(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の絶縁材料、および製造方法について説明する。さらに、本発明の絶縁材料を用いる本発明の受動素子および回路基板について図面を用いて説明する。
すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。尚、本実施の形態では図面上、前後左右上下の方向を規定して説明する場合がある。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものであり、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
また本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、一つの構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
また本実施形態に示される各構成要素は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜、他の実施態様に転用可能である。
また本発明および本明細書において用いられる「シート」なる用語は、フィルム、膜状物など、一般的に厚みの薄い形状物を広く含む。即ち、シートまたはフィルムという称呼の違いにより個別の厚みなどを規定するものではなく、もっぱら絶縁材料として用いられるに適した範囲の厚みを含む。
【0016】
[絶縁材料]
本発明の絶縁材料は、セルロースナノファイバ(以下、「CNF」ともいう)を主成分とする繊維集合体と、上記繊維集合体に担持された導電性金属材料と、を備える。
【0017】
本発明の絶縁材料は、上記構成により高誘電率化が図られており、セルロース自体の物性値として示される誘電率(ε)を大きく上回る誘電率を示すことが可能である。
即ち、本発明者らは種々の検討により、CNFを主成分としてなる繊維集合体に導電性金属材料を担持させることによってセルロース自体の物性値として示される誘電率を大きく上回るレベルで高誘電率化を図ることが可能であるという知見を得た。驚くべきことに本発明者らは、本来は絶縁材料への使用が排斥されるべき導電性金属材料を、CNFを主成分としてなる繊維集合体に担持させることによって高誘電化を図ることを可能とし、これによって本発明の絶縁材料を完成させた。
【0018】
本発明の絶縁材料は、電子部品において絶縁性として用いられる部材を意味する。したがって、本発明の絶縁材料における誘電率は、任意の電子部品において絶縁材料として使用可能な範囲の誘電率が示される範囲において、特に限定されない。好ましくは、本発明の絶縁材料は、高誘電化が図られる前の、実質的にCNFのみからなる絶縁材料において示される誘電率を上回る値が示される。
たとえば、本発明の絶縁材料を高誘電率材料として用いる場合には、誘電率(ε)は5を上回る誘電率が示されることが好ましく、10以上の誘電率(ε)が示されることがより好ましく、20以上の誘電率(ε)が示されることが特に好ましい。
尚、本発明に関する誘電率(ε)は比誘電率を示すものである。
【0019】
本発明の絶縁材料の形状は特に限定されない。本発明の絶縁材料の採りうる形状は、電子部品において絶縁材料として使用可能な形態を広く包含する。例えば電子デバイスの小型化の観点からは、上記形状が、シート状であることが好ましい。シート状の絶縁材料は、たとえば、平均厚みが、1μm以上100μm以下の範囲である薄膜の絶縁材料である。尚、本発明においてシート状とは、フィルム状、膜状などの平板であって膜状と理解されるいずれの形状も含む。絶縁材料の膜厚は、市販の膜厚測定計によって任意の10か所における膜厚みを測定し、平均値を求めることにより算出することができる。
【0020】
本発明におけるCNFは、植物セルロースを処理してナノサイズにほぐしたセルロース、および微生物の産生するセルロースを含む。上記CNFは、β−1,4−グルカン構造を有する。上記CNFは、β−グルコースの重合体のみから構成されていてもよいし、β−グルコースの重合体の一部にセルロース誘導体を含むもの、あるいは実質的にセルロース誘導体のみからなるものであってもよい。
ここでナノサイズとは、上記CNFの平均繊維径(短軸平均長さ)が4nmから900nmの範囲であることを意味する。特に、後述する導電性金属材料を繊維間に確実に担持するという観点からは、上記CNFの平均繊維径が4nmから200nmの範囲にあることが好ましく、上記平均繊維径が4nmから100nmの範囲にあることがより好ましい。また、上記平均繊維径の範囲であれば、CNFを主成分とする繊維集合体の目付を小さくすることで繊維間の空隙(空気層)を低減させることによって高誘電率化が良好に図られるという観点からも、好ましい。
また上記CNFの平均繊維長(長軸平均長さ)は、特に限定されない。CNFを用いて交絡体である繊維集合体を構成する際に、繊維同士が良好に絡まるという観点からは、CNFのアスペクト比は、5以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。一方、繊維同士が良好に絡まるという観点からは、CNFのアスペクト比の上限は特に限定されないが、たとえばアスペクト比を200以下、あるいは100以下とすることができる。
CNFの平均繊維径は、CNFを電子顕微鏡により観察し、ランダムにCNFを100本選択し、選択された繊維の任意の箇所における幅方向の長さを計測し、得られた測定値の平均を求めることにより示される。またCNFの平均繊維長も同様に、CNFを電子顕微鏡により観察し、ランダムにCNFを100本選択し、選択された繊維の任意の箇所における長軸方向の長さを計測し、得られた測定値の平均を求めることにより示される。上記電子顕微鏡としては、例えば走査型電子顕微鏡(JSM−6700F、日本電子株式会社製)を挙げることができるがこれに限定されない。
【0021】
