特許第6143487号(P6143487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6143487電子顕微鏡用のガラス化された試料を作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143487
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】電子顕微鏡用のガラス化された試料を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   G01N1/28 K
   G01N1/28 T
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-24533(P2013-24533)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2013-164419(P2013-164419A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年12月18日
(31)【優先権主張番号】12155112.1
(32)【優先日】2012年2月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ヤコブ ランベルトス ムルダー
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ ヨハネス ペーター ジェラルドウス スカンパー
(72)【発明者】
【氏名】ペトラス ヒュベルタス フランシスカス トロンペナールス
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−008141(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/120726(WO,A1)
【文献】 特開2009−075089(JP,A)
【文献】 特開2002−195922(JP,A)
【文献】 特開昭58−092928(JP,A)
【文献】 特開2009−008657(JP,A)
【文献】 特開平05−126696(JP,A)
【文献】 実開昭62−156853(JP,U)
【文献】 特開2009−014719(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0293832(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02009420(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気可能な試料チャンバを備える粒子光学装置内でガラス化された試料の像を生成する方法であって:
試料材料を含む水溶液を供する手順;
前記水溶液の液滴を表面上に噴霧する手順;
前記水溶液を急速に冷却することによってガラス化された試料を形成する手順;及び、
粒子光学装置を用いて前記ガラス化された料の像を生成する手順;
を有し、
前記表面は前記粒子光学装置の排気された試料チャンバ内の低温表面であり、その結果、ガラス化された試料は、前記液滴が前記表面に衝突するときに前記表面上に形成される、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記液滴の少なくとも一部が、10μm未満の直径を有する結果、前記液滴の少なくとも一部はガラス化された試料を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液は試料ホルダに噴霧され、前記試料ホルダは、低温保持装置と接触することによって低温に維持される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記低温保持装置は、静電力によって前記試料ホルダを引きつける、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記粒子光学装置には、電子顕微鏡鏡筒及び/又はイオンビーム鏡筒が備えられる、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ガラス化された試料を低温ウルトラミクロトームによるスライス又はイオンビームによるミリングにより加工することで、薄片の試料を形成する手順をさらに有する、請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶液が、流体を混合して、該流体を前記表面に噴霧するように備えられる混合装置から噴霧される、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水溶液が、電子噴霧を用いて前記表面に噴霧される、請求項1乃至7