特許第6146503号(P6146503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許6146503高濃度スラリーを得るためのシックナー及びその管理方法
<>
  • 特許6146503-高濃度スラリーを得るためのシックナー及びその管理方法 図000005
  • 特許6146503-高濃度スラリーを得るためのシックナー及びその管理方法 図000006
  • 特許6146503-高濃度スラリーを得るためのシックナー及びその管理方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6146503
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】高濃度スラリーを得るためのシックナー及びその管理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/06 20060101AFI20170607BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20170607BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20170607BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   B01D21/06 B
   B01D21/30 K
   C22B3/22
   C22B23/00 102
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-45540(P2016-45540)
(22)【出願日】2016年3月9日
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-29307(P2016-29307)
(32)【優先日】2016年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】北崎 徹
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/112248(WO,A1)
【文献】 特開昭59−62313(JP,A)
【文献】 特開昭58−128114(JP,A)
【文献】 特開昭52−67874(JP,A)
【文献】 米国特許第2588115(US,A)
【文献】 米国特許第2724506(US,A)
【文献】 米国特許第2360817(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
C22B 3/22
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱の湿式製錬におけるスラリーの濃縮に使用されるシックナーを複数基設けた固液分離設備を用い、得られるスラリーのスラリー濃度を高めるシックナーの管理方法であって、
前記シックナーが、前記シックナーの上下方向に移動可能、且つ前記シックナーに備わる中心軸部を回転軸として回転可能に取り付けられるレーキと、前記レーキの運転時の下限位置を調整する近接スイッチとを有し、
前記レーキの構造上の最下限位置から鉛直方向における上方に25〜35cmの距離、離れた位置が前記レーキの運転時の下限位置となるように、前記近接スイッチを設定して前記レーキ下方に得られるスラリーの濃度を高めることを特徴とするシックナーの管理方法。
【請求項2】
ニッケル酸化鉱の湿式製錬におけるスラリーの濃縮に使用されるシックナーを複数基設けた固液分離設備を用い、得られるスラリーのスラリー濃度を高めるシックナーであって、
前記シックナーが、前記シックナーの内部で上下方向に移動可能、且つ前記シックナーに備わる中心軸部を回転軸として回転可能に取り付けられるレーキと、前記レーキの運転時の下限位置を調整する近接スイッチとを有し
前記近接スイッチが、前記レーキの構造上の最下限位置から鉛直方向における上方に25〜35cmの距離、離れた位置に前記レーキの運転時の下限位置を設定可能に前記シックナーに取り付けられていることを特徴とするシックナー。
【請求項3】
前記近接スイッチが、前記シックナーの上下方向に移動可能に、前記シックナーに取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載のシックナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シックナー底部から得られる濃縮スラリーのスラリー濃度を高めるシックナー及びその管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石から有価金属を回収する湿式製錬法として、高圧酸浸出法が注目されている。この方法は、乾燥や焙焼等の乾式処理工程を含まないため、エネルギーコストを抑えることができる点で優れている。
