(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボニル含有基が、カーボネート基、ハロホルミル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸無水物基、及びイソシアナト基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2に記載の樹脂組成物。
前記極性官能基含有フッ素樹脂(B)を構成するフッ素樹脂は、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、及びエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体からなる群より選択される一種である請求項5に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、(A)側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂(側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂)、及び(B)極性官能基を有するフッ素樹脂(極性官能基含有フッ素樹脂)を含有する樹脂組成物である。以下、各成分について説明する。
【0022】
〔(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂〕
本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂とは、下記式(1)で示される側鎖1,2−ジオール単位を有するポリビニルアルコール系樹脂をいう。
【0024】
上記式(1)において、R
1〜R
6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。R
1〜R
6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定しないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0025】
上記式(1)中、Xは単結合又は結合鎖であり、結晶性の向上や非晶部におけるフリーボリューム(分子間空隙)低減の点から単結合であることが好ましい。上記結合鎖としては、特に限定しないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CH
2O)m−、−(OCH
2)m−、−(CH
2O)mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。なかでも、製造時の粘度安定性や耐熱性等の点で、炭素数6以下のアルキレン、特にメチレン、あるいは−CH
2OCH
2−が好ましい。
【0026】
上記式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R
1〜R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合である。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0028】
以上のような構成を有する側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、側鎖の1,2−ジオール単位、すなわち側鎖のOH基と、B成分の極性官能基とが反応、あるいは水素結合によって互いに結びつき合うことが可能となる。これにより、A成分とB成分との親和性が向上する。両成分の親和性の向上は、マトリックス成分である側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(又は極性官能基含有フッ素樹脂)中に、B成分である極性官能基含有フッ素樹脂(又は側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂)の微分散が可能となることを意味する。この点、側鎖に1,2−ジオール単位を有しない、従来のPVA系樹脂においても、分子鎖中にOH基を有しているが、主鎖中のOH基は、すべて2級水酸基であるために、側鎖の1,2−ジオール単位中の1級水酸基と比べて、B成分に含まれる極性官能基との反応性が小さく、均一分散した樹脂組成物が得られにくい傾向にある。
【0029】
このような側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、特に限定しないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記式(3)で示されるビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記式(4)で示される2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、製造することができる。
【0031】
(2)(3)(4)式中、R
1〜R
6は、いずれも(1)式の場合と同様である。R
7及びR
8は、それぞれ独立して水素またはR
9−CO−(式中、R
9は、炭素数1〜4のアルキル基)である。R
10及びR
11は、それぞれ独立して水素原子又は有機基である。
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を採用できる。
【0032】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で(i)の方法が好ましく、特にR
1〜R
6が水素、Xが単結合、R
7、R
8がR
9−CO−であり、R
9がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、その中でも特にR
9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0033】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0034】
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、式(2)〜(4)で示される化合物)の他に、ガスバリア性に影響与えない範囲(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;さらにビニレンカーボネート類やアクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル、アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物が共重合されていてもよい。なかでも、ビニルアルコール構造単位と共晶を形成するエチレンが特に好ましい。
【0035】
ビニルエステル系モノマーと上記式(2),(3),又は(4)の重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。
中でも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。溶液重合の溶媒としては、通常アルコールが用いられ、好ましくは炭素数1〜3の低級アルコールが用いられる。
【0036】
得られた共重合体のケン化についても、PVA系樹脂で、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち共重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。前記アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
【0037】
ケン化反応の反応温度は、20℃〜60℃とすることが好ましい。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下し、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80〜150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒も短時間、高ケン化度のものを得ることが可能である。
【0038】
以上のような側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂における重合度は、通常250〜1000、好ましくは300〜700、より好ましくは400〜600である。重合度が高くなりすぎると、溶融粘度が高くなりすぎて、溶融混練時の押出機に負荷がかかり、溶融混練時のせん断発熱により、樹脂温度が高くなり、樹脂が劣化するおそれがある。一方、重合度が低くなりすぎると、成形品がもろくなるため、クラックが入りやすく、ガスバリア性が低下する傾向にある。
【0039】
