(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記した可変焦点レンズにおいては、異なる屈折率を持つ第1液と第2液の比重(あるいは密度)を完全に等しくすることが難しい。例えば、添加物を用いて、ある温度範囲における両液間の密度差を0に近づけることは可能であるが、通常、異なる温度範囲では密度差が大きくなってしまう。
【0008】
このように密度差を生じると、両液間の界面が、重力の影響によって微妙に歪み、その結果、弾性膜自体も微妙に歪む。すると、レンズとしての所期の光学的性能を得ることが難しくなるという問題を生じる。この歪みは、レンズの大径化に伴って顕著となるため、この問題は、レンズ大径化の妨げにもなる。本発明者らの知見によれば、特に弾性膜の変形量が小さいときに、この歪みの影響が表出しやすい。
【0009】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、高いレンズ性能を発揮可能な可変焦点レンズを提供することである。本発明の他の目的は、レンズ径を大きくしてもレンズ性能を維持可能な可変焦点レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記のいずれかの項目に記載の構成を備えている。
【0011】
(項目1)
収容部と、第1弾性膜と、第1媒質と、第2媒質と、駆動部と、第1張力付与部とを備えており、
前記収容部は、レンズの光軸方向に沿って光が通過可能とされており、
かつ、前記収容部は、前記光軸方向に沿って配列された第1空間と、第2空間とを備えており、
前記第1弾性膜は、前記第1空間と前記第2空間との間に配置され、かつ、前記光軸方向に交差する方向に延長されることによって、前記第1空間と前記第2空間との間を仕切る構成とされており、
前記第1空間には、前記第1媒質が充填されており、
前記第2空間には、前記第2媒質が充填されており、
前記第1媒質と前記第2媒質の屈折率は、互いに異なるものとされており、
前記第1弾性膜は、前記第1媒質と前記第2媒質との間に配置されており、
かつ、前記第1弾性膜は、前記第1媒質と前記第2媒質との間の圧力差によって弾性変形可能な構成とされており、
前記駆動部は、前記第1媒質又は前記第2媒質の圧力又は体積を変動させることにより、前記第1弾性膜の曲率を変化させる構成となっており、
前記第1張力付与部は、前記第1弾性膜に対して、等方的な張力を付与する構成とされている
ことを特徴とする可変焦点レンズ。
【0012】
駆動部が、第1媒質又は第2媒質の圧力又は体積を変動させることにより、第1媒質と第2媒質との間に圧力差を生じ、その結果、第1弾性膜の曲率を変化させることができる。
【0013】
(項目2)
前記第1媒質及び前記第2媒質は、いずれも液体である
ことを特徴とする項目1に記載の可変焦点レンズ。
【0014】
(項目3)
前記第1張力付与部は、
前記第1弾性膜の外周を保持する保持部と、
前記保持部に保持された状態の前記第1弾性膜の外周近傍を、前記光軸方向に沿ってほぼ一様に押圧することによって、前記第1弾性膜に等方的な引張応力を発生させる押圧部と
を備える項目1又は2に記載の可変焦点レンズ。
【0015】
(項目4)
前記第1媒質の色分散特性と、前記第2媒質の色分散特性とは、異なる特性とされている
項目1〜3のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【0016】
(項目5)
第2弾性膜と、第3媒質と、第2張力付与部とをさらに備えており、
前記収容部は、第3空間をさらに備えており、
前記第3空間は、前記第1空間及び第2空間に対して、前記光軸方向に沿う位置に配置されており、
前記第2弾性膜は、前記第2空間と前記第3空間との間に配置され、かつ、前記光軸方向に交差する方向に延長されることによって、前記第2空間と前記第3空間との間を仕切る構成とされており、
前記第3空間には、前記第3媒質が充填されており、
前記第3媒質の屈折率は、第1媒質又は前記第2媒質の屈折率とは異なるものとされており、
