【背景技術】
【0002】
携帯電子機器や電気自動車などのモータ駆動用電源の普及に伴い、高エネルギ密度や高出力といった電池特性を実現できる二次電池として、非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池の研究開発が進められている。リチウムイオン二次電池の正極材料に用いられる正極活物質には、層状またはスピネル構造を有するリチウム金属複合酸化物がある。このリチウム金属複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られ、かつ、高いエネルギ密度を有することから、その実用化が進められている。
【0003】
リチウム金属複合酸化物には、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
0.5Mn
0.5O
2)などがある。これらのうち、リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物などと同じく層状構造を有し、通常、遷移金属サイトにおいて、ニッケルとマンガンを1:1の割合で含んでおり、埋蔵量が少ないコバルトを使用せずとも、優れた熱安定性および高容量という電池特性を実現できる正極活物質として注目を集めている(「Chemistry Letters,Vol.30(2001),No.8」、P744参照)。
【0004】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池が、高いサイクル特性、低抵抗、および高出力といった電池特性を示すためには、正極活物質が比較的小粒径で、粒度分布が狭く、かつ、高い充填性を備えることが望ましい。このため、正極活物質またはその前駆体のモフォロジー(形態性)を改善し、その形状を球状に近づけるとともに、平均粒径や粒度分布を適切な範囲に制御することが検討されている。なお、モフォロジーとは、粒子の外形、平均粒径、粒度分布の広がり、一次粒子、タップ密度などの粒子の形態や構造に関わる特性を意味する。
【0005】
ここで、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法としては、ニッケル酸化物、マンガン酸化物、およびリチウム化合物の各粉末を湿式混合した後、噴霧乾燥することで造粒粉末としてから焼成する方法や、晶析反応により、ニッケルマンガン複合水酸化物を析出させた後、リチウム化合物と混合し、焼成する方法などが挙げられる。これらのうち、晶析反応を利用した方法は、その条件を適切に規制することで、ニッケルとマンガンを分子レベルで均一に分散させることができるばかりでなく、適度な粒径を有し、粒度分布が狭く、かつ、充填性に優れるニッケルマンガン複合水酸化物を得ることができる。また、一般に、リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、その前駆体の粒子性状を受け継ぐため、このようなニッケルマンガン複合水酸化物を前駆体とすることで、組成が均一であるばかりでなく、適度な粒径を有し、粒度分布が狭く、かつ、充填性に優れるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。
【0006】
特開2006−252865号公報、特開2008−266136号公報、国際公開WO2004/092073号公報などには、ニッケルコバルトマンガン塩水溶液と、アルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを反応槽に連続的にまたは間欠的に供給することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を晶析させる方法が記載されている。しかしながら、これらの文献に記載の方法では、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物のモフォロジーが低く、これを前駆体とする正極活物質の充填性を十分に向上させることはできない。
【0007】
一方、国際公開WO2013/125703号公報には、反応容器内で生成するニッケル複合水酸化物の二次粒子の体積平均粒径を、最終的に得られるニッケル複合水酸化物の二次粒子の体積平均粒径に対する比で、0.2〜0.6となるように制御しつつ、ニッケル複合水酸化物スラリーを得た後、スラリーの容量を一定に保持し、かつ、スラリーの液成分のみを連続的に除去しつつ、二次粒子が一定の大きさとなるまで晶析反応を継続する、ニッケル複合水酸化物の製造方法が記載されている。なお、この文献には、反応水溶液のニッケルアンミン錯体濃度を10mg/L〜1500mg/Lの範囲に規制することが好ましい旨が記載されている。このような製造方法によれば、粒径が適度に大きく、かつ、粒度分布が狭いニッケル複合水酸物を得ることができると考えられる。しかしながら、この文献に記載のニッケル複合酸化物は、主として、粒径の均一性を改善することを目的としたものである。このため、得られる複合水酸化物粒子の形状は略球状であるとされているものの、外観上の最小径と最大径の比(最小径/最大径)が0.6程度のものが許容されている。特に、マンガンを含有するニッケル複合水酸化物では、その形状が楕円形状のものも相当量含まれており、高いモフォロジーを備えたものとは言い難く、これを前駆体とする正極活物質の充填性を改善することはできない。
【0008】
ここで、球状の粉体のモフォロジー評価する指標として球形度がある。しかしながら、工業規模の製造を前提とする場合には、正極活物質またはニッケルマンガン複合水酸化物を3次元的に測定して球形度を算出し、評価することは現実的ではない。このため、より簡易的に、正極活物質またはニッケルマンガン複合水酸化物を2次元的に測定し、円形度を算出することによって、粉体のモフォロジーを評価することが一般的に行われている。
【0009】
たとえば、特開2008−77990号公報および特開2009−76383号公報には、Li
xNi
1-y-zCo
yMe
zO
2(ただし、0.85≦x≦1.25、0<y≦0.5、0≦z≦0.5、0<y+z≦0.75、元素Meは、Al、Mn、Ti、Mg、およびCaよりなる群から選択される少なくとも1種)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物の二次粒子からなる正極活物質についてではあるが、平均粒径と一致する円相当径を有する、任意の100個の粒子の円形度の平均値を0.88以上とすることが好ましい旨が記載されている。特開2008−77990号公報によれば、このような正極活物質は、不定形な塊状の二次粒子からなる正極活物質よりも高い熱安定性を備えるとされている。また、特開2009−76383号公報によれば、前駆体であるニッケルコバルト複合水酸化物を晶析反応により生成する際に、反応槽内の水溶液を激しく撹拌することで、0.88以上の円形度を有する正極活物質を合成できるとされている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、マンガンを含有する正極活物質の充填性を向上させるため、特開2008−77990号公報や特開2009−76383号公報に記載の技術に基づき、正極活物質およびその前駆体であるニッケルマンガン複合水酸化物粒子の円形度を改善することを試みた。しかしながら、これらの文献に記載の技術では、マンガン含有量が少ない場合には、容易に円形度を改善することができたが、マンガン含有量が増加するにしたがって、円形度が低下することが確認された。