また、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂におけるビニルエステル部分のケン化度は、JIS K6726に基づいて測定した値で、通常98〜100モル%、好ましくは99〜100モル%、より好ましくは99.5〜99.9モル%である。ケン化度が低くなりすぎると、OH基の含有量が少なくなることを意味し、ガスバリア性が低下する傾向にある。一方、高ケン化度、完全ケン化のPVA系樹脂は、工業的に生産が困難になる傾向がある。
【0040】
上記式(1)で表わされる構造単位の含有率(側鎖1,2−ジオール含有率)は、PVA系樹脂構成モノマー全体に対して、通常2〜20モル%、好ましくは4〜15モル%、さらに好ましくは5〜12モル%である。側鎖1,2−ジオール含有率が高くなるのに伴って、融点や結晶化度が低下するので、押出時の溶融成形性向上の点で好ましいが、PVA系樹脂の生産性が低下する傾向がある。一方、側鎖1,2−ジオール含有率が低くなりすぎると、未変性のPVA系樹脂に近づくことになるため、溶融成形が困難となる。また、B成分である極性官能基含有フッ素樹脂との反応点又は水素結合形成部が少なくなるため、樹脂組成物におけるB成分の分散性が低下する傾向にある。
【0041】
〔(B)極性官能基含有フッ素樹脂〕
本発明に用いられる極性官能基含有フッ素樹脂とは、フッ素樹脂に、水酸基と反応可能又は水素結合を形成可能な極性官能基が導入されたフッ素系重合体をいう。
【0042】
前記極性官能基は、水酸基と反応可能な官能基又は水素結合を形成可能な官能基であり、好ましくはカルボニル含有基又は水酸基であり、より好ましくはカルボニル含有基である。
【0043】
前記カルボニル含有基としては、カーボネート基、ハロホルミル基、アルデヒド基(ホルミル基を含む)、ケトン基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸無水物基、及びイソシアナト基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはカーボネート基、フルオロホルミル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、カルボン酸無水物基であり、最も好ましくはカルボン酸無水物基である。
【0044】
極性官能基含有フッ素樹脂を構成するフッ素樹脂は、構成モノマーとして、少なくとも、テトラフルオロエチレンを含むフッ素系共重合体であることが好ましい。フッ素系共重合体には、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、CH
2=CX(CF
2)
nY(X、Yはそれぞれ独立にフッ素原子又は水素原子であり、nは2〜10である)で表わされるモノマー(以下、当該モノマーを「FAE」と称する)等の他のフッ素含有ビニルモノマーの他、エチレン、プロピレンなどのオレフィン系ビニルモノマー、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、他のハロゲン含有ビニルモノマーが共重合されていてもよい。
【0045】
前記FAEにおいて、式中のnは2〜8が好ましく、2〜6がより好ましく、2,4,6が特に好ましい。nが2未満であると樹脂組成物の成形体の耐熱性や耐ストレスクラックが低下する傾向にある。nが10を超えると、重合反応性が不十分になる場合がある。なかでも、nが2〜8の範囲にあると、FAEの重合反応性が良好である。さらには、耐熱性及び耐ストレスクラック性に優れた成形体が得られやすくなる。FAEは1種又は2種以上を用いることができる。このようなFAEの好ましい具体例としては、CH
2=CH(CF
2)
2F、CH
2=CH(CF
2)
4F、CH
2=CH(CF
2)
6F、CH
2=CF(CF
2)
3H等が挙げられる。FAEとしては、CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)が最も好ましい。
【0046】
上記フッ素樹脂の具体例としては、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体などが挙げられる。
【0047】
これらのうち、エチレンを構成モノマーとして含有するフッ素系共重合体が好ましく、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、及びエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体からなる群より選択される一種であることが好ましい。より好ましくはエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、エチレンを「E」、テトラフルオロエチレンを「TFE」、ヘキサフルオロプロピレンを「HFP」と表し、エチレン/テトラフルオロエチレンをE/TFE系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体を「E/TFE/HFP系共重合体」と表わすことがある。)である。
【0048】
また、耐ストレスクラック性を改善したり、若しくはフッ素樹脂の生産性を良好に保つために、E/TFE系共重合体やE/TFE/HFP系共重合体に、CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)なるコモノマーを共重合することも好ましい。なお、当該CH
2=CH−RfにおけるRfの炭素数は4が最も好ましい。
【0049】
上記のようなフッ素樹脂に、極性官能基を導入する方法としては、TFEやHFP等のフッ素含有ビニルモノマーを重合してフッ素樹脂を製造する際に、フッ素含有ビニルモノマーと極性官能基を有するビニルモノマーとを共重合させる方法;極性官能基を有する重合開始剤又は連鎖移動剤の存在下にフッ素含有ビニルモノマーを重合することにより、重合体末端に極性官能基を導入する方法;極性官能基を有するビニルモノマーとフッ素樹脂とを混錬した後、放射線照射する方法;極性官能基を有するビニルモノマー、フッ素樹脂及びラジカル開始剤とを混錬した後、溶融押出しすることにより当該極性官能基を有するコモノマーをフッ素樹脂にグラフト重合する方法等が挙げられる。このうち好ましくは、特開2004−238405に記載のように、フッ素含有ビニルモノマーと、極性官能基を有するコモノマー、例えば無水イタコン酸や無水シトラコン酸とを共重合させる方法である。
【0050】
前記極性官能基を有するビニルモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネンー2,3−ジカルボン酸無水物(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物ともいう)等のカルボン酸無水物基を与えるモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2COOH、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOH、CH
2=CHCF
2CF
2CF
2COOH等のカルボキシル基を与えるモノマー、及びそれらのメチルエステル、エチルエステル等のアルキルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0051】
また、前記極性官能基を有する重合開始剤としては、例えば、パーオキシカーボネート基を有するパーオキシド、パーオキシエステルを有するパーオキシドを用いることができ、中でも、パーオキシカーボネート基を有するパーオキシドがより好ましく用いられる。パーオキシカーボネート基を有するパーオキシドとしては、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が好ましく用いられる。
また、極性官能基を有する連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、無水酢酸等のカルボン酸、チオグリコール酸、チオグリコール等が挙げられる。
【0052】
B成分(極性官能基含有フッ素樹脂)における極性官能基の含有率((極性官能基のモル数/フッ素樹脂構成モノマーのモル数)×100)は、好ましくは0.01〜10モル%、より好ましくは0.05〜5モル%、最も好ましくは0.1〜3モル%である。官能基の量が少なすぎると、A成分との親和性が低下しすぎて、B成分の微分散が達成されにくくなり、結果として、均質な樹脂組成物が得られにくくなる。すなわち、B成分が微小な島となる海島構造が形成されにくくなり、その結果、耐屈曲疲労性の改善が不十分となるだけでなく、ボイドや凝集物が発生し、PVA系樹脂本来の利点であるガスバリア性低下の原因ともなる。また、組成物の水への乳化分散性やバインダーとしての特性が低下したりして好ましくない。
【0053】
本発明で使用する極性官能基含有フッ素樹脂は、融点が120〜220℃であることが好ましく、より好ましくは、150〜210℃、さらに好ましくは170〜190℃である。樹脂組成物の主成分であるA成分の融点よりも高くなりすぎると、組成物を製造する際に溶融温度を250〜290℃の高温まで上げる必要があり、その結果、PVA系樹脂の劣化や色調悪化を引き起こし、好ましくない。通常、極性官能基の含有率が上記範囲内にある極性官能基含有フッ素樹脂では、融点が上記範囲となる。
