(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144603
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】凍結・ソルトスケーリング抑制方法及び凍結・ソルトスケーリング抑制剤
(51)【国際特許分類】
E01C 23/00 20060101AFI20170529BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20170529BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20170529BHJP
E01H 10/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
E01C23/00 A
C09K3/00 102
C09K3/18
E01H10/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-222764(P2013-222764)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83767(P2015-83767A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年7月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2013年4月30日 第67回セメント技術大会講演要旨 2013(CD−ROM)に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509274441
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ・エンジニアリング東北
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】羽原 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】粟田 敬二
(72)【発明者】
【氏名】光岡 達之
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表平06−508335(JP,A)
【文献】
特開平04−202491(JP,A)
【文献】
特開2005−179655(JP,A)
【文献】
特開2012−206882(JP,A)
【文献】
特開平10−156811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 21/00−23/24
E01D 1/00−24/00
C09K 3/00、3/18
E01H 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体表面の凍結及び塩による剥離劣化を抑制するための凍結・ソルトスケーリング抑制方法であって、
ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含みマグネシウムを含まない凍結防止剤と、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種類からなる金属を含みアルカリ水溶液と反応して前記金属の水酸化物となる水溶性金属塩と、を前記セメント硬化体表面に散布し、
前記セメント硬化体表面と該セメント硬化体表面に付着する氷との間に前記金属の水酸化物からなる被膜を形成させることを特徴とする凍結・ソルトスケーリング抑制方法。
【請求項2】
前記凍結防止剤及び前記水溶性金属塩の合計量に対する前記水溶性金属塩の散布量が10〜90質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の凍結・ソルトスケーリング抑制方法。
【請求項3】
前記水溶性金属塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムからなる群より選択される1種類以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の凍結・ソルトスケーリング抑制方法。
【請求項4】
前記水溶性金属塩と前記凍結防止剤とを予め混合して粉末状で散布することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の凍結・ソルトスケーリング抑制方法。
【請求項5】
セメント硬化体表面の凍結及び塩による剥離劣化を抑制するための凍結・ソルトスケーリング抑制剤であって、
ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含みマグネシウムを含まない凍結防止剤と、
マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種類からなる金属を含みアルカリ水溶液と反応して前記金属の水酸化物となる水溶性金属塩と、を含有し、粉末状であることを特徴とする凍結・ソルトスケーリング抑制剤。
【請求項6】
前記凍結防止剤及び前記水溶性金属塩の合計量に対する前記水溶性金属塩の含有量が10〜90質量%の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の凍結・ソルトスケーリング抑制剤。
