(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照しながら、本発明の実施の形態による多結晶CaF
2(フッ化カルシウム)部材の一例であるフォーカスリングについて説明する。本実施の形態のフォーカスリングは、プラズマ処理装置に用いられる部材であり、多結晶CaF
2から製造された複数の部分部材が圧着により接合されることにより製造される。なお、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
【0009】
図1に実施の形態によるフォーカスリング1の構成を示す。
図1(a)に示すように、フォーカスリング1は、3つの部分部材2を接合してなる組み合わせ体であり、環状に形成されている。フォーカスリング1を構成する1つの部分部材2は、
図1(b)に示す形状を有する。部分部材2は、他の部分部材2と接合される接合面21と、段差部22とを有し、3つの部分部材2が接合面21を介して接合されることでフォーカスリング1が形成される。フォーカスリング1は、被処理物をプラズマ処理装置でプラズマエッチングする際、非均一なプラズマ分布によって起こる被処理物のエッチング速度の非均一性を低減させるために、被処理物の周囲に設けられる部材である。また、段差部22で被処理物を支持することができるので、被処理物を移動させる際やハンドリングの際の支持具としても用いられる。被処理物がドライエッチング工程においてプラズマに暴露される際には、フォーカスリング1も同様にプラズマに暴露されエッチングされる。そのため、フォーカスリング1には高い耐エッチング性が要求される。
【0010】
フォーカスリング1を形成する部分部材2の個数は、上記の3個のものに限定されるものではなく、フォーカスリング1の大きさ等に応じて最適な個数の部分部材2により形成されればよい。なお、フォーカスリング1の製造方法についての詳細は、説明を後述する。
【0011】
部分部材2は、上述したように多結晶CaF
2から製造され、優れた加工性および耐腐食性を有している。部分部材2が優れた加工性を有するようにするために、部分部材2を形成する多結晶CaF
2の相対密度は94.0%以上に設定される。より好ましい態様としては、多結晶CaF
2の相対密度を99.0%以上とすることができる。また、部分部材2が耐腐食性を有するために、部分部材2を形成する多結晶CaF
2の結晶粒子の平均粒子径は200μm以上とすることが好ましい。
【0012】
なお、本願における多結晶CaF
2の相対密度は、多結晶CaF
2の密度をアルキメデス法を用いて測定し、当該多結晶CaF
2の密度の単結晶CaF
2の密度に対する比をパーセンテージで示したものとして求めることができる。また、多結晶CaF
2の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で1試料の任意の3視野を観察し、JISR1670「ファインセラミックスのグレインサイズ測定方法」に準じて、それぞれの視野内の結晶粒子の長軸と短軸とを計測し、その平均をとることで求められる。
【0013】
以下、CaF
2、単結晶CaF
2および多結晶CaF
2が有する性質について説明する。CaF
2は、フッ化物であるMgF
2、BaF
2と比較して、潮解性が低い安定したフッ化物である。また、CaF
2は、耐フッ素プラズマ性、耐HF(フッ化水素)性、耐薬品性、耐熱性に優れているので、耐プラズマ部材、るつぼ部材として有効である。単結晶CaF
2は、高い紫外域から赤外域に渡って高い透過率特性を有しているので、レンズ材として用いられる。しかし、単結晶CaF
2は、へき開性を有するため、振動や衝撃により割れ易い性質を有している。これに対して、多結晶CaF
2は、微小な結晶が結合して構成されているため、バルクとしてはへき開性を有していない点で単結晶CaF
2よりも割れにくい。
【0014】
次に、多結晶CaF
2の結晶粒子の平均粒子径と耐腐食性との関係について説明する。多結晶CaF
2の結晶粒子の耐腐食性として、特に、エッチングへの耐性(耐エッチング性)について説明する。本実施の形態の部分部材2の製造に用いられる多結晶CaF
2の結晶粒子の平均粒子径は200μm以上である。本発明者の研究により、多結晶CaF
2では、結晶粒子径が増大するにつれて耐腐食性が高くなり、結晶粒子径が200μm以上となると耐腐食性が飽和することが明らかとなっている。エッチングは結晶界面から進行するので、結晶粒子径が増大することにより結晶界面が減少すればエッチングされやすい界面が減少する。このため、多結晶CaF
2の結晶粒子径が増大するにつれて耐腐食性が高くなる。本実施の形態で用いられる多結晶CaF
2は、結晶粒子の平均粒子径を200μm以上とすることによって、その耐腐食性が単結晶CaF
2の有する耐腐食性に近づいたものとなっていると推定される。したがって、実施の形態で用いる多結晶CaF
2は、へき開性を有しないという多結晶体が有する利点に加えて、耐腐食性に優れているという単結晶体が有する利点を兼ね備えることになる。
【0015】
上述した特性を有する多結晶CaF
2からなる部分部材2の製造方法は以下の通りである。まず、相対密度が94.0%以上であり、かつ結晶粒子の平均粒子径が200μm以上となる多結晶CaF
2を次のようにして得る。
CaF
