特許第6143818号(P6143818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6143818マイコプラズマ・ニューモニエ検出用免疫クロマト分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143818
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ニューモニエ検出用免疫クロマト分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20170529BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   G01N33/569 F
   G01N33/543 521
   G01N33/543 501D
   G01N33/543 501M
   G01N33/543 541Z
   G01N33/543ZNA
【請求項の数】4
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-171163(P2015-171163)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-9571(P2017-9571A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-111732(P2015-111732)
(32)【優先日】2015年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】岩本 久彦
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/025968(WO,A1)
【文献】 特開2010−019786(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/017598(WO,A1)
【文献】 特開昭61−274687(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104198703(CN,A)
【文献】 CHANG HY, JORDAN JL, KRAUSE DC,DOMAIN ANALYSIS OF PROTEIN P30 IN MYCOPLASMA PNEUMONIAE CYTADHERENCE AND GLIDING MOTILITY,J BACTERIOL,2011年,Vol.193, No.7,Page.1726-1733
【文献】 BEGHETTO E,DISCOVERY OF NEW MYCOPLASMA PNEUMONIAE ANTIGENS BY USE OF A WHOLE-GENOME LAMBDA DISPLAY LIBRARY,MICROBES INFECT,2009年,11(1),66-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/569
G01N 33/543
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部及び吸収部を含む、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)を検出するための免疫クロマト分析装置と、検体希釈液とを含む、免疫クロマト分析キットであって、
前記標識物質保持部及び検出部が、配列番号2のアミノ酸配列からなるマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIのうち配列番号3のアミノ酸配列を認識する抗体を含有し、
前記検体希釈液が、HLB値が13〜17の非イオン性界面活性剤を含有する、
免疫クロマト分析キット
【請求項2】
前記標識物質保持部が含有する標識物質が金コロイド粒子であり、前記標識物質保持部が前記金コロイド粒子を、0.25〜0.7μg/cm含有する、請求項1に記載の免疫クロマト分析キット
【請求項3】
前記検体希釈液が含有する非イオン性界面活性剤の50%以上が、HLB値が13〜17の非イオン性界面活性剤である、請求項1または2に記載の免疫クロマト分析キット。
【請求項4】
試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部及び吸収部を含む免疫クロマト分析装置を用いて、検体中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出する方法であって、以下の工程(1)〜(4)を含む免疫クロマト分析方法。
(1)HLB値が13〜17の非イオン性界面活性剤を含有する、検体希釈液により検体を希釈した検体含有液を試料添加部に添加する工程
(2)標識物質保持部に保持されている、配列番号2のアミノ酸配列からなるマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIのうち配列番号3のアミノ酸配列を認識する抗体(以下、抗体P30(A)と表記する)によりマイコプラズマ・ニューモニエを認識させる工程
(3)前記検体及び抗体P30(A)を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
(4)展開された移動相中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出部に含まれる抗体P30(A)により検出する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエの検出のための免疫クロマト分析装置、免疫クロマト分析キットおよびその検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)を主な原因とした呼吸器系の感染症である。マイコプラズマ・ニューモニエは非定型肺炎の代表的な起因菌である。マイコプラズマ肺炎患者の年齢は、幼児期、学童期、青年期(5歳から35歳)が中心であり、初期症状は、風邪症候群様の症状、いわゆる感冒様症状を呈するが、時間の経過と共に咳が強くなり、解熱後も1ヶ月程度続くこともある。
【0003】
マイコプラズマ肺炎の診断のために、従来種々の方法が利用されており、例えば、マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体を用いた検出法が利用されている。マイコプラズマ肺炎では、抗生剤選択のために感染初期にマイコプラズマ・ニューモニエ感染の有無を判定したいという医療現場のニーズが高いが、操作が簡便な免疫クロマト分析法に応用することによって、迅速かつ簡易にマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行うことができ、マイコプラズマ肺炎の診断を行うことができる。免疫クロマト分析法に使用する免疫クロマト分析装置の最も簡単な構造としては、試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部、及び吸収部が相互に繋がった構造である。
【0004】
例えば、特許文献1には、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いた免疫クロマト分析装置が開示されている。
また、特許文献2には、マイコプラズマ・ニューモニエのリボソームタンパク質Ribosomal Protein L7/L12に特異的な抗体を用いた免疫クロマト分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−72663号公報
【特許文献2】特開2014−167439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来使用されていたマイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体を用いた免疫クロマト分析装置による診断方法では、マイコプラズマ・ニューモニエに対する感度は十分ではなく、非特異的な反応も多いため、マイコプラズマ・ニューモニエ感染の診断方法としては十分なものではなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、鋭意研究した結果、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質よりも高感度で検出し得る標的タンパクとして、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に注目し、特にP30タンパク質の特定の部位を認識する抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度に検出できることを見出した。
また、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質の特定の部位に結合する抗体を用いた免疫クロマト分析装置によれば、迅速かつ簡易にマイコプラズマ・ニューモニエ感染を高感度で検出できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は以下の通りである。
