(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構造物に配置したFBGセンサからの反射光を、光サーキュレータ及び光カプラを介して光ファイバアンプに戻し、光の周回による光ファイバリングレーザを発振させ、光ファイバリングレーザの一部を前記光カプラから分岐し、前記光ファイバリングレーザをひずみ計測用光学フィルタを介して光電変換器に入射し、前記光電変換器の出力電圧を直流成分のままで電圧計測を行い、前記構造物への衝撃力の印加履歴を取得し、
同時に、前記ひずみ計測用光学フィルタを介して透過光側の電圧と反射光側の電圧を取得し、透過光側の電圧と反射光側の電圧との差分から構造物のひずみ変化を計測することを特徴とする衝撃検知方法。
構造物に配置したFBGセンサからの反射光を、光サーキュレータ及び光カプラを介して光ファイバアンプに戻し、光の周回による光ファイバリングレーザを発振させ、光ファイバリングレーザの一部を前記光カプラから分岐し、前記光ファイバリングレーザを温度計測用光学フィルタを介して光電変換器に入射し、前記光電変換器の出力電圧を直流成分のままで電圧計測を行い、前記構造物への衝撃力の印加履歴を取得し、
同時に、前記温度計測用光学フィルタを介して透過光側の電圧と反射光側の電圧を取得し、透過光側の電圧と反射光側の電圧との差分から構造物に対する温度変化を計測することを特徴とする衝撃検知方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FBGセンサを用いてひずみを計測する手段では、一般的なFBGセンサのグレーティング長が1mmから15mm程度であるため、グレーティング部のひずみ変化しか計測することができない。そのため、一本の光ファイバ上に複数のFBG部を設ける多重化が行われる。しかし、構造物が大きくなると構造物のひずみ分布から構造物の構造健全性を評価するためには、多くのFBGセンサが必要となる。またFBGセンサが多くなると各FBGセンサの位置の識別のため、異なるブラッグ波長のFBGを多数必要とする。この場合、全てのFBGセンサに対応するため、広い波長帯域に対応した光源が必要となる。また多数のブラッグ波長の識別のため分光器が複雑になるという問題がある。このような光源の広帯域化と分光器の複雑化はFBGセンサ用波長計測器が高価になってしまうというFBGセンサ利用上の欠点となっている。
【0006】
FBGセンサを用いてAE信号を計測する手段は、FBGセンサによるひずみ計測の多重化を補う構造物の健全性監視を目的とするものである。AEとは構造物の構造材料内部の損傷に伴い発生する超音波帯域の弾性波である。弾性波は構造物中を伝播するため、ひずみ計測するよりも少ないFBGセンサ数で構造物に損傷が生じていないかを監視することが可能となる。前記の特許文献2及び3はそのような目的のためなされたものである。しかし、FBGセンサによりAE信号を取得するためには、FBGセンサからの反射光を光電変換器により電気信号に変換する必要がある。これは、光電効果を有するインジウム・ガリウムヒ素等の化合物半導体のセンサにより可能である。このような光電効果を有するセンサから出力される電気信号は微弱な電流信号であり、また光電効果の特性上、センサから出力される電流は一方向、すなわち直流電流である。多くの電子計測器では電流信号ではなく電圧信号を計測するため、光電効果により出力された電流信号を電圧信号に変換する電子回路が使用される。一般的な光電変換器は光電効果による電流信号を電圧信号に変換するまでの機能を有する。ここで、光電効果による電流が直流であることから、電流から電圧に変換された光電変換器の出力電圧も、一般には直流電圧である。前述の特許文献3に記載されたひずみ計測部は光電変換器の出力電圧が直流であることを利用したものである。
【0007】