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料材料が、毛細管を備える注入システムを用いることによって前記低温表面に噴霧される、請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶液を急速に冷却することによってガラス化された試料を形成する手順と、荷電粒子装置を用いて前記ガラス化された試料の像を生成する手順が、前記試料を、前記水溶液を急速に冷却することによってガラス化された試料を形成する手順と前記ガラス化された試料の像を生成する手順との間で、昇圧された環境に曝露することなく同一の粒子光学装置内行われる、請求項1乃至9のうちのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス化された試料の像を生成する方法に関する。当該方法は、
- 試料材料を含む水溶液を供する手順、
- 前記水溶液を表面上に噴霧する手順、
- 前記水溶液を冷却することによって固化する手順、
- 荷電粒子顕微鏡の試料チャンバ内において前記試料材料の像を生成する手順、を有する。
【背景技術】
【0002】
当該方法は非特許文献1から既知である。
【0003】
透過電子顕微鏡(TEM)内で試料を調査(可視化、分析)するとき、選択可能なエネルギー-たとえば60keV〜300keV-の電子ビームが試料に照射される。試料は、電子の大部分が試料を通過することで可視化/検出されるのに十分な程度に薄くなければならない。可視化はたとえば、蛍光材料上で電子を結像する手順、又は、たとえばCCD若しくはCMOSチップを有する検出器上で電子を結像する手順を有してよい。
【0004】
当業者に知られているように、同様の可視化又は分析が、試料全体にわたって荷電粒子(電子、イオン、クラスタ)ビームを走査して、衝突した荷電粒子に応じて放出される放射線を観測することによって実行されうる。よってそのような調査は、走査電子顕微鏡(SEM)鏡筒及び/又は集束イオンビーム(FIB)鏡筒を備える装置の排気されたチャンバ内で実行される。
【0005】
生体試料には、電子顕微鏡の厳しい環境-つまり真空でかつ高放射線レベル-でたとえば生体組織を調査することが必要である。そのため、試料材料は通常、低温まで冷却される。生体材料を低温に冷却する手順は、単に材料を冷却する手順を有するだけではない。冷却する結果、氷の針によって試料材料(細胞、バクテリア、ウイルス等)を損傷させてしまう。当業者に知られているように、試料材料は、アモルファス状態の氷であるガラスかされた氷に埋め込まれなければならない。ガラス化された氷は、105K/sの冷却速度で、水溶液を約165Kであるガラス遷移温度未満の温度に冷却することによって形成される。他のガラス化法は、「わずか」約600K/sの冷却速度で、約2100[b]の圧力にて実行される。冷却速度が低下することで、厚いガラス化された試料は、所謂高圧冷凍(HPF)方法で形成されてよい。
【0006】
ガラス化された氷中の低温試料はたとえば、キャリア-たとえばTEMグリッド-上に水溶液を塗布することによって形成される。続いて余剰の水は、吸い取ることによって除去され、かつ、水溶液を備えるキャリアは、低温流体-たとえばエタン又は液体窒素-中に入れられる。この方法を実行する装置の例は、FEIカンパニーからVitrobotの名前で販売されている。
【0007】
非特許文献1に記載された方法では、試料材料を含む水溶液はキャリア上に噴霧される一方で、そのキャリア(依然として室温で)低温流体に入れられる。このようにして、水溶液がそのキャリア上に噴霧された後短時間で凍ることで、処理が止まってしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,435,850号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“A second generation apparatus for time-resolved electron cryo-microscopy using stepper motors and electrospray”, H.D. White et al., J. Struct. Biol 144 (2003), pp 246-252.
【非特許文献2】“Monolithic microfluidic mixing-spraying devices for time-resolved cryo-electron microscopy”, Z. Lu et al., J. Struct. Biol. 168 (2009), pp 388-395.
【非特許文献3】Application note 3D Cryo-DualBeamTM, FEI Co., Hillsboro, OR, USA: http://www.fei.com/uploadedFiles/Documents/Content/2006_06_3D_Cyro_DualBeam_mb.pdf