【0054】
(B)成分に使用するフッ素樹脂の容量流速(以下「Q値」という。)は、0.1〜1000mm
3/秒で、好ましくは、1〜500mm
3/秒、さらに好ましくは、2〜200mm
3/秒である。Q値は、フッ素樹脂を溶融成形する場合に問題となる樹脂の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。すなわち、Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。ここで、Q値は、島津製作所社製フローテスタを用いて、当該フッ素樹脂の融点より50℃高い温度において、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出すときの樹脂の押出し速度である。Q値が小さすぎると当該フッ素樹脂の押出し成形が困難となり、大きすぎると樹脂の機械的強度が低下する。
【0055】
以上のような極性官能基含有フッ素樹脂(B)の製造方法については特に制限はなく、通常、フッ素含有ビニルモノマー、その他のコモノマーを反応器に装入し、一般に用いられているラジカル重合開始剤、連鎖移動剤を用いて共重合させる方法が採用できる。重合方法の例としては、それ自身公知の、塊状重合;重合媒体としてフッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合;重合媒体として水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合;重合媒体として水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合が挙げられるが、溶液重合が最も好ましい。重合は、一槽ないし多槽式の撹拌型重合装置、管型重合装置等を使用し、回分式又は連続式操作として実施することができる。
【0056】
ラジカル重合開始剤としては、半減期が10時間である温度が0〜100℃である開始剤が好ましく、20〜90℃である開始剤がより好ましい。例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート;tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル;イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド;(Z(CF
2)
pCOO)
2(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、pは1〜10の整数である。)等の含フッ素ジアシルペルオキシド;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0057】
重合媒体としては、上記したようにフッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒、水性媒体等が挙げられる。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール;1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボン;1−ヒドロトリデカフルオロヘキサン等の含フッ素ハイドロカーボンなどが挙げられる。
重合条件は特に限定しないが、例えば重合温度は通常0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。また重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は重合温度及び重合圧力等により変わりうるが、通常1〜30時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。
【0058】
〔(C)その他の添加物〕
本発明の樹脂組成物には、上記(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂、(B)極性官能基含有フッ素樹脂の他、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り(例えば、樹脂組成物全体の5質量%未満)、側鎖に1,2−ジオール単位を有しない従来公知のPVA系樹脂;カルボキシエチルセルロース等のセルロース誘導体類やポリメタクリル酸、ポリアクリル酸などのその他の水溶性高分子;極性官能基を含有しないフッ素樹脂;ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の他の熱可塑性樹脂を含有してもよい。
【0059】
さらに、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば無機フィラー等);酸素吸収剤(例えば、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体の環化物等);界面活性剤、ワックス;分散剤(ステアリン酸モノグリセリド等)、熱安定剤、光安定剤、乾燥剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、共役ポリエン化合物などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0060】
<樹脂組成物の調製>
本発明の樹脂組成物は、上記側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A)、極性官能基含有フッ素樹脂(B)、さらに必要に応じて添加される添加物(C)を、所定量配合し、混合することにより調製できる。
【0061】
本発明の樹脂組成物における(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂の含有比率(A/B)(質量比)は、通常、98/2〜2/98が好ましく、98/2〜30/70がより好ましく、95/5〜40/60がさらに好ましく、90/10〜50/50の範囲が最も好ましく用いられる。A成分の含有割合が高くなりすぎると、成形品の耐久性、耐屈曲疲労性、伸縮性が乏しくなり、もろくなる。98/2〜30/70の範囲にあると、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A)が樹脂組成物のマトリックスを形成するので、ガスバリア性が特に優れる。一方、A/Bが29/71〜2/98の範囲にあると、極性官能基含有フッ素樹脂(B)が樹脂組成物のマトリックスを形成するので、ガスバリア性に優れたフッ素樹脂(B)のマトリックスが得られる。
【0062】
また、本発明の樹脂組成物における(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂の220℃、せん断速度122sec
-1での溶融粘度比(η
A/η
B)は、通常、1/5〜5/1であり、特に1/3〜3/1、さらに1/2.5〜2/1の範囲が好ましく用いられる。かかる溶融粘度比が大きすぎても、小さすぎても溶融混練時に均一に混合できない場合がある。すなわち、(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂の溶融粘度は近いほうが好ましい傾向がある。
【0063】
以上のような組成を有する本発明の樹脂組成物は、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の側鎖1,2−ジオール単位と極性官能基含有フッ素樹脂の極性官能基との反応又は水素結合形成により、両成分は、高い親和性を有し、マトリックスとなる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(又は極性官能基含有フッ素樹脂)の海中に、極性官能基含有フッ素樹脂(又は側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂)が、1μm以下の微小な島として分散することができる。従って、そのフィルム等の成形品や塗膜、特にPVA系樹脂がマトリックスとなる樹脂組成物の成形品や塗膜は、PVA系樹脂が本来有するガスバリア性、電気化学安定性が保持されている。さらに、受けた外力、応力の極性官能基含有フッ素樹脂の分散層(ドメイン)による吸収と側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂マトリックスと極性官能基含有フッ素樹脂ドメイン界面でのミクロフレーズの発生による応力緩和で、PVA系樹脂の柔軟性、耐屈曲疲労性を改善することができると思われる。しかも、極性官能基含有フッ素樹脂は、フッ素樹脂本来の耐溶剤性を有していることから、PVA系樹脂本来の優れた耐溶剤性を損なうことがないので、樹脂組成物、これから得られる成形品は、優れた耐溶剤性を有している。