【0029】
本発明者らは、この点について鋭意研究を重ねた結果、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を晶析反応によって得ようとする場合、マンガン含有量の増加に伴って円形度が低下する原因が、反応水溶液中でのマンガンの酸化により、過度に微細化した一次粒子が不定形に凝集して二次粒子を形成することにあるとの知見を得た。そして、この知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、晶析反応時の反応雰囲気やニッケルイオン濃度などを特定の範囲に制御し、マンガンの酸化を抑制することで、マンガンを多く含有するニッケルマンガン複合水酸化物粒子およびこれを前駆体とする正極活物質の円形度を改善し、充填性を向上させることができるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0030】
1.ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法
本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)の製造方法は、一般式:Ni
xMn
yM
t(OH)
2+α(0.05≦x≦0.95、0.05≦y≦0.95、0≦t≦0.20、x+y+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の元素)で表される、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる複合水酸化物粒子の製造方法である。特に、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、少なくともニッケル塩およびマンガン塩を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、アルカリ溶液とを、反応槽内に供給し、混合することにより反応水溶液を形成し、複合水酸化物粒子を晶析させる際に、反応槽内の酸素濃度を3.0容量%以下とし、反応水溶液の温度を35℃〜60℃、かつ、ニッケルイオン濃度を1000mg/L以上に制御することを特徴とする。このような製造方法(晶析工程)によれば、工業規模の製造において、量産性を犠牲にすることなく、円形度の高い複合水酸化物粒子を効率よく得ることができる。
【0031】
(1)原料水溶液、アンモニウムイオン供給体、およびアルカリ溶液
a)原料水溶液
原料水溶液としては、少なくともニッケル
塩およびマンガン
塩を含む水溶液、すなわち、ニッケル塩やマンガン塩を溶解した水溶液を用いることができる。ニッケル塩およびマンガン塩としては、硫酸塩、硝酸塩、および塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。これらの中でも、コストや廃液処理の観点から、硫酸塩を使用することが好ましい。
【0032】
原料水溶液の濃度は、ニッケルおよびマンガンの合計で、1.0mol/L〜2.4mol/Lとすることが好ましく、1.2mol/L〜2.2mol/Lとすることがより好ましい。原料水溶液の濃度が1.0mol/L未満では、濃度が低すぎるため、複合水酸化物粒子(二次粒子)を構成する一次粒子が十分に成長しないおそれがある。一方、原料水溶液の濃度が2.4mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出し、配管を詰まらせるなどの危険がある。また、核の生成量が増大し、得られる複合水酸化物粒子中の微粒子の割合が増大するおそれがある。なお、原料水溶液中のニッケルとマンガンの比率は、目的とする複合水酸化物粒子のニッケルとマンガンの組成比と同様になるように調整することが好ましい。
【0033】
b)アンモニウムイオン供給体を含む水溶液
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液としては、反応水溶液中でニッケルアンミン錯体を形成可能なものであれば、特に制限されることなく使用することができる。具体的には、アンモニア水、硫酸アンモニウム水溶液、および塩化アンモニウム水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。これらの中でも、取扱いの容易性から、アンモニア水を使用することが好ましい。
【0034】
c)アルカリ溶液
アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。これらの中でも、コストや取扱いの容易性の観点から、水酸化ナトリウム水溶液を使用することが好ましい。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は、12質量%〜30質量%とすることが好ましく、20質量%〜30質量%とすることがより好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度が12質量%未満では、反応槽への供給量が増大し、粒子が十分に成長しないおそれがある。一方、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度が30質量%を超えると、アルカリ金属水酸化物の添加位置で局所的にpH値が高くなり、微粒子が発生するおそれがある。
【0035】
(2)反応水溶液
a)ニッケルイオン濃度
[ニッケルイオン濃度]
本発明では、上述した原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、アルカリ溶液とを、反応槽内に供給し、混合することにより形成される反応水溶液のニッケルイオン濃度を特定の範囲に制御することが必要となる。なお、マンガンは、ニッケルと比べてアンミン錯体を形成しにくく、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度やpH値の変動による濃度変化がきわめて少ないため、本発明の条件で晶析反応を行う限り、その影響を無視することができる。
【0036】
具体的には、ニッケルイオン濃度を1000mg/L以上、好ましくは1200mg/L以上、より好ましくは1600mg/L以上に制御することが必要となる。反応水溶液中にニッケルアンミンを形成させ、ニッケルイオン濃度を上記範囲に制御することにより、モフォロジーを改善し、円形度の高い複合水酸化物粒子を得ることができる。これに対して、反応水溶液のニッケルイオン濃度が1000mg/L未満になると、粒子成長に必要なニッケル量が不足するため、結晶性が低く、未発達の一次粒子が不定形に凝集した二次粒子が形成されてしまう。この結果、得られる複合水酸化物粒子(二次粒子)の結晶性が崩れ、円形度が低下してしまう。
【0037】
なお、ニッケルイオン濃度を高くすることにより円形度を向上させることができるが、ニッケルイオン濃度が5000mg/Lを超えると、反応水溶液に中に残留するニッケル量が多くなり、組成ずれを起こしやすくなるばかりでなく、ニッケルの損失量が増加し、コストの増大を招くこととなる。したがって、コストの増大を抑制しながら、円形度を向上させるためには、ニッケルイオン濃度を、好ましくは5000mg/L以下、より好ましくは2500mg/L以下、さらに好ましくは2000mg/L以下に制御することが必要となる。
【0038】
[ニッケルイオン濃度の制御]
