(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに平行に配置された2枚の金属板の間に誘電体または空気が満たされたコンデンサと、トロイダルコアに導線が巻き付けられて構成されたインダクタとを直列に接続した所定の共振周波数を有する直列共振回路を備えており、前記直列共振回路に交流電圧を印加することで発生する前記コンデンサからの漏れ電界由来の近傍電界を圧電性結晶に送信し、前記圧電性結晶を励振すると共に、励振された前記圧電性結晶から発生する圧電効果信号を、前記コンデンサにより受信して、前記直列共振回路により前記圧電効果信号を検出するように構成されていることを特徴とする近傍電界プローブ。
前記コンデンサを構成する2枚の金属板のうち、前記圧電性結晶に対向させる側の金属板の中央部分に開口部を設けていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブ。
前記複数の直列共振回路の各々が、各直列共振回路に対応する共振周波数の交流電圧が入力されることにより、共振するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の近傍電界プローブ。
同じ形状および大きさのコンデンサが並列して2つ配置され、それぞれのコンデンサには、同じ形状および大きさの前記インダクタが接続されており、前記コンデンサのそれぞれが、互いに、極性が逆になるように接続されて、グラジオ構造型に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブ。
前記直列共振回路が、さらに前記コンデンサと並列に接続されている第2コンデンサを有し、前記第2コンデンサの一端は送受信切替スイッチを介してグラウンドに接続され、かつ送信アンプ及び受信アンプを有する高感度受信用制御回路が設けられ、
前記高感度受信用制御回路は、
送信時には、送信アンプを近傍電界プローブに直列に接続すると共に受信アンプを切り離し、受信時には、送信アンプを切り離し、受信アンプを近傍電界プローブに対して直列に接続するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブ。
前記直列共振回路に、送信信号の終了後近傍電界プローブに発生する過渡現象の立ち下がり時間を短縮させるように構成された送信用アンプ回路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブ。
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の近傍電界プローブを制御する近傍電界プローブの制御システムであって、所定の共振周波数を有する前記直列共振回路に交流電圧を印加することで、発生する前記コンデンサの漏れ電界に由来する近傍電界を、前記近傍電界プローブから送信して、前記圧電性結晶を励振させる一方、励振された前記圧電性結晶から発生する圧電効果信号を、前記コンデンサにより受信して、前記直列共振回路により前記圧電性結晶の有無あるいは性質を検出することを特徴とする近傍電界プローブの制御システム。
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の近傍電界プローブおよび請求項9に記載の近傍電界プローブの制御システムを備え、圧電性結晶の有無あるいは性質を探知することを特徴とする圧電性結晶探知装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術の場合には、上記したように、検査対象物の全体をコンデンサの金属板間に挿入して計測することを想定していたため、電界プローブの大型化、ひいては探知装置の大型化が避けられなかった。また、そもそもコンデンサの金属板間に挿入することができない大きさの検査対象物は検査できないという問題があった。
【0008】
さらに、天然のコカインなどは不純物も含んでいるため、従来の技術では十分な検出感度が得られないという問題もあり、実用化には至っていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、小型かつ軽量でありながら、圧電性結晶に交流電界を印加して励振させることができ、なおかつ圧電効果信号を十分な感度で検出することもできるような送受信機能を有する電界プローブと、その制御システムおよび圧電性結晶探知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題の解決のため、従来のように、検査対象物をコンデンサの金属板間に挿入して計測するのではなく、金属板間の距離を逆に狭くして、小型、軽量化したコンデンサを用いることで、送受信の機能を有する近傍電界プローブを作製した場合、電界プローブの小型、軽量化を図ることが可能となると思い至った。
【0011】
具体的には、コンデンサに電圧を加えると、金属板の外側に漏れ電界が発生することに着目し、この漏れ電界に起因する近傍電界を送信し、圧電性結晶を特定の共振周波数で振動させ、その振動により発生した交流電界、即ち、圧電効果信号を検出することにより、金属板間に検査対象物を挿入することなく圧電効果信号を十分な感度で検出することができるため、電界プローブを小型、軽量化できることに思い至った。
【0012】
しかし、漏れ電界を利用しようとした場合、近傍電界が発生する一方で、近傍交流磁界も発生することがある。発生した近傍交流磁界は金属板などを振動させて交流磁界信号を誘起(磁気リンギング)して、圧電効果信号を受信する際の妨げとなるため、検出感度の低下を招く恐れがある。
【0013】
そこで、本発明者は、上記した近傍電界プローブにおける交流磁界信号の発生を抑制する手段について検討を行った。その結果、近傍電界プローブに備えられたLCR共振回路のインダクタに着目し、トロイダルコアに導線が巻き付けられたインダクタを使用することに思い至った。
【0014】
このLCR共振回路は、導体である2枚の平行な金属板の間に空気や誘電体が挿入されたコンデンサ(C)とインダクタ(L)とを直列に接続して構成されている。なお、Rは、インダクタやコンデンサ、配線、送信アンプ等に含まれる抵抗成分である。
【0015】
そして、このLCR共振回路において、トロイダルコアに導線が巻き付けられたインダクタを使用した場合、インダクタから発生する磁界が閉じこめられて、磁界の漏れを十分に抑制することができる。この結果、交流磁界信号の発生(磁気リンギング)を抑制できる。
【0016】
上記のようなLCR共振回路を備えた近傍電界プローブは、従来の電界プローブに比べて遙かに小型、軽量化が可能であり、前記したように、漏れ電界により発生した近傍電界により圧電性結晶を励振させる一方で、磁界の漏れを十分に抑制して圧電効果信号を検出することができるため、ハンディ型金属探知機のように手に持って衣服や鞄等の検査対象物に近づけるだけで、圧電性結晶の有無を検知することができる。