本発明において、CNFを主成分とする繊維集合体とは、主としてCNFより構成され所定の形状を維持できる程度に繊維が互いに寄り集まった集合物である。例えば、上記繊維集合体は、不織布、および織物を含む。上記不織布は、繊維間を熱処理あるいは機械的または化学的処理によって接着させて構成されるもの、繊維が互いに絡み合うことによって構成されるもの、および任意の処理と繊維の交絡とから構成されるものを含む。
上記繊維集合体は、CNFを主成分として構成されるが、具体的には、繊維集合体を100質量%としたとき、これに含まれるCNFが90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。本発明における繊維集合体は、実質的にCNFから構成することができるが、当該繊維集合体に、CNF以外の繊維あるいは部材が補助的に含まれることを排除するものではない。
【0022】
上記繊維集合体は後述する導電性金属材料を担持して、本発明の絶縁材料を構成する。ここで担持とは、導電性金属材料が脱落し難い状態で上記繊維集合体に包含されることを意味する。例えば、上記担持には、導電性金属材料が、繊維集合体を構成するCNFの繊維間に保持される状態、CNFに絡まっている状態、CNFに融着あるいは付着する状態、あるいはこれらの組み合わせを含む。
【0023】
本発明における導電性金属材料とは、導電性を示す金属材料全般を包含する。換言すると、上記導電性金属材料は、一般的に非導電性材料として認識される材料を排除する。好ましくは、上記導電性金属材料は、電子部品において導電材料として使用可能な金属である。より具体的には、上記導電性金属材料としては、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、コバルト、ニッケル、あるいはこれらの合金などであって体積抵抗率が、2μΩcm以上100μΩcm以下の金属が好ましい。ただし、これより体積抵抗率が高い金属材料を排除するものではない。少なくとも、上記繊維集合体よりも体積抵抗率が低い金属材料が選択される。
【0024】
上記導電性金属材料の形状は特に限定されず、粉末状、フレーク状、繊維状などの任意の形状であってよい。
【0025】
中でも、本発明の絶縁材料において、上記導電性金属材料が繊維状材料であることは、一つの好ましい態様である。
繊維状の導電性金属材料は、繊維集合体に担持される際に、CNFと交絡しやすく、繊維集合体からの脱落が良好に防止される。
また本発明者は、種々の検討により、非繊維状の導電性金属材料に比べて、繊維状の導電性金属材料を用いた場合の方が、繊維集合体に担持される量が少量で顕著な高誘電率化が図られるという知見を得た。かかる知見に対するメカニズムは明らかではないが、以下の通り推察される。即ち、繊維状の導電性金属材料は、繊維集合体の内部において、局所的に重なり合い疑電極を複数構成し、これらがCNFを介して対向することによって、ミクロなキャパシタ様の構成をなしているのではないかと推察された。本発明の絶縁材料は、上記キャパシタ様の構成が繊維集合体の内部に存在することによって、顕著な高誘電率化が図られていることが推察された。
また、繊維集合体に担持される繊維状の導電性金属材料の量が増大すると、繊維集合体内部において連続する導電パスを形成し、絶縁材料と認識できない程度に、電気抵抗値が増大すると推察される。
【0026】
上記繊維状の導電性金属材料としては、上述において導電性金属材料として好ましく用いられることが可能ないずれの金属材料であってもよい。例えば、銀または銀と他の金属とからなる金属材料、あるいは銅または銅と他の金属とからなる金属材料を挙げることができるが、これに限定されない。上記銀あるいは銅と組み合わせられる他の金属材料の好ましい例としては、たとえば、銀よりも貴な金属材料、あるいは銅よりも貴な金属材料を挙げることができる。
【0027】
本発明において繊維状の導電性金属材料とは、平均繊維径よりも平均繊維長が大きい導電性金属材料をいう。特には、繊維状の導電性金属材料のアスペクト比は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。繊維状の導電性金属材料のアスペクト比が大きいほど、CNFと良好に交絡し脱落を防止することができる。また同様にアスペクト比が大きいほど、絶縁材料における繊維状の導電性金属材料の含有量が少量でも誘電率が良好に向上する傾向にある。かかる観点からは、繊維状の導電性金属材料のアスペクト比の上限は特に限定されないが、たとえばアスペクト比を200以下、あるいは100以下とすることができる。
繊維状の導電性金属材料の平均繊維径および平均繊維長は特に限定されない。たとえば、平均繊維径は、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。繊維状の導電性金属材料は、平均繊維径が小さいほどCNFと良好に交絡する傾向にある。この観点からは、繊維状の導電性金属材料の平均繊維径の下限は特に限定されないが、たとえば、5nm以上、あるいは10nm以上とすることができる。
また例えば、平均繊維長は、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。繊維状の導電性金属材料は、平均繊維長が大きいほどCNFと良好に交絡する傾向にある。この観点からは、繊維状の導電性金属材料の平均繊維長の上限は特に限定されないが、たとえば、80μm以下、あるいは40μm以上とすることができる。
繊維状の導電性金属材料の平均繊維径および平均繊維長は、CNFの平均繊維径および平均繊維長と同様に求めることができる。
【0028】
本発明の絶縁材料は、CNFを主体として構成されるため、表面平滑性に優れる。ここで、導電性金属材料として繊維状の金属材料を用いることによれば、さらに本発明の絶縁材料の表面平滑性を良好とすることができ、絶縁材料の表面に直接に導電部を積層形成する際に有利である。特に、導電部を絶縁材料の上に直接または間接に印刷形成する場合には、絶縁材料の表面平滑性により優れた印刷特性が示される。
【0029】
またCNFと繊維状の導電性金属材料とを交絡させて繊維集合体を構成させるという観点からは、CNFの平均繊維長:繊維状の導電性金属材料の平均繊維長=1:0.1から1:10であることが好ましい。
