特許第6146210号(P6146210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特許6146210絞り機構及び同絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置
<>
  • 特許6146210-絞り機構及び同絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置 図000003
  • 特許6146210-絞り機構及び同絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置 図000004
  • 特許6146210-絞り機構及び同絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146210
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】絞り機構及び同絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20170607BHJP
   G01F 1/42 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   G05D7/06 Z
   G01F1/42 B
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-178236(P2013-178236)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-46125(P2015-46125A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 智一
(72)【発明者】
【氏名】池内 慎太郎
【審査官】 加藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−117915(JP,A)
【文献】 特開2004−185169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
G01F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状部材と、
前記平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面から他方の主面へと貫通する流路と、
を備える、圧力制御式質量流量制御装置において使用される絞り機構であって、
前記流路が、
前記平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面である第1主面に開口部を有する第1部と、
前記平板状部材の2つの主面のうちの他方の主面である第2主面に開口部を有する第2部と、
を含み、
前記第1部が、前記開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間からなり、当該円柱状の形状の底面の直径が50μm以上且つ500μm以下であり、当該円柱状の形状の高さが当該直径の1.5倍以上且つ6倍以下であり、
前記第2部が、前記開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間からなり、当該円柱状の形状の底面の直径が前記第1部における前記直径よりも大きく、そして
前記第1部の円柱状の形状の軸と前記第2部の円柱状の形状の軸とが同一直線上に存在する、
絞り機構。
【請求項2】
請求項1に記載の絞り機構であって、
前記第1部と前記第2部とが直接的に連通している、
絞り機構。
【請求項3】
請求項1に記載の絞り機構であって、
前記第1部と前記第2部とを連通する空間からなる第3部が前記第1部と前記第2部との間に介在し、
前記平板状部材の主面に平行な平面による前記第3部の断面の直径が、
前記第1部との連通部分においては前記平板状部材の主面に平行な平面による前記第1部の断面の直径に等しく、
前記第2部に近付くほど漸増し、
前記第2部との連通部分においては前記平板状部材の主面に平行な平面による前記第2部の断面の直径に等しい、
絞り機構。
【請求項4】
請求項3に記載の絞り機構であって、
前記第1部の円柱状の形状の軸及び前記第2部の円柱状の形状の軸を通る平面による前記第3部の内壁面の断面形状が直線である、
絞り機構。
【請求項5】
請求項3に記載の絞り機構であって、
前記第1部の円柱状の形状の軸及び前記第2部の円柱状の形状の軸を通る平面による前記第3部の内壁面の断面形状が、前記第3部の外部に向かって凸状の円弧である、
絞り機構である。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の絞り機構であって、
前記圧力制御式質量流量制御装置によって流量が制御される流体の流れにおいて、前記第1部が上流側、前記第2部が下流側となるように配設される、
絞り機構。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の絞り機構が流体の供給経路に介装されてなる圧力制御式質量流量制御装置であって、
前記供給経路の前記絞り機構よりも上流側における圧力である入り側圧力P1を検出する圧力検出手段、前記入り側圧力P1を調節する圧力調節手段、及び前記圧力調節手段を操作して前記入り側圧力P1を制御する圧力制御手段を備え、
前記圧力制御手段が、
前記絞り機構について予め求められた入り側圧力P1と前記流体の流量Qとの関係に基づき、前記圧力検出手段によって検出された入り側圧力P1から流量Qを求め、
前記圧力調節手段を操作することにより、前記圧力制御手段によって求められた流量Qが予め設定された目標値に近付くように入り側圧力P1を制御する、
