【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0067】
[試験例1]
本試験では、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを認識する種類の異なる2つの抗体を用意し、それぞれ抗体がP30タンパク質のドメインIIIのどの部位を認識するかを調べた。使用した抗体は、Fucal Research社、商品名:Mp−P30−3−AB(以下、抗体P30(A)と表記する)と、Fucal Research社、商品名:Mp−P30−9−AB(以下、抗体P30(B)と表記する)の2種類である。この抗体P30(A)および抗体P30(B)が、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIのどの箇所に結合するのかを、下記の免疫クロマト分析法により検証した。
まず、上記ドメインIIIにおける3種類のアミノ酸の繰り返し配列(配列番号3〜5)のいずれかを含むような以下の2種類のペプチドをペプチドの化学合成法の常法であるペプチド固相合成法により作製した。
ペプチド1:PGMAPRPGMPPHPGMAPR(配列番号6)
ペプチド2:PGMAPRPGFPPQPGMAPR(配列番号7)
【0068】
上記ペプチド1は、配列番号4に示すアミノ酸配列(PGMPPH)と配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を有するペプチドである。上記ペプチド2は、配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)と配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を有するペプチドである。
【0069】
抗体P30(A)または抗体P30(B)がドメインIIIのどの箇所に結合するのかは、以下のようにして判定可能である。
(1)試料添加部の作製
試料添加部としてグラスファイバーからなる不織布(ミリポア社製:300mm×30mm)を用いた。
(2)標識物質保持部の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:LC40nm)0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mlの濃度になるように希釈した抗体P30(A)(Fucal Research社、商品名:Mp−P30−3−AB)を0.1ml加え、室温で10分間静置した。
次いで、1質量%の牛血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、更に室温で10分間静置した。その後、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加えた。以上の手順で標識物質溶液を作製した。
上記作製した標識物質溶液300μLに300μLの10質量%トレハロース水溶液と1.8mLの蒸留水を加えたものを12mm×300mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部を作製した。
【0070】
(3)クロマトグラフ媒体部および検出部の作製
メンブレンとしてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120、300mm×25mm)を用いた。
次に、5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように、上記抗体P30(A)を希釈した溶液150μLを、乾燥されたメンブレン上の検出部位(検出ライン)に1mmの幅でイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIODOT社製)を用いて1μL/mmの量(1シートあたり25μL)でライン状に塗布した。
また、金ナノ粒子標識試薬の展開の有無や展開速度を確認するために検出部位の下流に、金ナノ粒子標識物質と広く親和性を有するヤギ由来抗血清をリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した液をコントロール部位(コントロールライン)に塗布した。その後、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体部および検出部を作製した。
(4)免疫クロマト分析装置の作製
次に、バッキングシートから成る基材に、試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収部としてグラスファイバー製の不織布を順次貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、免疫クロマト分析装置とした。なお、標識物質保持部の試料展開方向の長さを12mmとした。
【0071】
(5)検体希釈液
1質量%の非イオン性界面活性剤ナカライテスク社製NP−40(商品名:ノニデットP−40、HLB値17.7)、日油社製商品名ノニデットMN−811(HLB値 9.3)の1:1混合物を含む50mMのHEPES緩衝液(pH7.5)、を調製し、検体を希釈処理するための検体希釈液とした。
(6)測定
マイコプラズマ・ニューモニエ、及びペプチド1またはペプチド2を含有する検体試料を使用して、上記作製した免疫クロマト分析装置を用いた場合の、検出部における発色強度を測定した。マイコプラズマ・ニューモニエを含有する検体試料には、Mycoplasma pneumonia P30((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)を使用した。このP30Agを上記抽出液で目的濃度10pg/mLに調整し、さらにペプチド1またはペプチド2が400ng展開されるように、ペプチド1またはペプチド2を調製し、検体試料とした。
上記の検体試料150μLを免疫クロマト分析装置の試料添加部上に載せて展開させ、検出部の着色の度合い(発色強度)をデンシトメーターにより測定した(表中の単位はmAbs)。
【0072】
<判定方法>
ペプチド1で阻害されペプチド2で阻害されない場合:抗体は、配列番号4に示すアミノ酸配列(PGMPPH)に結合する。
ペプチド1で阻害されずペプチド2で阻害される場合:抗体は、配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)に結合する。
ペプチド1で阻害されペプチド2でも阻害される場合:抗体は、配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)に結合する。
【0073】