【0030】
以上に説明するとおり、本発明の絶縁材料は、CNFを主成分とする繊維集合体に導電性金属材料が担持されることによって、高誘電率化が図られる。即ち、本発明の絶縁材料は、導電性金属材料を含有しながらも、絶縁材料として適当な電気抵抗率が示されるとともに、高誘電率化が図られる。
特に、本発明の絶縁材料において示される誘電率(ε)と電気抵抗率(Ω・cm)との積が、1×10
11以上であることが好ましい。かかる数値範囲にある本発明は、誘電率が顕著に向上するとともに、導電性金属材料を用いながらも、絶縁材料として望ましい電気抵抗率が示されるという優れた電気的性質を備える。
【0031】
一方、本発明の絶縁材料において、上記積の数値範囲の上限は特に限定されるものではないが、一般的な電子部品に本発明の絶縁材料を用いる場合には、たとえば、1×10
12以下であればよい。
【0032】
また本発明の絶縁材料における優れた電気的性質として、誘電率が顕著に増大するにもかかわらず、誘電正接の増大は抑制される傾向にあるという点が挙げられる。
即ち、本発明の絶縁材料は、誘電正接(tanδ)と誘電率(ε)とが下記(式1)に示される式の関係を満たすことが可能である。
(数1)
誘電正接(tanδ)/誘電率(ε)×100≦2.0・・・(式1)
上記(式1)において示される数値の下限は特に限定されないが、伝送損失がゼロ(誘電正接(tanδ)がゼロ)であることが理想的には望ましく、ゼロを超えて、2.0以下である。
【0033】
上記(式1)に示される式の範囲にある本発明の絶縁材料は、高誘電率化が図られるとともに、誘電正接の増大が抑制されていることから、例えば、アンテナ部材に用いられる高誘電シートとして本発明の絶縁材料を好適に用いることができる。上記アンテナ部材は、面内に作りこまれるタイプのアンテナをさし、たとえばパッチアンテナを例示することができる。
換言すると、高誘電体シート上において所定の周波数に対応するアンテナ導体を積層してなるアンテナ部材であって、上記高誘電体シートとして本発明の絶縁材料を用いるアンテナ部材は、以下の有利な点が発揮される。上記アンテナ導体は、モノポールアンテナ、自己相似形のダイポールアンテナを含む。
即ち、上記高誘電体シートはCNFを主成分として構成されているため、アンテナ部材の軽量化、およびフレキシブル化が図られる。しかも従来の紙素材や、実質的にCNFのみからなるシートに比べて高誘電率化が図られているため、アンテナ導体を短縮化することが可能であり、小型化、軽量化が促進される。また、上記高誘電体シートは、高誘電率化の程度に比べて誘電正接の増大が抑制される傾向にある。そのため、アンテナの伝送損失が良好に抑制される。加えて、上記高誘電体シートはCNFを主成分として構成されているため生分解性が示される。したがって上記高誘電体シートを用いる上記アンテナは、屋外の複数の地点に設置し未回収のまま放置する屋外放置用アンテナとしても利用可能である。
【0034】
上述する本発明の絶縁材料の望ましい態様の一つとして、以下の態様が挙げられる。
即ち、本発明の絶縁材料は、上記導電性金属材料が、銀系繊維状材料であり、上記セルロースナノファイバ100質量部に対して上記銀系繊維状材料を20質量部以下の範囲で含むよう、構成することができる。
上記銀系繊維材料とは、実質的に銀からなる繊維状材料、および銀と銀以外の金属とからなる繊維状材料、および銀と銀以外の任意の添加部材を含有する繊維状材料を含む。
上記セルロースナノファイバとこれに担持される繊維状の導電性金属材料の割合について別の観点から認識することにより、本発明の特性が示される。即ち、本発明の絶縁材料において、100gのCNFに担持される繊維状の導電性金属材料の繊維の延べ長さは、1×10
7m以上5×10
8m以下であることが好ましい。これにより、CNFに担持された繊維状の導電性金属材料が誘電率を増大させるに適当な互いの接続を可能とするとともに、実質的に絶縁性といえない程度に導電パスを形成することを防止することが可能である。
尚、上記繊維状の導電性金属材料の延べ長さは、たとえば、以下のとおり求めることができる。まず絶縁材料におけるCNFおよび繊維状の導電性金属材料の含有量を成分分析により求める。また繊維状の導電性金属材料の平均繊維径および平均繊維長を測定する。そして、上記繊維状の導電性金属材料の比重により、上記絶縁材料中に含まれる繊維状の導電性金属材料の総本数を求める。そして上記総本数に上記平均繊維長を乗じることにより上記延べ長さを求め、これをCNF100gあたりに換算する。
あるいは、CNFに繊維状の導電性金属材料を担持させた材料を、絶縁材料として用いるという観点からは、たとえば、当該材料中における繊維状の導電性金属材料の体積分率を3vol%以下とすることが好ましい。
【0035】
本発明における上記態様は、高誘電率化、および誘電正接の増大の抑制が顕著である。特に、CNFの平均繊維径が100nm以下であって、銀系繊維状材料の平均繊維径が50nm以上100nm以下、且つ銀系繊維状材料の平均繊維長が5μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。上記範囲内であることにより、本発明の絶縁材料は、誘電率の向上の傾向が顕著である。
【0036】
上記態様において、銀系繊維状材料の担持量を増加させるにしたがい、誘電率も増大する傾向にある。また銀系繊維状材料の担持量を減少させるにしたがい、誘電率も低下する傾向にある。これらの傾向は、銀系繊維状材料にかかわらず、他の導電性金属材料でも確認することができる。
以上のことから、CNFに担持させる導電性金属材料の量を調整することにより、本発明の絶縁材料の誘電率を所望の値に調整することが可能である。
【0037】
[絶縁シート製造方法]
次に、本発明の絶縁シート製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)について説明する。尚、本発明の製造方法は、上述する本発明の絶縁材料であってシート状の絶縁材料を製造するための製造方法として好適である。ただし、本発明のシート状である絶縁材料は、本発明の製造方法以外の製造方法で製造されてもよい。
