(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アニオン性のポリマー鎖セグメントが、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものである、請求項1に記載の複合体。
前記ブロックコポリマーの非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントをシェル部分とし、アニオン性のポリマー鎖セグメントをコア部分として形成されたナノ粒子状粒子に、前記MnCaPが内包された形態のものである、請求項1または2に記載の複合体。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2013−173866号明細書(2013年8月23日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.高分子ナノ粒子複合体
本発明の高分子ナノ粒子複合体は、高い血中滞留性と腫瘍組織選択性(EPR効果によるもの)を有する高分子ナノ粒子を利用したドラッグデリバリーシステムに着目して見出されたものである。本発明は、当該高分子ナノ粒子にMRI造影能を発揮し得る特定の化合物(MnCaP)を内包させた高分子ナノ粒子複合体を提供するものである。
本発明の高分子ナノ粒子複合体は、(1)非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、(2)MRI造影能を発揮し得る特定の化合物としてのMnCaPとを含んでなるものである。ここで、当該複合体の具体的な形態としては、上記ブロックコポリマーの非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントをシェル部分とし、アニオン性のポリマー鎖セグメントをコア部分として形成されたナノ粒子状粒子に、上記MnCaPが内包された形態のものであることが好ましい。
なお、本発明においては、便宜上、上記各ポリマー鎖セグメントには、いわゆるオリゴマー鎖の範疇に入るセグメントも包含されるものとする。
(1)ブロックコポリマー
前記ブロックコポリマー中、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる水溶性ポリマーに由来するものが好ましく挙げられ、中でも、PEGに由来するものがより好ましい。当該非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは、親水性であることから優れた生体適合性を、高分子ナノ粒子複合体に付与することができる。
前記ブロックコポリマー中、アニオン性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドが好ましく挙げられる。具体的には、例えば、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものが好ましく挙げられ、中でも、ポリ(グルタミン酸)に由来するものがより好ましい。
本発明に用いるブロックコポリマーとしては、具体的には、下記一般式(1)又は(2)で示されるものが例示できる。
また、本発明に用いるブロックコポリマーの、他の好ましい具体例としては、下記一般式(1−a)又は(2−a)で示されるものも例示できる。
上記式(1)、(2)、(1−a)及び(2−a)中、R
1は水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC
1−12アルキル基を表し、L
1及びL
2は連結基を表し、R
2はそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R
3はそれぞれ独立して水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R
4はヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、R
5はそれぞれ独立して水素原子又はアルカリ金属イオンを表す。また、mは5〜20,000(好ましくは10〜5,000、より好ましくは40〜500)の整数であり、nは2〜5,000(好ましくは5〜1,000、より好ましくは10〜200)の整数である。
また、上記式(1)、(2)、(1−a)及び(2−a)中の、m個の繰り返し単位の部分が、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントに相当する。また、上記式(1)及び(2)中の、(n−x)個とx個の繰り返し単位の部分、及び上記式(1−a)及び(2−a)中の、n個の繰り返し単位の部分が、アニオン性のポリマー鎖セグメントに相当する。
R
1については、前述した未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC
1−12アルキル基としては、限定はされないが、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等が挙げられ、置換された場合の置換基としては、例えば、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C