一方、FBGセンサにより超音波周波数帯域のAE信号が検知可能であるということは、FBGセンサからの反射光に1pm以下と微弱な超音波帯域のブラッグ波長変化が重畳しているためである。このような1pm以下の超音波帯域のブラッグ波長を光学的手段で検出することは難しい。そのため、前述の特許文献2においては、その超音波帯域の微弱なブラッグ波長変化を、光電変換器出力電圧に重畳している微弱な光強度変化として抽出する方法により実現している。これは、光電変換器出力電圧に重畳している微弱な交流信号を抽出することに他ならない。そして処理には、光電変換器出力電圧を入力信号として、高周波数の電圧変動のみを抽出すための、電気回路的処理、すなわち交流結合(ACカップリング)やハイパスフィルタもしくはバンドパスフィルタによるフィルタリング処理を必要とする。さらに抽出した交流成分が微弱なため、信号増幅を行う必要がある。また、AE信号を集録するためには、一般にサンプリング周波数が10MHz程度の高速なAD変換器とAE信号処理装置を必要とする。このようにFBGセンサによりAE信号を集録するためには、付加的な機能を有する装置を必要とする。
【0008】
また構造物から発生するAE信号は微弱な超音波帯域の弾性波であるため、炭素繊維強化プラスチック(Carbon fiber reinforced plastics,CFRP)のような複合材料等では減衰の影響が無視できないほど大きい。AE計測時のセンサを含む計測系の校正に使用されるシャープペンシル折損信号は減衰の大きなCFRP材料では数十cmで減衰してしまう。FBGセンサによるAE計測はひずみ計測に比べて広い範囲の構造物の損傷有無を監視可能とする有効な手段であるが、その装置構成は複雑であり、一つのFBGセンサで監視可能な範囲も限られると言う問題があった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、構造物に有害な衝撃力が印加されたかどうかを容易に検知し、且つ、一つのFBGセンサによる監視範囲をAEによる監視範囲よりもより広範囲にすることを可能とするための構造物の衝撃検知方法及び検知装置を提供しようとするものである。
【0010】
ここで、有害な衝撃について定義しておく。一般に構造物は製造が完了し、使用に供されるまでの間に、検査、輸送、組立等の様々工程を経る。構造物は、その使用に供される構造的荷重条件に耐えうるように設計・製造される。よって、使用に供されるまでには、設計的に考慮されていない静荷重負荷や振動負荷及び衝撃負荷を受けないように、検査、輸送及び組立等がなされる。しかし、製造から使用開始までの間の工程において、検査工程の一環である静荷重試験や耐圧試験中に被検体である構造物から衝撃的な異音が発生すること、輸送中に構造物が落下してしまうこと、組立工具を使用中に不意に構造物に打ち当ててしまうこと、及び、異物が構造物に衝突すること等がある。有害な衝撃とはこのような、構造物が使用に供される前に設計的に意図されていない衝撃力が印加されることである。その衝撃力が構造物の使用に際して有害かどうかを判断することは、本発明の範疇には含まない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の衝撃検知方法は、構造物に配置したFBGセンサからの反射光を、光サーキュレータ及び光カプラを介して光ファイバアンプに戻し、光の周回による光ファイバリングレーザを発振させ、光ファイバリングレーザの一部を前記光カプラから分岐し、前記光ファイバリングレーザを
ひずみ計測用光学フィルタを介して光電変換器に入射し、前記光電変換器の出力電圧を直流成分のままで電圧計測を行い、前記構造物への衝撃力の印加履歴を取得
し、
同時に、前記ひずみ計測用光学フィルタを介して透過光側の電圧と反射光側の電圧を取得し、透過光側の電圧と反射光側の電圧との差分から構造物のひずみ変化を計測するものである。
【0012】
本発明の衝撃検知方法は、構造物に配置したFBGセンサからの反射光を、光サーキュレータ及び光カプラを介して光ファイバアンプに戻し、光の周回による光ファイバリングレーザを発振させ、光ファイバリングレーザの一部を前記光カプラから分岐し、前記光ファイバリングレーザを
温度計測用光学フィルタを介して光電変換器に入射し、前記光電変換器の出力電圧を直流成分のままで電圧計測を行い、前記構造物への衝撃力の印加履歴を取得
し、
同時に、前記温度計測用光学フィルタを介して透過光側の電圧と反射光側の電圧を取得し、透過光側の電圧と反射光側の電圧との差分から構造物に対する温度変化を計測するものである。
【0013】
【0014】
本発明の衝撃検知方法において、構造物への衝撃力の印加履歴を取得して構造物に衝撃力が印加されたかどうかを監視することが好ましい。
【0015】