【0038】
上述のとおり、本発明の製造方法は、セルロースナノファイバを主成分としてなる絶縁シートの製造方法である。
本発明の製造方法は、セルロースナノファイバを主成分とする繊維材料および導電性金属材料を含有する懸濁液をろ過し、上記繊維材料および上記導電性金属材料を含有するろ過シートを形成するろ過工程を備える。本発明の製造方法は、上記ろ過工程の後、上記ろ過シートを乾燥する乾燥工程を備える。
【0039】
本発明の製造方法であれば、簡易な方法で、高誘電化の図られた絶縁シートを製造することが可能である。
【0040】
以下に、本発明の製造方法について、任意の工程も含め詳細に説明する。尚、本発明の製造方法に用いられるCNFおよび導電性金属材料は、上述にて説明する本発明の絶縁材料に用いられる部材と同様であるため、ここでは詳細な説明を割愛する。CNFは、予め調整されたCNFを入手の上、本発明に用いることもできるし、あるいは公知の方法でCNFを調整する工程を上記ろ過工程前に実施することもできる。
例えばCNFの調整は、パルプ(例えば紙の原料であるパルプ)に機械処理または化学処理を施すことによって実施することができる。上記機械処理としては、攪拌処理により物理的にパルプを粉砕する方法が知られる。乾式機械粉砕では、長時間、粉砕を行うと繊維が凝集する場合があるので粉砕助剤を添加することが望ましい。また湿式機械粉砕としては、たとえばウォータージェットシステムなどの技術が知られる。また上記化学処理としては、例えば、硫酸を用いてパルプ繊維を処理し、非結晶部分を加水分解して除く方法が知られる。
あるいは、ある種の酢酸菌などの微生物から産生されるCNFを本発明の絶縁材料に用いることもできる。また微生物由来のCNFとパルプ由来のCNFを混合してもよい。
【0041】
任意の方法に準備したCNFを用い、上記ろ過工程を実施する。ろ過工程において、まずCNF、導電性金属材料を含有する懸濁液を準備する。上記懸濁液を調整するための溶媒としては、水、エタノールなどを挙げることができる。
上記懸濁液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜、添加剤などを含有させることが可能である。たとえば、懸濁液中における導電性金属材料の分散性を向上させるために、分散剤を添加してもよい。
【0042】
上記懸濁液のろ過の手段は特に限定されないが、CNFおよび導電性金属材料と、上記溶液とを分離可能なろ過膜が用いられる。ろ過面は平坦面であることが好ましく、ろ過面上に分離されたCNFおよび導電性金属材料が平面状で残渣として得られる。
ろ過膜は、適当な孔径の多孔質膜、あるいは目付の小さいフィルタなどを適宜選択して用いることができる。
ろ過における圧力は特に限定されず、上記ろ過は、自然ろ過、減圧ろ過などを適宜選択して実施し、ろ過膜上にろ過シートを形成することができる。適切な吸引速度および吸引圧力を実現し、後工程においてろ過膜と上記残渣(ろ過シート)を、当該残渣(ろ過シート)を損傷することなく良好に剥離できるという観点からは、上記ろ過は、特に減圧ろ過であることが好ましい。上記減圧ろ過には真空ろ過が含まれる。適度に加圧されながら上記懸濁液をろ過することにより、ろ過膜上に形成されるろ過シートの密度が大きくなり適度に目の詰まったシートが形成されるため、ろ過シートとろ過膜との分離が行いやすくなる。
【0043】
上記ろ過工程の後、上記ろ過膜から上記ろ過シートを剥離し、ろ過シートを乾燥する乾燥工程を実施し、絶縁シートを製造する。乾燥工程は、特に限定されず、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、乾燥剤などの化学的乾燥剤の使用、あるいはこの組み合わせにより実施することができる。
【0044】
例えば、乾燥工程と同時に、上記ろ過シートをプレスするプレス工程を実施してもよい。これにより、乾燥時のろ過シートの縮み、撓みを防止し、平滑な絶縁シートを製造することができる。
尚、乾燥工程と同時にプレス工程を実施するとは、乾燥工程の実施の時間と、プレス工程の実施の時間と、が完全に重複する場合、および一部時間が重複する場合を含む。
【0045】
上記プレス工程を乾燥工程と同時に実施する際の好ましい態様の例は以下のとおりである。
まず、上記ろ過膜から上記ろ過シートを剥離する際、ろ過膜上に形成されたろ過シートの露出面側にガラスなどの不透水性基板を載置し、当該不透水性基板により上記ろ過シートを支持した状態で、上記ろ過膜を剥離する。
次いで、上記不透水性基板上に移されたろ過シートの露出面側に透水性基板を載置する。上記透水性基板は、例えば金属メッシュフィルタなどである。続いて、金属メッシュフィルタの露出面側に吸水性シートを積層する。上記吸収性シートは、例えば紙タオルなどである。これにより、一方側から、不透水性基板、ろ過シート、透水性基板、吸収性シートの順に積層されてなる積層体が構成される。
上記積層体を、プレス機に挟み、両面側から、あるいは一方面側から加圧してプレスすることにより、ろ過シートに含有される水分が吸収性シート側に浸透し、ろ過シートの脱水が図られる。プレス時の温度を乾燥工程として適切な温度に調整することにより、乾燥工程とプレス工程とを同時に実施することができる。
プレス工程におけるプレス圧力は、0.01MPa以上10MPa以下であることが好ましく、0.2MPa以上3MPa以下であることがより好ましい。また、乾燥工程における乾燥温度は、100℃以上200℃以下であることが好ましい。
例えば、上記積層体をプレス機に挟み、加熱温度110℃、プレス圧1.0MPaの条件で、5分間から20分間程度、プレスし、その後に、上記不透水基板、透水性基板、吸収性シートを除去し、絶縁シートを得ることができる。
【0046】
[受動素子]
次に、本発明の受動素子について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の受動素子の一実施形態であるキャパシタ100の断面図である。