前記第2弾性膜は、前記第2媒質と前記第3媒質との間に配置されており、
かつ、前記第2弾性膜は、前記第2媒質と前記第3媒質との間の圧力差によって弾性変形可能な構成とされており、
前記駆動部は、前記第2媒質又は第3媒質の圧力又は体積を変動させることにより、前記第2弾性膜の曲率を変化させる構成となっており、
前記第2張力付与部は、前記第2弾性膜に対して、等方的な張力を付与する構成とされている
項目1〜4のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【0017】
駆動部が、第2媒質又は第3媒質の圧力又は体積を変動させることにより、第2媒質と第3媒質との間に圧力差を生じ、その結果、第2弾性膜の曲率を変化させることができる。
【0018】
(項目6)
前記第1弾性膜に付与された前記張力と、前記第2弾性膜に付与された前記張力とは、異なる大きさとされている
項目5に記載の可変焦点レンズ。
【0019】
(項目7)
前記第1弾性膜における色分散特性と、前記第2弾性膜における色分散特性とは、異なる特性とされている
項目5又は6に記載の可変焦点レンズ。
【0020】
(項目8)
項目1〜7のいずれか1項に記載された可変焦点レンズを備えた撮像装置。
【0021】
(項目9)
項目1〜7のいずれか1項に記載された可変焦点レンズを備えた投射装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、前記の構成を備えているので、低いレンズパワーにおいても高いレンズ性能を発揮可能な可変焦点レンズを提供することができる。さらに、本発明によれば、高いレンズ性能を持つ大口径の可変焦点レンズを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態の構成)
以下、本発明の第1実施形態に係る可変焦点レンズ(以下単に「レンズ」と略称することがある)を、添付の図面に基づいて説明する。本実施形態のレンズは、収容部1と、第1弾性膜2と、第1媒質3と、第2媒質4と、駆動部5と、第1張力付与部6とを備えている。
【0025】
収容部1は、レンズの光軸100(
図1において一点鎖線で示す)の方向に沿って光が通過可能とされている。具体的には、収容部1は、光軸方向において離間して対向配置された第1窓部11と第2窓部12とを備えている。第1窓部11及び第2窓部12は、光が通過する部分において透明とされており、これによって、これらの窓部11及び12を介して光が光軸100方向に通過可能となっている。なお、本明細書において透明とは、レンズ作用の対象となる波長帯域の光に対する減衰量が、実用上必要な程度に小さいことを意味している。したがって、例えば、赤外光用のレンズであれば、それ以外の帯域の光(例えば可視光)に対して不透明であっても、本明細書での意味においては透明ということができる。ただし、以降の説明においては、特に言及しない限り、本実施形態のレンズを可視光用のものと仮定する。本実施形態の収容部1は、第1窓部11と第2窓部12とによって両端が閉鎖された円筒形状とされているが、これに限らず、例えば角筒形状など、適宜の形状を選択可能である。
【0026】
収容部1は、光軸100の方向に沿って配列された第1空間13と、第2空間14とを備えている。より具体的には、本実施形態の収容部1は、第1窓部11と第2窓部12との間に、これらをつなぐ円筒形状の側壁15を備えており、これらによって、収容部1の内部に内部空間が形成されている。この内部空間を、後述するように第1弾性膜2で仕切ることにより、前記した第1空間13と第2空間14とが形成されている。つまり、第1空間13と第2空間14との間が第1弾性膜2で仕切られるようになっている。
【0027】
第1弾性膜2は、第1空間13と第2空間14との間に配置されており、かつ、光軸100方向に交差する方向(本例では直交する方向)に延長されている。これによって、前記したように、第1弾性膜2が、第1空間13と第2空間14との間を仕切るようになっている。
【0028】
