特許第6142848号(P6142848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142848
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】不溶性電極の付着物除去方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20170529BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20170529BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20170529BHJP
   C23G 1/10 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C25C7/02 302L
   C25C1/08
   C25C7/06 301Z
   C23G1/10
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-122971(P2014-122971)
(22)【出願日】2014年6月16日
(65)【公開番号】特開2016-3346(P2016-3346A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 英和
(72)【発明者】
【氏名】西川 勲
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−002684(JP,A)
【文献】 特開2010−001556(JP,A)
【文献】 特開2013−252530(JP,A)
【文献】 特開2011−122183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C1/00−7/08
C23G1/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性電極に付着したオキシ水酸化コバルトを含む付着物を、塩酸酒石酸の混合水溶液を用いて溶解除去する方法であって、
前記混合水溶液は、塩酸濃度が1.5重量%以上、酒石酸濃度が1.5重量%以上であり、
前記不溶性電極の表面に粗面化処理を施して、前記付着物の表面にピッチが80μm以上、100μm以下の凹凸を形成した後、または前記付着物を粒径100μm以下に粉砕した後に、前記付着物を前記混合水溶液を用いて溶解除去する
ことを特徴とする不溶性電極の付着物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不溶性電極の付着物除去方法に関する。さらに詳しくは、コバルト電解採取に用いられる不溶性電極に付着したオキシ水酸化コバルトを溶解除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気コバルトを製造するプロセスでは、原料に含まれるコバルトを水溶液中に浸出させるとともに、鉄やニッケル等の不純物を除去して得られた塩化コバルト水溶液を用いて電解採取が行われる。電解採取工程では、塩化コバルト水溶液が供給される電解槽に、カソードとしてコバルト板を、アノードとして不溶性電極を挿入する。不溶性電極としては、例えばチタン板の表面に白金族金属酸化物等を含有する活性被覆層が形成されたものが用いられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
電解採取のカソードおよびアノードにおける主反応は下記化1、化2で表される。カソード側では、塩化コバルト水溶液中のコバルトイオンがメタル(電気コバルト)として析出する。アノード側では、塩化コバルト水溶液中の塩素イオンが塩素ガスとして発生する。なお、発生した塩素ガスは、電気コバルトを製造するプロセスの他の工程、例えば塩素浸出工程等で再利用される。
〔化1〕(カソード側)
Co2+ + 2e- → Co
〔化2〕(アノード側)
2Cl- → Cl2↑ + 2e-
【0004】
アノード側では、化2の主反応の他に、下記化3、化4で表される反応も生じる。すなわち、水の分解反応により酸素が発生する。また、塩化コバルト水溶液中のコバルトイオンが直接酸化されて水酸化コバルトが発生する。発生した水酸化コバルトはアノードに付着するため、アノードが低活性化し、電流効率が著しく低下するという問題がある。
〔化3〕
2H2O → O2↑ + 4H+ + 4e-
〔化4〕
Co2+ + 3H2O → Co(OH)3 + 3H+ + e-
【0005】
この問題に対して、特許文献2には、鉱酸と有機酸の混合水溶液を用いて不溶性電極(アノード)に付着した水酸化コバルトを溶解除去する技術が開示されている。しかし、近年のコバルト電解採取において不溶性電極に付着した付着物は、特許文献2に記載の条件では溶解除去できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭48−3954号公報
【特許文献2】特開昭60−2684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本願発明者が不溶性電極の付着物を分析したところ、その成分がオキシ水酸化コバルトであることが判明した。オキシ水酸化コバルトが発生する理由は、原料組成や操業条件によって、アノード側において下記化5で表される反応が生じるためであると考えられる。
〔化5〕
Co2+ + 2H2O → CoOOH + 3H+ + e-