【0064】
尚、A成分とB成分との混合は、ドライブレンド、溶融混練、溶液混合などにより行うことができるが、中でも溶融混練法が好ましい。
かかる溶融混練装置としては、混練機、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ブラストミルなどが挙げられ、特に連続的に処理することが可能で、混合効率に優れる押出機を用いる方法が好適である。
【0065】
かかる押出機としては、単軸押出機、二軸押出機のいずれも用いることができるが、中でも、二軸押出機、特にスクリュー回転方向が同方向の二軸押出機が適度なせん断により十分な混練が得られる点で好ましい。
【0066】
押出機のL/Dは、通常、10〜80であり、好ましくは15〜75、より好ましくは15〜70である。L/Dが小さすぎると、溶融混練が不十分となり、均一分散性が不十分となる場合がある。一方、L/Dが大きすぎると、過度のせん断や過度の滞留によって、せん断発熱による分解を引き起こす傾向がある。
【0067】
スクリュー回転数は、通常、10〜400rpmであり、好ましくは30〜300rpmであり、より好ましくは50〜250rpmである。小さすぎると、吐出が不安定になる傾向があり、大きすぎると、せん断発熱によって樹脂が劣化する場合がある。
【0068】
押出機内における溶融時の樹脂温度は、通常170〜260℃であり、好ましくは180〜240℃であり、より好ましくは190〜235℃である。組成物温度が高すぎると、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A)と極性官能基含有フッ素樹脂(B)との反応が進みすぎ、ゲル化する場合がある。一方、低すぎると、溶融混練が不十分となって、極性官能基含有フッ素樹脂(B)の分散性が不十分となる傾向がある。
なお、組成物温度の調整は、通常、押出機内のシリンダーの温度、及び回転数を適宜設定することにより行うことができる。
【0069】
以上のようにして得られた本発明の樹脂組成物は、溶融成形することができる。成形材料として使用するために、組成物の形状は、通常、ペレットや粉末などの形状とされる。成形機への投入や、取扱い、微粉発生の問題が小さい点から、ペレット形状とすることが好ましい。
なお、かかるペレット形状への成形は公知の方法を用いることができる。中でも、上述の押出機からストランド状に押出し、冷却後所定の長さに切断し、円柱状のペレットとする方法が効率的である。冷却は、PVA系樹脂(A)を溶解しない低温の有機溶剤、例えばアルコール系溶剤等に接触させることによって行ってもよいし、冷風を吹き付けることによっても行える。環境や安全性の点から、空冷が好ましい。
【0070】
ペレットの形状は、円筒状、球状など、サイズ、形状は特に限定はしないが、円筒状の場合、径1〜6mmで長さ1〜6mmが好ましく、球状ペレットの場合、径1〜5mmが好ましい。また、後述の水に乳化し効率よくエマルジョン化させるためには、径1〜2mmで長さ1〜2.5mmのミニペレットが好ましい。
尚、押出機から吐出されたPVA系樹脂(A)がまだ溶融状態である間に、大気中あるいは有機溶剤中でカットすると、球状に近いペレットが得られる。
【0071】
<用途>
以上のような組成を有するPVA系樹脂組成物は、溶融成形でき、しかも結果物である成形品は、優れたガスバリア性、耐溶剤性を有し、さらに耐屈曲疲労性も改善されている。従って、各種飲食品用包装材、容器、バッグインボックス用内袋、容器用パッキング、医薬品、その他の薬品、化学品、有機液体用容器などとして用いることができる。
【0072】
また、本発明のPVA系樹脂組成物の溶融成形品表面の表面自由エネルギーは、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂単独の溶融成形品の表面自由エネルギーよりも小さい。従って、溶融成形品、特にフィルムとした場合、フィルム同士の密着を抑制することができる。このことは、常温常湿での溶融成形フィルムの巻取りが容易であることを意味し、工業生産上、有利である。
【0073】
さらに、本発明のPVA系樹脂組成物は、優れた耐溶剤性に基づき、厳しい耐溶剤性が要求される包装材用途、各種電池用部材、レアメタル等からなる磁石の表面保護層、有機EL用封止膜などとして用いることも可能である。
上記のような成形品用途の他、本発明の樹脂組成物は、フッ素樹脂が乳化分散した乳化分散液として用いることもできる。
【0074】
<乳化分散液>
本発明の乳化分散液は、本発明の樹脂組成物を、PVA系樹脂と均一に混合できる又はPVA系樹脂を溶解する液体を分散媒として、分散ないし溶解させることにより得られる液体である。したがって、本発明の乳化分散液は、下記式(1)で表わされる構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂(A);水酸基と反応可能又は水素結合を形成可能な極性官能基を有するフッ素樹脂(B);及び前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を溶解ないし均一に混合できる分散媒を含む。
【0076】
式中、R
1〜R
6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示す。
【0077】
本発明の乳化分散液に用いられる上記A成分としての側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂、B成分としてのフッ素樹脂は、樹脂組成物で用いたものと同様の化合物を用いることができる。好ましくは、A成分がマトリックスとなり、B成分がマトリックス中で分散している樹脂組成物ペレットを用いる。具体的には、A成分とB成分の混合比、A成分:B成分(質量比)が、95:5〜55:45であり、好ましくは90:10〜60:40、より好ましくは85:15〜60:40、特に好ましくは80:20〜65:35の樹脂組成物ペレットが好ましく用いられる。
【0078】
上記分散媒としては、PVA系樹脂と均一に混合できる、あるいはPVA系樹脂を溶解する液体としては、具体的には、水、水とアルコールの混合液、及びアミド系溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。前記アミド系溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどを用いることができる。
【0079】
前記水/アルコール混合液の場合、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロピルアルコールなどの低級アルコールが用いられる。水とアルコールの混合比率(水/アルコール)は、通常、100/0〜40/60、好ましくは90/10〜50/50、より好ましくは85/15〜60/40である。アルコールが多すぎると、乳化分散性が不十分となり、乳化液の保存安定性が低下し、乳化液の粘度上昇をきたし、乳化液の取扱性が低下し、好ましくない。
【0080】
本発明の樹脂組成物では、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A)の水酸基、特に1級水酸基と極性官能基含有フッ素樹脂(B)に含有されている極性官能基(好ましくはカルボキシル基)との反応又は水素結合の形成による生成物が相溶化剤として働くことができ、前記PVA系樹脂(A)マトリックス中に前記フッ素樹脂(B)が微分散した状態となっている。従って、本発明の樹脂組成物を、PVA系樹脂を溶解する乃至は均一に混合できる液体、すなわち分散媒と混合すると、海部分を構成していた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂が分散媒に溶解した結果、島部分を構成していた極性官能基含有フッ素樹脂(B)が、前記PVA系樹脂(A)の水酸基、特に1級水酸基と前記フッ素樹脂(B)に含有されている極性官能基(好ましくはカルボキシル基又はカルボン酸無水物基)との反応又は水素結合形成による生成物が保護コロイド剤として作用して分散媒中に分散した乳化液となる。通常、水、水/アルコール混合液、アミド系溶媒のような分散媒中に、フッ素樹脂が単独では分散できないが、側鎖1,2−ジオール含有PVA樹脂との反応生成物が、分散質である極性官能基含有フッ素樹脂(B)の周囲を保護コロイドとして取り囲んだような球状となることで、安定的に存在できているのではないかと考えられる。
【0081】
フッ素樹脂の乳化分散液は、樹脂組成物のペレットを、分散媒中に投入し、必要に応じて攪拌、好ましくは加熱しながら攪拌することにより調製できる。
【0082】
乳化分散液全量に対する本発明の樹脂組成物(固形分)の濃度は、通常1〜50質量%、好ましくは3〜45質量%、より好ましくは7〜40質量%である。樹脂濃度が高すぎると、乳化液の粘度が高くなる傾向がある。逆に、樹脂濃度が小さすぎると、乳化分散液の分散安定性が低下する傾向にある。
なお、本発明における固形分とは、乾燥減量法により測定した値を意味する。
