特許第6143417号(P6143417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143417
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】タングステンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/36 20060101AFI20170529BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170529BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20170529BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20170529BHJP
   C22B 3/14 20060101ALI20170529BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20170529BHJP
   C22B 5/12 20060101ALI20170529BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C22B34/36ZAB
   B09B3/00 303A
   B09B3/00 304J
   C01G41/00 C
   C22B1/02
   C22B3/14
   C22B3/44 101A
   C22B5/12
   C22B7/00 E
   C22B7/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-19950(P2012-19950)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-159788(P2013-159788A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2013年9月24日
【審判番号】不服2015-20619(P2015-20619/J1)
【審判請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 寿文
【合議体】
【審判長】 鈴木 正紀
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 松本 要
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−70118(JP,A)
【文献】 特公昭58−54178(JP,B2)
【文献】 特開昭47−16366(JP,A)
【文献】 特開昭61−107728(JP,A)
【文献】 特開平9−132413(JP,A)
【文献】 特開2000−204404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B34/36, 7/00, 1/02, 3/14, 3/44, 5/12
B09B 3/00
C01G41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン成分を含有する原料混合物の粉体に対して酸化処理の雰囲気、温度及び時間を調整して、濃度25%、70℃のアンモニア水に70質量%以上という溶解率Aで溶ける酸化タングステンを得る工程と、
前記酸化タングステンを得る工程の後、前記酸化タングステンを濃度5〜30%、20〜80℃のアンモニア水に溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液を得る工程と、
を含むタングステンの製造方法であり、
前記溶解率Aは、前記酸化処理による前記タングステン成分を含有する原料混合物の粉体から前記酸化タングステンへの変換率と、前記酸化タングステンの前記アンモニア水への溶解率との積で算出されるタングステンの製造方法
【請求項2】
前記酸化処理の温度を420〜600℃の範囲で調整する請求項1に記載のタングステンの製造方法。
【請求項3】
前記酸化処理時の温度470〜550℃の範囲で調整する請求項2に記載のタングステンの製造方法。
【請求項4】
更に、前記酸化タングステンのアンモニア溶液を酸で中和することでパラタングステン酸アンモニウムを得る工程と、
前記パラタングステン酸アンモニウムを水素還元することでタングステンを得る工程と、
を含む請求項1〜3のいずれかに記載のタングステンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ングステンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステン成分を含有する原料混合物からタングステンを回収する方法が、近年盛んに研究・開発されている。タングステンの回収方法の一例として、例えば特許文献1及び2等に記載されているように、タングステン成分を含有する原料混合物を酸化し、生成した酸化タングステンにアルカリ溶液を加えてタングステン成分を浸出させた後、所定の精製を行うことでタングステンを回収するものがある。ここで、原料混合物がスクラップ等の不純物を多く含むものである場合、酸またはアルカリに溶かしておくと不純物除去工程等で非常に有用である。このため、原料混合物を酸またはアルカリに可溶な状態にすることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−202892号公報
【特許文献2】特開2011−047013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化タングステンは、通常、アルカリ溶液に可溶とされているが、実際には、苛性ソーダには可溶であるが、アンモニア水には、29%高濃度溶液であっても十分溶けるとはいい難く、溶解率はせいぜい50%程度である。しかしながら、苛性ソーダに溶解すると、Naが大量に共存してしまうため、例えば高純度のタングステン金属として回収しようとした場合、溶媒抽出やイオン交換、酸アルカリ処理などのNa除去工程が必須になり、工程が煩雑になり、コストがかかるという問題が生じる。
【0005】