【請求項7】
前記水溶性金属塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムからなる群より選択される1種類以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の凍結・ソルトスケーリング抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結・ソルトスケーリング抑制方法及び凍結・ソルトスケーリング抑制剤に関し、特に、凍結防止剤によるセメント硬化体表面の剥離劣化を抑制するための凍結・ソルトスケーリング抑制方法及び凍結・ソルトスケーリング抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
寒冷地域のコンクリートやモルタル(以下、セメント硬化体という)には、凍害と呼ばれる劣化現象がある。この凍害には、セメント硬化体内部の水分凍結により生じる膨張圧による組織破壊と、スケーリングと呼ばれるセメント硬化体表層がうろこ状に剥離する劣化現象がある。スケーリングによる劣化メカニズムには諸説あり、また対策技術も確立されていない。
【0003】
冬季の気温低下や降雪は道路路面の凍結や積雪を生じ、人や自動車の往来時の安全を損なうとともに、交通渋滞を招くなど社会的・経済的な影響も大きい。寒冷地域では凍結防止剤(融雪剤ともいう)を道路に散布して、道路の凍結・積雪への対策が行われている。
【0004】
一般に、凍結防止剤には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの水溶性塩類が使用される(例えば、特許文献1参照)。これらは水の凝固点を降下させるため、低温時において水の凍結抑制や氷の溶解の作用を有している。
【0005】
しかしながら、この散布された凍結防止剤がセメント硬化体のスケーリングを助長することが知られており、これはソルトスケーリングと呼ばれている。ソルトスケーリングに及ぼす塩類の影響は塩化ナトリウムが最も大きく、塩化カリウム、塩化マグネシウムの順とされており、塩化マグネシウムがソルトスケーリングに対して影響が小さいことが知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0006】
塩化マグネシウムは塩化ナトリウムに比べて一般に高価であり、その凍結防止・融雪効果も塩化ナトリウムの半分以下であることが知られている(例えば、非特許文献3参照)。これは、凍結防止効果が水の凝固点降下現象を利用しているため、この現象が溶解した塩のモル濃度に依存していることによる。
【0007】
また、塩化マグネシウム(MgCl
2)は塩化ナトリウム(NaCl)よりも1分子中の塩素原子数が2倍多いため、同等の凍結防止効果を得るための散布量では、塩化物イオン濃度は4倍以上となり、散布した周辺のセメント硬化体構造物中の鉄筋や鋼構造物の腐食を促すなど副次的な影響が懸念される。このため、ソルトスケーリング対策として、塩化マグネシウムのみを凍結防止剤に使用することは、費用対効果及び副次的な影響において課題があるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−59793号公報(請求項2、段落0047,0048など)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「凍結防止剤・融雪剤『塩化マグネシウム』(フレーク状、砂状)」、有希化学株式会社ホームページ(URL: http://www.yuki-chemical.com/yusetsu.html)
【非特許文献2】「凍結防止剤」、赤穂化成株式会社ホームページ(URL: http://web.ako-kasei.co.jp/business/kaseihin/touketsubousizai/)
【非特許文献3】「凍結防止剤とすべり止め材について 寒地道路研究グループ」、寒地土木研究所資料(URL: http://www2.ceri.go.jp/jpn/news/koutsu/panf/touketubousi.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
道路交通の安全確保には凍結防止剤の使用は不可欠であるが、同時にセメント硬化体構造物の劣化を助長することは補修等の社会的なコストを招くことになる。このため、費用対効果に優れ、ソルトスケーリングによるセメント硬化体表面の剥離劣化を抑制可能な凍結・ソルトスケーリング抑制方法及び凍結・ソルトスケーリング抑制剤が求められていた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、費用対効果に優れ、ソルトスケーリングによるセメント硬化体表面の剥離劣化を抑制可能な凍結・ソルトスケーリング抑制方法及び凍結・ソルトスケーリング抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、以上の目的を達成するために、鋭意検討した結果、アルカリ水溶液と反応して金属の水酸化物となる水溶性金属塩にソルトスケーリング抑制効果があることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、セメント硬化体表面の凍結及び塩による剥離劣化を抑制するための凍結・ソルトスケーリング抑制方法であって、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含みマグネシウムを含まない凍結防止剤と、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種類からなる金属を含みアルカリ水溶液と反応して前記金属の水酸化物となる水溶性金属塩と、を前記セメント硬化体表面に散布し、前記セメント硬化体表面と該セメント硬化体表面に付着する氷との間に前記金属の水酸化物からなる被膜を形成させることを特徴とする凍結・ソルトスケーリング抑制方法に関する。