【0047】
本発明の受動素子(キャパシタ100)は、上述にて説明する本発明の絶縁材料からなる高誘電体層10と、高誘電体層10に積層された導電部20と、を有する。
本発明において受動素子とは、自己にエネルギー供給源を有さず、供給された電力などのエネルギーを蓄積、消費、放出のいずれかまたは組み合わせで行うことが可能な素子のことをいう。また高誘電体層10における高誘電とは、実質的にセルロースナノファイバのみで形成されたシートよりも高い誘電率を示すことを意味する。具体的には、6以上の誘電率(ε)を示す本発明の絶縁材料が高誘電体層10として好適であり、10以上の誘電率(ε)を示す本発明の絶縁材料が高誘電体層10としてより好適である。
【0048】
本発明の受動素子は、高誘電体層10の特性を享受する。即ち、高誘電体層10は、CNFを主成分とする繊維集合体を主体としているため、軽量化およびフレキシブル化が図られる。しかし、上記繊維集合体には、導電性金属材料が担持されているため、一般的な紙基板あるいは、実質的にCNFのみからなる繊維集合体と比して高誘電率化が図られている。したがって本発明は、所謂、ペーパーエレクトロニクスいわれる技術分野において、優れた性能の受動素子を提供することができる。
特に、高誘電体層10は高誘電率化が図られる一方で、誘電正接の増大が抑制されているため、本発明の受動素子は、キャパシタ、インダクタント、あるいはアンテナ部材として優れる。上記アンテナ部材としては、たとえばパッシブアンテナ部材が挙げられる。
【0049】
以下に、本発明の受動素子であるキャパシタ100について説明する。
キャパシタ100は、導電部20が、高誘電体層10の一方の面に設けられた第一電極(21A、22A、23A、24A)と、他方の面に設けられた第二電極(21B、22B、23B、24B)を有している。
第一電極21Aおよび第二電極21B、第一電極22Aおよび第二電極22B、第一電極23Aおよび第二電極23B、ならびに第一電極24Aおよび第二電極24Bは、それぞれ対向して電極対を構成している。
【0050】
導電部20を高誘電体層10に設ける方法は特に限定されないが、例えば、導電性ペーストを用いてスクリーン印刷などの印刷手法により、高誘電体層10の上に印刷形成物である導電部20を形成することができる。その他の印刷手法としては、例えば、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などを挙げることができる。
上記導電性ペーストとしては、例えば、銀ペーストあるいは銅ペーストが挙げられるがこれに限定されない。
上記導電性ペーストは、熱乾燥型、熱硬化型、紫外線硬化型などの導電性ペーストとして知られる種々のタイプから選択して使用することができる。高誘電体層10を用いる場合のキャパシタ100の製造プロセス上の温度は、100℃以上300℃以下であることが好ましく、この観点からは選択される導電性ペーストも熱処理温度が250℃以下であるタイプが好ましい。
高誘電体層10の上に、直接に導電部20を積層形成することにより、高誘電体層10と導電部20との間に空気層を介在させることがない。そのため、キャパシタ100において、高い静電容量値を確保することが可能である。もちろんキャパシタ100は、高誘電体層10の優れた誘電特性が発揮される。
【0051】
換言すると、高誘電体層10はCNFを主成分として構成されているため表面平滑性に優れ、導電部20を直接に積層形成するに適している。そのため、高誘電体層10の使用により優れたキャパシタ100を提供することが可能である。
【0052】
導電部20のその他の形成方法としては、スパッタ手法や蒸着手法を挙げることができる。これらの手法によって金属薄膜である導電部20を高誘電体層10の上に直接に形成することによっても、上述と同様にキャパシタ100における高い静電容量が確保可能である。
【0053】
即ち、キャパシタ100は、高誘電体層10の面内において、複数の電極対が設けられている。
キャパシタ100において複数の電極対が設けられることによって、キャパシタ100の高集積化が実現される。たとえば、任意の電子部品において個別のチップを複数、実装する替りに、複数の電極対を備えるキャパシタ100を内蔵することができる。これによって、当該電子部品の小型化、軽量化を図ることが可能である。
【0054】
キャパシタ100の静電容量Cは、以下の(式2)により求めることができる。
(数2)
C=ε
γ×ε
0×S/d・・・(式2)
C:キャパシタ100の静電容量
ε
γ:高誘電体層10の比誘電率
ε
0:真空の比誘電率(8.85×10
−12)
S:電極対の対向面積
d:電極対間距離
【0055】
したがって、キャパシタ100に求められる所望の静電容量C、高誘電体層10の厚み、電極対の対向面積のバランスを鑑み、キャパシタ100を設計することが望ましい。特に、高誘電体層10の厚みは、上記所望の静電容量Cに基づき調整することが望ましい。
【0056】
また特にキャパシタ100に示されるように高誘電体層10に複数の電極対を設ける場合には、各電極対において、それぞれキャパシタを構成することが可能である。複数の電極対を互いに離間して形成することによって、一の高誘電体層10において、複数のキャパシタを設けることにより高集積化が図られる。
尚、キャパシタ100に例示されるように、一の高誘電体層10に複数の電極対を設ける場合であっても、高誘電体層10の厚み寸法および比誘電率ε
γは、高誘電体層10の面内において均一であることが一般的である。したがって、かかる場合には、電極対の対向面積Sを調整することにより、各電極対(一の高誘電体層10に設けられる各キャパシタ)において求められる静電容量Cを実現することが望ましい。
【0057】
[回路基板]
次に、本発明の回路基板の一例であるキャパシタ内蔵回路基板について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の回路基板の一実施形態であるキャパシタ内蔵回路基板200の断面図である。