1−6アルコキシカルボニル基、C
2−7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C
1−6アルキルシロキシ基、シロキシ基またはシリルアミノ基が挙げられる。置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(−CHO:またはアルデヒド基)に転化できる。このようなホルミル基、または上記カルボキシル基もしくはアミノ基は、例えば、前記ブロックコポリマーを生成した後に、対応する保護された形態の基または部分から脱保護もしくは転換して生じさせることができ、次いで必要に応じ、適当な抗体もしくはその特異結合性を有する断片(F(ab’)
2、F(ab)、または葉酸など)を共有結合し、そして該ブロックコポリマー(ひいては、本発明の高分子ナノ粒子複合体)に標的指向性を付与するために利用することもできる。このような官能基を片末端に有する非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは、例えば、WO96/32434、WO96/33233、WO97/06202に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部の製造法に準じて形成することができる。このように形成される非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと、アニオン性のポリマー鎖セグメントとは、前述した各ブロック共重合体の製造方法に応じて、どのような連結様式をとっていてもよく、どのような連結基で結合されていてもよい。当該製造方法は、特に限定はされないが、末端にアミノ基を有する非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを用いて、そのアミノ末端から、例えば、β−ベンジル−L−アスパルテート及び/又はγ−ベンジル−L−グルタメートのN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロック共重合体を合成し、その後、側鎖ベンジル基を他のエステル基に変換するか、または部分もしくは完全加水分解することにより目的のブロック共重合体を得る方法が挙げられる。この場合、得られた共重合体の構造は、一般式(1)又は(1−a)のブロックコポリマーを構成する共重合体の構造となり、連結基L
1は、用いた非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントの末端構造に由来する構造となり、好ましくは−(CH
2)
p−NH−である(ここで、pは1〜5の整数であることが好ましい。)。また、アニオン性のポリマー鎖セグメント、又は該ポリマー鎖の誘導体を合成してから、予め用意した非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントと結合させる方法でも、共重合体は製造可能である。この場合、結果的に上記の方法で製造したものと同一の構造となることもあるが、一般式(2)又は(2−a)のブロックコポリマーの構造となることもあり、連結基L
2は、限定はされないが、好ましくは−(CH
2)
q−CO−である(ここで、qは1〜5の整数であることが好ましい。)。
R
3については、前述したアミノ基の保護基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基等が挙げられる。また、疎水性基としては、例えば、ベンジルカルボニル基及びベンズヒドリルカルボニル基等が挙げられる。さらに、重合性基としては、例えば、アクリロイル及びメタクリルロイル基等が挙げられる。
R
4については、前述した開始剤残基としては、例えば、NCA重合の開始剤となり得る脂肪族または芳香族の1級アミン化合物残基(−NH−アルキル)等が挙げられる。
R
5について、前述したアルカリ金属のイオンとしては、例えば、ナトリウム(Na)イオン、リチウム(Li)イオン及びカリウム(K)イオン等が挙げられる。
(2)MRI造影能を発揮し得る特定の化合物としてのMnCaP
本発明の高分子ナノ粒子複合体に含まれるMnCaPは、特に、低pH環境下において分解(溶解)し、マンガンイオン(Mn
2+)を生じるものである。これにより、Mn
2+イオンが高分子ナノ粒子複合体から放出されることになる。前述のとおり、Mn
2+イオンは、周囲のタンパク質と結合した場合、その相互作用によって、緩和能がおよそ10倍以上に増大する特性を有する。そのため、本発明の高分子ナノ粒子複合体をMRI造影剤として用いた場合、腫瘍組織内の低pH環境で選択的にMn
2+イオンを放出し、腫瘍組織のタンパク質等と結合して造影剤の位置が不動化され、同時にMRI信号強度の増大効果をもたらすことができる(特に断りが無い場合、MRI信号とは、T1強調画像法における信号強度をいう。)。また、MnCaPは崩壊しない状態で、正常の肝組織に一定量集積することが可能で、その場合、横緩和時間の短縮効果によりMRI信号強度の低下をもたらす。同時に肝腫瘍では、その低いpHに応答して崩壊し、Mn
2+イオンを放出することでMRI信号強度の上昇をもたらし、より高い検出力を発揮する。
MnCaPは、下記式に示す反応(概要)により生成され得るものである。