本発明の衝撃検知装置は、構造物に配置したFBGセンサと、
該FBGセンサに光を入力する光ファイバアンプと、
前記FBGセンサからの反射光を前記光ファイバアンプに戻す光サーキュレータ及び光カプラと、
前記光ファイバアンプ、光サーキュレータ、光カプラを用いて光の周回により光ファイバリングレーザを発振させ、光カプラから分岐した光ファイバリングレーザ
を受光させるひずみ計測用光学フィルタと、
該ひずみ計測用光学フィルタからの透過光を入射させる透過光側の光電変換器と、
前記ひずみ計測用光学フィルタからの反射光を入射させる反射光側の光電変換器と、
該光電変換器の出力電圧を直流成分のままで電圧計測を行う
と共に透過光側の光電変換器と反射光側の光電変換器との電圧の差分から構造物のひずみ変化を計測する電圧計測部とを備え、
前記構造物への衝撃力の印加履歴を取得する
と同時に構造物のひずみ変化を取得するように構成されたものである。
【0016】
本発明の衝撃検知装置は、構造物に配置したFBGセンサと、
該FBGセンサに光を入力する光ファイバアンプと、
前記FBGセンサからの反射光を前記光ファイバアンプに戻す光サーキュレータ及び光カプラと、
前記光ファイバアンプ、光サーキュレータ、光カプラを用いて光の周回により光ファイバリングレーザを発振させ、光カプラから分岐した光ファイバリングレーザ
を受光させる温度計測用光学フィルタと、
該温度計測用光学フィルタからの透過光を入射させる透過光側の光電変換器と、
前記温度計測用光学フィルタからの反射光を入射させる反射光側の光電変換器と、
該光電変換器の出力電圧を直流成分のままで電圧計測を行う
と共に透過光側の光電変換器と反射光側の光電変換器との電圧の差分から構造物に対する温度変化を計測する電圧計測部とを備え、
前記構造物への衝撃力の印加履歴を取得する
と同時に構造物に対する温度変化を取得するように構成されたものである。
【0017】
【0018】
本発明の衝撃検知装置において、構造物への衝撃力の印加履歴を取得して構造物に衝撃力が印加されたかどうかを監視するように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の衝撃検知方法及び検知装置によれば、光ファイバリングレーザを光電変換器に入射し、光電変換器の出力電圧を直流成分のままで電圧計測部に入れ、構造物への衝撃力の印加履歴を取得するので、構造物に対する衝撃力の印加を容易に検知することができる。また直流成分を取り除くことなく処理し得るので、装置構成や処理を簡易にすることができる。さらにAE計測と異なり特殊な電気回路やAE専用計測装置を不要とすることができる。さらにまた本発明の衝撃検知方法及び検知装置によれば、複合材料等の減衰の大きな材料であっても、数十cmで減衰することがなく、1つのFBGセンサで広い範囲を検知監視対象とすることを可能にし、結果的に構造物に対してFBGセンサの数を減らすことができる。また本発明の衝撃検知方法及び検知装置によれば一般に可聴帯域と呼ばれる40kHz以下のサンプリング周波数のAD変換器を用いて20kHz以下の衝撃による信号を検知することが可能であり、前述のAE計測装置のように10MHzというような高速で高価なAD変換器を必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の衝撃検知方法及び検知装置を実施する形態の
参考例を
図1を参照して説明する。
【0022】
実施の形態の
参考例の衝撃検知方法及び検知装置は、測定対象の構造物(図示せず)に配置したFBGセンサ1と、FBGセンサ1に光ファイバ2を介して光を入力する光ファイバアンプ3と、FBGセンサ1で発生した反射光を分離する光サーキュレータ4と、光サーキュレータ4に接続されて光を分割し且つ分割した一方の光を光ファイバアンプ3に戻す光カプラ5と、光カプラ5に接続されて分割された他方の光を処理する光電変換器6と、光電変換器6に接続されて電気信号をデジタル信号に変換するAD変換器(電圧計測部)7と、AD変換器7に接続されてデータを記録するデータ収録部(データ収録装置)8とを備えている。ここでFBGセンサ1からの光は、光サーキュレータ4及び光カプラ5を介して光ファイバアンプ3に戻され、光の周回により光ファイバリングレーザを発振して光カプラ5から分岐されるようになっている。