【0014】
この場合において、前記凍結防止剤及び前記水溶性金属塩の合計量に対する前記水溶性金属塩の散布量が10〜90質量%の範囲内であることが好ましい。
【0015】
また、前記水溶性金属塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムからなる群より選択される1種類以上であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記水溶性金属塩と前記凍結防止剤とを予め混合して粉末状で散布すると好適である。
【0017】
また、本発明は、セメント硬化体表面の凍結及び塩による剥離劣化を抑制するための凍結・ソルトスケーリング抑制剤であって、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含みマグネシウムを含まない凍結防止剤と、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種類からなる金属を含みアルカリ水溶液と反応して前記金属の水酸化物となる水溶性金属塩と、を含有し、粉末状であることを特徴とする凍結・ソルトスケーリング抑制剤に関する。
【0018】
この場合において、前記凍結防止剤及び前記水溶性金属塩の合計量に対する前記水溶性金属塩の含有量が10〜90質量%の範囲内であることが好ましい。
【0019】
また、前記水溶性金属塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムからなる群より選択される1種類以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、凍結抑制効果及び費用対効果に優れ、かつソルトスケーリングによるセメント硬化体表面の剥離劣化を効率的に抑制することが可能な凍結・ソルトスケーリング抑制方法及び凍結・ソルトスケーリング抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例において水溶性金属塩の添加量とスケーリング耐久性指数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の凍結・ソルトスケーリング抑制方法は、凍結防止剤と水溶性金属塩とをセメント硬化体表面に散布し(以下、散布工程)、セメント硬化体表面とこれに付着する氷との間に金属の水酸化物の被膜を形成させる(以下、被膜形成工程)点を特徴とする。以下、各成分及び工程について詳細に説明する。
【0023】
(1)凍結防止剤
本発明の凍結防止剤(以下、単に「凍結防止剤」という)は、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含んでおり、セメント硬化体表面に付着する氷の凝固点を降下させて溶解しやすくする役割を有する。凍結防止剤の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウムからなる群より選択される1種類を挙げることができる。これらのうち、凝固点降下が大きく(凝固点が低く)、かつ比較的安価である塩化ナトリウムや塩化カルシウムが好ましい。また、塩化ナトリウムとしては、比較的安価な岩塩系が好ましい。
【0024】
(2)水溶性金属塩
本発明の水溶性金属塩(以下、単に「水溶性金属塩」という)は、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種類からなる金属を含み、アルカリ水溶液と反応して金属の水酸化物となる塩である。後述するように、水溶性金属塩は、セメント硬化体表面でアルカリ水溶液と反応して金属の酸化物からなる被膜を形成することで、ソルトスケーリングを抑制する役割を有する。マグネシウムを含む水溶性金属塩としては、具体的には、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウムからなる群より選択される1種類以上を挙げることができる。また、鉄を含む水溶性金属塩としては、具体的には、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)からなる群より選択される1種類以上を挙げることができる。また、アルミニウムを含む水溶性金属塩としては、具体的には、塩化アルミニウム・無水物、塩化アルミニウム・6水和物、硫酸アルミニウム・16水和物、酢酸アルミニウムからなる群より選択される1種類以上を挙げることができる。なお、本発明の水溶性金属塩には、無水物だけでなく水和物も含む。