第1空間13には第1媒質3が充填されており、第2空間14には第2媒質4が充填されている。ここで、本実施形態では、第1空間13及び第2空間14が密閉されることは必須ではなく、第1媒質3及び第2媒質4のいずれかが実質的に外部に開放された状態(つまり大気圧下にある状態)であってもよい。加圧又は減圧される媒質については、圧力を変動できるように、密閉することが好ましい。
【0029】
第1媒質3と第2媒質4の屈折率は、互いに異なるものとされている。一方、第1媒質3と第2媒質4の比重(密度)は、使用において想定される温度域においてなるべく等しいものであることが好ましい。このような媒質の組み合わせは、適宜選択しうるが、例えば、PDMS(Poly-Dimethyl-Siloxane)と純水の組み合わせを用いることができる。屈折率はそれぞれ1.40と1.33 である。どちらを第1媒質3としてもよい。この例では、第1媒質3及び第2媒質4として液体が用いられている。ただし、これらの媒質としては、液体以外に、ゾル状、ゲル状、弾性体などの状態であることも可能である。要するに、媒質としては、駆動部5から受けた押圧力の変化を、両媒質間の界面に作用させて、この界面を一方に向けて膨出させることができるものであればよい。
【0030】
第1弾性膜2は、第1媒質3と第2媒質4との間に配置されている。第1弾性膜2の材質としては、例えば、透明度の高いシリコーン樹脂を用いることができる。ただし、第1弾性膜2としては、シリコーン樹脂に限らず、第1媒質3と第2媒質4との間の圧力差によって弾性変形可能な材質であればよい。本例の第1弾性膜2は薄肉の円形シート状に形成されている。また、本例では、第1媒質3及び第2媒質4が第1弾性膜2に直接接触しているが、何らかの圧力伝達物質を介して間接的にこれらの媒質が第1弾性膜2に接触していてもよい。要するに、第1媒質3又は第2媒質4からの圧力を第1弾性膜2に伝達可能であればよい。
【0031】
駆動部5は、第1媒質3又は第2媒質4の圧力又は体積を変動させることにより、第1弾性膜2の曲率を変化させる構成となっている。より具体的には、本例の駆動部5は、第2空間14に接続されており、第2媒質4の圧力を増減させることができる構成となっている。駆動部5を実現するための具体的構成は特に制約されないが、たとえばシリンジポンプを用いることができる。
【0032】
第1張力付与部6は、第1弾性膜2に対して、等方的な張力を付与する構成とされている。より具体的には、本例の第1張力付与部6は、第1弾性膜2の外周を保持する保持部61と、保持部61に保持された状態の第1弾性膜2の外周近傍を、光軸100方向に沿ってほぼ一様に押圧することによって、第1弾性膜2に等方的な引張応力を発生させる押圧部62とを有している(
図2参照)。なお、
図2は、弾性膜2の厚さを誇張して記載したものであって、全体的に寸法は正確ではない。第1弾性膜2の外周と保持部61との固定は、例えば接触面のプラズマ処理による溶着や、接着剤による接着によって行うことができる。押圧部62は、光軸100方向に向けて突出された突出部621を有しており、この突出部621を第1弾性膜2に押し付けることによって、第1弾性膜2に等方的な引っ張り応力(
図3参照)を付与できるようになっている。なお、
図3は、引っ張り応力の方向を模式的に説明したものであって、寸法は正確ではない。また、本例の突出部621は、光軸方向から見た状態において円環形状とされている。
【0033】
(第1実施形態の動作)
次に、本実施形態に係る可変焦点レンズの動作について説明する。
【0034】
まず、初期状態では、第1媒質3と第2媒質4との圧力差を0〔Pa〕とする。つまり、両者の静水圧を等しくする。この状態では、第1弾性膜2は、第1媒質3と第2媒質4との間にあって、平坦な状態(つまり曲率=0あるいは曲率半径=∞)となる。この状態の第1弾性膜2を、
図1において二点鎖線で示す。
【0035】
ここで、従来の可変焦点レンズでは、両媒質間の微妙な密度差に起因して、重力の影響により、媒質間の弾性膜に意図しない微小変形を生じることがあった。このため、従来のレンズでは、特にレンズパワーが小さいとき(つまり膜の曲率が小さいとき)において、十分な光学的性能を発揮できないことがあった。
