(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146760
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】序列化装置、序列化方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/02 20120101AFI20170607BHJP
A61B 5/0484 20060101ALI20170607BHJP
A61B 5/0476 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
G06Q30/02 312
A61B5/04 320M
A61B5/04 322
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-40913(P2012-40913)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-178601(P2013-178601A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年9月11日
【審判番号】不服2016-6400(P2016-6400/J1)
【審判請求日】2016年4月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 研究集会名 産総研オープンラボ 主催者名 独立行政法人産業技術総合研究所 開催日 平成23年10月13日〜10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 良平
【合議体】
【審判長】
手島 聖治
【審判官】
貝塚 涼
【審判官】
野崎 大進
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/003901(WO,A1)
【文献】
田中元志,食品画像提示による好み評価時の事象関連電位計測,電子情報通信学会技術研究報告NC2009−50−NC2009−62,2009年11月5日,Vol.109,No.280,pp.13−18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の調査対象物を序列化する装置であって、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位の脳波データを用いて、複数の測定箇所に対応するチャンネル数と時系列データのデータポイントにおける脳波データに基づいて判別関数の重みづけ係数を求め、該判別関数を用いて判別得点を算出する判別分析処理をし、定量的に表す単一の指標として前記判別得点を用いて、前記調査対象物を序列化することを特徴とする序列化装置。
【請求項2】
刺激を提示する刺激提示装置と、脳波計と、該脳波計からの脳波データを処理する処理装置とを、備える複数の調査対象物を序列化するシステムであって、
前記刺激提示装置は、複数の調査対象物を、刺激として、それぞれ複数回提示し、
前記脳波計は、該刺激提示装置による刺激提示直後の脳波を計測し、
前記処理装置は、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位の脳波データを用いて、複数の測定箇所に対応するチャンネル数と時系列データのデータポイントにおける脳波データに基づいて判別関数の重みづけ係数を求め、該判別関数を用いて判別得点を算出する判別分析処理をし、定量的に表す単一の指標として前記判別得点を用いて、前記調査対象物を序列化することを特徴とする序列化システム。
【請求項3】
複数の調査対象物を序列化する方法であって、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位の脳波データを用いて、複数の測定箇所に対応するチャンネル数と時系列データのデータポイントにおける脳波データに基づいて判別関数の重みづけ係数を求め、該判別関数を用いて判別得点を算出する判別分析処理をし、定量的に表す単一の指標として前記判別得点を用いて、前記調査対象物を序列化することを特徴とする序列化方法。
【請求項4】
コンピュータを、