反応水溶液中のニッケルイオン濃度は、反応水溶液の温度や反応槽内の雰囲気を一定範囲に制御した上で、反応水溶液のpH値やアンモニウムイオン濃度を調整することによって制御される。すなわち、ニッケルイオン濃度を上述した範囲に制御するためには、反応水溶液の温度および反応槽内の雰囲気を後述する範囲に制御した上で、アルカリ溶液およびアンモニウムイオン供給体の供給量を調整し、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で、好ましくは10.5〜13.0、より好ましくは11.5〜13.0の範囲に制御し、かつ、アンモニウムイオンの濃度を、好ましくは5g/L〜25g/L、より好ましくは5g/L〜20g/L、さらに好ましくは10g/L〜20g/Lの範囲に制御することが必要となる。
【0039】
これに対して、アンモニウムイオン濃度が5g/L未満またはpH値が13.0を超えると、ニッケルの溶解度が低くなりすぎるため、核の生成量が増大し、複合水酸化物粒子を所定の大きさまで成長させることが困難となるばかりか、微粒子の割合が増加し、粒度分布が悪化するおそれがある。一方、pH値が10.5未満またはアンモニウムイオン濃度が20g/Lを超えると、ニッケルの溶解度が高くなりすぎるため、反応水溶液中に残留するニッケル量が多くなり、組成ずれを起こしやすくなるばかりでなく、ニッケルの損失量が増加し、コストの増大を招くこととなる。
【0040】
b)酸素濃度
上述したように、反応水溶液中のマンガンは、微量の酸素によっても容易に酸化し、一次粒子が微細化する。このような傾向は、複合水酸化物粒子中のマンガン含有量が増加するほど顕著となる。このため、マンガンを多く含む複合水酸化物粒子(二次粒子)の円形度を向上させるためには、反応水溶液中のマンガンの酸化を抑制することが重要となる。
【0041】
この観点から、本発明では、予め、反応槽内に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入し、その酸素濃度を3.0容量%以下、好ましくは1.0容量%以下、より好ましくは0.3容量%以下に制御することとしている。これにより、マンガンの酸化を抑制しつつ、一次粒子を成長させることが可能となる。また、一次粒子の成長は二次粒子を形成した状態で進行するため、二次粒子を等方的に成長させることができ、結晶性に優れ、かつ、高い円形度を備えた複合水酸化物粒子を得ることが可能となる。これに対して、酸素濃度が3.0容量%を超えると、反応水溶液中におけるマンガンの酸化を抑制することができず、得られる複合水酸化物粒子の円形度を改善することができなくなる。
【0042】
c)反応水溶液の温度
反応水溶液の温度は、35℃〜60℃、好ましくは35℃〜55℃、より好ましくは35℃〜45℃の範囲に制御する。反応水溶液の温度が35℃未満では、ニッケルの溶解度が低くなりすぎるため、核の生成量が増大し、複合水酸化物粒子を所定の大きさまで成長させることが困難となるばかりか、微粒子の割合が増加し、粒度分布が悪化する。一方、60℃を超えると、ニッケルの溶解度が高くなるばかりでなく、アンモニアの揮発が激しくなり、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度を所定の範囲に制御することが困難となる。また、得られる複合水酸化物粒子の結晶性が崩れ、その円形度が低下してしまう。
【0043】
(3)反応槽および回収方法
本発明の複合水酸化物粒子を製造するための装置(反応槽)は、撹拌手段を備え、少なくともニッケル
塩およびマンガン
塩を含む原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを一定速度で連続供給し、アルカリ溶液を、その添加量を調整しながら供給することができるものであれば特に制限されることはない。ただし、温度制御手段やpH値制御手段などを備えるものが好ましい。
【0044】
なお、生成した複合水酸化物粒子の回収方法も、特に制限されることはないが、反応槽内の反応水溶液をオーバーフローさせることにより、連続的に回収する方法が好ましい。このような回収方法であれば、高い生産性を実現しつつ、反応水溶液の見かけ上の金属イオン濃度が低下し、粒子成長が停滞することを防止することができる。
【0045】
2.ニッケルマンガン複合水酸化物粒子
本発明の複合水酸化物粒子は、上述した製造方法によって得られ、一般式:Ni
xMn
yM
t(OH)
2+α(0.05≦x≦0.95、0.05≦y≦0.95、0≦t≦0.20、x+y+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の元素)で表される、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる複合水酸化物粒子であって、この複合水酸化物粒子のうち、平均粒径の70%以上の粒径を有する複合水酸化物粒子の円形度の平均値が0.82以上であり、かつ、タップ密度が2.20g/cm
3以上であることを特徴とする。このような複合水酸化物粒子は、高い円形度を備えていると評価することができ、これを前駆体とすることで、円形度が高く、充填性に優れた正極活物質を得ることが可能となる。
【0046】
(1)組成比
ニッケル(Ni)は、電池容量の向上に寄与する。ニッケルの含有量を示すxの値は、0.05〜0.95、好ましくは0.10〜0.90、より好ましくは0.20〜0.75とする。xの値が0.05未満では、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池の電池容量が低下してしまう。一方、xの値が0.95を超えると、熱安定性が低下し、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池を、高温環境下で保存または使用した場合に、十分な特性を得ることができない。
【0047】
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する元素である。マンガンの含有量を示すyの値は、0.05〜0.95、好ましくは0.10〜0.90、より好ましくは0.25〜0.80とする。yの値が0.05未満では、熱安定性を十分に向上させることができない。一方、yの値が0.95を超えると、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質中にスピネル相が生じ、出力特性などの電池特性が低下する原因となる。
【0048】
本発明の複合水酸化物粒子は、ニッケルやマンガンに加えて、所定量の添加元素Mを含有させることができる。これにより、この複合水酸化物粒子を前駆体として得られる正極活物質を用いた二次電池の諸特性を向上させることができる。
【0049】
このような添加元素Mとしては、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)から選択される1種以上の元素を用いることができる。これらの添加元素Mは、得られる正極活物質が使用される二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択されるものである。
【0050】
添加元素Mの含有量を示すtの値は、0〜0.20、好ましくは0〜0.15、より好ましくは0〜0.10とする。tの値が0.20を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
【0051】