【0036】
これに対して、本実施形態の可変焦点レンズでは、第1張力付与部6によって、第1弾性膜2に対して、等方的な引っ張り応力を付与しているので、第1媒質3と第2媒質4との間に仮に小さな密度差があったとしても、第1弾性膜2の変形を小さく抑えることができる。つまり、本実施形態では、媒質間の密度差に起因する重力の影響を減少させることにより、特にレンズパワーが小さいときのレンズの光学的性能を向上させることができるという利点がある。また、前記のような重力の影響は、レンズの大径化によって顕著となるので、本実施形態のレンズは、大径化に適するという利点もある。つまり、本実施形態により、大口径かつ高性能の可変焦点レンズを提供することが可
能となる。
【0037】
レンズのパワー(すなわち屈折力)を変更する場合は、駆動部5により、第2媒質4を加圧する。すると、第1媒質3と第2媒質4との間に圧力差を生じ、両者間の境界は、両媒質の圧力が釣り合う位置に移動する。これにより、
図1において実線で示すように、第1弾性膜2の形状をドーム状あるいは回転放物面状に膨出させることができる。その結果、レンズパワーを変更することができる。
図1では、図中左方向に第1弾性膜2を膨出させているが、第2媒質4への圧力を負圧とすることにより、逆方向に第1弾性膜2を膨出させることもできる。
【0038】
なお、前記した第1実施形態の説明においては、駆動部5により第2媒質4の静水圧を変化させたが、第1媒質3への加圧あるいは減圧により、第1弾性膜2の形状を変化させることも可能である。
【0039】
あるいは、駆動部5としては、第1弾性膜2を保持する保持部61の位置を光軸方向に沿って移動させる(例えば
図1において左右に移動させる)ことによって、各媒質の静水圧を変化させ、これによって第1弾性膜2の形状を変化させる構成も可能である。このようにすると、駆動部を含めたレンズ全体の大きさを小さくすることができるという利点がある。
【0040】
なお、第1媒質3の色分散特性と、第2媒質4の色分散特性とを、異なる特性とすることも可能である。このようにすると、レンズ全体としての色収差を減少させることができるという利点がある。
【0041】
さらに、本実施形態のレンズでは、第1弾性膜2にあらかじめ張力を付与しているので、変形した弾性膜2が初期位置に復帰するまでの速度を向上させることができる。このため、このレンズによれば、レンズ焦点位置の移動サイクルを高速化することができるという利点がある。
【0042】
(実施例)
前記した第1実施形態の可変焦点レンズの性能を検証するため、有限要素解析法(finite element analysis)を用いてシミュレーションを行った。条件は以下のとおりである。
【0043】
第1媒質:純水(屈折率1.33、密度0.997g/cm
3)
第2媒質:PDMS液(poly-dimethyl-siloxane liquid)(屈折率1.40、密度0.975g/cm
3)
第1弾性膜:直径30mmの円形シート状、厚さ0.1mm、ヤング率5MPa、ポアソン比0.45
【0044】
また、このシミュレーションでは、基準温度(例えば両媒質の温度)に対して、第1弾性膜の温度を1度低く設定することにより、第1弾性膜に等方的な引っ張り応力を発生させる条件とした。なお、この膜における、熱膨張についてのセカント弾性係数(secant coefficient of thermal expansion)は0.004に設定されている。前記以外の条件は前記した第1実施形態の構成と同様とした。
【0045】
上記の条件により得られた結果を
図4に示す。この図において、○印は、膜に事前の張力を付与していない場合(すなわち比較例)、▽印は、膜に事前の張力を付与した場合(すなわち本実施例)の結果を示す。この図において外部圧力とは、駆動部5により第2媒質4に加えられる圧力を意味する。
【0046】
