【実施例】
【0021】
図1は、本実施例に係るダイシング装置の要部レイアウトを示す斜視図である。同図に示すダイシング装置11は、本実施例では半導体ウェーハを切断分割するダイシング装置を示している。そのダイシング装置11は、互いに対向配置されたスピンドル12と、図示していないワークW(本実施例では半導体ウェーハ)を吸着保持するワークテーブル13と、ワークWを撮像する顕微鏡やCCDカメラ等からなる撮像手段(図示せず)とを有する加工部14を備えている。また、ダイシング装置11は、図示しないが、前記加工部14の他に、その加工部14で加工された加工済みのワークWをスピン洗浄する洗浄部と、フレームにマウントされたワークWを多数枚収納したカセットを載置するロードポートと、ワークWを搬送する搬送手段と、各部の動作を制御するコントローラ15(
図2参照)等とから構成されている。これらの基本構成は、従来のダイシング装置と同じである。
【0022】
前記加工部14には、図示しないリニアモータもしくはサーボモータとボールスクリューによって図のX−Xで示すX方向に駆動されるXテーブ16があり、Xテーブル16にはθ方向に回転する回転テーブル22を介して前記ワークテーブル13が設けられている。
【0023】
一方、Yベース17の側面には、Yガイド18でガイドされ、図示しないステッピングモータもしくはサーボモータとボールスクリューによって図のY−Yで示すY方向に駆動されるYテーブル19、19が設けられている。各Yテーブル19にはそれぞれ図示しない駆動手段によって図のZ−Zで示すZ方向に駆動されるZテーブル20が設けられ、Zテーブル20には先端にブレード21が取付けられた高周波モータ内蔵型のスピンドル12が固定されている。
【0024】
加工部14の構造は以上のようになっているので、ブレード21はY方向にインデックス送りされると共にZ方向に切込み送りされ、ワークテーブル13はX方向に切削送りされる。
【0025】
前記スピンドル12は、どちらも1,000rpm〜80,000rpmで高速回転され、近傍にはワークWを切削水C内に浸漬させるための切削水Cを加工位置に配置されるブレード21に吹き付けて供給する図示しない供給ノズルが設けられている。
【0026】
前記ブレード21は、ダイヤモンド砥粒やCBN砥粒をニッケルで電着した電着ブレードや、金属粉末を混入した樹脂で結合したメタルレジンボンドのブレード等が用いられる。ブレード21の寸法は、加工内容によって種々選択されるが、通常の半導体ウェーハをワークとしてダイシングする場合は、直径φ50〜60mm、厚さ30μm前後のものが用いられる。
【0027】
ダイシング装置11の各部の動作を制御するコントローラ15は、例えば
図4に示すように構成されている。
図4に示すように、コントローラ15は、CPU23、記憶手段24、データ入出力部25、プログラム生成手段26、制御部27等から構成されており、それぞれがバスライン28で接続されている。
【0028】
また、前記制御部27は、スピンドル移動機構44の送りを制御するためのスピンドル制御手段29と、ワークテーブル送り機構45による送りを制御するためのX制御手段30、Y制御手段31、Z制御手段32、θ制御手段33等から構成されている。なお、制御部27に接続された温度センサ43a〜43dは、後述する温度センサである。
【0029】
前記CPU23は、前記コントローラ15の中心的処理機能を担い、各種の処理を行う。前記記憶手段24は、例えば
図5に示したスピンドルSP(本実施例のスピンドル12
に対応する)の時間−変位特性、及び、
図6に示した切削水CとスピンドルSPにおける
時間−温度特性等の各種データを記憶する。前記データ入出力部25は外部からのデータを入力すると共に、外部へデータを発信する。前記プログラム生成手段26は、前記スピンドルSPの時間−変位特性と、切削水CとスピンドルSPにおける時間−温度特性の各種データを含む加工プログラムを作成する。前記制御部27は、前記スピンドル制御手段29、X制御手段30、Y制御手段31、Z制御手段32、及びθ制御手段33、温度センサ43a〜43d等を介してダイシング装置11の各部の動作を制御する。
【0030】