なお、添加元素Mは、晶析工程において、ニッケルおよびマンガンとともに晶析させ、複合水酸化物粒子中に均一に分散させることもできるが、晶析工程後、複合水酸化物粒子の表面に添加元素Mを被覆させてもよい。また、混合工程において、複合水酸化物粒子とともに、リチウム化合物と混合することも可能であり、これらの方法を併用してもよい。いずれの方法による場合であっても、上記一般式の組成となるように、その含有量を調整することが必要となる。
【0052】
(2)円形度
本発明においては、平均粒径(体積平均粒径)の70%以上の粒径を有する複合水酸化物粒子の円形度γ
1の平均値を、0.82以上、好ましくは0.83以上に制御することが重要となる。円形度γ
1の平均値をこのような範囲に制御することにより、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の円形度γ
2の平均値を所定の範囲(0.82以上)とすることができる。これに対して、円形度γ
1の平均値が0.82未満では、正極活物質の円形度γ
2の平均値も低下し、その充填性を改善することができない。
【0053】
なお、本発明において、複合水酸化物粒子の円形度γ
1の平均値の算出方法、および、円形度γ
1を評価する対象を平均粒径の70%以上の粒径を有する複合水酸化物粒子に限定している理由については、後述する正極活物質の場合と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0054】
(3)タップ密度
本発明では、平均粒径の70%以上の粒径を有する複合水酸化物粒子の円形度γ
1の平均値を0.82以上に規制するとともに、複合酸化物粒子全体のタップ密度を2.20g/cm
3以上、好ましくは2.30g/cm
3以上、より好ましくは2.35g/cm
3以上に規制することが必要である。タップ密度が2.20g/cm
3未満では、円形度γ
1の平均値を0.82以上とした場合であっても、複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の充填性を十分に改善することができない。一方、タップ密度は大きいほど好ましく、その上限値が制限されることはないが、通常の条件で複合水酸化物粒子を製造する場合には、3.30g/cm
3程度がその上限値となる。
【0055】
なお、本発明においてタップ密度とは、JIS Z−2504に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を意味する。タップ密度は、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
【0056】
(4)平均粒径
本発明では、二次粒子の平均粒径を、好ましくは7.0μm〜25.0μm、より好ましくは7.0μm〜17.0μm、さらに好ましくは7.0μm〜15.0μm、特に好ましくは8.0μm〜11.0μmの範囲に調整することが必要となる。ここで、平均粒径とは、体積平均粒径を意味し、レーザ光回折散乱式粒度分布計により求めることができる。二次粒子の平均粒径が7.0μm未満では、タップ密度を上記範囲に規制することが困難となる。一方、二次粒子の平均粒径が25.0μmを超えると、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の比表面積が低下するため、これを用いて二次電池を構成した場合に、電解液との界面が減少し、正極抵抗の上昇および出力特性の低下を招くこととなる。
【0057】
なお、本発明の複合水酸化物粒子において、一次粒子の平均粒径は、目的とする二次粒子の大きさなどに応じて適宜調整されるべきものであり、特に制限されることはない。しかしながら、通常の製造方法では、一次粒子が過度に微細化すると、不定形に凝集し、得られる複合水酸化物粒子(二次粒子)の円形度が低下することとなる。これに対して、上述した本発明の製造方法では、工業規模の製造においても、一次粒子の過度な微細化が防止されるため、その大きさを適切な範囲に制御することができる。
【0058】
(5)粒度分布
本発明の複合水酸化物粒子において、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕は、0.80〜1.20であることが好ましく、0.80〜1.10であることがより好ましく、0.85〜1.10であることがさらに好ましい。〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.80未満では、複合水酸化物粒子の粒径が均一になりすぎるため、タップ密度を上述した範囲に規制することが困難となる。一方、〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.20を超えると、複合水酸化物粒子中の微粒子や粗大粒子の割合が増加し、安全性やサイクル特性が低下するおそれがある。
【0059】
なお、〔(d90−d10)/平均粒径〕におけるd10は、それぞれの粒径における粒子数を粒径が小さい方から累積した場合に、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味する。また、d90は、それぞれの粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積した場合に、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味する。d90、d10を求める方法は特に制限されないが、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0060】
3.非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上述した複合水酸化物粒子を前駆体として用い、所定の円形度γ
2、平均粒径、および粒度分布を備える正極活物質を合成することができる限り、特に制限されることはない。しかしながら、工業規模の製造を前提とした場合には、上述した複合水酸化物粒子をリチウム化合物と混合し、リチウム混合物を得る、混合工程と、得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気下、720℃〜1000℃で焼成する焼成工程とを備える製造方法によって正極活物質を合成することが好ましい。なお、必要に応じて、本発明の正極活物質の製造方法に、熱処理工程や仮焼工程などの工程を追加してもよい。
【0061】
(1)熱処理工程
本発明の正極活物質の製造方法においては、任意的に、混合工程の前に熱処理工程を設けて、複合水酸化物粒子を熱処理粒子としてからリチウム化合物と混合してもよい。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程において余剰水分が除去された複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程により、酸化物に転換されたニッケルマンガン複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子」という)、または、これらの混合物も含まれる。
【0062】
熱処理工程は、複合水酸化物粒子を所定温度で熱処理することにより、複合水酸化物粒子に含有される余剰水分を除去する工程である。これにより、焼成工程後まで残留する水分を一定量まで減少させることができ、得られる正極活物質の組成のばらつきを抑制することができる。
【0063】