複数の調査対象物を、刺激として、それぞれ複数回提示する刺激提示手段と、該刺激提示直後の、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位の脳波データを用いて、複数の測定箇所に対応するチャンネル数と時系列データのデータポイントにおける脳波データに基づいて判別関数の重みづけ係数を求め、該判別関数を用いて判別得点を算出する判別分析処理をし、定量的に表す単一の指標として前記判別得点を用いて、前記調査対象物を序列化する処理手段と、序列化した結果を提示する提示手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外界の刺激選択肢に対する脳の反応性の強さを序列化する装置、システム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製品開発や販売戦略のために行われてきた市場調査の主要手段の一つであるアンケート調査では、回答者の意識・無意識のバイアスによって、調査結果の正確性や信頼度に問題があることが多かった。近年、消費者行動と関係した脳活動解析や脳活動に基づいたマーケティング調査法の開発が盛んになってきている。例えばfMRIという大型装置を用いた脳活動計測実験によって嗜好性やブランド意識に関する脳部位を同定したり、ブランド力による脳活動の差を調べたりした研究が知られている(非特許文献1参照)
【0003】
本発明者の研究グループでは、脳波を利用した意思伝達手法や、外部事象に対する脳内情報表現を地図的に示す「脳情報地図」という手法を既に提案している(特許文献1、2参照)。
【0004】
最近、脳波に着目したマーケティングが開発されている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010―274035号
【特許文献2】特開2011−013871号
【特許文献2】特表2010−522941号
【特許文献3】特開2011−120824号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】McClure SM他,“Neural Correlates of Behavioral Preference for Culturally Familiar Drinks” Neuron 44,p379−387,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脳波に着目した従来技術として、質問紙によって得られた快不快などの様々な感情種に対するアンケートの評定結果と脳波との相関を調べることによって、脳波の意味づけを行う技術がある。この技術では、脳波と各感情種との相関が高いと、ある程度、脳波から各感情の強さを推測できる一方、相関が低いと脳波から正しく感情を推測できる確率が低くなるという問題がある。また、多数の被験者のデータベースから「一般的にこのような脳波が観察される場合はこのような感情状態です」というロジックが用いられているが、たとえ正常範囲でも被験者ごとの脳波のパターンにバリエーションがあることが無視されていて、科学的に意味のあるデータ解析が行われているかどうか疑問である。さらに、そもそも質問紙でわかる情報をあえて脳波から引き出す意味合いも明確でない。
【0008】
特許文献1では、被験者の主観的バイアスを排除した感性評価を行うことを目指した脳情報地図が示されている。この地図を活用する応用例として、個々人の脳波の類似性から(アンケート調査をすることなしに)多数の製品写真などに対して、顕在意識、潜在意識両方を含んだ脳活動がどのように表現しているかを地図的に視覚化することができる。この技術では、「脳波と主観的感情のトートロジー」(脳波データの意味を解釈するのに主観的な意識だけを参考にしているのであれば、結局、主観的な意識と相関の高い変動しか解釈することができない。それであれば、脳波を解析するのではなく主観的意識状態に対するアンケートを聞く方がより正確である、ということ。)問題を回避していることでは意義が大きいが、地図情報だけではマーケティングにおいて重要な課題である「将来どの製品を購入するかを予測できるか?」という問いには直接答えることができない。そこで、被験者の主観にとらわれることなく、最終的に購買行動につながる脳情報の解読が残された課題である。
【0009】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、各調査対象物に対する被験者の注意の高まりの程度の違いを、脳波を解析することにより、調べ、序列化することを目的とする。例えば、マーケティング調査の購買行動の予測において、調査対象となる製品の人気の順を予測することを目的とする。マーケティング分野では、調査対象は、製品に限らず、ブランド、キャラクター、宣伝等がある。マーケティング分野に限らず、エンターテイメント分野、医療・健康分野、教育・娯楽分野等における被験者の意思や感性や嗜好など、顕在意識と潜在意識の両方を含んだ脳活動の情報を、具体的に順位を付けて序列化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するために、購買行動の予測に重要と考えられている注意の高まりを反映した脳活動、特に頭皮上で記録される脳波の種類である事象関連電位に着目して、調査対象となる製品に対する脳の反応性の序列化を行うものである。具体的には、脳波計測、視覚刺激提示実験、データ解析の3プロセスを含む。本発明により、脳の反応性が最も高いもの、即ち潜在意識を含めて最も注意を喚起したものが、どの製品であったか、また、注意を喚起された順番が解読される。