圧力制御式質量流量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量流量制御装置に関する。より具体的には、本発明は、圧力制御式質量流量制御装置において使用される絞り機構に関する。更に、本発明は、当該絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、様々な産業において製造工程の精密化が益々進んでいる。例えば半導体製造設備等においては、微細加工技術の発展と共に高集積化が進み、半導体製造プロセスの微細化に伴い、ウェハ上に形成される薄膜の制御が益々重要となってきている。一般に、かかる薄膜の成長制御はプロセスガス等の微少流量制御によって行われる。従って、かかる製造過程において使用されるプロセスガス等の流体の流量制御においては、正確な質量流量の制御が必要とされる。そこで、当該技術分野においては、プロセスガス等の質量流量を正確に制御するための手段として、質量流量制御装置(マスフローコントローラ)が従来多用されている。
【0003】
質量流量制御装置においてプロセスガス等の流体の流量を検出するための手段としては、例えば熱式質量流量センサが広く使用されてきた。しかしながら、熱式質量流量センサには、例えば汎用性が高い等の長所がある一方、応答速度が比較的遅い、低流量域における制御精度が低い、製造コストが高い等の短所も認められている。
【0004】
そこで、当該技術分野においては、質量流量制御装置として音速ノズルを利用し、その上流側流体圧力P1に対する下流側流体圧力P2の比P2/P1を臨界圧力比以下に保持して音速流を形成することにより、一定の質量流量で流体を供給する技術が提案されている。かかる従来技術によれば、P2/P1を臨界圧力比以下に保持して音速流を形成すれば、音速ノズルの流出係数Cdが一定となる領域(レイノルズ数が10以上の領域)においては、下流側の流体の圧力、温度等の流体条件に影響されずに、一定の質量流量にて流体を供給することができる。
【0005】
但し、レイノルズ数が10未満の領域(微少流領域)においては、音速ノズルの流出係数Cdが一定とならず、レイノルズ数の変化に応じて、非線形且つ大幅に変化する。そのため、かかる微少流領域において音速ノズルを使用して質量流量制御を正確に行うことは困難であることが知られている。
【0006】
そこで、当該技術分野においては、微少流領域におけるレイノルズ数と実際の流出係数Cdとの対応関係を予め求めておき、音速ノズルの上流側の流体の圧力及び温度から算出されるレイノルズ数に基づいて実際の流出係数Cdを算出し、実際の質量流量を高い精度にて算出し、斯くして算出された実際の質量流量に基づいて質量流量制御を正確に行う技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。あるいは、金属薄板に微小な孔を穿設してなるオリフィス(以降、「ピンホール付き薄板」と呼称される場合がある)を音速ノズルの代わりに使用することにより、微少流領域における実際の質量流量を高い精度にて算出し、斯くして算出された実際の質量流量に基づいて質量流量制御を正確に行う技術も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2837112号公報
【特許文献2】特許第3291161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、当業者には周知であるように、音速ノズルは所謂ベンチュリノズルであり、少なくとも流体(ガス)が当該ノズルに流入する入口からスロート部に至る流路の内壁面の形状を内側に向かって凸状であり且つ入口からスロート部に向かって流路が徐々に狭くなるように加工する必要がある。音速ノズルによって質量流量制御を正確に行うためには、かかる形状を高い精度にて形成する必要があり、音速ノズルの製造コストの増大要因となっている。また、上述したように金属薄板に微小な孔を穿設してなるオリフィスは、音速ノズルと比較すれば加工が容易であるものの、金属薄板に微小な孔を穿設する際に孔の周縁部にバリが生じたり、金属薄板が変形又は破損したりする虞があり、高い製造歩留まりを確保することが困難である。更に、オリフィスの装着又は交換の際に金属薄板が変形又は破損したり、使用時に流体の圧力によって金属薄板が変形したりする虞があり、高い信頼性を確保することが困難である。
【0009】
以上のように、当該技術分野においては、圧力制御式質量流量制御装置において使用される高い生産性及び信頼性を備える絞り機構に対する要求が存在する。従って、本発明は、圧力制御式質量流量制御装置において使用される高い生産性及び信頼性を備える絞り機構を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記1つの目的は、
平板状部材と、
前記平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面から他方の主面へと貫通する流路と、
を備える、圧力制御式質量流量制御装置において使用される絞り機構であって、
前記流路が、
前記平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面である第1主面に開口部を有し、相対的に小さい断面積を有する第1部と、
前記平板状部材の2つの主面のうちの他方の主面である第2主面に開口部を有し、相対的に大きい断面積を有する第2部と、
を含み、
前記第1部が、前記開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間からなり、当該円柱状の形状の底面の直径が50μm以上且つ500μm以下であり、当該円柱状の形状の高さが当該直径の1.5倍以上且つ6倍以下であり、
前記第2部が、前記開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間からなり、当該円柱状の形状の底面の直径が前記第1部における前記直径よりも大きく、そして