なお、ペプチド1又はペプチド2を検体のP30Agとともに展開させることにより阻害が生じる場合のメカニズムを以下に説明する。ペプチド1及びペプチド2は検体のP30Agと比較して分子量がはるかに小さく、また展開させる量もはるかに多いため、P30Agよりも早く標識物質保持部に到達し、同部位に担持された第一抗体と結合して検出部の方へと展開される。しかし、ペプチド1及びペプチド2が有する抗体結合部位はP30Agと比較してはるかに少ないので(1〜2箇所)、第一抗体がすでに結合した状態の多くの上記ペプチドは、検出部に担持された第二抗体が結合できる箇所が少ないもしくは存在せず、多くのペプチドが検出部で捕捉されぬまま吸収部へと流れていくことになり検出部に捕捉され堆積する標識物質が減少することにより発色強度が減少する。一方、標識物質保持部に担持された一次抗体は、P30Agより先にペプチド1及びペプチド2に結合することにより、後から展開されるP30Agに結合する第一抗体の量が、ペプチド1又はペプチド2が存在しない場合と比較して少なくなるため、検出部で捕捉されるP30Agは、第一抗体が結合していないものが相対的に多くなり、その結果検出部で検出されるP30Agに起因する発色強度が低くなり、阻害がかかるということになる。
【0074】
本試験では、抗体P30(A)を使用しかつ上記ペプチド1及び2のいずれも使用しなかった場合、抗体P30(A)を使用しかつペプチド1を使用した場合、抗体P30(A)を使用しかつペプチド2を使用した場合の3パターンについて、免疫クロマト分析を行い、発色強度を測定した結果を表1に示す。
また、抗体P30(A)を抗体P30(B)に変更して同様の試験を行った結果を表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1の結果からわかるように、抗体P30(A)について、ペプチドなしの場合と比較して、ペプチド1を使用した場合及びペプチド2を使用した場合のいずれの場合も発色強度が減少しており、抗体P30(A)はペプチド1及びペプチド2のいずれにも阻害を受けることがわかる。したがって、抗体P30(A)は配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を認識することが分かった。
【0078】
また、表2の結果からわかるように、抗体P30(B)について、ペプチドなしの場合と比較して、ペプチド1を使用した場合は、発色強度に変化は見られなかったが、ペプチド2を使用した場合では発色強度が減少しており、抗体P30(B)はペプチド1の阻害を受けずペプチド2の阻害を受けることがわかる。したがって、抗体P30(B)は配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)を認識することが分かった。
【0079】
[試験例2]
本試験では、下記試験例3で作製する本願発明の免疫クロマト装置に使用する、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを認識する抗体(抗体P30(A))が、該ドメインIIIを「強く」認識する抗体であるかを確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のELISA法による試験及び段落[0024]〜[0029]に記載の競合阻害ELISA試験を行った。
【0080】
まず、試験例1で使用した抗体P30(A)がマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体であるか否か確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のプロトコールに従ってELISA法による試験を行った。具体的には、抗体P30(A)が、ブランクを引いた450nmの吸光度が0.2Abs以上となる抗体であるか否か、以下のように実験した。
【0081】
まず、Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートにMycoplasma pneumonia P30((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファー pH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0082】
一次抗体として前記抗体P30(A)5μg/mL in 50%ブロッキング溶液(一抗体溶液)100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした後、一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in
PBS)にて3回ウォッシュした。
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、ウェルに加え、37℃1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質としてSure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0083】
上記方法でELISA試験を行ったところ、ブランク(一次抗体を入れずに二次抗体、発色反応を行ったウェル)の吸光度を引いた450nmの吸光度が0.403Absであり、0.2Abs以上であることが確認できた。すなわち、抗体P30(A)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」ことが確認できた。
【0084】
つづいて、この抗体P30(A)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるか否かさらに確認するため、段落[0024]〜[0029]に記載のプロトコールに従い競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行った。具体的には、抗体P30(A)を用いて競合阻害ELISA試験を行った結果、吸光度が30%以上減少するか否か、以下のように実験した。
【0085】
Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、全長タンパク質のMycoplasma pneumonia P30(アミノ酸1−274:配列番号1)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファーpH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0086】
ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除き、全長タンパク質固定ウェルを作成した。
【0087】
次に、全長タンパク質固定ウェルに一次抗体として、抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0088】