【0083】
特に、分散媒として水を用いる場合、乳化分散液全量に対する前記樹脂組成物(固形分)の濃度は、通常10〜50質量%、好ましくは20〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%である。また、分散媒としてN−メチルピロリドン等のアミド系溶媒を用いる場合、乳化分散液全量に対する本発明の樹脂組成物(固形分)の濃度は、通常1〜50質量%、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは7〜15質量%である。
【0084】
上記加熱温度は、通常、20〜80℃、好ましくは40〜70℃、より好ましくは、50〜68℃である。特に限定しないが、高温の方が乳化分散時間を短縮できるという点で好ましい。攪拌時間は、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜7時間、より好ましくは1〜5時間である。
【0085】
以上のようにして調製される乳化分散液において、分散質であるフッ素樹脂(保護コロイド層を含む)は、通常、通常100〜800nm、好ましくは300〜700nm、より好ましくは400〜600nm程度の粒径で、安定的に分散して存在している。
【0086】
以上のような乳化分散液は、前記樹脂組成物膜の製造に用いることが可能である。すなわち、乳化分散液を基板に塗工し、加熱乾燥すると、分散媒が揮発ないし蒸発して、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂をマトリックスとしフッ素樹脂をドメインとした塗膜が得られる。このときの乾燥温度は、常温〜150℃、好ましくは60〜130℃、より好ましくは70〜120℃である。
【0087】
かかる乳化分散液から形成される塗膜は、耐溶剤性に優れる。さらに、Liイオン二次電池の電解液に用いられるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等に対して非常に低膨潤性で不溶解性であり、フッ化水素などに対する耐久性を有する。また、かかる塗膜に求められる180〜200℃の十分な耐熱性を有することから、Liイオン二次電池の包材、電極及びセパレータに対する表面処理剤、電極活物質のバインダーとして好適に用いられる。
【0088】
<バインダー>
本発明のバインダーは、上記本発明の乳化分散液を含む。すなわち、本発明のバインダーは、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A);水酸基と反応可能な又は水素結合を形成可能な極性官能基を有するフッ素樹脂(B);及び前記PVA系樹脂(A)を溶解ないし均一に混合できる分散媒を含む乳化分散液を含んでいる。特に、リチウムイオン二次電池電極用バインダーとして好適である。
【0089】
リチウムイオン二次電池電極用バインダーとしては、一般に、活物質との結着力が優れているという理由から、PVDF等のフッ素系ポリマーが広く用いられている。さらに、折り曲げ、湾曲などが施されても、集電体から活物質が脱離、剥離などしないような結着性を有する必要がある。このような観点から、例えば、特開2002−231251号公報では、フッ素系ポリマーと共役ジエン系ポリマーとを水に分散させたバインダーが提案されている。しかしながら、リチウムイオン二次電池の小型化、薄型化、高性能化に伴い、電極用バインダーについても、より優れた耐溶剤性を有し、集電体の折り曲げ、屈曲に対しても結着力を保持でき、さらに繰り返し行われる充放電の安定性に優れたバインダーに対する要求が高まっている。本発明のバインダーは、このような要求に応えることができるものである。
【0090】
更に昨今では、正極活物質、例えばオリビン構造を有するリン酸塩系正極活物質(LiMPO
4:M=Fe、Mn、Co、Ni等)に対して使用できる水性バインダーが求められている。しかし、一般に負極用バインダーの結着樹脂として用いられているスチレンブタジエンゴム(SBR)を正極用バインダーに用いると、電気化学安定性が不十分であり、実用上、使用困難である。また、正極活物質のバインダーで一般に用いられているPVDFの場合、水に対する親和性が乏しいために、水を分散媒として使用することは困難である。また、PVDFは、電解液に膨潤しやすい傾向にあるため、PVDFを結着樹脂とするバインダーは、電池の充放電特性等の耐久性に不十分な傾向がある。このような事情下、本発明のバインダーは、正極活物質に対して使用できる水性バインダーとして有用である。
【0091】
以下、本発明のバインダーについて、リチウムイオン二次電池電極用バインダーを例に説明するが、本発明のバインダーはリチウムイオン二次電池電極以外のバインダー用途にも適用できるものである。
【0092】
リチウムイオン二次電池電極用バインダーは、結着成分として、(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂、及び(B)水酸基と反応可能な又は水素結合を形成可能な極性官能基を有するフッ素樹脂(B)を含有するものであり、通常、上記本発明の乳化分散液を原料として調製される。
【0093】
したがって、上記A成分、上記B成分としては、それぞれ本発明の樹脂組成物で説明した側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂、極性官能基含有フッ素樹脂を用いることができる。
また、分散媒も、上記乳化分散液で用いた溶媒、すなわち、A成分を溶解ないし均一に混合することができる溶媒、具体的には、水、水とアルコールの混合液、及びアミド系溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。アミド系溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどを用いることができる。前記水/アルコール混合液の場合、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。
【0094】
バインダー中に含まれる結着樹脂成分量(A成分とB成分の含有総量)は、バインダーの1〜60質量%であり、好ましくは5〜50質量%、特に好ましくは8〜40質量%である。従って、バインダーに含まれる本発明の乳化分散液の含有率は、結着樹脂成分の含有率が上記範囲となる量であり、乳化分散液の固形分濃度に応じて、適宜設定すればよい。
【0095】
結着樹脂成分におけるA成分とB成分の混合比率は、特に限定しないが、PVA系樹脂がマトリックスとなって、B成分であるフッ素樹脂が分散媒中に安定的に微分散できる混合比率(質量比)である。具体的には、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A):フッ素樹脂(B)=95:5〜55:45、好ましくは90:10〜60:40、更に好ましくは85:15〜60:40、特に好ましくは80:20〜65:35である。
【0096】
本発明のバインダーには、上記結着樹脂の他、バインダーの粘度等を調節するために、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂以外のPVA系樹脂やその他の水溶性高分子などを適宜追加してもよい。
【0097】
側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂以外のPVA系樹脂としては、例えば、未変性PVA系樹脂;カルボキシル基含有PVA系樹脂;ホルマール化PVA系樹脂、ブチラール化PVA系樹脂等のPVA系樹脂のアセタール化物;PVA系樹脂のウレタン化物;PVA系樹脂のスルホン酸、カルボン酸等とのエステル化物;末端チオール変性PVA系樹脂;ケイ素官能基含有PVA系樹脂;アセトアセチル基含有PVA系樹脂;オキシエチレン基含有PVA系樹脂、オキシプロピレン基含有PVA系樹脂等のオキシアルキレン基含有PVA系樹脂;エチレンやプロピレン等のα−オレフィン含有PVA系樹脂等のビニルエステル及び該ビニルエステルと共重合可能なモノマーとの共重合体ケン化物等が挙げられる。
【0098】
PVA系樹脂以外の水溶性高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類;デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸又はその塩ポリメタクリル酸又はその塩;ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等のアクリルアミド類;酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等不飽和酸との共重合体;スチレンと上記不飽和酸との共重合体;ビニルエーテルと上記不飽和酸との共重合体;及び前記不飽和酸と各共重合体の塩類又はエステル類、カラギーナン、キサンタンガムなどの多糖類等が挙げられる。中でも、セルロース誘導体類を用いることが好ましい。