前記第1部の円柱状の形状の軸と前記第2部の円柱状の形状の軸とが同一直線上に存在する、
絞り機構によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧力制御式質量流量制御装置において使用される高い生産性及び信頼性を備える絞り機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の幾つかの実施態様に係る絞り機構の流路の中心軸を通る平面による断面を表す模式図である。
図2】本発明の幾つかの実施態様に係る絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御試験によって得られた種々の流体(ガス)の上流側圧力(入り側圧力)P1と流量Qとの対応関係を表すグラフである。
図3】本発明の1つの実施態様に係る絞り機構を流体(ガス)の供給路に介装する際の当該絞り機構の向きの違いを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述したように、当該技術分野においては、音速ノズル又はピンホール付き薄板を絞り機構として使用する質量流量制御装置が既に提案されている。しかしながら、前述したように、音速ノズルは、流路の内壁面の形状を高い精度にて加工する必要があり、製造コストが高い。また、ピンホール付き薄板は、金属薄板が変形又は破損し易く、高い生産性及び信頼性を確保することが困難である。
【0014】
そこで、本発明者は、圧力制御式質量流量制御装置において使用される高い生産性及び信頼性を備える絞り機構を提供すべく鋭意研究を行ってきた。その過程においては、製造時及び使用時における変形又は破損を抑制するのに十分な厚みを有する平板状部材に微小な孔を穿設してなるオリフィスも想定された。しかしながら、大きい厚みを有する平板状部材に微小な孔を穿設するためには、例えば、極めて高い強度を有する工具が必要とされたり、孔の加工精度を確保することが困難であったりする。
【0015】
そこで、更なる研究の結果、本発明者は、製造時及び使用時における変形又は破損を抑制するのに十分な厚みを有する平板状部材に設けられる流体の流路において、相対的に小さい断面積を有する第1部と相対的に大きい断面積を有する第2部とを同軸状に設けると共に、第1部の断面直径に対する長さ(孔の深さ)の比を所定の範囲内に収めることにより、圧力制御式質量流量制御装置において使用される高い生産性及び信頼性を備える絞り機構を提供することができることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0016】
即ち、本発明の第1の実施態様は、
平板状部材と、
前記平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面から他方の主面へと貫通する流路と、
を備える、圧力制御式質量流量制御装置において使用される絞り機構であって、
前記流路が、
前記平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面である第1主面に開口部を有し、相対的に小さい断面積を有する第1部と、
前記平板状部材の2つの主面のうちの他方の主面である第2主面に開口部を有し、相対的に大きい断面積を有する第2部と、
を含み、
前記第1部が、前記開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間からなり、当該円柱状の形状の底面の直径が50μm以上且つ500μm以下であり、当該円柱状の形状の高さが当該直径の1.5倍以上且つ6倍以下であり、
前記第2部が、前記開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間からなり、当該円柱状の形状の底面の直径が前記第1部における前記直径よりも大きく、そして
前記第1部の円柱状の形状の軸と前記第2部の円柱状の形状の軸とが同一直線上に存在する、
絞り機構である。
【0017】
上記のように、本実施態様に係る絞り機構は、圧力制御式質量流量制御装置において使用される。当該絞り機構は、質量流量を制御すべき流体(ガス)の供給経路に介装され、例えば、当該供給経路における当該絞り機構よりも上流側における流体の圧力に基づき、流体の質量流量が制御される。また、当該絞り機構は、当該絞り機構又は当該絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置の製造時及び使用時における変形又は破損を抑制するのに十分な厚みを有する平板状部材と、当該平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面から他方の主面へと貫通する流路と、を備える。
【0018】
平板状部材の厚みは、当該絞り機構又は当該絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置の製造時及び使用時における変形又は破損を抑制するのに十分な強度を平板状部材が有する限り、特に限定されない。典型的には、平板状部材の厚みは、3.0mm以上且つ8.0mm以下の範囲にある。更に、平板状部材を構成する材料は、当該絞り機構又は当該絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置の製造時及び使用時における変形又は破損を抑制するのに十分な強度を有し、且つ当該絞り機構が備える流路を通過する流体との意図せぬ反応を生じない限り、特に限定されない。典型的は、平板状部材を構成する材料は、例えば、ステンレス鋼である。
【0019】