一般的に、高圧酸浸出法によってニッケル酸化鉱石から浸出されたニッケルおよびコバルトを含む硫酸溶液は、硫化水素ガスなどの硫化剤を添加することによりニッケル及びコバルト品位を高めた混合硫化物として回収される。
【0003】
具体的なニッケル・コバルト混合硫化物を得るための高圧酸浸出法による湿式製錬法としては、(1)篩別した数mm以下のニッケル酸化鉱石を含有する鉱石スラリーを得る工程と、(2)その鉱石スラリーを高温加圧浸出して、浸出スラリーを得る工程と、(3)得られた浸出スラリーを固液分離によって、浸出残渣の濃縮された残渣スラリーとニッケル及びコバルトの他に不純物として亜鉛を含む粗硫酸ニッケル溶液を得る工程と、(4)得られた粗硫酸ニッケル溶液を微加圧された反応槽に供給し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで粗硫酸ニッケル溶液に含まれる亜鉛を硫化後に、固液分離によって亜鉛硫化物と脱亜鉛終液を得る工程と、(5)得られた脱亜鉛終液を加圧された反応槽に供給し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで脱亜鉛終液中に含まれるニッケル及びコバルトを硫化後に、固液分離によってニッケル・コバルト混合硫化物と製錬廃液を得る工程を含んでいる。図1には、その製造工程フローが示されている。
【0004】
この湿式製錬法において、その工程(3)の固液分離工程では、工程(2)で得られた浸出スラリーをシックナーによって浸出残渣の濃縮された残渣スラリーと、粗硫酸ニッケル溶液と、に分離すると同時に、浸出残渣の濃縮された残渣スラリーを多段洗浄処理することが知られている。
具体的な多段洗浄の方法としては、図2に見られるようなシックナーを多段に連結させ、浸出残渣の濃縮された残渣スラリーを、ニッケル・コバルトをほとんど含まない洗浄液に向流で接触させることで、浸出残渣に付着しているニッケル・コバルトを含む付着水を洗い流す連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)が用いられ、有価金属であるニッケル・コバルトの回収率を向上させている。
【0005】
ところで、図2に示す多段洗浄処理において、浸出スラリーが供給されるシックナー(:図2の最左端側)をシックナー最前段(第1段)とし、ニッケル・コバルトをほとんど含まない洗浄液が供給されるシックナー(:図2の最右端側)をシックナー最終段(第7段)とする。ここから排出される多段洗浄後の浸出残渣が濃縮された残渣スラリーは、排水処理工程に送液されるため、この浸出残渣が濃縮された残渣スラリーに含まれる有価金属であるニッケル・コバルトは製品として回収されず、ロスとなる。
なお、図2において、シックナー第n段へは原料として、凝集剤、シックナー第n−1段からの残渣スラリー、シックナー第n+1段からのオーバーフロー、が供給される。ただし、シックナー最前段へは残渣スラリーのかわりに浸出スラリーが、シックナー最終段へはオーバーフローのかわりに洗浄液が供給される。なお、これら原料は、フィードウェルや撹拌槽で予混合してから供給するのが好ましい。
【0006】
この多段洗浄処理において有価金属であるニッケル・コバルトのロスをできる限り低減し、回収率を向上させる方法が知られている。すなわち、(a)洗浄液の液量増加、(b)洗浄液中のニッケル・コバルト含有量の低下、(c)各段のシックナー底部から得られる浸出残渣の濃縮された残渣スラリーのスラリー濃度の向上である。
【0007】
ここで、連続向流洗浄法による多段洗浄処理では、各シックナーにおける有価金属であるニッケル・コバルトの濃度は、後段に進むに連れて低下する。そこで、上記方法(c)を行うことで、前段シックナーにおけるニッケル・コバルト濃度の高い溶液の後段シックナーへの持ち込みを少なくできる。
そして、最終的にはシックナー最終段から排出される浸出残渣の濃縮した残渣スラリー中のニッケル・コバルト濃度を低下することができるため、有価金属であるニッケル・コバルトのロスを低減することができる。
そこで、シックナー底部から得られる残渣スラリーのスラリー濃度を向上させるシックナー及びその管理方法が求められている。
【0008】
ところで、多段洗浄処理において、用いられるシックナーは、円筒状外枠及び円錐状の底部からなる本体と、シックナー本体の中心軸部に設置され回転軸の下部に放射状に取り付けた複数の羽根からなるレーキと、そのレーキを回転・昇降させる駆動装置と、懸濁液及び凝集剤等の添加剤が供給されるフィードウェルから構成されているものが一般的である。
【0009】
このような構成のシックナーの管理方法としては、例えば特許文献1には、凝集剤をフィードウェルやシックナーのオーバーフロー部に添加することで、得られる上澄み液の透明度が高くなることが開示されている。また特許文献2には、特定の整流板を含むフィードウェルを採用することで、シックナー内の沈降濃縮部の偏流を無くすことが開示されている。