【0099】
バインダーにおける固形分の含有率、すなわちバインダー中の固形分含有総量の割合は、通常、1〜70質量%、好ましくは3〜55質量%、より好ましくは5〜50質量%、特に好ましくは8〜40質量%である。かかる割合は、後述する活物質種及びその性質と、電極用スラリーとなった際の粘度を考慮して調節する。
【0100】
本発明のバインダーは、原料となる乳化分散液に、さらに必要に応じて、他の樹脂、分散媒を添加し、混合して、所定濃度とすることにより製造することができる。
まず乳化分散液を調製した後、他の樹脂、分散媒を追加してもよいし、樹脂組成物のペレットと、他の樹脂との混合物を、分散媒に溶解、分散させてもよいし、乳化分散液と他の樹脂の分散媒溶液とを混合することにより、調製してもよい。
【0101】
以上のような組成を有するバインダーは、塗工、乾燥により、結着樹脂成分であるPVA系樹脂及び極性官能基含有フッ素樹脂の特性に基づき、耐熱性、耐溶剤性に優れ、さらに、柔軟性、電気化学安定性に優れた塗膜が得られる。よって、活物質間や、活物質と集電体に対するバインダーとして用いる場合、充放電の繰り返しによる電極活物質の膨張と収縮に追従することができ、しかも優れた電気化学安定性を有するので、高品質の電極を得ることができる。
【0102】
従って、以上のようなバインダーは、リチウムイオン二次電池電極用バインダーとして好適である。正極、負極のいずれにも適用できる。
【0103】
〔電極用スラリーの調製、電極及びリチウムイオン二次電池の製造〕
(1)電極用スラリーの調製と電極の製造
上記バインダーに、活物質、及び必要に応じて他の成分を添加混合したスラリー液を用いて、リチウムイオン二次電池用電極を作製することができる。
【0104】
上記活物質のうち、正極活物質としては、例えば、LiMPO
4(M=Fe、Mn、Co、Niなど)で示されるオリビン型リン酸鉄金属リチウム類、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等を用いることができる。本発明のバインダーは、特に正極活物質を用いる場合、好ましくはオリビン型リン酸金属リチウム類を用いる場合に、本発明の効果が有効に得られる傾向にある。
【0105】
負極活物質としては、炭素材料が好ましい。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系炭素材料(黒鉛)、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン等が挙げられる。より好ましくは、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などの黒鉛が挙げられる。
【0106】
活物質の平均粒子径は特に制限されないが、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは1〜25μmである。なお、活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0107】
スラリー中の活物質の含有量は、10〜95質量%、20〜80質量%、好ましくは35〜65質量%である。
【0108】
電極用スラリーにおける活物質とバインダーとの含有比率は、活物質100質量部に対して、前述の電極用バインダーが、固形分換算で通常0.1〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部、特に好ましくは0.1〜4である。電極用バインダーの含有量が高くなりすぎると、内部抵抗が増大することになる。一方、少なすぎると、所望の結着力が得られず、電極が不安定となり、充放電サイクル特性が低下する傾向がある。
【0109】
電極用スラリーには、上記活物質、バインダーの他、その他の物質が含まれてもよい。例えば、導電助剤、イオン伝導性ポリマー等が含まれうる。これらの成分の配合比は、公知の一般的な範囲である、配合比についても、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0110】
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される配合物をいう。導電助剤としては、黒鉛、アセチレンブラック等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF)などの種々の炭素繊維などが挙げられる。本発明の電極においては、高分子の中でも比較的導電性の低い結着剤を用いる場合、導電助剤を配合することが好ましい。特に結着剤としてポリビニルアルコールを用いる場合、導電助剤としてVGCFを用いると、活物質が有効に活用され、結着剤を多量に用いることに起因する充放電容量の低下が抑制されうる。この際、VGCFの配合量は、好ましくは活物質層の合計質量に対して1〜10質量%である。
【0111】
さらに、電極作製時の作業性等を考慮して、粘度調整、バインダー固形分の調整などの目的により、溶媒を追加して、電極用スラリーを調製してもよい。かかる溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、メタノール、エタノール、高級アルコール等のアルコール系溶媒を用いることができる。
【0112】
電極用バインダー、活物質、及び必要に応じて用いられる配合剤、溶媒の混合は、攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。また、電極用スラリーの調製は、減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。
【0113】
以上のようにして調製される電極用スラリーを、集電体上に塗布、乾燥することにより、電極を製造することができる。必要に応じて、塗布後、プレスして密度を上げることが好ましい。
【0114】
負極に用いられる集電体としては、リチウムイオン二次電池の負極の集電体として用いられているものを使用できる。具体的には、負極(炭素電極)が機能する電位範囲において電気化学的に不活性な金属であることが求められることから、銅、ニッケルといった金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタルなどが用いられる。
正極に用いられる集電体としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル、ステンレス、チタン等の金属材料が挙げられ、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いることができる。
【0115】
各集電体上に、電極用スラリーを塗布、乾燥することで、電極層を形成することができる。電極用スラリーを集電体に塗布する方法としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法等が挙げられる。また、電極用スラリーの塗布膜の乾燥処理の条件としては、処理温度が通常20〜250℃であり、50〜150℃であることがより好ましい。また、処理時間は通常1〜120分間であり、5〜60分間であることがより好ましい。
【0116】
活物質層の厚さ(塗布層の片面の厚さ)は、通常20〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmであり、さらに好ましくは20〜150μmである。
【0117】
(2)リチウムイオン二次電池
上記のようにして作製される電極を備えたリチウムイオン二次電池について、説明する。
正極、負極のうちの少なくともいずれか一方において、活物質のバインダーとして、本発明のバインダーが用いられていればよい。
【0118】
電解液としては、リチウム塩を溶解する非プロトン性極性溶媒が用いられる。特に限定しないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル系高誘電率・高沸点溶媒に、低粘性率溶媒である炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の低級鎖状炭酸エステルを含有させて用いられる。具体的には、エチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、イソプロピルエチルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチルなどが挙げられ、これらは混合して用いることが好ましい。
さらに、アリルエチルカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、無水マレイン酸、2−ビニルピリジン、酢酸ビニルなどを配合することが、固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface:SEI)の生成を補助し、不可逆容量を低下させる点で好ましい。
【0119】
電解質のリチウム塩としては、LiClO
4 、LiPF
6 、LiBF