また、上記一次抗体のみを加えたものとは別に、一次抗体の抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mLと、前記一次抗体P30(A)の40倍量である、試験例1で使用した上記ペプチド1(配列番号6:PGMAPRPGMPPHPGMAPR)またはペプチド2(配列番号7:PGMAPRPGFPPQPGMAPR)とを含む50%ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0089】
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、上記作成した2種の夫々のウェルに加え、37℃、1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質として、Sure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた。
マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0090】
その結果、一次抗体と上記ペプチド1またはペプチド2を加えたウェルの吸光度は、一次抗体のみを加えたウェルの吸光度と比較して、30%以上減少したことが確認できた。すなわち、抗体P30(A)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」ことが確認できた。
【0091】
[試験例3]
<本願発明の免疫クロマト分析装置の作製>
[実施例1]
(1)試料添加部の作製
試料添加部としてグラスファイバーからなる不織布(ミリポア社製:300mm×30mm)を用いた。
【0092】
(2)標識物質保持部の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:LC40nm)0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mlの濃度になるように希釈した抗体P30(A)(Fucal Research社、商品名:Mp−P30−3−AB)を0.1ml加え、室温で10分間静置した。
【0093】
次いで、1質量%の牛血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、更に室温で10分間静置した。その後、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加えた。以上の手順で標識物質溶液を作製した。
上記作製した標識物質溶液300μLに300μLの10質量%トレハロース水溶液と1.8mLの蒸留水を加えたものを12mm×300mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部を作製した。
【0094】
(3)クロマトグラフ媒体部および検出部の作製
メンブレンとしてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120、300mm×25mm)を用いた。
次に、5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように、上記抗体P30(A)を希釈した溶液150μLを、乾燥されたメンブレン上の検出部位(検出ライン)に1mmの幅でイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIODOT社製)を用いて1μL/mmの量(1シートあたり25μL)でライン状に塗布した。
また、金ナノ粒子標識試薬の展開の有無や展開速度を確認するために検出部位の下流に、金ナノ粒子標識物質と広く親和性を有するヤギ由来抗血清をリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した液をコントロール部位(コントロールライン)に塗布した。その後、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体部および検出部を作製した。
【0095】
(4)免疫クロマト分析装置の作製
次に、バッキングシートから成る基材に、試料添加部、標識物質保持部、検出部を有するクロマトグラフ媒体部、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収部としてグラスファイバー製の不織布を順次貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、免疫クロマト分析装置とした。なお、標識物質保持部の試料展開方向の長さを12mmとした。
【0096】
(5)検体希釈液
1質量%の非イオン性界面活性剤ナカライテスク社製NP−40(商品名:ノニデットP−40、HLB値17.7)、日油社製商品名ノニデットMN−811(HLB値 9.3)の1:1混合物を含む50mMのHEPES緩衝液(pH7.5)、を調製し、検体を希釈処理するための検体希釈液とした。
【0097】
(6)測定
マイコプラズマ・ニューモニエを含有する検体試料を使用して、上記作製した免疫クロマト分析装置を用いた場合の、検出部における発色強度を測定した。マイコプラズマ・ニューモニエを含有する検体試料には、市販の不活化マイコプラズマ・ニューモニエ(Meridian社製、商品名Mycoplasma pneumoniae Antigen(FH))、または肺炎マイコプラズマ感染者の咽頭拭い液を用いた。咽頭拭い液は、市販の綿棒を用いて咽頭を拭うことで被験者2名の肺炎マイコプラズマ感染者からそれぞれ採取した。
市販の不活化マイコプラズマ・ニューモニエは、上記抽出液で目的濃度に調整し、検体試料とした(表3中、市販検体と記載)。
また、採取した咽頭拭い液は、上記検体希釈液で20倍に希釈し、検体試料とした(表3中、被験者1及び被験者2と記載)。
【0098】
上記それぞれの検体試料150μLを免疫クロマト分析装置の試料添加部上に載せて展開させ、検出部の着色の度合い(発色強度)をデンシトメーターにより測定した(表中の単位はmAbs)。結果を表3及び
図2に示す。
【0099】
[比較例1]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、試験例1で使用した抗体P30(B)(Fucal Research社、商品名:Mp−P30−9−AB)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び
図2に示す。
なお、この抗体P30(B)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」か否か確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のELISA法による試験及び段落[0024]〜[0029]に記載の競合阻害ELISA試験を行った。