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0012】
本発明の装置は、複数の調査対象物を序列化する装置であって、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位の脳波データを、単一の指標で定量的に表す分析処理をして、前記調査対象物を序列化することを特徴とする。前記分析処理はパターン識別法を用いることができる。前記分析処理は判別分析を用いることができる。前記分析処理は線形判別分析を用いることができる。前記単一の指標の好ましい例は、判別分析の判別得点である。
【0013】
本発明において分析処理する脳波データは、事象関連電位の脳波データである。本発明において分析処理する脳波データは、調査対象物が「標的」として選択された場合の事象関連電位の脳波データを少なくとも含む。
【0014】
本発明のシステムは、刺激を提示する刺激提示装置と、脳波計と、該脳波計からの脳波データを処理する処理装置とを、備える複数の調査対象物を序列化するシステムであって、前記刺激提示装置は、複数の調査対象物を、刺激として、それぞれ複数回提示し、前記脳波計は、該刺激提示装置による刺激提示直後の脳波を計測し、前記処理装置は、計測された脳波データ(刺激提示などのタイミングで切り出された脳波データに含まれる変化は一般に事象関連電位と呼ばれる。)を、単一の指標で定量的に表す分析処理をして、前記調査対象物を序列化することを特徴とする。前記事象関連電位は、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位を少なくとも含む。
【0015】
本発明の方法は、複数の調査対象物を序列化する方法であって、事象関連電位の脳波データを、単一の指標で定量的に表して、前記調査対象物を序列化することを特徴とする。前記事象関連電位は、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位を少なくとも含む
【0016】
本発明のプログラムは、コンピュータを、次の手段として機能させるためのプログラムであって、複数の調査対象物を、刺激として、それぞれ複数回提示する刺激提示手段と、該刺激提示直後の、事象関連電位の脳波データを、単一の指標で定量的に表す分析処理をして、前記調査対象物を序列化する処理手段と、序列化した結果を提示する提示手段として機能させるためのものである。前記事象関連電位は、前記各調査対象物が標的として選択された場合の事象関連電位を少なくとも含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の調査対象物に対する事象関連電位を分析するのみで、ただちに複数の調査対象物に対する被験者の反応を序列化できるので、脳情報を客観的に解読できる。本発明によれば、被験者は、自身が「標的」を選ぶのではなく、実験者が指定した標的を見つけるだけの作業をするので、主観的な影響を受ける可能性が極めて低いという利点がある。
【0018】
本発明によれば、被験者ごとに解析をしたとしても例えば8個の製品種に対しては5〜10分以内に実験が終了する。判別得点の違いが偶然生じる場合もあるが、その場合は統計検定によってその可能性を検証できる。被験者に対して実験結果を即時フィードバックすることが可能なので、自らの脳の活動を参考にした製品選択が可能になり、意思決定支援につながる。
【0019】
本発明の序列化により、マーケティング調査の購買行動の予測において、調査対象となる製品の人気の順を予測することができる。調査対象は、製品に限らず、ブランド、キャラクター、宣伝等がある。また、選挙の当落予想等の各種調査に利用できる。また、マーケティング分野に限らず、エンターテイメント分野、医療・健康分野、教育・娯楽分野等における被験者の意思や感性や嗜好など、顕在意識、潜在意識両方を含んだ脳活動の情報を、アンケート調査等で問題となる被験者の意識・無意識のバイアスを排除して、客観的に表すことができる。
【0020】
本発明の序列化により、福祉分野における意思伝達支援装置としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】第1の実施の形態を説明するために脳波を模式的に示す図
【
図5】第1の実施の形態の線形判別分析を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明について、実施の形態により説明する。
(第1の実施の形態)
本実施の形態について、
図1〜
図5を参照して以下説明する。
図1は、本実施の形態における、刺激事象の提示と、これに対する被験者の脳波の反応とを、模式的に示す図である。
図1に示すように、刺激事象(注意喚起事象ともいう。)を、ディスプレイに例えば写真を1事象(1枚)ずつ被験者に提示し、これを見た被験者の脳波を被験者の頭部に電極を装着した脳波計により計測し、該脳波をコンピュータなどの脳波解析処理装置により解析する。刺激事象は、調査対象物自体又は調査対象物の写真などである。