図4(a)に示されるように、外部圧力=0のとき(つまり媒体に対する圧力を加えていないとき)において、比較例としての張力なし(図中○印)の例では、0.27程度の屈折力が既に発生している。これは、媒体間の密度差により、膜が既に変形してしまっていることを意味する。これでは、それ以下の屈折力を提供することができないという問題がある。これに対して、本実施例である張力あり(図中▽印)の例では、外部圧力=0のとき、0.03程度の低い屈折力を得ている。両者間の屈折力の差を、
図4(b)において符号aで示す。したがって、前記した実施形態のレンズによれば、低い屈折力を持つ大口径の可変焦点レンズを提供できることがわかる。
【0047】
また、
図4(a)の縦軸は、弾性膜における変位が最も大きい点が、膜の中心(つまり光線中心あるいは光軸)からどの程度ずれた場所にあるかを示しており、この値が0に近いほど界面形状の対称性が保たれている(つまり良好な光学性能を得られる)ことを示す。同じ屈折力を得られるとき、例えば屈折力が0.3〔1/m〕のとき、張力なし(図中○印)の例では、ずれ量が0.7mm程度であるが、張力あり(図中▽印)の例では、このずれ量が0.1mm程度と低く抑えられている。したがって、本実施形態により、低い屈折力の領域であっても高い光学性能を有する可変レンズを提供できることがわかる。
【0048】
さらに、
図4(b)の縦軸は、理想的な波面と有限要素法で推定された波面との差(いわゆる波面収差)の二乗平均平方根(root-means-square-error:RMSE)を示しており、この値が0に近いほど波面収差が小さい(つまり良好な光学性能を得られる)ことを示す。同じ屈折力を得られるとき、例えば屈折力が0.3〔1/m〕のとき、張力なし(図中○印)の例では、RMSEが15μm程度であるが、張力あり(図中▽印)の例では、このRMSEが2.0μm程度と低く抑えられている。このことからも本実施形態により、低い屈折力の領域であっても高い光学性能を有する可変レンズを提供できることがわかる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る可変焦点レンズを、
図5を参照しながら説明する。この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態のレンズと基本的に共通する構成要素については、同一符号を付すことによって、説明の煩雑を避ける。
【0050】
第2実施形態の可変焦点レンズは、第2弾性膜7と、第3媒質8と、第2張力付与部9とをさらに備えている。また、本実施形態の収容部1は、第3空間16をさらに備えている。
【0051】
第3空間16は、第1空間13及び第2空間14に対して、光軸100方向に沿う位置に配置されている。より具体的には、第3空間は、第2弾性膜7と第2窓部12と側壁15とによって囲まれた領域となっている。
【0052】
第2弾性膜7は、第2空間14と第3空間16との間に配置され、かつ、光軸100に交差する方向(具体的には直交方向)に延長されることによって、第2空間14と第3空間16との間を仕切る構成とされている。第2弾性膜7は、第2媒質4と第3媒質8との間に配置されている。さらに、第2弾性膜7は、第2媒質4と第3媒質8との間の圧力差によって弾性変形可能な構成とされている。また、本実施形態では、第1弾性膜2における色分散特性と、第2弾性膜7における色分散特性とは、異なる特性とされている。それ以外の点においては、第2弾性膜7は、第1弾性膜2と同様に構成することができる。
【0053】
第3空間16には、第3媒質8が充填されている。第3媒質8の屈折率は、レンズ作用を発揮できるように、第1媒質3及び/又は第2媒質4の屈折率とは異なるものとされている。それ以外の点においては、第3媒質8は、第1媒質3及び第2媒質4と同様に構成することができる。
【0054】
駆動部5は、第2媒質4又は第3媒質8の圧力又は体積を変動させることにより、第2弾性膜7の曲率を変化させる構成となっている。より具体的には、本例の駆動部5は、第2媒質4の圧力を変動させることにより、第1弾性膜2と第2弾性膜7とを共に駆動できるようになっている。なお、第2実施形態においては、第1媒質3と第3媒質4の初期圧力は同じとなっており、これら両媒質と第2媒質4との圧力差が等しくなるようになっている。
【0055】