まず、抗体P30(B)がマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体であるか否か確認するため、段落[0017]〜[0022]に記載のプロトコールに従ってELISA法による試験を行った。具体的には、抗体P30(B)が、ブランクを引いた450nmの吸光度が0.2Abs以上となる抗体であるか否か、以下のように実験した。
【0100】
Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、Mycoplasma pneumonia P30((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)4ng/mL in 50mM 炭酸バッファー pH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。ブロッキング液として、5%BSA in PBST (BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20
in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0101】
一次抗体として前記抗体P30(B)5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした後、一次抗体溶液抗体P30(B)を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、ウェルに加え、37℃1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質としてSure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0102】
上記方法でELISA試験を行ったところ、ブランク(一次抗体を入れずに二次抗体、発色反応を行ったウェル)の吸光度を引いた450nmの吸光度が0.061Absであり、0.2Abs未満であることが確認できた。すなわち、抗体P30(B)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体ではないことが確認できた。
【0103】
つづいて、この抗体P30(B)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるか否かさらに確認するため、段落[0024]〜[0029]に記載のプロトコールに従い競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行い、吸光度が30%以下に減少するか否か、以下のように実験した。
【0104】
Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、全長タンパク質のMycoplasma pneumonia P30(アミノ酸1−274:配列番号1)10ng/mL in 50mM 炭酸バッファーpH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、P30溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0105】
ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートする。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除き、全長タンパク質固定ウェルを作成した。
【0106】
次に、全長タンパク質固定ウェルに一次抗体として、抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(A))5μg/mL in 50% ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0107】
また、前記一次抗体のみを加えたものとは別に、一次抗体の抗Mycoplasma pneumoniae P30抗体(抗体P30(B))5μg/mLと、一次抗体P30 (B)量の40倍量である量、試験例1で使用したペプチド1(配列番号6:PGMAPRPGMPPHPGMAPR)またはペプチド2(配列番号7:PGMAPRPGFPPQPGMAPR)とを含む50%ブロッキング溶液100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした。その後一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
【0108】
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014−17611)1mg/mLを100μL、上記作成した2種の夫々のウェルに加え、37℃、1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
ウェルに発色基質として、Sure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1−Component)(KPL社製、コード53−00−01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた。
マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
【0109】
その結果、一次抗体と上記ペプチド1またはペプチド2を加えたウェルの吸光度は、一次抗体のみを加えたウェルの吸光度と比較して、ペプチド1では減少が見られず、ペプチド2では約22%しか減少せず、その減少率は30%未満であることが確認できた。すなわち、抗体P30(B)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体ではないことが確認できた。
【0110】
[比較例2]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)及び検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)の両方を、上記抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び
図2に示す。
【0111】
[比較例3]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質に対する抗体(Meridian社製、商品名MAb to Mycoplasma pneumonia P1(clone B1947M):以下、抗体P1(B)と表記する)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び
図2に示す。
【0112】
[比較例4]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質に対する抗体(Meridian社製、商品名MAb to
