【0019】
次に、処理対象となるタングステン成分を含有する原料混合物の粉体に酸化処理を行うことで、濃度25%、70℃のアンモニア水に70質量%以上溶ける酸化タングステンを作製する。酸化処理は好ましくは420〜600℃、より好ましくは470〜550℃で行う。420℃未満では、生成した酸化タングステンは全量アンモニアに可溶となるが、原料混合物の粉体に含有されるタングステンから酸化タングステンへの変換率が50%程度と非常に低くなるおそれがある。一方、600℃超では、原料混合物の粉体に含有されるタングステンから酸化タングステンへの変換率が100%だが、生成した酸化タングステンのアンモニアへの溶解率は80%未満と低くなるおそれがある。これは、酸化タングステンの結晶性が高くなるため、弱いアルカリであるアンモニア水には溶けなくなるためであると考えられる。
ここで、「原料混合物の粉体に含有されるタングステンから酸化タングステンへの変換率:C(%)」は、「原料混合物の粉体に含有されるタングステンのモル数」をAとし、「生成した酸化タングステンのモル数」をBとして、以下の式で算出される:
C=(B/A)×100(%)
また、「生成した酸化タングステンのアンモニアへの溶解率:c(%)」は、「生成した酸化タングステンの質量」をa(g)とし、「アンモニアへ溶解した酸化タングステンの質量」をb(g)として、以下の式で算出される:
c=(b/a)×100(%)
酸化処理時の雰囲気ガスは、酸化性のものであれば特に限定されず、空気雰囲気下や酸素雰囲気下等で酸化処理を行うことができる。酸化処理の時間は、特に限定されないが、生産効率を考慮すると50時間以下とすることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0024】
(実施例1)
以下の表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中420℃で50時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は80%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、濃度25%、70℃のアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は80%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を濃度30%、80℃の硝酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N5と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0025】
【表1】
【0026】
(実施例2)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中450℃で30時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は90%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は90%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N5と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0027】
(実施例3)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中500℃で15時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は95%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N8と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0028】
(実施例4)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中550℃で10時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は94%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N6と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0029】
(実施例5)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中600℃で5時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は88%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N6と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0030】
(比較例1)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中350℃で100時間酸化処理した。しかしながら、酸化タングステンが得られず、酸化タングステンへの変換率は0%であった。また、酸化処理後の粉体をアンモニア水へ加えたが、溶解しなかった。
【0031】
(比較例2)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中400℃で100時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は5%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は5%と非常に低いものであった。
【0032】
(比較例3)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中650℃で2時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は50%と非常に低いものであった。
【0033】
(比較例4)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中700℃で1時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は20%と非常に低いものであった。
図2に、実施例1〜5及び比較例1〜4の、「酸化温度」と、「酸化タングステンへの変換率」及び「アンモニアへの溶解率」との関係を示す。