【0023】
FBGセンサ1は、構造物に対して所定の間隔で接着されており、FBGセンサ1の位置は、構造物が減衰の大きなCFRP等の複合材料であっても、隣のFBGセンサ1から数メートルの距離を介するようになっている。またFBGセンサ1は、光ファイバのコア部分に光軸方向に沿って一定の間隔で回折格子を形成しており、構造物への衝撃力の印加により反射波長を変化させるようになっている。
【0024】
光ファイバアンプ3は、エリビウム添加光ファイバアンプ(Erbium-doped fiber amplifier,EDFA)または半導体光アンプ(Semiconductor optical amplifier,SOA)である。ここで光ファイバアンプ3を用いた光ファイバリングレーザは、単一波長のレーザ光を発振する。よって、複数の波長のFBGセンサ1を接続した場合には対応できないという問題がある。そこで、このような場合には、複数の波長のFBGセンサ1に対応して、複数の光ファイバアンプを並列使用することが考えられる。さらに各FBGセンサ1の波長帯域に分波及び合波を行う波長分波器を備えることが好ましい。
【0025】
光サーキュレータ4は、光による導波の方向を制御するように構成されており、具体的には、光ファイバアンプ3からの光をFBGセンサ1へ導波させると共に、FBGセンサ1からの反射光を光カプラ5へ導波するようになっている。
【0026】
光カプラ5は、光サーキュレータ4からの光を分割し、一方の出力側から多くの光を光ファイバアンプ3に戻すと共に、他方の出力側から所定割合の光を光電変換器6に出力するようになっている。ここで光カプラ5の分割比は、特定の割合に限定されるものでなく、FBGセンサ1からの反射光を光ファイバアンプ3に回帰させ、光ファイバリングレーザを発振可能とするならば、特に限定されるものではない。
【0027】
光電変換器6は、計測側の光カプラ5からの光強度を電気信号に変換し、AD変換器7へ送るようになっている。またAD変換器7は、サンプリング周波数を40kHz以下として20kHz以下の可聴帯域の信号を計測し、データ収録部8に送るようになっている。ここでAD変換器7のサンプリング周波数は40kHz以下に限定されるものでない。そして、より高速なAD変換器を用いても同等な効果を期待できる。
【0028】
データ収録部8は、AD変換器7からのデジタル信号を記録する。またデータ収録部8ではAD変換器7のサンプリング周波数を40kHz以下としているので、20kHz以下の可聴帯域における衝撃力の印加の有無を判断し得るようになっている。さらに光カプラ5からデータ収録部8までの間には、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタ、信号増幅器、AE計測器を不要としている。ここでAD変換器7及びデータ収録部8は一体化しても良い。
【0029】
以下本発明を実施する形態の
参考例の作用を説明する。
【0030】
検査対象の構造物に対する衝撃力の印加を検知する際には、光ファイバアンプ3から微弱な広帯域光を出力し、微弱な広帯域光をFBGセンサ1に照射してFBGセンサ1からの反射光を導波させる。そして反射光を、光サーキュレータ4、光カプラ5を経て、光ファイバアンプ3に回帰させ、光ファイバアンプ3で増幅する。この一連の過程を光の速度で繰り返すことにより、FBGセンサ1のブラッグ波長でレーザ発振し、光ファイバリングレーザとなる。なお、光ファイバアンプ3は常時微弱な広帯域光を出力しているが、光ファイバレーザの発振に伴い、光ファイバアンプ3の出力する広帯域光は光ファイバリングレーザの光強度に対して無視できるほど小さな光強度となる。
【0031】
光カプラ5から分岐された光ファイバリングレーザは、光電変換器6により光強度から電圧信号に変換され、信号調節されることなく、AD変換器7に入力される。AD変換器7では、直流成分のまま(衝撃力の信号が直流成分に重畳した状態)で電圧が入力される。そしてデータ収録部8では、衝撃力の印加に伴う電圧の瞬間的な低下と時刻を記録し、構造物への衝撃力の印加履歴(負荷履歴)を取得して構造物に有害な衝撃力が印加されたかどうかを監視する。
【0032】
而して、このように実施の形態の