しかしながら、シックナー底部から得られる濃縮スラリーのスラリー濃度を向上させるシックナー及びその管理方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許5692458号公報
【特許文献2】特開2010−201324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、このような状況を解決するためになされたものであり、シックナーを含む工程において、シックナー底部から、スラリー濃度の高い濃縮スラリーを得ることのできるシックナーと、そのシックナーの管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、シックナーを多段に連結させた多段洗浄処理において、各シックナーのレーキの運転時の下限位置を調整する近接スイッチによりレーキ位置を上方に変更することによって、シックナー内の澱物固体層の位置が高く保たれ、その自重によってシックナー底部方向に圧力が生じることによりシックナー底部にスラリー濃度の高い濃縮スラリーを集約することのできるシックナーの管理方法を見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
即ち、本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱の湿式製錬におけるスラリーの濃縮に使用されるシックナーを複数基設けた固液分離設備を用い、得られるスラリーのスラリー濃度を高めるシックナーの管理方法であって、そのシックナーが、シックナーの上下方向に移動可能、且つシックナーに備わる中心軸部を回転軸として回転可能に取り付けられるレーキと、そのレーキの運転時の下限位置を調整する近接スイッチとを有し、そのレーキの構造上の最下限位置から鉛直方向における上方に25〜35cmの距離、離れた位置がレーキの運転時の下限位置となるように、近接スイッチを設定し、レーキ下方に得られる濃縮スラリーの濃度を高めることを特徴とするシックナーの管理方法である。
【0014】
本発明の第2の発明は、ニッケル酸化鉱の湿式製錬におけるスラリーの濃縮に使用されるシックナーを複数基設けた固液分離設備を用い、得られるスラリーのスラリー濃度を高めるシックナーであって、そのシックナーが、シックナーの内部で上下方向に移動可能、且つシックナーに備わる中心軸部を回転軸として回転可能に取り付けられるレーキと、そのレーキの運転時の下限位置を調整する近接スイッチとを有していることを特徴とするシックナーである。
【0015】
本発明の第3の発明は、第2の発明における近接スイッチが、シックナーの上下方向に移動可能にシックナーに取り付けられていることを特徴とするシックナーである。
【0016】
本発明の第4の発明は、第2又は第3の発明における近接スイッチが、レーキの構造上の最下限位置から鉛直方向における上方に25〜35cmの距離、離れた位置にレーキの運転時の下限位置を設定可能にシックナーに取り付けられていることを特徴とするシックナーである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シックナーを含む工程において、シックナー底部から得られる濃縮スラリーのスラリー濃度を高めることができ、有価金属であるニッケル・コバルトのロスを低減することができるため、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出による湿式製錬法の工程図である。
図2】多段洗浄処理を用いた固液分離工程のフローである。
図3】シックナーの構造の一例を示す図で、(a)はシックナーの全体構造を示す模式図、(b)はレーキ5の構造と本発明に係るレーキ下限位置を示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るシックナー底部から得られるスラリーの濃度を高めるシックナーの管理方法と用いるシックナーの詳細について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更が可能である。
【0020】
本発明は、シックナーにおけるレーキの最下限位置を調整する近接スイッチの設定位置を、レーキの構造上の最下限位置より上方にレーキの運転時の下限位置が設定されるようにすることによって、シックナー内の澱物固体層の位置を高く保ち、その自重によってシックナー底部に圧力をかけ、スラリー濃度の高い濃縮スラリーを得るシックナーの管理方法であることを特徴としている。
【0021】
ここで、本発明に係るシックナーとしては、特に限定されたものではないが、例えば、図3に示すようなシックナー1が用いられる。(a)はシックナーの全体構造を示す模式図、(b)はレーキ5の下限設定位置を示すレーキ構造を示す図である。シックナーの運転時にレーキ5は、これよりは下方に移動できない「構造上の最下限位置L」から上方にδ離れた位置、即ち運転時のレーキ5の「下限設定位置」をしめす近接スイッチSWを設定して運転する。
【0022】
