【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 電気通信回線による発表: 掲載年月日:平成23年10月5日 掲載アドレス1: http://wwwsoc.nii.ac.jp/jacg/japanese/frame_main/18/nccg−41/NCCG−41_program.pdf 掲載アドレス2: http://wwwsoc.nii.ac.jp/jacg/japanese/frame_main/18/nccg−41/timetable.html 掲載アドレス3: http://wwwsoc.nii.ac.jp/jacg/japanese/frame_main/18/nccg−41/index2011.html 発表した刊行物:NCCG−41 予稿集 発行者名:日本結晶成長学会 発行年月日:平成23年11月3日 発表した研究集会:第41回 結晶成長国内会議(NCCG−41) 主催者名:日本結晶成長学会 開催日:平成23年11月3〜5日 発表日:平成23年11月5日 電気通信回線による発表: 掲載年月日:平成24年2月16日 掲載アドレス4: http://jjap.jsap.jp/journal/JJAP−51−3R.html 掲載アドレス5: http://jjap.jsap.jp/link?JJAP/51/035501/ 掲載アドレス6: http://jjap.jsap.jp/link?JJAP/51/035501/pdf 掲載アドレス7: https://www.jsap.jp/cgi−bin/buypdf?journal=JJAP&volume=51&page=035501
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶成長工程において、窒素を含む雰囲気下で、III族元素とアルカリ金属と前記窒素とを含む融液に前記ウェットエッチングした種結晶表面を接触させ、前記種結晶表面からIII族窒化物結晶を成長させる請求項1記載の製造方法。
前記結晶成長工程において成長させたIII族窒化物結晶を、III族窒化物種結晶とし、再度、前記ウェットエッチング工程および前記結晶成長工程を繰り返す、請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例を挙げて説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0015】
<1.本発明の製造方法>
前述のとおり、本発明のIII族窒化物結晶の製造方法は、III族窒化物種結晶表面をウェットエッチングするウェットエッチング工程と、前記ウェットエッチングした種結晶表面からIII族窒化物結晶を成長させる結晶成長工程とを含み、前記結晶成長工程において成長させたIII族窒化物結晶の転位密度が、前記ウェットエッチング工程におけるウェットエッチング後の前記種結晶表面の転位密度以下であることを特徴とする。
【0016】
前述のように、ある程度結晶欠陥が少なく高品質なIII族窒化物種結晶(以下、単に「種結晶」ということがある。)を用いた場合、結晶成長によってそれ以上に結晶欠陥が少なく高品質なIII族窒化物結晶(以下、単に「結晶」ということがある。)を得ることは困難である。この理由は明らかではないが、例えば、前記種結晶表面を平坦にするための切断、研磨等の処理により、前記種結晶平面に細かい傷がつき、それが、成長した結晶に結晶欠陥として引き継がれるためと考えられる。すなわち、前記種結晶内部には結晶欠陥が少なくても、前記種結晶表面は結晶欠陥が多く、それが成長した結晶に引き継がれてしまうため、成長した結晶の結晶欠陥は、一定以下には少なくならないと推測される。本発明者らは、III族窒化物結晶の製造にこのような問題があることを見出し、本発明に到達した。本発明では、前記種結晶表面をウェットエッチングすることで、結晶欠陥が多い前記種結晶表面を除去する。これにより、前記結晶成長工程において前記種結晶表面から成長する結晶の転位密度が少なくなり、高品質な結晶が得られる。
【0017】
また、本発明では、種結晶のウェットエッチングにより前記種結晶自体の転位密度は変わらなくても、前記種結晶から成長させた結晶の転位密度が、前記種結晶をウェットエッチングしない場合と比較して大幅に小さくなる場合がある(例えば、後述の実施例2)。この理由も明らかではないが、例えば、ウェットエッチングにより転位密度そのものは変わらなくても、前記種結晶表面の傷が除去されて均一度が増したために結晶欠陥が少ない状態となり、前記種結晶表面から成長する種結晶の転位が解消されやすくなると考えられる。
【0018】
図1(a)〜(c)の工程断面図に、本発明のIII族窒化物結晶の製造方法について模式的に例示する。すなわち、まず、
図1(a)に示すように、III族窒化物種結晶11を準備する。種結晶11の表面(結晶成長面)11aは、例えば、切断、研磨等により、種結晶11内部よりも転位密度(結晶欠陥)が大きい状態であっても良い。つぎに、前記ウェットエッチング工程により、種結晶11の表面11aをウェットエッチングし、
図1(b)に示すように、表面11aよりも転位密度(結晶欠陥)が少ないIII族窒化物種結晶表面11bを出現させる。そして、
図1(c)に示すように、前記結晶成長工程により、ウェットエッチングした種結晶表面11bからIII族窒化物結晶12を成長させる。結晶12の転位密度は、表面11bの転位密度以下である。
【0019】
本発明のIII族窒化物種結晶の製造方法は、より具体的には、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0020】
すなわち、まず、前記III族窒化物種結晶を準備する。前記種結晶は、特に限定されないが、例えば、Al
xGa
yIn
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)で表されるIII族窒化物である。前記種結晶は、例えば、前記組成で表されるAlGaN、InGaN、InAlGaN、GaN等が挙げられ、GaNが特に好ましい。前記種結晶の形状も特に限定されないが、板状または薄膜状であることが好ましい。なお、以下において、このような板状または薄膜状の種結晶を、「種基板」または単に「基板」ということがある。前記種結晶は、例えば、サファイア基板等の他の基板上に気相成長法で成長させた薄膜(基板)等でも良いし、バルクな(塊の)III族窒化物種結晶から切り出した基板等であっても良い。前記基板(種結晶)の表面(結晶成長面)は、特に限定されないが、例えば、c面、m面、a面またはその他の任意の面でも良く、非極性面または無極性面でも良いし、極性面でも良い。また、ウェットエッチングする前に、必要に応じて、例えば、機械的研磨、化学的研磨等の研磨処理等をしても良い。