図2は、本実施形態を説明するために、複数の刺激事象に対する脳波を模式的に図示したものである。具体的には次のように、(A)テスト刺激に対する脳波測定と、(B)脳波データの分析処理と序列化処理とにより実施する。
【0024】
頭頂部を中心にして頭皮上に設置した単一もしくは複数の電極からの脳波を計測する。計測は、次の手順で行う。
(1) 比較したい様々な調査対象となる製品に関する視覚刺激(調査対象物の写真やイラスト等)を被験者に提示する。例えば、連続的に、視覚刺激(
図1ではフルーツで例示)を紙芝居のように擬似ランダムな順番で、コンピュータの画面等に提示する。(
図1参照)
(2) その際、製品群(
図1では、複数の果物(バナナ、ブドウ、リンゴ、ミカン))のうち一つ(例えばバナナ)を「標的」として被験者に教示しておく。各視覚刺激は複数回提示されるが、被験者は、標的の刺激に対してのみ、その提示回数を頭の中でカウントするよう教示してカウントさせる。
(3) 短い休憩をはさんで「標的」の教示を次々に変えて、上記(2)を実行し、選択肢となる製品全てについて「標的」として実施する。
【0025】
上記(2)と(3)についてさらに詳しく説明する。例えば、1回目の「標的」をバナナ、2回目の「標的」をブドウ、3回目の「標的」をリンゴ、4回目の「標的」をミカン、というようにして、全製品写真について、標的とした場合の脳波データと、標的としない場合の脳波データを得る。
図2に、得られる脳波の反応を、模式的に示す。
図2の脳波データの1段目は、「標的」をバナナと教示して被験者に製品群を見せてカウントさせた時の、各テスト刺激に対応する脳波データである。模式的に示したように、1段目の脳波データのうち、標的(バナナ)のテスト刺激に対する脳波データは、非標的(ブドウ、リンゴ、ミカン)のテスト刺激に対する脳波データと比べ、脳波の反応が大である。同様に、2段から4段の格段においても、脳波データのうち、標的のテスト刺激に対する脳波データ(点線で囲んだ脳波)は、非標的のテスト刺激に対する脳波データと比べ、脳波の反応が大である。
【0026】
本発明者は、標的のテスト刺激に対する脳波データ(点線で囲んだ脳波)において、それぞれ脳波データが異なっていること(
図2参照)に着目して、標的のテスト刺激に対する脳波データ(点線で囲んだ脳波)を数値化して判別することにより、テスト刺激対象を序列化することを行った。
【0027】
調査対象を簡易的にフルーツの例で説明したが、他種類の複数のテスト刺激で実施してみた。まず、
図1のような実験を選択肢となる製品の数だけ実施する。各実験においては標的を変えると、通常、それぞれの実験においては「標的」に対する脳波(事象関連電位)の反応が最も高い。ただし、その電位の高さはどの製品が標的になるかによって多少の差が生じている。その差の中に、被験者が各製品に対する注意喚起の違い(顕在的・潜在的興味の強さ)が反映されると考えられる。
【0028】
ここで、テスト刺激に対する脳波について説明する。本実施の形態では、テスト刺激に対して事象関連電位(または事象関連脳波という。)と呼ばれる脳波電位を利用する。事象関連電位は、認知過程に影響を与える、外的または内的事象の発生タイミングと連動して生じる一過性の脳波であり、P300(刺激提示後300ミリ秒後の陽性の電位変化。)などがある。
【0029】
図3に、事象関連電位の例を模式的に示す。曲線Aは、テスト刺激対象(例えば写真)をよく見て選んだ場合(能動的に標的を探索する条件(即ち、標的、非標的と意識して選択又は探索すること)で、標的と意識して選んだ場合。)の脳波を示し、上記の「標的」に対する脳波の例である。曲線Bは、テスト刺激対象をよく見ているが選ばなかった場合(非標的と意識し、選ばなかった場合。)の脳波を示し、上記の「非標的」に対する脳波の例である。
【0030】
図4に、「標的」に対する脳波(事象関連電位)を、標的毎に模式的に示す。標的がどの製品(標的1、2、3、4)であるかによって、事象関連電位が異なっている。
【0031】
(B)脳波データの分析処理と序列化処理
【0032】
本発明では、注意喚起の違い、顕在的・潜在的興味の強さを、定量的に表して、各製品(オブジェクト)を序列化するものである。本実施の形態では、反応の強さを1つの指標で表すために判別分析法を利用する。他のパターン識別手法等を用いて定量的に表現することも可能である。
【0033】
本実施の形態では、注意喚起の違い、顕在的・潜在的興味の強さを、定量的に表すために、全実験データに対して「標的」「非標的」の2分類で判別分析を行って判別モデル式を作成後、各製品に対する判別得点を算出するものである。
図5は、線形判別分析を模式的に説明する図である。標的と意識して選んだ場合(標的条件)の脳波を右に示し、非標的と意識して、選ばなかった場合(非標的条件)の脳波を左に示す。どちらの波形に近いかを、全データについて、線形判別分析を行って、各製品に対する判別得点を算出する。