【非特許文献4】Brochure of Graphene Laboratories Inc, Calverton, NY, USA: http://www.graphene-supermarket.com/images/XC/TEM/GrapheneTEMgrids-General%20info.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、低温試料を形成する他の方法を供することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、低温表面上に小さな液滴を噴霧するときに、その液滴が、アモルファス状態の氷の状態で固化するのに十分な速さで冷却することで、ガラス化された試料が形成されるという知見に基づく。これがその場(荷電粒子顕微鏡内)で行われるので、試料は、低温試料上で氷が成長できない環境で迅速に準備される。
【0012】
10μmよりも大きな直径の液滴では、その液滴の少なくとも一部の冷却は、遅過ぎてガラス化された氷を形成できないと推定されることに留意して欲しい。よって液滴の一部は、好適には10μm未満の直径を有するべきで、より好適には2μm未満の直径を有するべきである。液滴の厳密な最大の大きさは、たとえば低温保護剤-たとえばグリセロール、グルコール、又はある凍結防止タンパク質-の圧力に依存する。そのような低温保護剤の存在下では、直径は大きくても良い。
【0013】
衝突時には、円形と推定される形状の液滴が、表面対体積比がより大きくなり、かつ、より「薄く」なるように変形することで、冷却速度が改善されることに留意して欲しい。
【0014】
本発明により方法の実施例では、水溶液は試料ホルダに噴霧される。前記試料ホルダは、低温保持装置と接触することによって低温に維持される。
【0015】
試料ホルダ-たとえばTEMグリッド又はSEMスタブホルダ-は、低温保持装置によって保持されることが好ましい。その結果試料ホルダは、低温に冷却される。このようにして試料は、試料ホルダ上で準備される。その後その試料ホルダは、他の試料を作製するための他の試料ホルダと交換するため、保持装置から取り外されてよい。
【0016】
試料ホルダは、たとえば静電力によって保持装置に取り付けられてよい。しかし他の取り付け方法-たとえばクランプ-も用いられてよい。
【0017】
好適実施例では、試料ホルダは、電子顕微鏡内で用いられるように備えられた試料ホルダである。
【0018】
この実施例では、試料ホルダは、SEMに用いられる試料ホルダ(通常はスタブホルダと呼ばれる)又は所謂TEM用グリッドに用いられる試料ホルダである。
【0019】
他の実施例では、ガラス化された試料は、たとえば低温ウルトラミクロトームによるスライス又は集束イオンビームによるミリングにより加工されることで、薄片の試料が形成される。薄さ1μm未満で、より好ましくは200nmの薄片の試料は透過電子顕微鏡で用いられる。そのようにして形成された薄片は、マニピュレータにその薄片を取り付けることによって、試料ホルダ上に載置されてよい。そのマニピュレータは、その薄片をたとえばTEM試料ホルダ(「グリッド」)へ搬送して、たとえばビーム誘起堆積(BID)によって試料ホルダに取り付ける。
【0020】
本発明による方法の他の実施例では、水溶液は混合装置から噴霧される。係る混合装置は非特許文献2から既知である。係るミキサは、化学反応が止まる低温表面に試料材料が噴霧される前に、化学物質と水溶液との混合を可能にする。
【0021】
この混合は特に、低温保護剤とともに細胞(の一部)を水中に埋め込むのに魅力的でありうる。噴霧する前に低温保護剤を水に加えると、その低温保護剤は、細胞に入り込むのに十分な時間を得られないので、 その細胞の外側の水が低温保護剤を含むときでさえも、 その細胞は自然な状態で観察される。
【0022】
本発明による方法の他の実施例では、試料材料は、前記試料材料は、ガラス遷移温度よりも低い温度で融解、揮発、若しくは昇華する固体又は液体上に噴霧され、前記試料材料と一緒になった前記固体又は液体は試料キャリア上に塗布され、かつ、前記試料材料と一緒になった前記固体又は液体を前記試料キャリア上に塗布した後、前記固体又は液体は除去される。
【0023】
除去は、揮発、昇華、又は、たとえば吸い取りによる(低温)液体の除去であって良い。
【0024】
乾燥した窒素環境中で動作するとき、前記水溶液は、液体窒素-好適には沸騰していないもの-上に噴霧されて良い。同様にエタンが、乾燥したエタン又は窒素の環境で用いられても良い。
【0025】
この実施例は、一般的には高蒸気圧が前記固体又は液体の除去中に生じることで、真空環境と相性が良くない恐れがあることに留意してほしい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ガス注入システムを備える荷電粒子装置を概略的に表している。