【0021】
つぎに、前記III族窒化物種結晶表面(結晶成長面)をウェットエッチングする前記ウェットエッチング工程を行う。前記ウェットエッチング工程において、エッチング深さは、特に限定されないが、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上、特に好ましくは10μm以上である。前述のとおり、前記種結晶表面は、切断、研磨等の影響により結晶欠陥が多くなっている場合があるが、深くエッチングすれば、結晶欠陥が多い前記種結晶表面を除去し、前記種結晶表面の転位密度を少なくすることができるためである。エッチング深さの上限は特に限定されないが、例えば200μm以下である。前記ウェットエッチング工程におけるウェットエッチング後の前記種結晶表面の転位密度は、好ましくは1×10
8cm
−2以下、より好ましくは10
7cm
−2以下、さらに好ましくは1×10
6cm
−2以下、特に好ましくは1×10
5cm
−2以下である。その下限値は特に限定されず、理想的には0、または、0を超え測定限界値以下の値である。
【0022】
前記ウェットエッチング工程において、エッチャント(エッチング液)は特に限定されず、公知のエッチャント等を適宜用いることができる。前記エッチャントは、例えば、酸、アルカリ等が挙げられる。前記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、縮合リン酸(ピロリン酸、ポリリン酸等)、過酸化水素水等が挙げられ、ピロリン酸が特に好ましい。前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。前記エッチャントは、例えば、そのまま用いても、水溶液等の溶液として用いても良いが、ピロリン酸の場合、そのまま用いることが好ましい。また、前記エッチャントは、二種類以上併用しても良く、例えば、硫酸とリン酸との混合物、または、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合水溶液等でも良い。ピロリン酸水溶液の場合、その濃度は、特に限定されないが、例えば30〜100%、好ましくは65〜90%、より好ましくは70〜85%である。前記エッチャントの温度も特に限定されないが、例えば50〜500℃、好ましくは200〜400℃、より好ましくは250〜350℃である。前記ウェットエッチング工程におけるエッチング時間も特に限定されないが、例えば5秒〜30時間、好ましくは1分〜10時間、より好ましくは5分〜1時間である。また、エッチング深さは、特に限定されないが、例えば、0.3μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、上限値は特に限定されないが、例えば200μm以下である。結晶欠陥が多い前記種結晶表面(以下「結晶欠陥層」ということがある。)が残っていると、成長した結晶に、前記結晶欠陥層の結晶欠陥が引き継がれてしまうおそれがあるため、エッチング深さを十分に深くすることが好ましい。また、前記種結晶が高品質であると、エッチング速度が遅いために、かえって前記結晶欠陥層を除去しにくい場合があるため、エッチング温度等を高めに調整することが好ましい。なお、ピロリン酸でのウェットエッチングについては、例えば、特開2000−068608号公報等に記載されている。
【0023】
つぎに、前記ウェットエッチングした種結晶表面からIII族窒化物結晶を成長させる、前記結晶成長工程を行う。前記結晶成長工程は特に限定されず、例えば、気相成長法でも良いし、液相成長法でも良いが、より結晶欠陥が少なく高品質なIII族窒化物結晶を得る観点から、液相成長法が好ましい。前記気相成長法としては、例えば、有機金属化学蒸着(MOCVD)法、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE)法、酸化ガリウムを用いた気相成長法、水素化ガリウムを用いた気相成長法等が挙げられる。前記液相成長法としては、例えば、高圧溶液法、アルカリ金属融液(フラックス)法、アモノサーマル法等が挙げられるが、特に結晶欠陥が少なく高品質なIII族窒化物結晶を得る観点から、アルカリ金属融液(フラックス)を用いる方法が、より好ましい。以下、主に、前記結晶成長工程においてアルカリ金属融液を用いる方法について説明する。
【0024】
前記結晶成長工程は、例えば、アルカリ金属融液を用いた一般的な液相成長法(LPE)によるIII族窒化物結晶の製造方法と同様に、またはそれらを参考にして行っても良い。一般的な液相成長法(LPE)としては、例えば、LEDやパワーデバイスの半導体基板としての窒化ガリウム(GaN)の製造に用いられるナトリウムフラックス法(Naフラックス法)がある。この方法は、例えば、まず、坩堝内に、種結晶(例えば、サファイア基板上に形成されたGaN薄膜)をセットする。また、前記坩堝内に、前記種結晶とともに、ナトリウム(Na)とガリウム(Ga)を適宜な割合で収納しておく。つぎに、前記坩堝内のナトリウムおよびガリウムを、高温(例えば、800〜1000℃)、高圧(例えば、数十気圧)の環境下で、溶融させ、その融液内に窒素ガス(N
2)を溶け込ませる。これにより、前記坩堝内のGaN種結晶を成長させ、目的のGaN結晶を製造することができる。ただし、本発明の前記結晶成長工程は、これのみには限定されない。
【0025】
本発明の前記結晶成長工程において、アルカリ金属融液を用いる場合、窒素を含む雰囲気下で、III族元素とアルカリ金属と前記窒素とを含む融液に前記ウェットエッチングした種結晶表面を接触させ、前記種結晶表面からIII族窒化物結晶を成長させることが好ましい。前記窒素と反応させる前記III族元素は、例えば、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも一つであり、Gaであることが特に好ましい。
【0026】
前記結晶成長工程において成長する前記III族窒化物結晶は、特に限定されないが、例えば、Al