一方、タングステンを湿式処理する場合に、タングステン成分を含有する原料混合物がスクラップ粉、平面研削粉などの粉状であれば、酸化処理によって酸化タングステンにすることができる。この酸化タングステンはアルカリに可溶であり、アルカリ液に溶解させることで、タングステン酸アルカリ液を得ることができる。しかしながら、通常の酸化タングステンは、アンモニアへの溶解率が非常に低く、実施的には溶解しないといえるため、溶解のためのアルカリ溶液は、特許文献1及び2等に記載されているように苛性ソーダを用いるのが一般的である。
【0006】
そこで、本発明は、安価なコストで、高純度のタングステンを回収することができるタングステンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、タングステン成分を含有する原料混合物の粉体(タングステンスクラップ粉等)を酸化タングステンに変換するときの酸化処理を調整して、濃度25%、70℃のアンモニア水に70質量%以上溶ける酸化タングステンを作製することにより、アンモニア水へ良好に溶解する中間体(酸化タングステン)を得て、これによって安価なコストで、高純度のタングステンを回収することができることを見出した。
【0011】
本発明は別の一側面において、タングステン成分を含有する原料混合物の粉体に対して酸化処理の雰囲気、温度及び時間を調整して、濃度25%、70℃のアンモニア水に70質量%以上という溶解率Aで溶ける酸化タングステンを得る工程と、前記酸化タングステンを得る工程の後、前記酸化タングステンを濃度5〜30%、20〜80℃のアンモニア水に溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液を得る工程とを含むタングステンの製造方法であり、前記溶解率Aは、前記酸化処理による前記タングステン成分を含有する原料混合物の粉体から前記酸化タングステンへの変換率と、前記酸化タングステンの前記アンモニア水への溶解率との積で算出されるタングステンの製造方法である。
【0012】
本発明に係るタングステンの製造方法は一実施形態において、前記酸化処理の温度を420〜600℃の範囲で調整する
【0013】
本発明に係るタングステンの製造方法は別の一実施形態において、前記酸化処理時の温度470〜550℃の範囲で調整する

【0014】
本発明に係るタングステンの製造方法は別の一実施形態において、更に、前記酸化タングステンのアンモニア溶液を酸で中和することでパラタングステン酸アンモニウムを得る工程と、前記パラタングステン酸アンモニウムを水素還元することでタングステンを得る工程とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価なコストで、高純度のタングステンを回収することができる。
より具体的には:
(1)酸化タングステンがアンモニアに良好に溶解するため、酸化タングステンを溶解させるのに苛性ソーダを用いる必要が無い。従って、溶液中からNaを除去するための溶媒抽出やイオン交換、酸アルカリ処理等を行う必要が無く、安価なコストで処理することができる。
(2)Na等の不純物が抑制されているため、酸化タングステンのアンモニア溶液を酸で中和することで高純度のパラタングステン酸アンモニウムを容易に得ることができ、それによって高純度のタングステンを容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】タングステン成分を含有する原料混合物の粉体を酸化タングステンに変換するときの酸化処理の温度と時間、及び、酸化タングステンへの変換率の相関性の比較グラフである。
図2】実施例1〜5及び比較例1〜4の、「酸化温度」と、「酸化タングステンへの変換率」及び「アンモニアへの溶解率」との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る酸化タングステンの製造方法及びそれを用いたタングステンの製造方法の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
まず、処理対象となるタングステン成分を含有する原料混合物の粉体を準備する。タングステン成分を含有する原料混合物としては、タングステンスクラップを粉砕した、いわゆるタングステンリサイクル材等が挙げられる。
このような原料混合物の粉体としては、後述の酸化処理により良好に酸化される程度の粒径を有するものが好ましい。また、タングステン成分を含有する原料混合物の粉体として平面研削粉を用いてもよい。この場合は、研削の際に研削粉が飛び散らないように用いられた決着剤入りの水を含んでいたが、その後水分が蒸発することで、例えば平均粒径30mm程度の塊となっているものがある。このような粉体の塊であっても、その表面積が大きいため、酸化処理によって表面から順次酸化タングステンになり、結局塊が消滅し、それぞれ独立した粒子となる。
【0019】
次に、処理対象となるタングステン成分を含有する原料混合物の粉体に酸化処理を行うことで、濃度25%、70℃のアンモニア水に70質量%以上溶ける酸化タングステンを作製する。酸化処理は好ましくは420〜600℃、より好ましくは470〜550℃で行う。420℃未満では、生成した酸化タングステンは全量アンモニアに可溶となるが、原料混合物の粉体に含有されるタングステンから酸化タングステンへの変換率が50%程度と非常に低くなるおそれがある。一方、600℃超では、原料混合物の粉体に含有されるタングステンから酸化タングステンへの変換率が100%だが、生成した酸化タングステンのアンモニアへの溶解率は80%未満と低くなるおそれがある。これは、酸化タングステンの結晶性が高くなるため、弱いアルカリであるアンモニア水には溶けなくなるためであると考えられる。
ここで、「原料混合物の粉体に含有されるタングステンから酸化タングステンへの変換率:C(%)」は、「原料混合物の粉体に含有されるタングステンのモル数」をAとし、「生成した酸化タングステンのモル数」をBとして、以下の式で算出される:
C=(B/A)×100(%)
また、「生成した酸化タングステンのアンモニアへの溶解率:c(%)」は、「生成した酸化タングステンの質量」をa(g)とし、「アンモニアへ溶解した酸化タングステンの質量」をb(g)として、以下の式で算出される:
c=(b/a)×100(%)
酸化処理時の雰囲気ガスは、酸化性のものであれば特に限定されず、空気雰囲気下や酸素雰囲気下等で酸化処理を行うことができる。酸化処理の時間は、特に限定されないが、生産効率を考慮すると50時間以下とすることができる。
【0020】
次に、得られた酸化タングステンをアンモニアに溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製する。酸化タングステンの溶解に用いるアンモニアは、濃度5〜30%、20〜80℃とするのが好ましい。