熱処理工程における熱処理温度は105℃〜750℃とする。熱処理温度が105℃未満では、複合水酸化物粒子中の余剰水分が除去できず、ばらつきを十分に抑制することができない場合がある。一方、熱処理温度が750℃を超えても、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。
【0064】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。
【0065】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、複合水酸化物粒子中の余剰水分を十分に除去する観点から、1時間以上とすることが好ましく、5時間〜15時間とすることがより好ましい。
【0066】
(2)混合工程
混合工程は、上述した複合水酸化物粒子または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0067】
混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、マンガン、および添加元素Mとの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.50、好ましくは0.95〜1.30、より好ましくは1.00〜1.20となるように、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meは変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。
【0068】
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、またはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0069】
複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0070】
(3)仮焼工程
リチウム化合物として水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、リチウム混合物を、後述する焼成温度よりも低温、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜780℃で仮焼する仮焼工程を行ってもよい。これにより、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一なリチウム複合酸化物粒子を得ることができる。
【0071】
なお、上記温度での保持時間は、1時間〜10時間とすることが好ましく、3時間〜6時間とすることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
【0072】
(4)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を、所定条件で焼成し、室温まで冷却して、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子(以下、「リチウム複合酸化物粒子」という)を得る工程である。なお、本発明において、焼成工程で用いる焼成炉は特に制限されることはないが、炉内の雰囲気を適切に制御する観点から、ガス発生の内の電気炉が好ましく、バッチ式または連続式のいずれも用いることができる。
【0073】
焼成温度は、720℃〜1000℃、好ましくは800℃〜950℃、より好ましくは850℃〜950℃とする。焼成温度が720℃未満では、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物粒子または熱処理粒子が残存したり、得られるリチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなったりする。一方、焼成温度が1000℃を超えると、粒子同士が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加するおそれがある。
【0074】
焼成温度での保持時間(焼成時間)は、2時間〜12時間、好ましくは4時間〜10時間とする。焼成時間が2時間未満では、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物粒子または熱処理粒子が残存したり、得られるリチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。一方、焼成時間が12時間を超えると、粒子同士が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加するおそれがある。
【0075】
焼成時雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、リチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0076】
(5)解砕工程
焼成工程によって得られたリチウム複合酸化物粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、リチウム複合酸化物粒子の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0077】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0078】
4.非水電解質二次電池用正極活物質
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式:Li
1+uNi
xMn
yM
tO
2(−0.05≦u≦0.50、0.05≦x≦0.95、0.05≦y≦0.95、0≦t≦0.20、x+y+t=1、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム複合酸化物粒子からなり、平均粒径の70%以上の粒径を有する正極活物質についての円形度の平均値が0.82以上であり、かつ、タップ密度が2.20g/cm
3以上であることを特徴とする。このような正極活物質は、所定の粒径を有する粒子の円形度が高く、充填性に優れるため、これを用いた二次電池を高容量で、サイクル特性に優れたものとすることができる。また、近年、二次電池のパッキングや電子伝導性の問題から、電極の厚さを数十ミクロン程度に抑えることが要求されているが、この正極活物質であれば、このような要求を満足することができる。
【0079】
(1)組成比
リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、−0.05〜0.50、好ましくは−0.05〜0.30、より好ましくは0.00〜0.20とする。uの値が−0.05未満では、この正極活物質を用いた二次電池の正極抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、uの値が0.50を超えると、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量が低下するばかりでなく、その正極抵抗が増加してしまう。
【0080】
なお、正極活物質の構成成分のうち、ニッケル、マンガン、および添加元素Mの組成比ついては、上述した複合水酸化物粒子の組成比と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0081】
(2)円形度
a)円形度
本発明において、平均粒径(体積平均粒径)の70%以上の粒径を有する正極活物質の円形度γ