加えて、上記平板状部材に設けられる流路は、当該平板状部材の2つの主面のうちの一方の主面である第1主面に開口部を有すると共に相対的に小さい断面積を有する第1部と、当該平板状部材の2つの主面のうちの他方の主面である第2主面に開口部を有すると共に相対的に大きい断面積を有する第2部と、を含む。即ち、本実施態様に係る絞り機構においては、上記平板状部材に設けられる流路が、当該平板状部材の第1主面にて開口する第1部と、当該平板状部材の第2主面にて開口する第2部とを含み、当該第1部の断面積は当該第2部の断面積よりも小さい。従って、本実施態様に係る絞り機構において絞り機構としての機能を実質的に発揮するのは第1部であると言うことができる。
【0020】
第1部の断面(即ち、平板状部材の第1主面に平行な平面による第1部の断面)の面積は、例えば、本実施態様に係る絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置によって流量を制御される流体(ガス)の目標流量、粘性等に応じて適宜設定することができる。具体的には、制御対象となる流体の目標流量が小さいほど、又は制御対象となる流体の粘度が小さいほど、第1部の断面積を小さく設定することができる。例えば、半導体製造設備におけるプロセスガスの微少流量制御等においては、絞り機構の断面の直径を数百μm以下に設定することが一般的である。ところで、第1部の長さ(即ち、平板状部材の第1主面に直交する方向における第1部の大きさ)は、平板状部材の第1部の側壁を構成する部分の厚みに相当する。
【0021】
従って、第1部の長さを第1部の断面の直径と同程度とすると、前述したピンホール付き薄板のように、平板状部材の第1部の側壁を構成する部分の機械的強度が低下し、製造時及び使用時に変形又は破損し易くなり、高い生産性及び信頼性を確保することが困難となる。一方、第1部の長さを第1部の断面の直径に対して過剰に大きくすると、前述したように、例えば、極めて高い強度を有する工具が必要となったり、孔の加工精度を確保することが困難となったりする。
【0022】
そこで、本実施態様に係る絞り機構においては、平板状部材の第1主面における開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間として第1部を形成し、当該円柱状の形状の底面の直径を50μm以上且つ500μm以下とし、且つ当該円柱状の形状の高さを当該直径の1.5倍以上且つ6倍以下とした。かかる構成により、本実施態様に係る絞り機構においては、例えば、上記のように、平板状部材の第1部の側壁を構成する部分が薄すぎて製造時及び使用時に変形又は破損し易くなったり、逆に平板状部材の第1部の側壁を構成する部分が厚すぎて、極めて高い強度を有する工具が必要となったり、孔の加工精度を確保することが困難となったりする問題を回避することができる。
【0023】
また、本実施態様に係る絞り機構においては、平板状部材の第2主面における開口部を底面とする円柱状の形状を有する空間として第2部を形成し、当該円柱状の形状の底面の直径を第1部における円柱状の空間の底面の直径よりも大きくした。第2部における円柱状の空間の底面の直径(断面直径)は、当該絞り機構又は当該絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置の製造時及び使用時における変形又は破損を抑制するのに十分な強度を平板状部材が有する限り、特に限定されない。典型的には、第2部の断面直径は、1.0mm以上且つ3.0mm以下の範囲にある。
【0024】
上記のような構成により、本実施態様に係る絞り機構においては、平板状部材の全体としての厚みに亘って微小な孔を穿設する必要が無いので、例えば、前述したような極めて高い強度を有する工具が必要とされたり、孔の加工精度を確保することが困難であったりする問題を回避することができる。加えて、本実施態様に係る絞り機構においては、平板状部材の全体としての厚み及び機械的強度を増大させることができるので、例えば、当該絞り機構の装着又は交換等の際に平板状部材が変形又は破損する虞を低減することができる。
【0025】
更に、本実施態様に係る絞り機構においては、第1部の円柱状の形状の軸と第2部の円柱状の形状の軸とが同一直線上に存在するように構成した。これにより、本実施態様に係る絞り機構が備える流路を通過する流体(ガス)の流れにおいて意図せぬ偏り及び/又は乱れ等が生ずることを低減することができ、結果として、本実施態様に係る絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置による流量制御を容易且つ高精度にすることができる。但し、ここで言う「同一直線上」とは、例えば加工上の誤差等をも排除するほど厳密に解釈されるべきではない。即ち、本実施態様に係る絞り機構においては、加工上の誤差等により第1部の円柱状の形状の軸と第2部の円柱状の形状の軸とが僅かにずれる場合も想定される。
【0026】
尚、上記説明においては、第1部及び第2部の(平板状部材の主面に平行な平面による)断面の形状が円である場合について説明したが、これらの形状は必ずしも円である必要は無く、例えば、楕円、多角形等、種々の形状とすることができる。但し、これらの断面の形状は、加工の容易さという観点からは、例えばドリル、エンドミル等によって容易に加工することができる円形であることが望ましい。
【0027】
ところで、本実施態様に係る絞り機構が備える流路に含まれる第1部と第2部とが直接的に連通していてもよい。この場合、例えば、第1部を構成する円柱状の空間の上面(底面とは反対側の面)と第2部を構成する円柱状の空間の上面(底面とは反対側の面)とが同一平面内に存在する。一方、本実施態様に係る絞り機構が備える流路に含まれる第1部と第2部とが間接的に連通していてもよい。この場合、例えば、第1部と第2部とを連通する空間からなる第3部が第1部と第2部との間に介在し、平板状部材の主面に平行な平面による当該第3部の断面の直径が、第1部との連通部分においては平板状部材の主面に平行な平面による第1部の断面の直径に等しく、第2部に近付くほど漸増して、第2部との連通部分においては平板状部材の主面に平行な平面による第2部の断面の直径に等しくなっていてもよい。
【0028】