1.試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部及び吸収部を含む、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)を検出するための免疫クロマト分析装置であって、
前記標識物質保持部及び検出部が、配列番号2のアミノ酸配列からなるマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体を含有する、免疫クロマト分析装置。
2.前記抗体が、前記ドメインIIIのうち配列番号3のアミノ酸配列を認識する、前記1に記載の免疫クロマト分析装置。
3.前記標識物質保持部が含有する標識物質が金コロイド粒子であり、前記標識物質保持部が前記金コロイド粒子を、0.25〜0.7μg/cm含有する、前記1または2に記載の免疫クロマト分析装置。
4.前記1〜3のいずれか1に記載の免疫クロマト分析装置と、検体を希釈して展開するための検体希釈液とを含む、免疫クロマト分析キット。
5.前記検体希釈液が少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を含有する、前記4に記載の免疫クロマト分析キット。
6.前記検体希釈液が含有する非イオン性界面活性剤の50%以上が、HLB値が13〜18の非イオン性界面活性剤である、前記5に記載の免疫クロマト分析キット。
7.試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部及び吸収部を含む免疫クロマト分析装置を用いて、検体中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出する方法であって、以下の工程(1)〜(4)を含む免疫クロマト分析方法。
(1)検体希釈液により検体を希釈した検体含有液を試料添加部に添加する工程
(2)標識物質保持部に保持されている、配列番号2のアミノ酸配列からなるマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体(以下、抗体P30(A)と表記する)によりマイコプラズマ・ニューモニエを認識させる工程
(3)前記検体及び抗体P30(A)を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
(4)展開された移動相中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出部に含まれる抗体P30(A)により検出する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質の特定の部位に結合する抗体を用いた免疫クロマト分析装置を用いることによって、高感度にマイコプラズマ・ニューモニエを、迅速かつ簡易に検出できる。すなわち、肺炎マイコプラズマの診断をより確実かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の免疫クロマト分析装置の構造を説明するための断面図である。
図2】本発明の免疫クロマト分析装置を用いて、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を行い、その発色強度を測定した結果を示すグラフである。
図3】本発明の免疫クロマト分析装置を用いて、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を行い、その発色強度を測定した結果を示すグラフである。
図4】本発明の免疫クロマト分析装置を用いて、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質の検出を行い、その発色強度を測定した結果を示すグラフである。
図5】試験例4において、抗体P30(A)を使用して、ペプチド1またはペプチド2を抗原とした競合阻害ELISA試験を行い、その発色強度を測定した結果を示すグラフである。
図6】試験例4において、抗体P30(B)を使用して、ペプチド1またはペプチド2を抗原とした競合阻害ELISA試験を行い、その発色強度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
本発明の、マイコプラズマ・ニューモニエを検出するための免疫クロマト分析装置は、検体を添加する試料添加部と、標識物質を保持する標識物質保持部と、マイコプラズマ・ニューモニエを検出する検出部を有するクロマトグラフ媒体部と、検出部を通過した液体を吸収する吸収部とを備え、標識物質保持部及び検出部が、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体を含有することを特徴としている。
【0013】
本発明の免疫クロマト分析装置に使用する抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体(以下、抗体P30(A)ともいう)である。
マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質とは、配列番号1に示される274のアミノ酸からなり、プロリンに富み(20.7%)、分子量29,743の接着タンパク質である。
【0014】
また、配列番号2に示されるP30タンパク質のドメインIIIは、P30タンパク質(配列番号1)のうちアミノ酸配列の177番目から274番目に相当する領域であり、特定のアミノ酸の繰り返し配列に富むドメインである。ドメインIIIにおけるアミノ酸の繰り返し配列は3種類あり、配列番号3(PGMAPR)に示されるアミノ酸配列が7箇所、配列番号4(PGMPPH)に示されるアミノ酸配列が3箇所、配列番号5(PGFPPQ)に示されるアミノ酸配列が3箇所存在する。
【0015】
本発明に使用する抗体P30(A)は、このアミノ酸の繰り返し配列に富むドメインIIIを認識するため、本発明の免疫クロマト分析装置を用いて分析を行うことにより、下記に示すようなサンドイッチ構造が形成され、検出感度が格段に向上し、顕著にその効果を発揮するものと推測される。すなわち、本発明の免疫クロマト分析装置の標識物質保持部及び検出部に抗体P30(A)を含有させた場合、まず、標識物質保持部に担持された抗体P30(A)(以下、第1抗体ともいう)が、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質の中でドメインIIIの繰り返し配列の一部に結合する。続いて、検出部に固定化された抗体P30(A)(以下、第2抗体ともいう)が、標識物質保持部に担持された抗体P30(A)(第1抗体)が結合した箇所と別の箇所に存在する同じ繰り返し配列に結合することによって、P30タンパク質を抗体P30(A)で挟むようにしてサンドイッチの構造を形成し、マイコプラズマ・ニューモニエを検出する。このように、抗体P30(A)は、上記繰り返し配列を有するドメインIIIを認識するため、P30タンパク質の複数の箇所を認識することができ、マイコプラズマ・ニューモニエの検出感度を高めることができるものと推測される。
本発明に使用する抗体P30(A)は、好ましくは、上記ドメインIIIのアミノ酸の繰り返し配列のうち、少なくとも配列番号3(PGMAPR)のアミノ酸配列を認識するものであることが好ましい。下記実施例の結果にも示されているように、上記配列を認識する抗体は、より強くマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを認識するため、高感度にマイコプラズマ・ニューモニエを検出できる。
【0016】
本発明における抗体P30(A)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるとは、具体的には、下記プロトコールに従いELISA法を行ったとき、ブランクを引いた450nmの吸光度が0.2Abs以上となる抗体として定義できる。
【0017】
まず、Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、Mycoplasma pneumonia P30((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファーpH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートする。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除く。
【0018】
ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除く。
【0019】
一次抗体として、抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートする。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。
【0020】
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、ウェルに加え、37℃、1.5時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05%
Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除く。
【0021】
ウェルに発色基質として、Sure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させる。
マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定する。
【0022】
上記方法で、ブランク(一次抗体を入れずに二次抗体、発色反応を行ったウェル)の吸光度を引いた値が、0.2Abs以上となる抗体を、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体とした。
【0023】
また、本発明における抗体P30(A)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるとは、具体的には、全長のMycoplasma pneumonia P30タンパク質(アミノ酸1−274:配列番号1)あるいはMycoplasma pneumonia P30タンパク質のアミノ酸96−274断片(これらのタンパク質をタンパク質Aとする)と、ドメインIIIあるいはドメインIIIにおけるアミノ酸の3種類の繰り返し配列(配列番号3〜5)を一以上含むドメインIIIの断片(これらのタンパク質をタンパク質Bとする)との、ELISA法による競合阻害試験(競合阻害ELISA試験)を行ったときに、タンパク質Aに対する抗体の反応がタンパク質Bの存在により反応が阻害される場合におけるその抗体とも定義できる。競合阻害ELISA試験としては、直接競合法と間接競合法の何れの試験方法によっても定義できる。
【0024】
間接競合法による試験を例示すると、Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、全長タンパク質のMycoplasma pneumonia P30(アミノ酸1−274:配列番号1)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファーpH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートする。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除く。
【0025】
ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除き、全長タンパク質固定ウェルを作成する。
【0026】
次に、全長タンパク質固定ウェルに一次抗体として、抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートする。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。
【0027】
また、上記一次抗体のみを加えたものとは別に、一次抗体の抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mLと、上記一次抗体量の40倍量または80倍量のドメインIIIあるいはドメインIIIにおけるアミノ酸の3種類の繰り返し配列を一以上含むドメインIIIの断片とを含む50%ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートする。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。
【0028】
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、上記作成した2種の夫々のウェルに加え、37℃、1.5時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュする。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除く。
ウェルに発色基質として、Sure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させる。
マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定する。
【0029】
上記方法で、一次抗体のみを加えたウェルの吸光度より一次抗体とドメインIIIまたはドメインIIIにおけるアミノ酸の3種類の繰り返し配列を一以上含むドメインIIIの断片を加えたウェルの吸光度が減少することが確認でき、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」ことが確認できる。本発明においては、ドメインIIIあるいはドメインIIIにおけるアミノ酸の3種類の繰り返し配列を一以上含むドメインIIIの断片を一次抗体の40倍量用いた場合の吸光度が30%以上減少、または一次抗体の80倍量用いた場合の吸光度が50%以上減少すれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIをより強く認識することが確認できる。
【0030】
本発明に使用する抗体P30(A)としては、例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が挙げられる。感度の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。抗体P30(A)は、例えば、Fucal Research社から、商品名:Mp−P30−3−ABを購入し、入手できる。
【0031】
次に、図面を参照しながら本発明の免疫クロマト分析装置の一実施形態について説明する。なお本明細書において、「固定」とは、抗体が移動しないように膜等の担体に配置されていることを意味し、「担持」とは、膜等の担体の中または表面を移動可能に配置されることを意味する。
【0032】
本発明の免疫クロマト分析装置の一実施形態としては、図1に示すように、試料添加部(サンプルパッドともいう)(1)、標識物質保持部(コンジュゲートパッドともいう)(2)、クロマトグラフ媒体部(3)、検出部(4)、吸収部(5)およびバッキングシート(6)から構成されている。
【0033】
試料添加部(1)は、免疫クロマト分析装置において、検体(サンプル)を滴下する部位である。試料添加部(1)では検体試料が迅速に吸収されるが、保持力は弱く、速やかに検体試料が移動していくような性質の多孔質シートで構成することができる。多孔質シートとしては、例えば、セルロース濾紙、ガラスファイバー濾紙、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、綿布等が挙げられる。
【0034】
標識物質保持部(2)は、後述する標識物質(マーカー物質)を含有しており、該標識物質は上記抗体P30(A)と結合した標識抗体として標識物質保持部(2)に担持されている。標識物質保持部内を検体が移動する際に、上記標識抗体と検体中のマイコプラズマ・ニューモニエとが結合する。標識物質保持部(2)には、グラスファイバーまたはセルロースの膜が通常使用される。
【0035】
標識物質保持部中の抗体P30(A)(第1抗体)の含有量は、通常0.06〜0.25μgであり、好ましくは0.1〜0.2μgであり、より好ましくは0.1〜0.15μgである。また、標識物質保持部の単位面積当たりの抗体P30(A)(第1抗体)の含有量は、通常0.1〜0.42μg/cmであり、好ましくは0.17〜0.33μg/cmであり、より好ましくは0.17〜0.25μg/cmである。
【0036】
免疫クロマト分析における検出試薬の標識には、一般に酵素等も使用されるが、被検出物質の存在を目視で判定するのに適していることから、標識物質としては不溶性担体を用いることが好ましい。抗体P30(A)(第1抗体)を不溶性担体に感作することにより標識化した検出試薬を調製することができる。なお、抗体P30(A)(第1抗体)を不溶性担体に感作する手段は、公知の方法に従えばよい。
【0037】
標識物質としての不溶性担体には、金、銀もしくは白金のようなコロイド状金属粒子、酸化鉄のようなコロイド状金属酸化物粒子、硫黄などのコロイド状非金属粒子及び合成高分子よりなるラテックス粒子、またはその他を用いることができる。特に、金コロイド粒子が、検出が簡便であり、かつ凝集しづらく非特異的な発色が起こりにくい点で好ましい。金コロイドの粒子の平均粒径は、例えば10nm〜250nm、好ましくは35nm〜120nmである。平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子(株)製、JEM−2010)により、撮影した投影写真を用いて無造作に100個の粒子を粒子の投影面積円相当径を計測し、その平均値から算出することができる。標識物質保持部が含有する金コロイド粒子は、標識物質保持部の単位面積あたり、通常0.25〜0.7μg/cmであり、好ましくは0.3〜0.65μg/cmであり、より好ましくは0.4〜0.6μg/cmである。前記範囲に設定することによって、標識された粒子が分散したまま展開し、抗体の認識部位が阻害されず高感度化できるからである。