シックナー本体2の上部には、回転可能に回転軸(図示せず)を有する中心軸部3と、その中心軸部3のシックナー本体2の底部側には、(上から見て)放射状に伸びる腕の各所に歯5aが生えてなるレーキ5が、中心軸部3を回転及び上下動(白抜き矢印)が可能なように設置され、上端側には、中心軸部3が有する回転軸を回転させ、レーキ5を上下動させるための駆動部4が備えられている。中心軸部3には、その上部にレーキ5の下降又は上昇の動きに連動し、下降・上昇するコンタクトKが設けられる。さらにレーキ5の下降、上昇に伴って、コンタクトKと接近、離間する位置関係に、レーキ5の下限位置を設定する近接スイッチ(SW)及び上限位置を設定する近接スイッチ(SWU0)が、レーキ5の動きとは連動せずに所定の位置に固定、設置され、コンタクト(K)が近接スイッチ(SW)によって検知されている間はレーキ5は、回転を保つが、その下降は禁止される。近接スイッチとしては接触式のものを用いることができ、さらにコンタクトに近接した状態でたとえば電場・磁場・静電容量のいずれかの変化を検知することをもってコンタクトの検知とみなす非接触式のものも使用可能である。
【0023】
このコンタクトまたは近接スイッチは上下移設可能な形態で設置され、本発明においては図3(b)に示されるように、レーキ5を構造上の最下限位置Lから上方にδcm移動させた箇所でレーキ5の下降が停止するように、近接スイッチSWが設置されている。なおコンタクトや近接スイッチの設置箇所は図3のような中心軸部にこだわらず適宜設けられ、互いの位置を入れ替えて設置することも可能であるが、一方がシックナー底部にある場合は他方はレーキ5の下部に設けることができ、一方が駆動部4やシックナーの天蓋などにある場合は他方はレーキ5よりも上方に設けることができる。このように、レーキ5より上方に設ける場合には、近接スイッチSWを液面より露出させることができ、スラリーの付着を防止して精度を向上させたり、酸性溶液の付着を防止して耐久性を向上させたりと、メンテナンスの点で望ましい。
図3(a)において、6は残渣スラリー取出口、7は原料投入口、8は溢流堰、9は凝集剤投入口、10はフィードウェル、11はポンプ、12は攪拌槽、Kはコンタクト、Aは原料、Bはオーバーフロー、Cは凝集剤等の添加剤、Dは残渣スラリー、Lはレーキ5の構造上の最下限位置、Pは近接スイッチ(SW)の設定可能な最下限位置で、レーキの構造上の最下限位置Lに対応、δはレーキの構造上の最下限位置Lから運転時のレーキの下限位置までの距離で、近接スイッチの設定距離である。
【0024】
さらに具体的には、ニッケル酸化鉱石から有価金属を回収する湿式製錬法において、シックナーを多段に連結させた多段洗浄処理における各シックナーに対して本発明に係るシックナーとこの管理方法を用いることができる。
そして、多段洗浄処理における各シックナーに対してこのシックナーとその管理方法を適用することによって、スラリー濃度の高い残渣スラリーを得ることができ、有価金属であるニッケル・コバルトのロスを低減することができる。
【0025】
そこで、多段洗浄処理における各シックナーに対し、このシックナーの管理方法を用いた例を具体例として、より詳細に説明する。
まず、多段洗浄処理における各シックナーのより具体的な説明に先立ち、シックナーの調整方法について説明する。
【0026】
図3にシックナーの一例を示したが、シックナー内におけるスラリー濃度は、垂直方向においてシックナー底部方向になるほど高くなってくるので、各シックナーに備わるレーキは、シックナー内にあるスラリー濃度の高いスラリー層を回転することで、スラリーの固着を防止するとともに圧力をかけ、シックナー底部のスラリー濃度をさらに上昇させている。一方、レーキにはスラリー層からトルクがかかる。即ち、レーキがスラリー濃度の高いスラリー層を回転すると大きなトルクがかかり、スラリー濃度の低いスラリー層を回転すると小さなトルクがかかる。
【0027】
そのため、設備保護の面から、レーキに過剰なトルクがかかりすぎないように、ある一定以上のトルクがかかると、レーキは上昇する仕組みになっている。逆に、ある一定以下のトルクになると、十分な圧力をかけるべく、レーキは下降する仕組みになっている。
このレーキの昇降の最下限および最上限位置は、それぞれに設置された近接スイッチによって決まり、この近接スイッチは、その設定位置がシックナー本体の高さ方向において可変である。
【0028】
ここで、シックナー内において、澱物固体層の位置は、シックナー底部からのスラリー抜き出し流量によって調整する。澱物固体層が高くなりすぎると、上澄み液の透明度が低下する。一方、澱物固体層の位置が低くなりすぎると、自重が低下することでシックナー底部から得られるスラリーのスラリー濃度が低下する。
つまり、シックナー内の澱物固体層の位置を一定に保つことが重要である。
しかしながら、澱物固体層の位置を連続的に監視することは難しいため、管理方法としては、レーキ位置が最下限の位置にあり、かつ、トルクが一定となるようにシックナー底部のスラリー抜き出し流量を調整している。
【0029】
