなく、完成後のフィルタのシワ、折れ、キズ、カール等のダメージはなかった。癌細胞捕捉金属フィルタの厚みは23μmであった。また、連結貫通孔における短辺側の長さは、癌細胞捕捉金属フィルタの上面側(短辺の長さが小さい側)は9.6μmであり、下面側(短辺の長さが大きい側)は、9.8μmであった。また、実施例1に係る癌細胞捕捉金属フィルタの開口率は22.7%であった。
【0144】
(実施例2)
フォトレジスト(PHOTEC RD−1225:厚み25μm、日立化成工業(株)社製)を250mm角の基板(MCL−E679F:MCLの表面にピーラブル銅箔を貼り合わせた基板、日立化成工業(株)社製)の片面にラミネートした。ラミネート条件はロール温度90℃、圧力0.3MPa、コンベア速度2.0m/分で行った。
【0145】
次に、以下の構成のガラスマスクを準備した。
1つの波形状の透光部が、短辺が8μm、長辺が35μmの角丸長方形状の透光部が端部で3個連続して連結しており、波形状の透光部が延在する長手方向(図1のX軸方向)に対して直交する短手方向(図1のY軸方向)に沿って同じ向きで透光部が100個配列し、その透光部の列が長手方向に30列配列している。隣接して連結された角丸長方形の交差角度は120°であり、隣の連結部とは異なる向きに交差する。隣接する透光部との最短距離は、透光部が延在する長手方向に対して直交する短手方向(図1のY軸方向)に12μmであり、透光部が延在する長手方向(図1のX軸方向)に10μmである。3000個の透光部が後に形成される1つのフィルタ部となる。このようなフィルタ部を縦横に10個ずつ配列した。このとき隣のフィルタ部との間に接続部を設け、その接続部の幅をそれぞれ10mmずつとした。このガラスマスクを基板のフォトレジストラミネート面に静置した。このとき、ガラスマスクの透光部を設けた面側をフォトレジストラミネート面に向けた。
【0146】
以下、実施例1と同様の方法で実施例2に係る癌細胞捕捉金属フィルタを作製した。出来上がった癌細胞捕捉金属フィルタは、製造過程でフォトレジストパターンが倒れることなく、完成後のフィルタのシワ、折れ、キズ、カール等のダメージはなかった。癌細胞捕捉金属フィルタの厚みは23μmであった。また、連結貫通孔における短辺側の長さは、癌細胞捕捉金属フィルタの上面側(短辺の長さが小さい側)は7.6μmであり、下面側(短辺の長さが大きい側)は、7.8μmであった。また、実施例2に係る癌細胞捕捉金属フィルタの開口率は、26.7%であった。
【0147】
(実施例3)
フォトレジスト(PHOTEC RD−1225:厚み25μm、日立化成工業(株)社製)を250mm角の基板(MCL−E679F:MCLの表面にピーラブル銅箔を貼り合わせた基板、日立化成工業(株)社製)の片面にラミネートした。ラミネート条件はロール温度90℃、圧力0.3MPa、コンベア速度2.0m/分で行った。
【0148】
次に、以下の構成のガラスマスクを準備した。1つの波形状の透光部が、短辺が9μm、長辺が30μmの角丸長方形状の透光部が端部で8個連続して連結しており、波形状の透光部が延在する長手方向に対して直交する短手方向に沿って同じ向きで透光部が100個配列し、その透光部の列が長手方向に100列配列している。隣接して連結された角丸長方形の交差角度は100°であり、隣の連結部とは異なる向きに交差する。隣接する透光部との最短距離が透光部が延在する長手方向に対して直交する短手方向(図1のY軸方向)に11μm、透光部が延在する長手方向(図1のX軸方向)に10μmである。10000個の透光部が後に形成される1つのフィルタ部となる。このようなフィルタ部を縦横に10個ずつ配列した。このとき隣のフィルタ部との間に接続部を設け、その接続部の幅をそれぞれ10mmずつとした。このガラスマスクを基板のフォトレジストラミネート面に静置した。このとき、ガラスマスクの透光部を設けた面側をフォトレジストラミネート面に向けた。