xGa
yIn
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)で表されるIII族窒化物結晶であり、例えば、前記組成で表されるAlGaN、InGaN、InAlGaN、GaN等が挙げられ、GaNが特に好ましい。前記結晶成長工程において生成し成長する前記III族窒化物結晶の組成は、前記種結晶と同じでも異なっていても良いが、同じであることが、欠陥が少ない高品質なIII族窒化物結晶を得る観点から好ましい。
【0027】
前記結晶成長工程は、前述のとおり、窒素を含む雰囲気下で行うことが好ましい。前記「窒素を含む雰囲気下」において、窒素の形態は、特に制限されず、例えば、ガス、窒素分子、窒素化合物等が挙げられる。前記「窒素を含む雰囲気下」は、窒素含有ガス雰囲気下であることが好ましい。前記窒素含有ガスが、前記フラックスに溶けてIII族窒化物結晶の育成原料となるからである。前記窒素含有ガスは、前述の窒素ガス(N
2)に加え、またはこれに代えて、アンモニアガス(NH
3)等の他の窒素含有ガスを用いても良い。窒素ガスおよびアンモニアガスの混合ガスを用いる場合、混合率は任意である。特に、アンモニアガスを使用すると、反応圧力を低減できるので、好ましい。
【0028】
前記アルカリ金属融液(フラックス)は、ナトリウムに加え、またはこれに代えて、リチウム等の他のアルカリ金属を用いても良い。より具体的には、前記アルカリ金属融液は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)からなる群から選択される少なくとも1つを含み、例えば、NaとLiとの混合フラックス等であっても良い。前記アルカリ金属融液は、ナトリウム融液であることが特に好ましい。また、前記アルカリ金属融液は、アルカリ金属以外の成分を1種類または複数種類含んでいても良いし、含んでいなくても良い。前記アルカリ金属以外の成分としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属が挙げられ、前記アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Br)およびラジウム(Ra)があり、この中で、CaおよびMgが好ましく、より好ましくはCaである。また、前記アルカリ金属以外の成分としては、例えば、炭素(炭素単体または炭素化合物)を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。好ましいのは、前記融液において、シアン(CN)を発生する炭素単体および炭素化合物である。また、炭素は、気体状の有機物であってもよい。このような炭素単体および炭素化合物としては、例えば、シアン化物、グラファイト、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼン等があげられる。前記炭素の含有量は、特に限定されないが、前記融液、前記III族元素および前記炭素の合計を基準として、例えば、0.01〜20原子(at.)%の範囲、0.05〜15原子(at.)%の範囲、0.1〜10原子(at.)%の範囲、0.1〜5原子(at.)%の範囲、0.25〜7.5原子(at.)%の範囲、0.25〜5原子(at.)%の範囲、0.5〜5原子(at.)%の範囲、0.5〜2.5原子(at.)%の範囲、0.5〜2原子(at.)%の範囲、0.5〜1原子(at.)%の範囲、1〜5原子(at.)%の範囲、または1〜2原子(at.)%の範囲である。この中でも、0.5〜5原子(at.)%の範囲、0.5〜2.5原子(at.)%の範囲、0.5〜2原子(at.)%の範囲、0.5〜1原子(at.)%の範囲、1〜5原子(at.)%の範囲、または1〜2原子(at.)%の範囲が好ましい。
【0029】
III族元素に対するアルカリ金属の添加割合は、例えば、0.1〜99.9mol%、好ましくは1〜99mol%、より好ましくは5〜98mol%である。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属の混合フラックスを使用する場合のモル比は、例えば、アルカリ金属:アルカリ土類金属=99.99〜0.01:0.01〜99.99、好ましくは99.9〜0.05:0.1〜99.95、より好ましくは99.5〜1:0.5〜99である。前記融液の純度は、高いことが好ましい。例えば、Naの純度は、99.95%以上の純度であることが好ましい。高純度のフラックス成分(例えば、Na)は、高純度の市販品を用いてもよいし、市販品を購入後、蒸留等の方法により純度を上げたものを使用してもよい。
【0030】
III族元素と窒素含有ガスとの反応温度および圧力も、前記の数値に限定されず、適宜設定して良い。適切な反応温度および圧力は、融液(フラックス)の成分、雰囲気ガス成分およびその圧力によって変化するが、例えば、温度100〜1500℃、圧力100Pa〜20MPaであり、好ましくは、温度300〜1200℃、圧力0.01MPa〜20MPaであり、より好ましくは、温度500〜1100℃、圧力0.1MPa〜10MPaであり、さらに好ましくは、温度700〜1100℃、圧力0.1MPa〜10MPaである。また、反応時間、すなわち結晶の成長(育成)時間は、特に限定されず、結晶が適切な大きさに成長するように適宜設定すれば良いが、例えば1〜1000hr、好ましくは5〜600hr、より好ましくは10〜400hrである。
【0031】
本発明の製造方法において、場合によっては、前記フラックスによって、窒素濃度が上昇するまでに、前記種結晶が溶解するおそれがある。これを防止するために、少なくとも反応初期において、窒化物を前記フラックス中に存在させておいても良い。前記窒化物としては、例えば、Ca
3N
2、Li
3N、NaN
3、BN、Si
3N
4、InN等があり、これらは単独で使用してもよく、2種類以上で併用してもよい。また、前記窒化物の前記フラックスにおける割合は、例えば、0.0001mol%〜99mol%であり、好ましくは、0.001mol%〜50mol%であり、より好ましくは0.005mol%〜10mol%である。
【0032】
本発明の製造方法において、前記混合フラックス中に、不純物を存在させることも可能である。このようにすれば、不純物含有のGaN結晶を製造できる。前記不純物は、例えば、珪素(Si)、アルミナ(Al