【0017】
即ち、請求項1に記載の発明は、互いに平行に配置された2枚の金属板の間に誘電体または空気が満たされたコンデンサと、トロイダルコアに導線が巻き付けられて構成されたインダクタとを直列に接続した所定の共振周波数を有する直列共振回路を備えており、前記直列共振回路に交流電圧を印加することで発生する前記コンデンサからの漏れ電界由来の近傍電界を圧電性結晶に送信し、前記圧電性結晶を励振すると共に、励振された前記圧電性結晶から発生する圧電効果信号を、前記コンデンサにより受信して、前記直列共振回路により前記圧電効果信号を検出するように構成されていることを特徴とする近傍電界プローブである。
【0018】
次に、本発明者は、検出感度をより向上させるため、漏れ電界の送信および圧電効果信号の検出において、より有利なコンデンサの構造について検討した。その結果、圧電性結晶に対向させる側の金属板の中心付近に開口部を設けた場合、プローブ中央直上の電界強度を強めることができ、検出感度をより向上させることができることを確認した。
【0019】
即ち、請求項2に記載の発明は、前記コンデンサを構成する2枚の金属板のうち、前記圧電性結晶に対向させる側の金属板の中央部分に開口部を設けていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブである。
【0020】
次に、本発明者は、この近傍電界プローブにおいて効率的な検出を可能とする直列共振回路(等価回路が同じとなる直列共振回路を含む)について検討した。その結果、異なる共振周波数を有する複数の直列共振回路を設けた場合、種類や粒子の大きさなどによって異なる共振周波数を有する圧電性結晶を、1個の近傍電界プローブで効率的に検出できることを確認した。
【0021】
即ち、請求項3に記載の発明は、前記直列共振回路が、異なる共振周波数を有する複数の直列共振回路から構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の近傍電界プローブである。
【0022】
そして、このような複数の直列共振回路を有する近傍電界プローブは、各々の共振周波数に対応する周波数の交流電圧を入力することにより、異なる共振周波数で容易に共振させることができる。
【0023】
即ち、請求項4に記載の発明は、前記複数の直列共振回路の各々が、各直列共振回路に対応する共振周波数の交流電圧が入力されることにより、共振するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の近傍電界プローブである。
【0024】
また、複数の直列共振回路から構成された直列共振回路を有する近傍電界プローブに、変調された交流電圧を入力することによっても、異なる共振周波数で容易に共振させることができる。
【0025】
即ち、請求項5に記載の発明は、前記複数の直列共振回路が、変調された交流電圧を入力することにより、共振するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の近傍電界プローブである。
【0026】
次に、本発明に係る近傍電界プローブは、基本的に電磁シールド外で使用されるが、このように電磁シールド外で近傍電界プローブを使用する場合、電波法第100条の規制対象となるため、30m離れた位置における電界強度を100μV/m以下に制限する必要がある。
【0027】
このため、本発明に係る近傍電界プローブは、遠方での電界強度を規制値以下に抑制する一方、近傍での電界強度は可能なかぎり強くすることが望ましい。
【0028】
本発明者は、検討の結果、同じ形状、同じ大きさの2つのコンデンサを極性が互いに逆になるように並列して配置されたグラジオ構造型の近傍電界プローブを用いた場合、近傍では十分な電界強度を確保する一方、遠方での電界を打ち消せることを確認した。
【0029】
即ち、請求項6に記載の発明は、同じ形状および大きさのコンデンサが並列して2つ配置され、それぞれのコンデンサには、同じ形状および大きさの前記インダクタが接続されており、前記コンデンサのそれぞれが、互いに、極性が逆になるように接続されて、グラジオ構造型に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブである。
【0030】
近傍電界プローブは電磁シールド環境下で使用される場合もある。この場合、外部からのノイズは電磁シールド環境により低減されるが、その一方、受信回路からのノイズは低減されないため、受信回路からのノイズが支配的となって受信感度の低下を招く恐れがある。
【0031】
そこで、本発明者は、受信時、受信回路におけるノイズの増幅度を小さくする一方、近傍電界プローブに受信した圧電効果信号の増幅度は大きく保つように、直列共振回路を構成させることで、受信感度の低下を招かないことを確認した。
【0032】
即ち、請求項7に記載の発明は、前記直列共振回路に、受信回路におけるノイズの増幅度を小さくする一方、近傍電界プローブに受信した圧電効果信号の増幅度を大きく保つことができるように構成された増幅度変更回路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブである。
【0033】
また、本発明者は、送信信号の終了後近傍電界プローブに発生する過渡現象を低減させるように、直列共振回路を設けることで、受信感度を向上できることを確認した。
【0034】
即ち、請求項8に記載の発明は、前記直列共振回路に、送信信号の終了後近傍電界プローブに発生する過渡現象の立ち下がり時間を短縮させるように構成された送信用アンプ回路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の近傍電界プローブである。
【0035】
なお、上記した増幅度変更回路や送信用アンプ回路は、他の共振回路からなるプローブ、特に近傍電界プローブにも適用して、同様の効果を得ることができる。
【0036】
上記の近傍電界プローブは、以下に示す近傍電界プローブの制御システムにより制御される。
【0037】
即ち、請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の近傍電界プローブを制御する近傍電界プローブの制御システムであって、所定の共振周波数を有する前記直列共振回路に交流電圧を印加することで、発生する前記コンデンサの漏れ電界に由来する近傍電界を、前記近傍電界プローブから送信して、前記圧電性結晶を励振させる一方、励振された前記圧電性結晶から発生する圧電効果信号を、前記コンデンサにより受信して、前記直列共振回路により前記圧電性結晶の有無あるいは性質を検出することを特徴とする近傍電界プローブの制御システムである。