【0038】
不溶性担体は、被検出物質の存在を視覚的に判定するのに適した標識物質であり、目視による判定を容易にするためには有色であることが好ましい。コロイド状金属粒子及びコロイド状金属酸化物粒子は、それ自体が粒径に応じた特定の自然色を呈するものであり、その色彩を標識として利用することができる。
【0039】
クロマトグラフ媒体部(3)は、クロマトグラフの展開部位である。クロマトグラフ媒体部(3)は、毛管現象を示す微細多孔性物質からなる不活性の膜である。クロマトグラフで使用される検出試薬、固定化試薬または被検出物質などと反応性を有しないという観点から、また、本発明の効果が向上するという観点から、例えば、ニトロセルロース製のメンブレン(以下、ニトロセルロースメンブレンともいう)や、酢酸セルロース製のメンブレン(以下、酢酸セルロースメンブレンともいう)が好ましく、ニトロセルロースメンブレンがさらに好ましい。なお、セルロース類メンブレン、ナイロンメンブレン及び多孔質プラスチック布類(ポリエチレン、ポリプロピレン)も使用可能である。
【0040】
ニトロセルロースメンブレンとしては、ニトロセルロースが主体で含まれていればよく、純品またはニトロセルロース混合品などニトロセルロースを主材とするメンブレンを使用することができる。
【0041】
ニトロセルロースメンブレンは、さらに毛細管現象を促進させる物質を含有させることもできる。該物質としては、膜面の表面張力を低下させ、親水性をもたらす物質が好ましい。例えば、糖類、アミノ酸の誘導体、脂肪酸エステル、各種合成界面活性剤またはアルコール等の両親媒性の作用を有する物質であって、被検出物質の移動に影響がなく、マーカー物質(例えば金コロイド粒子など)の発色に影響を及ぼさない物質が好ましい。
【0042】
ニトロセルロースメンブレンは、多孔性であって、毛細管現象を示す。この毛細管現象の指標は、吸水速度(吸水時間:capillary flow time)を測ることで確認できる。吸水速度は、検出感度と検査時間に影響する。
【0043】
上記のようなニトロセルロースメンブレンや酢酸セルロースメンブレンに代表されるクロマトグラフ媒体部(3)の形態及び大きさは特に制限されるものではなく、実際の操作の点及び反応結果の観察の点において適切であればよい。
【0044】
さらに操作をより簡便にするためには、クロマトグラフ媒体部(3)の裏面に、プラスチックなどよりなる支持体を設けることが好ましい。この支持体の性状は特に制限されるものではないが、目視判定によって測定結果の観察を行う場合には、支持体は、標識物質によりもたらされる色彩と類似しない色彩を有するものであることが好ましく、通常、無色又は白色であることが好ましい。
【0045】
検出部(4)は、前記クロマトグラフ媒体部(3)上に形成される。すなわち、被検出物質のマイコプラズマ・ニューモニエと結合する前記抗体P30(A)が、クロマトグラフ媒体部(3)上の任意の位置に固定化される。前記抗体P30(A)の固定化は常法に従って行うことができる。
【0046】
検出部(4)における抗体P30(A)(第2抗体)の含有量は、通常0.1〜2.5μgであり、好ましくは0.3〜2.0μgであり、より好ましくは0.3〜1.0μgである。また、検出部(4)の単位面積当たりの抗体P30(A)(第2抗体)の含有量は、通常0.04〜1.0g/cmであり、好ましくは0.125〜0.8μg/cmであり、より好ましくは0.125〜0.42μg/cmである。
【0047】
また、クロマトグラフ媒体部(3)上には、非特異的な吸着により分析の精度が低下することを防止するため、必要に応じて、クロマトグラフ媒体部(3)に、公知の方法でブロッキング処理を行うことができる。一般にブロッキング処理はウシ血清アルブミン、スキムミルク、カゼインまたはゼラチン等のタンパク質が好適に用いられる。かかるブロッキング処理後に、必要に応じて、例えば、Tween20、TritonX−100またはSDS等の界面活性剤を1つ又は2つ以上組み合わせて洗浄してもよい。
【0048】
吸収部(5)は、クロマトグラフ媒体部(3)の末端に、検出部(4)を通過した検体や展開液等の液体を吸収させるために設置される。本発明の免疫クロマト分析装置において、吸収部(5)は、例えばグラスファイバーからなることができる。吸収部(5)がグラスファイバーからなることによって、試料液の液戻りを大幅に低減することができる。
【0049】
バッキングシート(6)は、基材である。片面に粘着剤を塗布したり、粘着テープを貼り付けることにより、片面が粘着性を有し、該粘着面上に試料添加部(1)、標識物質保持部(2)、クロマトグラフ媒体部(3)、検出部(4)、および吸収部(5)の一部または全部が密着して設けられている。バッキングシート(6)は、粘着剤によって試料液に対して不透過性、非透湿性となるようなものであれば、基材としては、特に限定されない。
【0050】
上記のようにして作製した免疫クロマト分析装置は、製品化する前に、通常乾燥処理に施される。乾燥温度は例えば20〜50℃、乾燥時間は0.5〜1時間である。
【0051】
本発明の免疫クロマト分析キットは、上記の免疫クロマト分析装置と、検体を希釈して展開するための検体希釈液とを含む。
【0052】
本発明の免疫クロマト分析キットにおいて検体希釈液は、展開液としても使用することができるものであるが、通常溶媒として水を用い、これに緩衝液、塩、および非イオン性界面活性剤、さらに、例えば抗原抗体反応の促進または非特異的反応を抑制するためのタンパク質、高分子化合物(PVP等)、イオン性界面活性剤もしくはポリアニオン、または、抗菌剤、キレート剤等々の1種もしくは2種以上を加えてもよい。
【0053】
特に、Mycoplasma pneumoniaの細胞接着器官に存在するタンパク質複合体(P1、P90、P40、P30)からP30を単離し、抗P30抗体の抗原認識部位を露出させるために非イオン性界面活性剤を検体希釈液に含有させることが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えば、Triton X−100(商品名、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル)、Tween20(商品名、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、NP−40(商品名 ノニテッド40)、Brij35が挙げられ、1種もしくは2種以上を加えてもよい。
【0054】
好ましくは、検体希釈液が含有する非イオン性界面活性剤の50%以上が、HLB値が13〜18の非イオン性界面活性剤である。さらに好ましくは、検体希釈液が含有する非イオン性界面活性剤の60%以上が、HLB値が13〜17の非イオン性界面活性剤であり、特に好ましくは、検体希釈液が含有する非イオン性界面活性剤の100%が、HLB値が13〜17の非イオン性界面活性剤である。具体的には、Triton X−100(HLB値:13.7)とTween20(HLB値:16.7)の2種を、質量比率で1:1の割合で含有させることが好ましい。
【0055】
検体希釈液を展開液として用いる場合には、検体と展開液を予め混合したものを、試料添加部上に供給・滴下して展開させることもできるし、先に検体を試料添加部上に供給・滴下した後、展開液を試料添加部上に供給・滴下して展開させてもよい。
【0056】
本発明の免疫クロマト分析方法は以下の工程(1)〜(4)を含み、上記の免疫クロマト分析装置を用いて検体に含まれる被検出物質のマイコプラズマ・ニューモニエを検出する。
(1)検体希釈液により検体を希釈した検体含有液を試料添加部に添加する工程
(2)標識物質保持部に保持されている、配列番号2のアミノ酸配列からなるマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体(以下、抗体P30(A)と表記する)によりマイコプラズマ・ニューモニエを認識させる工程
(3)前記検体及び抗体P30(A)を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
(4)展開された移動相中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出部に含まれる抗体P30(A)により検出する工程
各工程について以下に説明する。
【0057】
(1)検体希釈液により検体を希釈した検体含有液を試料添加部に添加する工程
工程(1)では、第1に、検体を、測定精度を低下させることなく、免疫クロマトグラフ媒体中をスムーズに移動する程度の濃度に、検体希釈液で調整または希釈して検体含有液とするのが好ましい。検体希釈液は上述したものを使用できる。第2に、検体含有液を試料添加部(1)上に、所定量(通常、0.1〜2ml)滴下する。検体含有液が滴下されると、検体含有液は試料添加部(1)中で移動を開始する。
【0058】
本発明において使用する検体は、被検出物質であるマイコプラズマ・ニューモニエを含む可能性がある検体であり、例えば、生体試料のうち、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、喀痰、肺胞洗浄液等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