2O
3)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、窒化インジウム(InN)、酸化珪素(SiO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、ゲルマニウム(Ge)等がある。
【0033】
本発明の製造方法において、前記融液を撹拌する撹拌工程をさらに含んでもよい。前記撹拌工程を行う段階は、特に制限されないが、例えば、前記結晶成長工程の前、前記結晶成長工程と同時、および前記結晶成長工程の後における少なくとも一つにおいて行ってもよい。より具体的には、例えば、前記結晶成長工程の前に行っても、前記結晶成長工程と同時に行っても、その両方で行ってもよい。
【0034】
なお、前記結晶成長工程に用いる装置は、特に限定されないが、一般的な液相成長法に用いる装置(LPE装置)と同様でも良く、具体的には、例えば、特許文献1(特許第4588340号公報)に記載のLPE装置等であっても良い。以下、
図18〜20を用いて、そのようなLPE装置について説明する。
【0035】
図18(a)および(b)の模式図に、LPE装置の構成の一例を示す。
図18(a)のLPE装置は、原料ガスである窒素ガス、またはアンモニアガス(NH
3ガス)と窒素ガスとの混合ガスを供給するための原料ガスタンク361と、育成雰囲気の圧力を調整するための圧力調整器362と、リーク用バルブ363と、結晶育成を行うためのステンレス容器364と、電気炉365とを備える。
図18(b)は、ステンレス容器364を拡大したものであって、ステンレス容器364の内部には、坩堝366がセットされている。坩堝366は、ボロンナイトライド(BN)、アルミナ(Al
2O
3)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG、Yttrium Aluminum Garnet)等からなる。坩堝366は、温度を600℃〜1000℃に制御できる。原料ガスタンク361から供給された雰囲気圧力(100atm(100×1.013×10
5Pa)〜150atm(150×1.013×10
5Pa))は、圧力調整器362によって100atm(100×1.013×10
5Pa)以下の範囲に制御できる。
【0036】
図19に、大型のLPE装置(電気炉)の一例を示す。図示のとおり、このLPE装置は、ステンレス製のチャンバー371と炉蓋372とを有する電気炉370を備え、10atm(10×1.013×10
5Pa)の気圧に耐えられるようになっている。チャンバー371内には、加熱用のヒータ373が配置されている。チャンバー371は、ゾーン3700a、3700b、3700cからなる3つのゾーンから構成されており、それぞれには熱電対374a〜374cが取り付けられている。3つのゾーンは、温度範囲が±0.1℃に収まるように制御されており、炉内の温度は均一に制御される。炉心管375は、炉内の温度の均一性を向上させるとともに、ヒータ373から不純物が混入することを防止するために配置される。
【0037】
炉心管375の内部には、窒化ホウ素(BN)からなる坩堝376が配置されている。坩堝376に材料を投入し、坩堝の温度を上昇させることによって融液377が調製される。種結晶となる基板10は基板固定部378に取り付けられる。
図19の装置では、複数枚の基板10を基板固定部378に固定できる。この基板10は、回転モータ379aによって回転される。融液377には、撹拌用のプロペラ3701が浸漬できるようになっている。プロペラ3701は、回転モータ379bによって回転される。例えば、雰囲気圧力が10atm(10×1.013×10
5Pa)以下である場合は、通常の回転モータを使用しても良いが、10atm(10×1.013×10
5Pa)以上の雰囲気圧力下では、電磁誘導型の回転機構を使用することが好ましい。雰囲気ガス(原料ガス)は、ガス源3702から供給される。雰囲気ガスの圧力は、圧力調整器3703によって調整される。雰囲気ガスはガス精製部3704によって不純物が除去されたのちに、炉内に送られる。
【0038】
図20に、揺動型LPE装置の一例を示す。図示のとおり、この揺動型LPE装置380は、ステンレス製の育成炉381と流量調節器388とを備え、育成炉381と流量調節器388とは管389で連結されている。育成炉381は、加熱用のヒータ382および熱電対383が配置され、50atm(50×1.013×10
5Pa)の気圧に耐えられるようになっている。さらに育成炉381内には、坩堝固定台384があり、回転軸3802を中心に図中の矢印3801の方向に回転する機構が取り付けられている。坩堝固定台384内に窒化ホウ素(BN)からなる坩堝385を固定し、坩堝385内に融液386および種結晶387を配置する。坩堝固定台が回転することにより、坩堝385内の融液が左右に移動し、これにより、種結晶上の成長方向が一定方向に制御される。本実施例では、融液の揺動方向が、種結晶387の平面に対して平行方向になるように、GaN種結晶基板387が固定されることが望ましい。雰囲気圧力は、流量調整器388によって調整される。原料ガスである窒素ガス、またはアンモニアガス(NH
3ガス)と窒素ガスとの混合ガスを供給するための原料ガスタンクから図中の矢印3800方向に供給される雰囲気ガスは、ガス精製部によって不純物が除去されたのちに、育成炉381内に送られる。
【0039】
また、本発明の製造方法において、前記結晶成長工程において成長させたIII族窒化物結晶を、III族窒化物種結晶とし、再度、前記ウェットエッチング工程および前記結晶成長工程を繰り返しても良い。前記結晶成長工程によれば、前記種結晶よりも転位密度(結晶欠陥)が少ない高品質な結晶を製造することも可能なので、このように前記ウェットエッチング工程および前記結晶成長工程を複数回繰り返すことで、さらに高品質な結晶を得ることもできる。前記種結晶は、前記ウェットエッチング工程に先立ち、必要に応じて、カットして任意の面(例えば、c面、m面、a面、またはその他の非極性面)を露出させたり、機械的研磨、化学的研磨等の研磨処理等をしても良い。
図1(a)〜(c)および
図2(a)〜(c)の工程断面図に、このような製造方法について模式的に例示する。すなわち、まず、
図1(a)〜(c)に示す工程により、前述のとおり、III族窒化物結晶12を製造し、これをIII族窒化物種結晶とする。
