特許第6147145号(P6147145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6147145量子ドット増感型太陽電池用光電極の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147145
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】量子ドット増感型太陽電池用光電極の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
   H01G9/20 113Z
   H01G9/20 113D
   H01G9/20 111Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-178628(P2013-178628)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-49945(P2015-49945A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】長久保 準基
(72)【発明者】
【氏名】永田 智啓
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕彦
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第2958448(JP,B2)
【文献】 特開2011−091032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向電極に電解質層を介して対向配置される量子ドット増感型太陽電池の光電極の作製方法において、
基板の表面に透明電極層を形成する工程と、
透明電極層の表面に、光に反応して触媒作用を発揮する半導体層を形成する工程と、
量子ドットを分散させた分散液に基板を浸漬させることにより、前記半導体層の表面に量子ドットを吸着させる工程と、
前記量子ドットを吸着させた半導体層に不活性雰囲気中でUV光を照射することにより、前記半導体層と量子ドットとの間に介在する長鎖アルキル基を選択的に除去する工程と、を含むことを特徴とする量子ドット増感型太陽電池用光電極の作製方法。
【請求項2】
前記UV光のピーク波長が400nm以下であることを特徴とする請求項1記載の量子ドット増感型太陽電池用光電極の作製方法。
【請求項3】
前記UV光を照射した後、前記量子ドット及び半導体層の表面に、前記電解質層への電子の流入を防止するバッファ層を形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2記載の量子ドット増感型太陽電池用光電極の作製方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット増感型太陽電池用光電極の作製方法及び量子ドット増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の太陽電池として、現在主流のシリコン結晶型太陽電池と比べて理論上の光電変換効率が高い量子ドット増感型太陽電池が有望視されている。量子ドット増感型太陽電池は、光電極と対向電極とを電解質層を介して対向させてなり、光電極は、基板表面に透明電極層を形成し、透明電極層表面に光電変換材としての半導体層を形成し、半導体層の表面に増感材としての量子ドットを吸着させることにより作製される。
【0003】
ここで、量子ドットを吸着させる方法としては、量子ドットを分散させた分散液に、半導体層を形成した基板を浸漬させる方法が一般に用いられる。量子ドットは、その分散性を高めるために長鎖アルキル基を有する界面活性剤で被覆され、溶媒に分散している。このため、量子ドットの表面には、長鎖アルキル基を有する配位子が不可避的に付着し、この配位子が付着した量子ドットが半導体層に吸着する。即ち、半導体層と量子ドットとの間に長鎖アルキル基が介在する。長鎖アルキル基は、半導体層と量子ドットとの間の界面抵抗を高くし、量子ドットから半導体層への電子の注入を阻害するため、長鎖アルキル基が付着したまま光電極として適用すると、量子ドット増感型太陽電池の光電変換効率の低下を招く。従って、光電極の作製段階で、長鎖アルキル基を除去する必要がある。
【0004】
量子ドットから長鎖アルキル基を除去する方法が、例えば、非特許文献1及び2で提案されている。上記非特許文献1記載のものでは、ピリジン溶液中で量子ドットを24時間環流させることにより、長鎖アルキル基を有する配位子をピリジンに置換している。また、上記非特許文献2記載のものでは、量子ドット薄膜を作製する際に硫化アンモニウム溶液中にて、カルボキシル基で終端された長鎖アルキル基を有する配位子を硫黄に置換している。