図2A】ガラス化された試料材料のSEM像を表している。
図2B】ガラス化された試料材料のSEM像を表している。
図2C】ガラス化された試料材料のSEM像を表している。
図3】実施例5で用いられる浅いカップ形状のTEM試料ホルダを表している。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0027】
図1は第1実施例を概略的に表している。荷電粒子装置100は、イオンビーム104を生成する集束イオンビーム鏡筒(FIB鏡筒)102及び電子ビーム108を生成する走査電子顕微鏡筒(SEM鏡筒)106を備える。係る荷電粒子装置はたとえば、FEIカンパニーから販売されている3D Cryo DualBeam(商標)であって良い。当該装置の用途は非特許文献3に記載されている。
【0028】
当該装置には、低温-典型的には約-160℃-で保持するように備えられた試料台110が備えられている。試料台110には、試料ホルダ(「スタブ」としても知られている)112を保持するように備えられている。試料ホルダ112上では、試料が噴霧されるか、又は載置される。試料台110は排気可能な試料チャンバ114A内に設置される。試料台110上に載置される試料は、FIB鏡筒によって生成される集束イオンビーム104により加工され、かつ、集束電子ビーム108を用いることによって可視化されて良い。荷電粒子が試料に衝突する結果放出される2次放射線は、1つ以上の検出器(図示されていない)-たとえば2次電子検出器又はX線検出器-によって検出される。
【0029】
従来技術に係る方法が、その試料を真空チャンバ内に搬入するのに、 試料台上の試料ホルダ上に載置するようにその試料を設けることを必要とする場合、本発明による方法は、低温試料ホルダ112上に小さな液滴の噴流を噴霧することによって、試料を「その場で」生成する。
【0030】
第一実験は、特許文献 1 に記載された修正ガス注入システム(GIS)を用いた。係るGISは、直径1から2 mmの中空状の金属の針118を備える。一の端部 は試料台の近くに設けられる。他の端部は、通常注入される材料が、 0 . 1から100 mbar (典型的には1mbar未満 )の圧力で存在する加熱可能な体積(るつぼ)とプランジャーを介して接続する。注入される材料は、揮発又は昇華によって気体になることに留意してほしい。プランジャーは、ガスを注入するために開かれ、かつ、その注入を中止するために閉じられる。GISは修正された。その修正には以下が含まれる。
- プランジャーとるつぼとの間に直径200μmの開口部を設けること
- 針が試料ホルダから取り除かれること
- るつぼのプランジャー領域にパン用イーストの細胞(約1ml)を含む懸濁物が与えられること
上記のように修正されたGISは、図3で概略的に図示されている。るつぼ300は、試料材料を含む溶液302で部分的に満たされている。管304はバルブ306によってるつぼと接続する。バルブ306を備える管304はるつぼ300と接続する。バルブ306を介して、液体は、電子顕微鏡の真空壁310を貫通する管308へ入り込む。その後液体は、ダイアフラム312内の200μmの開口部を通過するときに小さく分割される。るつぼには0.1〜100mbarの内圧が生じる一方で開口部は、試料ホルダが存在する排気された体積と接続するので、るつぼとダイアフラム内の開口部との間には圧力差が存在することに留意してほしい。その後小さく分割された懸濁物は、たとえば-160℃の温度に維持された試料ホルダ314上に噴霧される。ダイアフラム312内の開口部と試料ホルダ314との間の距離は約5cmである。
【0031】
これらの修正によって、GISは、短時間だけそのGISを開け、かつすぐにそのGISを閉じることによって、小さな体積の懸濁物を噴霧することが可能となる。この結果、多くの小さな液滴で構成される少量の細胞懸濁物が、試料ホルダ上に「気流によってまかれる(sneezed)」。
【0032】
噴霧結果が図2Aと(より詳細に)図2Bに図示されている。図2Aは、約2.5×2.56mm2の視野を表している。図2Aは、いくつかの大きな液滴200と202を表している。液滴200は衝突時には平坦に見える。明らかに覆われている部分間の領域204は、 図2Bに図示されているように、非常に薄い氷の層によって覆われていることがわかる。図2Bは、 約25×256μm2の視野を表している。図Bは、 細胞208が埋め込まれている氷の薄い層206を表している。図2Cは、約6×6μm2の視野を表すさらに拡大された図を表す。図中、細胞の一部は、断面積が見えるように集束イオンビームを用いて除去されている。図2Cは、アモルファス状の氷の母体206と細胞の断面210-とりわけその核212-を表している。氷の針の信号は見いだされない。