ここで、MnCaPのマウスに対する最大耐用量(MTD:maximum tolerant dose)は、およそ1.5mmol/kgである。これに対し、MnCl
2の最大耐用量(MTD)はおよそ0.22mmol/kgであり、MnCaPの約1/7である。したがって、最大耐用量(MTD)の点でも、MnCaPを用いる本発明の高分子ナノ粒子複合体は、MRI造影における実用性に極めて優れたものである。
(3)高分子ナノ粒子複合体
本発明の高分子ナノ粒子複合体の製造方法としては、限定はされないが、前述したブロックコポリマーと、MnCaPの原料化合物とを、水性媒体中にて混合し、反応させる方法が好ましい。MnCaPの原料化合物としては、HPO
42−を含有する(を生じる)化合物、Ca
2+を含有する(を生じる)化合物、Mn
2+を含有する(を生じる)化合物を、それぞれ用いることが好ましい。
また、反応条件としては、目的の高分子ナノ粒子複合体が得られる限り、いかなる条件を設定してもよいが、例えば、上記混合後、50〜180℃で5〜120分加熱する(熱水合成する)ことが好ましく、より好ましくは80〜150℃で10〜240分加熱することであり、特に好ましくは120℃程度で20分程度加熱することである。当該熱水加熱により、MnCaPが合成される。なお、当該高分子ナノ粒子複合体の製造方法の概略は、例えば、
図1に示すとおりである。
反応溶媒となる水性媒体としては、水(特に、脱イオン水)が好ましく、更に、各種無機もしくは有機緩衝剤、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エタノール等の水混和有機溶媒を、本発明の高分子ナノ粒子複合体の形成反応に悪影響を及ぼさない範囲で含んでいてもよい。
製造された高分子ナノ粒子複合体の単離及び精製は、常法により、水性媒体中から回収することができる。典型的な方法としては、限外濾過法、ダイアフィルトレーション、透析方法が挙げられる。
本発明の高分子ナノ粒子複合体の形態としては、前述のとおり、例えば、前述したブロックコポリマーの非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントをシェル部分とし、アニオン性のポリマー鎖セグメントをコア部分として形成されたナノ粒子状粒子に、MnCaPが内包された形態のものが好ましく挙げられる。通常、水性媒体(水性溶媒)中においては、本発明の高分子ナノ粒子複合体は、凝集して、可溶化した高分子ナノ粒子状の形態を形成し得る。MnCaPは、その生成過程において、ブロックコポリマーのアニオン性のポリマー鎖セグメントと、下記式(概略)のようにイオン結合をし得る。
よって、最終的に、MnCaPは、コア部分を構成するアニオン性のポリマー鎖セグメントとともに、ナノ粒子粒子の内部に内包された状態となる。
このような、本発明の高分子ナノ粒子複合体は、水性媒体中における平均分散粒子径(動的光散乱法により測定)が、例えば、30nm〜150nmであることが好ましく、より好ましくは30nm〜100nmであり、さらに好ましくは30nm〜80nmである。当該粒子径であることにより、EPR効果が発揮され、腫瘍組織選択的に集積することができる。
本発明の高分子ナノ粒子複合体におけるMnCaPの含有割合は、当該複合体に対するMnイオンの含有割合でみたときに、例えば、1〜15重量%であってもよいし、また0.01〜5重量%や、0.3〜4.0重量%であってもよく、限定はされないが、MRIの地場強度や撮像条件に応じて、適宜最適な含有割合に調製することもできる。
2.MRI造影用組成物、MRI造影方法
本発明においては、上述した本発明の高分子ナノ粒子複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用組成物が提供される。本発明の組成物は、MRI造影による癌(悪性腫瘍)の検出及び/又診断手段として使用することができる。なお、場合によっては、抗腫瘍活性を有する公知の各種化合物又は組成物を高分子ナノ粒子複合体に併せて内包することにより、MRI造影用かつ抗腫瘍用医薬組成物として用いることもできる。
本発明のMRI造影用組成物を用いる場合、検出等の対象となる腫瘍の種類は、限定はされず、公知の各種癌種を挙げることができる。
前述のとおり、本発明のMRI造影用組成物は、治療抵抗性の癌細胞が存在する、腫瘍組織の中心部にある低酸素領域(Hypoxia)を明確にイメージングすることができるものであり、そのため腫瘍の悪性度を評価するために用いることもできる。
また、本発明のMRI造影用組成物は、従来では腫瘍特異的には検出困難であった微小癌(例えば約1mm程度の癌)をMRIで検出することができるものであるため、各種癌の原発性腫瘍や転移性腫瘍、特に初期の原発性腫瘍や転移性腫瘍の検出及び診断も可能とするものである。
本発明のMRI造影用組成物において、前述した高分子ナノ粒子複合体の含有割合は、限定はされず、MRI造影効果を勘案して適宜設定することができる。
本発明のMRI造影用組成物は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ等の各種動物に適用することができ、特に限定はされない。被験動物への投与方法は、通常、点滴静注などの非経口用法が採用され、投与量、投与回数及び投与期間などの各条件は、被験動物の種類及び状態等に応じて、適宜設定することができる。例えば、ヒトに静脈内投与をする場合の用量は、必要に応じて実験動物又はボランティアによる小実験を行い、それらの結果を考慮して、さらには患者の状態を考慮して専門医が決定するのが好ましいが、一般的には、1日1回、1.0〜10,000mg/m