2の平均値は、0.82以上、好ましくは0.83以上、より好ましくは0.84以上に制御される。このような正極活物質は、モフォロジーに優れ、高い充填性を備えたものと評価することができる。これに対して、円形度γ
2の平均値が0.82未満では、正極活物質のモフォロジーが悪化し、充填性を十分に向上させることができない。
【0082】
なお、円形度γ
2とは、正極活物質の投影像、たとえば、SEM像の面積をS、周囲長をLとした場合に、γ
2=4π×S/L
2により求められる値である。γ
2の値が1.0である場合は真円を意味し、γ
2の値が1.0より小さくなるほど真円から遠ざかることを意味する。また、円形度γ
2の平均値とは、任意に選択した20個以上の正極活物質の円形度γ
2の相加平均値を意味する。
【0083】
b)円形度の評価対象
本発明においては、円形度γ
2を評価する対象を、平均粒径の70%以上の粒径を有する正極活物質に限定している。これは、平均粒径の70%未満の粒径を有する正極活物質は、二次粒子が十分に発達していないため、円形度γ
2を正確に測定することができないからである。また、平均粒径の70%未満の粒径を有する正極活物質は、より大きな粒径を有する正極活物質同士の間に入り込むため、充填性に対する影響が小さいからである。すなわち、円形度γ
2に支配的な影響を及ぼすのは、平均粒径の70%以上の粒径を有する比較的大きな正極活物質であり、平均粒径の70%未満の粒径を有する正極活物質を含めて、円形度γ
2を評価した場合には、上述した円形度γ
2と充填性の相関関係が崩れ、正極活物質の充填性を十分に向上させることができなくなるからである。
【0084】
なお、上述した特開2008−77990号公報や特開2009−76383号公報では、円形度γ
2を評価する対象を、平均粒径と一致する円相当径を有する粒子に限定している。しかしながら、このような評価方法では、充填性に支配的な影響を及ぼす平均粒径よりも大きな粒径を有する粒子が評価されないため、円形度γ
2によって、充填性を正確に評価することはきわめて困難であるといえる。
【0085】
(3)タップ密度
本発明では、平均粒径の70%以上の粒径を有する正極活物質の円形度γ
2の平均値を0.82以上に規制するとともに、正極活物質全体のタップ密度を2.20g/cm
3以上、好ましくは2.40g/cm
3以上、より好ましくは2.45g/cm
3以上に規制することが必要である。タップ密度が2.20g/cm
3未満では、円形度γ
2の平均値を0.82以上とした場合であっても、正極活物質の充填性を十分に改善することができない。なお、タップ密度は大きいほど好ましく、その上限値が制限されることはないが、通常の条件で正極活物質を製造する場合には、3.30g/cm
3程度となる。
【0086】
(4)平均粒径
本発明の正極活物質の平均粒径は、好ましくは7.0μm〜25.0μm、より好ましく7.0μm〜17.0μm、さらに好ましくは7.0μm〜15.0μm、特に好ましくは8.0μm〜11.0μmに制御される。平均粒径が7.0μm未満では、タップ密度を上記範囲に規制することが困難となる。一方、平均粒径が25.0μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下するため、これを用いて二次電池を構成した場合に、電解液との界面が減少し、正極抵抗の上昇および出力特性の低下を招くこととなる。なお、平均粒径の意味および求め方については、上述した複合水酸化物粒子の場合と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0087】
(5)粒度分布
本発明の正極活物質において、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕は、0.80〜1.20であることが好ましく、0.80〜1.10であることがより好ましく、0.85〜1.10であることがさらに好ましい。〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.80未満では、正極活物質の粒径が均一になりすぎるため、タップ密度を上述した範囲に規制することが困難となる。一方、〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.20を超えると、正極活物質中の微粒子や粗大粒子の割合が増加し、安全性やサイクル特性が低下するおそれがある。なお、〔(d90−d10)/平均粒径〕の求め方については、上述した複合水酸化物粒子の場合と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0088】
5.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、および非水電解液などからなり、一般の非水電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0089】
(1)構成要素
a)正極
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして、非水電解質二次電池の正極を作製する。
【0090】
まず、粉末状の正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水電解質二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることが望ましい。
【0091】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。この際、電極密度を高めるため、ロールプレスなどにより加圧してもよい。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断され、電池の作製に供される。ただし、正極の作製方法としては、上述した例示の手段に限られることはなく、その他の手段を採用してもよい。
【0092】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0093】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、およびポリアクリル酸を用いることができる。
【0094】
また、必要に応じて、正極活物質、導電材、および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加してもよい。
【0095】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金を使用することができる。あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥した後、必要に応じて電極密度を高めるために圧縮して形成した材料を使用することができる。
【0096】
負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどが用いられる。
【0097】
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、正極と負極の間に配置される。セパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどからなり、微小な孔を多数有する薄い膜を用いることができる。
【0098】
d)非水電解液
