【0014】
<化成された状態における正極板活物質の密度>
正極板活物質密度の算出方法は、まず、ペースト状活物質を格子体に充填する圧力相当で所定容量のステンレス製容器に充填した後、当該ペースト状活物質の質量を測定してペースト状活物質の密度(D)を算出する。化成後の正極板の活物質体積は格子体に充填されたペースト状活物質の体積とほぼ変わらないので、等しいとして、ペースト状活物質を規定圧力で格子体に充填したときの質量(W)を測定し、ペースト状活物質の充填体積(V)を(式1)を用いて算出した。
ペースト状活物質の充填体積 V=W/D・・・(式1)
そして、化成後の正極板から活物質の全量を採取して質量(W2)を測定し、化成後の正極活物質密度(D2)を(式2)を用いて算出した。
化成後の正極活物質密度 D2=W2/V・・・(式2)
<化成された状態における正極板活物質の多孔度>
本発明にて述べる化成された状態における正極板活物質の多孔度は、見掛けの活物質中の空孔の比率であり、水置換法によって算出した。
算出方法は、まず、化成後の正極板を乾燥し乾燥後質量(W3)を測定する。この正極板を水中に没して減圧下で吸引脱気し、活物質中の空孔に含まれる空気と水を置換する。その後、水中で正極板質量(W4)を測定し、正極板を空中に取り出した後表面の水気を切り、活物質中の空孔を水置換した正極板質量(W5)を測定する。正極板を乾燥させた後活物質を落とし、格子のみの質量(W6)を測定する。水中で格子のみの質量(W7)を測定し、多孔度は(式3)を用いて次のように求められる。
多孔度={(W5−W3)/(W5+W7−W4−W6)}×100・・・(式3)
<ペースト状正極活物質の作製>
ペースト状正極活物質は、一酸化鉛を主成分とする鉛粉に、鉛丹とグラファイト、カットファイバー等の添加剤を加えて混合し、更に当該混合物に水と希硫酸を加え、混練して作製した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の詳細な実施例を説明する。
以下の実施例と比較例では、次の負極板を共通して用いた。
鉛−カルシウム−スズ合金(カルシウム含有量:0.1質量%、スズ含有量:0.2質量%)を溶融し、鋳造方式によって、縦:144.0mm、横:147.0mm、厚み:2.1mmの格子体を作製した。
この格子体に、一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、ポリエステル繊維を0.03質量部、硫酸バリウムを1.25質量部及び、アセチレンブラックを0.3質量部加えて混合し、次に水にリグニンスルホン酸塩を溶解させた水溶液を10質量部、希硫酸を10質量部加えた後、混練して調製したペースト状活物質を充填した。
ペースト状活物質の充填後に、
熟成条件:温度:40℃、湿度:98%、時間:40時間
乾燥条件:温度:60℃、時間:24時間
の熟成、乾燥条件の工程を経ることにより負極板を作製した。
【0019】
(実施例1)
鉛−カルシウム−スズ合金(カルシウム含有量:0.08質量%、スズ含有量:1.6質量%)を溶融し、鋳造方式によって、縦:143.0mm、横:145.0mm、厚み:3.0mmの格子体を作製した。
この格子体に、一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、グラファイト(日本黒鉛工業株式会社製、商品名:ACB50)を0.1質量部、ポリエステル繊維を0.15質量部加えて混合し、次に水を11質量部、希硫酸を10質量部加えた後、混練して作製したペースト状活物質を充填した。
ペースト状活物質を充填後、以下の熟成条件1〜3、乾燥条件の工程を経ることにより正極板を作製した。
熟成条件1:温度:80℃、湿度:98%、時間:10時間
熟成条件2:温度:65℃、湿度:75%、時間:13時間
熟成条件3:温度:40℃、湿度:65%、時間:40時間
乾燥条件:温度:60℃、時間:24時間
上記正極板1枚と先に述べた負極板2枚を、ガラス繊維をマット状にしたセパレータ(リテーナ)を介して交互に積層し、極板群を作製した。
実施例1〜7及び比較例1の正極板と上述した負極板を用いて作製した極板群を、各々電槽へ挿入し、正極端子及び負極端子を極板群に溶接した後、電槽を密閉する。次に排気栓口から希硫酸を主成分とする電解液を注入し、化成・充電した後、制御弁を取り付け、制御弁式鉛蓄電池を作製し、電槽化成を行った。
化成条件は、温度:60℃、課電量:正極活物質の理論化成電気量に対し250%、時間:40時間である。
【0020】
(実施例2〜4)
グラファイトの添加量を、一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、1.0質量部(実施例2)、1.5質量部(実施例3)、3.0質量部(実施例4)とする以外は、実施例1と同様にして正極板及び制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0021】
(実施例5)
グラファイトの添加量を、一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、3.0質量部、水を9質量部、希硫酸を8質量部とする以外は、実施例1と同様にして正極板及び制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0022】
(実施例6)
グラファイトの添加量を、一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、3.0質量部、水を11質量部、希硫酸を13質量部とする以外は、実施例1と同様にして正極板及び制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0023】
(実施例7)
グラファイトの添加量を、一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、3.0質量部、水を13質量部、希硫酸を17質量部とする以外は、実施例1と同様にして正極板及び制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0024】
(比較例1)
一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、グラファイトを添加せず、それ以外は、実施例1と同様にして正極板及び制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0025】
前述した実施例、比較例のグラファイト、水及び希硫酸の添加量を下記表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