2とすることができる。
本発明のMRI造影用組成物は、MRI造影用という用途を勘案し、薬剤製造上一般に用いられる賦形材、充填材、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用することができる。
本発明においては、被験動物の体内に本発明の高分子ナノ粒子複合体、又は本発明のMRI造影用組成物を投与することを特徴とする、MRI造影方法(特に、腫瘍検出用のMRI造影方法や、原発性腫瘍や転移性腫瘍の検出用のMRI造影方法)を提供することもでき、また、当該方法を利用した腫瘍の悪性度の評価方法を提供することもできる。これらの方法においては、従来のMRI造影に関する知見及び技術水準に基づいて、適宜他の工程を含むことができる。例えば、前記投与後又は前記投与と同時に被験動物についてMRI検査を行う工程、当該検査で得られた結果(画像)に基づき腫瘍の有無を検出する工程等が挙げられる。
3.MRI造影用キット
本発明のMRI造影用キットは、前述した本発明の高分子ナノ粒子複合体を含むことを特徴とする。当該キットは、前述したMRI造影方法や当該方法を利用した腫瘍の悪性度の評価方法に好ましく用いることができる。
当該キットにおいて、本発明の高分子ナノ粒子複合体の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して、溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。
本発明のMRI造影用キットは、前記高分子ナノ粒子複合体以外に他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、限定はされないが、例えば、各種バッファー、防腐剤、分散剤、安定化剤、及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
<MnCaPナノ粒子複合体(高分子ナノ粒子複合体)の製造>
MnCaPナノ粒子複合体は、下式に基づく化学反応を利用し、さらに
図1(概略図)に示すような複合体形成と熱水処理の2段階の過程を得て製造した。
はじめに、250mMのCa
2+と20mMのMn
2+をTris−HClバッファー(pH7.6)に溶かした溶液Aを調製した。次に、5mMのポリエチレングリコール−ポリ(グルタミン酸)ブロックコポリマー(PEG−b−P(Glu))を6mMのHPO
42+を含む50mM HEPESバッファーSaline(pH7.1)に溶かした溶液Bを調製した。体積にして同量の溶液Aと溶液Bをボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌、混合して、MnCaPナノ粒子複合体を調製した。得られたMnCaPナノ粒子複合体の溶液を120℃に設定したオートクレーブを用いて20分間の水熱処理を施した。得られたMnCaPナノ粒子複合体を25mM HEPESバッファーSaline(pH7.4)に対して透析した後、HEPESバッファーを用いた限外濾過により精製した。
なお、上記PEG−b−P(Glu)の構造は、以下の通りである。
【実施例2】
【0007】
<方法>
1.MnCaPナノ粒子複合体の緩和能の計測と既存のMnCl
2との溶液中での比較
製造したMnCaPナノ粒子複合体が有する緩和能の計測、および既存のMnCl
2単体との造影効果を比較するため、前臨床用永久磁石型1T(テスラ)MR装置(Icon
TM,Bruker−Biospin,Germany)を使用し、緩和能の計測ならびにT
1強調画像を取得し比較した。計測には,濃度が0.1〜0.5mMのMnCaPナノ粒子複合体および同濃度のMnCl
2を使用し、PCR用のサンプルチューブに入れて計測した。希釈には,蒸留水を使用した。
緩和能の計測には,プロトン用ボリュームコイル(内径35mm)を使用した。撮像法は反転パルスを導入した高速スピンエコー法(Rapid Acquisition with Relaxation Enhancement,RARE)を使用した。撮像に使用したパラメータは以下の通りである。
エコータイム(Echo Time,TE)=10ms;
繰り返し時間(Repetition Time,TR)=16,000ms;
反転時間(Inversion Time,TI)=49.59,75,100,150,200,300,400,600,800,1000,1200,1600,2400,3200,6400ms;
RARE Factor=8;
撮像視野(Field Of View,FOV)=48.0 x 48.0mm
2;
スライス厚=2.0mm;
画素数=256 x 256;
撮像方向=水平断(Horizontal);
加算回数=1;
1つのTIあたりの撮像時間=8分32秒(T
1強調画像は、スピンエコー法を使用し、以下の撮像パラメータを使用して取得した:TE=10.0ms;TR=400ms);
FOV=48.0 x 48.0mm
2;
スライス厚=2.0mm;