図2(a)に示すように、このIII族窒化物種結晶12の表面(結晶成長面)12aは、例えば、切断、研磨等により、種結晶12内部よりも転位密度(結晶欠陥)が大きい状態であっても良い。つぎに、前記ウェットエッチング工程により、種結晶12の表面12aをウェットエッチングし、
図2(b)に示すように、表面12aよりも転位密度(結晶欠陥)が少ないIII族窒化物種結晶表面12bを出現させる。そして、
図2(c)に示すように、前記結晶成長工程により、ウェットエッチングした種結晶表面12bからIII族窒化物結晶13を成長させる。結晶13の転位密度は、表面12bの転位密度以下である。
【0040】
従来のGaNウェハ(自立基板)の転位密度は、高品質な基板でも10
4〜10
6cm
−2オーダーであるが、本発明の製造方法によれば、例えば、10
3〜10
4cm
−2オーダーのGaN基板(GaN結晶)も製造可能である。前述のように、前記ウェットエッチング工程および前記結晶成長工程を複数回繰り返せば、さらに転位密度は減少するので、10
2cm
−2以下のオーダーの結晶も製造できる場合がある。ただし、これらの数値は例示であり、本発明を限定しない。
【0041】
前記結晶成長工程において成長させたIII族窒化物結晶の転位密度は、好ましくは1×10
6cm
−2以下、より好ましくは1×10
5cm
−2以下、さらに好ましくは1×10
4cm
−2以下、特に好ましくは1×10
3cm
−2以下である。その下限値は、特に限定されないが、理想的には0、または、0を超え測定限界値以下の値である。なお、本発明において、前記結晶成長工程において成長させたIII族窒化物結晶の転位密度は、前記III族窒化物結晶を、エッチング深さ0.3μm以上でウェットエッチングして測定した表面の転位密度とする。結晶内部の転位密度は直接測定できないが、単に結晶表面の転位密度を測定したのみでは、結晶表面の転位密度が(例えば研磨、切断等により)大きくなっており、結晶内部の転位密度を正しく反映していない場合があるためである。前記転位密度測定時の測定面積は、好ましくは10000μm
2以上、より好ましくは1mm
2以上、特に好ましくは1cm
2以上であり、上限値は特に限定されないが、例えば100cm
2以下である。前記転位密度の測定方法は、特に制限されないが、例えば、カソードルミネッセンス(CL)、エッチングによるエッチビット観察等により、III族元素窒化物結晶の結晶構造を観察して測定することが
できる。
【0042】
また、前記結晶成長工程において成長させたIII族窒化物結晶において、XRC(X線ロッキングカーブ回折法)による半値幅(半値全幅)の、対照反射成分(002)および非対称反射成分(102)の半値幅は、それぞれ、例えば100秒角以下、好ましくは30秒角以下であり、理想的には0、または0を超え検出限界値以下の値である。なお、前記半値全幅(FWHM、Full width at half maximum)は、例えば、2結晶法X線回析により測定できる。2結晶法X線回析とは、X線源から入射したX線を第1結晶により高度に単色化し、第2結晶である前記III族窒化物結晶に照射し、III族窒化物結晶結晶から回折されるX線のピークを中心とする半値全幅(FWHM)を求める方法である。前記X線源は、特に制限されないが、例えば、CuKα線等が使用できる。また、前記第1結晶も特に制限 されないが、例えば、InP結晶やGe結晶等が使用できる。
【0043】
<2.III族窒化物結晶および半導体装置>
本発明のIII族窒化物結晶は、前記本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物結晶、または、本発明のIII族窒化物結晶は、転位密度が1×10
3cm
−2以下であるIII族窒化物結晶である。前記本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物結晶の転位密度は、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。また、従来の製造方法では、転位密度が1×10
4cm
−2以下であるIII族窒化物結晶は製造できなかったが、前記本発明の製造方法によれば製造可能である。なお、転位密度が1×10
3cm
−2以下であるIII族窒化物結晶は、前記本発明の製造方法により製造することが好ましいが、他の任意の製造方法により製造しても良い。また、本発明のIII族窒化物結晶の用途も特に限定されないが、例えば、半導体としての性質を有することにより、半導体装置に使用可能である。
【0044】
本発明によれば、例えば、Si(シリコン)の大口径化が基準となっているパワーデバイス、高周波デバイス、LED、LD等の半導体装置において、Siに代えてIII族窒化物を用いることで、さらなる高性能化も可能である。また、本発明のIII族窒化物結晶は、これらに限定されず、例えば、太陽電池、光検出器等の任意の半導体装置に用いることもできるし、また、半導体装置以外の任意の用途に用いても良い。
【実施例】
【0045】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されない。
【0046】
以下の実施例、比較例および参考例では、表面処理したGaN種結晶(以下「種基板」または単に「基板」ということがある。)から、Naフラックス法を用いた結晶成長でGaN結晶を製造し、そのGaN結晶の結晶性(結晶化度)に対する前記表面処理の効果を確認した。なお、結晶性(結晶化度)は、結晶欠陥の少なさ(すなわち、結晶形の完全性の指標)と同義である。GaN種結晶としては、実施例1〜4および参考例1〜2ではc面種基板(種結晶)を用い、実施例5および参考例3ではa面種基板(種結晶)を用いた。これらのc面種基板またはa面種基板は、HVPE法で製造したバルクな(塊の)c面GaN結晶をスライスして得た自立GaN基板である。
【0047】
前記種基板の表面処理は、任意に、ダイヤラップ(株式会社マルトーの商品名)自動研磨機を用いた機械研磨、化学的機械研磨(CMP)およびピロリン酸を用いたウェットエッチング(WE)の1または複数の処理を施し、その後、フッ化水素水で洗浄および乾燥することにより行った。ダイヤラップによる機械研磨は、回転数を60rpmとし、適宜、前記種基板の外観が平坦になるまで行った。CMPは、日本エンギス社のCMP用ポリッシングマシーン(商品名)を用い、コロイダルシリカを研磨剤に用いて、15時間研磨した。ウェットエッチングは、ピロリン酸を、希釈せずにそのまま用いた。エッチング時の温度、時間等は、各実施例、比較例または参考例に記載のとおりである。