【0038】
上記の近傍電界プローブの制御システムは小型かつ軽量なシステムとして収納することができる。そして、漏れ電界に由来する近傍電界により圧電性結晶を十分に励振させることができるため、圧電効果信号を十分な検出感度で得ることができる。
【0039】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の近傍電界プローブおよび請求項9に記載の近傍電界プローブの制御システムを備え、圧電性結晶の有無あるいは性質を探知することを特徴とする圧電性結晶探知装置である。
【0040】
小型かつ軽量に構成された近傍電界プローブと、近傍電界プローブの制御システムを備えた圧電性結晶探知装置であるため、持ち運びが容易で、精度の高い計測を短時間で行うことができる可搬型の圧電性結晶探知装置を提供することができる。
【0041】
また、請求項11に記載の発明は、不正薬物探知装置であることを特徴とする請求項10に記載の圧電性結晶探知装置である。
【0042】
前記のように、本発明に係る近傍電界プローブは、ハンディ型金属探知機のように手に持って対象物にかざすことにより圧電効果信号を十分な検出感度で得ることができるため、コカインや覚醒剤などの圧電性結晶からなる不正薬物を効率よく検知することができる。
【0043】
また、請求項12に記載の発明は、非接触鍵システムに用いられることを特徴とする請求項10に記載の圧電性結晶探知装置である。
【0044】
圧電性結晶が埋め込まれた圧電性結晶鍵を圧電性結晶探知装置にかざすことにより解錠できる非接触鍵システムを構築することにより、高いセキュリティー性能を提供することができる。
【0045】
また、請求項13に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の近傍電界プローブが、平行に配設された平板電極の間に複数配置されていることを特徴とする圧電性結晶探知装置である。
【0046】
本発明者は、さらに、広範囲に分布している圧電性結晶であっても、高い感度で圧電効果信号を受信して、効率よく圧電性結晶を検出、探知することができる圧電性結晶探知装置について検討を行った。
【0047】
このような広範囲に分布している圧電性結晶を検出する圧電性結晶探知装置として、従来より、互いに平行となるように配設された平板電極(平行平板電極)を用いて送受信を行う圧電性結晶探知装置があったが、未だ、十分高い感度で圧電効果信号を受信することが難しかった。
【0048】
本発明者は、この平行平板電極の間に本発明に係る近傍電界プローブを複数配置し、平行平板電極を送信用、複数配置された近傍電界プローブの各々を受信用とした場合、広範囲に分布した圧電性結晶を効率よく検出、探知できることを見出した。
【0049】
即ち、このような平行平板電極から電界を送信した場合、広範囲に電界を生成することができるため、広範囲に分布した圧電性結晶であっても、十分に励起させて圧電効果信号を発生させることができる。そして、この圧電効果信号を本発明に係る近傍電界プローブの複数で受信することにより、平行平板電極で受信する場合に比べて、高い感度で圧電効果信号を受信して、効率よく圧電性結晶を検出、探知することができることが分かった。
【0050】
また、平行平板電極で受信する場合には圧電性結晶を水平方向に移動させて平行平板電極との距離を変化させても受信感度は殆ど変化しないが、近傍電界プローブで受信する場合には圧電性結晶を垂直方向に移動させて平行平板電極との距離を変化させると、受信感度が変化し、近傍電界プローブと近い位置では受信感度が向上して、より効率よく圧電性結晶を検出、探知することができることが分かった。
【0051】
そして、上記のような構成の圧電性結晶探知装置は、複数の近傍電界プローブそれぞれに受信回路を接続し、平行平板電極に送信回路を接続して構成させることができ、これらの受信回路や送信回路は安価であるため、低コストで圧電性結晶探知装置を提供することができる。
【0052】
なお、これらの受信回路や送信回路は、個別に設けても、統合して設けてもよく、さらには全体を統合して1つの送受信回路として構成させてもよい。各回路を個別に設けた場合にはより感度の高い検出が可能な圧電性結晶探知装置を提供することができ、一方、統合して設けた場合にはよりコンパクトな圧電性結晶探知装置を提供することができる。
【0053】
また、近傍電界プローブと接続される回路として送受信回路を用いると、近傍電界プローブから送信される電界も相俟って、電界がより広い範囲により強い強度で広がるため、より広い範囲の圧電結晶を十分に励起させて、より高感度で効率よく圧電効果信号を受信することができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、小型かつ軽量でありながら、圧電性結晶に交流電界を印加して励振させることができ、なおかつ圧電効果信号を十分な感度で検出することもできるような送受信機能を有する電界プローブと、その制御システムおよび圧電性結晶探知装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明を、実施の形態に基づき図面を用いて具体的に説明する。
【0057】
1.近傍電界プローブ
はじめに、近傍電界プローブについて説明する。
【0058】
(1)単一周波数タイプ
図1は本発明の単一周波数タイプの近傍電界プローブの構成を示しており、(a)は概略図(右図:上面図、左図:断面図)であり、(b)は(a)に示したコンデンサ11の構成を模式的に示す断面図である。
【0059】
図1(a)に示すように、単一周波数タイプの近傍電界プローブ1は、1個のコンデンサ11と1個のインダクタ12を用いたLCR共振回路を備えている。コンデンサ11とインダクタ12とは直列に接続され、同軸ケーブル13により送受信回路に接続されており、インダクタ12の一端はグラウンドに接続され、基準電位に保たれている。
【0060】
a.コンデンサ
コンデンサ11には、電界の形成に好適な平行平板型のコンデンサが用いられる。具体的には、一定間隔に離して固定された2枚の金属板の間に空気や誘電体(テフロン(登録商標)などのポリテトラフルオロエチレン、ガラスエポキシ樹脂等)が挿入されて構成されている。そして、金属板間の距離や面積、誘電体の種類を適宜変更することにより、コンデンサの容量(C)を調節することができる。
【0061】
なお、
図1(b)に示すコンデンサ11においては、111aおよび111bは銅箔製の金属板、112はポリテトラフルオロエチレンの誘電体、113はプラスチック製の保護板が使用されている。保護板113側を検査対象物と対向させることにより、コンデンサ11の漏れ電界に由来する近傍電界が、測定の対象となる圧電性結晶に送信される。また、送信停止後は、圧電性結晶からの圧電効果信号が検出される。このような構成のコンデンサ11としては、例えば、ポリフロン社製の高周波用基板(商品名:カフロン)などを用いて作製することができる。