【0034】
脳波データの分析処理と序列化処理は、主に次の手順からなる。
(1) 上記(A)の実施で得られた多変量の脳波データを、「標的」に対するものと、「非標的」に対するものとに、分類し、線形判別分析などのパターン識別手法を行い、判別モデル式の重みづけを決定する。
(2) 得られた判別式を用いて、各製品が標的となった場合の判別得点の平均値を求める。
(3) 製品間で判別得点の平均値を比較し、判別得点の順に製品を序列化する。
【0035】
上記(1)(2)(3)を実施するにあたり、例えば次のように実施した。
(a) まず実験が適切に行われたかどうかの検証は、「標的刺激に対する脳波の反応の平均値が、非標的刺激に対する反応の平均値よりも強いこと」によって確認される(
図3参照)。
(b) 次に、標的となる視覚刺激の違いによって反応が異なるかどうかは、「標的刺激に対する脳波の反応を刺激ごとにグラフ化すること」によって確認される(
図4参照)。なお、各標的刺激に対して複数回(例えば5〜10回)のデータが確保されているため、グラフ化に際しては刺激ごとかつ時系列データのデータポイントごとに加算平均を行う。
(c) 次に、下記式(数1)で表される線形判別関数によって各画像(視覚刺激)提示1回分に対する判別得点(y)を算出する。
【0037】
式(数1)において、xはあるチャネルのある時点における脳波データ(電圧)の値である。xの種類はチャンネル数(被験者の頭部の頭皮上の複数の測定箇所における脳波データを得るので、測定箇所の数に応じたチャンネル数)とデータポイントを掛け合わせた種類(n)が存在する。各脳波データに対する重みづけ係数wと定数項cは線形判別分析によって求めることが可能である。なお、線形判別分析を行う対象としては、判別得点を算出すべき実験の前に行った「訓練セッション」(主要な実験と同様もしくは、類似の条件で実験を実施)のデータを使うことが望ましいが、判別得点を算出すべき実験のデータを用いた実験データ自体を使うことも可能である。
(d) 以上の手法を用いて、画像ごとに刺激提示回数分(すべての画像で同一である)、判別得点を加算する。または加算平均を行っても良い。通常、ある実験セッションで「標的」とされる画像に対する判別得点(加算値もしくは加算平均値)が、残りの「非標的」の画像群の特典に比べて高くなることを確認する。
(e) 上述のように、全ての画像がそれぞれ「標的」となるべく実験セッションを繰り返すが、全実験セッションが終了後、それぞれの画像が「標的」となったときの判別得点の加算値(もしくは加算平均値)を比較し、得点が高いものから順に並べることにより、序列化を行う。
(f) なお、各標的刺激に対して複数回(5〜10回)のデータを確保されているため、その回数分、同一刺激に対して判別得点が存在し、刺激間の差が有意であるかどうかを統計検定(ANOVA等)によって確認することも可能である。
【0038】
なお、「標的」として選択したときの事象関連電位だけでなく、上記実験で、「非標的」と意識し、選択しないときの事象関連電位をも含めて、事象関連電位について同様の処理を行い、判別得点を得て序列化処理を行うこともできる。
【0039】
実施の形態では、画像を例に視覚刺激について説明したが、視覚刺激に代えて聴覚刺激等を与えて対応する脳波を計測して解析するようにしてもよい。また序列化された結果は、ディスプレイ等の表示手段に対象の製品を表示したり、音声で知らせたりすることができる。
【0040】
また、本発明は、調査対象物が複数の時に活用できるが、3つ以上、さらに多数の調査対象物がある場合に有利である。例えば8個の製品種であれば、被験者毎に、5〜10分程度の脳波の測定と、3〜5分程度の脳波データ分析及び序列化処理で完了するので、簡単に短時間でマーケティング調査が完了する。実験の結果の序列は、同一被験者においては、複数回の実験において同じ結果が得られた。また、被験者の実際の嗜好に近いものであった。
【0041】
本発明の実施により、調査対象物に対する、被験者の意思、嗜好、又は無意識的な印象や感性情報などが、客観的に把握できる。また、その結果を被験者自身が知ることにより、被験者自身の意思決定にフィードバックできる。調査対象物は、従来のマーケティング調査の対象の他に、福祉分野において意思伝達支援に用いられるメッセージのイラストでもよい。
【0042】
なお、上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、意識的なバイアスの影響を受けやすいアンケート調査では測定困難な無意識的な印象や感性情報などを、脳活動を指標にしてわかりやすく序列化し、新製品の開発などの参考にすることが可能となる。また、福祉分野においても製品写真の代わりに伝えたいメッセージのイラストなどを用いることで意思伝達支援装置としても用いることができる。