キャパシタ内蔵回路基板200は、キャパシタ100の一方の面に配線基板30が積層され、他方の面に配線基板40が積層されてなる構成を有している。尚、キャパシタ内蔵回路基板200にさらに、一以上の配線基板を積層し、多層の回路基板とすることもできる。
【0058】
図2に示すように、本発明の一実施形態である回路基板(キャパシタ内蔵回路基板200)は、本発明の受動素子(キャパシタ100)、および上記受動素子(キャパシタ100)を介して対向する配線基板(配線基板30および配線基板40)を備える。
受動素子(キャパシタ100)は、上述する本発明の絶縁材料からなる高誘電体層10と、高誘電体層10に積層された導電部である第一電極(21A、22A、23A、24A)および第二電極(21B、22B、23B、24B)を有する。
【0059】
即ち、受動樹脂であるキャパシタ内蔵回路基板200は、高誘電体層10と、高誘電体層10に積層された第一電極(21A、22A、23A、24A)と、他方の面に設けられた第二電極(21B、22B、23B、24B)を有している。第一電極(21A、22A、23A、24A)は高誘電体層10の一方の面に設けられている。また第二電極(21B、22B、23B、24B)は、高誘電体層10の他方の面に設けられている。
第一電極(21A、22A、23A、24A)と上記第二電極(21B、22B、23B、24B)とは、高誘電体層10を介して対向して電極対をなし、キャパシタを構成している。上記キャパシタを介して対向する配線基板30および配線基板40と、を備えてキャパシタ内蔵回路基板200が構成されている。
また、配線基板30の露出面側には、複数の表面実装部品111が搭載されている。
【0060】
本発明の回路基板(キャパシタ内蔵回路基板200)は、面内に導電部(第一電極、第二電極)が作りこまれた受動素子(キャパシタ100)を内蔵している。このため、従来のチップ部品が内蔵された多層回路基板(以下、「従来の多層回路基板」ともいう)に対し、軽量化、および薄膜化が図られている。
また、従来の多層回路基板では、内蔵されるチップ部品と高誘電層との間に空気が介在する場合があり、電気信頼性に欠ける場合があるという問題があった。これに対し本発明の回路基板(キャパシタ内蔵回路基板200)は、導電体(第一電極、第二電極)が高誘電体層10に直接または間接に積層されており、導電体(第一電極、第二電極)と高誘電体層10との間に空気が介在し難い構造となっている。
【0061】
キャパシタ内蔵回路基板200において、高誘電体層10、第一電極(21A、22A、23A、24A)、第二電極(21B、22B、23B、24B)は、上述するキャパシタ100において示されるものと同様であるため、詳細な説明を割愛する。
【0062】
配線基板30は、基材31の一方の面に配線層60を有して構成されている。配線層60は、複数の配線部(配線部61、配線部62、配線部63、配線部64)を有している。
配線基板40は、基材41の一方の面に配線層70を有して構成されている。配線層70は、複数の配線部(配線部71、配線部72、配線部73、配線部74)を有している。
【0063】
基材31および基材41は、配線基板の基材として使用可能な種々の絶縁性の基材から任意に選択して使用することができる。たとえば、基材31および基材41は、ガラスエポキシ、テフロンガラス、アルミナなどで構成することができる。
またキャパシタ100においてフレキシブルな高誘電体層10を用いていることから、基材31および基材41においても、フレキシブル性の高い材質の基材を選択することにより、キャパシタ内蔵回路基板200をフレキシブル基板とすることができ望ましい。フレキシブル性の高い材質としては、たとえば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などのポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や液晶ポリマーなどの熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらの材質でなる樹脂フィルムを基材31および基材41に用いることができる。
また、基材31および基材41として、本発明の絶縁材料よりなる絶縁シートを用いることもできる。これにより、キャパシタ内蔵回路基板200の生分解性が向上し、また軽量化が促進する。
かかる場合にはキャパシタ100の基材として用いられる高誘電体層10の誘電率よりも、基材31および基材41として用いる絶縁シートの誘電率を小さく調整するとよい。尚、高誘電体層10と、基材31および基材41として用いる絶縁シートと、における誘電率は、上述のとおりCNFに担持される導電性金属材料の量を調整することにより調整可能である。
【0064】
キャパシタ内蔵回路基板200における複数の配線部(配線部61〜配線部64、配線部71〜配線部74)は、キャパシタ100における導電部20(第一電極および第二電極)と同様の部材、および同様の手法により、基材31および基材41の上に形成することができる。また基材31および基材41としてガラス系基材や有機フィルムを用いる場合には、フォトリソグラフィ手法によって上記複数の配線部をパターン形成することもできる。
【0065】
キャパシタ100と、配線基板30および配線基板40とは、互いに位置合わせされ積層されている。配線基板30および配線基板40に設けられた配線層60および配線層70は、所定の領域において高誘電体層10における導電部20と対応するよう複数の配線部が配置されている。
具体的には、
図2に示すキャパシタ内蔵回路基板200では、高誘電体層10の一方の面において、第一電極21Aに対し、配線部61の一部が電気的に接続されている。同様に、第一電極22Aに対し配線部62が、第一電極23Aに対し配線部63が、第一電極24Aに対し配線部64が、それぞれ電気的に接続されている。また、高誘電体層10の他方の面において、第二電極21Bに対し、配線部71の一部が電気的に接続されている。同様に、第二電極22Bに対し配線部72が、第二電極23Bに対し配線部73が、第二電極24Bに対し配線部74が、それぞれ電気的に接続されている。