【0062】
上記のコンデンサ11においては、金属板111aの中央部分に開口部111cが設けられている。このように、圧電性結晶に対向させる側の金属板111aの中央部分に開口部111cが設けられていることにより、プローブ中央直上の電界強度を強めることができると共に、検出感度もより向上させることができる。なお、金属板111aの大きさや形状は特に限定されないが、例えば矩形の場合には80×80mm程度であることが好ましい。そして、このような金属板111aに設けられた開口部111cの大きさや形状についても特に限定されないが、前記の大きさの金属板111aであれば、10×10mm程度の大きさの矩形に形成することが好ましい。
【0063】
なお、コンデンサ11に、容量の大きさが可変なバリアブルコンデンサを並列に接続することもでき、この場合には、1つの近傍電界プローブ1で共振周波数を適宜調整することができるため、適用範囲が広がり好ましい。
【0064】
b.インダクタ
インダクタ12は、トロイダルコアに導線が巻き付けられて構成されている。導線の巻き付け方を調整することにより、所望するインダクタンス(L)を有するインダクタ12を形成することができる。
【0065】
トロイダルコアを用いることにより、インダクタ12から発生する磁界を閉じ込めて、磁界の漏れを十分に抑制することができるため、測定に際して不要な信号となる交流磁界信号の生成(磁気リンギング)を抑制し、高い感度で圧電効果信号を検出することができる。
【0066】
c.共振周波数
上記のように構成された近傍電界プローブ1は、交流電界の送信および圧電効果信号の受信の両方が可能であり、インダクタンス(L)、容量(C)、抵抗(R)に基づいて、対象とする圧電性結晶に対応した共振周波数に設定される。例えば、インダクタンスL=80.8μH、容量C=167pF、R=6.8Ωの場合には、共振周波数は1.37MHzに設定される。なお、対象の圧電性結晶の共振周波数は、形状および圧電性結晶の種類によって異なり、同じ種類の圧電性結晶であっても、結晶粒子の大きさなどによっても異なる。具体的には、数センチメートル程度の大きな粒子の場合はkHz帯、数ミリ程度の小さな粒子の場合はMHz帯に共振周波数を持つ。
【0067】
(2)複数周波数タイプ
次に、複数周波数タイプの近傍電界プローブについて説明する。複数周波数タイプの近傍電界プローブは、前記の平行板型コンデンサが2つ以上用いられ、それぞれのコンデンサに、トロイダルコアを用いたインダクタが別々に付けられている。
図2に、2つの共振周波数を持つ近傍電界プローブの概略(右図:上面図、左図:断面図)を示す。
【0068】
例として、2つの異なる共振周波数を有する近傍電界プローブ2は、コンデンサ21aとインダクタ22a、コンデンサ21bとインダクタ22bを組み合わせて構成され、共振周波数が異なる2つの共振回路が形成されており、それぞれの共振回路が同軸ケーブル23a、23bにより送受信回路に接続されている。なお、共振周波数は、用途に応じて適宜適切な周波数に設定される。なお、
図2において、24は銅箔製の金属板、25はポリテトラフルオロエチレンの誘電体である。
【0069】
異なる共振周波数を有する複数の直列共振回路を設けることにより、前記のように、種類や粒子の大きさなどによって異なる共振周波数を有する複数の圧電性結晶を、1個の近傍電界プローブで効率的に検出することができる。
【0070】
(3)グラジオ構造型
次に、グラジオ構造型近傍電界プローブについて説明する。
図3にグラジオ構造型近傍電界プローブの概略(右図:上面図、左図:断面図)を示す。グラジオ構造型近傍電界プローブ4は、同じ形状、大きさのコンデンサ41aと41bが並列に並べられて、極性が互いに逆になるように接続されている。具体的には、等しい2つの平行平板型のコンデンサを平面上に並べ、各コンデンサ表裏への接続関係が互いに逆になるように接続されて、グラジオ構造が構成されている。なお、
図3において、43は同軸ケーブル、44は銅箔製の金属板、45はポリテトラフルオロエチレンの誘電体である。
【0071】
極性が互いに逆となるように接続することにより、並列に並んだ2つのコンデンサ41aと41bからの漏れ近傍電界は互いに反対の向きとなり、遠方では電界が打ち消されるため、遠方での電界強度を規制値以下に減衰させる一方で、近傍での電界強度を可能なかぎり減衰させないようにした近傍電界プローブを、電波法の規制範囲内で提供することができる。
【0072】
このとき、インダクタ42a、コンデンサ41a、コンデンサ41b、インダクタ42bの順番に接続することにより、コンデンサの両電極が、前記した単一周波数タイプの場合と同様に、グラウンドに対して電圧が振動し、共振させることができる。
【0073】
2.制御システム
次に、近傍電界プローブを制御する制御システムの基本的な構成について説明する。
【0074】
(1)単一数周波数制御回路
図4は単一周波数タイプの近傍電界プローブとその制御システムの構成の一例を示す回路図であり、近傍電界プローブと制御システムの回路(制御回路)により圧電性結晶探知装置が構成されている。
【0075】
制御回路は、例えば、市販のFPGA開発ボードを用い、パルス発生回路、信号処理回路、信号取得回路をFPGA内部に構成することにより作製することができる。
【0076】
図4に示すように、FPGAのデジタル入出力端子から送信信号を出力し、送信アンプで増幅した後、低周波通過フィルタおよびクロスダイオードを介して近傍電界プローブへ供給する。この時、近傍電界プローブ、クロスダイオード、送信アンプは、直列共振回路を構成している。
【0077】
共振回路による電圧増幅に伴って、コンデンサの両端間の電圧が送信アンプの出力電圧のQ(10〜150)倍となるため、近傍電界の出力強度をより高めることができる。
【0078】
また、受信時は、帯域通過フィルタを設けて、近傍電界プローブの共振周波数付近の交流電界を受信することで、帯域外の周波数成分を持つ外部ノイズを低減させることができる。
【0079】
ここで、送信時における電圧増幅率を高くするため、送信アンプにはアンプ内での消費電力が少なく、低インピーダンス出力が可能なD級アンプ回路を用いることが好ましい。そして、これに合わせて、
図4に示す通り送信アンプの直後には低周波通過フィルタを配置し、ケーブルを含む近傍電界プローブからの励振周波数の高調波成分の電波の漏洩を防ぐことが好ましい。
【0080】
次に、