非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0099】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、およびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、およびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブチルスルホンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選択される1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0100】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0101】
なお、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0102】
(2)非水電解質二次電池の形状および構成
上述した正極、負極、セパレータ、および非水電解液で構成される非水電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水電解質二次電池を完成させる。
【0103】
たとえば、
図4に示す2032型コイン電池1は、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成される。また、電極3は、正極3a、セパレータ3c、および負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容される。なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定される。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0104】
(3)特性
本発明の非水電解質二次電池は、正極材料に本発明の正極活物質を用いているため、正極の電極密度が高く、高容量で、サイクル特性に優れていると評価することができる。具体的には、本発明の非水電解質二次電池は、初期放電容量を160mAh/g以上、好ましくは162mAh/g以上、より好ましくは163mAh/g以上とすることができる。同時に、200サイクル容量維持率を90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上とすることができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0106】
(実施例1)
a)複合水酸化物粒子の作製
はじめに、硫酸ニッケル6水和物と硫酸マンガン7水和物とを、ニッケルとマンガンのモル比がNi:Mn=63:37となるように水に溶解し、ニッケルとマンガンの濃度が、合計で2mol/Lの原料水溶液を調製した。一方、オーバーフロー口までの容量が60Lである反応槽に、上限まで水を入れ、ウォーターバスを用いて槽内温度が40℃となるまで加温した。同時に、反応槽内に20L/分で窒素ガスを導入し、反応槽内を不活性雰囲気(酸素濃度:0.2容量%)に調整した。
【0107】
次に、反応槽内の水を撹拌しながら、原料水溶液と、25質量%のアンモニア水と、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液とを連続的に供給することにより、反応水溶液を形成した。この際、原料水溶液を40L/分、アンモニア水を8mL/分で連続的に供給するとともに、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で12.7に、アンモニウムイオン濃度が13.0g/Lに維持されるように、水酸化ナトリウム水溶液を供給し、この反応水溶液のニッケルイオン濃度を1000mg/Lに調整した。
【0108】
なお、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度およびpH値は、予め反応槽に設置した、アンモニウムイオンメータ(ORION社製、ポータブル型pH/RDOメータ)およびpHコントローラにより、それぞれ測定した。また、ニッケルイオン濃度は、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツル社製、SPS3000)により測定した。
【0109】
この状態で晶析反応を32時間継続し、スラリーを晶析させた。反応水溶液の温度、pH値、アンモニウムイオン濃度、およびニッケルイオン濃度が、上述した条件を維持していることを確認した後、反応槽内の反応水溶液をオーバーフローさせることによりスラリーを回収した。このスラリーを水洗、濾過、および乾燥することで、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。
【0110】
b)複合水酸化物粒子の評価
[組成]
得られた複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置(島津製作所社製、ICPE9000)を用いて測定したところ、一般式:Ni
0.63Mn
0.37(OH)
2で表されるものであることが確認された。
【0111】
[平均粒径および粒度分布]
レーザ回折式粒度分布計(日機装株式会社製、マイクロトラック)を用いて、この複合水酸化物粒子の平均粒径を求めたところ、9.7μmであることが確認された。また、同様にして、d90およびd10を求め、これらの値から粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕を求めたところ、0.98であることが確認された。
【0112】
[円形度]
複合水酸化物粒子の形状を、SEM(株式会社日立製作所製、電界放出形走査電子顕微鏡S−4700)を用いて観察したところ、この複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなることが確認された。次に、平均粒径の70%以上の粒径を有する複合水酸物粒子のうち、任意の20個について、画像処理ソフト(imageJ)を用いて、円形度γ
1をそれぞれ測定し、その平均値を算出したところ、0.82であることが確認された。以上の結果を表3に示す。
【0113】
なお、実施例1では、表1に示すように、測定対象となる複合水酸化物粒子を変更しながら、任意に選択した150個の複合水酸化物粒子について円形度γ
1をそれぞれ測定し、その平均値を算出する作業を5回繰り返した。その結果、測定対象を平均粒径の70%以上の粒径を有する複合水酸化物粒子とした場合には、円形度γ
1の平均値のばらつきが少なく、安定した評価ができることが確認された。これに対して、測定対象を制限しなかった場合、測定対象を平均粒径の50%以上の粒径を有する複合水酸化物粒子とした場合および平均粒径の60%以上の粒径を有する複合水酸化物粒子とした場合には、円形度γ
1の平均値のばらつきが大きく、安定した評価を行うことができないことが確認された。
【0114】
【表1】
【0115】
[タップ密度]
JIS Z−2504に基づき、容器に採取した複合水酸化物粒子を100回タッピングした後のかさ密度をタップ密度として、振とう比重測定器(蔵持科学器械製作所社製、KRS−406)を用いて測定したところ、2.31g/cm
3であることが確認された。
【0116】
c)正極活物質の作製