4 、LiAsF
6、LiCl、LiBr等の無機塩や、LiCF
3SO
3 、LiN(SO
2CF
3))
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2 、LiC(SO
2CF
3)
3、LiBC
4O
8等の有機塩など、非水電解液の電解質として常用されているものを用いればよい。これらのなかでもLiPF
6 、LiBF
4 又はLiClO
4 を用いるのが好ましい。
【0120】
セパレータとしては、特に限定しないが、ポリオレフィンの不織布や多孔性フィルムなどを用いることができる。
【0121】
二次電池の構造としては、特に限定されず、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得る。また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)については、(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得る。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り質量基準を意味する。
【0123】
〔測定評価方法〕
はじめに、以下の実施例で採用した測定評価方法について説明する。
(1)ガスバリア性(酸素透過度)
酸素透過度試験機(MOCON社製「OxtranTwin」)を用い、フィルムの23℃、80%RH条件下の酸素透過量(cc・30μm/m
2・day・atm)を測定した。
【0124】
(2)耐溶剤性
溶融混練ペレット化の際に得られたストランドを、液体窒素中で破断し、60℃の溶剤(キシレン又はスチレン)中に5時間浸漬した後、破断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて表面の状態を観察し、以下のとおり評価した。
○・・・ドメインの溶出が認められず
×・・・ドメインが溶出
【0125】
(3)耐屈曲疲労性
得られた乾燥フィルムを使用し、ゲルボフレックステスター(理学工業社製)にて、23℃、50%RH条件下で捻じり試験を行った。25インチ水平に進んだ後に、3.5インチで440°の捻じりを100回(40サイクル/分)加えた後、該フィルムの中央部28cm×17cmあたりのピンホール発生数を数えた。かかるテストを5回試行し、その平均値を求めた。
【0126】
(4)水への乳化分散性
樹脂組成物のペレット20部を、常温の水80部に投入し、攪拌しながら、80℃の温水をいれた容器に浸漬し、90分間攪拌した。
○・・・良好な乳化分散液が得られた
×・・・沈殿物が生成または完全に溶解した。
【0127】
(5)表面自由エネルギー
溶融形成フィルムを、五酸化リンを入れたデシケータ中に10日間静置して調湿したフィルムを用い、接触角計(協和界面科学社製、「自動・動的接触角計DCA−VZ150」)にて、水、ヨウ化メチレン、1−ブロモナフタレンとの静的接触角を測定し、それらの値から表面自由エネルギーを求めた。
【0128】
(6)電気化学安定性
ビーエーエス社製V−4Cボルタンメトリー用セルを用いて、電極電位を掃引したときの応答電流の変化を測定した。
作成した電極を作用極(電極面積0.25cm
2)とし、対極に白金電極、参照電極に銀電極(Ag/Ag
+:AgSO
3CF
3)、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の混合液((EC/EMC=3/7(体積比)、キシダ化学製)に電解質1M LiPF
6を溶解させた溶液を用いた。
電気化学測定システム「ソーラートロン1280Z」(英国ソーラートロン社製)を用いて、電位掃引速度5mV/secで、電位掃引範囲−0.5〜2.4V(対参照電極)で、電極電位を掃引し、応答電流を測定した。測定は、温度25℃で、5サイクル行った。
測定により得られたボルタモグラム(横軸に印加電位、縦軸に応答電流値として応答電流の変化を表したグラフ)に基づいて、スパイク状過渡電流の有無、5サイクルでの電流状況、2.4Vの電流値が0.6mA/cm
2以下となった場合、塗膜の酸化劣化による脱落剥離により、実質的に電流が流れにくくなったと考えられる。
【0129】
〔樹脂組成物の調製〕
(1)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A)
還流冷却器、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、共重合体のメタノール溶液とした。
次いで、上記メタノール溶液を、さらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整して、ニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して11.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。
ケン化が進行するとともに、ケン化物が析出し、粒状となった時点で濾別した。得られたケン化物をメタノールでよく洗浄して熱風乾燥機で乾燥し、上記(1a)式の側鎖1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(A1)を得た。
【0130】
得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A1)のケン化度は、残存酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.9モル%であった。また、平均重合度は、JIS K6726に準じて分析を行ったところ、450であった。また、式(1a)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量は
1H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質:テトラメチルシラン,50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。また、MFR(210℃、荷重2160g)は、5.5g/10分、溶融粘度(220℃、せん断速度122sec
-1)は1148Pa・sであった。
【0131】
(2)極性官能基含有フッ素樹脂(変性フッ素樹脂)(B1)
内容積が430リットルの撹拌機付き重合槽を脱気し、溶媒として、1−ヒドロトリデカフルオロヘキサン200.7kg及び1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(旭硝子社製AK225cb、以下「AK225cb」という。)55.8kgを仕込み、さらに、重合モノマーとして、1.3kgのCH
2=CH(CF
2)
4Fを仕込んだ。次いで、重合モノマーとして、122.2kgのヘキサフルオロプロピレン(HFP)、36.4kgのテトラフルオロエチレン(TFE)、1.2kgのエチレン(E)を圧入し、重合槽内を66℃に昇温し、重合開始剤としてtert−ブチルペルオキシピバレートの85.8gを仕込み、重合を開始させた。重合中の圧力が一定になるように組成TFE/E=54/46(モル比)のモノマー混合ガスを連続的に仕込み、TFE/Eのモノマー混合ガスに対して、1.0モル%となるようにCH
2=CH(CF
2)
4Fを、0.35モル%となるように極性官能基含有化合物である無水イタコン酸を、それぞれ連続的に仕込んだ。重合開始3.6時間後、モノマー混合ガスの29kgを仕込んだ時点で、重合槽内の温度を室温まで降温するとともに常圧までパージした。
【0132】
得られたスラリーから溶媒を留去して、極性官能基として酸無水物基を有するフッ素樹脂を得、これを130℃で4時間真空乾燥することにより、30kgの酸無水物基含有フッ素樹脂(B1)を得た。
【0133】
酸無水物基含有フッ素樹脂(B1)の結晶化温度は175℃、Q値は12mm
3/秒、共重合組成はTFE/E/HFP/CH
2=CH(CF
2)
4F/無水イタコン酸=47.83/42.85/7.97/1.00/0.35(モル%)であった。
【0134】
(3)実施例1〜3の樹脂組成物の調製並びにペレット及びフィルムの作製
上記で合成した側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A1)と酸無水物基含有フッ素樹脂(B1)とを、表1に示す質量比でドライブレンドして、実施例の樹脂組成物No.1−3を調製し、各組成物を二軸押出機(テクノベル社製)を用いて、下記条件でペレット化した。
スクリュー径:15mm
L/D=60mm
回転方向:同方向
スクリューパターン:3か所練り
スクリーンメッシュ:90/90メッシュ
スクリュー回転数 :200rpm
温度パターン:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=180/200/210/210/215/215/220/220/220℃
樹脂温度:225℃
吐出量:1.5kg/hr
【0135】