図2は前記スピンドル12を水平方向(軸方向)に断面して示す図で、
図3は前記スピンドル12を垂直方向に断面して示す、
図2のA−A線断面図に対応する図である。なお、
図2において、各部材の断面のハッチングは省略してある。
図2において、前記スピンドル12は、ハウジング34と、軸受部材35と、モータ36と、シャフト37と、流体軸受機構39等により構成されている。
【0031】
前記ハウジング34は、両端が開口された筒状体として形成されており、そのハウジング34には、
図2に示すように、シャフト37が回転可能に収容配置されている。シャフト37の他端部37bはハウジング34の他端側から外部に突出されており、ハウジング34から突出されたシャフト37の他端部37bに前記ブレード21が一体回転するようにして取り付けられている。
【0032】
前記モータ36は、ハウジング34内において、シャフト37の一端部37a(軸受部
材35と隣接している)側に設けられており、シャフト37の外周面上に該シャフト37
と一体回転可能に取り付けられているロータ36aと、そのロータ36aと対向してハウジング34の内周面に取り付けられているステータ36bとを備える。そして、モータ36は、ステータ36bの電機子コイル(図示せず)に電流が供給されると、その電機子コイルが励磁されてロータ36aをシャフト37と一体に回転させることができるようになっている。
【0033】
前記シャフト37は、一端部37a側の端面に開口を有し、かつ、シャフト37の一端部37aから他端部37b側に向かって、そのシャフト37の軸中心線Oに沿って連続して形成された中心孔41を有する。
【0034】
また、
図2に示すように前記シャフト37の他端部37bと前記モータ36のロータ36aとの間において、そのハウジング34の内周面には、
図3に示すように前記シャフト37の外周面を周回するようにして流体軸受機構39が、該流体軸受機構39との間にわずかな隙間42が形成された状態で配設されている。その隙間42には流体軸受機構39のエア噴射ノズル39aからエアが吹き込まれ、そのエアで流体軸受が生成されるようになっている。したがって、シャフト37は、その流体軸受により非接触状態で回転可能に支持されている。この流体軸受は、従来から良く知られた技術である。
【0035】
前記温度センサ部材40は、径が3〜4mm程度の細長い筒状部材40a内に、複数個(本実施例では4個)の前記温度センサ43a、43b、43c、43dを配設してなる。該温度センサ部材40は、一端部側が軸受部材35により回転可能に保持された状態で、前記シャフト37の軸中心に形成された前記中心孔41内に挿入配置されている。また、筒状部材40aの一端側の外周面には複数個に分割されたロータリー接点46が設けられている。該ロータリー接点46はそれぞれ、対応する温度センサ43a〜43と電気的に接続されている。また、ロータリー接点46には、軸受部材35に取り付けられた通電ブラシ47の先端が当接されている。そして、各温度センサ43a〜43dでモニタリングされた温度情報は、筒状部材40aの一端側からロータリー接点46と通電ブラシ47を通して取り出され、前記コントローラ15の制御部27に入力されるようになっている。また、
図2に示すように、4個の温度センサ43a〜43dの中、温度センサ43aは、ブレード21が取り付けられたシャフト37の他端部37b側で、そのブレード21の直近位置、すなわち加工点位置付近に配設されており、前記切削水Cの供給に起因して変化するシャフト37の加工位置付近における雰囲気温度をモニタリングする。温度センサ43dは、モータ36のロータ36aが取り付けられたシャフト37の一端部37a側で、そのロータ36aを取り付けた位置に近い位置に配置されており、モータ36の発熱に起因して変化するシャフト37の雰囲気温度をモニタリングする。温度センサ43b、43cは、温度センサ43aと温度センサ43dとの間で、シャフト37のそれぞれの箇所における温度をモニタリングする。
【0036】