ここで電気的に接続とは、各導電部20と各配線部61〜64、71〜74とが導通可能に接続されることを意味する。例えば、導電性接着剤、導電性接着シート、導電性粘着シート、異方性導電フィルム、異方性導電ペーストなどの導電性の接続部材からなる接着層を介して各導電部20と、各配線部とを電気的に接続することができる。
図2では、各導電部20と各配線部とは導電性接着層80を介して対向し電気的に接続されている。
【0066】
尚、高誘電体層10と基材31、あるいは高誘電体層10と基材41とが、配線層60、配線層70あるいは導電部20を介さずに面する領域には、適宜、中間層90を設けてもよい。中間層90を形成することによって、回路内に空気が介在することを防止することができる。中間層90は、予め、配線基板30および配線基板40あるいはキャパシタ100の所定の位置に形成してよい。あるいは、中間層90は、キャパシタ100に対し、配線基板30および配線基板40を積層する際に、配線基板30および配線基板40あるいはキャパシタ100の所定の位置に形成してもよい。
【0067】
以上にキャパシタ100、配線基板30、配線基板40を別体として準備し、これらを位置合わせして積層する手法で構成されたキャパシタ内蔵回路基板200について説明した。
ただし、キャパシタ内蔵回路基板200を構成する手法はこれに限定されるものではない。たとえば図示省略するが、配線基板30において、さらに各配線部に対応する第一電極(21A、22A、23A、24A)を配線層60に積層形成し、電極付き配線基板30を形成することができる。同様に、配線基板40において、さらに各配線部に対応する第二電極(21B、22B、23B、24B)を配線層70に積層形成し、電極付き配線基板40を形成することができる。そして、高誘電体層10を介して、電極付き配線基板30と電極付き配線基板40とを対向させ、各第一電極および各第二電極が対向するよう位置合わせする。各第一電極と高誘電体層10との間、および各第二電極と高誘電体層10との間に空気が入り込まないよう留意し、接着剤を用いてこれらを接着することにより、キャパシタ内蔵回路基板200を構成することができる。尚、各第一電極と高誘電体層10との間、および各第二電極と高誘電体層10との間に用いられる上記接着剤は特に限定されないが、高誘電性の部材からなる絶縁性接着剤、あるいは高誘電性の部材が含有された絶縁性接着剤であることが好ましい。キャパシタ内における接着層においても高誘電化を図ることにより、高誘電体層10を介して対向する各第一電極および各第二電極により構成されるキャパシタの特性をさらに向上させる趣旨である。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
本発明の絶縁材料である絶縁シートを以下のとおり作製し、実施例1とした。
平均繊維径約20μmのパルプ材料(広葉樹サルファイトパルプ)を用い、水に懸濁させてセルロース懸濁液(0.5wt%)を調整した。
上記セルロース懸濁液を湿式機械処理により微細化し、平均繊維径20nm、平均繊維長5μmのセルロースナノファイバが懸濁されたセルロースナノファイバ懸濁液(0.35wt%)を得た。上記湿式機械処理には、スギノマシン社製のウォータージェット粉砕装置(スターバーストHJP−25005E)を用いた。粉砕条件は、245 MPa、50パスとした。
【0069】
上記セルロースナノファイバ懸濁液に平均繊維径70nm、平均繊維長10μmの銀ナノワイヤを添加し、セルロースナノファイバ100質量部に対し銀ナノワイヤ0.5質量部となるよう調整しろ過用懸濁液を調整した。尚、上記銀ナノワイヤは、比重が10.5g/cm
3であるものを用いた。
吸引ろ過器にアスピレーターをセットし、上記ろ過用懸濁液の減圧ろ過を行い、フィルター上にセルロースナノファイバおよび銀ナノワイヤからなるろ過シートを作成した。尚、フィルターには、セルロースエステルメンブレン(アドバンテック、mixed cellulose ester membrane、A010A090C)を用いた。
上述のとおり得られたろ過シートの露出面に、ガラス板を載置した。次いでフィルターの露出面に、吸収紙としてペーパータオル(日本製紙クレシア社製、キムタオル/61000)を二枚重ね、ペーパータオル、フィルター、ろ過シート、ガラス板からなる積層体を形成した。
【0070】
上記積層体を、プレス機(神藤金属工業所社製、圧縮成形機/AYSR−5)に挟み、110℃、1.0MPaの条件で20分間プレスした。これにより、プレス工程と乾燥工程とを同時に実施した。その後、積層体をプレス機から取り出し、室温になるまで自然冷却し、ペーパータオル、フィルター、およびガラス板を取り除き、絶縁シートを得て、これを実施例1とした
【0071】
(実施例2から6)
セルロースナノファイバに対する銀ナノワイヤの混合比率を表1に示す内容に変更したこと以外は実施例1の同様に絶縁シートを作成し、これを実施例2から6とした。
【0072】
(実施例7から9)
用いる導電性金属材料をフレーク状の銀材料(福田金属箔粉工業社製、シルコートAgC−224)に変更したこと、およびセルロースナノファイバに対する上記銀材料の混合比率を表2に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様に絶縁シートを作成した。得られた絶縁シートを実施例7から9とした。
【0073】
(比較例1)
市販の紙材料(アドバンテック社製、5A 01511110)を用い、これを75φに裁断して試験片を作成し、これを比較例1とした。
【0074】
(比較例2)
導電性材料を用いないこと以外は実施例1と同様の方法で試験片を作成し、これを比較例2とした。
【0075】
(参考例1および2)
導電性金属材料を用いずに平均粒径100nmのチタン酸バリウム(和光純薬工業株式会社製No.322−43432)を用いたこと、およびセルロースナノファイバに対する混合比率を表2に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で試験片を作成した。得られた試験片を参考例1および参考例2とした。