得られた樹脂組成物ペレットを、二軸押出機(テクノベル社)にて下記条件で製膜し、厚さ30μmのフィルムを得た。
直径(D)15mm、
L/D=60
スクリュー:練り3か所
ベント :C7オーブン
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=180/200/210/210/215/215/220/220/220℃
スクリーンメッシュ:90/90メッシュ
スクリュー回転数:200rpm
樹脂温度:225℃
吐出量:1.5kg/hr
ダイ:幅300mm、コートハンガータイプ
引取速度:2.6m/min
ロール温度:50℃
エアーギャップ:1cm
【0136】
作製したフィルム及びペレットを用いて、上記測定評価方法に基づき、ガスバリア性、耐溶剤性、水への乳化分散性を測定評価した。結果を表1に示す。また、実施例2の溶融成形フィルムについて、耐溶剤性試験を行った後の顕微鏡写真を
図1に示す。
【0137】
(4)比較例1
極性官能基含有フッ素樹脂20部に代えて、カルボキシル基を有さないスチレン/エチレン/スチレンブロック共重合体(旭化成社製「タフテックH1041」)10部及びカルボキシル基を含有するスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(旭化成社製「タフテックM1911」、酸価2mgCH
3ONa/g)10部の混合物を用いた以外は、上記と同様にして、樹脂組成物を調製し、さらにペレット及びフィルムを作製して、ガスバリア性、耐溶剤性、水への乳化分散性を測定評価した。結果を表1に示す。また、作製した溶融成形フィルムについて、耐溶剤性試験を行った後の顕微鏡写真を
図2に示す
【0138】
(5)参考例
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂単独について、同様に測定評価した結果を、参考例として表1に示す。
なお、極性基を含有しないフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)20部を側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A1)と混合したところ、両成分が分離してしまい、樹脂組成物自体を調製することができなかった。
【0139】
【表1】
【0140】
表1の比較例で示すように、熱可塑性エラストマー成分を配合した樹脂組成物では、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(参考例)で課題となっていた耐屈曲疲労性を大幅に改善できた。しかしながら、
図2から明らかなように、スチレン、キシレンのいずれの溶剤に対しても、ドメインが溶出しており、耐溶剤性を充足することはできなかった。また、熱可塑性エラストマーの乳化分散液を調製することもできなかった。
【0141】
これに対して、極性官能基含有フッ素樹脂を配合した樹脂組成物(実施例1〜3)では、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の耐屈曲疲労性が改善され、しかも側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂本来の利点である耐溶剤性も保持されていた。また、乳化分散液を調製することもできた。さらに、溶融成形フィルムの表面自由エネルギーは、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂フィルム単独の場合(参考例)と比べて、小さくなっていた。従って、フィルム表面での物質の吸着、巻取り時のフィルム同士の吸着等が生じにくくなる。
【0142】
〔リチウムイオン二次電池電極用バインダーの製造及び評価〕
(1)リチウムイオン二次電池電極用バインダーの調製
実施例4:
上記で調製した実施例2の樹脂組成物ペレットを水で溶解して、20質量%の乳化分散液を調製した。この乳化分散液5.0部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル製 F20LC)2質量%水溶液0.5部、導電助剤としてアセチレンブラック2.0部を配合し、さらに水6.6部を配合して、遊星式混合攪拌機にて混合して、測定用スラリーとした。スラリーに用いられるバインダー組成は、表2に示す質量割合で、結着樹脂成分及び増粘剤、分散媒を含有している。
【0143】
得られた測定用スラリーをアプリケータ(クリアランス170μm)を用いて、厚さ20μmアルミニウム箔上に塗布した。塗布後、80℃で10分間保持し、さらにそのあと25分かけて105℃まで昇温し、105℃で10分間乾燥した。乾燥後、ロールプレス(クリアランス12μm)で圧縮し、減圧下130℃で24時間乾燥して、作用極を得た。
このようにして作成した作用極を用いて、上記評価方法に基づいて、電気化学安定性を評価した。得られたサイクリックボルタモグラムを
図3、評価結果を表2に示す。
【0144】
比較例2:
結着樹脂成分として、ポリフッ化ビニリデンを用いた。ポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液(8質量%)(キシダ化学社製の#1100)をバインダーとして用いた。実施例4と同様にして、導電助剤としてアセチレンブラックを添加混合して、作用極用スラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様にして作用極を作製し、評価した。得られたサイクリックボルタモグラムを
図4、評価結果を表2に示す。
【0145】
比較例3:
結着樹脂成分としてスチレンブタジエンゴムを用いた。スチレンブタジエンゴムの水分散液(48.4質量%)、実施例4で用いた増粘剤(カルボキシメチルセルロースの2質量%水溶液)を表2に示す割合で含有するバインダーを用いた。導電助剤としてのアセチレンブラックを添加混合し、実施例4と同様にして、作用極用スラリーを調製した。このスラリーを用いて、実施例4と同様にして作用極を作製し、評価した。得られたサイクリックボルタモグラムを
図5、評価結果を表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
アルミニウム箔のみを作用極としてサイクリックボルタンメトリーを用いて測定すると、アルミニウム箔表面が酸化されて不動態化し、電流が流れにくくなる現象が知られている。結着樹脂成分がPVDF(比較例2)、スチレンブタジエンゴム(比較例3)であるバインダーは、いずれも、2サイクル目以降の電流値が大幅に低下し、電流が流れにくくなっていた。PVDF(比較例2)では、1サイクル目から電流値が低く、しかも1.5V付近からスパイク電流が観測されたことから、塗膜の脱落剥離が生じたことがわかる。実際、5サイクル目の測定後に電極の様子を目視で観察したところ、塗膜の剥離を確認することができた。結着成分であるPVDFは、集電体に対するバインダー力が弱く、さらに1.5V以上の電圧で酸化劣化したためと推測される。
【0148】
スチレンブタジエンゴムを用いたバインダー(比較例3)の1サイクル目では、2.5mA/cm
2と大きな電流値を示したが、1.5V付近より電流が低下し、その後、電流値は低く推移したことから、塗膜の脱落剥離が生じたことがわかる。実際、5サイクル目の測定後に電極の様子を目視で観察したところ、塗膜の剥離を確認することができた。結着成分であるスチレンブタジエンゴムが、1.5V以上の電圧で酸化劣化したためと推測される。
【0149】
以上の結果からわかるように、結着成分がPVDF(比較例2)、スチレンブタジエンゴム(比較例3)であるバインダーでは、電極用バインダーとして不十分であった。すなわち、結着成分がPVDF(比較例2)、スチレンブタジエンゴム(比較例3)であるバインダーでは、バインダー力が十分ではなく、しかも得られる塗膜が高電圧により酸化劣化しやすく、また電解液に対する安定性も低いため、電気化学安定性が低い。さらに、電極の酸化還元に伴う膨張、収縮の繰り返しに追随できる柔軟性が不十分であったためではないかと考える。
【0150】
一方、結着成分として本発明の樹脂組成物(側鎖1,2−ジオール含有PVAと極性基含有フッ素樹脂の組み合わせ)を用いた実施例4のバインダーでは、充放電の繰り返しに伴って電流値が下がるものの、電位上昇に伴う応答電流の増加傾向は安定していた。また、5サイクル目の測定終了後、目視で電極の様子を確認したところ、塗膜の剥離脱落は認められなかった。5サイクル目においても電流値が高く、スパイク電流も認められなかったことから、目視で確認できない程度の塗膜の剥離も生じていないと推察される。したがって、本発明のバインダーは、集電体に対するバインダー力に優れる。さらに、塗膜は、高電圧下でも酸化劣化せず、電解液に対する耐性を有していることから、電気化学安定性に優れる。また、電極の酸化還元に伴う膨張、収縮の繰り返しに追随できる柔軟性を有する。よって、本発明のバインダーを用いた電極は、充放電の繰り返しに対しても電気化学安定性を有しているといえる。