【0025】
(3)散布工程
散布工程では、上記の凍結防止剤と水溶性金属塩とをセメント硬化体の表面に散布する。凍結防止剤と水溶性金属塩は、水溶液の状態で散布してもよいが、セメント硬化体の表面にとどまって凍結防止効果を持続的に発揮することから粉末の状態で散布することが好ましい。また、凍結防止剤と水溶性金属塩は、別々に散布してもよいが、ソルトスケーリング抑制効果を発揮しやすいことから同時に散布することが好ましい。さらに、後述するように、取扱い性、長期保存性が良好であることから、両者を予め混合して粉末状で散布することが好ましい。
【0026】
凍結防止剤と水溶性金属塩の合計量に対して、水溶性金属塩の散布量は10〜90質量%の範囲内であることが好ましい。水溶性金属塩の散布量が10質量%を下回ると、凝固点降下が小さく(凝固点が高く)なるほか、後述するセメント硬化体表面の水酸化物による被覆が不十分になりやすい。また、水溶性金属塩の散布量が90質量%を上回ると、コストが高くなりやすくなる。水溶性金属塩の散布量は、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。後述する実施例にも示すように、水溶性金属塩の散布量が8〜9質量%付近まではソルトスケーリング耐久性指数(SDI)で示されるソルトスケーリング抑制効果はそれほど高くないが、これを超えて23〜27質量%付近までにSDIが急激に上昇してほぼ100となり、それ以降はほぼ100で一定に推移する。
【0027】
凍結防止剤と水溶性金属塩の散布方法は、特には制限されず、公知の散布方法を用いることができる。このような散布方法としては、人手による手散布、散布機や散布車による機械的散布のいずれでもよい。また、散布のタイミングとしては、特には制限されず、降雪前や降雪直後の段階、降雪後に時間が経過してセメント硬化体表面が凍結した段階、除雪した後に押し詰められた雪が残る段階など、いずれのタイミングでもよい。また、散布個所は、セメント硬化体表面の全面のほか、特に凍結しやすい一部の個所などが挙げられる。
【0028】
凍結防止剤と水溶性金属塩の散布量は、凍結及びソルトスケールを十分に抑制できる範囲であれば特に制限はないが、例えば、セメント硬化体表面に対して、凍結防止剤と水溶性金属塩の合計量が3〜50g/m
2となるように散布することが好ましい。散布量が3g/m
2を下回ると、凍結抑制、ソルトスケール抑制が不十分になりやすい。また、散布量が50g/m
2を上回ると、施工コストが高くなりやすくなるほか、塩濃度が高くなりすぎてセメント硬化体表面やその内部の鉄筋等の劣化を招きやすくなる。
【0029】
(4)被膜形成工程
セメント硬化体表面に水溶性金属塩を散布すると、セメント硬化体表面とこれに付着した氷との間に、金属の水酸化物からなる被膜が形成される。本発明の水溶性金属塩は、アルカリ水溶液と反応して金属の水酸化物を形成するが、セメント硬化体表面には氷から融解した水が付着しており、セメント硬化体自体は石灰成分を含んでいてアルカリ性であるため、アルカリ水溶液がセメント硬化体の表面層に浸潤した状態となっている。セメント硬化体表面に散布された水溶性金属塩がこのアルカリ水溶液と反応すると、セメント硬化体の表面に金属の水酸化物からなるゲル状の被膜が形成される。この被膜は、セメント硬化体表面と氷との界面で緩衝層として機能し、セメント硬化体と氷との間の熱膨張係数の差異による応力を緩和することで、応力差により生じる表面層の剥離、すなわちソルトスケーリングを抑制していると推測される。なお、金属の水酸化物は、金属がマグネシウムの場合は水酸化マグネシウム、鉄の場合は水酸化鉄である。
【0030】
被膜の厚みは、ソルトスケーリングを十分に抑制できれば特に制限はないが、例えば5μm以上が好ましい。被膜の厚みが5μmを下回ると、応力差を十分に緩和することが難しく、ソルトスケーリングを十分に抑制することが困難となる。被膜層の存在やその厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察などの手法で測定することができる。
【0031】
凍結防止剤に含まれる塩によって凍害によるセメント硬化体表面の剥離劣化が促進される(ソルトスケーリング)が、本発明では、水溶性金属塩によりセメント硬化体表面と氷との間に水酸化物の被膜が形成されるため、ソルトスケーリングを抑制することが可能となる。また、このようにソルトスケーリングが抑制されるため、セメント硬化体表面部でのソルトスケーリングによる空隙発生を抑制することができる。したがって、セメント硬化体表面部における空隙率の増加を抑えることも可能となる。さらに、高価な水溶性金属塩だけでなく、比較的安価な凍結防止剤を併用することで、低コストで凍結を抑制することが可能となる。
【0032】
本発明のセメント硬化体は、セメントを接着成分として硬化させたものを意味する。セメントの種類としては、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどいずれであってもよい。セメント硬化体の具体例としては、上述したコンクリート(セメント+砂+砂利)やモルタル(セメント+砂)のほか、これらに必要に応じてAE剤、防水剤、減水剤、保水材、収縮低減剤、気泡剤、急結剤、分離低減剤、防水剤、着色剤など公知の混和剤を添加したものも含まれる。また、セメント硬化体が適用される構造物としては、一般道路、高速道路、橋梁、線路、駅舎、港湾、空港の滑走路、エプロン、誘導路など、ほぼすべての屋外のセメント構造物を挙げることができる。