【0076】
(参考例3)
セルロースナノファイバに対する銀ナノワイヤの混合比率を表2に示す内容に変更したこと以外は実施例1の同様の方法で試験片を作成し、これを参考例3とした。
【0077】
上述のとおり得られた実施例1から
9、比較例1、2および、参考例1から3について、以下の評価を行った。評価結果は、表1または表2に示す。
[膜厚測定]
膜厚測定器(ミツトヨ社製、マイクロメータ/293−230)を用い、実施例1の任意の10点における厚みを測定し、その平均を求め、平均膜厚を算出した。
[誘電率(ε)測定][誘電正接(tanσ)測定]
IPC規格TM−650(2,5,5,3)に準拠して、実施例1の誘電率(ε)および誘電率(ε)を測定した。測定条件は、1.1GHz、25℃、50RH%とした。尚、測定には、ネットワークアナライザ(Agilent Technology社製、E5071C)と共振器(QWED社製、SPDR−1.1 GHz)を用いた。
【0078】
実施例1から6および参考例1から3について以下に示す方法で電気抵抗率を測定した。結果は表1または表2に示す。
[電気抵抗率ρ(Ω・cm)測定]
(1)実施例1から実施例6について、電気抵抗率測定器として、Agilent Technology社製4339Bを用い測定電圧;100V,測定時間60secの測定条件で、電気抵抗率ρを測定した。
(2)参考例1から3について、電気抵抗率測定器として、三菱化学アナリテック社製ロレスタAXを用い、四端子法によって電気抵抗率ρを測定した。尚、参考例1から3は、絶縁材料の範囲を超える導電性を示す試験片であるため、適切に電気抵抗を測定するために電気抵抗率側的の機種を変更した。
【0079】
また各実施例、各比較例、各参考例について、誘電率(ε)と電気抵抗率(Ω・cm)との積(A)、および下記式(2)で算出される(B)を求め、表1または表2に示した。
【0080】
表1および表2に示すとおり、実施例1から
実施例9は、いずれも比較例1および比較例2と比し、誘電率が向上していることが確認された。
特に比較例2と実施例1から9との比較によって、セルロースナノファイバに導電性金属材料を担持させたことによる高誘電率化が確認された。
中でも、繊維状の導電性金属材料を用いた実施例1から6は、セルロースナノファイバに対する導電性金属材料の混合比率が低いにも関わらず、顕著な誘電率の増大が確認された。
【0081】
尚、導電性金属材料の替わりに一般的に高誘電率材料として知られるチタン酸バリウムを用いた参考例1および参考例2は、比較例2に対し誘電率の増加が示された。
ここで実施例1から
9と、参考例1および2を対比したとき、実施例1から6は、導電性金属材料を用いているにも関わらず、参考例1および2と同等以上に誘電率が増大することが示された。たとえば、銀ナノワイヤを3wt%混合した実施例4とチタン酸バリウム3wt%混合した参考例1とを比較すると、実施例1の誘電比率の増大が顕著であることが確認された。また、フレーク状の銀材料を50wt%混合した実施例8とチタン酸バリウム50wt%混合した参考例2とを比較すると、実施例8は参考例2と同レベルに誘電率が増大していることが確認された。
【0082】
参考例3は、銀ナノワイヤの混合比率を挙げたときの例であり、誘電率の測定が不可となった実験例である。参考例3は、誘電率の測定が不可であり、もはや絶縁材料と認められなかった。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)セルロースナノファイバを主成分とする繊維集合体と、前記繊維集合体に担持された導電性金属材料と、を備えることを特徴とする絶縁材料。
(2)前記導電性金属材料が繊維状材料であることを特徴とする前記(1)に記載の絶縁材料。
(3)誘電率(ε)と電気抵抗率(Ω・cm)との積が1×10
11以上である前記(1)または2に記載の絶縁材料。
(4)誘電正接(tanδ)と誘電率(ε)とが下記式の関係を満たす前記(1)から(3)のいずれか一項に記載の絶縁材料。
(数1)
誘電正接(tanδ)/誘電率(ε)×100≦2.0・・・(式1)
(5)前記導電性金属材料が、銀系繊維状材料であり、前記セルロースナノファイバ100質量部に対して前記銀系繊維状材料が、20質量部以下である前記(1)から(4)のいずれか一項に記載の絶縁材料。
(6)セルロースナノファイバを主成分としてなる絶縁シートの製造方法であって、セルロースナノファイバを主成分とする繊維材料および導電性金属材料を含有する懸濁液をろ過し、前記繊維材料および前記導電性金属材料を含有するろ過シートを形成するろ過工程と、前記ろ過シートを乾燥する乾燥工程と、を備えることを特徴とする絶縁シート製造方法。
(7)前記乾燥工程と同時に、前記ろ過シートをプレスするプレス工程を実施する前記(6)に記載の絶縁シート製造方法。
(8)前記(1)から(5)のいずれか一項に記載される絶縁材料からなる高誘電体層と、前記高誘電体層に積層された導電部と、を有することを特徴とする受動素子。
(9)前記受動素子がキャパシタであって、前記導電部が、前記高誘電体層の一方の面に設けられた第一電極と、他方の面に設けられた第二電極を有し、前記第一電極および前記第二電極が対向して電極対を構成してなるキャパシタである、前記(8)に記載の受動素子。
(10)前記高誘電体層の面内において、複数の前記電極対が設けられている前記(9)に記載の受動素子。
(11)前記(1)から(5)のいずれか一項に記載される絶縁材料からなる高誘電体層と、前記高誘電体層に積層された導電部と、を有する受動素子、および、前記受動素子を介して対向する配線基板と、を備えることを特徴とする回路基板。
(12)前記受動素子がキャパシタであって、前記導電部が、前記高誘電体層の一方の面に設けられた第一電極と、他方の面に設けられた第二電極を有し、前記第一電極および前記第二電極が対向して電極対を構成してなるキャパシタである、前記(11)に記載の回路基板。