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、不溶性電極に付着したオキシ水酸化コバルトを溶解除去できる不溶性電極の付着物除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の不溶性電極の付着物除去方法は、不溶性電極に付着したオキシ水酸化コバルトを含む付着物を、塩酸酒石酸の混合水溶液を用いて溶解除去する方法であって、前記混合水溶液は、塩酸濃度が1.5重量%以上、酒石酸濃度が1.5重量%以上であり、前記不溶性電極の表面に粗面化処理を施して、前記付着物の表面にピッチが80μm以上、100μm以下の凹凸を形成した後、または前記付着物を粒径100μm以下に粉砕した後に、前記付着物を前記混合水溶液を用いて溶解除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、鉱酸と有機酸の混合水溶液を用いるので、不溶性電極の活性被覆層が損傷することを防止できる。また、塩酸と酒石酸の混合水溶液を用いることで、溶解困難なオキシ水酸化コバルトを溶解除去できる。さらに、粗面化処理により付着物の表面積が増大するので、混合水溶液との接触面積が広くなり、溶解困難なオキシ水酸化コバルトを溶解除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を説明する。
コバルト電解採取に用いられるアノードとしては不溶性電極が用いられる。不溶性電極としては、特に限定されないが、例えばチタン板の表面に白金族金属酸化物等を含有する活性被覆層が形成されたものである。コバルト電解採取を行うと、電解時間の経過とともに不溶性電極の表面に付着物が堆積する。原料組成や操業条件によっては、オキシ水酸化コバルトが不溶性電極に付着する。本実施形態に係る不溶性電極の付着物除去方法は、オキシ水酸化コバルトからなる付着物を溶解除去することを目的としている。
【0012】
本実施形態に係る不溶性電極の付着物除去方法は、(1)粗面化処理と、(2)溶解処理の2つのステップからなる。
【0013】
(1)粗面化処理
まず、コバルト電解採取に用いられて付着物が付着した不溶性電極を電解槽から引き上げて、その表面に粗面化処理を施す。粗面化処理の方法は、特に限定されないが、例えば、サンドペーパー等を用いてヤスリがけする方法や、サンドブラストが挙げられる。
【0014】
粗面化処理により、不溶性電極に付着した付着物の表面に凹凸を形成する。その凹凸の凹凸のピッチは80μm〜100μm程度とすることが好ましい。
【0015】
不溶性電極に付着した付着物は滑らかな表面を形成するため溶解除去が進みにくい。しかし、上記のように粗面化処理を施せば、付着物の表面積が増大するので、次ステップの溶解処理において、付着物と混合水溶液との接触面積が広くなり、溶解困難なオキシ水酸化コバルトを溶解除去できる。
【0016】
(2)溶解処理
つぎに、不溶性電極を鉱酸と有機酸の混合水溶液に浸漬して、付着物を溶解除去する。ここで、鉱酸としては、特に限定されないが、塩酸や硫酸が挙げられる。また、有機酸としては、特に限定されないが、酒石酸やシュウ酸、クエン酸が挙げられる。
【0017】
なかでも、混合水溶液を塩酸と酒石酸の混合水溶液とし、塩酸濃度を1.5重量%以上、酒石酸濃度を1.5重量%以上とすることが好ましい。この混合水溶液は、濃度3重量%の塩酸と濃度3重量%の酒石酸を1:1で混合することにより、容易に得ることができる。また、付着物の重量に対して20倍以上の重量の混合水溶液を用いることが好ましい。
【0018】
このように、鉱酸と有機酸の混合水溶液を用いるので、不溶性電極の活性被覆層が損傷することを防止できる。また、塩酸と酒石酸の混合水溶液を用いることで、溶解困難なオキシ水酸化コバルトを溶解除去できる。
【実施例】
【0019】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
コバルト電解採取に用いた不溶性電極から付着物を採取し、粉砕ミルで粒径100μm以下となるように粉砕した。つぎに、濃度3重量%の塩酸と濃度3重量%の酒石酸を1:1の割合で混合して、塩酸濃度が1.5重量%、酒石酸濃度が1.5重量%の混合水溶液を作製した。つぎに、粉末状の付着物2.00gに対して、混合水溶液を40g添加して、常温で4時間撹拌した。なお、付着物を粒径100μm以下となるように粉砕するとは、粉砕後に目開き100μmの篩別作業をして篩下から粉末を得るという意味である。
【0020】
撹拌後の水溶液を濾過した後、残渣の重量を測定したところ1.68gであった。すなわち、付着物の16%を溶解除去できた。
【0021】
(実施例2)
濃度3重量%の塩酸と濃度3重量%の酒石酸を1:1の割合で混合して、塩酸濃度が1.5重量%、酒石酸濃度が1.5重量%の混合水溶液を作製した。つぎに、付着物のない不溶性電極を混合水溶液に浸漬して、常温で4時間撹拌した。その結果、不溶性電極の活性被覆層に損傷が見られなかった。
【0022】
以上より、不溶性電極の活性被覆層を損傷させることなく、付着物を溶解除去できることが確認された。
【0023】
(比較例1)
コバルト電解採取に用いた不溶性電極から付着物を採取した。付着物は粒径約1mmの破片である。つぎに、濃度3重量%の塩酸と濃度3重量%の酒石酸を1:1の割合で混合して、塩酸濃度が1.5重量%、酒石酸濃度が1.5重量%の混合水溶液を作製した。つぎに、破片状の付着物2.00gに対して、混合水溶液を40g添加して、常温で4時間撹拌した。
【0024】
撹拌後の水溶液を濾過した後、残渣の重量を測定したところ2.00gであった。すなわち、付着物を溶解除去できないことが確認された。
【0025】
(比較例2)
濃度3重量%の塩酸と濃度3重量%の酒石酸を1:1の割合で混合して、塩酸濃度が1.5重量%、酒石酸濃度が1.5重量%の混合水溶液を作製した。コバルト電解採取に用いた不溶性電極を、26kgの混合水溶液に浸漬して、常温で4時間撹拌した。なお、付着物の重量は約1.3kgであった。
【0026】
その結果、不溶性電極の重量に変化はなかった。すなわち、付着物を溶解除去できないことが確認された。
【0027】
(比較例3)
濃度10重量%の塩酸と濃度10重量%の酒石酸を1:1の割合で混合して、塩酸濃度が5重量%、酒石酸濃度が5重量%の混合水溶液を作製した。コバルト電解採取に用いた不溶性電極を、26kgの混合水溶液に浸漬して、常温で4時間撹拌した。なお、付着物の重量は約1.3kgであった。
【0028】
その結果、不溶性電極の重量に変化はなかった。すなわち、付着物を溶解除去できないことが確認された。
【0029】
以上より、オキシ水酸化コバルトを溶解除去するためには、粗面化処理が必要であることが確認された。