【0048】
結晶の製造(成長)には、実施例4以外は、全て、
図18に示す構造のLPE装置を用いた。実施例4では、
図20に示す大型LPE装置を用いた。坩堝は、実施例1〜3では、全て、アルミナ製の、高さ50mm、内径17mmの円筒形の坩堝を用いた。実施例4では、アルミナ製の、高さ45mm、内径80mmの円筒形の坩堝を用いた。実施例5では、イットリア製の、高さ50mm、内径17mmの円筒形の坩堝を用いた。全ての実施例において、前記坩堝内に、Ga:Na(用いたガリウムとナトリウムとの物質量比(モル比))を27:73で加え、さらに、炭素粉末を、GaおよびNaの物質量(モル数)の合計に対し、0.5mol%添加した。また、実施例5では、前記坩堝内に、さらに、GaおよびNaの物質量(モル数)の合計に対し0.05mol%のカルシウム(Ca)と、0.1mol%のリチウム(Li)を加えた。これらの融液中に、前記種基板を浸漬させ、窒素ガス(N
2)圧力4.0MPa(ただし、実施例4のみ3.0MPa)の雰囲気下で96hr反応させた。反応温度は、実施例1〜4では870℃、実施例5では890℃とした。なお、坩堝内への前記各物質および前記種基板の添加は、アルゴンガスで満たしたグローブボックス中で行った。
【0049】
XRD(X線回折法)測定およびX線ロッキングカーブ(XRC)測定は、SmartLab(株式会社リガクの商品名)X線回折装置(スリット幅0.5mm)を用いて行った。XRCにおいて、X線の入射方向は、c軸方向(チルト)およびa軸方向(ツイスト)と平行とした。なお、
図13(a)に、XRCにおけるX線の入射方向の模式図を示す。GaN結晶(種基板を含む)の表面形態、断面プロファイル、および90×65μm
2の二乗平均(RMS)粗さは、VK−9700(株式会社キーエンスの商品名)計器を用いてレーザー顕微鏡により測定した。カソードルミネッセンス(CL)測定は、HORIBAイメージング−CL DF−100(株式会社堀場製作所の商品名)機器を使用し、励起光源として5keVの電子ビームを用いて室温で行った。
【0050】
<参考例1>
c面GaN基板を、ダイヤラップで機械的研磨(以下「ダイヤラップ処理」ということがある。)し、その後、何もしないか、またはピロリン酸でウェットエッチング(以下「WE処理」ということがある。)し、それぞれ、目視による外観とCL像とを確認した。
図3の写真に、その結果を示す。図示のとおり、WE処理しない基板は、目視では着色が確認され、CL像では全体に暗い像が得られたことから、表面の結晶欠陥が多いことが確認された。これに対し、WE処理した基板は、目視では着色がほとんどなく、CL像でも全体に明るい像が得られたことから、表面の結晶欠陥が少ないことが確認された。なお、本参考例では、ピロリン酸によるウェットエッチングは、300℃で20分間行った。
【0051】
<参考例2>
c面GaN基板を、ダイヤラップ処理したもの(ダイヤラップ処理基板)、ダイヤラップ処理後CMP処理したもの(ダイヤラップ+CMP処理基板)、ダイヤラップ処理後300℃で20分間WE処理したもの(ダイヤラップ+WE処理基板)、および、ダイヤラップ後CMP処理しさらにその後300℃で20分間WE処理したもの(ダイヤラップ+CMP+WE処理基板)について、それぞれ、XRCの半値幅(半値全幅、FWHM)を測定した。
図4に、その結果を示す。なお、測定は、それぞれ10点以上行ない、その平均値および標準偏差をとった。図示のとおり、ダイヤラップ処理のみの基板は、FWHM値が300秒角(arcsec)以上であり、ダイヤラップ+CM処理の基板は、FWHM値が100〜200秒角以上であった。これに対し、WE処理した基板は、CMP処理の有無にかかわらず、FWHM値が100秒角未満のきわめて低い値を示した。すなわち、WE処理により、種基板(種結晶)表面の結晶欠陥を効果的に低減できることが確認された。
【0052】
<実施例1>
c面GaN基板(種基板)を、ダイヤラップ処理したもの(ダイヤラップ処理基板)、ダイヤラップ処理後CMP処理したもの(ダイヤラップ+CMP処理基板)、および、ダイヤラップ処理後300℃で20分間WE処理(エッチング深さ未測定:推定値0.2μm)したもの(ダイヤラップ+WE処理基板)のそれぞれについて、ナトリウムフラックス法により結晶成長を行い、GaN結晶を製造した。なお、ダイヤラップ処理基板、ダイヤラップ+CMP基板、および、ダイヤラップ+WE処理基板のそれぞれは、参考例2と同様である。各種基板およびその種基板から成長させたGaN結晶のそれぞれについて測定したXRC半値全幅(FWHM)の値を、
図5に併せて示す。図示のとおり、WE処理により、種基板のみならず、成長したGaN結晶のFWHM値も小さくなり、結晶欠陥がきわめて少なくなっていることが確認された。また、いずれの種基板においても、種基板自体よりも、その種基板から成長したGaN結晶の方がFWHM値が小さくなっていた。
【0053】
<実施例2>
実施例1と同様のc面種基板を用いて同様にGaN結晶を製造した。さらに、それぞれの種基板およびGaN結晶について、転位密度を測定した。
図6に、種基板と、それぞれの種基板から成長したGaN結晶の転位密度の数値をまとめて示す。さらに、同図には、それぞれのGaN結晶表面のカソードルミネッセンス像も併せて示す。
図6一番左は、種基板(ダイヤラップ+WE処理基板)の転位密度とカソードルミネッセンス像を表し、左から2番目は、ダイヤラップ処理基板から成長させたGaN結晶の転位密度とカソードルミネッセンス像を表し、左から3番目は、ダイヤラップ+CMP処理基板から成長させたGaN結晶の転位密度とカソードルミネッセンス像を表し、一番右は、ダイヤラップ+WE処理基板から成長させたGaN結晶の転位密度とカソードルミネッセンス像を表す。
【0054】
ダイヤラップ処理基板およびダイヤラップ+CMP基板については図示していないが、これらの転位密度は、3.7×10
7cm
−2と、ダイヤラップ+WE基板と同じであった。これに対し、種基板から成長したGaN結晶の転位密度は、