【0033】
これらは第1の非常に粗い実験の結果であり、かつ、これらの写真は、本発明による方法を限定するものと解されてはならないことに留意してほしい。
【実施例2】
【0034】
第2実施例では、懸濁物は、針を介して冷たい表面に噴霧されないが、非特許文献2の図1とその説明文に記載された混合器によって噴霧される。このようにして、流体の変化は、懸濁物を低温表面に噴霧する前に生じさせて良い。
【0035】
またヒーターが、懸濁物を所望の温度-たとえば37℃-に保持するように備えられても良いことに留意して欲しい。さらに流体(懸濁物)を小さく分割するのにガスを利用することは、この実施例が、保護雰囲気での利用に適して、真空中での利用に適さないことを意味することにさらに留意して欲しい。しかし懸濁物を小さく分割するガスの圧力バーストが穏やかで、かつ、真空系が圧力バーストに対して大きな許容度を有する場合-たとえば環境制御型SEMで用いられる場合-には、この実施例は、試料ホルダ上にその場-つまり、環境制御型SEM又はそのような圧力で処理を行うように備えられた他の荷電粒子装置の排気された試料チャンバ内 -で懸濁物を噴霧するのに用いられて良い。
【実施例3】
【0036】
第3実施例では、懸濁物は、たとえば非特許文献1に記載された電子噴霧を用いることによって表面上に噴霧される。非特許文献1は、保護環境中で電子噴霧を利用することしか提案していないが、当業者は、電子噴霧が真空環境中−つまり電子顕微鏡(より一般的には荷電粒子装置)の試料チャンバ中−でも行えることを理解する。
【0037】
懸濁物が放出される開口部は、実施例2の混合装置上に設けられるノズルであって良いことに留意して欲しい。そのような実施例はすなわち実施例2と実施例3の複合的実施例である。
【実施例4】
【0038】
この実施例では、水溶液は、低温の液体又は固体上に噴霧される。その液体又は固体は、ガラス遷移温度よりも低い温度で除去されうることを特徴とする。このような除去は、流体の揮発、昇華、若しくは廃棄、又は他の方法によって行われて良い。その後冷凍した液滴が、たとえば本来沈んでいた試料ホルダ上に残されて良いし、又は、液体から取り出されても良い。低温液体はたとえば液体窒素又はエタンであって良い。
【実施例5】
【0039】
この実施例は実施例4と似ている。ただしこの実施例では、薄膜を備えるグリッドを含むTEM試料グリッドが、流体の上部に保持される。
【0040】
TEMのカーボングリッドは、キャリアグリッドが、わずか数μmの厚さのカーボン膜又はグラフェン膜を有するカーボン膜を支持するのに用いられるところ(たとえばグラフェン研究所株式会社(Graphen Laboratories Inc.))では、商業的に利用可能である。そのようなカーボン薄膜は電子ビームとほとんど相互作用しないため、この膜上に設けられた試料は十分な状態で結像されうる。同様にSi3N4薄膜を備えるグリッドも商業的に利用可能である。
【0041】
そのようなグリッドを本発明による方法に用いるときの問題は、薄膜の熱容量が、液滴をガラス繊維温度未満の温度にまで冷却するのに不十分であることである。
【0042】
実施例5は、膜の一面を低温液体と接した状態に保持することによってこの問題を解決する。このようにして、カーボン薄膜は、たとえ多量の水がその薄膜に噴霧されるときでさえ低温に保持される。
【0043】
同様にグリッドは、冷たい金属表面上に設けられて良いが、通常薄膜は冷凍されてその金属表面に付着することに留意して欲しい。
【0044】
さらにグリッドは、低温液体の一部が膜全体に広がる危険性を小さくするように、浅いカップとして形成されて良いことに留意して欲しい。係るカップは、低温液体上に浮かぶように作られて良い。
【実施例6】
【0045】
第6実施例では、低温液体が、前述した方法のいずれかによってガラス化された試料材料によって覆われている。その後、試料−たとえば薄片−は、集束イオンビームを用いて掘り抜くことによって、そのガラス化された試料材料から形成される。その後その試料又は薄片は、低温表面からを解放されて、試料キャリア−たとえばTEMグリッド−へ搬送される。
【0046】
低温表面上での溶液の噴霧時間を長くすることで、薄片が削り取られる試料材料層を厚くすることができることに留意して欲しい。
【0047】
他の手法−たとえば蛍光法−が、試料材料層上の関心領域を特定するのに用いられ、その後薄片又は試料がこれらの領域から取り出されて良いことにさらに留意して欲しい。
【符号の説明】
【0048】
100 電子顕微鏡
102 集束イオンビーム鏡筒
104 イオンビーム
106 電子顕微鏡
108 電子ビーム
110 試料台
112 試料ホルダ
114 試料チャンバ
118 金属の針
300 るつぼ
302 溶液
304 管
306 バルブ
308 管
310 真空壁
312 ダイアフラム
314 試料ホルダ
図1
図2A
図2B
図2C
図3