参考例によれば、光ファイバリングレーザを光電変換器6に入射し、光電変換器6の出力電圧を直流成分のままでAD変換器7に入れるので、構造物に対する衝撃力の印加を容易に検知することができる。また直流成分を取り除くことなく処理し得るので、バンドパスフィルタや増幅器等を不要にして装置構成や処理を簡易にすることができる。さらにAE計測と異なり特殊な電気回路やAE専用計測装置を不要とすることができる。さらにまた実施の形態の
参考例によれば、複合材料等の減衰の大きな材料であっても、数十cmで減衰することがなく、1つのFBGセンサ1で広い範囲を検知可能にし、結果的に構造物に対してFBGセンサ1の数を減らすことができる。ここで衝撃力の印加に伴う可聴帯域の弾性波は、AE信号よりも長い距離を伝播しており、検知可能な距離は、AE信号の場合、CFRP等の複合材料において数十cm以下に限定されるが、可聴帯域の弾性波の場合、CFRP等の複合材料において数m間隔以下、さらに好ましくは5m間隔以下、特に好ましくは2m間隔以下にすることができる。
【0033】
また実施の形態の
参考例によれば、光電変換器6の出力電圧を直流成分のままの状態でAD変換器7に入れ、直流成分のままで処理し得るので、従来の光ファイバリングレーザによるAE計測手法と比べて計測手法と装置が異なり、結果的に構造物に対する衝撃力の印加を容易に検知することができ、さらに装置構成や処理を簡易にすることができる。
【0034】
以下、本発明の衝撃検知方法及び検知装置を実施する形態の
第一例を
図2を参照して説明する。
【0035】
実施の形態の
第一例の衝撃検知方法及び検知装置は、
参考例の光カプラ5からデータ収録部8までの間の構成を変えたものであり、FBGセンサ1、光ファイバアンプ3、光サーキュレータ4、光カプラ5は、
参考例と同じ構成を備えている。
【0036】
第一例の衝撃検知方法及び検知装置は、光カプラ5に接続されて光を入射させるひずみ計測用光学フィルタ11又は温度計測用光学フィルタ12と、ひずみ計測用光学フィルタ11又は温度計測用光学フィルタ12からの透過光を処理する透過光側の光電変換器13と、ひずみ計測用光学フィルタ11又は温度計測用光学フィルタ12からの反射光を処理する反射光側の光電変換器14と、透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14に接続されて電気信号をデジタル信号に変換するAD変換器(電圧計測部)15と、AD変換器15に接続されてデータを記録するデータ収録部(データ収録装置)16とを備えている。ここでFBGセンサ1からの光は、
参考例と同様に光サーキュレータ4及び光カプラ5を介して光ファイバアンプ3に戻され、光の周回により光ファイバリングレーザを発振して光カプラ5から分岐されるようになっている。
【0037】
ひずみ計測用光学フィルタ11は、光カプラ5からの光を入射させる誘電体薄膜光学フィルタであり、光カプラ5からの光を透過光と反射光に分離し、透過光を透過光側の光電変換器13へ送るようになっていると共に、反射光を反射光側の光電変換器14へ送るようになっている。
【0038】
温度計測用光学フィルタ12は、ひずみ計測用光学フィルタ11と同様に、光カプラ5からの光を入射させる誘電体薄膜光学フィルタであり、光カプラ5からの光を透過光と反射光に分離し、透過光を透過光側の光電変換器13へ送るようになっていると共に、反射光を反射光側の光電変換器14へ送るようになっている。ここで、ひずみ計測用光学フィルタ11及び温度計測用光学フィルタ12は、FBGセンサ1がひずみ変化や温度変化に伴う光強度の変化に対応するものであり、光ファイバ通信のバンド帯に対応するものならば、特に条件が制限されるものではない。
【0039】
透過光側の光電変換器13は、ひずみ計測用光学フィルタ11又は温度計測用光学フィルタ12からの透過光の光強度を電気信号に変換し、AD変換器15へ送るようになっている。また反射光側の光電変換器14は、ひずみ計測用光学フィルタ11又は温度計測用光学フィルタ12からの反射光の光強度を電気信号に変換し、AD変換器15へ送るようになっている。
【0040】
AD変換器15は、透過光側の光電変換器13及び反射光側の光電変換器14からの電気信号に対し、サンプリング周波数を40kHz以下として可聴帯域の信号で計測し、データ収録部16に送るようになっている。ここでAD変換器15のサンプリング周波数は40kHz以下に限定されるものでない。そして、より高速なAD変換器を用いても同等な効果を期待できる。