また、かかる第3部の断面の直径の漸増パターンは直線的であっても曲線的であってもよい。換言すれば、第1部の円柱状の形状の軸及び第2部の円柱状の形状の軸を通る平面による第3部の内壁面の断面形状は直線であっても曲線であってもよい。後者の場合、例えば、当該曲線は第3部の外部に向かって凸状の円弧であってもよい。更に、当該曲線が円弧である場合、円弧に対応する半径は第2部の断面の半径と同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
以上のように、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る絞り機構であって、
前記第1部と前記第2部とが直接的に連通している、
絞り機構である。
【0030】
本実施態様に係る絞り機構は、例えば、先ず平板状部材の第1主面側から第1部に該当する相対的に小さい断面積を有する空間(孔)を所定の深さに穿設しておき、次いで平板状部材の第2主面側から第2部に該当する相対的に大きい断面積を有する空間(孔)を所定の深さ(平板状部材の厚みから第1部の長さを差し引いた長さに相当)に穿設する際にフラットエンドミルを使用することにより、容易に製造することができる。
【0031】
ここで、添付図面を参照しながら、本実施態様に係る絞り機構の構成の一例について、更に詳しく説明する。図1は、前述したように、本発明の幾つかの実施態様に係る絞り機構の流路の中心軸を通る平面による断面を表す模式図である。図1に示される(a)乃至(c)のうち、本実施態様に係る絞り機構に該当するのは(a)であり、流路の第1部の開口部の近傍の拡大図が右側に示されている。具体的には、図1の(a)に示される絞り機構100は、厚みTを有する平板状部材110の図1に向かって左側の主面(第1主面111)に開口部を有する直径D1及び長さL1を有する円柱状の空間によって規定される第1部121と、向かって右側の主面(第2主面112)に開口部を有する直径D2を有する円柱状の空間によって規定される第2部122と、からなる流路120を備える。第1部121において、長さL1(円柱の高さに該当する)の直径D1(円柱の底面の直径に該当する)に対する比は、前述したように、1.5倍以上且つ6倍以下である。また、第2部122の直径D2は、第1部121の直径D1よりも大きい。
【0032】
一方、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る絞り機構であって、
前記第1部と前記第2部とを連通する空間からなる第3部が前記第1部と前記第2部との間に介在し、
前記平板状部材の主面に平行な平面による前記第3部の断面の直径が、
前記第1部との連通部分においては前記平板状部材の主面に平行な平面による前記第1部の断面の直径に等しく、
前記第2部に近付くほど漸増し、
前記第2部との連通部分においては前記平板状部材の主面に平行な平面による前記第2部の断面の直径に等しい、
絞り機構である。
【0033】
また、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第3の実施態様に係る絞り機構であって、
前記第1部の円柱状の形状の軸及び前記第2部の円柱状の形状の軸を通る平面による前記第3部の内壁面の断面形状が直線である、
絞り機構である。
【0034】
本実施態様に係る絞り機構は、例えば、先ず平板状部材の第1主面側から第1部に該当する相対的に小さい断面積を有する空間(孔)を所定の深さに穿設しておき、次いで平板状部材の第2主面側から第2部に該当する相対的に大きい断面積を有する空間(孔)を所定の深さ(平板状部材の厚みから第1部の長さを差し引いた長さに相当)に穿設する際に、第1部及び第2部の円柱状の形状の軸と第3部の内壁面とがなす角度に等しい刃先角を有するドリルを使用することにより、容易に製造することができる。
【0035】
ここで、再び図1を参照しながら、本実施態様に係る絞り機構の構成の一例について、更に詳しく説明する。図1に示される(a)乃至(c)のうち、本実施態様に係る絞り機構に該当するのは(b)であり、流路の第1部の開口部の近傍の拡大図が右側に示されている。図1の(b)に示される絞り機構100は、厚みTを有する平板状部材110の図1に向かって左側の主面(第1主面111)に開口部を有する直径D1及び長さL1を有する円柱状の空間によって規定される第1部121と、向かって右側の主面(第2主面112)に開口部を有する直径D2を有する円柱状の空間によって規定される第2部122と、を含む流路120を備え、第1部121における長さL1(円柱の高さに該当する)の直径D1(円柱の底面の直径に該当する)に対する比が1.5倍以上且つ6倍以下であり、第2部122の直径D2が第1部の直径D1よりも大きい点については、上述した図1の(a)に示される絞り機構100と同様の構成を有する。
【0036】
上記に加えて、図1の(b)に示される絞り機構100においては、第1部121と第2部122とを連通する空間からなる第3部123が第1部121と第2部122との間に介装されている。また、平板状部材110の主面に平行な平面による第3部の断面は、第1部121との連通部分においては第1部121の断面と同じ大きさ及び形状であり、第2部122との連通部分においては第2部122の断面と同じ大きさ及び形状である。更に、第3部123の断面の直径は、第1部121との連通部分においては第1部121の断面の直径に等しく、第2部122との連通部分においては第2部122の断面の直径に等しい。尚、図1の(b)に示される絞り機構100においては、第3部123の断面の大きさが、第1部121との連通部分から第2部122との連通部分へと近付くほど直線的に漸増する。即ち、図1の(b)に示される絞り機構100が備える流路120に含まれる第3部123を構成する空間は、図1の(b)からも明らかであるように、第1部121との連通部分における断面を上面とし、第2部122との連通部分における断面を底面とする、円錐台状の形状を有する。