図6に示す通り、ダイヤラップ処理、ダイヤラップ+CMP処理、ダイヤラップ+WE処理の順に次第に小さくなっていった。具体的には、ダイヤラップ基板から成長させたGaN結晶が1.7×10
6cm
−2、ダイヤラップ+CMP処理基板から成長させたGaN結晶が2.2×10
5cm
−2であり、特に、ダイヤラップ+WE処理基板から成長させたGaN結晶の転位密度は、4.6×10
4cm
−2ときわめて小さくなっていた。また、GaN結晶表面のカソードルミネッセンス像も、転位密度の測定値が小さい順に黒点が少なく、特に、WE処理した種基板から成長させたGaN結晶では、結晶欠陥がきわめて少ないことを裏付けていた。
【0055】
前述のとおり、種基板をWE処理した場合、種基板の転位密度よりも種基板から成長したGaN結晶の転位密度の方が小さくなっていた。これにより、種基板よりも結晶欠陥の小さい高品質なGaN結晶が得られたことが確認された。さらに、前述のとおり、本実施例で用いた3つの種基板の転位密度はいずれも同じであるが、これらの種基板から成長させたGaN結晶の転位密度には大きな差があり、WE処理した場合が最も小さかった。この理由は明らかではないが、実施例1に示したように、種基板のXRC−FWHM(半値全幅)は、WE処理した基板が最も小さかったことが影響していると推測される。すなわち、WE処理により、基板の転位密度自体は変わらなくても、基板表面の傷が除去されて均一度が増したために、それがFWHMの減少として現れ、さらに、成長したGaN結晶の転位が解消されやすくなったと推測される。
【0056】
なお、CMP処理した種基板から成長させたc面GaN結晶の転位密度は、前述のとおり、2.2×10
5cm
−2と、WE処理した種基板から成長させたGaN結晶と比較して大きかった。この理由は明らかではないが、CMP処理中の機械的な研磨と研磨剤残基によりわずかに損傷した層が、成長したGaNの結晶性に影響を与えたと考えられる。
【0057】
また、
図8の写真に、実施例1および2の、ダイヤラップ処理基板、ダイヤラップ+CMP処理基板、ダイヤラップ+WE処理基板のそれぞれから成長させたGaN結晶について、種基板との界面付近の断面CL像を、それぞれ示す。また、
図9に、
図8の写真の一部の拡大写真を示す。
図8および9に示す通り、WE処理基板から成長させたGaN結晶は、種基板との界面付近で結晶欠陥がきわめて少ないことが確認された。このため、成長したGaN結晶に欠陥が引き継がれにくく、前記GaN結晶の転位密度およびFWHM値がきわめて小さくなったと考えられる。
【0058】
<実施例3>
実施例2のWE基板から成長させたGaN結晶の表面を、ダイヤラップ処理後300℃で20分間WE処理(エッチング深さ未測定:推定値0.2μm)し、その表面から、再度、実施例2と同様の方法で結晶成長をさせてGaN結晶を製造した。
図7のグラフに、その転位密度を示す。図示のとおり、成長したGaN結晶の転位密度は、1回目のWEおよび結晶成長(実施例2)では4.6×10
4cm
−2であったのに対し、2回目のWE処理および結晶成長により、3.9×10
3cm
−2とさらに小さくなっていた。すなわち、WE処理および結晶成長を複数回繰り返すことにより、さらに結晶欠陥が少ない高品質なGaN結晶が得られることが確認された。さらに、2回目のWE処理および結晶成長により得られたGaN結晶(転位密度3.9×10
3cm
−2)に、再度、同様のWE処理及び結晶成長を繰り返すと、転位密度が10
2cm
−2台(1×10
3cm
−2未満)のGaN結晶が得られた。
【0059】
<参考例2>
参考例1および実施例1〜3と同様の基板をダイヤラップ処理し(ナノダイヤラップ基板)、その後、任意にピロリン酸でWE処理し、XRD(X線回折法)およびCL像で表面の結晶欠陥を評価した。
図10に、XRDによるピークトップシフト値およびFWHK値の評価結果を示す。なお、同図中、「DP」は、ダイヤラップ処理基板(WE処理していない基板)を表し、「WE」は、300℃で10分間WE処理(エッチング深さ未測定:推定値0.1μm)した基板を表す。また、XRDは、SF{11−20}方向と平行かつOF{10−10}方向と垂直にX線を照射し、測定点間隔10mmで測定した。
図10に示す通り、ピロリン酸によるWE処理前後において、FWHK値が、基板全面で約90秒角から約36秒角まで低下していたことから、結晶欠陥の低減が確認された。また、ピークトップシフト値はWE処理前後で有意な変化が見られなかったことから、曲率半径には変化がなかったことが確認された。
【0060】
また、
図11のCL像(写真)に、基板の、ウェットエッチングによる表面の経時変化を示す。図上側が、300℃で10分間エッチング後(エッチング深さ未測定:推定値0.1μm)の写真であり、下側が、さらに350℃で15分間エッチング後(エッチング深さ未測定:300℃でエッチング時に加え、さらに0.15μmと推定)の写真である。図示のとおり、エッチングにより、次第に表面の研磨傷が消失し、結晶欠陥が少なくなったことが確認された。また、六回対称のコントラストが観察されたことから、この基板は六方晶構造を取っていることが確認された。
【0061】
<実施例4>
参考例2における300℃で10分間エッチング後の基板を用い、実施例1〜3と同様の方法で結晶成長を行ってGaN結晶を製造した。
図12に、そのGaN結晶の写真を示す。図示のとおり、本実施例では、欠陥が少ない高品質の単結晶が得られた。
【0062】
<参考例3>
HVPE法で製造したバルクな(塊の)c面GaN結晶をスライスして得たa面自立GaN基板を、CMP処理したもの(CMP基板)、および、ピロリン酸でWE処理したもの(WE基板)のそれぞれについて、XRCの半値全幅(FWHM)を測定した。なお、本参考例では、ダイヤラップによる機械研磨はしていない。CMP基板のXRCの半値全幅(FWHM)は、チルトにおいて50秒角(arcsec)であり、ツイストにおいて66秒角(arcsec)であった。一方、
図13(b)に、WE基板のXRCのFWHM値を、エッチングの深さの関数として示す。なお、エッチング温度は200℃とし、エッチングレートは、0.75μm/hで4時間、その後0.18μm/hとし、所望のエッチング深さになるまでエッチングを行った。