第2張力付与部9は、第2弾性膜7に対して、等方的な張力を付与する構成とされている。ここで、この実施形態では、第1弾性膜2に付与された張力と、第2弾性膜7に付与された張力とは、異なる大きさとされている。それ以外の点においては、第2張力付与部9は、第1張力付与部6と同様に構成されている。
【0056】
(第2実施形態の動作)
第2実施形態の可変焦点レンズにおいても、第1実施形態と同様に、初期状態の第1弾性膜2及び第2弾性膜7は、平坦状態(
図5において二点鎖線で示す状態)にある。ついで、第2実施形態の可変焦点レンズでは、駆動部5によって第2媒質4の圧力を変動させる。これにより、第1弾性膜2及び第2弾性膜7の曲率を変化させることができる。第2実施形態のレンズにおいては、第1弾性膜2及び第2弾性膜7の両方(より具体的には三つの媒質間の界面)がレンズ作用を発揮する。したがって、第2実施形態では、複数の単レンズを有する可変焦点レンズを提供することができる。
【0057】
ここで、この実施形態では、第1弾性膜2に付与された張力と、第2弾性膜7に付与された張力とが、異なる大きさとされている。さらに、この実施形態においては、第1媒質3と第3媒質4の初期圧力は同じとなっており、これら両媒質と第2媒質4との圧力差が等しくなるようになっている。すると、両弾性膜において生じる屈折力は、各膜への張力に応じて変わることになる(
図5の実線参照)。このように、第2実施形態では、膜への張力を調整することにより、屈折力の異なる複数のレンズを提供することができる。
【0058】
また、第2実施形態では、第1弾性膜2における色分散特性と、第2弾性膜7における色分散特性とを、異なる特性としたので、レンズ全体としての色収差を減少させることができるという利点もある。
【0059】
さらに、第2実施形態では、複数の単レンズを実現できるので、ズームレンズとしての機能を発揮可能になるという利点もある。もちろん、本実施形態における各弾性膜の膜厚や膜間距離は、ズームレンズに適するように適宜設計可能である。
【0060】
なお、第2実施形態では、第2媒質4の圧力を変動させるものとしたが、その代わりに、あるいはそれに追加して、他の媒質の圧力を変動させる構成としてもよい。その場合においても、前記した第1実施形態で説明したように、低い屈折力でかつ高い光学性能を持つレンズを提供できるという利点がある。この場合、媒質を変動させるための駆動部を別に用意してもよいし、前記した駆動部を共用することもできる。
【0061】
また、第2実施形態では、第1弾性膜2における色分散特性と、第2弾性膜7における色分散特性とを、異なる特性としたが、同じ特性とすることは可能である。また、第2実施形態において、各媒質の色分散特性を調整することにより、色収差を低減させることが可能である。さらに、本実施形態では、第2張力付与部9を、第1張力付与部6と同様に構成したが、異なる構成によって膜に張力を付与する構成であってもよい。
【0062】
第2実施形態における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0063】
なお、第2実施形態では、第2弾性膜と第3媒質とをさらに備える構成としたが、それ以上の数の弾性膜と媒質とを積層した構成も可能であり、その場合には、さらに複雑なレンズ構成を実現可能である。この場合の弾性膜等の構成は、前記から理解可能なので、詳しい説明は省略する。
【0064】
前記した各実施形態のレンズを用いて、カメラなどの撮像装置あるいは液晶プロジェクタなどの投射装置を構成することができる。
【0065】
なお、前記各実施形態及び実施例の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。例えば、前記した各実施形態では、押圧部62を用いて弾性膜に張力を付与したが、これに限らず、例えば、弾性膜よりも熱膨張率の高い枠体に弾性膜を取り付け、加熱して弾性膜に張力を付与した後、この枠体を別の高剛性の支持体に取り付けることで、弾性膜に与えた張力を維持することも可能である。また、前記した各媒質の屈折率は、レンズの設計目的に応じて種々に設定可能である。