【0021】
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を酸で中和した後、好ましくは50〜60℃で乾燥することで、タングステン粉の中間原料品であるパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製する。この中和で用いる酸は、例えば、硝酸、塩酸等が好ましい。また、当該中和工程において、濃度3〜30%、20〜90℃とするのが好ましい。このとき、中間体であるパラタングステン酸アンモニウム(APT)の状態で、既にタングステンの品位が3N5以上と高純度になっている。
ここで、タングステン成分を含有する原料混合物の粉体を酸化タングステンに変換するときの酸化処理の温度と時間、及び、酸化タングステンへの変換率の相関性の比較グラフを図1に示す。
【0022】
次に、得られたパラタングステン酸アンモニウム(APT)を水素還元することで、品位が4N以上のタングステンを簡便に低コストで回収することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0024】
(実施例1)
以下の表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中420℃で50時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は80%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、濃度25%、70℃のアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は80%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を濃度30%、80℃の硝酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N5と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0025】
【表1】
【0026】
(実施例2)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中450℃で30時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は90%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は90%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N5と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0027】
(実施例3)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中500℃で15時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は95%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N8と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0028】
(実施例4)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中550℃で10時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は94%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N6と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0029】
(実施例5)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中600℃で5時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は88%であった。
次に、得られたタングステン酸アンモニウム溶液を実施例1と同様に酸で中和してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製した。得られたAPTの品位は3N6と高いものであった。
次に、得られたAPTを水素還元して、タングステンを作製した。得られたタングステンの品位は4Nと高いものであった。
【0030】
(比較例1)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中350℃で100時間酸化処理した。しかしながら、酸化タングステンが得られず、酸化タングステンへの変換率は0%であった。また、酸化処理後の粉体をアンモニア水へ加えたが、溶解しなかった。
【0031】
(比較例2)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中400℃で100時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は5%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は5%と非常に低いものであった。
【0032】
(比較例3)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中650℃で2時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は50%と非常に低いものであった。
【0033】
(比較例4)
表1に示す品位のタングステンスクラップ粉を空気雰囲気中700℃で1時間酸化処理することで酸化タングステンの粉体を得た。その時の酸化タングステンへの変換率は100%であった。
次に、得られた酸化タングステンを、実施例1と同様にアンモニア水へ溶解させて酸化タングステンのアンモニア溶液(タングステン酸アンモニウム溶液)を作製した。このときの溶解率は20%と非常に低いものであった。
図2に、実施例1〜5及び比較例1〜4の、「酸化温度」と、「酸化タングステンへの変換率」及び「アンモニアへの溶解率」との関係を示す。
図1
図2