(2)標識物質保持部に保持されている、配列番号2のアミノ酸配列からなるマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体(以下、抗体P30(A)と表記する)によりマイコプラズマ・ニューモニエを認識させる工程
工程(2)は、工程(1)において試料添加部に添加された検体含有液を、標識物質保持部(2)へと移動させ、標識物質保持部に保持されている標識物質が結合した抗体P30(A)により検体中の被検出物質であるマイコプラズマ・ニューモニエにおける、P30タンパク質のドメインIIIを認識させる工程である。
【0060】
標識物質は上記のものを使用できる。前記標識物質が結合した抗体P30(A)(第1抗体)は、P30タンパク質のドメインIIIのアミノ酸配列のうち、上記特定の繰り返し配列の一部を認識し結合する。
【0061】
(3)前記検体及び抗体P30(A)を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
工程(3)は、工程(2)において被検出物質であるマイコプラズマ・ニューモニエが標識物質保持部において標識物質が結合した抗体P30(A)(第1抗体)に認識された後、検体および抗体P30(A)(第1抗体)を、クロマトグラフ媒体部上を移動相として通過させる工程である。
【0062】
(4)展開された移動相中のマイコプラズマ・ニューモニエを、検出部に含まれる抗体P30(A)により検出する工程
工程(4)は、クロマトグラフ媒体部上を移動相として通過した検体中のマイコプラズマ・ニューモニエが、抗原・抗体の特異的結合反応により、検出部に保持、即ち、固定されている抗体P30(A)(第2抗体)と、前記工程(2)において標識物質が結合した抗体P30(A)(第1抗体)とによってサンドイッチ状に挟まれるように特異的に反応結合して、検出部が着色する工程である。
【0063】
本工程(4)では、検出部に固定化された抗体P30(A)(第2抗体)が、標識物質保持部に担持された抗体P30(A)(第1抗体)が結合した箇所と別の箇所に存在する同じ繰り返し配列にサンドイッチ状に挟まれるように結合する。
【0064】
被検出物質であるマイコプラズマ・ニューモニエが存在しない場合には、試料の水分に溶解した標識試薬は、クロマトグラフ媒体部上の検出部を通過しても特異的結合反応が起こらないので、検出部が着色しない。
【0065】
最後に、検体含有液の水分は、吸収部(5)へと移動する。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0067】
[試験例1]
本試験では、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを認識する種類の異なる2つの抗体を用意し、それぞれ抗体がP30タンパク質のドメインIIIのどの部位を認識するかを調べた。使用した抗体は、Fucal Research社、商品名:Mp−P30−3−AB(以下、抗体P30(A)と表記する)と、Fucal Research社、商品名:Mp−P30−9−AB(以下、抗体P30(B)と表記する)の2種類である。この抗体P30(A)および抗体P30(B)が、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIのどの箇所に結合するのかを、下記の免疫クロマト分析法により検証した。
まず、上記ドメインIIIにおける3種類のアミノ酸の繰り返し配列(配列番号3〜5)のいずれかを含むような以下の2種類のペプチドをペプチドの化学合成法の常法であるペプチド固相合成法により作製した。
ペプチド1:PGMAPRPGMPPHPGMAPR(配列番号6)
ペプチド2:PGMAPRPGFPPQPGMAPR(配列番号7)
【0068】
上記ペプチド1は、配列番号4に示すアミノ酸配列(PGMPPH)と配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を有するペプチドである。上記ペプチド2は、配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)と配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を有するペプチドである。
【0069】
抗体P30(A)または抗体P30(B)がドメインIIIのどの箇所に結合するのかは、以下のようにして判定可能である。
(1)試料添加部の作製
試料添加部としてグラスファイバーからなる不織布(ミリポア社製:300mm×30mm)を用いた。
(2)標識物質保持部の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:LC40nm)0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mlの濃度になるように希釈した抗体P30(A)(Fucal Research社、商品名:Mp−P30−3−AB)を0.1ml加え、室温で10分間静置した。
次いで、1質量%の牛血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、更に室温で10分間静置した。その後、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加えた。以上の手順で標識物質溶液を作製した。
上記作製した標識物質溶液300μLに300μLの10質量%トレハロース水溶液と1.8mLの蒸留水を加えたものを12mm×300mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部を作製した。
【0070】
(3)クロマトグラフ媒体部および検出部の作製
メンブレンとしてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120、300mm×25mm)を用いた。
次に、5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように、上記抗体P30(A)を希釈した溶液150μLを、乾燥されたメンブレン上の検出部位(検出ライン)に1mmの幅でイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIODOT社製)を用いて1μL/mmの量(1シートあたり25μL)でライン状に塗布した。
また、金ナノ粒子標識試薬の展開の有無や展開速度を確認するために検出部位の下流に、金ナノ粒子標識物質と広く親和性を有するヤギ由来抗血清をリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した液をコントロール部位(コントロールライン)に塗布した。その後、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体部および検出部を作製した。
(4)免疫クロマト分析装置の作製
次に、バッキングシートから成る基材に、試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収部としてグラスファイバー製の不織布を順次貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、免疫クロマト分析装置とした。なお、標識物質保持部の試料展開方向の長さを12mmとした。
【0071】
(5)検体希釈液
1質量%の非イオン性界面活性剤ナカライテスク社製NP−40(商品名:ノニデットP−40、HLB値17.7)、日油社製商品名ノニデットMN−811(HLB値 9.3)の1:1混合物を含む50mMのHEPES緩衝液(pH7.5)、を調製し、検体を希釈処理するための検体希釈液とした。
(6)測定
マイコプラズマ・ニューモニエ、及びペプチド1またはペプチド2を含有する検体試料を使用して、上記作製した免疫クロマト分析装置を用いた場合の、検出部における発色強度を測定した。マイコプラズマ・ニューモニエを含有する検体試料には、Mycoplasma pneumonia P30((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)を使用した。このP30Agを上記抽出液で目的濃度10pg/mLに調整し、さらにペプチド1またはペプチド2が400ng展開されるように、ペプチド1またはペプチド2を調製し、検体試料とした。
上記の検体試料150μLを免疫クロマト分析装置の試料添加部上に載せて展開させ、検出部の着色の度合い(発色強度)をデンシトメーターにより測定した(表中の単位はmAbs)。
【0072】
<判定方法>
ペプチド1で阻害されペプチド2で阻害されない場合:抗体は、配列番号4に示すアミノ酸配列(PGMPPH)に結合する。
ペプチド1で阻害されずペプチド2で阻害される場合:抗体は、配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)に結合する。
ペプチド1で阻害されペプチド2でも阻害される場合:抗体は、配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)に結合する。