2の粉末原料の粒径(メジアン径)は、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。CaF
2の粉末原料の粒径が大きい場合には、ボールミル等により予め粉砕してから用いるのが好ましい。
【0016】
上記のCaF
2粉末原料を用いて、たとえばCIP法(冷間静水等方圧プレス)、鋳込み法を用いて成形を行う。CIP法は、CaF
2粉末原料を金型プレスにより仮成形し、仮成形体を真空パックにした後、CIP装置にセットして、例えば100MPaにて1分間の圧力保持を行うことにより、成形体を作成する方法である。鋳込み法は、CaF
2粉末原料と水とを混合して作成したスラリーを石膏型に入れ、例えば室温にて48時間以上静置させて成形体を得た後、この成形体を石膏型から取り出して80℃にて48時間、乾燥炉で乾燥させる方法である。
【0017】
上述のようにして得られた成形体を真空焼結炉に導入して、真空雰囲気で焼結させる。焼結工程時の真空度は、緻密化およびCaF
2の酸化防止の目的から、10Pa以下であることが望ましい。焼結工程では、成形体は、1400℃以下で6時間以上焼結させる。なお、1400℃は、CaF
2の融点以下の温度である。この結果、相対密度が94.0%以上であり、かつ結晶粒子の平均粒子径が200μm以上となる多結晶CaF
2の成形体が得られる。
【0018】
次に、多結晶CaF
2の成形体を所望の形状に加工する。そして、フォーカスリング1を形成する際の接合面(
図1の符合21)の表面粗さRaを1.0μm以下となるように機械加工により研磨する。その結果、部分部材2が製造される。
【0019】
上記のようにして製造された一の部分部材2の接合面21と他の部分部材2の接合面21とを接触させ、真空雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気中で所定の温度に加熱し、接合面21の接触面に1MPa以上の荷重がかかるように各部分部材2を加圧する。その結果、
図1に示すフォーカスリング1が製造される。フォーカスリング1は、本実施の形態の多結晶CaF
2を用いて製造された部分部材2を接合することにより、耐腐食性、加工性に優れ、かつ容易に大型化することができる。
【0020】
図1(c)はフォーカスリング1の変形例である。
図1(c)に示すフォーカスリング100は、3つの部分部材200と3つの部分部材300の合計6つの部分部材を接合してなる組み合わせ体である。部分部材200及び部分部材300は、
図1(d)に示す形状を有している。フォーカスリング100の径方向における部分部材200の幅L1と部分部材300の幅L2とは異なる長さに設定されており、幅L1よりも幅L2の長さの方が長くなっている。部分部材200同士は接合面201を介して接合され、部分部材300同士は接合面301を介して接合される。また、部分部材200と部分部材300とは、接合面202と接合面302とを介して接合される。なお、部分部材300の幅L2が部分部材200の幅L1よりも長く設定されていることにより、部分部材300の接合面302と同一平面上に、部分部材200が接合されない面303を設けることができる。この部分部材200が接合されない面303はフォーカスリング100の段差部として機能する。
【0021】
フォーカスリング100を形成するには、6つの部分部材をフォーカスリング形状に組み立て、当該6つの部分部材を同時に圧着するようにしてもよいし、部分部材200同士からなる環状部材と部分部材300同士からなる環状部材を形成し、当該環状部材同士を上下に組み合わせて圧着するようにしてもよい。なお、フォーカスリング100を形成する部分部材200および300の個数は、上記の6つのものに限定されるものではなく、フォーカスリング100の大きさ等に応じて最適な個数の部分部材200及び300により形成されればよい。
【0022】
図2は、上記のフォーカスリング1を備えるプラズマ処理装置の模式図である。
図2のプラズマ処理装置10は、ガス供給口6およびガス排出口7を有するチャンバー5内に、上部電極8および下部電極9が設けられている。下部電極9の上面には、被処理物3を支持するための静電チャック11とフォーカスリング1とが備えられている。静電チャック11はフォーカスリング1で囲まれるように配置されており、静電チャック11上に被処理物3を配置することで、被処理物3の周囲がフォーカスリング1に囲まれる。
【0023】
プラズマ処理装置10を用いて被処理物3をプラズマエッチングするためには、まず、チャンバー5内を真空排気した状態で、ガス供給口6からエッチングガスを供給する。このとき、上部電極8および下部電極9に高周波電圧を印加する。上部電極8および下部電極9の間に形成された高周波電界は、エッチングガスをプラズマ化して、プラズマを生成する。このプラズマにより被処理物3のエッチングが行われる。
【0024】
以上のように被処理物3のプラズマエッチングが行われる間、フォーカスリング1も被処理物3と同様にプラズマに曝される。そのため、フォーカスリング1の材料として、耐腐食性に優れた本実施の形態による多結晶CaF
2が好適に用いることができる。
【0025】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[試料の作製]
メジアン径が32.7μmのCaF