【0037】
更に、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第3の実施態様に係る絞り機構であって、
前記第1部の円柱状の形状の軸及び前記第2部の円柱状の形状の軸を通る平面による前記第3部の内壁面の断面形状が、前記第3部の外部に向かって凸状の円弧である、
絞り機構である。
【0038】
本実施態様に係る絞り機構は、例えば、先ず平板状部材の第1主面側から第1部に該当する相対的に小さい断面積を有する空間(孔)を所定の深さに穿設しておき、次いで平板状部材の第2主面側から第2部に該当する相対的に大きい断面積を有する空間(孔)を所定の深さ(平板状部材の厚みから第1部の長さを差し引いた長さに相当)に穿設する際にボールエンドミルを使用することにより、容易に製造することができる。
【0039】
ここで、再び図1を参照しながら、本実施態様に係る絞り機構の構成の一例について、更に詳しく説明する。図1に示される(a)乃至(c)のうち、本実施態様に係る絞り機構に該当するのは(c)であり、流路の第1部の開口部の近傍の拡大図が右側に示されている。図1の(c)に示される絞り機構100もまた、厚みTを有する平板状部材110の図1に向かって左側の主面(第1主面111)に開口部を有する直径D1及び長さL1を有する円柱状の空間によって規定される第1部121と、向かって右側の主面(第2主面112)に開口部を有する直径D2を有する円柱状の空間によって規定される第2部122と、を含む流路120を備え、第1部121における長さL1(円柱の高さに該当する)の直径D1(円柱の底面の直径に該当する)に対する比が1.5倍以上且つ6倍以下であり、第2部122の直径D2が第1部121の直径D1よりも大きい点については、上述した図1の(a)に示される絞り機構と同様の構成を有する。
【0040】
上記に加えて、図1の(c)に示される絞り機構100においては、第1部121と第2部122とを連通する空間からなる第3部123が第1部121と第2部122との間に介装されており、平板状部材110の主面に平行な平面による第3部123の断面が、第1部121との連通部分においては第1部121の断面と同じ大きさ及び形状であり、第2部122との連通部分においては第2部122の断面と同じ大きさ及び形状である点においては、上述した図1の(b)に示される絞り機構100と同様である。但し、図1の(c)に示される絞り機構100においては、第3部123の内壁面の断面形状が、第3部123の外部に向かって凸状の円弧である。即ち、図1の(c)に示される絞り機構100が備える流路120に含まれる第3部123を構成する空間は、図1の(c)からも明らかであるように、第2部122との連通部分における断面を底面とし且つ半径R2を有する略半球状の形状を有する。かかる構成においては、第1部121の中心軸と第3部123の中心軸とがずれた際に生ずる逃げ角(この場合、第1部121の内壁と第3部123の内壁とがなす角を指す)の変化が小さいという利点がある。
【0041】
ところで、本発明者は、本発明の前述した目的を達成すべく鋭意研究を重ねる過程において、本発明に係る絞り機構を通して流体(ガス)を流す際に、当該絞り機構の向きにより、同じ条件下であっても流体の流量及び温度変化が異なることを見出した。より具体的には、相対的に小さい断面積を有する第1部が上流側になり且つ相対的に大きい断面積を有する第2部が下流側になる向きに本発明に係る絞り機構を配設した場合、逆の向きに当該絞り機構を配設した場合と比較して、同じ圧力条件下における流体の流量がより大きく、また当該絞り機構を通過する際の温度低下がより小さい。
【0042】
従って、本発明の第6の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第5の実施態様の何れか1つに係る絞り機構であって、
前記圧力制御式質量流量制御装置によって流量が制御される流体の流れにおいて、前記第1部が上流側、前記第2部が下流側となるように配設される、
絞り機構である。
【0043】
上述したように、本実施態様に係る絞り機構は、相対的に小さい断面積を有する第1部が上流側になり且つ相対的に大きい断面積を有する第2部が下流側になる向きに配設されるので、逆の向きに当該絞り機構を配設した場合と比較して、同じ圧力条件下における流体の流量がより大きく、また当該絞り機構を通過する際の温度低下がより小さい。従って、本実施態様に係る絞り機構は、例えば、温度低下に伴う凝縮(液化)が懸念される気体の流量制御を行う場合において非常に有用である。
【0044】
以上、本発明の幾つかの実施態様に係る絞り機構の構成等について説明してきたが、本発明は、これらの絞り機構に代表される各種絞り機構のみならず、かかる絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御装置をも包含する。
【0045】
即ち、本発明の第7の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る絞り機構が流体の供給経路に介装されてなる圧力制御式質量流量制御装置であって、
前記供給経路の前記絞り機構よりも上流側における圧力である入り側圧力P1を検出する圧力検出手段、前記入り側圧力P1を調節する圧力調節手段、及び前記圧力調節手段を操作して前記入り側圧力P1を制御する圧力制御手段を備え、
前記圧力制御手段が、
前記絞り機構について予め求められた入り側圧力P1と前記流体の流量Qとの関係に基づき、前記圧力検出手段によって検出された入り側圧力P1から流量Qを求め、
前記圧力調節手段を操作することにより、前記圧力制御手段によって求められた流量Qが予め設定された目標値に近付くように入り側圧力P1を制御する、
圧力制御式質量流量制御装置である。
【0046】