次に、このように構成されたダイシング装置11の加工部の作用について説明する。なお、ダイシング装置11全体の動作については既知であるので、説明は省略する。加工に先立って、オペレータによってワークの種類、ワークのサイズ、加工深さ、インデックスサイズ、スピンドル回転数、研削送り速度等の加工条件、及びアライメント条件等が、操作・表示部から入力される。
【0037】
ダイシング装置11のコントローラ15では、入力された加工条件からプログラム生成手段26によって加工プログラムが生成される。同時に、制御部27では、温度センサ43a〜43dから得られる情報からスピンドル12のシャフト37の温度を検出し、これを前記記憶手段24に記憶されているスピンドルの時間−変位特性、及び、切削水とスピンドルにおける時間−温度特性等の各種データのマップに対応させて温度上昇による加工点の位置ずれを推測し、スピンドル移動制御手段29における送りとワークテーブル送り機構側における送りに補正をかけながら切断分割作業を行う。これにより、従来では約20分要していたスピンドル12の慣らし時間を省略あるいは短縮しても切削品質のよい切断分割が行え、作業性の向上と切削品質の向上に寄与できる。
【0038】
また、本実施例のダイシング装置11では、スピンドル12が、筒状に形成されたハウジング34と、ロータ36a及びステータ36bを有し、そのロータ36aをシャフト37の一端部37a側に一体回転可能に取り付け、ステータ36bをハウジング34側に固定して取り付けてなるモータ36と、ハウジング34内においてシャフト37を非接触で回転可能に保持する流体軸受けを生成する流体軸受機構39と、を備え、ハウジング34の他端部側より外部に突出されたシャフト37の他端部37b側にブレード21を取り付けている。そして、スピンドル12のシャフト37は、流体軸受機構39により生成された流体軸受によって非接触で回転可能に支持されているので、その流体軸受によりシャフト37の振動が抑制されて、更に切削品質の向上に寄与できる。
【0039】
また、本実施例のダイシング装置11では、スピンドル12のシャフト37は中空状に形成され、温度センサ43a〜43dを、細長い筒状部材40a内に収容し、該筒状部材40aと共にシャフト37の中空内(中心孔41)に配置しているので、温度センサ43a〜43dをシャフト37の中空内にコンパクトに配置することができる。さらに、スピンドル12のシャフト37を中空にすることでシャフト37の質量が減り、固有振動数を大きくすることができる。それにより、共振域を使用領域(例えば、最大80,000rp
m)よりも高い回転数へずらすことができるので、振動発生が減るという効果が得られる
。
【0040】
また、本実施例のダイシング装置11では、温度センサ43a〜43dのうち、温度センサ43aはブレード21が取り付けられた加工位置に近いシャフト37の他端部37b側の位置に配置され、温度センサ43dはモータ36のロータ36aを取り付けた位置に近いシャフト37上の位置に配置されているので、温度変化の大きい、ブレード21が取り付けられた加工位置側における温度情報とモータ36に近い位置の温度情報に基づいて、スピンドル移動機構による送りとワークテーブル送り機構による送りにそれぞれ補正をかけることができる。これにより、温度変化によって切削ラインが蛇行(加工位置ずれ)するのを抑えることができるので、その分、スピンドル12側が受ける負荷を少なくして振動の発生を抑え、加工精度を向上させることができる。
【0041】
なお、本実施例では、温度センサ部材40の筒状部材40aが、軸受部材35により回転可能に支持されていて、シャフト37と一体に回転するように構成した構造を開示した。しかし、各温度センサ43a〜43dを内部に配設している筒状部材40aをシャフト37と一体に回転させると、回転にアンバランスが生じるような場合もある。そのような場合には、筒状部材40aの一端をハウジング34側に固定し、片持状に固定した状態で筒状部材40aをシャフト37の中心孔41内に配置し、シャフト37だけを回転させ、筒状部材40aは回転させない構造にしてもよい
。
【0042】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り更に種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。