図4のクロスダイオードを直列共振回路の低周波通過フィルタの直後に配置することにより、送信パルスの送信後に近傍電界プローブで起きる過渡現象を低減させることができる。即ち、送信後に近傍電界プローブに加わっている電圧が減衰して、ダイオードの順方向しきい値電圧に近づくにつれ、ダイオードの抵抗成分が、印加電圧に応じて非線形に変化して、急激に増加するため、共振回路に蓄えられたエネルギーがダイオードの抵抗で効率よく消費されることになり、過渡現象を低減できる。また、受信時に、低インピーダンスの送信アンプを切り離し、受信アンプを含む共振回路に構成を変化させるためにも、クロスダイオードを配置することが必要である。
【0081】
また、送信アンプからの出力を受信側に伝えないようにするために、半導体リレイや、リードリレイからなる送受信の切替スイッチを用いてもよい。受信アンプの直前に配置されたクロスダイオードは、受信アンプに大きな電圧が加わった時に、信号をクランプするために挿入されている。
【0082】
受信アンプは、50〜100dB程度の増幅率を有するものを用いる。そして、その後のノイズの低減や、ADCのエイリアシングを防ぐ目的で、帯域通過フィルタもしくは低域通過フィルタを用いる。
【0083】
ADCの出力は、デジタル入出力端子からFPGAに伝わり、内部で圧電効果信号を積算する回路や周波数スペクトルを計算するためのFFT回路に繋がっている。
【0084】
ADCに、パラレル型の高速ADC(10〜100MHz)を使用する場合は、FPGA内部で、ADCの出力信号に対して位相検波を行い、90度位相が異なる2つの成分に分解し、計測する。
【0085】
また、低速のシリアル型のADC(1〜3MHz)を用いる場合は、サンプリング周波数を励振周波数の4/(奇数)倍に合わせることで、バンドパスサンプリング法により、90度位相が異なる2つの成分に分解することができる。
【0086】
送信周波数、パルス幅、繰り返し時間、データ受信時間は、USBを介して、PC上に構築したソフトウエアから制御をすることが可能である。また、予め、送信周波数、パルス幅、繰り返し時間、データ受信時間等の情報をFPGA上に初期値として設定することにより、PCフリーで、システムを制御することもできる。
【0087】
(2)複数周波数用の制御回路
図5〜
図7は、それぞれ、複数周波数タイプの近傍電界プローブとその制御システムの構成の一例を示す回路図であり、複数の周波数の励振パルス信号を同時に送信する必要があるため、複数の送信アンプを備えている点が
図4に示した単一周波数用の制御回路と異なる。
【0088】
このとき、送信する周波数が近い場合、即ち複数の周波数が帯域通過フィルタの帯域幅内にある場合は、
図5に示すように、受信アンプの直後に配置された一つの帯域通過フィルタおよびADCを用いて、圧電効果信号の受信を行える。
【0089】
一方、送信する周波数が大きく離れている場合は、即ち、複数の周波数が帯域通過フィルタの帯域幅外にある場合は、
図6に示すように、それぞれに適した異なる中心周波数をもつ複数の帯域通過フィルタを受信アンプの直後に配置して、別々のADCでそれぞれの圧電効果信号を受信する。
【0090】
また、
図7に示すように、送信アンプの後に配置されている低域通過フィルタの代わりに帯域通過フィルタを用いる場合には、近傍電界プローブと送受信回路を繋ぐ同軸ケーブルを一つにまとめることが可能である。
【0091】
(3)高感度受信用制御回路
近傍電界プローブを電磁界シールド環境で使用した場合、外部からのノイズが低減するため、受信回路からのノイズを小さくすることで、圧電効果信号の受信感度を高めることができる。しかしながら、直列共振回路に直列に受信アンプを入れた場合、受信アンプ由来のノイズが近傍電界プローブに含まれる抵抗から生じる熱雑音に対して支配的になる問題がある。
【0092】
この問題を解決するためには、
図8に示すような送信時と受信時で共振回路の構成を変更した高感度受信用制御回路を用いることが好ましい。
【0093】
図8は、高感度受信タイプの近傍電界プローブとその制御システムの構成の一例を示す回路図である。
図8に示すように、近傍電界プローブは、並列に接続されたコンデンサC1とコンデンサC2の一方の端子が共に1つのインダクタに接続された直列共振回路を有している。そして、送信アンプが第1クロスダイオードを介してコンデンサC1の他方の端子に接続されていると共に、第2クロスダイオードを介してコンデンサC2の他方の端子に接続されている。
【0094】
また、第1クロスダイオードとコンデンサC1の他方の端子とが、第1送受信切り替えスイッチ(T/R1)の一方の端子に接続されており、第2クロスダイオードとコンデンサC2の他方の端子とが、第2送受信切り替えスイッチ(T/R2)の一方の端子に接続されており、第1送受信切り替えスイッチ(T/R1)の他方の端子がグラウンドに接続されている。
【0095】
また、受信アンプが、第2送受信切り替えスイッチ(T/R2)の他方の端子に接続され、第2送受信切り替えスイッチ(T/R2)の他方の端子が第3クロスダイオードを介してグラウンドに接続されている。
【0096】
送信時には、第1クロスダイオードおよび第2クロスダイオードを導通させて送信アンプをコンデンサC1の他方の端子およびコンデンサC2の他方の端子に接続すると共に第1送受信切り替えスイッチ(T/R1)および第2送受信切り替えスイッチ(T/R2)を遮断させて前記受信アンプを切り離す。
【0097】
受信時には、第1クロスダイオードおよび第2クロスダイオードにより送信アンプを切り離すと共に、第1送受信切り替えスイッチ(T/R1)および第2送受信切り替えスイッチ(T/R2)を導通させることにより、受信アンプをコンデンサC2の他方の端子に接続する。
【0098】
このように、送信時には第1クロスダイオードおよび第2クロスダイオードを導通させて送信アンプを近傍電界プローブに直列に接続すると共に第1送受信切り替えスイッチ(T/R1)および第2送受信切り替えスイッチ(T/R2)を遮断させて受信アンプを切り離す。一方、受信時には第1クロスダイオードおよび第2クロスダイオードにより送信アンプを切り離すと共に、第1送受信切り替えスイッチ(T/R1)および第2送受信切り替えスイッチ(T/R2)を導通させ、受信アンプを近傍電界プローブに対して直列に接続する。
【0099】
制御回路を上記の構成とすることにより、送信時、アンプのノイズ源と、近傍電界プローブのノイズ源は、共にコンデンサC2、C1に直列に繋がるため、ノイズの増幅度はアンプと近傍電界プローブとで同じになる。一方、受信時には、受信アンプからのノイズ源は、コンデンサC2に直列に入り、近傍電界プローブからのノイズ源は、コンデンサC2、C1の両方に直列に繋がる。これにより、受信アンプで生成されるノイズの増幅度と、近傍電界プローブから生成される信号の増幅度を変化させることができ、最適な値をとることにより、受信感度を向上することができる。
【0100】
(4)パルスシーケンス
a.単一周波数パルスシーケンス