上記にて説明した実施例1〜7及び比較例1の化成された状態における正極板について、「グラファイト添加量」、「四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶の占める面積比率」、「正極活物質密度」、「正極活物質多孔度(%)」を、以下の表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表1、2より、実施例1〜4、比較例について、グラファイトの添加量が増えるに従い正極活物質の多孔度が高くなり、活物質層を平面視したときの四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶が占める面積比率が小さくなるが、活物質密度はほぼ変化しないことが判る。これは、化成時にグラファイトが膨張して活物質に圧力が加わることにより活物質が密になり、圧力に耐えられなくなった活物質の一部に亀裂が生じて空孔となるため、グラファイト添加量が増えると多孔度が高くなる。そのため、活物質層を平面視したときの活物質の占める部分が相対的に小さくなるが活物質密度はほとんど変化しない。そして、四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶も密となることから、活物質層を平面視したときの四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶が占める面積比率は相対的に小さくなる。
また、実施例4〜7のように、グラファイトを添加し活物質混練時の希硫酸量を増やすと、更に多孔度は高くなるが、実施例6、7のように多孔度が非常に高くなると、活物質密度は低くなる。
【0030】
表2に示すように、グラファイトを添加することにより、水分の添加量を変えずに多孔度を増加させることができる。
特に、水及び希硫酸の添加量が同量である実施例3、4と比較例1の正極活物質の多孔度を比べると、グラファイトを添加した実施例が15%高くなり、特にグラファイトを、1.5〜3.0質量%添加することにより、特に大きな効果が得られることが判る。実施例1〜4を比較すると、グラファイトの添加量が増加するのにつれ四塩基性由来の二酸化鉛結晶の面積比率が減少している。これは、多孔度が高くなったことに起因する。
【0031】
次に、実施例1〜7及び比較例1の条件で作製した個々の鉛蓄電池について、所定の充放電サイクルごとに放電容量を確認するサイクル寿命試験を行った。
<試験方法>
放電容量確認試験は、5時間率放電によった。すなわち、満充電後の制御弁式鉛蓄電池を雰囲気温度25℃中に24時間放置した後、5時間率放電(0.2CA、終止電圧1.7V)を行い、そのときの放電容量を測定する。その後の回復充電は、雰囲気温度25℃中で、放電量の107%充電量到達までとする。
【0032】
充放電サイクル試験条件を、以下の表3に示す。
満充電後の制御弁式鉛蓄電池を雰囲気温度25℃中に24時間放置した後、表3に示す条件で充放電サイクル試験を行った。DODとは「Depth Of Discharge」の略で電池容量に対する放電深度を表す。
表3に示す充放電サイクル試験は、(1)間欠充放電、(2)部分充電、(3)間欠充放電、(4)回復充電及び休止を、(1)−(2)−(3)−(2)−(3)−(2)−(3)−(4)の順番で行い、この都合4回の充放電サイクルを1つの単位として25回繰り返して合計100サイクルとする。
そして、100サイクル毎に、上述した条件の5時間率放電容量確認試験を実施し、5時間率放電容量を測定した。
ここで、(1)と
(3)の間欠充放電は、表4に示す条件の間欠充放電の操作とした。表4の間欠充放電条件は、例えば、AGV等の荷役作業用電動車両が物品の運搬作業を行うときを想定し、物品をリフトアップするときの放電電流値1.1CA、物品を目的場所へ搬送するときの放電電流値0.25CA、目的場所で停止する際のブレーキング及び物品のリフトダウン時の電力回生による充電電流値0.35CAを、それぞれ設定したものである。表4の条件による間欠充放電は、鉛蓄電池のDODが75%に達するまで連続して行う。この間欠充放電条件は、放電量が充電量を上回るので、実質的には、平均0.17CAの放電となる。
また、(2)の部分充電は、荷役作業の短い休止時間中に次の稼働に備えて急速充電を行い容量回復(満充電には至らない)することを想定している。そして、(4)の回復充電は、稼働時間外に満充電とすることを想定している。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
<試験結果>
図2、
図3に、実施例1〜7と比較例1の制御弁式鉛蓄電池について、上記サイクル充放電試験を実施した結果を示す。これは、化成された状態における正極板の活物質の多孔度及び正極板の活物質層を平面視したときに現れる四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶の面積割合と、定格容量に対する鉛蓄電池容量比及び充放電サイクル数の相関を示している。鉛蓄電池の定格容量を100%としたとき、5時間率放電容量の定格容量比が80%になったときを寿命として比較した。
図2は、実施例1〜4及び比較例1の制御弁式鉛蓄電池に関する試験結果であり、これより、活物質混練時の水、希硫酸の添加量を一定にしたときはグラファイトの添加量が増加するにつれて正極活物質の多孔度が高くなり、鉛蓄電池の定格容量比が大きくなることがわかる。また、実施例1〜4は、比較例1と比べて正極活物質の多孔度が高く四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶面積割合が小さいが、正極活物質の活物質密度がほぼ同じであることから、活物質部分が密になって活物質強度が高くなっているため、長寿命となる。
図3は、実施例4〜7及び比較例1の制御弁式鉛蓄電池に関する試験結果であり、これより、グラファイトを添加して水分量を増加させることにより多孔度が高くなり容量が大きくなることがわかる。
【0036】
図2、3より、化成された状態における正極板の活物質の多孔度が45〜60%の範囲にあり、かつ正極板の活物質層を平面視したときに現れる四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶の面積割合が13〜48%の範囲にあるときに電池容量が大きく長寿命となることが分かる。
【0037】
好ましくは、正極板の活物質の多孔度が56〜59%の範囲にあり、かつ正極板の活物質層を平面視したときに現れる四塩基性硫酸鉛由来の二酸化鉛結晶の面積割合が15〜43%の範囲にある実施例2、3、4.6がより電池容量が大きく長寿命となる。
さらに、正極板の活物質の多孔度が58〜59%の範囲にある実施例3、4.6が初期の電池容量がさらに大きく長寿命となる。