【0033】
(5)凍結・ソルトスケーリング抑制剤
上述した散布工程では、凍結防止剤と水溶性金属塩とを予め混合した凍結・ソルトスケーリング抑制剤を使用することもできる。以下、本発明の凍結・ソルトスケーリング抑制剤(単に「凍結・ソルトスケーリング抑制剤」という)について説明する。
【0034】
凍結・ソルトスケーリング抑制剤は、上述した凍結防止剤と水溶性金属塩とを含有し、粉末状である点を特徴とする。水溶性金属塩は潮解性があり、空気中の水分などを吸収して湿った状態となりやすい。このような状態では、水溶性金属塩の粉末はべとついて、保管時や散布時に取扱いが困難になる。そこで、本発明では、潮解性のある水溶性金属塩と、潮解性がないかあるいは相対的に低い凍結防止剤とを予め混合しておくことで、水溶性金属塩凍結防止剤に分散させた状態にしている。これにより、空気中に含まれる水分により水溶性金属塩が潮解しても、水溶性金属塩が密集しておらず分散しているため、粉体がべたつきにくく、比較的さらっとした状態が維持される。このため、散布時において取扱い性に優れ、かつ長期保存性も良好となる。なお、凍結防止剤と水溶性金属塩との混合は、リボンミキサー、モルタルミキサーのような汎用機を用いて公知の方法で行うことができる。
【0035】
凍結防止剤と水溶性金属塩の合計量に対して、水溶性金属塩の含有量は10〜90質量%の範囲内であることが好ましい。水溶性金属塩の含有量が10質量%を下回ると、凝固点降下が小さく(凝固点が高く)なるほか、セメント硬化体表面の水酸化物による被覆が不十分になりやすい。また、水溶性金属塩の含有量が90質量%を上回ると、コストが高くなりやすくなるほか、空気中等の水分によりべたついて取扱い性に劣りやすい。水溶性金属塩の含有量は、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。一般に、水溶性金属塩の含有量が増えるにしたがって、ソルトスケーリング抑制効果が高くなる傾向にある。
【0036】
凍結・ソルトスケーリング抑制剤は、上述した公知の散布方法でセメント硬化体表面に散布することができる。また、凍結・ソルトスケーリング抑制剤の散布量についても同様に、セメント硬化体表面に対して3〜50g/m
2となるように散布することが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0038】
(1)実施例1(塩化カルシウム+塩化マグネシウム)
凍結防止剤として塩化カルシウム、水溶性金属塩として塩化マグネシウムを用いた例について説明する。
【0039】
(a)凍結・ソルトスケーリング抑制剤の作成
凍結防止剤として塩化カルシウム(関東化学株式会社製 塩化カルシウム)、水溶性金属塩として塩化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製 塩化マグネシウム六水和物)を使用した。溶液100mlに対し、塩化カルシウム0.316g、水溶性金属塩として塩化マグネシウム5.940gを用いて1分間混合して、凍結・ソルトスケーリング抑制剤を作成した(実施例1−1)。また、塩化マグネシウムの添加量を変えて、表1に示す実施例1−2〜1−5の凍結・ソルトスケーリング抑制剤を作成した。また、塩化マグネシウムを添加せず塩化カルシウムのみのサンプルも作成した(比較例1)。
(b)試験用供試体(モルタル)の作成
セメント(普通ポルトランドセメント、密度:3.15g/cm
3)と細骨材(盛岡市黒川産砕砂、粗粒率:2.89、表乾密度:2.80g/cm
3)と水とを、水セメント比が0.5、砂セメント比が2.5となるように混合した。細骨材は、2.5mmふるい下で表乾状態のものを使用した。AE剤は使用せず、4×4×16cmのJISモルタル供試体を作成し、材齢28日まで水中養生を行った後、ダイヤモンドカッターを用いて1辺が8mmとなるように切断し、これを試験片とした。
【0040】
(c)小片凍結融解試験
試験片1組3粒(約4g)を、容量100mlのポリプロピレン容器に入れ、溶液と試料の質量比を10:1として、濃度3%の凍結・ソルトスケーリング抑制剤溶液に浸漬させ、ふたをして凍結溶解試験を行った。容器に入れた供試体を−20℃の冷凍庫内で12時間、15℃の室内で12時間の凍結融解を10回繰り返した。繰り返しサイクルの後、容器を取り出し、ろ紙(5B)にて試料を分離し、純水で洗浄した。分離した試料は40℃にて乾燥し、試料を2.5mmふるいで分級した。ふるい上に残った試料の質量の残存量によりスケーリング抵抗性を定量的に評価した。1回の測定には上記試料を3組使用し、試験前質量より質量残存率は3組のうち中央値を使用した。また、スケーリング耐久性試験(SDI)は、“小山田哲也ら、「スケーリング劣化を考慮した新しい凍結融解試験法の検討」、コンクリート工学年次論文集、2011年、vol.33、pp.935−940”に記載の方法により評価した。各サンプル及びその測定結果を表1に示す。なお、添加量は、凍結防止剤と水溶性金属塩の合計量を100質量%としたときの値である。
【0041】
【表1】
【0042】