画素数=256 x 256;
撮像方向=水平断;
加算回数=8;
撮像時間=13分39秒
2.皮下腫瘍モデルマウスを用いた腫瘍集積性の検討
製造したMnCaPナノ粒子複合体の腫瘍集積性を検証するため、皮下に腫瘍細胞を移植したモデルマウスにMnCaPナノ粒子複合体を投与し、腫瘍におけるMRI画像の変化を可視化した。MRIは前述の前臨床用永久磁石型1T−MR装置、ならびにプロトン用ボリュームコイルを使用した。腫瘍モデルマウスは、メスのBALB/cヌードマウス(日本SLC)の臀部皮下にマウス由来大腸がん細胞Colon26を1.0 x 10
6cell/50μlを移植して作成した。実験には、移植後7〜9日目に、腫瘍サイズが5〜10mm程度になったモデルマウスを使用した。
MR撮像は、スピンエコー法を用い、使用したパラメータは、以下のとおりである。
TE=11.5ms;
TR=400ms;
FOV=44.0 x 44.0mm
2;
スライス厚=1.0mm;
画素数=256 x 256;
撮像方向=横断面(Transaxial);
加算回数=4;
撮像時間=6分49秒
撮像は、MnCaPナノ粒子複合体投与前および投与後4時間後まで連続的に実施したMnCaPナノ粒子複合体は、0.22mmol/kg Mn濃度になるように調整し、マウス尾静脈より投与した。撮像時には、撮像中にマウスが動かないようにイソフルラン吸引麻酔(1.0〜2.0%)を使用した。また、マウス直腸に熱電対温度計を挿入し、自作の温水還流システムを用いて、体温が36〜37℃に保った。
3.低酸素領域の検出する免疫組織染色像とMR画像の比較
製造したMnCaPナノ粒子複合体が、pHの低下に反応することを評価するため、腫瘍内においてpHが低い低酸素領域を検出する免疫組織染色像と、MnCaPナノ粒子複合体の投与に取得したMR画像を比較した。低酸素領域を検出するためのマーカーとして、2−ニトロイミダゾール(2−nitromidazole)系の化合物であるピモニダゾール(Pimonidazole)を含むHypoxyprobe
TM−1(HPI)を使用した。Hypoxyprobe
TM−1は、腫瘍モデルマウスに対し、60mg/kgの濃度で、MnCaPナノ粒子複合体の投与前にマウス尾静脈より投与した。MnCaPナノ粒子複合体を投与した際のMR画像は、上記2と同様の実験プロトコル・パラメータを用いて取得した。MnCaPナノ粒子複合体投与4時間後まで連続的にMR画像を取得した後、モデルマウス皮下に移植した腫瘍を切除し、4%パラフォルムアルデヒド・りん酸緩衝液を用いて組織固定した。パラフィン包埋を行い、抗Pimonidazole抗体を用いた免疫組織染色を実施し、倒立実体顕微鏡を用いて取得した画像とMR画像とを比較した。
4.化学シフト画像化法による乳酸高代謝領域画像と、MR画像の比較
腫瘍内の低酸素化が進んだ領域は、嫌気性代謝により、組織の乳酸(Lactate)が増加する。乳酸は低いpHを持つため、高い乳酸量を示す組織は、低い血液循環に伴う低酸素および低pHを示唆するマーカーとなる。そこで、MRスペクトロスコピー(MR Spectrocopy,MRS)を利用し、乳酸の持つ化学シフト領域の信号強度を画像化した化学シフト画像化法(Chemical Shift Imaging,CSI)を用いて取得した乳酸の代謝画像と、MnCaPナノ粒子複合体を投与して取得したMR画像の信号強度の上昇領域が一致するかを調べた。
CSI画像は、前臨床用超電導磁石型7.0T−MR装置(Biospec,Bruker−Biospin)と、冷却コイル(CryoProbe
TM,Bruker−Biospin)を用いて取得した。CSI画像の撮像には、MRSで使用されるPRESS(Point−RESolved Spectroscopy)法を用いて、VAPOR(variable pulse power and optimized relaxation delays)法を使用してプロトンから生じる信号を抑制した。撮像パラメータは以下の通りである。
TE=20ms;
TR=3,000ms;
FOV=14.1 x 14.1mm
2;
スライス厚=1.5mm;
取得データ数:10 x 10;
再構成画像の画素数:16 x 16;
撮像時間:12分48秒(CSI画像取得後、腫瘍モデルマウスを1T−MR装置に移動し、MnCaPナノ粒子複合体の投与前後において、MR画像を取得した。撮像パラメータは上記2項の場合と同様であった。)
5.肝転移モデルマウスにおける微小腫瘍の検出
転移・微小腫瘍に対するMnCaPナノ粒子複合体の腫瘍検出能を検討するため、肝転移モデルマウスを使用し、肝転移腫瘍の検出を評価した。肝転移モデルは、メスのBALB/cヌードマウス(日本SLC)の脾臓にマウス由来大腸がん細胞Colon26を1.0 x 10
6cell/50μlを移植して作成した。実験には、移植後7〜9日目に実施した。MnCaPナノ粒子複合体の投与量は、0.22mmol/kg Mn濃度であり、マウス尾静脈より投与した。MR撮像は、上記2項と同様の方法で実施した。撮像に使用したパラメータは、以下のとおりである。
TE=11.5ms;
TR=400ms;
FOV=85.0 x 85.0mm
2;
スライス厚=1.0mm;
画素数=256 x 256;
撮像方向=水平面(Horizontal);
加算回数=4;
撮像時間=6分49秒.