Mycoplasma pneumonia P1(clone B1948M):以下、抗体P1(A)と表記する)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び
図2に示す。
【0113】
[比較例5]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、抗体P1(A)に、検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P1(B)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3及び
図2に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
[実施例2]
検体希釈液の組成を、Triton X−100(和光純薬社製、商品名、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル、HLB値:13.7)、Tween20(和光純薬社製、商品名、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、HLB値:16.7)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表4及び
図3に示す。
[比較例6]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例2を繰り返した。結果を表4及び
図3に示す。
【0116】
[比較例7]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)及び検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)の両方を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表4及び
図3に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
[実施例3]
検出検体を、P30タンパク質((アミノ酸96−274)を、大腸菌を利用した常法で発現、精製したタンパク質P30Ag)に変更し、検体希釈液の組成を、Triton
X−100(和光純薬社製、商品名、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル、HLB値:13.7)、Tween20(和光純薬社製、商品名、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、HLB値:16.7)1:1混合物に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表5及び
図4に示す。
[比較例8]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び
図4に示す。
【0119】
[比較例9]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)及び検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)の両方を、抗体P30(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び
図4に示す。
【0120】
[比較例10]
検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P1(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び
図4に示す。
【0121】
[比較例11]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、抗体P1(A)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び
図4に示す。
【0122】
[比較例12]
標識物質保持部に添加した標識物質溶液中の抗体P30(A)を、抗体P1(A)に、検出部に塗布した抗体希釈液中の抗体P30(A)を、抗体P1(B)に変更したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表5及び
図4に示す。
【0123】
【表5】
【0124】
以上の結果より、標識物質保持部及び検出部の両方に、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する抗体P30(A)を含有させた場合は(実施例1〜3)、それ以外の場合(比較例1〜12)と比較して、マイコプラズマ・ニューモニエ、またはP30タンパク質の検出感度が顕著に高いことが分かった。
【0125】
[試験例4]
試験例2における抗体P30(A)および比較例1における抗体P30(B)が、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体であるか確認するため、競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行った。本試験では、競合させるドメインIIIの断片として、試験例1で使用した上記ペプチド1またはペプチド2のいずれかを使用し、さらに上記ペプチドの濃度を下記表6、7のように変更して(×1〜×640)、試験例2または比較例1に記載の方法と同様にして競合阻害ELISA試験(間接競合法)を行った。結果を表6、7に示す。表6は、抗体として抗体P30(A)を使用した結果であり、表7は、抗体として抗体P30(B)を使用した結果である。また表6の結果を
図5、表7の結果を
図6に示す。
【0126】
【表6】
【0127】
【表7】
【0128】
表6及び
図5の結果より、ペプチド濃度を一次抗体抗P30(A)抗体濃度の40倍とした場合に、ウェルの吸光度がコントロールと比較して30%以上減少し、80倍量とした場合でも50%以上減少することが確認できた。なお、抗体P30(A)はペプチド1及びペプチド2のいずれにも阻害を受けることから、抗体P30(A)は配列番号3に示すアミノ酸配列(PGMAPR)を認識することが本試験でも確認できた。
【0129】
また、表7及び
図6の結果より、ペプチド濃度を一次抗体P30(B)量の40倍とした場合でも、ウェルの吸光度がコントロールと比較して約22%しか減少せず、30%未満であった。すなわち、抗体P30(B)が「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のドメインIIIを強く認識する」抗体ではないことが確認できた。なお、抗体P30(B)はペプチド1の阻害を受けずペプチド2の阻害を受けることから、配列番号5に示すアミノ酸配列(PGFPPQ)を認識することが本試験でも確認できた。