次に、本発明における調整方法の詳細について説明する。
上記のシックナーの管理方法を前提とし、本発明は、運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチ(図3(b)の符号SW参照)の設置位置を、レーキの構造上の最下限位置L(近接スイッチの設定可能な最下限位置Pに相当)から上方にδcm移動(図3(b)の符号SW参照)させるものである。その移動距離δについては、特に限定されるものではないが、シックナーのレーキの構造上の最下限位置を基準とし、そこから21〜50、特に21〜29または25〜35cmまで上方に移動させることが好ましい。
【0030】
これにより、シックナーのレーキが運転時の下限(近接スイッチで決まる位置)に位置するとき、その位置が従来よりδだけ上方となるので、(トルクが一定になるようにスラリーの抜き出し流量を調整する時、)従来より澱物固体層の位置が高くなり、その自重によって、今までよりスラリー濃度の高いスラリーを得ることが可能となる。
つまり、多段洗浄工程の各シックナーにおいて、前段シックナーの有価金属であるニッケル・コバルト濃度の高い溶液の後段シックナーへの持ち込み量を、従来より低減できるため、最終段シックナーの底部から排出されるスラリー中の有価金属であるニッケル・コバルト濃度を低下でき、従来よりロスを削減することができる。
【0031】
特に、高温加圧浸出工程から排出される浸出スラリーは、Al酸化物やSi酸化物を含んでおり、澱物は沈降し難い。そのため、スラリー濃度の高い濃縮された残渣スラリーを得るためには、微妙な調整、具体的には、レーキの構造上の最下限位置を基準とし、そこから21〜50、特に21〜29または25〜35cmの位置まで上方にレーキを移動させることが好ましい。
その移動距離が、25cm未満では、シックナー内の固体澱物層の位置が低いので残渣スラリーのスラリー濃度があまり上がらず、一方でレーキの運転時の下限位置を調整する近接スイッチの設定位置の移動距離が35cmを超えると、シックナー内の固体澱物層の位置が高くなることでシックナーの上澄み液の透明度が低下してしまう。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例で用いた金属の分析方法は、ICP発光分析法で行った。スラリー濃度については、単位体積あたりの重量により評価を行った。
【実施例1】
【0033】
ニッケル酸化鉱の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の固液分離工程において、浸出工程にて得られた浸出スラリーに対して、シックナーを多段に連結させて多段洗浄を行うことで、浸出残渣の濃縮した残渣スラリーと粗硫酸ニッケル溶液を得る固液分離処理を行った。下記表1に、固液分離処理の条件を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施した固液分離処理において、各シックナーの管理方法としては、レーキ位置が最下限の位置にあり、かつ、トルクが一定となるようにシックナー底部からのスラリー抜き出し流量を調整した。
実施例1では、4段目シックナーにおける運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチSWの設定位置をシックナーのレーキの構造上の最下限位置Lから上方に29cm(=δ)移動した箇所であった。即ち、運転時にはレーキの構造上の最下限位置から29cm上方で、レーキの下降が停止され、その位置で回転が続けられ、スラリー濃度を高めている。
【実施例2】
【0036】
実施例2では、4段目のかわりに5段目シックナーにおける運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチSWの設定位置を、シックナーのレーキの構造上の最下限位置から上方に29cm移動した箇所に調整したこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
【実施例3】
【0037】
実施例3では、4段目のかわりに6段目シックナーにおける運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチSWの設定位置を、シックナーのレーキの構造上の最下限位置から上方に29cm移動した箇所に調整したこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
【0038】
(参考例1)
参考例1では、4段目シックナーにおける運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチSWの設定位置を、シックナーのレーキの構造上の最下限位置から上方に22cm移動した箇所に調整したこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
【0039】
(参考例2)