図13(b)に示す通り、エッチング深さの増加により、XRCのFWHM値は、チルトで36秒角、ツイストで41秒角まで減少していた。これらの値は、CMP基板のそれよりも小さい。すなわち、本参考例で用いたa面GaN基板は、スライスによってダメージを受けたが、それは、結晶内部において徐々に減少したと考えられる。さらに、スライスによって損傷した表面層は、化学的エッチングにより除去された。また、WE基板のXRCのFWHM値は、CMP基板のものより小さかった。この理由は明らかではないが、化学的機械研磨(CMP)による損傷層がわずかにCMP基板に残っている可能性がある。さらに、WE基板のXRCは、CMP基板に比べて狭く、結晶性が10μmのエッチング深さで急激に高くなったので、前記損傷層の厚さは、約10μmであると推定される。このように、ウェットエッチングが、GaN結晶の結晶性を改善するために、CMPよりも効果的であることが確認された。また、本参考例において、エッチング深さ約10μmでウェットエッチング後の前記a面GaN基板の転位密度を測定したところ、5.5×10
5cm
−2と小さい値であり、高品質であることが確認された。
【0063】
また、
図14のレーザー顕微鏡写真に、前記基板の表面形状と断面プロファイルを示す。
図14(a)〜14(d)は、それぞれ、CMP基板、スライスしたままの(未処理の)基板、約5μmのエッチング深さのWE基板、および約10μmのエッチング深さのWE基板のCL像である。これらの図は、CMP基板は滑らかな表面を持っており、RMS粗さの値が0.025μmあったことを示している。一方、スライス後の(未処理の)基板は荒れており、RMS粗さの値は0.629μmであった。これに対し、スライス後の基板をウェットエッチングした後には、a平面から傾いた滑らかな面が表れ、エッチング深さの増加に伴って滑らかな面の面積が増加した。また、約10μmの深さでエッチングしたWE基板の表面全体は、a平面から傾いたいくつかの滑らかな面から構成され、滑らかな面の1のRMS粗さの値は0.148μmであった。すなわち、WE基板の表面粗さは、エッチングにより減少した。しかし、CMP基板の表面は、WE基板のそれよりもスムーズであった。
【0064】
<実施例5>
参考例3と同様の各基板上にGaN結晶を成長させ、その結晶性(結晶化度)を確認した。成長したGaN結晶の厚さは、0.9〜1.0ミリメートル程度であった。CMP基板上に成長させたGaN結晶のXRCのFWHM値は、チルトで210秒角、ツイストで1378秒角であった。
図15に、WE基板上に成長したGaN結晶のXRCのFWHM値を、エッチング深さの関数として示す。約3μmのエッチング深さのWE基板上に成長したGaN結晶の、ツイストにおけるXRCのFWHM値は、1000秒角を超えていた。この場合は、成長したGaNの結晶性が、スライシングによる損傷層の影響を大幅に受けたためと考えられる。一方、5μm以上のエッチング深さのWE基板上に成長したGaN結晶のXRCのFWHM値は、CMP基板上のものよりも小さかった。特に約10μmのエッチング深さのWE基板上に成長させたGaN結晶のXRCのFWHMは、最小であり、その値は、チルトにおいて47秒角、ツイストにおいて69秒角であった。すなわち、、エッチング深さの増加により、GaN結晶のXRCのFWHM値が大幅に減少していた。このように、ウェットエッチングは、a面GaN結晶の結晶性を改善するために、CMPよりも効果的であることが確認された。
【0065】
図16に、約10μmのエッチング深さのWE基板上に成長したGaN結晶の写真を示す。図示のとおり、本実施例(実施例5)で製造したa面GaN結晶は、透明性が高かった。この理由は明らかではないが、基板をウェットエッチングしたことにより、GaN結晶の欠陥が少なくなったためと考えられる。また、CaとLiの添加により、融液中の窒素の溶解度が増加し、そのため、m面GaN結晶の透明度が増加したためとも考えられる。さらに、CaとLiの添加により、例えば、N空孔などの欠陥の生成が抑制されたとも推測される。なお、
図16は、成長a面GaN結晶の表面全体にm面が表れていることをも示す。さらに、
図16のGaN結晶の転位密度を測定したところ、1.5×10
5cm
−2であった。この結晶の成長に用いたWE基板の転位密度は、前記参考例3に示したとおり、5.5×10
5cm
−2であったことから、前記WE基板から成長した
図16の結晶が、前記WE基板よりも結晶欠陥が少なく高品質であることが確認された。なお、
図16のGaN結晶のXRCのFWHMは、前述のとおり、チルトにおいて47秒角、ツイストにおいて69秒角であり、前記WE基板自体のFWHM(チルトで36秒角、ツイストで41秒角)よりも若干増加していた。しかし、これらのFWHM値自体が、無視できるほど小さい値であることと、前述のとおり、結晶成長により転位密度が5.5×10
5cm
−2から1.5×10
5cm
−2へと大幅に減少したことから、
図16のGaN結晶は、前記WE基板自体よりも結晶欠陥が少なく高品質であったと言える。
【0066】
図17(a)及び17(b)に、それぞれ、CMP基板および約5μmのエッチング深さのWE基板において、種基板と、その上に成長したGaN結晶との界面(Interface)のCL像を示す。
図17(a)は、CMP基板上における成長層の成長開始時に、多くの粒子(grain)が生成されていることを示す。
図17(a)の左下隅に示すようにCMP基板上への成長の場合には粒子間の空隙(ボイド、void)がある。対照的に、核形成サイトは比較的少ないものであり、それぞれ生成された粒子は、WE基板上への成長の開始時に大きく成長する。また、
図17(b)は、生成された粒子がm面で囲まれていることと、WE基板上でm方向に沿って成長していることを示す。したがって、刃状および螺旋転位がm方向に沿って伝播し、さらに転位の合一が発生した可能性がある。転位密度低減の主なメカニズムの基礎となるのは、合一反応であり、それは、2つの転位が新しいバーガースベクトルとともに1転位になったときに発生する。
【0067】
なお、Naフラックス法によるc面GaNの成長中には、転位が方向転換および合一するために、種基板から引き継ぐ転位の密度が大幅に減少することがある。これは、{1011}面の形成と{1011}方向に沿った成長によるものであると推測される。このメカニズムを考慮すると、本実施例(実施例5)で生成してm面で囲まれた粒子は、おそらく、転位密度を減少させ、結晶性を改善する効果がある。種基板の表面全体がm面で構成されている場合には、結晶性がさらに向上することが期待される。