上記のように、本実施態様に係る圧力制御式質量流量制御装置においては、本発明の前記第1乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る絞り機構が、流体の供給経路に介装される。ここで、本発明の前記第1乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る絞り機構の構成等については、それぞれの実施態様について既に説明したので、ここでは説明を繰り返さない。
【0047】
また、本実施態様に係る圧力制御式質量流量制御装置は、前記供給経路の前記絞り機構よりも上流側における圧力である入り側圧力P1を検出する圧力検出手段、前記入り側圧力P1を調節する圧力調節手段、及び前記圧力調節手段を操作して前記入り側圧力P1を制御する圧力制御手段を備える。上記圧力検出手段は、前記供給経路の前記絞り機構よりも上流側における圧力である入り側圧力P1を検出することが可能である限り如何なる構成を有していてもよい。かかる圧力検出手段の具体例としては、例えば歪みゲージ式ダイヤフラム圧力センサ、静電容量式ダイヤフラム圧力センサ等のダイヤフラム圧力センサ等が挙げられる。
【0048】
上記圧力調節手段は、前記入り側圧力P1を調節すること、即ち前記入り側圧力P1を増大させたり減少させたり特定の圧力に維持したりすることが可能である限り如何なる構成を有していてもよい。例えば、上記圧力調節手段は、上記絞り機構よりも上流側の供給経路における流体の流れに対する抵抗(例えば絞り抵抗)の増減により入り側圧力P1を間接的に調節してもよい。かかる圧力調整手段の具体例としては、例えば絞り弁等が挙げられる。
【0049】
上記圧力制御手段は、前記圧力調節手段を操作して前記入り側圧力P1を制御することが可能である限り如何なる構成を有していてもよい。例えば、上記圧力調整手段が絞り弁である場合、上記圧力制御手段は、当該絞り弁の開度を調節する駆動源(例えばアクチュエータ等)を操作することにより入り側圧力P1を制御することができる。かかる圧力制御手段の具体例としては、例えば、絞り弁等の駆動源の動作を制御する制御信号(指示信号)を発することができる電子制御装置(例えばマイコン等)等が挙げられる。
【0050】
また、本実施態様に係る圧力制御式質量流量制御装置においては、前記圧力制御手段が、前記絞り機構について予め求められた入り側圧力P1と前記流体の流量Qとの関係に基づき、前記検出手段によって検出された入り側圧力P1から流量Qを求め、前記制御手段によって求められた流量Qが予め設定された目標値に近付くように、入り側圧力P1を制御する。より具体的には、使用される絞り機構について、入り側圧力P1と使用される流体の流量Qとの関係を、例えば事前実験等によって予め求めておく。斯くして求められた入り側圧力P1と流体の流量Qとの関係は、例えば、入り側圧力P1と流体の流量Qとの対応関係を表すデータテーブル(例えばデータマップ等)、関数等として、例えば圧力制御手段としての電子制御装置が備えるデータ記憶装置(例えばROM等)に格納しておくことができる。
【0051】
そして、上記圧力制御手段は、斯くして格納された入り側圧力P1と流体の流量Qとの関係に基づき、圧力検出手段によって検出された入り側圧力P1に対応する流量Qを特定することができる。このように圧力検出手段によって検出された入り側圧力P1に対応する流量Qを特定する処理は、例えば、当該処理に対応するプログラムに基づいて、圧力制御手段としての電子制御装置が備えるCPUに実行させることができる。斯くして、上記圧力制御手段は、上記圧力検出手段によって検出された入り側圧力P1から流量Qを求めることができる。
【0052】
更に、上記圧力制御手段は、(例えば上述したように制御信号を発する等して)前記圧力調節手段を操作することにより、前記圧力制御手段によって求められた流量Qが予め設定された目標値に近付くように入り側圧力P1を制御する。ここで、流量Qの予め設定された目標値は、本実施態様に係る圧力制御式質量流量制御装置が使用される用途に応じて適宜設定され得ることは言うまでも無い。
【0053】
以下、本発明の幾つかの実施態様に係る絞り機構の構成等につき、時に添付図面を参照しながら、更に詳しく説明する。但し、以下に述べる説明はあくまでも例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0054】
1.本発明に係る絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御
本実施例においては、本発明の1つの実施態様に係る絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御について説明する。
【0055】
(1)本発明に係る絞り機構の製造
本実施例においては、平板状部材として、4mmの厚みTを有するステンレス鋼製の板材を採用した。ドリルを用いて、当該平板状部材の一方の面(第1主面)に対して垂直に、250μmの直径D1及び750μmの深さ(長さ)L1を有する円柱状の孔を、流体(ガス)の流路に含まれる第1部として穿設した。一方、当該平板状部材の他方の面(第2主面)においては、上記第1部と同軸状に、2mmの直径D2を有する円柱状の孔を、流体(ガス)の流路に含まれる第2部として穿設した。尚、第2部の穿設においてはボールミルを使用し、第2部の先端に形成される半球状の空間の最先端部近傍において、第2部の内壁と第1部の側面の内壁とが交わるようにした。即ち、第2部の先端に形成される半球状の空間の半径R2は1mmである。
【0056】
同様に、第1部の直径及び長さがそれぞれ350μm及び1050μm並びに500μm及び1500μmである絞り機構も製造した。即ち、本実施態様において製造した3種類の絞り機構の第1部の直径はそれぞれ250μm、350μm、及び500μmである。また、何れの絞り機構においても、第1部の長さL1の直径D1に対する比(L1/D1)は3.0とし、第2部の直径D2及び第2部の先端に形成される半球状の空間の半径R2はそれぞれ2mm及び1mmとした。斯くして製造された各種絞り機構を、流体(ガス)の供給源側と供給先側とを連通する流体供給路にそれぞれ介装した。