【0041】
データ収録部16は、AD変換器15からのデジタル信号を記録する。また、データ収録部16ではAD変換器15のサンプリング周波数を40kHz以下としているので、20kHz以下の可聴帯域における衝撃力の印加の有無を判断し得るようになっている。さらに光カプラ5からデータ収録部16までの間には、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタ、信号増幅器、AE計測器を不要にしている。ここでAD変換器15及びデータ収録部16は一体化しても良く、またAD変換器15、データ収録部16を、透過光側の光電変換器13及び反射光側の光電変換器14に個別に対応するように分割しても良い。
【0042】
以下本発明を実施する形態の
第一例の作用を説明する。
【0043】
検査対象の構造物に対する衝撃力を検知する際には、
参考例と同様に、光ファイバアンプ3の出力に伴うFBGセンサ1からの光を、光サーキュレータ4、光カプラ5、光ファイバアンプ3を介して周回させて増幅し、光ファイバリングレーザとして発振する。
【0044】
光カプラ5から出射された光ファイバリングレーザは、ひずみ計測用光学フィルタ11又は温度計測用光学フィルタ12により透過光と反射光になり、透過光は、透過光側の光電変換器13により光強度から電気信号に変換され、信号調節されることなく、AD変換器15に入力される。また反射光は、反射光側の光電変換器14により光強度から電気信号に変換され、信号調節されることなく、AD変換器15に入力される。AD変換器15では、直流成分のまま(衝撃力の信号が直流成分に重畳した状態)で電圧が入力される。そしてデータ収録部16では、衝撃力の印加に伴う電圧の瞬間的な低下や時刻を記録し、構造物への衝撃力の印加履歴(負荷履歴)を取得して構造物に有害な衝撃力が印加されたかどうかを監視する。
【0045】
また
第一例の構成は、ひずみ計測用光学フィルタ11又は温度計測用光学フィルタ12を備えることから、光ファイバリングレーザにより、透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14との電圧の差分を取得し、ひずみ変化又は温度変化を同時に計測することが可能となる。なお、光ファイバリングレーザは、予備試験によって、FBGセンサ1に負荷されたひずみや温度によりレーザ発信波長が変化することを確認しており、またひずみ変化又は温度変化と、光ファイバリングレーザのレーザ発信波長とに線形性を有することを確認している。
【0046】
以下、実施の形態の
第一例の構成において構造物で試験した場合の結果を示す。試験では、CFRP製の円筒状の構造物を用いると共に、構造物の周面にFBGセンサ1を接着し、硬貨等の部材によって構造物の様々な位置に軽い衝撃力を印加した。ここで軽い衝撃力を負荷する位置には様々な位置があるが、一例としては、FBGセンサ1の接着位置に対して構造物の周方向で180°ずれた位置がある。AD変換器15のサンプリング周波数を5kHzとし、データを集録した。
【0047】
そして試験データでは、
図3のごとく衝撃力の印加に伴い、透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14に出力電圧変化を生じた。
図3ではLET2が透過光側の光電変換器13の出力電圧であり、LER2が反射光側の光電変換器14の出力電圧である。そして時間5及び11の時にパルス状の電圧変化がLET2とLER2の両方に現れている。またLET2及びLER2の波形から明らかなように、この二つの信号は光電変換器13,14の直流電圧を計測しているものである。
【0048】
このため、
第一例の構成において、一定の電圧信号から瞬間的な電圧変化を生じた場合を、衝撃力の印加があった事象として認識することができる。なお透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14との電圧の差分からひずみを求める処理では、透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14に同レベルの電圧変化が同時に起きる場合に差分がないため、衝撃力の印加をブラッグ波長変化、すなわちひずみ変化として識別することはできていない。