【0005】
然し、上記従来例では、長鎖アルキル基を除去するために薬液を使用するので、その取り扱いが面倒であった。しかも、上記従来例のものでは、量子ドットに付着している配位子の全てが置換されるため、電解質層から量子ドットに一旦流入した電子が電解質層に逆流してしまう虞がある。半導体層及び量子ドットの表面をバッファ層で覆うことにより電子の逆流を防ぐことが考えられるが、これでは、製造工程数が増えてしまい、製造コストの増大を招来する。
【0006】
そこで、本発明者らは鋭意研究を重ね、半導体層として光触媒作用を有するものを用い、量子ドット吸着後の半導体層に不活性雰囲気中でUV光を照射することにより、半導体層と量子ドットとの間に介在する長鎖アルキル基を選択的に除去できるとの知見を得た。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hyo Joong Lee、他8名、“CdSe Quantum Dot-Sensitized Solar Cells Exeeding Efficiency 1% at Full-Sun Intensity”、J. Phys. Chem.、Vol.112、No.30、11600-11608頁、2008年
【非特許文献2】Haitao Zhang、他6名、“Surfactant Ligand Removal and Rational Fabrication of Inorganically Connected Quantum Dots”、American Chemical Society、Nano letters Vol.11、5356-5361頁、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、量子ドットに不可避的に付着する長鎖アルキル基を有する配位子を簡単に除去することができる量子ドット増感型太陽電池の光電極の作製方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、対向電極に電解質層を介して対向配置される量子ドット増感型太陽電池の光電極の作製方法において、基板の表面に透明電極層を形成する工程と、透明電極層の表面に、光が照射されることにより触媒作用を発揮する半導体層を形成する工程と、量子ドットを分散させた分散液に基板を浸漬させることにより、前記半導体層の表面に量子ドットを吸着させる工程と、前記量子ドットを吸着させた半導体層に不活性雰囲気中でUV光を照射することにより、前記半導体層と量子ドットとの間に介在する長鎖アルキル基を選択的に除去する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
尚、本発明において、不活性雰囲気には、不活性ガス雰囲気だけでなく、真空雰囲気を含むものとする。電解質層には、電解液で構成されるもののほか、化合物半導体や有機半導体で構成されるものも含むものとする。また、半導体層には、金属酸化物粒子で構成されるものだけでなく、多孔質の金属酸化物膜で構成されるものも含むものとする。
【0011】
本発明によれば、半導体層として光照射により触媒作用を発揮するものを用い、この半導体層に量子ドットを吸着させた後、不活性雰囲気中で半導体層にUV光を照射することにより、半導体層の触媒作用で半導体層と量子ドットとの間に介在する長鎖アルキル基を選択的に除去することができ、量子ドットから半導体層への電子注入量を増大させることが可能である。その上、長鎖アルキル基を除去するために、取り扱いが面倒な薬液を使用しないため、長鎖アルキル基を簡単に除去することができる。しかも、電解質層に臨む量子ドットの表面には長鎖アルキル基が残存するため、半導体層及び量子ドットの表面から電解質層への電子の逆流を抑制することができる。このため、電子逆流防止用のバッファ層の形成を省略すれば、製造工程数を少なくでき低コストである。
【0012】
本発明において、UV光として、ピーク波長が400nm以下であるものを用いることが好ましい。このようなUV光を半導体層に照射すれば、半導体層が触媒作用を確実に発揮することが実験により確認された。
【0013】
本発明において、前記UV光を照射した後、前記量子ドット及び半導体層の表面に、前記電解質層への電子の流入を防止するバッファ層を形成する工程を更に含むことが好ましい。これによれば、半導体層及び量子ドットの表面から電解質層への電子の逆流をより一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の光電極の作製方法により作製された光電極を備える量子ドット増感型太陽電池の概略断面図。