前記したように、圧電性結晶からの圧電効果信号を発生させるには、それぞれの結晶に固有の機械的な共振周波数に対応した交流電界を印加する必要がある。ただし、圧電効果信号は、励振用交流電界に比べ、非常に微弱である。
【0101】
そこで、計測に際しては、送信と受信を交互に行い、受信時には、交流電界の送信を止める。その後、減衰しながら振動している結晶から発生する圧電効果信号を受信する。減衰時間は、通常1ms程度以下である。そして、ある程度圧電効果信号が減衰すると、
図9に示すように再び送信用の交流電界を印加して、圧電性結晶を励振させ、圧電効果信号を受信することを繰り返す。
【0102】
このとき、送信交流電界の位相を毎回リセットし、常に同じ位相で送信を行うと、受信信号の位相が同じとなるため、微弱な圧電効果信号の積算が可能となる。積算回数は任意に設定することができるが、積算回数を多くすると、結果表示までのサイクルが遅くなるため、積算のトータルの時間は数百ms程度に設定することが好ましい。
【0103】
本発明においては、リアルタイムに圧電性結晶を検出することを目的とするため、積算された受信信号に対して、周波数解析を行い、圧電効果信号の有無を検定する。積算後は受信信号をリセットし、再度積算を行う。また、次の積算を行っている間に、前回の積算データの処理を並行して行うことにより、データ処理、検定による測定時間のデッドタイムを無くすことができる。
【0104】
b.複数周波数用パルスシーケンス
共振周波数が異なる複数の圧電性結晶を同時に励振させるには、前記のように、複数の周波数成分を含む交流電界を同時に送信する必要がある。このような場合には、
図10に示すようなシ−ケンスにより、複数の周波数成分を含む交流電界の送信時間、送信間隔を同じにすることで、交流電界の送信後に、周波数が異なる圧電効果信号を受信する。さらに、周波数が異なる交流電界を送信する際に、それぞれの位相を毎回リセットすることにより、同時取得した各々の圧電効果信号に対して積算を行うことができる。
【0105】
c.周波数変調パルスシーケンス
共振周波数が異なる複数の圧電性結晶を同時に励振させるためには、
図11に示すようなシ−ケンスにより、送信信号の周波数を変調させてもよく、この場合も、送信信号は、毎回位相をリセットすることにより、圧電効果信号の積算を行うことができる。ただし、周波数変調幅は、プローブの帯域内にすることが望ましい。
【0106】
(5)送信アンプ
共振回路に正弦バースト波(連続正弦波の強度をパルス変調した波)を入力した場合、共振回路の電圧、電流は共振回路のQ特性により、時定数t=Q/(πf)(但し、fは被変調波の周波数)の立ち上がり、立ち下がりの遅延が発生するため、圧電性物質から発生する微弱な信号が、立ち下がり時の送信信号に隠れて、検出の開始時間が遅れることがある。このように検出の開始時間が遅れると、圧電効果信号は指数関数的に時間と共に減衰するため、圧電効果信号の受信感度の劣化を招いてしまう。
【0107】
そこで、
図12に示すような送信用の改良型D級アンプを用いて、上記の立ち下がり時間の短縮を図る。
【0108】
図12に示すように、この送信用の改良型D級アンプは、従来のハーフブリッジやフルブリッジ型のD級アンプと同様に、ハイサイド側およびローサイド側のそれぞれにMOSFETを備えているが、従来のように、ハイサイド側のMOSFETのソース端子とローサイド側のMOSFETのドレイン端子とを直接繋ぐのではなく、その間に2つのダイオードD3およびD4を配置している。
【0109】
これにより、MOSFETによりスイッチングされる電流の向きを一方向にすることができるため、制御信号がローレベル信号となった時に、出力に繋がっている直列共振回路の電流を一方向に制御することができ、共振を数サイクルで終了させて、立ち下がり時間を低減できる。
【0110】
なお、
図12ではハーフブリッジ型構成の改良型D級アンプを示したが、フルブリッジ型構成のD級アンプも同様に構成することができる。
【0111】
図13に、前記の改良型D級アンプを用いた近傍電界プローブに発生する電圧波形、即ち、共振回路に生成した送信正弦バースト波の電圧波形を、従来のD級アンプを用いた場合と並べて示す。なお、
図13において、縦軸は直列共振回路の電圧であり、横軸は時間(μs)である。
図13より、このD級アンプを用いることにより、交流電界の立ち下がり時間が短縮されていることが分かる。
【0112】
3.圧電性結晶探知装置
次に、上記の近傍電界プローブおよび制御システムを備えた圧電性結晶探知装置について説明する。
図14は本実施の形態に係る圧電性結晶探知装置の構成を示すブロック図であり、
図15は本実施の形態に係る圧電性結晶探知装置の斜視図である。
【0113】
図14に示すように、本実施の形態の圧電性結晶探知装置は、送信パワーアンプ、パルス送受信機、受信低ノイズアンプ、送受信切り替え回路から構成される制御回路と、近傍電界プローブとを備えている。
【0114】
具体的には、
図15に示すように、上記の制御回路が収容された制御システム72に、上記の近傍電界プローブ71と、計測結果をディスプレイ上に表示するパーソナルコンピュータ73が接続されて、圧電性結晶探知装置7が構成されている。Sは圧電性結晶の有無を検査する検査対象物を示す。
【0115】
なお、計測結果は必ずしもディスプレイ上に表示する必要はなく、例えば音、光によるアラームを用いて警告を発するようにしてもよい。
【0116】
本実施の形態に係る圧電性結晶探知装置7は、検査対象Sの近傍に小さな近傍電界プローブ71をかざすだけで、圧電効果信号を十分な強度で受信して、高い精度で検査を行うことができる。また、制御システム72も小型化できるため、圧電性結晶探知装置7の全体を十分に小型、軽量化することができる。
【0117】
なお、上記の圧電性結晶探知装置を用いて検査を行う際、人体や大きな金属などの導電体が近くにあると、共振周波数の変化を招いて、圧電効果に由来しない外部ノイズが発生して、圧電性結晶の検出が困難となる場合がある。
【0118】
そこで、予め、この共振周波数の変化を検知しておくことにより、検査精度の低下を抑制することが好ましい。
【0119】
4.圧電性結晶探知装置の用途
次に、本実施の形態に係る圧電性結晶探知装置の具体的な用途について説明する。
【0120】
(1)不正薬物の圧電性結晶の探知
本発明者等は覚醒剤などの不正薬物の探知に対して検出効率の良い周波数帯域を見つけており、ハンディタイプの近傍電界プローブを対象物にかざすだけで、圧電効果信号を十分な検出感度で得ることができるため、本実施の形態の圧電性結晶探知装置を不正薬物探知装置として用いることにより、覚醒剤などの不正薬物の探知に特に威力を発揮することが期待される。
【0121】
また、適宜周波数帯域を変化させることにより、不正薬物以外の圧電性結晶の探知にも有効に使用することができる。