<結果・考察>
1.MnCaPナノ粒子複合体の緩和能の計測と既存のMnCl
2との溶液中での比較
MnCaPナノ粒子複合体とMnCl
2溶液のT
1強調画像を
図1に示す。MnCaPナノ粒子複合体の信号強度は、同じMn
2+濃度のMnCl
2溶液の信号強度とほぼ同等、またはわずかな高信号(約10〜27%)を示した。計測した縦緩和能r
1は、MnCaPナノ粒子複合体が6.5〜11.10mM
−1s
−1、MnCl
2溶液が7.30〜7.58mM
−1s
−1であり、製造したMnCaPナノ粒子複合体は、MnCl
2溶液と同等、もしくはわずかに高い造影効果を有することが確認できた。この結果より、MnCaPナノ粒子複合体が崩壊する前の状態においても、MnCl
2溶液と同程度の信号強度をもつため、その集積した部位においてMnCaPナノ粒子複合体の動態に応じた中程度のMR信号強度の上昇が期待できる。
2.皮下腫瘍モデルマウスを用いた腫瘍集積性の検証
MnCaPナノ粒子複合体の投与前および投与後4時間までの、腫瘍領域を含むマウス体幹部、ならびに腫瘍領域を拡大した1T−MR画像を
図2、3に示す。腫瘍領域における投与前の信号強度は、周囲の筋肉領域と同等であったのに対し、投与後、腫瘍内のMR信号強度は、腫瘍内がほぼ均一に中程度に上昇した(投与前の信号比で約45%上昇)。これは、投与したMnCaPナノ粒子複合体が腫瘍へ集積すると共に、毛細血管に存在するMnCaPナノ粒子複合体からの信号も寄与したためと考えられた。投与して2時間以降、腫瘍の一部領域において、極めて大きく信号が上昇した領域が観察された(投与前の信号比で約120%上昇)。これは、正常組織よりもpHが低い領域において、MnCaPナノ粒子複合体が溶解することでMn
2+が放出され、周囲のタンパク質等との相互作用により、造影効果が大きく増大したためと考えられた。Mn
2+は、タンパク質と結合することにより分子運動が制限され、緩和能が大きく向上することが報告されている(文献:Koylu MZ,Asubay S,Yilmaz A.Determination of Proton Relaxivities of Mn(II),Cu(II)and Cr(III)added to Solutions of Serum Proteins.Molecules,2009;14(4):1537−1545.)。
3.低酸素領域の検出する免疫組織染色像とMR画像の比較
MnCaPナノ粒子複合体の投与後に取得したMR画像、ならび低酸素領域を検出するためにPimonidazoleを用いて取得した免疫組織染色像を
図4に示す。MR画像において、周囲よりも信号強度が上昇している領域と、ピモニダゾール免疫組織染色像において陽性(茶色)となった低酸素・低pH領域がよく一致した。このことから、低酸素領域においてpHが低下し、使用したMnCaPナノ粒子複合体が溶解し、Mn
2+による造影効果が増大したと考えられた。
4.化学シフト画像化法による乳酸高代謝領域画像と、MR画像の比較
MnCaPナノ粒子複合体投与前に化学シフト画像化法により取得した乳酸の代謝領域画像と、MnCaPナノ粒子複合体投与後に取得した1T−MR画像を
図5に示す。化学シフト画像化法により取得した高い乳酸の分布を示す領域と、MnCaPナノ粒子複合体投与後に取得した腫瘍内のMR画像において信号強度が特異的に上昇した領域がよく一致した。このことから、嫌気性代謝により乳酸が多く生成される低酸素領域において、集積したMnCaPナノ粒子複合体が溶解することにより、Mn
2+による造影効果が増大したことが示唆された。