以上のように、水溶性金属塩の添加量が8.7質量%の実施例1−1では、スケーリング耐久性指数が60.0となり、スケーリングに対する耐久性が高まっていることがわかった。また、水溶性金属塩の添加量が26.9質量%以上の実施例1−2〜1−5では、スケーリング耐久性指数が99.0を超えていることから、この添加量の範囲ではコンクリート表面におけるスケーリングに対する耐久性を大幅に高めることができることがわかった。
【0043】
(2)実施例2(酢酸カルシウム+酢酸マグネシウム)
凍結防止剤として酢酸カルシウム、水溶性金属塩として酢酸マグネシウムを用いた例について説明する。
【0044】
実施例1の(a)において、塩化カルシウムに代えて酢酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製 酢酸カルシウム一水和物)、塩化マグネシウムに代えて酢酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製 酢酸マグネシウム四水和物)を使用し、塩化マグネシウムの添加量を種々に変更した以外は同様にして、凍結・ソルトスケーリング抑制剤を作成した。実施例1(b)、(c)と同様の共試体・試験方法でSDIを測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
以上のように、水溶性金属塩の添加量が27.8質量%以上の実施例2−2〜2−5では、スケーリング耐久性指数がほぼ100となっていることから、この添加量の範囲ではコンクリート表面におけるスケーリングに対する耐久性を大幅に高めることができることがわかった。
【0047】
(3)実施例3(塩化ナトリウム+塩化鉄)
実施例1の(a)において、塩化カルシウムに代えて塩化ナトリウム(財団法人塩事業センター製 食塩)、塩化マグネシウムに代えて塩化鉄(関東化学株式会社製 塩化鉄(塩化鉄(II)四水和物)を使用し、塩化ナトリウムと塩化鉄の添加量が質量比で1:1(塩化鉄の添加量:50質量%)とした以外は同様にして、凍結・ソルトスケーリング抑制剤を作成した。実施例1(b)、(c)と同様の共試体・試験方法でSDIを測定した。その結果、SDI値は86であった。
【0048】
(4)実施例4(塩化ナトリウム+塩化アルミニウム)
実施例1の(a)において、塩化カルシウムに代えて実施例3の塩化ナトリウム、塩化マグネシウムに代えて塩化アルミニウム(関東化学株式会社 塩化アルミニウム(III)六水和物)を使用し、塩化ナトリウムと塩化アルミニウムの添加量が質量比で1:1(塩化アルミニウムの添加量:50質量%)とした以外は同様にして、凍結・ソルトスケーリング抑制剤を作成した。実施例1(b)、(c)と同様の共試体・試験方法でSDIを測定した。その結果、SDI値は78であった。
【0049】
(5)実施例5(塩化ナトリウム+塩化マグネシウム)
実施例1の(a)において、塩化カルシウムに代えて実施例3の塩化ナトリウムを使用し、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの割合(質量比)を種々に変更した以外は同様にして、凍結・ソルトスケーリング抑制剤を作成した。実施例1(b)、(c)と同様の共試体・試験方法でSDIを測定した。その結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
以上のように、塩化ナトリウム単独(比較例5)の場合と比較して、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの質量比が90:10(実施例5−1)の場合は、スケーリングに対する耐久性が向上していることがわかった。したがって、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの合計量に対する塩化マグネシウムの比率は、10質量%以上が好ましいことがわかった。また、塩化マグネシウムの比率が高くなるにつれてスケーリング耐久性指数が向上するが、塩化マグネシウムの比率が50質量%以上(実施例5−6,実施例5−7)では、スケーリング耐久試指数はほぼ100%となることがわかった。したがって、塩化マグネシウムの比率は50質量%以上が特に好ましいことがわかった。
【0052】
(6)実施例6(塩化カリウム+塩化マグネシウム)
実施例1の(a)において、塩化カルシウムに代えて塩化カリウムを使用し、塩化カリウムと塩化マグネシウムの割合(質量比)を種々に変更した以外は同様にして、凍結・ソルトスケーリング抑制剤を作成した。実施例1(b)、(c)と同様の共試体・試験方法でSDIを測定した。その結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
以上のように、塩化カリウム単独(比較例6)の場合と比較して、塩化カリウムと塩化マグネシウムの質量比が90:10(実施例6−1)の場合は、スケーリングに対する耐久性が向上していることがわかった。したがって、塩化カリウムと塩化マグネシウムの合計量に対する塩化マグネシウムの比率は、10質量%以上が好ましいことがわかった。また、塩化マグネシウムの比率が高くなるにつれてスケーリング耐久性指数が向上するが、塩化マグネシウムの比率が50質量%以上(実施例6−6,実施例6−7)では、スケーリング耐久試指数はほぼ100%となることがわかった。したがって、塩化マグネシウムの比率は50質量%以上が特に好ましいことがわかった。