【0122】
(2)非接触鍵システム
圧電性結晶が埋め込まれた物体を鍵とし、これを圧電性結晶探知装置にかざして、鍵と圧電性結晶探知装置との間で送受信を行うことにより認証・解錠できる非接触鍵システムは、高いセキュリティー性能を有しているため、非接触鍵システムとして好ましい。
【0123】
5.近傍電界プローブの周りの電界強度
次に、本実施の形態において近傍電界プローブの周りに発生する電界強度について説明する。
図16に、単一周波数用近傍電界プローブ(A)、金属板の上面中央部に開口部を設けた単一周波数用近傍電界プローブ(B)、グラジオ構造型近傍電界プローブ(C)の周りに発生する電界強度を示す。なお、
図16は、各近傍電界プローブに用いられている平行板コンデンサに瞬時振幅で1000Vの高周波が印加された場合を仮定し、EMSS社製3次元電磁界解析シミュレータ(FEKO)を用いて計算した結果で、中央の水平な2本の平行な線がコンデンサを表している。
【0124】
図16より、近傍電界プローブの周りに電界が生成されていることが分かる。そして、金属板の上面中央部に開口部を設けた単一周波数用近傍電界プローブでは、特に、金属板の上面中央部上方で電界強度が高くなっていることが分かる。また、グラジオ構造型近傍電界プローブでは、近傍では十分な電界強度が維持されている一方で、コンデンサから遠い位置では電界強度が小さくなっていることが分かる。
【0125】
6.近傍電界プローブからの送信波形
次に、近傍電界プローブから送信される波形について説明する。送信アンプ入力信号を送信アンプに入力し、その出力電圧を近傍電界プローブに印加することにより、近傍電界プローブから交流電界が生成される。
【0126】
(1)単一周波数タイプ
図17に、単一周波数タイプの近傍電界プローブを用いて、1.35MHzの交流電界信号が送信電界信号として送信された場合の送信波形を示す。なお、この波形は、近傍電界プローブの近傍に設置された別の電界プローブにより受信して得られた励振用送信パルス(正弦バースト波)の波形である。
【0127】
図17より、プローブのQ(クオリティーファクタ)特性により、立ち上がりや立ち下がりがなだらかになっていることが分かる。このとき、近傍電界プローブへの入力電圧のQ倍の電圧が、平行平板型のコンデンサに加わるため、共振させることにより、効率よく電界を生成することができる。
【0128】
(2)複数周波数タイプ
図18に、複数周波数タイプの近傍電界プローブを用いて、2つの異なる周波数(1.35MHzおよび1.37MHz)の交流電界信号を送信電界信号として同時送信した場合の送信波形を示す。
【0129】
図18より、同時送信することにより、それぞれを単体で送信した場合の波形が足し合わされて送信されていることが分かる。
【0130】
前記したように、複数周波数タイプの近傍電界プローブには、送信アンプ入力信号として、周波数を線形に変調した正弦バースト波の信号を用いることもできる。
図19に、1.35MHzの単周波数送信波に、中心周波数1.35MHzの変調周波数送信波を同時送信した場合の送信波形を示す。
【0131】
図19より、共振周波数では電圧増幅率が高いため、発生する電界強度が最大となることが分かる。一方、送信波の周波数を共振周波数に固定した場合には、電圧増幅率は一定となることが分かる。
【0132】
(3)グラジオ構造プローブからの送信
前記したように、電磁シールド外で近傍電界プローブを使用する場合には、30m離れた位置における電界強度が100μV/m以下にする必要がある。
【0133】
図20に、グラジオ構造型近傍電界プローブまたは1組の平行平板からなる近傍電界プローブ(ノーマル型近傍電界プローブ)から生成される電界強度(但し、送信アンプからの送信電圧は18Vに固定した)を、近傍電界プローブからの距離を変化させて計測した結果を示す。なお、
図20において、縦軸は電界強度、横軸は近傍電界プローブからの距離である。
【0134】
図20より、グラジオ構造型近傍電界プローブの場合、近傍電界プローブの遠方(距離50cm以上)では、10〜50分の1程度まで電界強度が減衰していることが分かる。
【0135】
7.近傍電界プローブからの受信
次に、圧電効果信号である近傍電界プローブからの受信について説明する。
【0136】
(1)圧電性結晶と共振周波数について
圧電性結晶を検知するには、検知すべき結晶サイズと印加する交流電界の周波数の凡その関係を事前に調べておく必要がある。
図21に、人工水晶を用いて、幅を変化させた場合における圧電効果信号の周波数(共振周波数)の変化を計測した結果を示す。なお、
図21において、横軸には幅の逆数を取っている。
【0137】
図21より、共振周波数は、結晶の幅に反比例(幅の逆数に比例)していることが分かる。
【0138】
通常の検知対象はさまざまな大きさの圧電性結晶が存在することが想定されるが、印加している交流電界の周波数と同じ共振周波数を有する結晶のみから、圧電効果信号が返ってくる。
図22〜
図24に、粒径5mm以下のロッシェル塩結晶の多数粒子に対して、圧電効果信号を計測した結果を示す。
図22、
図23は圧電効果信号の時間領域信号を示す図であり、それぞれ位相検波前、位相検波後の結果である。また、
図24は圧電効果信号の周波数領域の信号を示す図である。
【0139】
図22〜
図24より、複数の粒径の圧電性結晶が存在する場合、複数の周波数成分を含む圧電効果信号が計測されることが分かる。
【0140】
(2)複数周波数を用いた励振による受信
図2に示した2つの共振周波数を持つ近傍電界プローブを、2つの異なる共振周波数で共振するロッシェル塩結晶に近づけたときに、近傍電界プローブが受信する圧電効果信号の周波数スペクトルを計測した結果を
図25に示す。
【0141】
図25より、別々に送信したときに得られる2つの圧電効果信号が同時に受信されており、2つの異なる周波数を同時送信することにより、2つの結晶から圧電効果信号を受信できることが分かる。
【0142】
また、共振周波数が異なる複数(2つ以上)の結晶をこの近傍電界プローブに近づけた場合には、
図26に示すように、共振周波数が微妙に異なる圧電性結晶を同時に検出できることが分かる。
【0143】
(3)周波数変調した正弦バースト波を用いた励振による受信
周波数を変調することで、圧電性結晶を励振できる周波数帯域を増やすことができる。変調が無い場合とある場合について、
図1に示す近傍電界プローブを用いて複数のロッシェル塩結晶(粒径1〜5mm)からの圧電効果信号を受信し、その強度を計測した結果を、
図27に示す。
【0144】
図27より、変調がある場合には励起中に周波数が変動するため、固定の周波数送信の場合に比べて、バースト時間を一定にすると特定の周波数での励振時間が小さくなり、信号強度が低下している。しかし、その一方で、励振できる帯域は変調により増加しているため、より多くの結晶を検出することができる。