5.肝転移モデルマウスにおける微小腫瘍の検出
肝転移モデルマウスに対し、MnCaPナノ粒子複合体を投与前後に取得した1T−MR画像ならびに、実験終了後に摘出した肝臓実質臓器を
図6に示す。MnCaPナノ粒子複合体投与後の1T−MR画像において、正常な肝臓領域の信号が低下するとともに、腫瘍領域の信号が増加した。信号が増加した領域は、摘出臓器において、腫瘍がある領域と一致した。
正常な肝臓領域の信号変化は、MnCaPナノ粒子複合体が高集積することで、横緩和時間の短縮効果が大きくなり、Mn
2+が有する陽性造影効果が低下したと考えられる。一方、腫瘍領域に関しては、MnCaPナノ粒子複合体が集積するとともに、pHの変化に反応して、MnCaPナノ粒子複合体が溶解し、Mn
2+による増大効果が生じたと考えられる。現在、臨床において使用されているGd−EOB−DTPAは、正常肝臓領域が白く造影され、腫瘍領域はほとんど変化しないことを利用して、腫瘍を検出する。一方、MnCaPナノ粒子複合体は、腫瘍領域が白く造影され、周囲の正常組織の信号が低下することにより、より大きいコントラストが生じたMR画像が得られた。これらのことから、MnCaPナノ粒子複合体は、微小な肝転移腫瘍の検出に有用であると考えられた。さらに、MnCaPナノ粒子複合体は、長い血中半減期を有するため、血管造影効果を併せ持つ。この特徴は、腫瘍のみならず、腫瘍への栄養血管を造影し、腫瘍の特性や治療効果などを評価することに利用可能であると考えられた。
【実施例3】
【0008】
<方法>
製造したMnCaPミセル複合体のリンパ節イメージングを検討するため、作製したリンパ節転移モデルマウス(腫瘍モデルマウス)(
図8参照)に投与し、その信号変化を比較した。MRIは前臨床用永久磁石型1T−MR装置、及びプロトン用ボリュームコイルを使用した。
腫瘍モデルマウスは、メスのBALB/cマウスの左前脚裏にルシフェラーゼ遺伝子を導入したマウス乳癌細胞4T1−Luc細胞2.0×10
6/10μlを移植して作製した。実験は移植後16日後に実施した。
MR撮像は、スピンエコー法を用い、使用したパラメータは、以下の通りである。
TE=10.6ms;
TR=400ms;
FOV=40.0 x 40.0mm
2;
スライス厚=1.0mm(スライスギャップなし)
画素数=256 x 256;
撮像方向=横断面(Transaxial);
加算回数=4;
撮像時間=6分49秒
MR撮像は、MnCaPミセル複合体投与前から投与後2時間後まで、連続的に実施した。MnCaPミセル複合体は、0.22mmol/kg Mn濃度になるように調整し、マウス尾静脈より投与した。撮像時には、撮像中にマウスが動かないように、イソフルラン吸引麻酔(1.0〜2.0%)を使用した。また、マウス直腸に熱電対温度計を挿入し、自作の温水還流システムを用いて、マウスの体温を36〜37℃に保った。
<結果>
MnCaPミセル複合体の投与前、並びに投与後45分後及び60分後のリンパ節転移部を含む1T−MR画像を、
図9に示す。腫瘍領域における投与前の信号が周囲の筋肉組織と同等であったのに対し、投与後のリンパ節転移部(Metastasis;赤色矢印)のMR信号強度が上昇(白く変化)したことが分かった。これは、投与したMnCaPミセル複合体がリンパ節転移部へ集積し、放出されたマンガン造影剤ががん組織と結合し、信号増強を生じたためと考えられた。一方、正常リンパ節(Normal;黄色矢印)においても、投与後にリンパ節のごく一部に限局した信号が観察されたが、受動的な流入による極めて限局した範囲(おそらく辺縁洞及び髄質リンパ洞)に留まった。