【0073】
なお、ペプチド1又はペプチド2を検体のP30Agとともに展開させることにより阻害が生じる場合のメカニズムを以下に説明する。ペプチド1及びペプチド2は検体のP30Agと比較して分子量がはるかに小さく、また展開させる量もはるかに多いため、P30Agよりも早く標識物質保持部に到達し、同部位に担持された第一抗体と結合して検出部の方へと展開される。しかし、ペプチド1及びペプチド2が有する抗体結合部位はP30Agと比較してはるかに少ないので(1〜2箇所)、第一抗体がすでに結合した状態の多くの上記ペプチドは、検出部に担持された第二抗体が結合できる箇所が少ないもしくは存在せず、多くのペプチドが検出部で捕捉されぬまま吸収部へと流れていくことになり検出部に捕捉され堆積する標識物質が減少することにより発色強度が減少する。一方、標識物質保持部に担持された一次抗体は、P30Agより先にペプチド1及びペプチド2に結合することにより、後から展開されるP30Agに結合する第一抗体の量が、ペプチド1又はペプチド2が存在しない場合と比較して少なくなるため、検出部で捕捉されるP30Agは、第一抗体が結合していないものが相対的に多くなり、その結果検出部で検出されるP30Agに起因する発色強度が低くなり、阻害がかかるということになる。
【0074】
本試験では、抗体P30(A)を使用しかつ上記ペプチド1及び2のいずれも使用しなかった場合、抗体P30(A)を使用しかつペプチド1を使用した場合、抗体P30(A)を使用しかつペプチド2を使用した場合の3パターンについて、免疫クロマト分析を行い、発色強度を測定した結果を表1に示す。
また、抗体P30(A)を抗体P30(B)に変更して同様の試験を行った結果を表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1の結果からわかるように、抗体P30(A)について、ペプチドなしの場合と比較して、ペプチド1を使用した場合及びペプチド2を使用した場合のいずれの場合も発色強度が減少しており、抗体P30(A)はペプチド1及びペプチド2のいずれにも阻害を受けることがわかる。したがって、抗体P30(A)は配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を認識することが分かった。
【0078】
また、表2の結果からわかるように、抗体P30(B)について、ペプチドなしの場合と比較して、ペプチド1を使用した場合は、発色強度に変化は見られなかったが、ペプチド2を使用した場合では発色強度が減少しており、抗体P30(B)はペプチド1の阻害を受けずペプチド2の阻害を受けることがわかる。したがって、抗体P30(B)は配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)を認識することが分かった。
【0079】
[試験例2]
本試験では、下記試験例3で作製する本願発明の免疫クロマト装置に使用する、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを認識する抗体(抗体P30(A))が、該ドメインIIIを「強く」認識する抗体であるかを確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のELISA法による試験及び段落[0024]〜[0029]に記載の競合阻害ELISA試験を行った。
【0080】
まず、試験例1で使用した抗体P30(A)がマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体であるか否か確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のプロトコールに従ってELISA法による試験を行った。具体的には、抗体P30(A)が、ブランクを引いた450nmの吸光度が0.2Abs以上となる抗体であるか否か、以下のように実験した。
【0081】
まず、Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートにMycoplasma pneumonia P30((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファー pH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0082】
一次抗体として前記抗体P30(A)5μg/mL in 50%ブロッキング溶液(一抗体溶液)100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした後、一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in
PBS)にて3回ウォッシュした。
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、ウェルに加え、37℃1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質としてSure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0083】
上記方法でELISA試験を行ったところ、ブランク(一次抗体を入れずに二次抗体、発色反応を行ったウェル)の吸光度を引いた450nmの吸光度が0.403Absであり、0.2Abs以上であることが確認できた。すなわち、抗体P30(A)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」ことが確認できた。
【0084】
つづいて、この抗体P30(A)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるか否かさらに確認するため、段落[0024]〜[0029]に記載のプロトコールに従い競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行った。具体的には、抗体P30(A)を用いて競合阻害ELISA試験を行った結果、吸光度が30%以上減少するか否か、以下のように実験した。
【0085】
Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、全長タンパク質のMycoplasma pneumonia P30(アミノ酸1−274:配列番号1)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファーpH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0086】
ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除き、全長タンパク質固定ウェルを作成した。
【0087】
次に、全長タンパク質固定ウェルに一次抗体として、抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0088】
また、上記一次抗体のみを加えたものとは別に、一次抗体の抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mLと、前記一次抗体P30(A)の40倍量である、試験例1で使用した上記ペプチド1(配列番号6:PGMAPRPGMPPHPGMAPR)またはペプチド2(配列番号7:PGMAPRPGFPPQPGMAPR)とを含む50%ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0089】
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、上記作成した2種の夫々のウェルに加え、37℃、1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質として、Sure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた。
マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0090】
その結果、一次抗体と上記ペプチド1またはペプチド2を加えたウェルの吸光度は、一次抗体のみを加えたウェルの吸光度と比較して、30%以上減少したことが確認できた。すなわち、抗体P30(A)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」ことが確認できた。
【0091】
[試験例3]
<本願発明の免疫クロマト分析装置の作製>
[実施例1]
(1)試料添加部の作製
試料添加部としてグラスファイバーからなる不織布(ミリポア社製:300mm×30mm)を用いた。
【0092】
(2)標識物質保持部の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:LC40nm)0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mlの濃度になるように希釈した抗体P30(A)(Fucal Research社、商品名:Mp−P30−3−AB)を0.1ml加え、室温で10分間静置した。