図2】(a)及び(b)は本発明の実施形態の光電極の作製方法を説明する断面図。
図3】本発明の実験結果を示すIRスペクトル。
図4】本発明の実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、SCは量子ドット増感型太陽電池(以下「太陽電池」という)であり、太陽電池SCは、ガラス等からなる基板(基体)1表面に形成された光電極(光負極)2と、基板1表面の外周部に形成された枠状のシール部材3と、シール部材3を介して光電極2と対向配置された対向電極(光正極)4と、これら光電極2、対向電極4及びシール部材3で画成される空間に形成される電解質層5とを備える。
【0017】
図2も参照して、光電極2は、ITOやFTO等の材料からなる透明電極層21と、透明電極層21の表面に形成された酸化チタン等の金属酸化物粒子からなる半導体層22と、半導体層22の表面に吸着された量子ドット23とを備える。
【0018】
対向電極4としては、公知の構造を有するものを用いることができ、例えば、ガラスやフィルム等からなる基板と、その基板上に蒸着等の方法により形成された白金、カーボン、真鍮等からなる薄膜とで構成されるものを用いることができる。電解質層5としては、ポリ硫化ナトリウム溶液等の電解液や、ヨウ化銅等の化合物半導体、ポリチオフェン類縁体等の有機半導体ホール輸送層を用いることができる。以下、上記光電極2の作製方法について説明する。
【0019】
図2(a)に示すように、先ず、基板1表面に透明電極層21を例えば0.5〜1μmの厚みで形成する。透明電極層21の材料としては、ITOやFTO等を用いることが好ましく、透明電極層21の形成方法としては、スパッタリング法やCVD法等を用いることができる。透明電極層2の形成条件は、公知のものを利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0020】
次に、透明電極層21の表面に、半導体層22を形成する。半導体層22としては、光に反応して触媒作用を発揮するもの、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ等の金属酸化物の微粒子または多孔質膜で構成できる。半導体層22の形成方法としては、金属酸化物ペーストをスキージ法等により塗布して焼成する方法を用いることができる。半導体層22の形成条件は、公知のものを利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0021】
次いで、公知のコロイド法により合成した量子ドットの分散液中に、上記半導体層22形成済みの基板1を浸漬させることにより、半導体層22の表面に量子ドット23を吸着させる。量子ドット23としては、例えば、CuInSeからなる量子ドットを用いることができ、その原料として、ヨウ化銅(I)、ヨウ化インジウム(III)、セレノ尿素等を用いることができる。分散液には、量子ドットの分散性を高める長鎖アルキル基を有する界面活性剤(分散媒)が含まれており、界面活性剤としては、例えば、ドデカンチオール、オレイルアミン、トリnーオクチルホスフィン等を用いることができる。浸漬時間は、例えば、10分〜60分の範囲内で設定することができる。このとき、上記分散液に含まれる界面活性剤に起因して、量子ドット23の表面には長鎖アルキル基を有する配位子が不可避的に付着し、この配位子が付着した量子ドット23が半導体層22に吸着する。このため、半導体層22と量子ドット23との間には、電子の注入を阻害する長鎖アルキル基が介在する。
【0022】
次に、不活性雰囲気中で半導体層22にUV光を照射する。不活性雰囲気中には、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中だけでなく、真空中を含む。照射するUV光としては、例えば、高圧水銀ランプ光やメタルハライドランプ光等を用いることができ、半導体層22のバンドギャップ以上のエネルギーを有する、ピーク波長が400nm以下のUV光を用いることができる。上述の如く、半導体層22は光触媒作用を有するため、半導体層22はUV光に反応して触媒作用を発揮し、半導体層22と接触する長鎖アルキル基を除去する。これにより、図2(b)に示すように、半導体層22と量子ドット23との間に介在する長鎖アルキル基のみが選択的に除去され、両者間の界面抵抗を低くできる。このとき、量子ドット23の電解質層5と接触する部分に付着した長鎖アルキル基は、半導体層22の触媒作用が及ばないため残存する。