参考例2では、4段目のかわりに5段目シックナーにおける運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチSWの設定位置を、シックナーのレーキの構造上の最下限位置から上方に21cm移動した箇所に調整したこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
【0040】
(参考例3)
参考例3では、4段目のかわりに6段目シックナーにおける運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチSWの設定位置を、シックナーのレーキの構造上の最下限位置から上方に21cm移動した箇所に調整したこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
【0041】
下記表2に、各実施例、参考例における固液分離処理の処理結果をまとめて示す。
表2において、「density」とは、ある一定期間、安定した操業を行った際の8時間ごとに採取したそれぞれのシックナー底部(実施例1および参考例1では4段目、実施例2および参考例2では5段目、実施例3および参考例3では6段目)から得られた濃縮された残渣スラリーの単位体積あたりの重量の平均値である。
【0042】
【表2】
【0043】
表2から明らかなように、実施例1〜3では、参考例1〜3よりも各シックナー底部から単位体積あたりの重量の高い濃縮した残渣スラリーが得られたことが判る。これはすなわち、残渣スラリーへの液相部の混入を少なくできたことになり、混入に伴うニッケル損失を低減させることができる。
【0044】
また、実施例1〜3を行った期間、及び参考例1〜3を行った期間に、最終段であるシックナー7段目底部から得られた濃縮された残渣スラリー中のニッケル濃度を表3に示す。
最終段であるシックナー7段目底部から得られた濃縮された残渣スラリー中のニッケル濃度については、前述の通り洗浄液の液量や洗浄液中のニッケル濃度に影響を受けるため、表3では、これらのパラメータがほぼ同じ時のサンプルのみの平均値としている。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、実施例1〜3では、シックナー底部から得られた濃縮された残渣スラリーの単位体積あたりの重量が上昇したことで、各シックナーにおいて後段シックナーへのニッケル濃度の高い溶液の持ち込みを低減できたため、参考例1〜3に比べてシックナー7段目底部から得られた残渣スラリー中のニッケル濃度は低くなっており、ニッケルロスを削減できることが判る。
【0047】
(参考例4)
参考例4では、4段目シックナーにおける運転時のレーキ下限位置を調整する近接スイッチSWの設定位置を、シックナーのレーキの構造上の最下限位置Lから上方に50cm移動した箇所に調整したこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行ったところ、残渣スラリーのdensityは実施例1よりも高いものの、4段目シックナーから得られる上澄み液の濁度は実施例1よりも上昇していた。
【0048】
(比較例1)
比較例1では、4段目シックナーから近接スイッチを取り外して、運転時のレーキ下限位置をシックナーのレーキの構造上の最下限位置Lと等しくしたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行ったが、4段目シックナーから得られた残渣スラリーのdensityは常時1.40g/mLを下回っていた。
【符号の説明】
【0049】
A 残渣スラリー(または浸出スラリー)
B オーバーフロー:OF(Ni、Coを含む溶液)
C 凝集剤などの添加剤
D 残渣スラリー
L レーキの構造上の最下限位置
P(SWL0) 近接スイッチの設定可能な最下限位置
SW 近接スイッチ
SWU0(SW) 近接スイッチの設定可能な最上限位置
K コンタクト
1 シックナー
2 シックナー本体
3 中心軸部
4 駆動部
5 レーキ
5a 歯
6 残渣スラリー取出口
7 原料投入口
8 溢流堰
9 添加剤(凝集剤等)の投入口
10 フィードウェル
11 ポンプ
12 攪拌槽
δ レーキの構造上の最下限位置Lから運転時のレーキの下限位置までの距離で、近接スイッチの設定距離
【要約】      (修正有)
【課題】湿式製錬方法において、固液分離工程のようなシックナーを含む工程で、シックナー底部から、スラリー濃度の高い濃縮スラリーを得ることのできるシックナー及びその管理方法の提供。
【解決手段】シックナー1の上下方向に移動可能、且つシックナー1に備わる中心軸部3を回転軸として回転可能に取り付けられるレーキ5と、レーキ5の運転時の下限位置を調整する近接スイッチを有し、レーキ5の構造上の最下限位置Lから鉛直方向における上方に25〜35cmの距離、離れた位置が、レーキ1の運転時の下限位置となるように、近接スイッチを設定してレーキ1下方に得られるスラリーの濃度を高めるシックナー1の管理方法。
【選択図】図3
図1
図2
図3