得られた複合水酸化物粒子に対して、大気雰囲気中、150℃で12時間の熱処理を施すことにより熱処理粒子とした(熱処理工程)。この熱処理粒子に、Li/Me=1.15となるように秤量した炭酸リチウムを混合し、リチウム混合物を得た。なお、混合には、シェーカミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA
TypeT2C)を使用した(混合工程)。このリチウム混合物を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、760℃で4時間仮焼した後、950℃で10時間焼成し、室温まで冷却することによりリチウム複合酸化物粒子を得た(仮焼工程、焼成工程)。冷却後のリチウム複合酸化物粒子には軽度の焼結が生じていたため、これを解砕することで正極活物質を得た(解砕工程)。
【0117】
d)正極活物質の評価
このようにして得られた正極活物質の組成、平均粒径、粒度分布、円形度、およびタップ密度について、複合水酸化物粒子の場合と同様の方法で評価した。この結果を表4に示す。
【0118】
(実施例2〜5)
反応槽内のアンモニウムイオン濃度およびpH値を調整することにより、ニッケルイオン濃度を表2に示すように制御したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子および正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3および表4に示す。
【0119】
(実施例6)
反応槽内に3.0L/分で窒素ガスを導入し、酸素濃度を3.0容量%に調整したこと以外は実施例2と同様にして、複合水酸化物粒子および正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3および表4に示す。
【0120】
(実施例7)
反応槽内に9.0L/分で窒素ガスを導入し、酸素濃度を1.0容量%に調整したこと以外は実施例2と同様にして、複合水酸化物粒子および正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3および表4に示す。
【0121】
(実施例8〜10)
反応水溶液の温度、アンモニウムイオン濃度およびpH値を調整することにより、ニッケルイオン濃度を表2に示すように制御したこと以外は実施例2と同様にして、複合水酸化物粒子および正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3および表4に示す。
【0122】
(比較例1および2)
反応槽内のアンモニウムイオン濃度およびpH値を調整することにより、ニッケルイオン濃度を表2に示すように制御したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子および正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3および表4に示す。
【0123】
(比較例3)
反応槽内に1.5L/分で窒素ガスを導入し、酸素濃度を5.0容量%に維持したこと以外は実施例2と同様にして、複合水酸化物粒子および正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3および表4に示す。
【0124】
(比較例4)
反応水溶液の温度を30℃に制御したこと以外は実施例2と同様にして、複合水酸化物粒子および正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3および表4に示す。
【0125】
(比較例5)
反応水溶液の温度を65℃に制御したところ、アンモニアの揮発が激しく、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度、pH値およびニッケルイオン濃度を制御することが困難となった。このため、比較例5では、晶析反応の途中で、複合水酸化物粒子の作製を中止した。
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
(実施例11および比較例6)
a)2032型コイン電池の作製
実施例1〜10および比較例1〜4で得られた正極活物質を用いて、
図4に示すような2032型コイン電池1を作製した。この2032型コイン電池1は、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。
【0130】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成される。電極3は、正極3a、セパレータ3c、および負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容される。なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定される。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0131】
この2032型コイン電池1を、以下のようにして作製した。はじめに、正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極3aと、負極3b、セパレータ3c、および電解液とを用いて、コイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0132】
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ3cには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0133】
b)二次電池の評価
得られた2032型コイン電池1の初期放電容量、200サイクル容量維持率、および正極抵抗について評価を行った。
【0134】
[初期放電容量]
2032型コイン電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧が4.8Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が2.5Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行い、初期放電容量を求めた。この際、充放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0135】
[200サイクル容量維持率]
正極に対する電流密度を2mA/cm
2として、4.8Vまで充電して2.0Vまで放電を行うサイクルを200回繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して容量維持率(200サイクル容量維持率)を求めた。
【0136】
【表5】
【0137】
[総合評価]
表2〜5より、実施例1〜10の複合水酸化物粒子およびこれを前駆体とする正極活物質は、結晶性および円形度に優れ、高い充填性を備えていることが理解される。また、実施例1〜10の正極活物質を用いた2032型コイン電池は、160mAh/g以上の初期放電容量と、90%以上の200サイクル容量維持率を同時に達成可能であることが理解される。
【0138】
これに対して、比較例1〜4の複合水酸化物粒子および正極活物質は、結晶性や円形度が低く、実施例1〜10の正極活物質と比べて充填性が劣っていることが理解される。また、比較例1〜4の正極活物質を用いた2032型コイン電池は、初期放電容量と200サイクル容量維持率を同時に改善することができないことが理解される。