2粉末原料を準備し、ボールミルにて粉砕処理することにより、メジアン径が3μm以下の原料を調整した。この原料を用いて、上述した鋳込み法を用いて成形を行った。すなわち、CaF
2原料を水と混合して作製したスラリーを石膏型に入れ、室温にて48時間以上静置させた後、石膏型から取り出して乾燥炉内で80℃にて48時間乾燥させて成形体を作製した。
【0026】
得られた成形体を真空中にて1250℃で6時間加熱して焼結させる。焼結後に取り出された成形体を切断および研削加工により、試料サイズ3mm×4mm×5mmの試料を切り出した。その後、試料の両面を鏡面研磨して、接合面の表面粗さRaを0.16〜1.64μmとした。
【0027】
(実施例1〜8、比較例1〜4)
試料は真空炉に導入されて、接合面を接触させた状態で荷重を加え、炉内雰囲気を10MPa以下とした。その後、6時間かけて所望の温度まで昇温を行い、目的温度で保持することにより試料の圧着を行った。この目的温度を保持温度と呼ぶ。保持温度での保持は6時間行い、その後、冷却して試料を取り出した。保持温度と、加圧力と、試料の面粗さRaとを異ならせた種々の条件下において、試料が圧着するか否かを確認した。
【0028】
保持温度の下限は500℃である。保持温度が800℃を超えると試料が圧着しやすくなる。また、1400℃を超えると試料が溶解するので、保持温度は1400℃以下とするが、1250℃を超えると試料の素材が有する物性に影響が生じるので、保持温度は1250℃を超えないことが好ましい。したがって、試料を圧着させる際の保持温度を800℃〜1200℃とした。
【0029】
試料に加わる加圧力は高いほど試料は圧着する。しかし、加圧力が高過ぎる場合、試料が割れやすくなるとともに、製造装置のコストが高くなるので、加圧力は低い方が好ましい。したがって、試料を圧着させる際の加圧力は0.9〜1.8MPaとした。
【0030】
図3に、面粗さRaと、保持温度と、加圧力とを異ならせた実施例1〜8、比較例1〜4の圧着結果を示す。
図3に示すように、実施例1〜3は、保持温度を1200℃、加圧力を1.8MPaにて、試料の面粗さRaを異ならせた場合の圧着結果を示している。実施例4〜6は、保持温度を1200℃、加圧力を0.9MPaにて、試料の面粗さRaを異ならせた場合の圧着結果を示している。実施例7,8および比較例1は、保持温度を1000℃、加圧力を0.9MPaにて、試料の面粗さRaを異ならせた場合の圧着結果を示している。比較例2〜4は、保持温度を800℃、加圧力を0.9MPaにて、試料の表面粗さRaを異ならせた場合の圧着結果を示している。
図3では、○は試料が圧着したことを示し、×は試料が圧着しなかったことを示す。すなわち、実施例1〜8の試料は圧着し、比較例1〜4は圧着していないことを示している。
【0031】
実施例4、7および比較例2において、それぞれの試料の面粗さRaは0.16μm、0.19μm、0.17μmであり、実質的に等しい面粗さRaと見なせる。この場合、
図3に示すように、比較例2の試料、すなわち保持温度を800℃とした場合には、試料は圧着しなかった。この結果、保持温度は1000℃以上が望ましいといえることがわかる。
【0032】
実施例7,8および比較例1において、保持温度が1000℃、加圧力が0.9MPaで圧着処理を行う場合、表面粗さRaが1.67μmである比較例1の試料は圧着しなかった。この結果、圧着処理のためには、面粗さRaが低いほど好ましいことがわかる。保持温度が1000℃以上の実施例1〜8において、面粗さRaが最も低い試料は、実施例6の試料であり、その面粗さRaは1.0μmである。したがって、試料を圧着させるためには、接合面の面粗さRaは1.0μm以下であることが望ましい。
【0033】
上記の実施例1〜8、比較例1〜4の結果に基づいて、部分部材2を圧着してフォーカスリング1を製造する場合、保持温度を1000℃以上、部分部材2の接合面21の面粗さRaを1.0μm以下にすることが好ましい。
【0034】
多結晶CaF
2からなる複数の部分部材2を用いて、
図3に示す結果に基づいて、部分部材2の接合面21同士を圧着により接合してフォーカスリング1を製造することができる。その結果、接着剤やバンド部材等の被処理物3への汚染源となる材料を用いることなくフォーカスリング1を製造することができる。
【0035】
プラズマ処理装置用のフォーカスリングに代表される耐プラズマ部材は、シリコンウエハの大口径化にともない大型化する傾向にある。CaF
2から大型のフォーカスリングを製造する場合、環状に形成するために焼結した材料の中心部を抜き取る必要があるので、材料歩留りや製造歩留りが低くなり、コストが増大するという問題があった。これに対して、複数の部分部材2を接合することにより、材料歩留りや製造歩留りの低下を防ぎ、コストの増加を抑制してフォーカスリング1の大型化が可能となる
【0036】
さらに、部分部材2は、相対密度が94.0%以上、結晶粒子の平均粒子径を200μm以上とする多結晶CaF
2からなる。したがって、これらの部分部材2を接合することにより、加工性および耐腐食性に優れたフォーカスリング1を提供することができる。
【0037】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【0038】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2012年第151367号(2012年7月5日出願)