【0093】
次いで、1質量%の牛血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、更に室温で10分間静置した。その後、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加えた。以上の手順で標識物質溶液を作製した。
上記作製した標識物質溶液300μLに300μLの10質量%トレハロース水溶液と1.8mLの蒸留水を加えたものを12mm×300mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部を作製した。
【0094】
(3)クロマトグラフ媒体部および検出部の作製
メンブレンとしてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120、300mm×25mm)を用いた。
次に、5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように、上記抗体P30(A)を希釈した溶液150μLを、乾燥されたメンブレン上の検出部位(検出ライン)に1mmの幅でイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIODOT社製)を用いて1μL/mmの量(1シートあたり25μL)でライン状に塗布した。
また、金ナノ粒子標識試薬の展開の有無や展開速度を確認するために検出部位の下流に、金ナノ粒子標識物質と広く親和性を有するヤギ由来抗血清をリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した液をコントロール部位(コントロールライン)に塗布した。その後、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体部および検出部を作製した。
【0095】
(4)免疫クロマト分析装置の作製
次に、バッキングシートから成る基材に、試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収部としてグラスファイバー製の不織布を順次貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、免疫クロマト分析装置とした。なお、標識物質保持部の試料展開方向の長さを12mmとした。
【0096】
(5)検体希釈液
1質量%の非イオン性界面活性剤ナカライテスク社製NP−40(商品名:ノニデットP−40、HLB値17.7)、日油社製商品名ノニデットMN−811(HLB値 9.3)の1:1混合物を含む50mMのHEPES緩衝液(pH7.5)、を調製し、検体を希釈処理するための検体希釈液とした。
【0097】
(6)測定
マイコプラズマ・ニューモニエを含有する検体試料を使用して、上記作製した免疫クロマト分析装置を用いた場合の、検出部における発色強度を測定した。マイコプラズマ・ニューモニエを含有する検体試料には、市販の不活化マイコプラズマ・ニューモニエ(Meridian社製、商品名Mycoplasma pneumoniae Antigen(FH))、または肺炎マイコプラズマ感染者の咽頭拭い液を用いた。咽頭拭い液は、市販の綿棒を用いて咽頭を拭うことで被験者2名の肺炎マイコプラズマ感染者からそれぞれ採取した。
市販の不活化マイコプラズマ・ニューモニエは、上記抽出液で目的濃度に調整し、検体試料とした(表3中、市販検体と記載)。
また、採取した咽頭拭い液は、上記検体希釈液で20倍に希釈し、検体試料とした(表3中、被験者1及び被験者2と記載)。
【0098】
上記それぞれの検体試料150μLを免疫クロマト分析装置の試料添加部上に載せて展開させ、検出部の着色の度合い(発色強度)をデンシトメーターにより測定した(表中の単位はmAbs)。結果を表3及び図2に示す。
【0099】
[比較例1]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、試験例1で使用した抗体P30(B)(Fucal Research社、商品名:Mp−P30−9−AB)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び図2に示す。
なお、この抗体P30(B)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」か否か確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のELISA法による試験及び段落[0024]〜[0029]に記載の競合阻害ELISA試験を行った。
まず、抗体P30(B)がマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体であるか否か確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のプロトコールに従ってELISA法による試験を行った。具体的には、抗体P30(B)が、ブランクを引いた450nmの吸光度が0.2Abs以上となる抗体であるか否か、以下のように実験した。
【0100】
Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、Mycoplasma pneumonia P30((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファー pH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。ブロッキング液として、5%BSA in PBST (BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20
in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0101】
一次抗体として前記抗体P30(B)5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした後、一次抗体溶液抗体P30(B)を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、ウェルに加え、37℃1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質としてSure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0102】
上記方法でELISA試験を行ったところ、ブランク(一次抗体を入れずに二次抗体、発色反応を行ったウェル)の吸光度を引いた450nmの吸光度が0.061Absであり、0.2Abs未満であることが確認できた。すなわち、抗体P30(B)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体ではないことが確認できた。
【0103】
つづいて、この抗体P30(B)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるか否かさらに確認するため、段落[0024]〜[0029]に記載のプロトコールに従い競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行い、吸光度が30%以下に減少するか否か、以下のように実験した。
【0104】
Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、全長タンパク質のMycoplasma pneumonia P30(アミノ酸1−274:配列番号1)10ng/mL in 50mM 炭酸バッファーpH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0105】
ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除き、全長タンパク質固定ウェルを作成した。
【0106】
次に、全長タンパク質固定ウェルに一次抗体として、抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0107】
また、前記一次抗体のみを加えたものとは別に、一次抗体の抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(B))5μg/mLと、一次抗体P30 (B)量の40倍量である量、試験例1で使用したペプチド1(配列番号6:PGMAPRPGMPPHPGMAPR)またはペプチド2(配列番号7:PGMAPRPGFPPQPGMAPR)とを含む50%ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0108】
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、上記作成した2種の夫々のウェルに加え、37℃、1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質として、Sure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた。
マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0109】
その結果、一次抗体と上記ペプチド1またはペプチド2を加えたウェルの吸光度は、一次抗体のみを加えたウェルの吸光度と比較して、ペプチド1では減少が見られず、ペプチド2では約22%しか減少せず、その減少率は30%未満であることが確認できた。すなわち、抗体P30(B)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体ではないことが確認できた。
【0110】
[比較例2]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)及び検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)の両方を、上記抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び図2に示す。
【0111】
[比較例3]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質に対する抗体(Meridian社製、商品名MAb to Mycoplasma pneumonia P1(clone B1947M):以下、抗体P1(B)と表記する)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び図2に示す。
【0112】
[比較例4]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質に対する抗体(Meridian社製、商品名MAb to
Mycoplasma pneumonia P1(clone B1948M):以下、抗体P1(A)と表記する)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び図2に示す。
【0113】
[比較例5]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、抗体P1(A)に、検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P1(B)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び図2に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
[実施例2]
検体希釈液の組成を、Triton X−100(和光純薬社製、商品名、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル、HLB値:13.7)、Tween20(和光純薬社製、商品名、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、HLB値:16.7)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表4及び図3に示す。
[比較例6]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例2を繰り返した。結果を表4及び図3に示す。
【0116】
[比較例7]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)及び検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)の両方を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表4及び図3に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
[実施例3]
検出検体を、P30タンパク質((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)に変更し、検体希釈液の組成を、Triton
X−100(和光純薬社製、商品名、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル、HLB値:13.7)、Tween20(和光純薬社製、商品名、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、HLB値:16.7)1:1混合物に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表5及び図4に示す。
[比較例8]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び図4に示す。
【0119】
[比較例9]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)及び検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)の両方を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び図4に示す。
【0120】
[比較例10]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P1(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び図4に示す。
【0121】
[比較例11]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、抗体P1(A)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び図4に示す。
【0122】
[比較例12]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、抗体P1(A)に、検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P1(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び図4に示す。
【0123】
【表5】
【0124】
以上の結果より、標識物質保持部及び検出部の両方に、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体P30(A)を含有させた場合は(実施例1〜3)、それ以外の場合(比較例1〜12)と比較して、マイコプラズマ・ニューモニエ、またはP30タンパク質の検出感度が顕著に高いことが分かった。
【0125】
[試験例4]
試験例2における抗体P30(A)および比較例1における抗体P30(B)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるか確認するため、競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行った。本試験では、競合させるドメインIIIの断片として、試験例1で使用した上記ペプチド1またはペプチド2のいずれかを使用し、さらに上記ペプチドの濃度を下記表6、7のように変更して(×1〜×640)、試験例2または比較例1に記載の方法と同様にして競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行った。結果を表6、7に示す。表6は、抗体として抗体P30(A)を使用した結果であり、表7は、抗体として抗体P30(B)を使用した結果である。また表6の結果を図5、表7の結果を図6に示す。
【0126】
【表6】
【0127】
【表7】
【0128】
表6及び図5の結果より、ペプチド濃度を一次抗体抗P30(A)抗体濃度の40倍とした場合に、ウェルの吸光度がコントロールと比較して30%以上減少し、80倍量とした場合でも50%以上減少することが確認できた。なお、抗体P30(A)はペプチド1及びペプチド2のいずれにも阻害を受けることから、抗体P30(A)は配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を認識することが本試験でも確認できた。
【0129】
また、表7及び図6の結果より、ペプチド濃度を一次抗体P30(B)量の40倍とした場合でも、ウェルの吸光度がコントロールと比較して約22%しか減少せず、30%未満であった。すなわち、抗体P30(B)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体ではないことが確認できた。なお、抗体P30(B)はペプチド1の阻害を受けずペプチド2の阻害を受けることから、配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)を認識することが本試験でも確認できた。
【符号の説明】
【0130】
1 試料添加部(サンプルパッド)
2 標識物質保持部
3 クロマトグラフ媒体部
4 検出部
5 吸収部
6 バッキングシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]