【0049】
集録した時系列電圧信号に対して、
図4に示すフローチャートによるデジタル信号処理を行った。その結果を
図5、
図6に示す。
図5及び
図6は集録した光電変換器出力電圧を0.1秒毎に抽出し(
図4のステップ1)、0.1秒間の電圧の平均値を計算し(
図4のステップ2)、0.1秒間のデジタル信号配列からステップ2で計算した平均値を減算した配列を作成し(
図4のステップ3)、ステップ3で作成した配列から、最大値と最小値を求めたものである(
図4のステップ4)。よって、縦軸においてゼロの上下に信号が分布している。縦軸ゼロ近傍で帯状になっているのは、光電変換器のノイズ成分である。
【0050】
図5では、透過光側(VT)における軽い衝撃力の信号の波形(軽衝撃の負荷履歴)を示し、
図6では反射光側(VR)における軽い衝撃力の信号の波形(軽衝撃の負荷履歴)を示している。また
図5、
図6において180degは、軽い衝撃力を負荷する位置がFBGセンサ1の位置に対して構造物の周方向で180°ずれた位置であることを示し、1m、1.5m、2mは、軽い衝撃力を負荷する位置がFBGセンサ1の位置に対して構造物の周方向で該当距離分だけ離れた位置であることを示している。なお
図7では、ひずみ変化(透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14との電圧の差分)を求めた場合を示している。
【0051】
このため、
第一例の構成において、様々な位置で衝撃力を負荷しても、
図5、
図6に示す如く帯状のノイズ成分の領域から瞬間的な電圧変化のピークを生じ、衝撃力の印加を検知することができる。一方、透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14との電圧の差分によりひずみを求めたひずみの時系列波形に対して、
図7に示す如くゼロ近傍の帯状のノイズ領域から特徴的なひずみの瞬間的な変化は生じておらず、衝撃力の印加をひずみとして検知することができない。
【0052】
ここでさらに衝撃力の印加を検知できる原理を示すと、以下のように考えられる。衝撃力の印加に伴う弾性波がFBGセンサ1に到達すると、FBGセンサのブラッグ波長の瞬間的な変化をもたらし、このとき光ファイバリングレーザの発振波長も変化するが、その変化は過渡的かつ瞬間的である。一方で光ファイバリングレーザの発振波長変化に有限の時間を要する。この変化を高速なAD変換器を用いて集録すればAE信号となるが、超音波帯域の信号は減衰してしまっている。そのため、低速なAD変換器では、光ファイバリングレーザの発振波長変化の過程を示す履歴として光電変換器の出力電圧の変化が生じる。このため、
図3においては、硬貨による軽い衝撃力のタイミングに合致して光電変換器13,14の出力電圧が低下している。この現象を利用すれば、FBGセンサ1から離れた位置に負荷された軽い衝撃力も検知することが可能となり、構造物に有害な衝撃力の印加が起きなかったかを記録することができる。
【0053】
而して、このように実施の形態の
第一例によれば、
参考例と同様な作用効果を得ることができる。
【0054】
また実施の形態の
第一例において、光ファイバリングレーザを光電変換器13,14へ入射させる前に光ファイバリングレーザを受光させるひずみ計測用光学フィルタ11を備えるので、構造物に対する衝撃力の印加を容易に検知することができ、さらに透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14との電圧の差分を生じる場合に、ひずみ変化を同時に計測することができる。
【0055】
実施の形態の
第一例において、光ファイバリングレーザを光電変換器13,14へ入射させる前に光ファイバリングレーザを受光させる温度計測用光学フィルタ12を備えるので、構造物に対する衝撃力の印加を容易に検知することができ、さらに透過光側の光電変換器13と反射光側の光電変換器14との電圧の差分を生じる場合に、温度変化を同時に計測することができる。
【0056】
尚、本発明の衝撃検知方法及び検知装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。