【0149】
以下、実施例1と同様の方法で図4に示すような実施例3に係る癌細胞捕捉金属フィルタを作製した。出来上がった癌細胞捕捉金属フィルタは、製造過程でフォトレジストパターンが倒れることなく、完成後のフィルタのシワ、折れ、キズ、カール等のダメージはなかった。癌細胞捕捉金属フィルタの厚みは23μmであった。また、連結貫通孔における短辺側の長さは、癌細胞捕捉金属フィルタの上面側(短辺の長さが小さい側)は8.6μmであり、下面側(短辺の長さが大きい側)は、8.8μmであった。また、実施例3に係る癌細胞捕捉金属フィルタの開口率は、40.7%であった。
【0150】
(実施例4〜6)
上述した実施例1〜3で作製した癌細胞捕捉金属フィルタの表面に置換金めっき液HGS−500(日立化成工業株式会社製)を使用し、表2に示す工程に沿って表3の金めっき条件で約0.05μmの金めっきを形成した。これにより実施例4〜6に係る癌細胞捕捉金属フィルタが得られた。何れの実施例においても、出来上がった癌細胞捕捉金属フィルタは、製造過程でフォトレジストパターンが倒れることなく、完成後のフィルタのシワ、折れ、キズ、カール等のダメージはなかった。実施例4〜6に係る癌細胞捕捉金属フィルタの開口率及び前記フィルタ上面側の連結貫通孔の短辺側の長さを表4に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
【表3】
【0153】
【表4】
【0154】
(比較例1)
フォトレジスト(PHOTEC RD−1225:厚み25μm、日立化成工業(株)社製)を250mm角の基板(MCL−E679F:MCLの表面にピーラブル銅箔を貼り合わせた基板、日立化成工業(株)社製)の片面にラミネートした。ラミネート条件はロール温度90℃、圧力0.3MPa、コンベア速度2.0m/分で行った。
【0155】
次に、以下の構成のガラスマスクを準備した。
短辺が8μm、長辺が30μmの角丸長方形の透光部を図14のように独立して整列させた。隣接する透光部との最短距離が短辺方向で12μm、長辺方向に10μmとなるようなガラスマスクを準備し、実施例1と同様の方法で比較例1に係る癌細胞捕捉金属フィルタの作製を試みた。図14に示すように、比較例1に係る癌細胞捕捉金属フィルタ4は、角丸長方形の貫通孔15が所定の方向に沿って配列するものである。しかしながら、実施例1と同様の方法によりフォトレジストを形成したが、現像後にレジスト倒れ、脱落が発生している箇所が多数発生し、これが原因となり貫通孔漏れ、配列崩れが発生し、実用に耐えるものではなかった。
【0156】
実施例1〜6で作製した癌細胞捕捉金属フィルタは高開口率で且つ生産効率に優れる。これらの癌細胞捕捉金属フィルタから上記製造方法に基づき作製される癌細胞捕捉金属フィルタシートは上記癌細胞捕捉金属フィルタを大量に効率よく得られる。また、上記癌細胞捕捉金属フィルタを用いて上記製造方法に基づき作製される癌細胞捕捉デバイスは細胞含有体液からより効率的にCTCを捕捉し、デバイスを分解することなく捕捉されたCTCを外部から観察することが出来る。
【符号の説明】
【0157】
1,1A,1B,1C,1D…癌細胞捕捉金属フィルタ、2…癌細胞捕捉金属フィルタシート、3,3’…癌細胞捕捉デバイス、11…金属シート、12,13,14,15,16…連結貫通孔、17…貫通孔、21…フィルタ部、22…接続部、23…位置決め孔、31,31’…蓋部材、32,32’…収納部材、301,301’…導入流路、302,302’…排出流路。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17