【0057】
(2)本発明に係る絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御試験
上述した流体供給路において圧力制御式質量流量制御試験を行った。具体的には、上述した流体供給路において、絞り機構よりも下流側圧力(二次圧P2)を高真空に維持し、上流側圧力(入り側圧力)P1と流量(Q)との対応関係を調べた。尚、流体(ガス)としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、及びパーフルオロシクロブタン(C)を使用した。尚、流量(Q)としては、絞り機構の上流側に設けた熱式質量流量計を用いて、質量流量(単位:sccm)を求めた。
【0058】
(3)圧力制御式質量流量制御試験の結果
上述した圧力制御式質量流量制御試験によって得られた上流側圧力(入り側圧力)P1と流量(Q)との対応関係を図2に示す。図2は、前述したように、本発明の幾つかの実施態様に係る絞り機構を使用する圧力制御式質量流量制御試験によって得られた種々の流体(ガス)の入り側圧力(上流側圧力)P1と流量Qとの対応関係を表すグラフである。より詳細には、図2の(a)、(b)、及び(c)は、第1部の直径D1が、それぞれ250μm、350μm、及び500μmである場合のグラフである。
【0059】
図2に示されるように、第1部の直径D1が大きくなるほど、同じ入り側圧力P1における流量Qが大きくなった。また、何れの直径D1においても、また何れの流体(ガス)においても、流量Qは入り側圧力P1によって一意に定まった。即ち、本発明に係る絞り機構は、圧力制御式質量流量制御装置における絞り機構として良好に使用することができることが確認された。
【実施例2】
【0060】
2.本発明に係る絞り機構の装着時の向きによる性能の違い
本実施例においては、本発明の1つの実施態様に係る絞り機構を圧力制御式質量流量制御装置に装着する際の当該絞り機構の向きによる性能の違いについて説明する。
【0061】
(1)絞り機構の装着時の向き
先ず、絞り機構の装着時の向きの呼称を定義する。図3は、前述したように、本発明の1つの実施態様に係る絞り機構を流体(ガス)の供給路に介装する際の当該絞り機構の向きの違いを説明する模式図である。図3において、破線の矢印は、流体(ガス)が流れる方向を表している。図3に示されるように、入り側ガス配管310と出側ガス配管320との間にパッキン(黒丸によって示されている)を介して絞り機構300を挟むことにより、流体供給路に絞り機構300を介装した。尚、図3において、入り側ガス温度センサ311及び出側ガス温度センサ321は、それぞれ、絞り機構よりも上流側及び下流側の流体(ガス)の温度(それぞれ、T1及びT2)を検出する温度センサである。
【0062】
図3の(a)においては、流体(ガス)が流れる方向において、絞り機構が備える流路に含まれる第1部(即ち、断面積が小さい領域)が上流側に位置している。本実施例においては、絞り機構のかかる装着状態を「正方向」と呼称する。一方、図3の(b)においては、流体(ガス)が流れる方向において、絞り機構が備える流路に含まれる第1部が下流側に位置している。本実施例においては、絞り機構のかかる装着状態を「逆方向」と呼称する。
【0063】
(2)絞り機構の装着時の向きによる性能の違い
本実施例においては、D1=250μm、L1/D1=3.0の絞り機構を採用し、正方向及び逆方向での装着時における流体(本実施例においては窒素ガスを使用した)の流れ易さ及び絞り機構の前後での流体の温度の低下幅を評価した。尚、流体(ガス)の流れ易さを示す指標としては、流体(ガス)の上流側圧力(入り側圧力)P1)と流量Qとの対応関係を表すグラフにおける直線部分の傾きを使用した。また、絞り機構の前後での流体の温度の低下幅は、上述した入り側ガス温度センサ311によって検出される上流側の流体(ガス)の温度T1から出側ガス温度センサ321によって検出される下流側の流体(ガス)の温度T2を減算することによって算出した。これらの評価結果を以下の表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示される評価結果から明らかであるように、絞り機構を正方向に装着した場合と比較して、絞り機構を逆方向に装着した場合は、流体(ガス)の上流側圧力(入り側圧力)P1と流量Qとの対応関係を表すグラフにおける直線部分の傾きがより小さく、絞り機構の前後での流体の温度の低下幅(T1−T2)がより大きい。即ち、かかる現象が発生する詳細な原因は不明ではあるものの、絞り機構を逆方向に装着すると、絞り機構を正方向に装着した場合よりも、同じ条件下であっても、流体(ガス)が流れ難くなり、絞り機構に設けられた流路を通過する前後での流体(ガス)の温度低下が著しくなることが確認された。
【0066】
尚、厳密には、絞り機構の装着方向により実質的な絞り機構である第1部の位置が変化するため、単に絞り機構の装着方向を変化させただけでは、第1部の開口部と出側ガス温度センサ321との間の距離が変化する。そこで、出側ガス温度センサ321の配設位置を変化させて同様の実験を行ったが、かかる実験においても上記と同様の傾向が認められた。従って、上記現象は第1部の開口部と出側ガス温度センサ321との間の距離の違いに起因するのではなく、絞り機構の装着方向に起因すると考えられる。
【0067】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0068】
100…絞り機構、110…平板状部材、111…第1主面、112…第2主面、120…流路、121…第1部、122…第2部、123…第3部、300…絞り機構、310…入り側ガス配管、311…入り側ガス温度センサ、320…出側ガス配管、及び321…出側ガス温度センサ。
図1
図2
図3