【0023】
以上説明したように、本実施形態では、不活性雰囲気中での半導体層22へのUV光照射により、量子ドット23に付着した配位子の長鎖アルキル基を除去するため、上記従来例のように取り扱いが面倒な薬液を使用する必要がなく、長鎖アルキル基を容易に除去することができる。しかも、除去される長鎖アルキル基は半導体層22と量子ドット23との間に介在するものだけであり、電解質層5と接触する長鎖アルキル基は光触媒作用が及ばず残存する。残存する長鎖アルキル基により、電解質層5から量子ドット23に一旦注入された電子が電解質層5に逆流することを防止できる。このため、長鎖アルキル基を全て除去した場合と比較して良好な電流−電圧特性を得ることができる。半導体層22及び量子ドット23の表面をバッファ層で覆う工程を省略すれば、製造工程数を少なくできて低コストである。
【0024】
尚、図示省略するが、半導体層22及び量子ドット23の表面に、電子逆流防止用のバッファ層を形成してもよい。バッファ層としては、II−IV族半導体、例えば、ZnSe層を用いることができ、その製法としては公知のイオン層吸着反応法(SILAR法)を用いることができる。この場合、例えば、0.1MZn(NOメタノール溶液と0.1Mセレン化物イオンを含むメタノール溶液とに交互に浸漬させればよい。1回の浸漬時間は0.5分〜5分の範囲で設定でき、浸漬回数は1回〜4回の範囲で設定できる。バッファ層を形成することにより、半導体層22及び量子ドット23表面から電解質層への電子の逆流をより一層抑制することができる。
【0025】
本発明者らは、本発明の効果を確認するために実験を行った。先ず、基板1表面にスパッタリング法によりFTOからなる透明電極層21を約1μmの厚みで形成し、透明電極層21の表面に酸化チタンペーストをスキージ法により塗布し450℃で30分焼成して酸化チタンからなる半導体層22を約6μmの厚みで形成した。この半導体層22形成済みの基板1を、コロイド法で合成したCuInSeからなる平均粒径5nmの量子ドットの分散液中に10分浸漬させることにより、半導体層22に量子ドット23を吸着させる。量子ドット23を吸着させたものに、真空雰囲気中で高圧水銀ランプ光を照射し(UV処理)、量子ドット23吸着時に不可避的に付着した配位子の長鎖アルキル基のうち、半導体層22と量子ドット23との間に介在するものを除去することにより光電極を得た。UV処理前とUV処理後のものについて夫々透過IR測定を行った結果を図3に示す。これによれば、UV処理の前後の何れにおいても、C−Hに起因した吸収ピークが観察されており、UV照射により長鎖アルキル基の全てが除去されてはいないことが確認された。
【0026】
上記得られた光電極を用いて量子ドット増感型太陽電池セルを作製した(発明品)。対向電極4としては、市販の真鍮板を濃塩酸中で70℃、15分浸漬処理したものを用い、電解質層(電解液)5としては、ポリ硫化ナトリウムメタノール溶液を用いた。発明品に対する比較のため、UV処理を行わずに作製した光電極を用いて量子ドット増感型太陽電池セルを作製した(比較品)。発明品及び比較品についてそれぞれ求めたIV曲線(J−V特性)を図4に示す。以下の表1に示すように、比較品の電流密度Jscは3.3(mA/cm)、開放電圧Vocは0.55(V)、曲線因子FFは0.51、変換効率PCEは0.93(%)であったのに対し、発明品の電流密度Jscは5.2(mA/cm)、開放電圧Vocは0.55(V)、曲線因子FFは0.55、変換効率PCEは1.57(%)であり、UV処理有りの発明品は、UV処理無しの比較品の約1.7倍という優れた変換効率PCEを有することが確認された。これは、UV処理により半導体層22と量子ドット23との間に介在する長鎖アルキル基が除去されて、両者間の界面抵抗が低くなったことによるものと考えられる。
【0027】
【表1】
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、透明電極層21をスパッタリング法により形成し、半導体層22をスキージ法及び焼成により形成する場合について説明したが、これ以外の方法により透明電極層21や半導体層22を形成してもよい。また、上記実施形態及び実験では、高圧水銀ランプ光を照射する場合について説明したが、半導体層22が触媒作用を発揮し得るUV光を照射すればよい。
【符号の説明】
【0029】
SC…量子ドット増感型太陽電池、1…基板、2…光電極、4…対向電極、5…電解質層、21…透明電極層、22…半導体層、23…量子ドット。
図1
図2
図3
図4