【0145】
(4)グラジオ構造型近傍電界プローブからの受信
前記した通り、グラジオ構造により、遠方での電界強度を、グラジオ構造で無い場合と比べて10〜50分の1程度に減衰できるが、近傍電界でも減衰することが、電磁界シミュレータ等より判明している。
【0146】
そこで、圧電性結晶の複数の粒径のロッシェル塩結晶を用いて、グラジオ構造の有無による受信強度の比較を行った。結果を
図28に示す。
【0147】
図28より、近傍電界プローブに供給する送信アンプの出力電圧を同じにした場合、2cm程度までは、プローブ構造に関係なく、ほぼ同じ検出感度を有しているが、5cm程度になると、グラジオ構造の場合には、検出感度が数分の1にまで劣化していることが分かる。しかし、遠方での送信電界強度は10〜50分の1程度にまで低減されることを踏まえると、5cm以内における受信強度の劣化は十分許容範囲とすることができる。また、グラジオ構造にすることにより、外来ノイズの受信を低減することができるため、信号対ノイズ比は、5cm以内においてグラジオ型構造のプローブの方が良い結果となった。
【0148】
(5)広範囲に分布している圧電性結晶からの受信
広範囲に分布している圧電性結晶を検出する場合には、
図29に示すような圧電性結晶探知装置を用いることにより圧電性結晶を効率よく検出して探知することができる。
【0149】
図29において、71は近傍電界プローブ、P1、P2は送信用平板電極である。そして、2枚の送信用平板電極P1、P2に接続された送信回路と複数の近傍電界プローブ71に接続された受信回路とが、1つの送受信回路に統合されている。なお、
図29においては、85cmの間隔で互いに平行に立てられた送信用平板電極P1、P2(縦60×横40cm)の間に、3つの近傍電界プローブ71が配置されている。そして、Sは検査対象となるサンプルであり、送信用平板電極P1、P2間に挿入される。
【0150】
送受信回路の送信回路から送信用平板電極P1、P2に送信信号を入力することにより送信用平板電極P1、P2間の広い範囲に電界が生成されて、検査対象Sの全体が励起される。この結果、広範囲の検査対象Sの全体を十分に励起させて圧電効果信号を発生させることができる。
【0151】
図30に、本実施の形態の圧電性結晶探知装置と、2枚の平行平板電極を用いて送受信を行う従来の圧電性結晶探知装置とを用い、10gのロッシェル塩を検査対象として、送信用平板電極の中央に高さを変えて置き、電極間電圧1.8kVで電界を印加したとき、平行平板電極または近傍電界プローブで受信された圧電効果信号を示す。
【0152】
図30において、縦軸はSNR(SN比:信号雑音比)であり、横軸は検査対象Sが配置された高さであり、
図30より、例えば、近傍電界プローブとの距離が10cm程度と近い場合、近傍電界プローブで受信した圧電効果信号(●)は平行平板型電極で受信した圧電効果信号(■)に比べて10倍程度大きくなっており、このような構成とすることにより、単に平行平板電極を用いて送受信を行う場合に比べて、受信感度が大きく上昇して、広範囲に分布した検査対象を効率よく検出できることが分かる。
【0153】
8.磁気リンギングの有無と圧電効果信号受信に対する影響
トロイダルコアを用いずに空芯のコイルからなるインダクタを用いて近傍電界プローブを作製した場合、コイルから生成される近傍磁界により、金属などから磁気リンギングが観測される場合がある。
【0154】
そこで、空芯コイルからなるインダクタを用いた場合の磁気リンギングと、トロイダルコアからなるインダクタを用いた場合の磁気リンギングを比較した。具体的には、磁気リンギングも特定の周波数で共振することにより長時間計測できるため、1.37MHzで磁気リンギングを起こす金属片を準備し、それぞれのインダクタで構成した近傍電界プローブに近づけることにより、磁気リンギングの計測を行った。
図31に結果を示す。
【0155】
図31より、空芯コイルからなるインダクタを用いた場合に比べて、トロイダルコアからなるインダクタを用いた場合には、磁気リンギングが抑圧されていることが分かる。
【0156】
次に、それぞれのインダクタで構成した近傍電界プローブを用いて、複数のロッシェエル塩結晶(〜5mm)からの圧電効果信号の受信を行った。結果を
図32に示す。
【0157】
図32より、いずれの近傍電界プローブにおいても、圧電効果信号が計測されていることが分かる。そのため、圧電性物質と金属片などからなるサンプルを検査した場合に、空芯コイルからなるインダクタを用いた場合では、圧電効果信号に磁気リンギング信号が含まれる可能性があるため、精度の高い検査を行うことができない。これに対して、トロイダルコアからなるインダクタを用いた場合には、磁気リンギングが抑圧されているため、精度の高い検査を行うことができる。
【0158】
9.導電体、誘電体の影響と検出
近傍電界プローブを用いた検査において、誘電体や導電体が近くにあると、近傍電界プローブで検知したい圧電効果信号とは別に、圧電効果に由来しない外部ノイズが大きくなる場合がある。それにより感度が低下し、圧電性結晶の検出が困難になることがある。このため、同じ近傍電界プローブを用いて、人体や大きな金属などの導電体を検出することができれば、検査装置の感度の低下を事前に知ることができ、圧電性結晶が検出されないという誤検査を防止することができる。
【0159】
具体的には、誘電体や導電体が本発明の近傍電界プローブの近傍にあると、僅かに共振周波数がずれたり、導体内での損失によりQ値が低下したりすることがある。この周波数のずれは、主に平行平板型のコンデンサの静電容量が変動することによるものである。本発明者の実験によれば、共振周波数がずれると、送信パルスの強度や波形が変化する。
【0160】
そこで、近傍電界プローブを用いて、このような性質を利用することにより、人体や大きな金属などの導電体を検出することができれば、圧電性結晶が検出されないという誤検査を防止することができる。
【0161】
図33に、別の近傍電界プローブで計測した場合における本発明の近傍電界プローブから発生する正弦バースト波の形状と(a)、本発明の近傍電界プローブの1mmの距離にまで手を近づけた場合における近傍電界プローブから発生する正弦バースト波の形状(b)を示す。
【0162】
図33より、近傍電界プローブに手を近づけることにより、送信パルスの強度や波形が変化することが分かり、このような変化を利用することにより、金属や人体等が近くにあるか否かを判定できることが分かる。例えば、励振用送信波終了直後に近傍電界プローブの残留電圧を計測することにより、励振用送信波の強度や、共振特性を推定することができる。
【0163】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。